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【テキスト】重役美女ルナ

 

2007.1.17

 

前回までのあらすじ

出撃するジャスティスを心配そうに見送るメイリンちゃん。

これからはアスランさんとずっと一緒と思ったのも束の間、

突如現れたピンク色の髪の女のよくわからない言葉に騙され、

愛するアスランは傷だらけの身体のまま、再び戦場へと向かうのでした。

もしこれでアスランさんが死んだら、あの人は何て言うつもりなんだろう。

 

「こいつ! どうして……」

 

戦場では、アスランの到着よりも一足早く、

キラとシンの第2ラウンドが始まっていました。

シンにとってフリーダムは一度倒した相手ですが、

以前と違って、シンの方に迷いがあるため、

実力的には上のキラが優位に戦いを進めます。

 

「シン!」

 

しかし今回の相手は一機ではありません。

この隙にフリーダムの後方から迫るレジェンド。

さすがのキラとフリーダムといえども、

この二機を相手には苦戦を強いられます。

 

「あの機体……」

 

見覚えのある機体に動揺するキラ。

デザインといい、カラーリングといい、

背面にドラグーンを搭載している点といい、

ラウ・ル・クルーゼが乗っていた機体にそっくりじゃないか。

 

「キラ・ヤマト……!」

 

何やら因縁のありそうなキラを相手に、

普段は冷静なレイも敵意をあらわにすると、

キラの名前を呪うようにつぶやきます。

 

「声までそっくり!」

 

変態仮面の幽霊だ!

レイの禍々しいまでの気迫に青ざめるキラ。

シンたちから見れば、あなたも十分幽霊です。

 

「今だシン! 撃てっ!」

 

その一瞬の隙をレイは見過ごしません。

レジェンドの集中砲火を受けて、

フリーダムの動きが止まります。

千載一遇のチャンスにレイが叫ぶ。

オレたちを苦しめる怨敵。今度こそ止めを刺せ!

 

「やめろおお!」

「うわっ!」

 

シンがトリガーを引こうとしたその瞬間、

猛然と突っ込んで来る真紅の機体。

突然の事にシンも回避することができず、

正面からぶつかった両機は激しく吹き飛びます。

 

「アスラン!?」

 

まさか彼が僕を助けに来るなんて。

いつもとは逆の立場にキラもびっくりです。

そんな身体で戦うなんて無茶だよ!

いや、まあ、僕が機体を用意したんだけどさ。

 

「やめるんだ! シン!」

「アスラン……」

 

すぐにアスランはシンを説得しますが、

二週続けていいところで乱入された挙句、

それがいずれも自分が倒したはずの相手。

話を聞けるような精神状態のはずがありません。

 

「だって……そんな……」

 

殺したはずのアスランが生きていた。

信じられない展開にシンは絶句します。

どうしてマユやステラのような

可愛い女の子たちばかりが殺されて、

フリーダムのパイロットやアスランのような

腐女子枠ばかりが優遇されるんだ。

もし彼女たちが彼らと同じように死んでいなかったら、

画面に肌色が多く映る楽しいアニメになるはずだったのに。

 

「もうやめろ! 自分が今、何を撃とうとしているのか、

お前、本当にわかっているのか!?」

 

ラクスに長々と説教をされたストレスからか、

シンに向かって厳しい口調で問い掛けるアスラン。

自分がシンに説教してみて初めてわかりましたが、

説教って自分が下だと思う相手には滑らかに出てきます。

しかしアスランの言葉は、レイの怒声によって掻き消され、

二人は分かり合えないまま、再び刃を交えることになります。

 

「暗いよ〜! 狭いよ〜! 怖いよ〜!」

 

司令本部から離れた郊外の市民用シェルター。

兵士たちに連行されたユウナですが、

避難先のシェルターの前まで来て、

突然、ここじゃ嫌だとぐずり始めます。

 

「今だ!」

「あっ、こら!」

 

ユウナは兵士に体当たりすると、

両手を縛られたままの姿で逃走します。

少し前まで司令だった人物としては、

あまりにも情けない姿です。

 

「待て〜!」

「うるさ〜い! 僕は!」

 

待てと言われてもスタコラサッサ。

セイラン家のシェルターまで逃げ込もうと、

ユウナは戦場を半べそのまま駆け抜けます。

 

「えっ……?」

 

ユウナの上空で繰り広げられる戦闘。

オーブ軍のムラサメがザフトのグフを撃墜。

しかし皮肉にも制御を失ったグフは、

真下を走るユウナの元に落下していきます。

 

「…………」

 

状況が理解できずに固まるユウナ。

自身を覆う影に気づいて見上げた先には、

ゆっくりと地面に降下してくるグフ。

そして、その下にいるのは……僕?

 

「う、うわあああああっ!」

「ユ、ユウナ様!」

 

もはや回避不能。絶体絶命のピンチ。

しかしユウナは無謀にもグフを受け止めようと、

自分の何百倍もある鉄の塊を相手に立ち向かいます。

その姿はまるでアクシズを押すνガンダムの如し。

僕だってセイラン家の男、無駄死にはしないぞ!

 

「へぎゃ」

「あっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう待てん! シャトルを出せ!」

「しかし……」

「重要なのは私だ! セイランではない!」

 

セイラン親子の到着を待っていたジブリール。

いつまで経ってもやって来ない彼らを見捨てて、

シャトルを発進させるように兵士たちに要求します。

 

「その怒りの本当の訳も知らないまま、ただ戦っては駄目だ!」

「何を!」

 

激化の一途をたどるシンとアスランの戦い。

アスランは戦闘中も諦めずに説得を続けますが、

結果、その言葉はシンを逆上させるだけでした。

今オレが怒っているのは間違いなくあんたに対してだ!

 

「何も分かってないくせに! 裏切り者のくせに!」

 

何度も裏切りを繰り返すあんたの言葉なんて信じられるか!

シンは怒りによって、本日二度目の種割れを発動させます。

 

「くっそおおおおっ!」

 

ラッシュ覚醒により繰り出される神速の連続攻撃。

その超人的な動きにアスランは圧倒されます。

 

「くっ……」

 

全身を襲う痛みに顔を歪めるアスラン。

やはりこの身体で戦うなんて無理だったのか?

ラクスの口車に乗せられたオレがバカだったのか?

若さゆえの過ちへの後悔が怒涛のように押し寄せます。

 

「オレは……!」

 

もはやここまでか、諦めかけたその時、

全国のアスランファン待望の瞬間が訪れます。

およそ2年ぶりにアスランの頭の中で弾ける種。

精神が肉体を凌駕して、真の実力が発揮されます。

 

「うおおおおおおっ!」  「うおおおおおおっ!」

 

アロンダイトを振り下ろすデスティニー。

迎え撃つジャスティスはビームサーベルを一閃。

互いが勝負を決せんと放った全力の一撃。

はたして勝者は――

 

「なっ……!?」

 

正義の一念が運命を切り開く。

次の瞬間、デスティニーの腕は斬り落とされ、

一拍おいて、機体は炎に包まれます。

 

「そんな……」

 

まさかの敗北にシンは呆然となります。

デスティニーが負けるなんてありえない。

初登場からまだ7話しか経っていないのに。

噛ませ犬、当て馬、引き立て役、ヤムチャ。

考えたくない様々な言葉が彼の脳裏をよぎります。

 

「本島二区に発進する機影!」

「えっ!?」

 

ジブリールの行方が掴めず焦れる司令本部のカガリ。

そんな彼女に予想外の場所からの報告が入ります。

 

「これは……セイラン所有のシャトルです」

「なにっ!?」

 

既にセイラン親子はこの世にいない。

となれば乗っているのはジブリールに違いない。

急ぎムラサメ隊をシャトル追跡に向かわせます。

 

「ルナマリア発進、今上がったシャトルを止めて」

「ええ〜っ!?」

 

ミネルバのレーダーもシャトルを捕捉。

しかしデスティニーとレジェンドが交戦中のため、

艦に残っているのは、インパルスしかありません。

ここはずっと秘密にしておきたかった秘密兵器の出番です。

 

「ジブリールの逃亡機の可能性が高いわ。

最悪の場合は撃墜も許可します」

 

淡々とした調子で命令を下す艦長。

しかし“最悪の場合は撃墜も”って言われても、

ルナマリアさんにとって、それが最高の場合なんですが。

貴女は彼女に対して、これ以上何を望もうと言うのですか。

 

「ど、どうしよう、どうしよう……」

 

すでにおやつタイムだったルナマリアさんは大慌て。

突然の出撃。それもこんな重要な任務だなんて。

私にできるかしら? 邪魔者の私なんかに(自虐的になってる)。

でも私しかいないんだもん。やるしかない。やるっきゃ騎士よ。

 

「ル、ル、ル、ルナマリア・ホーク、ザク行くわよ!」

「落ち着きなさい!」

 

早くも緊張でカチンコチンのルナマリアさん。

今まで画面の端の方でこそこそ戦っていた彼女、

一機だけで出撃するというのは初めての経験です。

 

「出撃のポーズきめっ!」

「ポーズはいいから早く!」

 

艦長の言葉で落ち着きを取り戻したものの、

今度は一転、リラックスしすぎ。

集中すると周りのことが見えなくなる子だと、

アカデミーの教官からもよく言われていました。

 

「どいて、どいて〜!」

 

全速力で機体を飛ばすルナマリアさん。

フォースインパルスの圧倒的な機動力により、

先行していたムラサメ隊を追い越して、

ライフルの射程内にシャトルを捉えました。

 

「落ち着け……」

 

ルナマリアさんの緊張も最高潮。トリガーを握る手も震えます。

絶対に失敗の許されない重要な任務。しかし逆に言えば、

自分を邪魔と言い切ったレイを見返すチャンスです。

あの子私がロングライフル当てたらどんな顔するだろう?

 

「左手は添えるだけ……」

 

精神を集中させ、冷静に狙いを定めて放つ一撃。

はたして戦争を終結させる光となるのか?

 

「やった! 大当たり!」

 

ルナマリアさんの正確無比な一撃は見事命中。

直撃を受けたシャトルは木っ端微塵に爆発します。

 

「うわ〜っ! や〜ら〜れ〜た〜!」.

「見たか! 正義は勝つのよ!」

 

光と共に空に散るジブリール。

かくして彼の野望はここに潰えました。

ルナマリアさんが世界の危機を救ったのです。

ありがとうルナマリアさん。おめでとうルナマリアさん。

 

「というお話だったのサ」

「めでたしめでたし、だな」

 

ご愛読ありがとうございました。

 

 

終わり。

 

 

「よし、そんな感じでいこう」

 

イメージトレーニング完了。

あとはそれを実行に移すのみです。

 

「えぐりこむようにして撃つべし!」

 

平和への祈りを込めて放たれる一撃。

大丈夫、直線にしか飛ぶことの出来ないシャトルなんて、

狙いさえ確かなら絶対に当たる。むしろ外すほうが難しいわ。

 

「ちいっ!」

 

次々と窓の外を通過していくビーム。

ジブリールも焦りの表情を浮かべます。

……ってあれ? “窓の外”を通過?

 

「ええいっ!」

 

射撃。

しかしビームはシャトルのわずか上を通過。

惜しい! もうちょっと下! もうちょっと下!

 

「ちょええぇぇ〜!」

 

射撃。

しかしビームはシャトルのわずか横を通過。

惜しい! もうちょっと左! もうちょっと左!

 

「むきーっ! なんで当たらないのよー!?」

 

射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。

射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。

射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。

射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。

射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。

射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。

射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。

射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。

射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。

射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。

 

「はぁ……はぁ……」

 

結局、百発ほど放ったビームは一発も当たらず、

シャトルは宇宙への脱出にまんまと成功してしまいました。

今作戦の任務であるジブリールの捕獲、失敗です。

 

「急にシャトルが来たので……」

 

まさかの失敗に信じられないと言った表情のルナマリアさん。

もう一回チャンスがあれば、今度は成功できると思うんだけど、

スパロボみたいにソフトリセットコンティニューできないかしら?

 

「逃がした……」

「うぅむ……」

 

最悪の展開にカガリも愕然とします。

幾度に渡ってオーブ軍を苦しめたインパルスなら、

シャトルを撃ち落としてくれると期待していたのだが、

パイロットの腕が以前とは比べ物にならないぐらいに酷い。

乗っているのは、新米パイロットか、学徒兵か。

どうやらザフトの人材不足も深刻のようだ。

 

「……………」

「あぁ……やっぱり……」

 

溜め息に包まれるミネルバのブリッジ。

出撃したのがルナマリアさんという時点で、

ある程度予想できた事態とはいえ、

ここまで見るも無残な結果になろうとは。

実際に目の前でやられると引くレベルです。

 

「オレがもっとしっかり教えていれば……」

「ルナ……」

「カガリより下手だ……」

「やはり役に立たない……」

 

小さくなっていくシャトルを口惜しそうに見送る一同。

この時ばかりは敵対する四人の心も一つになります。

 

「信号弾撃て! 一時撤退する!」

 

ジブリールの逃走により、白けムードが漂う戦場。

艦長はこれ以上戦闘を続けても無意味であると判断し、

ザフト全軍にオーブ領域からの撤退を命じます。

 

「ふぅ……」

 

何とかオーブを守りきることができた。

強い精神力で満身創痍の体を支えてきたアスラン、

緊張の糸が切れたのか、そのまま意識を失ってしまいます。

 

「アスラン!」

 

制御を失い降下していくジャスティス。

キラは海に落ちる寸前で機体を受け止めます。

やっぱりそんな身体で戦うのは無茶だったんだよ。

それにしても、気絶しても色気があるのはすごいな。

 

「アスラン!」

「アスランさん!」

 

帰艦後、すぐに運び出されるアスラン。

心配そうに駆け寄るキラとメイリンちゃん。

ちなみにアスランがこうなった元凶のラクスは、

自分に用意された部屋の模様替えをしていました。

 

「キラ……お前のために死ねるならオレは本望だ……」

「アスラン……」

「“ん”と“う”をとったらホモだ……」

「アスランさん……」

 

キラが急いでヘルメットを外すと、

現れたのは鮮血に染まるアスランの顔。

意識は朦朧としており、今にも死にそうです。

 

「血が……」

「これはひどい……」

 

痛々しい姿に悲鳴を上げるメイリンちゃん。

思わず目を覆いたくなるような惨状ですが、

キラは取り乱さずに応急処置の準備をします。

 

「脱がすよ……」

「なぜ小声になる……」

 

そして始まる医療行為を名目にしたセクハラ。

スーツを脱がせてシャツ一枚にしてみたところ、

どうやら上半身からの出血はないようです。

 

「よし、次は下を脱がそう!」

「お、お手伝いします!」

 

下着姿を見てテンションが上がってきたキラ。

続けてアスランの下半身へと手を伸ばします。

もしも大事な部分に何かあったら大変だ!

君一人だけの身体じゃないんだから。

 

「……」

 

一人デッキに佇み、沈む夕陽を眺めるネオ。

あの後、スカイグラスパーに被弾してしまった彼は、

結局、アークエンジェルに出戻って来てしまいました。

 

「こんなところにいたの?」

「居場所がなくってね」

「うふっ…」

 

背後からの声に気づいてネオが振り向くと、

そこにいたのは、柔らかに笑顔を浮かべるマリューさん。

どうやら彼を探して艦内を歩き回っていたようです。

 

「ネオ・ロアノーク。CE42、11月29日生まれ。

大西洋連邦ノースルバ出身。ブラッドタイプO。

CE60入隊。現在、第81独立機動軍、通称“ファントムペイン”大佐」

 

それきり二人の間に会話はなく、

デッキは気まずい沈黙に包まれます。

マリューさんが耐え切れずその場を離れようとした時、

ネオは自分の経歴を静かに語り始めました。

 

「のはずなんだがな……。

だが、なんだかちょっと自信がなくなってきた」

 

全ての経歴を言い終わると、

ネオは急に戸惑ったような表情になります。

自分がステラたちの記憶を操作していたように、

同様に自分も記憶を操作されていたのだとしたら?

本当は子安なのに柵間だと名乗らされていたのでは?

これまで積み重ねてきた全てが崩れていく奇妙な感覚。

自分は本当にネオ・ノアロークという人物なのか?

今、これを読んでいるあなたは、本当に○○○○さんですか?

 

「あんたを知ってる……ような気がする」

 

既視感というのではない、確信めいた感情。

ネオにとっては前世の記憶と言っていいでしょう。

この女性とは過去に会っているに違いない。

僕が新垣結衣ちゃんに抱く感情と同じものです。

 

「いや、知ってるんだ。きっと、

オレの目や耳や腕や、何かが。

だから、飛んで行っちまえなかった……」

 

ネオの言葉に目を見開くマリューさん。

彼女を正面から見つめて彼は言葉を続けます。

暗に過去に体の関係があったことを示唆しており、

普通の人が言ったら完全にセクハラ発言です。

 

「あんたが苦しいのは分かってるつもりだ。でも、オレも苦しい」

 

彼女の存在を確かめるように、

マリューさんの肩に手を伸ばすネオ。

過去に幾度となく触れたであろうその感触が、

彼の予感を確信へと変えていきます。

 

「だから、ここにいていいか? あんたの傍に」

 

今はまだ本当の過去を思い出すことはできない。

だが、いつか必ず失われた全てを取り戻してみせる。

その時までオレを貴女の傍にいさせてくれないか?

ネオはマリューさんに自分の想いを告白します。

というか否応を聞く前に既に抱きしめています。

 

「ダコスタくぅ〜ん、ほれほれ〜」

「いや〜ん、隊長のえっちぃ〜」

 

一方、すっかり忘れ去られていると思いますが、

つい数ヶ月前まではキラたちと一緒の屋敷で、

マリューさんと夫婦のように過ごしていた虎。

彼は未だ、ネオの存在すら知りません。

 

「ピンクの悪魔が!」

「だ、大丈夫ですか!?」

 

数時間後、ようやく目を覚ましたアスラン。

メイリンちゃんが慌てて駆け寄って体を引き起こします。

アスランさん、最近は毎週のように苦しんでいるなあ。

 

「って言わない方がいいよ。アスランには。絶対大丈夫って言うから」

「そうですわね」

 

必死に看病するメイリンちゃんをよそに、

呑気な様子で入ってきたのはキラとラクス。

彼はツンデレだから心配しても逆効果だよ。

僕ぐらいにしかデレを見せないからね。

 

「ほ、本当に大丈夫だ!」

「ほーら、言った通り」

「う、うるさい!」

 

図星を指されて不機嫌になるアスラン。

事実だが何だかバカにされている気がする。

べ、別に無理してる訳じゃないんだからねっ!

 

「でも良かった。またこうして君と話せる日が来て」

 

憮然とするアスランにも、キラは笑顔で応じます。

こんな風に君と何気なく話せることが何よりも嬉しい。

平和なときは当たり前ですぐ忘れちゃうけど、

そういうことが本当はとても幸せなことだって。

まあ、そればかりだとアニメにならないんだけどさ。

 

「キラ……」

 

その言葉にアスランの胸もキュンとなります。

今まで自分ばかりが悩んでいたと思っていたが、

そうではなかった。キラも同じように悩んでいたのだ。

 

「……………」

「……………」

「うふふふ……」

(えっ……何? この空気?)

 

キラの真正面からの告白に、

恥ずかしそうに顔を背けるアスラン。

その様子を見て嬉しそうに微笑むラクス。

二人のやり取りに医務室は暖かな空気に包まれます。

しかし、二人の関係を知らないメイリンちゃんは、

生まれて初めて体験するボーイズの世界に大混乱。

何で男の人同士なのにイチャイチャしてるの?

 

「あ、テレビ付けていい? カガリが声明を出すんだ」

 

室内の恥ずかしい空気を察したのか、

思いついたようにテレビのスイッチを入れるキラ。

付けて間もなく、カガリが画面に映し出されます。

 

「オーブ連合首長国代表首長、カガリ・ユラ・アスハです」

 

オーブ行政府の会見席に座るカガリ。

これまでの泣き虫少女の姿はそこにはなく、

世界中の人々に向けてオーブの意思を示さんと、

正面を見据えて、決然とした態度で語り始めます。

 

「今日、私は全世界のメディアを通じ、

先日、ロード・ジブリールの身柄引き渡し要求と共に、

我が国に侵攻した、プラント最高評議会議長、

ギルバート・デュランダル氏にメッセージを送りたいと思います」

 

カガリの声明はミネルバにも流れます。

先ほど取り返しのつかないミスを犯してしまい、

部屋に引き篭もるかと思われたルナマリアさんですが、

特に気に病むことなく、みんなと一緒に仲良く観賞しています。

 

「頑張れ!」「ファイト!」「その調子ですわ!」「泣いちゃダメだ!」

 

カガリの声明を熱心に見守る一同。

家族や知り合いがテレビに映ると、

やたらと興奮するのはどうしてなんでしょう。

 

「じゅ、デュランダル議長のメッセージは、確かに衝撃的なものでした」

(噛んだ…)(噛んだ…)(噛んだ…)(噛んだ…)

 

小さなミスにも目敏く反応する一同。

確かに「デュランダル議長」って言いにくい。

 

「ですが、それが……」

「んっ? 故障か?」

 

長い前フリを終え、一番大事なことを言おうとした時、

突然、画面にノイズが混じって音声が途切れ途切れに。

 

「私は、ラクス・クラインです」

「なっ……!?」

 

直後、映像がミーアのアップに切り替わります。

もちろんこれは二元中継という訳ではありません。

どうやらプラント側に回線がジャックされたようです。

 

「過日行われたオーブでの戦闘は、もう皆さんも御存じのことでしょう」

「むっかー! そのことについて喋ってたのにー!」

 

カガリの演説などなかったかのように、

改めて自らの演説を始めるミーア。

せっかくの晴れ舞台を踏み台に使われたカガリ。

これ以上の屈辱はありません。

 

「これは……?」

(おっ、おっぱい!)

 

突然、画面に映ったラクス(ミーア)。

ザフトの兵達にも知らされてなかったようで、

彼女の登場にミネルバ艦内は騒然となります。

モニターを見ているフリをしながら、

アビーの横乳を眺めていたアーサーも、

ミーアの胸に釘付けとなります。(カガリの時は無反応でした)

 

「……………」

 

世界中の人たちが混乱する中、

議長だけは静かに画面を見守っていました。

そう、今回の電波ジャックも彼が画策したことです。

オーブの姫のやることなどお見通し。

全ては自分の思うとおりに事は進んでいる。

 

「えっと……」

「……………」(そろそろお仕置きが必要のようですわね)

 

ラクス様はどう思っているんだろう?

こっそりとラクスの方を見やるメイリンちゃん。

しかしラクスは何も言わず、じっと画面を見つめるだけ。

無表情な横顔からは、感情を読み取ることができません。

 

「はっ……」

 

しかしアスランは緊張した空気に敏感に反応。

彼女は笑顔や無表情の時ほど、

内面では恐ろしいことを考えているものだ。

さっきオレが経験したばかりだからわかる。

 

「ではキラ、私も参りますわ」

「あ、そうだね」

 

この状況にも余裕の表情のキラとラクス。

二人でどこかへ向かおうとしているようですが、

こんな時に一体どこに行こうというのでしょうか。

まさかフリーダムで単機プラントに殴りこむつもりか。

 

「ではアスラン、私は行きますわ」

「いや、彼女は議長に言われて仕方なく……」

 

二人のやりとりに言い知れぬ不安を覚えたアスラン。

慌てて攻撃対象であろうミーアを弁護します。

彼女も悪気があってやっている訳じゃないんだ。

 

「大丈夫ですわ、アスラン」(すぐには殺しません)

「いや、大丈夫じゃないから」

 

殺してしまっては何もならない。

思いとどまるように訴えるアスラン。

ラクスは笑いながら殺意を否定しますが、

その笑顔が逆に怖いんだって。

 

「プラントに核を放つことも巨大破壊兵器で街を焼くことも、

子供達をただ戦いの道具とすることも厭わぬ人間を、

何故オーブは戦ってまで守るのでしょうか?」

 

ミーアによるオーブ批判は続きます。

どうやら極悪人ジブリールを匿っていた国家として、

人々の反オーブ感情を煽るシナリオのようです。

 

「オーブに守られた彼を、

私達はまた捕らえることが出来ませんでした」

(私のせいだわ……)

 

今回の作戦の失敗を厳しい口調で語るミーア。

オーブのせいで逃したことを強調したいのでしょうが、

ルナマリアさんにとっては公開処刑にも等しいです。

世界中継での個人攻撃は酷いよ。

 

「私達はそれを……」

 

ミーアの語調も徐々に険しいものになり、

オーブへの強硬姿勢を示そうとしたその時、

再び画面にノイズが走ります。

ぼんやりと映し出されるシルエット。

このやたらにゴチャゴチャした服は――そう、あの女です。

 

「その方の姿に惑わされないで下さい」

 

次の瞬間、再びオーブ側に回線が戻ると、

そこに映し出されたのは、本物のラクスの姿。

元工学部の学生で趣味がハッキングのキラにかかれば、

奪われた回線を再び繋ぎ直すことぐらいはお手のものです。

アスランの恥ずかしい画像を全世界にばら撒くことだって可能です。

 

「バカな……何故、彼女がオーブに?」

 

この展開は議長にとっても予想外。

どうして本物のラクス・クラインがオーブに?

彼女はエターナルにいるはずではなかったのか?

ジャスティスに乗って降下すればごまかせるという、

キラの策にまんまと騙されてしまいました。

 

「私は、ラクス・クラインです」

 

ラクスはカメラ目線でにっこり微笑むと、

自らが本物であることを示すように堂々と名を告げます。

「私は」の“は”の部分にどれほどの意味が込められているのか、

その涼やかな表情からは読み取ることができません。

 

「君は僕に似ている……」

 

ラクスの言葉に怯えた表情を見せる議長。

笑顔の裏にどす黒い感情を隠す者同士として、

彼女の底知れない殺意を感じ取ったようです。

 

 

続く。

 

 


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