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【テキスト】真実の歌

 

2008.3.31

 

前回までのあらすじ

議長の野望を阻止すべく、オーブを出発したアークエンジェル。

といっても、いきなり敵の本丸に攻め込むわけにはいきませんので、

まずは情報収集を行うべく、月面都市コペルニクスに停泊しました。

連合との戦闘が終わったばかりで警戒態勢が厳しいであろう今、

ザフトに敵と認定されているアークエンジェルが月に行ったら、

激しい戦闘になるのではないかと予想されていましたが、

そこは時間の都合ということで先方を説得。無事に解決しました。

残り話数が少ないので、無駄な戦闘にかけている時間はないのです。

 

「じゃあ、僕がやられたインパルスのパイロットも、

そのシンって子だったんだ……」

「ああ、そうだ。あいつが今デスティニーに乗っている」

 

アークエンジェルが月に着くまでの間、

アスランから、シンについての話を聞かされたキラ。

彼らも己が信じる正義のために戦っていると知り、

主役を奪った後ろめたさもあるのか、複雑な表情を浮かべます。

アスランはレイに関しても同様に語っていましたが、

ルナマリアさんのことは、彼の口から一切語られませんでした。

もしかしたら、既に存在を忘れられているのかもしれません。

 

「でも、あの時は正直驚いたよ。

お前がシンにやられるとは思ってなかったからな」

 

当時のことを思い返して、苦笑するアスラン。

シンの元上官としては、かなりの問題発言です。

しかし今だからこそ、こうして笑いながら話せますが、

当時は後追い自殺をしかねないほどの落ち込みようでした。

 

「あ、あれは僕もザフトと戦っていいのかどうか迷ってたから、

カガリもいて、何とか逃げ切りたいって思ってて、

それにあそこで倒しちゃったら、番組も終わっちゃうし……」

 

痛いところを突かれたキラは、すぐに言い訳を始めます。

あの時は色々思うところがあって、本調子ではなかったのこと。

モビルスーツの扱いが上手いというのみで、

これまで数々の蛮行が許されてきた彼にとって、

ガチンコ勝負で負けることは絶対に許されないことなのです。

唯一のアイデンティティが崩壊してしまいますからね。

 

「静かな……なんたらかんたら……」

 

こちらは同じコペルニクスの高級住宅街。

議長に用意された屋敷に軟禁状態のミーア。

ピンクザクに乗り、大観衆の前で歌っていたのも遠い昔、

今は無人のプールサイドのベンチに座って寂しく歌うばかり。

JASRACが怖いので、自分の歌の歌詞すら載せられません。

 

「私はラクス・クラインです」(ニセモノコロス)

 

ミーアの脳裏に浮かび上がるのは、

先日の中継に割り込んできた本物のラクス。

笑顔で呼びかけてはいたけれど、目の奥は笑っておらず、

今にもモニターの中から這いずり出んばかりの迫力でした。

 

「ラクス様、お茶をご用意しましたわ。どうぞ」

 

負の妄想の連鎖に囚われるミーアでしたが、

ふいに背後から声をかけられて我に返ります。

しかし、引き戻された現実も、芳しい状況ではありません。

月に向かう際に議長から使わされた、サラというこの女性。

名目上は付き人ですが、あまりにも怪しすぎるその外見。

真っ赤なバイザーから、破壊光線でも出しそうな感じです。

脱走でも図ろうものなら、即座に彼女に始末されてしまうでしょう。

 

「随分と久しぶりですわ、外へ出るのは。

もう何ヶ月もずっと、艦の中で……」

「えっ! そうなんですか?」

 

情報収集を行うべく、街に出ることになり、

女の子二人は、久しぶりの外出に胸を躍らせます。

特にメイリンちゃんは、アスランとの初めての外出にドキドキです。

男女二組でのお出かけ。これは俗に言う「ダブルデート」というやつでは?

ラクス様のお相手はキラさんだから、アスランさんの相手は私ってこと?

ど、どうしよう? もうちょっと大人っぽい格好をした方が良かったかな?

 

「おまたせ〜」

「ええっ〜!?」

 

二人に遅れて、私服で現れたキラとアスラン。

そのあまりのセンスにメイリンちゃんは衝撃を受けます。

正反対。しかしどちらも丙丁つけがたい珍妙なファッション。

アスランさんは、服装の一つ一つがどこかおかしい。

キラさんは美形だから、何とか見られる格好にはなっているけど、

微妙な顔の人が着たら、これ以上に痛々しい格好も他にないだろう。

それに何で肩に鳥なんか乗せているの? もしかして鳥が本体?

 

「じゃあ、行って来ます」

「ええ、でも気をつけてね」

 

マリューさんに出発を告げ、キラが運転する車で発進。

密かにアスランの隣の席を狙っていたメイリンちゃんですが、

アスランは当然のように、キラの隣の助手席に乗り込みます。

「何があってもキラだけは守る!」そんな強い意志が感じられます。

 

「あんたはいいのか? ずっと艦の中じゃあ、

あんただってきついだろ? 大変な立場だし」

「ありがとう。でも大丈夫よ。私はここで」

 

若者たちが束の間の外出を満喫する一方で、

ずっと艦に篭りきりでいるマリューさんを気遣うネオ。

思えば、彼はステラさんたちを何度か外出させていました。

その結果、ステラさんとシンがディオキアの海で出会い、

彼女の死をきっかけにシンがやさぐれ、恨みを買ったキラが撃墜され、

アスランは裏切り者として排除され、ルナマリアさんの唇が奪われるなど、

様々な悲劇を引き起こしたのですが、彼がその事実を知る由はありません。

 

「じゃあ、とりあえず今は、艦内をエスコート」

「ええっ!?」

「あっ、お風呂入んない? 一緒に」

「はぁ!? ちょっと!」

 

自分の言葉にマリューさんが満ち足りた表情になるや、

ネオはマリューさんの腰にさり気なく手を回します。

突然のセクハラに赤面しつつも抵抗するマリューさん。

いくら恋人同士とはいえ、今の彼はムウではなくネオ。

記憶が戻らぬままに、心も体も許すわけにはいきません。

 

「さあ、脱いだ、脱いだ」

「ちょっと、そんな……あぁ……」

 

しかし、マリューさんの必死の抵抗も空しく、

ネオはマリューさんの手を引いて天使湯へと直行。

周囲も空気を読んで、温泉は二人の貸し切り状態に。

何やら違う意味になる天使湯。こういう使い方もあるのか。

 

「月限定のムーンストーンリングですわ」

「きゃ〜! かわいい〜!」

 

情報収集を目的とした外出のはずでしたが、

一行がやって来たのは、月の中心にあるデパート。

無論、男子の行きたい場所に連れて行ってもらえる訳もなく、

女の子二人は化粧品売り場、アクセサリー売り場と突き進みます。

 

「イノマタムツミの春物新作ですわ」

「きゃ〜! かわいい〜!」

 

楽しそうに洋服を眺めるラクスとメイリンちゃん。

キラとアスランは少し離れたところからそれを見守ります。

こういう状況に慣れていなく、手持ち無沙汰のようですが、

そんな彼らの存在など全く気にすることなく、

女の子二人は下着売り場の奥へと進んでいきます。

 

「カンニバル・コープスの新譜ですわ」

「きゃ〜! かわいい〜!」

 

久しぶりの買い物に、いよいよ楽しくなってきたのか、

お忍びということを忘れて、フードを脱いでしまったラクス。

しかもラクス(ミーア)のポスターがいたるところに貼ってある

CDショップの中という、バレる確立が最も高いであろう場所。

しかしあまりに堂々としているためか、逆にバレないようです。

ラクスは自分が歌っている旧作のアルバムを棚から抜き出すと、

ミーアが歌っている新作のアルバムの前に並べます。

 

「こんなん出ましたけど……」

 

再び服の売り場に戻ると、今度は試着を始めたラクス。

思えば、キラとデートらしいデートをするのもこれが初めて。

カップルならば、試着して感想の一つも聞かねばなりますまい。

 

「わっ! 可愛い!」

「うん、ドムみたいで可愛いよ」

「……」

 

一緒に過ごす内に、すっかりラクスのファンになったようで、

うっとりした表情で絶賛するメイリンちゃん。キラもそれに同意。

ファッションのことがさっぱりわからないアスランは無言です。

 

「こういうのは如何でしょうか?」

 

気を良くして、次の服を試着するラクス。

先ほどまでは少し遠慮していた様子でしたが、

今度はモデルのようにポーズも決めてノリノリです。

 

「可愛いです!」

「うん、ズゴックみたいで可愛いよ」

「……」

 

神々しいまでの可愛さに拝みはじめるメイリンちゃん。キラも同意。

アスランは相変わらず無表情で無言。少しは空気読め。

 

「……モビルスーツ以外で例えてくださいます?」

 

キラの適当な返事に不満そうなラクス。

こういう時に果たして何と言えば正解なのか、

サイトをご覧の女子やモテ男にご教授頂きたい。

 

「あ、うん、グラブロみたいで可愛いよ」

「そういう意味じゃありませんわ!」

「んっ?」

 

最終回間近とは思えないほど和やかな雰囲気。

そんな中で一人警戒態勢を緩めていないアスラン。

自分たちに向けられた視線に気づいて、後ろを振り返ります。

 

「……」

 

そこにいたのは、物陰からこちらを見つめる怪しげな男。

アスランが振り返るやいなや、男は慌てて身を隠します。

全身黒ずくめの服装に、顔にはサングラスという、

人々で賑わうデパートの中では浮きまくりの風貌。

どこからどう見ても、堅気の人間ではありません。

 

「怪しい奴……」

 

あまりのわかりやすさにアスランも呆れた様子。

おそらく隠れてラクスを監視しているつもりだろうが、

そんな格好では逆に目立って仕方がないだろうに。

本人には変な格好をしているという自覚がないのか?

 

「ハロ! ハロ! エクスキューズミー!」

 

アスランが警戒を強めようとした直後、

ピョンピョン飛び跳ねながらやって来たのは、

真っ赤なカラーでお馴染みのミーア専用ハロ。

その口元には何やら一枚の紙が咥えられています。

 

「あら、まあ」

「これ……ミーアの!」

 

そのままラクスの手の中に納まるハロ。

突然のマスコットキャラ登場に喜ぶ一同をよそに、

それがミーアの所有物だと知るアスランは大慌て。

よもや爆弾などが仕掛けられていたら大変です。

 

「これは……」

 

ハロが咥えていた紙を取り出すラクス。

それはミーアからラクスに宛てられた手紙でした。

 

「ラクス! お前を殺す!」

「殺人予告?」

「いや、違うだろ」

 

この世界では言語は共通しているようですが、

文字は日本語だったり、英語だったりと国によって様々、

日本語圏のオーブに長く滞在していたせいか、

キラはすっかり英語を忘れてしまったようです。

 

「助けて! ラクス様に殺される!」

「それも違う」

「まあ、合っていますけど……」

「えっ……?」

 

書かれている内容を読み上げるラクス。それによると、

現在、ミーアは何者かに命を狙われているとのことです。

しかし切羽詰った状況の割には、ご丁寧に地図まで添えられており、

自作自演の香りがプンプンします。先日のドッキリへの仕返しでしょうか。

 

「なんか、おもいっきり罠ですね」

(あっ、そうなんだ……)

 

あまりの胡散臭さに皆が沈黙する中、

現代っ子のメイリンちゃんが冷静な突っ込み。

どうしてこんなにあからさまな釣りをするんだろう?

構って欲しいなら、構って欲しいと正直に言えばいいのに。

 

「ああ、だが放ってもおけない。

くそっ! それを見越して仕掛けている」

 

彼女たちの狙いを悟り、苦々しい表情になるアスラン。

いや別に無視してもいいのだが、それでミーアが死んだら、

「みすみす見殺しにした!」と視聴者の抗議がすごいだろう。

非人道的な行為が許されない主人公側の辛いところです。

 

「キラ、お前はラクスを連れて艦に戻れ」

「私も参りますわ」

「はぁ?」

 

相手の目的はラクスだが、本人が行く必要はない。

アスランはアークエンジェルに連絡を入れ、

ネオにラクスを迎えに来るように要請しますが、

肝心のラクス本人が艦に戻ることを拒否。

みんなと一緒にミーアに会いに行くと言い出します。

 

「バカ?」

「この方が呼んでいるのは私です」

「あっ、バカだ」

 

あまりに無謀すぎる提案。

何をバカなことを言っているのだと、

アスランはラクスの方を見やりますが、

彼女の表情はいたって真面目そのものです。

バカキャラがバラエティ番組を席巻している昨今ですが、

これはテレビでは映しちゃダメな類のバカです。

 

「いずれちゃんとしなければならないことですから。ね、キラ?」

「うん、ラクスの言うとおりだね」

 

ラクスに同意を求められ、キラも笑顔で応じます。

当然のことながら、アスランはキラに強く抗議しますが、

二人は一人必死なアスランを無視して話を進めます。

最終的には、アスランの方が折れるとわかっているのでしょう。

今まで甘やかしてきたツケが、こんなところで回ってきました。

 

「ありがとう、キラ」

「うん、でも気をつけないとね」

 

敵の罠すらも愛情を育むのに用いるこの二人。

今から虎穴に入ろうというのに、まるでピクニック気分。

自己満足のために周囲が被る迷惑を全く考えていません。

 

「……いつもこんな感じなんですか?」

「ああ、いつもこんな感じだ」

 

あまりにも能天気な二人に頭を抱えるアスラン。

しばらく行動を共にして、彼らの天然に慣れてきたはずの

メイリンちゃんも、これにはさすがに唖然とした表情です。

バカと天才は紙一重と言うけれども、これはどう見てもバカでは?

でも、ラクス様のことだから、何か深い考えがあってなんだろう。

 

(本当に来るのかしら……)

 

コペルニクス郊外にある無人の野外劇場。

サラに指示され、観客席でラクスを待つミーア。

アスランたちが察した通り、これは彼女たちの仕掛けた罠。

華やかな表舞台から一転、今では暗殺の片棒を担ぐことになり、

罠を仕掛けた側である彼女の表情は暗く沈み込んでいます。

余程のバカじゃない限り、ホイホイやって来ないと思うけど。

そもそも、あんな簡単な地図でこの場所がわかるのかしら?

 

「やあ、待ったかい?」

 

入り口から舞台の様子を窺うアスラン。

警戒しなければならない状況なのですが、

常に笑顔が求められるアイドルの悲しい性か、

いつもの癖で爽やかな笑顔を振りまいてしまいます。

 

「アスラン!?」

 

予想外の人物の登場に驚くミーア。

勘違いでシンと付き合ったルナマリアさん同様、

彼女もアスランは死んだものと思い込んでいたので、

これはラクス本人が来るよりもびっくりの展開です。

 

「アスラン! あなた生きて……」

「そこで止まれ」

 

舞台の方に誘い出せという、サラの命令も忘れ、

興奮しながらアスランの元へと駆け寄るミーア。

しかしアスランは近づくミーアを冷たい声で制止します。

 

「アスラン、それではお話ができませんわ」

 

キラとメイリンちゃんに守られながら、ラクスが登場。

護衛の三人は一様にミーアを睨みつけていますが、

基本的に普段はのほほんとした連中ですので、

その表情はどこかわざとらしいです。

 

「ラクス様……」

 

ラクスとの初対面に動揺するミーア。

かつては自分が憧れていたアイドルですが、

今となっては自分の立場を失墜させた張本人。

加えて自分の命を狙っている可能性すらある相手です。

 

「こんにちは、ミーアさん。

はじめまして、ラクス・クラインです」

 

まずはラクスが自己紹介、というか先制パンチ。

偽者に対して、自分が本物であることを宣言して、

どちらが上の立場であるかを明確にします。

 

「うぐっ……」

「お手紙には“助けて”とありました。“殺される”と……」

 

怯むミーア、ラクスの攻撃は尚も続きます。

手紙が罠だということはわかっているはずなのに、

あくまでそれには気付かず、善意で来たことをアピール。

ミーアの良心をチクチクといたぶり、精神的ダメージを与えます。

 

「さあ、私と一緒に参りましょう」

 

ラクスは今まで見せたことのないような笑顔を浮かべると、

ミーアにアークエンジェルへの保護(拉致)を申し出ます。

しかし、その満面の笑みが、逆にミーアに恐怖心を与えます。

 

「あ、あれは私よ! 私だわ!」

 

勢いで言いくるめられそうになり、慌てて拒絶するミーア。

これでホイホイ付いて行ったら、どんな酷い目に合わされるか。

おっぱいからミサイルが出るように改造されたり、

新たにディアッカの顔に整形させられるに違いない。

 

「ミーア!」

「……」(しくじったか)

 

ラクスを前に興奮しているミーアをなだめるアスラン。

買い物をして珍しく機嫌が良くなっているんだから、

余計なことを言って、ラクスを刺激してはならない。

艦に戻っても、君には何も危害を加えないように、

オレから彼女に言っておくから大丈夫だ。……たぶん。

 

「私がラクスで何が悪いの!」

 

アスランの言葉も今の彼女には届きません。

激昂したミーアは隠し持っていた銃を取り出すと、

絶叫しながら、ラクスに向かって銃口を向けます。

この人さえいなければ、見た目も声も同じなのに、

ファンが二分するなんていう、不毛な事態もなくなる。

中の人も一人で二役の演技をするのは大変なんだから!

 

「ミーア! もうやめろ!」

 

しかし、ミーアが引き金を引くよりも早く、アスランが発砲。

正確な射撃で彼女の銃のみを撃ち落とします。

これがもし、撃ったのがルナマリアさんだったら、

そのまま額を撃ち抜き、射殺してしまったところでした。

 

「名が欲しいのなら差し上げます。姿も。

でも、それでも貴女と私は違う人間です」

 

尚も憎悪に満ちた目で睨みつけるミーアに対して、

ラクスは気が抜けるほど穏やかな声で語りかけます。

明日から「新ラクス・クライン」を名乗っても構わない。

でも三流タレントは、どう頑張っても三流タレントです。

 

「負けた……」

 

ラクスの言葉に崩れ落ちるミーア。

いくら姿形や歌声を真似することができても、

その内面の大きさばかりは真似することができない。

私が彼女に勝っているのは、せいぜい胸の大きさぐらいだ。

いや、一部の人にとっては大事だけどさ、胸の大きさ。

 

(そのまま動くな……)

 

一連のコントを離れた場所から窺っていたサラ。

ミーアのミスによって、本来の計画は潰れてしまいましたが、

ラクスたちの動きが止まっている今が狙撃のチャンス。

ライフルの照準をゆっくりラクスへと向けます。

 

「この罪は一生をかけて償います」

「いや、そういうのはいい」

「ええ、結構ですわ」

 

ラクスの一言で、すっかり改心したミーア。

長い土下座の後、すがる様に彼らを見上げますが、

彼女を見下ろす二人の視線は一様に冷たいです。

 

(うわ、すごく冷めた表情……)

 

憧れていた女性と片想いだった男性からのダブル蔑み。

散々な仕打ちにミーアの目からも思わず涙がこぼれます。

議長の所から離れて、これから自分はどうすればいいんだろう?

故郷に帰ろうにも、こんな顔じゃあ、誰も自分だとわからないし。

 

(ジ・エンドだ……!)

 

ライフルの引き金に手をかけるサラ。

身を潜める彼女に誰も気付く気配がありません。

このままラクス暗殺が遂行されてしまうのか。

 

「トリイ!」

 

今まさに弾丸が放たれんとしたその時、

いつの間にかキラの肩からいなくなっていたトリィが、

茂みの中に隠れているサラの存在を鳴き声で知らせます。

こうなることを見越して連れて来たのだと、

キラは後になって語りますが、絶対に嘘です。

 

「危ない!」

 

説教に夢中で敵の存在をすっかり忘れていたアスラン。

とっさに銃弾からラクスを守り、彼女をキラに任せると、

放心状態のまま座り込んでいるミーアの手を引いて、

入り口に向かって駆け出します。

 

「ラクス!」

「キラ……」

「そこ、イチャイチャしない!」

 

柱の陰に隠れてラクスを銃弾から守るキラ。

何故か必要以上に力を入れて抱きしめています。

これでは逆に身動きがとれずにやられてしまうのでは?

そんな疑問も燃え上がる二人の前では関係ありません。

 

「くそっ、オレだって!」

「ああん!」

「やるなぁ、アスラン!」

 

キラに負けじと、ミーアを力一杯抱きしめるアスラン。

どうやら銃撃戦が起こった時というのは、守るという理由で、

女の子を抱きしめ放題のようです。近所で起きろや銃撃戦。

 

「キラ!」

「こっち!」

「うえ〜ん!」

 

入り口の両側に分断されてしまったキラとアスラン。

そして両カップルの間に一人取り残されたメイリンちゃん。

アスランがミーアを選んだことにショックを受けています。

 

「全軍突撃!」

 

こうなってしまっては、もはや小細工は無用。

正面からライフルを持ってラクスたちに襲い掛かるサラ。

同時に周囲に隠れていたザフトのエージェントも現れ、

完全に包囲された状況。どこにも逃げ道はありません。

 

「何人だ!? 知っているか?」

「わ、わかんない! サラしか……」

「ちいっ、なら……」

 

絶対的不利な状況に焦るアスラン。

こちらはラクスとミーアの二人を守りながら、

数も知れない敵を相手にしなくてはならない。

一瞬のうちに思考を働かせた彼が取った行動とは、

 

「ずっとオレのターン!」

 

そして始まるアスラン祭り。

キラとメイリンちゃんは戦力にならないので、

ここぞとばかりに、アスランが獅子奮迅の大活躍。

ライフルやマシンガンで武装している集団に対して、

一丁のピストルで応戦。そしてあっさりと殲滅させます。

アスランを主役にしたタイムクライシスが出る日も近い。

 

「うふふふふ……」

「ひいいっ!」

 

銃撃戦の最中、ミーアの元に這いながら近づくラクス。

前門から迫る悪魔。しかし後門では激しい銃撃戦。

逃げ場のない絶望的な状況にミーアは死を覚悟します。

 

「大丈夫でしょうか?」

「あっ、うん、ラクスには銃渡してないから」

「そういう問題では……」

 

二人の様子を心配そうに見守るメイリンちゃんに、

キラがフォローになっていないフォローで答えます。

ラクスはプロだから、直接相手に手をかけることはない。

まあ、撃たれるよりもキツイダメージを受けることはあるけど。

 

「んっ? おい何だ?」

 

アスランの活躍により、銃撃戦が終了した頃、

アカツキに乗ったネオが石鹸の香りを漂わせながら到着。

都市上空を飛ぶ金ぴかのモビルスーツは目立ちまくり、

案の定、下を歩いている子供に指をさされまくりでした。

 

「大丈夫か、坊主共!」

「遅いです、ムウさん!」

「すまん、お風呂に入っていて……」

「しずかちゃんですか」

 

着いた早々にキラから遅刻を咎められるネオ。

挙句に「ムウさん」呼ばわりされ、憮然とした表情になりますが、

遅れた具体的な理由に関しては、口をつぐんだままです。

 

「本当に君も、いつもごめん……」

「いえ、はいまぁ……」

 

巻き込んでしまったメイリンちゃんを気遣うアスラン。

今まで放置しておいた末にかける優しい言葉。

これが俗に言うツンデレと同じ効力を発揮し、

今日もアスラン本人が全く意図しないところで、

メイリンちゃんの好感度が大幅にアップします。

 

「さあ、君も」

「えっ……?」

 

ラクスと一緒にアカツキに乗り込むミーア。

キラに手を差し出されて、戸惑いの表情を浮かべます。

自分のせいで彼らに多大な迷惑をかけたというのに、

この少年は気にする風もなく、優しく笑いかけてくれる。

ラクスと同じ顔になった彼女。好きな男子の趣味も似通い、

このままキラのことを好きになってもおかしくはありません。

誰も予期しなかった、キラ×ミーアのフラグ発生か。

 

「……」

 

そんな彼らの背後で、鬼気迫る形相で銃を構えるサラ。

爆風に吹き飛ばされた彼女ですが、死んではいませんでした。

計画が失敗し、もはやどうやっても議長に消される運命でしょうが、

それでも最後の執念からか、ラクスに銃口を向け、引き金を引きます。

 

「危ない!」

「!?」

 

ただ一人、サラの動きに気付いたミーアは、

叫ぶよりも速く、とっさにラクスの方に駆け出します。

直後、銃声が鳴り響き、ラクスの前に立ったミーアは、

まるでダンスを舞うかのように地面に倒れます。

 

「バカが……」

 

ミーアの行動に信じられないという思いを抱いたまま、

アスランの放った銃弾を受けて絶命するサラ。

最後の最後まで、やることなすこと全てが大失敗。

途中から出てくる使い捨てキャラの悲しき宿命です。

 

「ミーアさん! ミーアさん!」

 

すぐさまラクスに抱え起こされるミーア。

ラクスの呼びかけに何とか目を開きますが、

撃たれた腹部からはおびただしい量の出血が。

その目は虚ろで、声は今にも消え入りそうです。

 

「私の歌……命……どうか……忘れないで……」

「これが貴女?」

 

ミーアはカバンから一枚の写真を取り出します。

そこに写っていたのは、かつての自分だった少女の姿。

恋人が撮ったのか、友人や家族が撮ったのか、

営業スマイルでない、心からの笑顔を浮かべています。

自分こそがラクスであると訴えていた彼女ですが、

実のところ、ミーア・キャンベルであることを捨て切れなかったのです。

 

「……明るい、優しいお顔ですわ」

 

一瞬の沈黙が気になるところですが、

ラクスは優しい声でミーアの想いを受け入れます。

自分は自分以外の何者にもなれないということ、

心の底では彼女自身もそれをわかっていたのです。

 

「ミーア!」

「もっと……ちゃんと……お会いしたかった。みんな……」

「ミーア!」

 

遺言モードに入っているミーアを励まそうと、

アスランは何度も彼女の名前を呼びかけます。

こんなところで君を死なせる訳にはいかない。

しかし既に絶望的な状態であることを理解しているのか、

必死に呼びかけるその声は、今にも泣きそうです。

 

「ごめんなさい……」

 

最期の時まで、謝罪の言葉を続けるミーア。

ラクスがその全ての罪を許すように微笑むと、

彼女は静かに目を閉じ、そのまま息を引き取ります。

 

「くっそおおおおっ!」

 

地面に拳を叩きつけるアスラン。

ようやく彼女を救えたと思ったのに、

最後の最後で大失態を犯してしまった。

いくら後悔しても、失われた命は戻ってこない。

自分自身の無力さが許せずにひたすら号泣します。

 

「そんな……」

 

初めて目の当たりにする主要人物の死に、

メイリンちゃんも嗚咽を堪えることができません。

 

「ミーアさん……」

 

あまりにも悲しすぎるミーアの死。

さしものラクスの目からも涙がこぼれます。

平和を願う気持ちは自分たちと同じだったはずなのに、

議長によって誤った道を歩まされ、志半ばで倒れた一人の少女。

この悲劇を目の当たりにして、涙を流さない人間などおりますまい。

 

「……」

 

ともあれ、これで議長を潰す大義名分が彼らに与えられました。

いつの時代も、大戦は一人が暗殺されたことから始まるのです。

 

続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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