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【テキスト】散リユクステラ

 

2005.9.12

 

前回までのあらすじ

ついにベールを脱いだ地球軍の秘密兵器デストロイ。

ロゴスの精神が形となったような大鑑巨砲主義の産物は、

猿岩石が通ったルートを進みベルリンまで侵攻。

都市は次々と焼き尽くされて焦土と化していきます。

シムシティでこんなのが来たら最悪ですね。

 

「圧倒的じゃないか、敢えて言おう、カスであると!

デストロイが量産の暁には、ザフトを叩く!徹底的にな!」

 

スクリーンに映し出されるのは、

デストロイによる一方的な破壊の光景。

ジブリールは早くも勝利の宴とばかりに、

秘蔵のシャンパンを開けて美酒に酔います。

ちなみに、彼がいつも着ているミズノのジャージは、

洗っていないのではなく、同じ物を何着も持っているのです。

 

「デストロイすごいな、さすがはザムザザーの弟さん」

 

怖いので少し離れた場所から見守るネオ。

これまでチマチマ戦っていたのがバカらしくなるほど、

デストロイの破壊力は、想像をはるかに超えるものでした。

もはやユーラシア西側地域を地球軍が制圧するのは時間の問題。

この状況で攻めてくるようなバカなどいないだろう。

 

「やめるんだ!」

 

その時、上空より降り注いだ一筋の光線が、

デストロイのリフレクターを虹色に光らせます。

黒煙に覆われた漆黒の空を切裂いて、

舞い降りる蒼天の剣――フリーダムです。

 

「バカが来た!」

 

アンパンマ――じゃなくてフリーダム!

アークエンジェルを引き連れて今日もやって来ました。

毎度お馴染みの登場パターンにネオも辟易です。

 

「何て大きさだ!こんな……」

 

デストロイのあまりの大きさに唖然とするキラ。

フリーダムと比べると、まるで蟻と巨象。

地球連合のモビルスーツは化け物か。

誰かミーティア持ってきて。

 

「気を付けろ、ステラ!そいつはフリーダムだ!手強いぞ!」

「ふりーだむ?」

 

強い口調でステラさんに忠告するネオ。

先の大戦で最強を誇った伝説のフリーダム。

いくら火力に勝るデストロイといえども、

そう簡単に勝てる相手ではありません。

 

「そこのスイッチは押すなよ、押すなよ、絶対に押すなよ」

「うん、わかった……ポチっとな」

 

いかにも押してくださいと言わんばかりの

コントロールパネルの左上にあるスイッチ。

ステラさんがそのスイッチを押した途端、

デストロイの目が不気味に赤く光ります。

 

「うわあああああ〜!」

 

直後、激しく振動するデストロイ。

ステラさんの絶叫がコックピット内に反響します。

もしかして自爆スイッチだったのでしょうか。

 

「あ……」

「これは……」

「……モビルスーツ?」

 

鋼鉄の塊が――動いた。

ゆっくりとその姿を変えていくデストロイ。

その場にいる誰もがその変異に唖然とします。

 

「そんな………」

 

眼前の光景にキラは絶句します。そこに現れたのは、

ランドセルに縦笛を二本さしたようなフォルムの巨人。

さすがにこれは反則だろう。大豪院邪鬼かお前は。

 

「うわああああっ!!」

 

モビルアーマー形態が広範囲攻撃なら、

モビルスーツ形態は一点集中攻撃。

デストロイは胸部に三つ並んだ砲口から、

フリーダムへ向けて極太の熱線を発射します。

 

「クッ……」

 

一撃でも喰らったら即死亡。

フリーダムは寸前のところで回避しますが、

目標を外れた攻撃はそのまま後方の都市を直撃。

建物も人も、全てが一瞬にして焼き尽くされ、

ベルリンに赤い雨が降ります。

 

「眼中にないってかよ!オレは!」

 

完全に蚊帳の外のカオス。

スティングは苛立ちをあらわに叫ぶと、

デストロイと交戦中のフリーダムに向けて、

ビームライフルと機関砲を同時に発射します。

 

「誰?」

 

予想外の方向からの攻撃に驚くキラ。

眼中にない以前に、存在自体に気付いていませんでした。

あのモビルスーツはクレタでバラバラにしたはずなのに。

そういえば同じようにバラバラにしたアスランは無事だろうか。

 

「よし、行くぞ!」

 

この状況を放ってはおけない。

カガリは自らも出撃することを決意します。

オーブは地球軍と同盟を結んでいる立場だけど、

今はそんな細かいことを構っていられる状況ではない。

いざとなったらユウナにでも責任を押し付けよう。

 

「ミネルバは?今どこにいる?」

 

地球軍の侵攻に臨時会議が開かれるプラント。

デュランダル議長はミネルバをベルリンに向かわせます。

これまで数多くの激戦を潜り抜けてきた英雄ミネルバ。

彼らならこの状況をどうにかしてくれるのではないか。

 

「どよ〜ん……」

 

デュランダル議長が期待しているミネルバですが、

先日の事件以来、パイロット間での亀裂が深まり、

病院の待合室のような重い空気が漂っています。

ちゃっかりアスランの隣に座っているルナマリアさんも、

この空気では話し掛けにくいです。窓際のレイも邪魔だし。

 

「くそっ!」

 

四方八方から襲い掛かるデストロイの攻撃。

こちらが攻撃してもリフレクターで防がれてしまう。

ちょこまかと動く緑のモビルスーツがすごくウザイ。

キラの表情にも焦りの色が浮かびます。

 

「モビルスーツの性能の差で強さが決まる訳じゃねえ!」

 

あんな死にぞこないの乗るデストロイではなく、

オレのカオスがフリーダムを墜としてやる。

スティングは不満を爆発させるように叫びます。

フリーダムとカオスでは性能が違いすぎますが、

その差を一体どうやって埋めようというのでしょうか。

 

「パイロットの顔だ!」

 

凛々しい表情になるスティング。

あながち的外れな論理でもありませんが、

彼の顔はどう見てもやられ役です。

 

「キラ様、ここは我らが!」

 

孤軍奮闘するフリーダムの元に、

3機のムラサメが援護に駆けつけます。

乗っているのは、イケヤ、ニシザワ、ゴウの3名。

通称:MMR(MobilesuitMurasameRiders)です。

彼らはいずれもオーブ軍の誇るエースパイロット。

トダカ一佐直伝のトライアングルアタックで、

カオスに向けて一斉射撃を開始します。

 

「ちっ……」

 

フリーダムに挑みかかる立場だから良かったのに、

カオスより性能の低いムラサメにやられてしまっては、

あんなセリフを言った自分がものすごくカッコ悪いじゃないか。

スティングは先ほどの発言を早くも後悔しだします。

 

「大丈夫だ、キラ、任せろ!」

「わかった、頼む!」

 

カガリからの通信に顔を綻ばせるキラ。

面倒な掃除当番を代わってもらうように、

鬱陶しいカオスの相手をカガリたちに任せて、

自分はデストロイの相手に専念します。

 

「ちょ、待てよ!」

 

カオスに背を向けて飛び去っていくフリーダム。

合コンで狙っていた女の子が途中で帰ったようなもの。

予想外の展開にスティングは不満の声を上げます。

 

「そんな!何であの艦が!?」

 

その頃、ミネルバもベルリン郊外まで到達していました。

光学映像で映し出された光景に、アーサーは愕然とします。

地球軍のものと思われる巨大兵器と戦っているのは、

あの艦――アークエンジェルとフリーダムでした。

さらにストライクルージュとムラサメまでも入り乱れて、

ベルリン市内はさながら、怪獣大戦争の様相を呈しています。

 

「さすが、正義の味方の大天使ね……」

「どうします艦長、我々は帰った方がよいのでは……」

 

助けを求める声あらばどこへでも――

正義のヒーローを気取ってやりたい放題のアークエンジェルを、

艦長が皮肉めいた口調で揶揄します。

 

「コンディションレッド発令!対モビルスーツ戦闘用意!」

「アイアーサー!」

 

彼らが何を考えているのかはさっぱりわからないが、

自分たちに課せられた使命は地球軍の侵攻を止めること。

艦長が戦闘命令を下し、メイリンちゃんがアナウンスを艦内に流します。

 

「パイロットは搭乗機にて待機してください」

「と、搭乗機……?」

 

メイリンちゃんのアナウンスに

条件反射で立ち上がるルナマリアさん。

しかし、肝心なことをすっかり忘れていました。

妹よ、お姉ちゃんの搭乗機は壊れているんだよ。

 

「ファイト!」

「……………」

 

私たちの分まで頑張って!

シンの背中に呼びかけるルナマリアさん。

私はアスランと一緒にお留守番してるからね。

 

「シン、情勢は思ったより混乱しているわ」

 

搭乗機に向かうシンを艦長が呼び止めます。

すでに前線の友軍とは連絡が取れず、

敵軍とはアークエンジェルとフリーダムが戦っています。

 

「そんな!何で奴らが!?」

「思惑はわからないけど、敵を間違いないで」

 

彼らの乱入にシンは怒りの声を上げますが、

艦長はそんなシンを諭すように言葉を続けます。

倒すべき敵はあくまでも地球軍。

インパルスしか出撃することのできない今、

無駄に敵を増やす必要はありません。

 

「敵を間違えないで」

 

すぐさま念を押すアスラン。

間違ってもキラやカガリに攻撃するなよ。

 

「フン」

「シン!」

 

そんなの知ったことか。

シンはアスランに背を向けると、

無言のままエレベーターに乗り込みます。

 

「墜ちろおおおっ!」

「やだ」

 

フリーダムとデストロイはなおも交戦中。

全火力をフリーダムに向けて放つデストロイですが、

種が弾けたキラのフリーダムに命中させることは不可能。

目標を外れた攻撃は後方の都市を破壊していきます。

デストロイの攻撃→フリーダムかわす→都市が破壊される

デストロイの攻撃→フリーダムかわす→都市が破壊される

その繰り返し。終わらないワルツのようなものです。

結果的に都市の被害はますます拡大していきます。

 

「接近する熱源!これは……」

 

援護しようにも、ゴッドフリートはリフレクターで防がれる。

市街地なので、ローエングリンも撃つことができない。

重苦しい空気が漂うアークエンジェルのブリッジに、

ミリアリアの緊張した声が響きます。敵の新手か――?

 

「インパルスです!」

 

ここでようやく真打ち登場。

ミネルバを引き連れてやって来たインパルス。

数々の遺恨があるミネルバとアークエンジェルですが、

ここでの共通の敵はデストロイ。敵対関係ではありません。

 

「はうっ!?」

 

幾重にも放たれるビームを掻い潜り、

インパルスはデストロイの懐に潜り込みます。

眼前に迫る機体に悲鳴を上げるステラさん。

シンは彼女が乗っていることに気付くことなく、

インパルスのビームサーベルを抜き放ちます。

 

「うおおおおお!」

 

強烈な斬撃はデストロイのコックピットを斬り裂きます。

しかし機体のサイズ同様に装甲も分厚いため、

一撃では仕留めることはできません。

 

「何でそんなに殺したいんだ!」

 

なおも攻撃を止めないデストロイ。

どうしてそんなに簡単に人を殺せるんだ!

パイロットはバーチャル世代か。ゲーム感覚か。

シンは憤りを込めて叫ぶと、インパルスを駆り、

再度デストロイに向かって突撃していきます。

今度こそとどめをさしてやる――!

 

「やめろ!坊主!あれに乗っているのは、ステラだぞ!」

 

このままではステラがやられてしまう。

ネオは体当たりをしてインパルスを止めると、

突然のラグビー部の襲来に混乱しているシンに、

デストロイのパイロットである少女の名前を告げます。

 

「ステラ……?」

 

シンはその名前を聞いて唖然とします。

眼下で破壊の限りを尽くしている鋼鉄の巨人。

モニターに映るコックピットの映像。そこにいたのは、

死の恐怖に震えて泣いている少女――ステラ。

 

「帰すって約束したのに……」

「すまん、上司には逆らえなかった……」

 

大人の汚さに絶望するシン。

優しくて暖かい世界に彼女を帰す。

あの時、確かにそう約束したじゃないか。

実は仮面の下ではオレを笑っていたのか。

そもそも、いい年して仮面をかぶっているような

おっさんを信じてしまったオレがバカだった。

 

「ネオを取らないで〜!」

 

ネオが知らない人と仲良くしてる

自分だけ仲間外れにされて泣き出すステラさん。

プロレスごっこするならステラも仲間に入れて。

 

「よし、今のうちに!」

 

空気の読めないフリーダム。

攻撃の止んでいる今がチャンスとばかりに、

腰部のレールガンをデストロイへ向けて発射します。

 

「きゃあああああ〜!!」

「ステラ!」

 

弾丸はリフレクターを突き抜けてデストロイを直撃。

コックピットのステラさんに爆風と破片が降りかかります。

 

「何をやっている!的になりたいのか!この○○○○!」

 

事情を知らないキラは、呆然とすくんで動けないシンを、

とても放送できないような言葉で怒鳴りつけます。

 

「どうしたの!?どこかやられた?」

「キラに何か言われたな……」

 

心配するルナマリアさんと冷静に見守るアスラン。

キラに何を言われたのかはわからないけど、

16歳の男子には、あまりにキツイ一言だったのだろう。

 

「ああ……あっちょんぶりけ……」

 

――どうして墜ちてくれないの。

――どうしてステラにいじわるするの。

――死ぬのはいや。怖い。

怒涛のように押し寄せてくる死の恐怖に、

ステラさんは操縦桿を握る手を離して泣き出します。

 

「チィッ!」

 

ステラが泣いてしまっては使い物にならない。

ネオはデストロイを守るため、フリーダムに迫ります。

デストロイもザムザザーみたいに複座にしてくれれば、

自分が隣の席に座って、ステラをあやしながら戦えたものを。

もう少し子を持つ親の気持ちを考えて設計してほしいものです。

 

「マリューさん、こちらを頼みます!」

 

キラは撃墜予告とも取れる通信を入れると、

突進してくるウィンダムを正面から迎え撃ちます。

 

「なにィ!?」

 

フリーダムはシールドを破壊されながらも、

瞬時にウィンダムの下に回りこんでライフルを連射。

両腕を破壊して武装のみを奪い去ります。

相変わらずの不殺ぶりを貫いていますが、

フライトユニットも同時に破壊してしまったため、

ウィンダムは機体制御を失ってそのまま落下します。

ある意味、普通に殺すよりも残酷です。

 

「ぐあああああああ!」

 

空は飛べないけど翼もない状態。

重力のままに落下する機内で絶叫するネオ。

はたして不可能を可能にすることはできるのか。

 

「無理なものは無理だああああ!」

 

ウィンダムはそのまま地面に墜落。

機体はバラバラになって爆発、炎上。

ネオの体はそのまま外へと投げ出されます。

 

「ネオ〜!」

 

――ネオが死んだ。

悲鳴を上げて泣き叫ぶステラさん。

彼女にとってネオは無敵のヒーロー。

そのショックはとても計り知れません。

ウルトラマンがゼットンにやられたようなものです。

 

「ネオ〜!ネオ〜!」

 

ステラさんの悲鳴もむなしく響くだけ。

光GENJI解散時のローラースケートのように、

ただ仮面だけがその場に残っていました。

 

「……………」

 

その30センチ横にあるネオの体。

ステラさんにとっては仮面の方がネオ本体で、

体はおまけ。ピョン吉とTシャツのような関係です。

 

「離脱する!ボナパルト!」

 

指揮官を失ったスティングは独断で退却を始めます。

ネオに代わってオレが新しくオークレー隊の隊長として、

いつかリベンジしてやるから覚えていやがれ。

 

「うおおおおお!」

「ふぎゃあああ!」

 

スティングが余計なことを考えた瞬間、

上空から急降下する2機のムラサメが、

カオスに向かってビームの驟雨を降らします。

 

「逃がさん!」

 

ムラサメの連続攻撃を受けたカオス。

機体制御を失って落下しているところを、

イケヤ機がビームサーベルを抜き放ち一閃。

 

「母さん……オレのエロ本……」

 

バラバラになったカオスは空中で爆散。

ベルリン上空に汚い花火が打ち上がります。

ありがとう、さようなら、スティング。

 

「ネオ〜!ネオ〜!」

 

スティングには特に興味がないステラさん。

あまりの恐怖と絶望に半狂乱になりながらも、

怖いものをなくすためにトリガーを引き続けます。

 

「くそっ……もうやめろぉ!」

 

なおも破壊を続けるデストロイに、

さすがのキラも堪忍袋の緒が切れました。

こうなったら機体を完全に破壊するしかありません。

ビームサーベルを抜き放ちデストロイに突撃します。

 

「やめろおおおっ!」

 

ステラのことを何も知らないくせに!

シンはステラさんを守ろうとフリーダムに斬りかかります。

「敵を間違いないで」という艦長の言葉はすでに忘却の彼方です。

 

「シン!あいつ!」

「いいぞ!やっちゃえ!」

 

シンの暴挙に激怒するアスラン。

婿入り前のキラの身体に何かあったら大変です。

ルナマリアさんとしては、フリーダムがやられれば、

恋敵が一人減るので願ったり叶ったりですが。

 

「ステラ!オレだよ!シンだよ!」

 

シンはデストロイの正面に回ると、

両手を広げて攻撃する意思がないことを伝え、

ステラさんに向かって必死に呼びかけます。

 

「死んだ……」

 

繰り返される悲劇。

死を連想させる名前に泣き出すステラさん。

「ねお」は「ねこ」に似ているから好きでした。

 

ステラ!大丈夫だ!ステラ!」

 

徐々に接近するインパルスを恐れて、

両手を広げてビームを放つデストロイ。

しかしその攻撃をかわす素振りすら見せずに、

シンはひたすらステラさんに呼びかけ続けます。

その言葉が彼女に届くことを信じて――

 

「だいじょうぶだぁ……?」

「君は死なない!オレが守るから!」

 

どこかで聞き覚えのある声が聞こえてきて、

自失していたステラさんもようやく我に帰ります。

 

「守る……」

 

ふいにステラさんの脳裏をよぎる記憶。

ディオキアの海で溺れた自分を助けてくれた。

自分を抱きしめて「オレが守る」って約束してくれた。

その夜はキャンプファイアーを囲んで盛り上がった。

ステラのあげたプレゼントに狂喜乱舞してた。

そうだ、その人の名前は――

 

「シン……」

 

コックピットの隙間から差し込んでくる暖かな光に、

ステラさんは安堵したように笑みを浮かべます。

もう泣かなくて大丈夫。シンがステラを守ってくれる。

ごめんねネオ、ステラにはまだ帰れるところがあるの。

 

「ステラ……」

 

――声が届いた。

デストロイはその銃を静かに下ろします。

最後まで非暴力を貫き通して戦闘を止めたシン。

その姿はまさに、コズミック・イラのガンディーです。

 

「シン!」

「ステラ!」

 

早くシンに会いに行かなきゃ!

ステラさんの肉体を離れて飛び出した精神は、

同じく幽体離脱したシンと抱擁を交わします。

彼らは肉体を越えた精神世界で繋がっているのです。

電話代もかからないので非常に便利です。

 

「シン!」

「おっぱ……ステラ!」

 

柔らかい胸の感触に鼻の下を伸ばすシン。

彼はまだ肉体への欲求を捨てきれていないようです。

 

「シン!」

「ステラ!」

 

誰もいない宇宙で見つめ合う2人。

ステラさんには怖い思いをさせてしまったけど、

もう大丈夫。これからはずっと一緒です。

 

「……何をやっているんだ?」

 

動きの止まったインパルスとデストロイの両機。

上空からその様子を訝しげな表情で見つめるキラ。

有体離脱した姿は普通の人には見えません。

 

「もっと近くに行かないと……」

「あっ………」

 

共闘して僕を討とうと相談していたらどうしよう。

2人の様子を窺おうと降下するフリーダム。

それが再び悲劇を引き起こしてしまいます。

裂けたコックピットの間から外を見たステラさんが、

画面の左上に見てはいけないものを見てしまいました。

 

「悪い子はいねえが〜!」

 

ステラさんヴィジョンのフリーダム。

頭からは二本の鋭い角が生えていて、

目は怪しく光り、口は血で真っ赤に染まっていて、

全身から破壊光線を放ち、マッハ100で飛びます。

 

「ああっ……!」

 

――あいつがネオを殺した。

すっかり忘れていたフリーダムの出現に、

ステラさんの脳裏に恐怖がよみがえります。

怖いものが来て――私たちを――殺す。

 

「うわああああ!」

 

怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!

怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!

怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!

怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!

限界を超える恐怖に、ステラさんの脆弱な精神は崩壊。

眠りについていたデストロイの目に再び火が灯ります。

 

「やめるんだ!ステラ!」

 

想いが通じたはずなのにどうして?

オレがいやらしい顔をしてしまったから?

今度からはおっぱいばっかり見ないから許して!

シンは暴走するステラさんに向かって必死に呼びかけます。

 

「うわああああああ!」

「ステラーーー!」

 

その言葉も彼女の耳には届きません。

デストロイの胸部の砲口は徐々にエネルギーを充填して、

正面のインパルスに向けてビームが放たれようとし――

 

「やめるんだ!もう!」

 

刹那、シンの眼前を白い機体が通り抜けます。

それはいつか見た死の天使――フリーダムでした。

フリーダムは砲口にビームサーベルを突き刺すと、

続けざまにもう一本のビームサーベルを抜き放ちます。

連続で突き刺さった高熱の刃によって砲口は破壊され、

行き場を失った高エネルギーは、眩い閃光を放ち、そして爆発――

 

「……………」

 

轟音を響かせて沈むデストロイ。

多くの都市を壊滅させた漆黒の破壊神は、

断末魔のように口からビームを吐き出しながら、

自らが破壊した瓦礫の中へと崩れ落ちていきました。

 

「手強い敵だった……」

 

今週のまとめに入るキラ。

フリーダムの活躍によって巨悪は墜ち、

べルリンの街にもようやく平和が戻りました。

来週の「機動戦士フリーダム」をどうぞお楽しみに。

 

「あれは……」

 

今週はこれだけでは終わりませんでした。

戦闘終了後、気絶しているネオにマリューさんが恐る恐る近づきます。

戦闘中、モニターに映し出された地球軍のパイロットの横顔。

そんなはずはない――しかし、あれは……。

 

「う〜ん……」

 

ふいに寝返りを打つネオ。

仮面の下に隠されていた素顔があらわになり、

それを見たマリューさんは愕然とします。

以前より髪こそ長くなっているものの、

彼女がその人物の顔を忘れるはずがありません。

先の大戦で自分たちを守るために散った命――ムウ・ラ・フラガ。

 

「ステラ!ステラ!」

 

消えたはずの命が戻ってきた一方、

今にも消え去ろうとしている命がありました。

爆風に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたステラさん。

シンは倒れている彼女の元に駆け寄ると、

その体を抱いて何度も名前を呼び続けます。

 

「……………」

「どうしてこんな……」

 

ぐったりとしたまま動かないステラさん。

意識を失っているのか、すでに死んでしまっているのか、

シンの呼びかけにも全く反応がありません。

 

「……にゅ?」

 

シンの胸が絶望に押しつぶされようとした時、

その大きな瞳を寝ぼけたようにぱちくりさせて、

気絶していたステラさんが目を覚ましました。

 

「ステラ!?」

 

――生きている!?

シンは溢れてくる涙を拭いもせずに、

慌ててステラさんの顔を覗き込みます。

 

「……いたい」

 

先ほどまでの戦闘の記憶がないのか、

悪夢から覚めた子供のように涙を流しながら、

ステラさんはきょとんとした表情を浮かべます。

 

「当たり前だ……」

「シン……?」

 

自分を呼ぶ声に気付いたステラさん。

見上げた先には深紅の瞳から涙を流しながら、

自分をじっと見つめているシンの顔がありました。

 

「会いに……来た……?」

「うん……!うん!」

 

シンが約束を守ってくれた。

嬉しそうに笑みを浮かべるステラさん。

すでに感覚がなくなっている手をシンに伸ばすと、

シンはその手をぎゅっと握り締めながら、

彼女を安心させるように何度も強く頷きます。

本当は会いに来たっていうか倒しに来たんだけど。

 

「シン……ステラ……まもる……って……」

 

その無垢な笑顔を苦痛に歪めながら、

消え入りそうな声でステラさんが呟くのは、

シンとの約束――シンがステラを守ってくれる。

 

「ステラ!」

 

自分との約束を信じているステラさん。

彼女の想いがシンの胸を締め付けます。

 

「シン……すき……」

 

泣いているシンを安心させるように、

ステラさんは優しく微笑みながら告げます。

シンに対する想い――それは幼い恋。

生きた兵器として作り出された彼女が、

最後に覚えたのは一番人間らしい感情でした。

 

「……………」

「ステラ……?」

 

ステラさんは最後に笑顔でそう告げると、

シンの腕の中で眠るように息を引き取ります。

 

「ステラ!ステラ!」

 

世界中の音が消えたような静寂の中、

シンはステラさんの名前を何度も呼び続けますが、

その瞼が再び開かれることはありませんでした。

先ほどまで自分の手をしっかり握っていた手も、

今はもう、力なく地面に投げ出されています。

 

「ステ……ラ……」

 

――あの時と同じだ……。

シンの脳裏に2年前の記憶がよみがえります。

家族を殺されて何も出来ずに泣いていた子供。

何も出来なかった自分が悔しくてザフトに入った。

2年のときを経て――自分は力を手に入れた。

今度こそ大切な全てを守れるはずだった。なのに――

 

「うわあああああああ!」

 

――守れなかった。

シンはステラさんの亡骸を抱きながら、

獣のような叫び声を上げ続けていました。

 

 

 

続く。