作品
ビキシバイト 4
2008年7月12日 高校2年生
3.
「…あぁ、もう、最悪…」
うんざりしたようなヒカリの声に、大輔はしゅんと肩をすくめる。
さらに雨足が強くなった中を、二人は早足で家路に向かっていた。
ヒカリは大輔の部活用ジャージを上に羽織っていた。
大輔が傘を放り投げてしまったので、二人とも、容赦なく雨に打たれて全身ずぶ濡れになってしまったのだ。
夏服のヒカリのブラウスは、雨で肌に張り付いて、下着のラインが透けてはっきりと浮き出てしまった。
それを見た大輔が性懲りもなく動揺してしまったため、先ほどまでの甘い雰囲気はすっかり消滅して、ヒカリのボディブローが大輔の腹を直撃した。
ぷりぷり怒っているヒカリに、(俺に見られるの嫌じゃないって、さっき云ったじゃん)と大輔は真っ当な疑問を感じていた。
オンナゴゴロ、ムズカシイデス。
「はぁ、ベスト着てくれば良かったなぁ…」
ヒカリはジャージの下の張り付いたブラウスを引っ張りながら、力なく云った。
大輔たちの高校は男女ともにブラウスにネクタイで、学校指定のベストは無いのだが、女子生徒の中にはニットのベストやカーディガンを着ている者たちが多数いる。
ブラウスでは下着が透けてしまうから、という云い分で黙認されているのだが、所謂「女子高生スタイル」のオシャレとして年中着用しているようである。
「あー、オレ、あれないほうが好き…」
云って、大輔はじとぉーと自分に向けられているヒカリの視線に気づく。
「大輔君、やーらしぃぃ…」
「あ、違う、変な意味じゃない」
夏場に着るニットベストは暑苦しそうで見ている自分も暑くなるから好きじゃない、という趣旨で云ったつもりが、違う方面に取られてしまったらしい。
あぁ、それにしても。
自分のジャージを羽織るヒカリの光景は、なんとも云えないいい眺めだった。
彼氏のシャツだけ上に羽織る女の子に萌える男の憧れに近い感じなのかなぁ。
などと、ふやけた顔で考えていた大輔は、今日一日だけで何回目になるか分からない、ヒカリの白い視線を浴びることになるのだった。
◇
「なんだ…結局、もう仲直りしたんだ。つまんない…」
次の日、先日までの大雨が嘘のようにからりと晴れた天候とともに、しまりのないヘラヘラ顔で登校してきた大輔を見て、タケルは心底つまらなそうな顔をした。
「お、タケル、おーす。お前の云う通り、心配しなくてもヒカリちゃんと話できるようになったぜ」
口滑らかに話しかけてくる大輔を、タケルは細い目で見つめた。
「そりゃーよかったことで。ときに、大輔君。その顔、どうしたの?」
ニヤけている大輔の額と頬に、いつぞやの某大臣のようなガーゼと絆創膏が貼られていたので、突っ込まずにはいられないタケルだった。
「あぁ、これは…仲直りの印みたいなもんかなー」
「ずいぶん、アグレッシブな仲直りの仕方をするんだね、君たちって」
何を云っても上の空のような大輔に、関わっていられないとばかりにタケルは一時限目の予習を始めている。
「お前には心配掛けちまったからなぁ、昨日の事、聞きたい?」
「申し訳ないけど、興味、ない」
***
相合傘でヒカリのマンションまで歩いてきた大輔は、傘をヒカリに差し出した。
「ヒカリちゃん、傘、サンキューな。こっからは走って帰るよ」
にこ、と笑顔を向ける大輔に対して、ヒカリは意外そうに首をかしげた。
「…家寄っていかないの?」
「えっ」
初めから大輔を家に上げる気でいたヒカリと、そのまま帰ろうとしていた大輔。
お互いに、かぁっと顔を赤らめる。
「いやー、でも、俺ずぶ濡れだし…」
「…お風呂、使っていけばいいよ」
彼氏に対して、その甘い言葉は理性を試されてるとしか思えない。
(ヒカリちゃん、もうちょっと男の気持ちも考えてください…)
それでもへろへろと引きずられるようにマンションのエレベータの方に向かってしまう大輔だった。
ここでお誘いを断れるほど、大輔はストイックな性格であるわけがない。
上目遣いに、悪戯っぽく大輔を見つめてくるヒカリ。
「なんだったら、今日は、いっしょに入る?」
「へっ?!」
大輔は自分の耳を疑った。頭の中が大噴火、する勢い。
「なんちゃって。冗談…あ、あれっ、大輔君?!」
雨で濡れていたエントランスの段差に足を滑らせた大輔は、派手にその場にすっころんだ。
で。
八神家ではヒカリの母親が家に居て、魅惑のお風呂同伴など実現するはずもなく、転んだ拍子に(顔面からコケたために)拵えた顔じゅうの擦り傷に驚いたヒカリの母親によって、大輔は丁寧に傷の手当てをしてもらったのだった。
普段なら回避できたであろう怪我だったが、ヒカリのちょっとした悪戯心で放たれた挑発的発言は、大輔の身体能力を鈍らせるには充分な効力を発揮した。
またも鼻血を噴出した大輔は情けないやら恥ずかしいやらで、それでもヒカリを家まで送ったことに対して母親にお礼を言われ、八神家のシャワーも使わせてもらって悪い気分ではなかった。
雨に濡れた大輔のシャツと、ヒカリに貸したジャージと、自分のブラウスをてきぱきと洗濯しているヒカリの姿を見て、
(ああ、新婚家庭のお嫁さんって、こんな感じ?)
とか、またもや馬鹿な妄想に浸ってしまう大輔なのだった。
ヒカリと大輔が仲直りした数日後、テレビの天気予報では、関東地域の梅雨明けを宣言をしていた。
ビキシバイト(欲情を刺激)
END
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何やら、軽い既視感が…以前書いたルキタカ話と、内容が被ってるんですね。
(ルキタカの方が、何倍も純情ですが…。)
ついでに云うと、昔同人誌で出した拓泉漫画でも、同じような話描いた。
私の書く喧嘩パターン、バリエーション少なっ!
でもこのワンパターンが好きだったりするんです。
キャラクターが原形をとどめていません(´Д`;)ごめんよ、殆どオリジナル。
目指したのは可愛いラブコメのつもりだったのに程遠いものになった。
タケルにチンコ云わせたことについては反省しているが、後悔はしていない(笑)
毎度ながら、へんてこな話にお付き合いありがとうございました。
(このシリーズ、誰得?笑)
- 2009/08/07 (金)
- 大ヒカパラレル