作品
ビキシバイト 1
2008年7月12日 高校2年生
1.
今年の夏は7月に入ってもなかなか梅雨明けしなかった。
今日も朝からじめじめした曇り空で、教室の湿度も不快マックス状態だ。
その日の大輔は、この世の終わりだと云わんばかりのげっそりとした面持ちで登校してきた。
タケルはそんな幼馴染みの容貌に一瞬、ドン引きしたのだが、次の瞬間には期待でワクワクした(相変わらず自分はサドッ気があるな、と客観的に意識していたのだが、今は敢えて考えないことにする)。
ここ数日、ずっと元気のない大輔だ。きっと何か面白いことでもあったに違いない。
「おはよう、大輔君。何かあったの?ヒカリちゃん絡み?喧嘩?振られた?失恋したの?」
「お前、うざいよ。まじうぜぇ」
タケルの席は大輔の席の真後ろだ。開口一番、何が楽しいのか、ウキウキしながら聞いてくるタケルの声音に大輔はうんざりした。
それにしても大輔のやつれぶりは少々度を超している。さすがのタケルも、口を閉じて一寸間を置いた。
「…あぁ、もう俺だめかも…」
くたぁ、と机に突っ伏す大輔。タケルは目を細めて幼馴染みの背中を見つめていた。
大輔は小さく独りごちる。
「…どうしたら、直るんだろう…」
「何が?インキンにでもなったの?」
「なるか!!!」
どんっ!と机を拳で叩いて、大輔は顔を上げてタケルを睨みつけた。
タケルはまるで「ぷぅっ」という効果音を発しそうな可愛らしい表情で頬を膨らませると(それが大輔にとってはとてつもなくキモく見えるのだ)、頬づえをついて大輔の方に顔を近づけた。
「だって深刻そうな顔してるからさぁ。相談に乗ってあげようという友人の心配りが、大輔君にはわからないかなぁ」
嘘だ。絶対こいつは、人が真剣に悩んでいることを、楽しんでいるのだ。
タケルの容姿にきゃあきゃあ騒いでる女子たちは、絶対だまされてる、と大輔はいつも思う。
「お前、チ○コとか云わなそうな涼やかな顔しといて、よくそういう単語がさらりと出るな…」
「僕だって男なんだから別にちんこくらい普通に云うよ」
「(せっかく伏字にしたのに…)いや、そうなんだけどさ。まて。ストップ。何で俺たちは朝から、下ネタ連呼してるんだ」
「大輔君がインキンに悩んで落ち込んでいるから、相談に乗ってあげようとしてるんじゃないか」
「だから、なってないっつーの!」
「丈さんの病院に相談してみようか?」
「ほぉ、何としても俺を病気にしたいんだな、お前は」
「で、どうしたんですか?いつも馬鹿元気な大輔君が、なんでそんなにやつれてんですか?」
はーっっと、大輔は大げさにため息をついた。それから、再びかくりと肩を落として、小さな声で呟く。
「…ヒカリちゃんが…」
(やっぱり、「ヒカリちゃん」じゃないか)
タケルは口を斜めに曲げた。幼馴染み二人の純情すぎる関係が、タケルは楽しくてしょうがないのだ。
「ヒカリちゃんが、もう一週間も口をきいてくれない…」
- 2009/08/07 (金)
- 大ヒカパラレル