■TOPに戻る■ ■ルナマリアTOPへ■

 

【テキスト】シンの復讐

 

2005.7.2

 

前回までのあらすじ

クレタ沖で激突するミネルバと地球連合・オーブ合同軍。

ネオの策略に嵌り、不利な状況に追い込まれたミネルバ。

インパルスとセイバーを発進させて反撃を開始します。

さらなる混乱の火種が接近していることも知らずに――

 

「ヘン、今日は緑かあ〜!」

 

不敵な笑みを浮かべるアウル。

ミネルバを墜とすのはオーブ軍に任せて、

自分はインパルスに向かって単機突入します。

スティングと協力して倒そう、などという考えは毛頭ありません。

 

「あいつらも……やっぱり!」

 

アーモリーワンで強奪された3機のガンダム。

ガイアにステラさんが乗っていたということは、

残る2機に乗っているのは――ディオキアで会ったあの2人。

兄弟だと勝手に思い込んでいたシンは裏切られた気分です。

  

「今日こそ、墜とす!」

「それはこっちのセリフだ!」

 

海上で激突する両機。

遠距離での戦闘が得意なブラストシルエットですが、

ビームジャベリンでの接近戦を挑みかかります。

男は黙って拳で語らねばならぬ時があるのです。

 

上空ではセイバーがいつものように、

変形しては撃ち、変形しては斬ってを繰り返して、

パイロットの命を奪うことなく、MSのみを破壊しています。

 

「僕とカガリ、どっちが大事なの」

 

戦闘の最中、アスランの脳裏に浮かぶ映像。

「オーブを討たせたくない」と悲しそうな顔で訴えるキラ。

 

「くっ、こんな時に……!」

 

アスランが必死に頭から消そうと思っても、

ブラクラのように次々とキラの顔が脳裏に浮かんできます。

 

「おいおいおい、寝ぼけてんのか!?」

 

挙動不振なセイバーにカオスが迫ります。

考え事をしながら戦える相手ではありません。

 

「オレとガックン、どっちが好き?」

「うわ、また出た!」

 

覚めない白昼夢――次に現れたのは西川さん。

彼が残した「割り切れよ」という言葉が、

割り切れないアスランには重く圧し掛かっています。

 

「無視するな!」

 

アスランにとって、死者より優先順位の低いスティング。

この人は誰からも気にされていません。

 

「ほら、第二戦闘軍をもっと前に出して!

どんどん追い込むんだよ!ムラサメ隊は何をしてるの!

何でさっさと落とせないんだよ!給料減らすぞ!

コーヒーおかわり!誰か肩揉んで!もっと僕を愛して!」

 

圧倒的な軍勢の差にも拘らず、

ミネルバを墜とせないことに苛立つユウナ。

今日もゴチャゴチャと余計な口を挟みます。

 

「実戦はお得意のゲームとは訳が違います!」

「えっ、そうなの?」

 

そんなユウナを一喝するトダカ一佐。

素人にゴチャゴチャ言われるほど腹が立つことはありません。

前回の敗戦から何も学んでいないのか、この男は。

 

「マイクに叫ぶと増援が来たりは……」

「しません」

 

 

「そいつは厳しいな……」

 

ユウナも実戦の厳しさを実感。

ゲームの知識だけで実戦を語るのならばせめて、

アドバンスド大戦略ぐらいはやっておきたいところです。

 

「うおおおおぉぉ!」

 

ミネルバに迫るムラサメ隊。

隊長である馬場一尉を先頭に、

弾幕の中を怯むことなく突っこんできます。

 

「ルナマリア、同時攻撃だ」

「わかったわ、レイ!」

 

迎え撃つミネルバの甲板には、

ルナマリアさんとレイのザクが待機。

ミネルバのピンチに2人の意識がシンクロします。

 

「ふたりは!」

「……………」

「何か言え!」

 

炎のように熱いルナマリアさんと氷のように冷たいレイ。

その豪快な射撃と正確な射撃が同時に放たれます。

 

「あれれ?」

 

結果、両者の長所が相殺され、あっさりとかわされました。

 

「みんな、ごめんね」

「お姉ちゃんのバカ〜!」

 

集中砲火を受けるミネルバ。

 

「集中するのよ……ルナマリア」

 

気を取り直して、再度攻撃を仕掛けるルナマリアさん。

精神コマンド「集中」を発動させます。(「必中」はありません)

これによって命中率が30パーセント上昇します。

 

「見えた!」

 

雄々しく叫ぶルナマリアさん。

オルトロスの砲口から放たれた熱線は、

一筋の雷光となってムラサメに襲い掛かります。

 

「まただ、また当たらないよ!」

 

これまたあっさりとかわされました。

集中してもこれだけ当たらないのだから、

元の命中率はどれだけ低いのでしょうか。

 

「ぐおっ!」

「あらら?」

 

もはやこれまで――と思ったその時、

思いもよらぬ方向から降り注ぐビームの連射。

ミネルバに迫るムラサメを次々と撃墜していきます。

 

「間に合ったか……」

「アスラン!」

 

舞い降りてきたのはセイバー。

ミネルバのピンチに駆けつけたのですが、

何事もプラス思考で変換するルナマリアさんにとっては、

自分を助けに来てくれた、赤兎馬に乗った王子様に見えます。

ルナマリアさんのときめきゲージもグングン上昇していきます。

 

「だから、無視すんなってんだよ!」

「後は任せた!」

「ああん、行かないで〜!」

 

カオスに追われてあっさりと退散するセイバー。

戦闘中にロマンスを育むのは難しいです。

 

「怯むな!敵の攻撃は当たらん!」

「まずい、バレてるわ!」

 

ミネルバへ再度攻撃を仕掛けるムラサメ隊。

インパルスはアビスに、セイバーはカオスに、

それぞれ動きを止められて、救援に向かえません。

 

「もらった!」

 

一機のムラサメが迎撃を掻い潜り、

ブリッジの正面でビームライフルを構えます。

 

「私が死んだら、PCのHDDを中は確認せずに破棄してくれ…」

「何を言ってるの!」

 

凍りつくブリッジ。

辞世の句を詠みだすアーサー。

これで全てが終わってしまうのか――?

 

「うおっ!?」

 

その時、上空より降り注いだ一筋の閃光が、

今まさに放たれようとしているビームライフルを破壊します。

セイバーもインパルスもいないのに一体誰が――?

この状況で現れるような奴は1人しかいません。

 

「フリーダム!?」

 

またまた舞い降りた剣。

もはや食傷気味になっている演出ですが、

キラ本人が気に入っているので問題ありません。

子供の頃はフェニックス一輝とか大好きでした。

 

「オーブ軍、ただちに戦闘を停止して軍を退け!」

 

全員の注目がフリーダムに集まる中、

それに続いてストライクルージュも登場。

カガリが前回同様、オーブ軍に停戦を呼びかけます。

 

「オーブはこんな戦いをしてはいけない!

これでは何も守れはしない!地球軍の言いなりになるな!

オーブの理念を思い出せ!それなくして何のための軍か!

ナチュラルだって、コーディネーターだって、エクステンデッドだって

みんなみんな、生きているんだ、友達なんだ!」

 

今日も青年の主張をぶちまけるカガリ。

その青臭い言葉が兵士たちの心に響くことを信じて――

 

「なんであんたは……そんな奇麗事を……」

 

青臭い言葉は青臭い子供には届きませんでした。

シンにとってカガリの言葉は全てが偽善に聞こえます。

もはやこの2人の関係は若貴兄弟なみに修復不可能です。

 

「いつまでもー!」

「シン!」

 

次の瞬間、シンは込み上げてくる怒りのままに、

ストライクルージュへ向けてミサイルを発射します。

 

ストライクルージュの前に立ち塞がるフリーダム。

カガリに降りかかる火の粉は全て払わんとばかりに、

向かってくるミサイルを即座に撃ち落とします。

 

「お前も……ふざけるなあ!」

 

いつもいつも邪魔をして!

シンの怒りが頂点に達し――種が弾けます。

 

「お兄ちゃん大好き!」

 

――守れなかった命。(セリフはフィクションです)

あの時は何の力も持たない無力な子供だった。

 

「シンだいすき!」

 

――守りたい命。(セリフはフィクションです)

今の自分にはそれを実現できる力がある。

 

「どっちも好きだ!」

 

ザムザザー戦以来、久々に訪れた感覚。

シンは再びスーパーサイヤシンへと覚醒しました。

 

「見える!」

「何っ!?」

 

眼前に迫るフリーダム。

前回は全く反応できなかった高速の斬撃を、

種が弾けたシンは超高速の反応で回避します。

 

「さらにできるようになったね、ガンダム!」

 

まさかフリーダムの攻撃をかわすとは――

挑まれる側になって初めて感じた衝撃に、

キラの表情にも驚きの色が浮かびます。

 

「やめろ、キラ!」

「あっ、アスラン、いたの?」

 

すっかり蚊帳の外だったキラの初代ライバル。

自分も仲間に入れてとばかりにフリーダムへ迫ります。

 

「こんなことはやめろと、オーブへ戻れといったはずだ!」

「やだ」

「下がれキラ!お前の力はただ戦場を混乱させるだけだ!」

「やだ」

 

そして始まる押し問答。

戦場で親友同士が再び刃を重ねあいます。

 

「はっはっはっ、もらったぜ、てめえら!」

 

こちらもすっかり忘れさられていたカオス。

スティングは高笑いを浮かべながら、

交戦中のフリーダムとセイバーに向けて、

漁夫の利を得ようと、ビームライフルを発射します。

 

「邪魔を……!」

「するな!」

 

同時に反応するキラとアスラン。

共通の敵に対しては息もピッタリです。

 

「やめてよね……」

「は、速い……!」

 

フリーダムは回避行動を行うと、

即座にカオスの正面に回りこみます。

 

「あのさ、空気読んでよね……。

僕はアスランと話をしてるの、わかる?

関係ない人に来られても迷惑なんだよね……」

「あ……」

 

蔑むような瞳でカオスを睨みつけるキラ。

モニター越しからでも伝わるその威圧感に、

生まれたての小鹿のように震えだすスティング。

 

「ごめんなさ……」

 

振り下ろされる光刃。

 

「い?」

 

一瞬にしてバラバラに切り刻まれるカオス。

いつもは相手の武装のみを破壊しているキラですが、

親友同士の会話を邪魔する者には容赦ありません。

 

「あじゃぱ〜!」

 

響き渡る断末魔。

スティングはエーゲ海の藻屑と消えました。

 

「てめえら!」

 

怒りに震えるアウル。

スティングは地味で……退屈で……これといった長所もなくて……!

でも、出掛ける時には車の運転をしてくれる便利な奴だったんだぞ。

 

「!」

 

海中から浮上するアビス。

MA形態からMS形態へと瞬時に変形して、

インパルスへ向けて両肩のシールドのビームを放ちます。

しかし、シンはその瞬間を待っていました。

 

アビスのビームはインパルスのバックパックを貫通。

しかし、シンは爆発するバックパックを瞬時に切り離し、

爆炎に包まれながら、再びビームジャベリンを手に取ります。

 

「うおおおおお!」

 

ジャベリン――槍投げの槍の意。

シンは室伏ばりの絶叫を上げながら、

アビスに向かって、その槍を放り投げます。

 

「何ぃ!?」

 

アウルの視界に映るのはコックピットへ向けて、

高速で一直線に飛んでくるビームジャベリン。

避けられない――?

 

アウルが回避行動へと移る暇もなく、

ビームジャベリンはアビスのコックピットを貫通。

激しい閃光を放ちながらアビスは海へと墜落します。

 

「………」

 

腹部を貫かれたアウル。

ヘルメットの中が鮮血で満たされ、

そのままアビスは海中で爆散しました。

 

「アウル!?」

 

後方で待機するネオの目に飛び込んできたもの。

アビスのシグナルロストとアウルの生体反応の消滅。

アウルとスティングを同時に失ってしまいました。

 

「ふぅ〜、あぶねえ、あぶねえ」

 

と思ったら、スティングは無事でした。

  

「我らの涙と意地、特とご覧あれい!」

 

上空では、馬場一尉がカガリの制止を振り切って、

ムラサメ隊を再度ミネルバへと突撃させます。

オーブの軍人として最後の任務。

ミネルバを墜とす――!

 

「この一撃こそ、歴史を変える!」 

 

こっちにだって赤服と女の意地がある。

ルナマリアさんは再度オルトロスを放ちます。

今度こそ、三度目の正直なるか――?

 

「むき〜!なんで〜!?」

 

残念ながら、二度あることは三度の方でした。

放たれた一撃は、モーセが海を割るかの如く、

ムラサメ隊の隙間隙間を見事に通り抜けていき、

そのまま虚空へと消えていきます。

 

「えっ?」

 

一斉に放たれるミサイル。

その一発がルナマリアさんのザクに着弾――

 

「きゃああああ!」

 

炎に灼かれるコックピット――

激痛に悲鳴を上げるルナマリアさん。

 

「ルナマリア!」

 

直後――悲鳴を掻き消す爆音。

  

「お姉ちゃん!」

 

ブリッジに反響する悲鳴。

お姉ちゃんがまさか――!?

メイリンちゃんが必死に呼びかけますが、

ルナマリアさんからの応答はありません。

 

騒然とする視聴者。

 

こんな形で終わってしまうのか――

 

「しんれいさい……ステラのくいしんぼうばんざい……」

 

当初予定していた代役もこの状態。

まさに絶体絶命のピンチです。

 

「よくもルナマリアを!」

 

しかし、感傷に浸っている暇もなく、

ムラサメ隊は再度攻撃を仕掛けてきます。

相方を失ったレイ、仇を取るべく迎撃します。

 

「うおおおお!」

 

放たれた一撃はムラサメを直撃。

しかし、機体から炎を噴出させながらも、

馬場一尉はミネルバに特攻を仕掛けます。

 

「ああ………」

 

眼前で次々と散っていく命。

己の無力さに絶望し、嗚咽を漏らすカガリ。

しかし、いくら涙を流しても、散った命は戻ってはきません。

 

もう二度と……。

 

 

BADEND。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルナマリア機、収容します……」

 

悲痛な思いで報告するメイリンちゃん。

これからはお姉ちゃんの意志を引き継いで、

自分がヒロインとして頑張っていくからね。

だから、安心して天国から見守っていてね、お姉ちゃん――

 

「うぐ……」

 

生きてました。

 

「ミネルバ、ソードシルエット!全艦叩き斬ってやる!」

「は、はいぃ!」

 

さっさとしろとメイリンちゃんを怒鳴りつけるシン。

ルナマリアさんの仇(死んでないけど)を取るべく、

オーブ艦隊の中へと単機突撃していきます。

 

「よし、本艦も前に出る、機関最大!」

「はい、機関最大!」

「ええっ?」

 

インパルスの突撃に呼応するように、

これまで戦況を静観していたトダカ一佐が、

意を決したようにタケミカズチの前進を宣言します。

 

「あのぉ……トダカ一佐?」

「ミネルバを落とすのでしょう、ならば行かねば!」

 

そいつはやめた方がいいんじゃないかな。

ユウナが恐る恐るトダカ一佐に訊ねますが、

トダカ一佐はその意見を完全に黙殺します。

 

「何か怖いのいるよ」

 

前方では、ソードインパルスが対艦刀を振り回し、

オーブの戦艦を次々と撃沈させています。

 

「やめろおー!」

 

カガリの悲痛な叫びもシンには届きません。

シンの大切なものをオーブが奪ったように、

カガリの大切なものをシンが奪っていきます。

 

「カガリ!」

「待て、キラ!」

 

また泣いた。

急いでカガリの元へと慰めに向かうキラ。

それを追いかけるアスラン。なんだこの三角関係。

 

「わかるけど……君の言うこともわかるけど。

でも、カガリは今泣いているんだ!」

 

今日も変な理屈で突っかかってくるキラ。

お姉ちゃんを泣かす奴は誰であろうと許しません。

 

「オレだって泣きたいよ!」

 

お前の言うことはわからない。

小学生のケンカじゃないんだから、

泣いたぐらいで戦闘を止められるか。

 

「こんなことになるのが嫌で、今泣いているんだぞ!」

 

アスランのツッコミを無視して責め立てるキラ。

いつものように淡々と諭すような言い方ではなく、

その言葉に込められているのは、断固たる抗議の意思。

 

「何故、君はそれがわからない!

なのに、この戦闘も、この犠牲も、仕方がないことだって、

全てカガリとオーブのせいだって、カガリがバカだって、

泣き虫だって、ガサツだって、色気がないって、

字が下手だって、そう言って君は討つのか!?

今、カガリが守ろうとしているものを!」

 

アスランが黙っているので言いたい放題のキラ。

ここぞとばかりにカガリをこき下ろします。

 

「そこまで言ってない……」

 

有無を言わさぬキラの追及に言葉を失うアスラン。

自分はオーブ軍の被害を最小にするように心がけている。

前回の戦闘、フリーダムのロックオンからの一斉射撃で、

オーブ軍を全滅させたのはどこのどいつだ。

 

「なら、僕は……君を討つ!」

 

――もう迷いはない。

キラはアスランを討つべく種を弾けさせます。

 

「アスランの分からず屋!」

「分からず屋はキラの方だ!」

 

先程までのじゃれ合う様な戦闘とは違い、

相手を墜とすため、墜とされないための必死の攻防。

両機の間でもの凄い火花が散り、周囲もなぜか暗くなります。

 

「そんな分からず屋……」

 

緒戦の打ち合いは互角。

しかし、種が弾けたキラの反応速度は、

アスランのそれを遥かに凌駕していました。

キラはセイバーの体勢が回復するよりも早く、

フリーダムの左手のビームサーベルを抜き放ちます。

 

「斬ります!」

 

光刃一閃。

セイバーの右腕はビームサーベルを

握ったままの形であっさりと斬り落とされます。

 

「ああっ!」

 

情けない悲鳴を上げるアスラン。

奇しくもラクス暗殺部隊の隊長と同じリアクション。

もはや勝負は決したと言っていいでしょう。

 

「……………」

「……キラ?」

 

いつもなら武装を破壊するだけで終了。

しかし、キラの瞳は更に鋭さを増していきます。

 

刹那、アスランの視界に映る無数の白い閃光。

自分が斬られているのだと気付いたのは、

全てが終わった後でした。

 

フリーダムによってバラバラに斬り刻まれたセイバー。

デュランダル議長から託された最新鋭の機体は、

一瞬にして無残なスクラップと化しました。

 

「あんまりだ……」

 

重力のままに落下するコックピットの中、

親友に斬り刻まれて放心状態のアスラン。

 

「ちょ!お前!おええ〜!」

 

ミネルバからの攻撃を受け炎上するタケミカズチ。

激しく揺れるブリッジに、ユウナの悲鳴と嘔吐物が飛び散ります。

 

「なっ!何をするだァーッ!トダカ!」

「ユウナ様はどうぞ脱出を!

ミネルバを堕とせとのご命令は、最後まで私が守ります!」

 

掴みかかるユウナに唾を吐きかけられながらも、

トダカ一佐は毅然として言葉を返します。

 

「でも、父さんに怒られちゃうよ!」

「艦、将兵を失った責任も全て私が!」

「それはお得だ!」

 

ユウナとしても、このままオーブに逃げ帰る訳にはいきません。

しかし、トダカ一佐のジャパネットばりの好待遇にあっさりと心変わりします。

 

「これでオーブの勇猛も、世界中に轟くことでありましょうな!」

 

怒りに震えながら、最後まで命令に従うトダカ一佐。

部下の覚悟にユウナはどんな反応を見せるのか――

 

「私とてセイラン家の男だ!自分だけでも助かりたい!」

 

力強く訴えるユウナ。

他の兵士たちが死を覚悟して戦場に赴く中、

彼だけは自分が死ぬなど微塵も考えていませんでした。

 

「なら、さっさと帰れ!」

「あっ、ダメ、首はダメ……」

 

逆に襟首を掴まれて悶えるユウナ。

辛かった中学時代を思い出してしまいます。

 

「とりゃ!」

「ひぎゃ!」

 

柔道4段のトダカ一佐の投げが炸裂。

吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるユウナ。

兵士たちは誰一人として受け止めようとしません。

 

「ぐふっ……」

「死んだ……」

 

打ち所が悪かったようです。

 

総司令官殿をお送りしろ貴様らは全員退艦!

これは命令だ。ユウナ・ロマではない、国を守るために!

 

そう兵士たちに命じるトダカ一佐。

トダカ一佐を一人で死なせるわけには行かないと、

アマギ一尉が自分も残るように訴えますが、

トダカ一佐は断固としてそれを認めません。

 

これまでの責めは私が負う。貴様は後だ!

既にない命と思うのなら、思いを同じくするものを集めて

アークエンジェルに行け!それが、いつかきっと道を開く。

頼む……私と、今日を無念に散った者たちのためにも……!」

 

オーブの未来を残った兵士たちに託す――

それがトダカ一佐の下した決断でした。

最後まで軍人としての誇りを貫いたトダカ一佐、

その言葉に兵士たちは従うしかありませんでした。

 

「……………」

 

オーブ艦隊を殲滅させていくインパルス。

最後の一隻――タケミカズチへと乗り込みます。

 

「……………」

 

炎に包まれるタケミカズチのブリッジ。

トダカ一佐は眼前に迫る脅威を静かに見据えています。

 

「うおおおおお!」

 

そこにあるのは原始的な暴力衝動。

シンは絶叫を上げながら、刃を振り下ろし、

過去を振り払うかのようにタケミカズチを両断します。

 

「……………」

 

2年前――オノゴロ、

真っ暗な地下のシェルターで、

全てを失って膝を抱え蹲っていたシン。

 

「……君だけでも、助かってよかった」

 

絶望に沈むシンに声をかけたのはトダカ一佐。

彼の計らいでシンはプラントへと移住し、

そして、ザフトのアカデミーへと入りました。

誰かを守る力を得るために――

 

全てに絶望した少年の瞳をトダカ一佐は思い出します。

あの少年のような子供を二度と生み出さないためにも、

オーブの理念を自分たちが守っていかねばならない――

 

あれから2年――戦争が彼らを再び引き合わせます。

爆風の中に消えるかつての恩人の姿に、

シンが気付くことはありませんでした。

 

「トダカ一佐……」

 

沈みゆくタケミカズチを見つめる兵士たち。

トダカ一佐の最期の言葉を胸に刻み込み、

残された彼らはアークエンジェルへと向かいます。

ユウナの姿がどこにも見当たりませんが、

そんなことを気にしている状況ではありません。

 

 

続く。

 

 


ホームページ制作