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【テキスト】最終破壊兵器彼女

 

2005.8.15

 

前回までのあらすじ

ステラさんをネオに引き渡したシン。

ミネルバへ戻って来た彼を待っていたのは、

軍法違反によって逮捕という当然の結果でした。

無抵抗のままに手錠をはめられるシン。

ついに犯罪者の仲間入りとなってしまいました。

 

「シン……」

 

連行されるシンを心配そうに見つめるルナマリアさん。

悩み事があるなら、どうしてお姉ちゃんに相談してくれなかったの?

男の子同士でしか相談できない悩みだったら、アスランもいるんだよ。

 

「……………」

 

どうせ誰にも自分の気持ちはわからない。

人一倍空気が読めないルナマリアなら尚更だ。

シンはルナマリアさんに目を合わせず、

無言のまま艦長室へと入って行きます。

 

「ど、どうしよう……」

 

おろおろとうろたえるルナマリアさん。

このままでは、シンに銃殺刑の処分が下されてしまいます。

フェイスであるアスランに何とか助けてもらいたいところですが、

先ほど役立たずぶりを露呈したばかりなので期待できません。

 

「覚悟はできている、とでも言いたげな顔ね?」

「……………」

 

勝手な捕虜の解放、クルーへの暴行、

モビルスーツの無許可発進、敵軍との接触、

インパルスのガンプラの売れ行き不振、視聴率の低下、

シンの犯した罪状は到底許されるものではありません。

 

「カツ丼食うか?」

「いりません」

 

それにも拘らず、シンは落ち着き払った態度です。

用意していたカツ丼はアーサーが後で食べることにして、

艦長はシンに今回の暴挙を犯した理由を問い掛けます。

 

「連合のエクステンデッドだからって、ステラだって人間です。

それをあんな風に、解剖したときにデータが取りにくくなるとか、

あんなのとか、あの子が死ぬってこと誰も気にもしない。

地球軍だってひどいけど、艦長たちだって同じです!」

 

ステラさんの無事が約束されたため、

もはや誰にも遠慮することはありません。

シンは溜まりに溜まった不満を艦長にぶち撒けます。

人の命を一体何だと思っている。お前らの血は何色だ。

 

「オレだって、副長なのに誰にも気にされてないぞ」

「あなたは黙ってて」

 

シンの言葉はアーサーの胸に深く突き刺さりました。

たぶん、アーサーが死んでも、誰も気にすることはなく、

普通に新しい副長が配属されてくるだけでしょう。

 

つべこべつべこべと、なぜごめんなさいと言えないの。

私たちは彼女を連れて行くように命令を受けていたのよ。

個人の勝手な思惑で、それに背くことは許されません!」

 

何か言いたげなアーサーを制して、

艦長は厳しい口調でシンを叱責します。

人権を盾にすれば何でも許されると思ったら大間違い。

軍隊において優先すべきは人権ではなく命令です。

「かわいそう」なんて言っていたら戦争なんてできません。

結局、司令部から処分が通達されるまでの間、

シンはレイと共に営倉へ入れられることになりました。

 

「シン……」

 

ずっと部屋の外で待っていたルナマリアさん。

連行されるシンに声をかけてあげたいところですが、

営倉送りの人間にかけてあげる言葉が思いつきません。

「頑張ってね」じゃないし「元気出してね」も違う。

とりあえず「苺ましまろ」は録画しておくから安心してね。

 

「どうなっちゃうのかしら……」

「大丈夫、艦長が司令部に掛け合ってくれるさ」

 

心配そうに見送るルナマリアさん。

そんな彼女をアーサーが励まします。

フェイスである艦長なら司令部にも顔が利く。

最悪でも銃殺刑だけは何とか免れるだろう。

 

「ですよね、かんちょ……」

「あのガキ!

 

アーサーが艦長室を覗くと、

机を叩きつけ、苛立ちをあらわにする艦長の姿が。

怒りの矛先が今にも使えない副長に向きそうです。

 

「死ぬな」

「死ぬの!?」

 

あっさりと諦めたアーサー。

さっそく葬式の準備に取り掛かります。

 

「ごめん……」

「何がだ?」

「えっ……? いや、だって……」

「お前に詫びてもらう理由などない。

オレはオレで、勝手にやったことだ」

 

営倉に入れられたシンとレイ。

シンはレイを巻き込んだことに後ろめたさを感じているようですが、

レイはいつもと変わらぬ淡々とした口調で返します。

 

「無事に帰せたのか?」

「ああ……」

「なら、よかった」

「うん、ありがとう」

 

普段はあまり喋らない2人ですが、

暗闇の中ではいつもより素直に話せるのか、

修学旅行の夜のように会話が盛り上がります。

もはや好きな女の子告白大会は避けられない雰囲気です。

 

「シン……」

「うわ……」

 

そんな楽しい雰囲気を見回りの先生が台無しに。

シンの様子を窺いにアスランが営倉に入ってきました。

 

「……なんですか?」

「いや、すまなかったと思って。彼女のこと、

君がそんなに思い詰めていたとは思わなくて……」

 

申し訳なさそうにシンに謝罪するアスラン。

てっきり妹にしか興味がないと思っていたのだが、

シンも16歳の男子。異性のことで色々と悩む年頃だ。

好きな女の子が敵だったなんて展開だったら尚更だろう。

自分もキラを敵にした時は色々と悩んだ。キラは女の子じゃないけど。

 

「別にそんな、ただ嫌だって思っただけですよ。

ステラは望んでああなった訳じゃないのに……」

 

どうせならもっと早く気付いて欲しかった。

アスランに対してシンはふて腐れた態度を取ります。

子供は無言のうちにSOS信号を発しているのです。

それを感じ取るのが保護者の仕事です。

 

「ならば尚のこと、彼女は返すべきではなかったのかもしれない。

自分の意思で戦場を去ることもできないのなら……」

 

暗い表情で重い現実を突きつけるアスラン。

ステラさんを救いたいというシンの気持ちは理解できますが、

エクステンデッドが軍以外で生きられる場所はありません。

 

「じゃあ、あのまま死なせればよかったって言うんですか!?」

「そうじゃない!だが、これでは何の解決にも!」

「あんただって大切な人が死にそうになったら助けるでしょう!?」

「キラは死なないもん!」

 

助けるべきだったのか、見殺しにすべきだったのか、

互いに譲らず次第に熱くなっていく二人。

どうやっても答えの出る議論ではありません。

 

「シン、もうやめろ」

 

それまで黙ってやり取りを聞いていたレイが、

うんざりしたように言い争う2人を止めます。

 

「……誰?」

 

暗闇からの突然の声に驚くアスラン。

ミネルバ七不思議の一つ、

営倉で死んだ兵士の亡霊が現れたのか。

 

「アスランも、もういいでしょう。

今、そんな話をしたって何もならない」

 

ミイラ取りがミイラになってどうする。

シンに釣られて熱くなっているアスランに、

レイは落ち着くように言います。

 

終わったことは終わったことで、先のことは分からない」

「レイ……」

「どちらも無意味です」

 

レイが喋った。しかも名前で呼んでくれた。

アスランの胸にクララが立ったような感動が込み上げます。

見てるか西川、お前の残した意思は後輩たちに受け継がれているぞ。

 

「ただ祈って明日を待つだけだ、オレたちは……」

 

前回はシンに命の大切さを語ったかと思えば、

今度はハードボイルド小説のようなことを言い出すレイ。

そのうち「ソープへ行け!」とか言い出さないか不安です。

 

「けっ、またえらく辺ぴなところに連れてきてくれちゃって」

 

吹雪吹き荒れるロシア平原。

一面の雪原の中に横たわる黒い巨艦。

地球連合軍の地上空母「ボナパルト」です。

ロシアに配置するには不吉な名前のこの空母に、

ネオたちは新たな指令を受けてやって来ました。

 

「すやすや……」

「何だって、こんな死にぞこないみたいなのまでわざわざ?」

 

ベッドでぐっすりと眠るステラさん。

治療によって生命の危機は去ったようです。

そんな彼女を見て悪態をつくスティング。

以前は彼女を妹のように可愛がっていた彼ですが、

既に彼女に関する記憶は消去されていました。

 

いいんだ。君らは知らないことが多すぎるんだから

今更、それも知らなくていいことさ」

 

ネオは突き放すようにそう言うと、

そのまま基地の奥へと一人で進んでいきます。

自分が記憶を消した彼らに何を言っても、

あの頃の仲良し3人組はもう戻ってきません。

 

「えっ……」

 

予想外の反応に寂しそうな顔になるスティング。

自分では軽い冗談のつもりで言ったことで、

いつものように軽く諌めてくれると思っていたのに、

そんな風に言われると、自分が見捨てられたみたいじゃないか。

 

「ネオ!オレが悪かった!許して!」

「さて、シャワーでも浴びるとするか……」

 

ネオは自室に戻ると、やや疲れた様子で服を脱ぎ、

ドアを叩くスティングの声を無視して、シャワー室へ向かいます。

 

「まあ、何にでも見込み違いというものがある」

 

今日も嫌味をたくさん言ってやろうと、

部屋に戻ったネオに通信を入れるジブリール。

屋敷で猫との隠居生活を続ける中で、

もはやこれだけが生き甲斐になっています。

 

「ふんふふ〜ん♪」

「ネオ!ネオってば!」

「まったく君たちは……」

 

全く聞いていないネオ。

 

「スカンジナビア王国にかくまられてらしたとは……」

「本当にありがたいことだと思っている。

お父様のことを、今でも惜しんでくださって……」

 

カガリとアマギ一尉らオーブの軍人たち。

あのままブリッジにいられても邪魔なだけなので、

食堂に移り、これから取るべき行動について話し合っています。

 

「私はまだ、そういうものに守られているだけだ……」

 

自嘲するように笑みを浮かべるカガリ。

自分では首長として努力してきたつもりだったが、

実際は親の七光りだった。一茂やカツノリと似たようなものだ。

 

あなた方のことにしても……」

「カガリ様……」

 

自分を今も信じてくれるオーブの軍人たちに、

改めて感謝の言葉を伝えるカガリ。

そんな彼女を彼らは暖かい目で見守ります。

 

「だが、ならば今はそれに甘えさせてもらい、

いつの日かきっと、その想いを返す!」

 

正面を見据えて力強く宣言するカガリ。

自分もお父様のように立派な為政者となる。

今は小渕優子だが、いずれは田中真紀子のように。

 

「カガリ様!」「付いて参ります!」「喜んで協力します!」

「美少女!」「可愛い!」「ツンデレ!」「守ってあげたい!」

「妹にしたい!」「お嫁さんにしたい!」「アスランが羨ましい!」

「最近ぐっと大人っぽくなった!」「胸も大きくなってきた!」

「君のためなら死ねる!」「好き好き大好き超愛してる!」    

 

一斉に賛同するオーブの軍人たち。

カガリの失いかけていた自信が回復していきます。

 

「オーブ国内には、セイランのやり方に反対し、

カガリ様が戻られるのを心待ちにしている者も多くおります」

「この戦争、連合側に非があるように思えてなりません」

「今やその一陣営であるオーブも、このままでは……」

 

テンションが上がってきたオーブの軍人たち。

今度はユウナたちセイラン家を引き合いに出して、

今のオーブがいかにダメかについて熱く論議します。

そんなオーブを変えられるのはカガリ様しかいない。

 

「セイランはバカだ!」「特にユウナがバカだ!」

「想像の斜め上を行くバカだ!」「宇宙一のバカだ!」

「髪型がキモイ!」「性格もキモイ!」「生理的に嫌!」

「あのにやけた顔がムカつく!」「怒った顔もムカつく!」

「あいつウイイレで負けてるとすぐリセット押すから最悪」

「格ゲーで負けると『わざと負けたんだよ』とか言いだすし」

「あいつのせいでFF]のヒロインが嫌いになった」

「どうしてあんなにバカなんだ?」

「ユウナだからさ」

 

ユウナへの不満を口々に語る軍人たち。

彼らの言葉にカガリは胸を熱くします。

どれもこれも自分が常日頃思ってきたことばかり、

みんなもやっぱりユウナのことが大嫌いだったんだ。

 

分かっている。分かっているから、少し待ってくれ。

そして時がきたら、私に力を!オーブのために……頼む!

「もちろんです!」「カガリ様のためなら!」

「一生付いていきます!」「みんな貴女が大好きです!」

「オーブ軍は永久に不滅です!」「カガリ様バンザーイ!」

「ヒューヒュ―だよ!」「L・O・V・E・LOVELY・カガリ!」

「ジーク・カガリ!ジーク・カガリ!ジーク・カガリ!」

 

あのバカは自分がいずれ何とかする。

だから、その時が来るまで待っていてくれないか。

カガリはオーブの軍人たちに協力を求めて頭を下げます。

そんな彼女を彼らはスタンディングオベーションで迎えます。

 

(オーブ最高!)

 

最高の笑顔を浮かべるカガリ。

アークエンジェルに連れて来られて以来、

散々な扱い(特にキラから)を受けてきましたが、

ようやく自分の帰るべき場所を見つけたようです。

 

「あなた一人で、本当によく頑張ってくれているわ」

「えへへ……」

 

マリューさんから労いの言葉をかけられ、

弟も弟で気持ち悪い笑顔を浮かべていました。

 

「僕たちのやっていることの方が間違ったことだとしたら……」

「キラ君……」

 

そんな気持ち悪い笑顔もすぐに消え、

キラは今さらになって初めて弱音を吐きます。

自分たちは正しいと思ってこれまでやってきたけれど、

端から見れば、テロリストにしか見えないのではないか。

深夜アニメを楽しみにしていたアニメファンたちが、

テロのニュースで放送中止になって怒っているかもしれない。

 

「でも、大切な誰かを守ろうとすることは、

決してばかげたことでも、間違ったことでもないと思うわ」

 

不安そうな表情がマリューさんの母性本能をくすぐりました。

彼女は穏やかな口調で落ち込むキラを励まします。

 

「大切な人がいるからこそ世界も愛せるんじゃないかって、

私は思うの。きっとみんなそうなのよ、だから頑張るの」

 

自分たちが戦う理由について語るマリューさん。

大切な人を守ろうとした結果、シンは営倉送りになりました。

もし、ミネルバとアークエンジェルの艦長が逆だったら、

シンも少しはまともな人間に育ってくれたかもしれません。

 

「ただ、思うことが違っちゃうこともあるわ。

その誰かがいてこその世界なのにね……」

 

ふと、曇った表情になるマリューさん。

彼女の脳裏に一人の男の姿が浮かんできます。

先の大戦で大切な人を守るために散っていった命。

ムウ・ラ・フラガ――かつて自分が愛した人。

 

「あっ……」

 

その言葉にキラはハッとします。

自分にはラクスやカガリなど守りたい人がいる。

マリューさんは誰を守るために戦っているのだろう。

よもや虎ってことはないだろうし、ノイマンさんも違う。

チャンドラさんもないだろうから、大穴でマードックさん?

 

「アスラン君もきっと、守りたいと思った気持ちは同じはずよ。

いつかきっと、また手を取り合える日が来るわ、あなたたちは」

 

結婚相手を心配しているキラをよそに、

マリューさんは柔らかな笑顔でキラを励まします。

 

「だから頑張って!」

「うわぁ、やめてくださいよ〜」

 

マリューさんに弄られるキラ。

近くにいるとついちょっかいをかけたくなる。

困った顔もまたかわいい。年上キラーの本領発揮です。

 

「あっ……」

「…………」

 

一方の年下キラー。

今日も食堂で出された料理には全く口を付けずに、

無表情のままうつむくばかり。ほとんど営業妨害です。

心配そうに見つめるメイリンちゃんの視線にも気付いていません。

 

「うぅ………」

 

悲しそうな顔になるメイリンちゃん。

アスランさんと色々お話したいけど、声をかける勇気がない。

これがお姉ちゃんだったら、強引に声をかけるんだろうけど、

私には無理。無視とかされちゃったら泣いちゃうもん。

 

「ネオ、これなぁに?」

「GFAS−X1デストロイ。全身に様々な火器を配し、

陽電子リフレクターをも備えた巨大モビルスーツだ」

 

ボナパルトの格納庫。

ネオはステラさんとスティングを連れて、

巨大な新型モビルスーツの前に立っていました。

 

「これが、オレの新しい機体……」

 

マイホームを建てたお父さんのように、

目の前の機体を感慨深げに見つめるスティング。

どうにも地味だったカオスから、見るからに派手なデストロイへ。

ようやくオレの時代がやって来た。逆襲のスティングだ。

 

「君の新しい機体だよ」

 

勝手な妄想を続けるスティングを無視して、

ネオはステラさんに穏やかな声で告げます。

 

「ステラの……新しい?」

「ああ、ステラもこれでまた戦わないとな……」

 

きょとんとするステラさん。

何もわかっていない彼女を見て、

ネオはやるせない気持ちなります。

自分はこの子を再び戦場へ送り出そうとしている。

あの少年との約束も、どうやら守れそうにありません。

 

「こんなおっきいの、ステラ乗れるかな……」

でないと、怖いものが来て、私たちを殺す」

 

背中に突き刺さるスティングの視線を無視して、

ネオはきょとんとするステラさんに言葉を続けます。

 

「殺す……ステラも?」

 

――殺す。

その言葉にステラさんは敏感に反応します。

「殺す」は「死ぬ」と同じくらい嫌いな言葉です。

「コロ助」は好きだけど「殺す」は大嫌い。

 

「ああ」

「あわわ……」

 

いつもは自分を安心させてくれるネオ。

そんな彼の口から飛び出した嫌いな言葉に、

ステラさんは激しく動揺します。

 

「ネオも? ネオも死んじゃうの?」

「……そうだ」

 

不安そうにステラさん。

ネオが死んだらステラは一人ぼっちになる。

なでなでしてくれる人もいなくなる。

 

「いや……死ぬのはいや」

「……オレは死んでもいいのかよ」

 

――ステラを一人にしないで。

ネオの胸に泣きつくステラさん。

スティングと二人きりだけは絶対に嫌です。

 

「なら、やらないとな。ステラならできるだろう?

怖いものはみ〜んな、無くしてしまわなきゃ」

「こわいもの……なくす?」

 

ネオは怯えるステラさんの頬をなでると、

「殺す」のではなく「無くす」という言葉を使って、

ステラさんにデストロイに乗るように命じます。

コーディネーター、モビルスーツ、戦艦、戦闘機、

おばけ、ゴキブリ、ユウナ、わさび、からし、タバスコ、

人類の敵は全てこの世から無くさなくてはなりません。

 

「さっきから、スティングがにらんでこわい」

「よし、無くそう」

「ちょ、待てよ!」

 

デストロイに乗ることを決心したステラさん。

手始めに横にいるスティングから消し去ります。

 

「X1デストロイ、プラットホーム、ゲート開放!」

 

アナウンスと共にゲートから現れたのは、

X−BOX並に巨大な漆黒のモビルスーツ。

 

「ステラ、がんばる」

 

巨大なモビルスーツのコックピットには、

不釣合いに小柄な少女の姿がありました。

凛々しい顔でデストロイを起動させるステラさん。

おニューのパイロットスーツをもらってゴキゲンです。

 

「ちぇ、なんでぇ、なんでぇ……」

 

ステラさんだけが最新の機体をもらったことで、

スティングはあからさまに不満げな表情を浮かべます。

友達の家ではプレステを買ってもらったのに、

自分の家にはスーファミしかなかった時のように、

カオスに乗っている自分が急に惨めに思えてきました。

 

「拘束中のエクステンデッドが逃亡の末、死亡したことは

遺憾であるが、貴艦のこれまでの功績と現在の戦績を考え、

本件については不問に付す。なお副長のアーサー・トラインは、

その責任を問い、3ヶ月の減給に処す……ってえぇ!?」

 

司令部からの通達を読み上げるアーサー。

それはシンとレイの無罪放免を告げるものでした。

 

「一体これは……どういうことですか!?」

「意外と、あの人も甘いようね……」

 

まさかの逆転判決に戸惑うアーサー。

これほど身勝手な行為が許されるのなら、

自分も艦を抜け出して夜の盛り場に繰り出したい。

困惑する彼の隣で艦長はやれやれと溜め息をつきます。

これほど不利な状況を無罪に持っていけるのは、

なるほど君かデュランダル議長しかいません。

 

「ずんず〜ん!」

 

ユーラシア西側への侵攻を開始した地球軍。

デストロイを先頭に雪原をずんずん突き進みます。

 

「ここは通さんぞ!」

 

デストロイを迎え撃つザフトのモビルスーツ隊。

全身から噛ませ犬臭が漂ってこの上ないですが、

彼らとて厳しい訓練を重ねてきたザフトの軍人。

コーディネーターの意地にかけても侵攻を阻止する。

 

「バカな……直撃のはずだ!」

 

一斉に放たれた攻撃は、

発生した巨大なリフレクターによって、

デストロイの機体に当たることなく消滅します。

ザムザザーやゲルズゲーの開発で培われた

リフレクターの技術がここにきて真価を発揮しました。

地球軍も伊達に無駄金を使っていたわけではありません。

 

「デストロイが」

 

――怖いものが来て私たちを殺す。

ステラさんの脳裏にネオの言葉が浮かび上がります。

自分やネオを殺そうとしてくる相手には容赦しません。

 

「ど〜ん!」

 

巨大な砲口から放たれる破壊光線。

ザフトのモビルスーツ隊を一瞬で殲滅します。

 

「ど〜ん!ど〜ん!ど〜ん!」

 

その名の通り、破壊の限りを尽くすデストロイ。

逃げ惑う人々の悲鳴をも掻き消す閃光によって、

都市は一瞬にして焦土と化します。

晴郎の愛したシベリア鉄道も破壊されました。

 

「デ……デストローイ!」

 

デストロイの破壊力に震えるスティング。

ステラさんを泣かせでもしたら自分に被害が及ぶので、

今後は彼女への対応を優しくしようと心に誓います。

 

「でもとろい……」

 

ゆっくりと移動するデストロイ。

地球連合によるユーラシア西側への侵攻は続き、

ロシア全土の都市は次々と壊滅させられていきます。

 

「不問だって……」

「ウソ……あれで?」

「やっぱスーパーエースだもんな……」

 

晴れて無罪放免となったシン。

周囲から聞こえてくる非難の声を無視して、

憮然とした表情でレイと一緒に通路を進みます。

 

「シン!よかったよなあ、お前!」

 

笑顔で出迎えるヴィーノ。

一時はどうなることかと思ったけど、

これでまたDVDやゲームの貸し借りができる。

お前、今週テイルズ買うだろ、クリアしたら貸してくれよ。

 

「シン……」

 

困惑した様子のルナマリアさん。

シンが無罪になったのは喜ぶべきことですが、

軍の規律を破ったのに怒られないのは何かおかしい。

委員長気質の彼女は素直に喜ぶことができません。

 

「いやいや、ご心配おかけしました。

もう大丈夫です。色々とありがとうございました」

 

シンはアスランを見つけると、バカにした口調で言います。

今までは自分より階級が上だから仕方なく従ってきましたが、

そのアスランよりずっと偉い人が自分を認めてくれた。

もはやアスランに従う理由などありません。

 

「子供だ……」

「シン?」

 

全く反省していない。

こいつは猿でもできることもできないのか。

アスランの瞳に怒りよりも哀れみの色が浮かびます。

その隣できょとんとするルナマリアさん。

シンがアスランに敬語を使うなんてどうしたんだろう?

営倉で何かおかしなものでも食べたのかな。

 

「艦長、ターミナルからエマージェンシーです」

 

キラとマリューさんがブリッジに戻ると、

地球軍の侵攻を受けた基地からの救助要請が。

 

「出番よ、キラ君!」

「行きましょう!」

 

さっきまでどうするべきか悩んでいたけど、

やはり自分たちの力を必要としてくれる人がいる。

自由の翼フリーダム、お呼びとあらば、即参上!

 

「これは……」

 

現場の惨状に愕然とするキラたち。

民衆を救う正義のヒーローとして颯爽と登場する予定が

観衆ゼロ。これではカッコつけて登場する意味がありません。

 

司令部にも、オレのこと分かってくれる人はいるみたいです。

あなたの言う正しさが、全てじゃないってことですよ」

 

自分が間接的に引き起こした惨事も知らず、

シンはアスランに向けて勝ち誇ったような笑みを浮かべます。

いくらアニメ雑誌の人気投票で自分よりも順位が上だろうが、

所詮はルナマリアやメイリンのようなミーハーな女子供の支持。

デュランダル議長のような大人は自分の良さをわかってくれる。

 

「行きます、マリューさん!」

 

怒りに燃えてフリーダムを発進させるキラ。

彼らは彼らの正しさを貫き通すため戦場に向かいます。

 

「それでは、ごめんあそばせ」

「シン、口調が気持ち悪い」

 

そう言って部屋を出て行くシン。

最後まで挑発的な態度を取ったままでした。

おそらくレイの口調を真似ているつもりでしょうが、

シンが同じような口調で言うと、どうにも滑稽です。

 

「ダメだ、こりゃ……」

「シン……」

 

完全に増長してしまっている。

少しずつ大人になってきたと思っていたのに、

また子供に戻ってしまったシンに呆れ顔のアスラン。

その隣できょとんとしたままのルナマリアさん。

彼女が増長できる日はやって来るのでしょうか。

 

 

続く。