作品
アイドクレース 3
2007年5月6日 高校1年生
3.
ざぁぁぁぁァァァァッ!!!
大輔の大声と同時にものすごい突風が吹き抜けて、街路樹が激しい音をたてて揺れた。
ごぉぉっと響く風の音とともにヒカリの「きゃっ」という小さな悲鳴が大輔の耳に届いた。
今度は抑える手が間に合わず、スカートが捲れ上がったのだ。
(あ、見えた)
いやいやいや違うだろ。今一番重要なのはそこじゃないだろ。嬉しいけど。
「…あ、えと」
ヒカリは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
その赤面の理由は、大輔に告白されたからなのか、下着を見られてしまったからなのか、傍目からでは判断がつかない。
どうしていいか分からず大輔が視線を泳がせていると、ヒカリはこほんと一つ咳払いして、ぱたぱたとスカートに付いた埃を払った。
顔を上げたヒカリは、自分と同じく風に煽られた大輔の制服を見て、「ネクタイ、曲がってるよ」と云った。
(お、俺の告白…聞こえなかったんかな)
タイミングが悪かった。
告白を再び口にする勇気ももう湧かないし、ピークに達していた緊張も解けてしまって、大輔はガクッとうなだれた。
「いーよ、もう家に帰るだけだし…」
ネクタイのことなどどうでもいい、大輔はそのまま別れの言葉を告げて家に帰ろうとしたのだが。
ヒカリがこちらに寄ってきて、大輔のネクタイに手を掛けてきた。
「う、わッ!」
大輔は慌てて近づいてきたヒカリから離れた。ヒカリはむっとする。
「何?その態度…」
「だって、そんなに近寄ったら、俺、くさいし」
「くさい?」
「体育あったし、部活してきたし…汗臭いんだよ」
一緒に並んで電車に乗っていた時も、自分の体臭がヒカリに気づかれないかと内心気にしていたのだ。
普段はそんなに意識していないが、ヒカリに幻滅されてしまうと思うとショックが大きい。
「うーん…そうかなぁ」
離れてほしいのに、逆にヒカリは大輔に近づいてきて、大輔の胸板のあたりをくんくんしし始めた。
「あ、ちょ、ヒカリちゃん」
ヒカリが自分の身体の臭いを嗅いでいる…なんですかこのマニアックなシチュエーション。それに反応するなよあほか俺。
大輔は硬直状態でされるがままだった。
「くさくないよ」
「で、でも、汗かいてるし」
「汗のにおいはするけど…」
ヒカリはいたずらっ子のような顔を見せて、頬を染めたままニコッと笑った。
「大輔君のにおいだから、好き」
「…っ!」
ヒカリの唇からすき、の言葉が発せられると、大輔の心臓が激しく音を立てた。
「彼女に、なって下さいって云ったくせに、近寄ったら避けるなんて、失礼しちゃう」
「え」
頭の中が真っ白になった。
「き、聞こえてたの」
「聞こえてたよ」
「聞こえなかったのかと、思っ…」
「なかったことになんて、しないでよ」
唇を尖らせて睨んでくるヒカリの顔がとてつもなく可愛い。本気で怒っているのではないと分かるから余計に愛らしく見える。
他の人には見せない強気な態度のヒカリが、大輔は好きだ。
「ヒカリちゃん――ヒカリちゃんの好きな人って、俺なの」
「今更そんなこと、聞かないで」
「お、俺は…」
ヒカリの瞳が自分の次の言葉を待っている。
「俺、ヒカリちゃんのことが好きだ。ずっと前から…たぶん、すきって言葉を知る前から」
ふふっとヒカリは笑った。
うわぁ何柄にもないようなこと云ってんだろう俺、寒すぎ…大輔は耳たぶまで真っ赤になってしまった。
ヒカリは大輔の曲ったネクタイを直しながら、優しい声で云った。
「大輔君のそう云う可愛いところ、私も好きよ」
可愛いって、男に使うほめ言葉なんかなぁ――と思いながらも、ヒカリに呼ばれると普段皆から呼ばれてるなんでもない自分の名前が何か特別のもののように聞こえる。
「ヒカリちゃん――俺の、」
「俺の彼女に、なって下さい」
大輔の一度目の告白の邪魔をして、ヒカリのスカートを捲ったいたずらな強風が、再び猛烈な勢いで二人の間を駆け抜けたけれど、二度目の告白はきちんとヒカリの心に受け止められたのだった。
アイドクレース(約束・二人の愛)
END
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太一さんは高いレベルのサッカー選手なんだけど、大学生設定を動かしたくなかったので、プロに進まなかった理由の後付け説明…。
サッカーに疎いのでいろいろ調べてもイマイチ組織が良くわからなくて(ユースクラブとか指導者ライセンスとか)、無茶苦茶な進路になってたら済みません;
それも全部「太一さんらしいな」で済ましてしまえ!みたいな(^0^)
あと、今までは二次創作やってて、既存のキャラに厭味な発言させるのがすごーく罪悪感あって苦手だったんですけど、オリキャラ出しちゃえば思う存分悪役にできるのですごく楽!と云う事に気づいた今回…。
でもパロって感じしないよね…自分ばっかり楽しいって云う!つ、ついてきてくれてますかー?(汗)
- 2009/03/02 (月)
- 大ヒカパラレル