作品
I'll remember 4
4.
「あ、アタシ、やっぱり、嫌な子だねぇ…。」
樹莉はぽつりと呟いた。
「…そんな事、ないよ。」
留姫は頬の涙を手でぐいと払って答えた。樹莉は驚いた表情を見せる。
「――でも、ルキはタカト君の事が好きなのに、アタシ、」
留姫は首を横に振る。
「だって…アタシ自身、人を好きになるって如何いうことなのか、やっぱりよく解らないから。」
母親のルミ子のことを思う。
ルミ子は若い時に周囲の反対を押し切って結婚したと云った。
自分は父親の顔をよく覚えていないけれど。
愛し合って結婚したはずの両親は、離婚した。
「…大人になったら、人を好きになることさえも、複雑になっちゃうんだと思う。だから、アタシたちは…。子どもの間だけだと思う、ただ単純に、素直に、誰かを好きだとか言い合って、ドキドキしたり、悲しくなったり、出来るのは。今の間だけだと思う…。」
「…うん。」
樹莉は素直に頷く。
樹莉は幼い頃に母親を失った。父親は、新しい母と結婚した。
複雑だ。
大人はいつだって複雑。
「だから、タカトがジュリを好きになるのも、タカトの勝手だし、ジュリがタカトの気持ちに気付いていて、黙ってて、それでジュリが救われるなら、それでいいと、アタシは思う。」
それは誰のせいでもないし、誰に咎められることでもないと思う。
「…うん。ごめんね、ルキ。」
樹莉は俯いた。
留姫は、自分の手の中にある、樹莉からもらったデジモンカードの束を握りしめる。
「何でジュリが謝るのよ?」
努めて明るく云ったつもりだった。
留姫は、やっと自分の気持ちに気が付いた。
気付かせてくれたのは樹莉だ。
啓人が好きになった相手は、樹莉なのだ。
留姫はそのことを、素直に嬉しいと、思う。
「…有難う。話せてよかった。」
樹莉は俯いたまま云った。
「うん。アタシも話せてよかった。有難う、ジュリ。」
留姫は笑った。
「・・・。」
樹莉は思い切ったように顔をあげる。まだ何か云いたそうだった。
「何?」
首をかしげて問う留姫の目を見たまま、樹莉は頬を赤く染める。
「ルキは、アタシがタカト君のことを好きだと思ってるんでしょ。」
「え、」
露骨に聞かれて、留姫はどう答えて良いか分からない。
「…違うの。」
「え?」
「タカト君は、いつも、教室とか校庭とかで、アタシと良く目が合ってたの。」
そりゃ、そうだろう。啓人は樹莉の事が好きなのだから、普段から樹莉を目で追っていても不思議はない。
「アタシ、よくタカト君に話し掛けたりしてたから…タカト君、それでアタシの事、気になり始めたんだと思うけど、」
樹莉は何を云いたいのだろう。留姫は眉間に皺を寄せる。
「多分、目が良く合うのは…、あ、アタシが、アタシの方が、タカト君たちのほうを、無意識に見つめていたからかも知れないの、」
「え?」
じゃあやっぱり樹莉のほうから啓人のことを――
一瞬、そう思った留姫は、ふと樹莉の云った言葉をもう一度繰り返す。
タカト君たちのほうを。
・・・タカト君、たち?
つい先程も、樹莉は似たような表情をしなかっただろうか。
今と同じように頬を赤く染めて、急にたどたどしい口調にならなかっただろうか。
留姫は記憶を数十分前に戻して。
「…あ、」
戻した時に、思わぬことに気が付いた。
樹莉がいまと同じように頬を染めたのは、確か樹莉のデジモンカードを集めるきっかけを聞いたときだ。
――ヒロカズ君に、最初に教えて貰ったの。
――ヒロカズ君はアタシに、コーチになってやるから大会に出てデジモンクイーンの座を奪ってくれないかって。
きっかけは。
博和に云われて。
普通、それだけで男の子の玩具を集めたりするものなのだろうか。
留姫は最初、樹莉が照れたのは「女の子がデジモンカードを集めること」を恥ずかしがったのだろうと思ったのだが、よく考えたら、同じテイマー同士の、しかもデジモンクイーンと呼ばれた少女に対して恥ずかしがるのは不自然だ。
そして。
啓人たちをいつも目で追っていた、樹莉。
目で追っていた相手の隣りに、いつも居たのが、啓人だとしたら。
「もしかして…樹莉の好きな人って、ヒロ――」
留姫はぽかんとして。
握っていた手の力が抜けた。
途端、手にしていたカードがバラバラと土の上に舞い落ちていく。
啓人は樹莉の視線を自分に向けられていたものだと勘違いしていたのなら。
留姫は啓人の、人の良さそうな照れ笑いを思い浮かべる。
留姫は思わず吹き出した。
「る、ルキ…?」
樹莉は、カードを拾い集めながらくすくす笑う留姫を不思議そうに眺めていた。
なんだか報われない。アタシも、タカトも、それに見つめる先の本人に気づいてもらえないジュリも――
留姫はデジモンカードを樹莉に返した。
やっぱり、いらないの?と聞く樹莉に、留姫はキッパリと、「本当に欲しがってる奴に渡せばいい」と云った。
「アタシは知能的に作戦を立てて攻める派だから、このオプションカードはいらないの。レアカードも必要ない。でもアイツは力任せに勝とうとするタイプだから、このカード必要なんじゃないかな。」
樹莉は困ったような顔を向けた。
「厳しいね、ルキ。さすが、デジモンクイーン。」
留姫は笑った。樹莉もつられて、笑った。
「…ルキとこんな話出来るとは思わなかった…なんだか、嬉しい。」
「アタシも。」
二人の少女を街灯の灯が青く染める。
「真っ暗になっちゃったね。」
「うん。」
子どもの恋も、結構複雑だ。
「気をつけてね。」
「樹莉も。」
二人は別れた。
また度々連絡を取り合って、ここで会うことを決めた。
樹莉に手を振って、彼女の姿が消えてから――
留姫は、松田ベーカリーにパンを買いに行こうと思った。
END
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…な、何だろうこの話…(汗)
留姫→啓人→樹莉→博和。怒涛の4角関係です。アリエナイ…!
テイマーズ本編をビデオで見直して、改めて「博樹莉良いなぁ…」と確信して(いや、勿論ルキタカも)書いたものでありますが、同意を求める気はさらさらございません。
あと、個人的に留姫と樹莉のガールズトークをもっと見たかったということで。全く正反対の性格だからこそ、親友になれると思いますこの二人。
…やっぱりテイマーズでカプ話書くのは難しい…キャラの性格が…あんた誰状態…。
本編と色々食い違ってる部分もありますが、大目に見てやって下さい。
長くてすみません。最後まで読んで下さって有難うございます。
- 2003/09/19 (金)
- 『I'll remember』
タグ:[ルキxタカト]