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【テキスト】D・O・W・N・ANGEL

 

2005.11.12

 

前回までのあらすじ

議長の演説によって世界中に知らされたロゴスの存在。

倒すべき敵を示され、世界は大きく動き出そうとしています。

彼らのグローバルカンパニーと関わりのない国などなく、

それは中立国であるオーブも例外ではありません。

ユウナも珍しく深刻な表情を浮かべてウナトに訴えます。

「僕たちって揉み上げを見ると親子だなって感じするよね」

 

「オーブへ戻りましょう」

 

放送終了後のアークエンジェル。

ロゴスのメンバーとして提示された者たちの中には、

オーブと関わりのある者も多くおり、混乱は避けられません。

カガリがいつものようにああだこうだ喚いていると、

キラがいつものようにその場の勢いで行動を決定します。

これ以上あのバカ親子に国を任せておくわけにはいかない。

さらなるバカ姉弟がオーブへ向かって進路を取ります。

 

「議長はすごいな!」

「うむ、ギルはすごい」

 

議長の演説に沸くミネルバ艦内。

――二度と戦争など起きない平和な世界。

その甘美な響きにシンも興奮を隠せません。

彼が求めていた世界を議長は実現しようとしています。

 

「ギルはすごい、ギルはえらい、ギルはかっこいい、ギルは……」

「……………」

 

皆が何の疑いもなくデュランダル議長を支持するなか、

アスランとルナマリアさんだけは複雑な表情です。

キラにラクス暗殺の真相を聞かされた彼らだけは、

議長の言葉をどれだけ信じていいのか測りかねています。

何か言いたげにアスランを見つめるルナマリアさんですが、

ストーカーしていたことがバレてしまうので言えません。

 

「どれどれ、近くじゃないと見えないな」

「……セクハラだ」

 

議長の演説による盛り上がりも止まぬ最中、

ミネルバに艦隊司令部から通信が入ります。

アーサーが不必要な距離まで接近して読み上げた通達。

そこに書かれていたミネルバの新たな任務とは――

 

「ミネルバはこれより発動する、エンジェルダウン作戦を支援せよ」

 

それはアークエンジェルを討つべく発動された作戦。

まるで彼らがオーブに戻ることを見越していたかのように、

待ち構えていたザフトの軍勢がアークエンジェルに攻撃を開始します。

 

「いきなり撃ってくるなんて……」

 

ザフトの軍勢に囲まれるアークエンジェル。

キラも慌ててフリーダムを出撃させますが、

突然の攻撃に動揺を隠せません。

何の警告もなく撃ってくるなんて最低だな。

 

「何故? ザフトが急にこんな……」

 

ベルリンでの戦闘では、デストロイ相手に共闘した両軍。

突如旗色を変えたザフトに、マリューさんも困惑した様子です。

ザフトに恨まれるような筋合いは何もないはずなのに。

 

「……ごめんなさい」

 

前大戦における数々の遺恨に加えて、

ダーダネルスでは、ミネルバのタンホイザーを破壊し、

クレタでは、アスランのセイバーをバラバラにして、

ディオキア基地では、ラクスのシャトルを強奪した。

ザフトに恨まれる筋合いは、数え切れないほどあります。

 

「議長が仰ったのは、ロゴスを討つということです!」

 

突然の命令に怒りが収まらないアスラン。

艦長室へ乗り込むと、机を叩いて艦長に抗議します。

どうしてロゴスとは関係のないアークエンジェルを討つんだ。

そりゃあキラが暴れているせいでロゴスは大儲けしてるけど。

 

「この命令は絶対におかしい!もう一度司令部に……」

「そんなことはもうやったわ!」

 

アスランの抗議に声を荒げて反論する艦長。

彼女も突然の命令に疑問を感じていますが、

この命令は本国――つまりは議長の決定。

それに逆らうことなどできるはずもありません。

 

「いや、だって、おかしいって!」

「おかしいのはあなたです」

 

司令部がアークエンジェルを脅威と捉えた以上、

一介の兵士であるアスランにはどうすることもできません。

自分が戦場に出て直接キラたちを止めようにも、

乗るモビルスーツがありません。壊したのはキラです。

 

「赤いね」

「赤いな」

 

今日も待機のルナマリアさん。

モニターに映し出されるアークエンジェルを

レイと並んでぼんやりと見つめています。

バーチャルボーイってあったよね。

 

「へへっ……」

 

早くも訪れたフリーダムへの復讐の機会。

出撃準備を終えてエレベーターへ向かうシン。

感情の高揚を抑えきれず、思わず笑みが浮かびます。

 

「なによぅ!」

 

ルナマリアさんは自分が笑われたと勘違い。

自分しか出撃できないからってバカにして。

ザクが直ったら私だって大活躍の予定なんだから。

 

「艦長!」

「見たくないというのなら、部屋にでもいなさい」

 

通信を受けてブリッジへ向かう艦長。

アスランがなおもしつこく食い下がりますが、

艦長は泣き虫の子供を扱うように冷たく突き放します。

 

「見たいような、見たくないような……」

 

キラがやられるところは見たくないけど、

たった一人で健気に頑張っているキラは見たい。

アスランは複雑な乙女心に表情を曇らせます。

 

「シン、大丈夫だ、お前なら討てる」

「サンキュ」

 

エレベーターに乗り込もうとするシンに、

レイは柔らかな笑みを浮かべて声をかけます。

2人とも強敵との戦闘前とは思えない落ち着きぶりです。

 

「えっ……?」

 

いつも無愛想なレイがこんな笑顔を見せるなんて。

急に仲良しになった2人に驚くルナマリアさん。

同じ部屋で過ごすうちに何があったのかしら。

それを想像するのはちょっと怖いけど。

 

「シン、ダメだ、お前は討つな」

 

結局、部屋には戻らなかったアスラン。

エレベーターに乗り込んだシンに慌てて駆け寄ります。

キラとシンを戦わせるわけにはいきません。

自分はキラを応援したいのに、上官という立場上、

シンを応援しなくてはならない。それだけは絶対に嫌だ。

 

「バイバイ」

「ああっ!」

 

こいつの言うことをいちいち聞いていられるか。

何か言いたそうに自分を睨むアスランを無視して、

シンはエレベーターのドアを閉めます。

 

「ミネルバ!?」

 

ついに激突するミネルバとアークエンジェル。

ミネルバは出会い頭にイゾルデを放ちますが、

アークエンジェルは船体を大きく傾かせてかわします。

まるで地球の重力を感じさせないその動き。舵を切ったのはノイマン。

実家の豆腐屋の配達で鍛えた見事なドリフトテクニックです。

 

(無事でいてくれ、キラ)

(しっかりやれよ、シン)

(こっち向いて、アスラン)

 

ついに戦闘が始まった。

固唾を飲んで戦況を見守るルナマリアさんたち。

三者三様の思いを抱えながら待機しています。

 

「ザフト軍艦ミネルバ艦長、タリア・グラディスです」

 

未だに交戦の意思を見せないアークエンジェル。

艦長は彼らの真意を確かめるために、

メイリンちゃんに国際救難チャンネルを開かせると、

アークエンジェルに向けて通信を入れます。

 

「艦長、ミネルバから!」

 

アークエンジェルに伝えられたミネルバからの勧告。

現時点で搭載機を含めて全ての戦闘を停止し投降するならば、

ミネルバも攻撃も停止し、乗員の生命の安全は保証するというもの。

しかしオーブの国家元首であるカガリを敵国に引き渡すわけにはいきません。

勧告を受け入れるか否か――艦長であるマリューさんに決断が迫られます。

 

「海へ。カガリをオーブに。それを第一に」

 

そのとき、艦長より権限のあるキラから鶴の一声。

何よりもカガリをオーブへ無事に帰すことを第一に。

それができなければ全てが終わってしまう。

アークエンジェルは僕が守るから大丈夫。

 

「お前……どのツラ下げてそんなことを……」

 

そもそもキラがカガリを誘拐していなければ、

こんな複雑な事体にはなっていなかったのですが。

 

「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです」

 

マリューさんが出した返答――それは勧告の拒否。

本艦にはまだ仕事がある。ここで消えるわけにはいかない。

その仕事が何なのかは決まってないけど。とりあえず自由でいたい。

 

「ああっ!」

 

モニターに映し出されたアークエンジェルの艦長。

見覚えのある女性の顔にアーサーは驚きの声を上げます。

 

「彼女は……あの時の……」

 

プラントを代表する巨乳研究家のアーサー。

彼の頭の中には11歳から35歳までのEカップ以上の女性が、

巨乳データベースとして完全に記録されているのです。

マリューさんは彼が今まで見てきた巨乳の中でも、

プラチナ殿堂に入るほどの素晴らしい巨乳の持ち主です。

 

「あれはいいものだ……」

 

思わずよだれを垂らすアーサー。

あんな女性がミネルバの艦長だったら、

攻撃を受けるたびに艦長の胸が揺れるので、

副長としてもテンションが上がって最高なのですが。

おっぱいは飾りじゃない。偉い人にはそれがわからないのか。

 

「クッ、アークエンジェル!」

 

再びモビルスーツ隊の攻撃を受けるアークエンジェル。

マリューさんの胸もバインバイン揺れています。

キラが急いでアークエンジェルの救援に向かいますが、

 

「逃げるな!」

 

そんなフリーダムの前に立ち塞がるインパルス。

いつもいつもそうやってやれると思うな!

いつも相手にされないシンの怒りが爆発します。

 

「キラ!負けるな!頑張れ!」

 

キラたちが心配でいてもたってもいられないアスラン。

モニターのフリーダムに向かって必死に声援を送ります。

 

「ふん!セイヤ!セイヤ!セイヤ!セイヤ!セイヤ!

はい!はい!そこだ!はっ!おっしゃ!おっしゃ!ハッ!

はぅ!はいや!よーし!キラいけ!へいし!へいし!そこだ!」

「……………」

 

そんなアスランを冷めた表情で見つめるレイ。

この人はスポーツ中継を見るときも応援するタイプなのだろうか。

そんなことをしても何も変わらないのに。

 

「フレー!フレー!キーラー!」

 

アスランの声を張り上げての必死の応援もむなしく、

フリーダムの放つ攻撃は全て紙一重のところでかわされます。

以前は圧倒的な実力差があった両機ですが、

この短期間でどうしてその差が縮まったのでしょうか。

 

「正確な射撃だ。それゆえコンピューターには予想しやすい」

 

――全ては計画通り。

シンは不敵な笑みを浮かべます。

 

「むう、この動きは……」

「知っているのか、レイ」

 

先日行った対フリーダムのシミュレーション。

レイの分析によって判明したフリーダムの特徴。

力石を殺したジョーがテンプルを打てなくなったように、

フリーダムは絶対にコックピットを狙わない。

撃ってくるのは決まって武装かメインカメラ。

レイはそこにインパルスの勝機を見出したのです。

こんなにわかりやすい特徴は他にないと思いますが、

どうして今まで誰も突っ込まなかったのでしょうか。

 

「くらえ!」

 

インパルスはフリーダムにシールドを投げつけると、

続けざまにシールド目掛けてビームライフルを放ちます。

シールドに反射したビームはフリーダムの頭上スレスレを通過。

トリッキーな攻撃にフリーダムの動きが停止します。

 

「もらったあ!」

 

そこに生じた一瞬の隙。

インパルスはフリーダムの正面に潜り込むと、

コックピット目掛けてビームサーベルを振り下ろします。

これで終わりだ――!

 

「遅い!」

「ぐはあっ!」

 

しかし斬り落とされたのはインパルスの首。

そういえば接近戦に関してはシミュレーションしていませんでした。

 

「メイリン!チェストフライヤー!フォースシルエット!」

 

まだだ!まだ終わらんよ!

声を荒げて新しいパーツを要請するシン。

ゲーセンの対戦台で勝つまで乱入する人のように、

フリーダムに勝つまでコンティニューし続けます。

 

「えっと……チェストと……フォース……」

「早くしろ!」

 

突然の注文にてんてこまいのメイリンちゃん。

今までシルエット変換ぐらいだったので、

同時に2つ注文されると混乱しちゃいます。

間違って同じのを2つ射出してしまったら大変。

顔だけ投げていればいいジャムおじさんとは違います。

 

「いけ!上半身!」

「うわ、気持ち悪い!」

 

シンはコアスプレンダーに分離すると、

チェストフライヤーをフリーダムに向けて突撃させます。

小刻みに揺れながら迫る上半身にキラも動揺します。

 

「飛んで行きな!」

「うわっ!」

 

続けざまにコアスプレンダーの機関砲を連射。

推進剤に引火してチェストフライヤーは爆散。

爆発の衝撃に吹き飛ばされるフリーダム。

壊れたパーツも無駄にしないリサイクル精神溢れる攻撃です。

 

「シンが……」

「頭を使ってる……」

 

信じられない光景に愕然とするアスランとルナマリアさん。

普段の言動はちょっとアレなシンちゃんですが、

戦闘における応用力は天才的なセンスを発揮します。

 

「逃がさないと言ったろう!」

 

休む間も与えない連続攻撃。

新たなチェストフライヤーと合体したインパルスは、

ビームサーベルを抜き放ちフリーダムに飛び掛ります。

 

「あんたがステラを殺したぁ!」

 

殺意の波動に目覚めたシン。

その深紅の瞳に宿るのは禍々しいまでの狂気の色。

ステラが受けた痛みをお前にも味わわせてやる!

 

「このっ!」

「びんよよよ〜ん!」

 

フリーダムがカウンターで繰り出した斬撃。

インパルスは機体を上下に分離して回避します。

熱くなりながらも常に冷静さを失わないシン。

どうして普段の生活でこれができないのでしょうか。

 

「こんな……これは……」

 

なんかこの人気持ち悪い。

ラクス暗殺部隊隊長以来の不快感を覚えたキラ。

これ以上関わり合いになりたくないので逃走を開始します。

 

「メイリン、ソードシルエット!」

「ええっ、また!?」

 

それを見て次のシルエットを要請するシン。

人使いの荒いシンにメイリンちゃんもびっくり。

オペレーターを一体何だと思っているのかしら。

それにソードシルエットってどっちかっていうと対艦用だよ。

フリーダム相手にどうするの?

 

「逃がすものか!」

 

放送時間も残り少々。

接近戦用のソードシルエットの要請。

それはつまり、決着をつけるという合図。

インパルスはフォースシルエットを装着したままで、

射出されたソードシルエットの武装のみを受け取ると、

逃走するフリーダムにビームブーメランを投げつけます。

 

「しつこいなあ……」

 

眼前に迫る海岸線。

ようやく逃げ切ったと思ってキラが振り返ると、

自分に向かって高速で接近するビームブーメラン。

フリーダムはその攻撃をシールドで防ぎますが、

その衝撃の全てを防ぎきることはできず、

機体は体勢を崩したまま後方に吹き飛ばされます。

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

ついに掴んだ天使の翼。

奴に殺された家族(主にマユちゃん)とステラ。

積年の恨みを晴らすときがついにやって来た。

シンは最後の力を振り絞って機体を加速させます。

 

「これで終わりだあああああっ!」

 

突進するインパルス。

その手に抱えるのはエクスカリバー。

伝説の聖剣の名を宿したその巨大な剣が、

フリーダムの上半身目掛けて振り下ろされます。

 

「殺ったど〜〜〜!」

 

インパルスが繰り出した会心の一撃は、

フリーダムの装甲を真っ二つに切り裂きます。

しかしキラも超人的な反応でビームサーベルを抜き放ち、

インパルスの頭部を貫きます。彼は最後の最後まで不殺です。

 

「やった!?」

「あ……」

 

轟音。同時に、二機を中心とした大爆発。

息を飲むルナマリアさんと青ざめるアスラン。

勝ったのは、インパルスか、フリーダムか。

それとも、まさかの延長フェンシング対決か。

 

「……………」

 

やがて晴れる爆煙。

そこに立っていたモビルスーツは一機。

死闘の末に勝ったのは――インパルスです。

 

「やった……ステラ……」

 

勝利の喜びに打ち震えるシン。

悲劇の連鎖に自らの力で終止符を打った。

視聴者のみんな、長い間応援してくれてありがとう。

 

「やっとこれで……フハハハハハ……」

 

復讐の後に生まれた感情は空虚。

力なく笑い続けるシンの目から零れ落ちるのは涙。

奴を倒しても家族(マユちゃん)やステラは帰ってこない。

これから自分は何のために生きていけばいいのだろうか。

 

「シン……すごい……」

「あ……あ……」

 

「シンがフリーダムを倒した!」

その快挙にルナマリアさんも驚きを隠せません。

そんな彼女の隣でプルプルと小刻みに震えるアスラン。

彼にとっては「キラがインパルスにやられた」です。

 

「キラァー!」

「ア、アスラン!?」

 

フリーダムの残骸に向かって絶叫するアスラン。

その耳を劈くような悲鳴にルナマリアさんも動揺します。

この人は私が死んだら同じように泣いてくれるのかな。

クレタで私がやられそうになったときは無反応だったな。

 

 

続く。