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【テキスト】連合軍が捕まって、あんなことも!こんなことも!

 

2005.5.24

 

前回までのあらすじ

アスランとの合体技でガイアを撃墜したシン。

しかし、ガイアのコックピットから現れたのは、

ディオキアの海で助けた少女――ステラさんでした。

シンが驚きの声を上げながら、慌てて駆け寄りますが、

ステラさんは息も絶え絶えに、死への恐怖を呟くばかり。

――なぜステラがガイアに乗っているのか?

シンの頭の中には、疑問ばかりが浮かんできます。

 

「おい、シン、何を!?」

 

シンの突飛な行動に戸惑うアスラン。

乗っていたのが女の子だったとはいえ、

敵の兵士に無防備で近づくのは危険です。

 

「ステラ!」

「シン!それはダメ、ゼッタイ!」

 

早くミネルバで治療を受けさせないと。

シンは説明を求めるアスランの声を無視して、

ステラさんをインパルスに乗せて発進します。

しかし、気を失っている女の子を機内に連れ込むのは、

事情を知らないアスランから見れば、ただの変態です。

 

「か、艦長、シンが変態になっちまっただ!」

「何ですって!?」

「羨まし……何を勝手に!」

 

ぐったりした巨乳の女の子を見て性に目覚めたのか、

妹一筋だったシンの突然の行動に、保護者一同は大混乱です。

 

「どけどけ〜!邪魔だ邪魔だ〜!」

 

シンはミネルバへ帰還すると、

何事かを問いただす周囲を無視して、

ステラさんを抱えながら医務室へと走ります。

スカートの中が丸見えなのも気にせずに走ります。

 

「約束したんだ……守るって!」

 

シンの脳裏に浮かび上がるのは、

あの日、死の恐怖に怯えていた少女。

腕の中で震える小さな命を、

今度こそ失わせるわけにはいきません。

 

「先生!この子を……早く!」

 

シンは医務室に入るとすぐに、

軍医にステラさんを治療するように訴えます。

熱と衝撃により相当のダメージを負っているはず、

ステラさんの容態が気になるところです。

 

「あたまがずつう……」

 

これは酷い。

 

「その軍服……連合の兵士じゃないの!」

「敵兵の治療など、艦長の許可なしに出来るか」

 

しかし、必死に訴えるシンをよそに、

軍医たちの対応はお役所仕事そのものです。

 

「そんなもんはすぐ取る!死んじゃったらどうするんだよ!」

 

大人の論理も子供には関係ありません。

シンにとっては軍法や規則よりも、

ステラさんの命の方がずっと大事です。

 

「死んじゃう……」

 

そして繰り返される悲劇。

「死」という言葉はステラさんの禁句です。

前にシンは痛いほどそれを経験したはずですが、

興奮しているせいか、すっかり忘れてしまっているようです。

 

「医者は何のためにあるんだ!」

「そう言われても……ああっ!」

 

軍医に詰め寄り、治療を強要するシン。

その時、看護婦さんがステラさんの異変に気付き、声を漏らしました。

 

「死ぬのは……ダメ〜!」

 

看護婦さんの声にシンが振り返ると、

今まで瀕死の状態だったはずのステラさんが、

鬼気迫る表情でシンに向かって飛び掛ってきました。

 

「死ぬのはダメ!」

「や、やめろ、ステラ!」

 

そのままステラさんに押し倒されるシン。

首を絞められたまま、股間を踏まれて、

上も下も大変なことになっています。

 

「死ぬのはダメ……」

 

逆にシンが死にそうです。

 

「死ぬのはだめぇ!」

「せ…先生……助けて……」

「わ、私が相手だ、アチョ〜!」

 

弱そうな奴から順に襲い掛かるステラさん。

シンに続いて看護婦さんの首を締め上げます。

軍医が本格的なジークンドーの構えで対抗しますが、

ステラさんはそれを無視して首を絞め続けます。

 

「FREEZE!」

 

その時、突如部屋になだれ込んだ謎の集団。

艦長の命令を受けてやって来た兵士たちです。

彼らはステラさんに向けて一斉に銃を構えます。

 

「ステラ!」

「にゃ〜!」

 

このままではステラが撃たれてしまう。

シンは慌てて看護婦さんからステラさんを引き剥がします。

おもいっきり胸を鷲掴みにしていますが不可抗力です。

ラッキースケベというか、アクシデントスケベです。

 

「待って」

「シン!」

 

シンの異変に気付き、艦長が兵士たちを制します。

遅れてアスランも医務室へ駆けつけました。

女の子を医務室に連れ込んで一体何を――?

 

「ねんねんころ〜り〜よ〜♪」

「いやいや!眠くないもん!」

「……何をやってるんだ?」

 

アスランのピンク色の想像をよそに、

そこにいたのは、仲良くケンカする2人の子供。

 

「いやぁ……だめぇ……がくっ」

 

怪我をしているのに暴れたせいか、

ステラさんはそのまま気を失ってしまいました。

シンの顔が微妙に変形してしまいましたが、

艦内に被害がなかったのが何よりです。

 

「……何があったのかしら?」

 

一人だけ状況が理解できていないルナマリアさん。

自分が戻って来た途端、みんなが慌てだしたので、

自分は嫌われているのではないかと不安になっています。

 

一方、騒ぎの原因となったシンはどうしているのでしょうか。

 

「めっ!」

「ごめんなさい」

 

怒られていました。

 

「もう、何なのよう、ぶつぶつ……」

 

シンもレイもどこへ行っちゃったのか。

ぶつくさ文句を言いながら歩くルナマリアさん。

 

「あっ!」

 

艦長の部屋の前でアスランを発見。

ここは優しく「おかえりなさい」の言葉を掛けて、

アスランの好感度をアップさせるチャンスです。

 

「さっ!」

 

何故か隠れるルナマリアさん。

 

「ささっ!」

 

ひょっこり顔を出すルナマリアさん。

 

(……何やってんだろ、私)

 

落ち込むルナマリアさん。

4コマも使って一体何をやっているのか。

すっかりストーカー体質が身に付いてしまったせいで、

アスランに面と向かって話し掛けられなくなってしまいました。

 

「すやすや……」

 

説教を終えた後、軍医からの報告があり、

艦長とシンはステラさんが収容されている病室へ。

ステラさんは全身をベルトでがっちりと拘束されており、

身動き一つ取ることのできない状態です。

 

「何でこんなことを!?怪我人なんですよ、彼女は!」

 

何も胸まで縛ることはないだろう。

そもそも服を着替えさせたのは誰だ。

エロ医者のやり方にシンは強く抗議します。

 

「そういう問題じゃない。どうやらこの子は、

あの連合のエクステンデッドのようなのでね」

 

食ってかかるシンをなだめるように、

軍医はステラさんの体について説明をします。

 

「えっ……」

「やっぱり……」

 

思いもよらぬ言葉に絶句するシン。

その隣で艦長は納得したように呟きます。

エクステンデッド――戦うためだけに作られた人間。

まだ子供にも拘らず、ガイアを操っていたステラさんの体は、

先日、ロドニアのラボで見た子供たちのものと酷似していました。

 

「人為的に……ということね、薬?」

「おそらくは……」

「そんな、薬なんて……」

 

――ステラがエクステンデッドだった。

突然そう言われても、シンには実感が沸きません。

確かに少し変わった女の子ではあったけれど、

投薬されていた様子などはなかったはず。

ディオキアの海で会った時のことを思い出しても――

 

「あぁ〜!」

 

クスリやってた。

 

「……むにゃ?」

 

シンの絶叫にステラさんが目を覚ましました。

 

「ここはどこ……ねおは?」

「ステラ……」

 

目覚めるのはいつも揺りかごの中だったステラさん。

見知らぬ部屋の景色に戸惑っているようです。

 

「あ……」

 

名前を呼ばれて顔を上げるステラさん。

その視線が自分を見つめる深紅の瞳と交差します。

 

「おはよう、ステラ」

 

ステラさんに優しく微笑みかけるシン。

運命に導かれるように、再び巡りあった主人公とヒロイン。

苦節27話にして、ようやくシンにも春が到来しました。

 

「……何だ、お前は?」

 

しかし、ステラさんの口から発せられた言葉は、

そんなシンの妄想を木っ端微塵に打ち砕くものでした。

 

「……シン・アスカですが、何か?」

 

思わず気のない返事をしてしまったシン。

「何だ?」と聞かれたら、そう答えるしかありません。

 

「あんたなんて知らない!」

 

声を荒げてシンを拒絶するステラさん。

彼女からは既に、シンの記憶が消されていました。

 

「お、覚えてないの!?」

 

激しくショックを受けるシン。

ディオキアの海であんなイベントがあったから、

てっきり自分のことを好きだと思っていたのに。

女ってやつはこれだからわからねえ。

 

「知らない子を連れて来ちゃったの?」

 

看護婦さんもビックリです。

 

「うんしょ!うんしょ!」

 

拘束を解こうと暴れるステラさん。

しかし、ベルトはベッドにきつく固定されており、

エスパー伊東でも脱出は不可能です。

 

「ネオは〜? ネオはどこ〜?」

「ステラ、落ち着いて、シンだよ」

 

以前と同じように、体を張って落ち着かせようとするシン。

今回は拘束されているため、反撃されることもないので、

キスしそうになるぐらいまで顔を近づけます。

 

「ネオ……死んだの?」

「うん、シンだよ」

 

シンの呼びかけにステラさんの動きが止まりました。

 

「ネオ〜!ネオ〜!」

「ネオって何だよ? ペット?」

 

と思ったら、今度は泣き出した。

シンも訳がわからずあたふたするばかりです。

 

「彼女には脳波にも奇妙なパターンが見られるんだ。

意思や記憶まで操作されている可能性がある、無駄だよ」

 

軍医は淡々とそう告げると、

暴れるステラさんに鎮静剤を注射します。

 

「ねお……きょうねん30さい……」

 

そのまま意識を失うステラさん。

最後までネオの名前を呼び続けていました。

 

「記憶をって……そんな……まさか……」

 

体だけでなく心までも操作されていた――

シンは目の前が真っ暗になるような衝撃に襲われます。

過去の記憶に今も苛まれているシンにとって、

それは理解の範疇を超えていました。

 

「損失……か」

 

そんなステラさんの記憶を消した張本人。

仮面に隠された表情は読み取れませんが、

ステラさんを失ったことに責任を感じているようです。

 

「ステラね、大きくなったら、ネオのおよめさんになるの〜」

 

部隊に「配備」された3人のエクステンデッド。

ステラさんは3人の中で最も手が掛かる子でした。

危なっかしくて、わけわかんなくて、すぐ泣いて。

しかし、バカな子ほど可愛いとはよく言ったもので、

彼女を失った喪失感が幻痛のように胸を刺します。

 

「すまんが、2人からステラの記憶を……」

 

そんな家族ごっこの時間も終わりを告げます。

ネオはスティングとアウルから、

ステラさんの記憶を消すようスタッフに命じました。

 

「ふぅ、どれどれ……」

 

翌日、再びタルキウス港へ向かうミネルバ。

ルナマリアさんは自室で、先日盗撮した写真を現像中です。

 

「うん、ちゃんと撮れてる」

 

現像した写真を見つめるルナマリアさん。

どういう訳かアスランのアップの写真ばかりです。

 

(……これは自分用に取っておこう)

 

そそくさと手帳にしまい込むルナマリアさん。

 

「問題はこれよね……」

 

ルナマリアさんが物憂げに見つめる音声データには、

アスランとキラたちの会話の一部始終が録音されています。

 

「うむむむむぅ……」

 

唸り声を上げて悩むルナマリアさん。

先日のストーカー行為は趣味ではなく任務だったので、

アスランの行動を艦長に報告しなければなりません。

しかし、アスランとキラとの会話からは、今のラクスが偽者であること。

そして、デュランダル議長が本物のラクスの暗殺を謀ったという疑惑が。

それらが明るみになれば、様々な問題が噴出することは必至です。

仮に議長と深い関係にある艦長がそのことを知っていたとしても、

自分やアスランには知らされていなかったことに変わりはなく、

やはり色々と面倒なことになってしまいます。

 

「あ〜ん、もう、どうすればいいの〜」

 

途方に暮れるルナマリアさん。

言いたいことは全て包み隠さず口に出してきた彼女。

生まれて初めての秘密を抱えて困惑しているようです。

 

「あら、また来たの?」

 

再びステラさんの様子を見にやって来たシン。

全く懲りていないシンに、看護婦さんも困った様子です。

 

「むにゃむにゃ……ねお、おめん、おめん〜」

 

何も知らずにすやすやと眠るステラさん。

彼女はこれからどうなってしまうのでしょうか。

 

「何も、覚えてないなんて……」

 

シンが悲痛な表情で見つめるのは、

あの日、ステラさんがくれた、かまぼこフィギュア。

これを見て何か思い出してくれないかという、

わずかな望みを抱いて持ってきました。

 

「君が、ガイアに乗ってたなんて……。

 ……あんな所に……いた子だなんて」

 

大切な人を守るためにザフトに入ったのに、

守ろうと思った女の子は敵軍のパイロットだった。

やりきれない思いだけが、シンの胸に飛来します。

 

「……シン?」

 

頬に触れる温もりに、ステラさんが目を覚ましました。

先程までの殺気と恐怖に満ちた表情とは一転して、

瞳をうるうると潤ませ、とても穏やかな表情です。

 

「……ステラ?」

 

記憶を消されたはずなのに――

今、確かに自分の名前を呼んだ。

 

「あいにきた、シン」

 

自分はちゃんと約束を守った――

満足そうな笑顔を浮かべるステラさん。

実際、会いに行くと約束したのはシンの方でしたが、

ガイアに乗って自分から会いに来ちゃいました。

 

「……今度はもっと普通に来ような」

 

このアホ――間違いなくステラだ。

シンは嬉しさと懐かしさと安堵感で涙が出そうになりますが、

ステラさんを安心させるために無理をして笑顔を作ります。

 

「……………」

「オレ、わかる?」

 

まだ意識がぼんやりしているステラさんを労わるように、

シンはゆっくりとした口調で話し掛けます。

 

「ぐぅ……」

「こら、寝るな」

 

 

「……………」

 

ほのぼのとしたオチがついたところで、

アークエンジェルの様子を見てみましょう。

アスランと久しぶりの再会を果たしたキラたち。

何度もオーブに戻るように言われたのにも拘らず、

未だに海の底で引き篭もっています。

 

「アスラン、私はもう疲れたよ……」

 

しかし、何か行動を起こそうにも、

肝心のカガリがこの状態ではどうしようもありません。

アスランに捨てられたショックは相当のものだったようです。

これは周囲も腫れ物に触るように扱わなければなりません。

 

「ラクス……」

「キラ……」

 

傷心のカガリなど知ったこっちゃなく、

これ見よがしに恋人同士でベタベタするキラとラクス。

 

「プラントが本当にアスランの言うとおりなら、

じゃあ、僕たちはどうするのが一番いいのか……」

「わかりませんわね……」

「ワカンネエノカヨ」

 

しかし、ベタベタばかりもしていられません。

これまで自分の意志を貫いてきたキラですが、

アスランの言葉に気持ちが揺れているようです。

自分たちは何を信じて、何をすべきなのか――?

答えが見つからず静寂に包まれる廊下には、

ハロのツッコミだけが寂しく響き渡ります。

 

「ですから、私、見てまいりますわ」

「何を? 劇場版Z?」

 

しばしの沈黙の後、

ラクスが意を決したように口を開きました。

 

「プラントの様子を」

 

このまま自分だけが何もしないわけにはいかない。

ラクスは自らが歩むべき道を見つけたようです。

 

「ええっ!?」

 

ラクスの突然の決断にキラは珍しく動揺します。

 

「道を探すにも、手がかりは必要ですわ」

 

ラクスは決意に満ちた瞳でキラを見つめます。

この娘は意外に頑固なところがあるので、

一度決めたことは何と言われようと変えません。

 

「そりゃダメだ!君はプラントには……」

 

勿論、キラは反対します。

現在、ラクスはその命を狙われている身。

プラントでどんな変態に襲われるかわかりません。

カガリは誘拐したり、戦場に出撃させたりしましたが、

ラクスには二度と危険な目に遭わせるわけにはいきません。

 

「この道を行けば、どうなることか」

「えっ?」

 

プラントに行くのを必死で止めようとするキラに、

ラクスはいつもと変わらぬ穏やかな口調で語り出します。

 

「危ぶむなかれ、危ぶめば道はなく」

(これは……)

 

 

「踏み出せば、その一歩が道になる」

「ラクス……」

 

 

「迷わず行けよ」

「行けば……わかるさ」

「ありがとう」

 

何だかよくわからなくなってきましたが、

こうしてラクスは、プラントに行くことを決断しました。

 

ラクスが決断したのはいいのですが、

プラントへ行くための手段がありません。

現在はミーアがラクスとして表舞台に立っているため、

本物のラクスが表立った行動はできません。

アークエンジェルやフリーダムに乗って行っても、

プラントに迎撃されるのがオチです。

 

「先月から行なわれていた、各ザフト基地への

ラクス・クラインの慰問ツアーも、いよいよ明日、

その幕を閉じることになっています」

 

ぼんやりとテレビを眺める虎。

ニュースでは今日もラクス・クラインの話題が。

どうやら偽者のラクスは、明日プラントへ帰国するとのこと。

 

「ピカーン!」

 

その時、ニュースを聞いた虎が、

古臭い効果音と共に何かを思いついたようです。

 

「むふふふふ……」

 

気色悪い含み笑いを浮かべる虎。

今ではただのコーヒーマニアの彼ですが、

かつては「砂漠の虎」として名を馳せた名将。

そんな彼が考えた作戦とは一体――?

 

―――翌日、

ディオキアのザフト軍基地へと向かう黒塗りの車。

基地には地球での慰問ツアーを終えたラクス・クラインが、

プラントへ戻るためのシャトルが用意されています。

 

「はいはいはい、どうもどうも〜」

 

しかし、中から颯爽と出てきたのは、

ミーアのマネージャーに変装した虎。

ルパンも真っ青なぐらい完璧な変装ぶりです。

 

「みなさんお疲れ様、ラクス・クラインで〜す♪」

 

続けて営業スマイル全開で現れたラクス。

プラントに行くために虎とラクスで考えた作戦とは、

「ラクスの偽者がラクスにそっくりなら、

ラクスはラクスの偽者にそっくりのはず。

だから、ラクスに成りすましてシャトルを奪っちゃおう。

こっちのラクスが本物なんだから、何の問題もないだろう」という作戦。

パクられたらパクリかえせ――ハムラビ法典から続く復讐の常套手段です。

 

「ラクス様だ!」

「ついにお笑いにも進出か!」

 

ポスト南海キャンディーズの登場に沸く人々。

今年のM1優勝はこの2人で間違いありません。

 

「さっそくで悪いんやけどな、時間がないんや。

ザギンでシースーでケツカッチンやさかい、

シャトルの準備、マキで頼むわ」

「は、はぁ……」

 

胡散臭い業界用語を多用する虎。

怪しすぎるその容姿と言動に兵士も戸惑います。

これはいくら何でもバレてしまうのではないでしょうか。

 

(……やっぱり本物の業界人はすごいなあ)

(上手くいったな!)(完璧ですわ!)

 

あっさり騙される兵士。

 

「はいはい、みなさん並んでくださいな」

「ほんま、ラクスさんの優しさは五臓六腑に染み渡るでぇ」

 

シャトル発射までの待ち時間、

取り囲むファンへ快くサインに応じるラクス。

隠居していたとはいえ、さすがは元国民的アイドル。

ファンサービスはお手の物です。

 

「ラクス・クライン、っと♪」

 

本物のラクスであることを証明するかのように、

自分の名前をスラスラと書き連ねていくラクス。

 

(オレも有名人になった時のためにサイン考えないと……)

 

そんなラクスを横目に見ながら、

夢見がちな中学生みたいなことを考える虎。

そんな機会は絶対に来ないので安心してください。

 

「なんや、誰も出迎えに来てへんのかいな?」

 

ラクスたちに少し遅れて、基地の前に停車したピンク色の車。

本物の登場も知らずにノコノコやって来た偽者です。

(まあ、マネージャーは虎の方が偽者なのですが)

 

「んもう、最悪。あたしが来たっていうのに!」

 

何の出迎えもないことにミーアは不満顔。

ファンやスタッフにチヤホヤされすぎたせいか、

初期の頃の初々しさはすっかり消え失せてしまいました。

 

「ラ、ラクス様!?」

「どうしてこちらに?」

 

ラクスからサインをもらい、嬉々として仕事へ戻る兵士たち。

衣装も胸の大きさも違うミーアを見て、驚きの声を上げます。

 

「ほへ?」

 

 

「タイガーアパカッ!」

「ぐはっ……」

 

その頃シャトルでは、虎が謎の必殺技で、

シャトルの乗組員たちをダウンさせていました。

 

「ごめんなさい、恨むなら虎さんを……」

 

殴ってから、申し訳なさそうに謝るラクス。

平和のためには、多少の犠牲は仕方ありません。

 

「すまんなあ、中身、虎やったわ」

 

やれやれという仕種でヅラを取る虎。

ギャグにしか思えなかった作戦ですが、

見事シャトルを奪うことに成功しました。

 

「どういうこと? もう!」

 

事体が全く飲み込めていないミーア。

本物より大きな胸を激しく揺らしながら、

シャトルを停止させるために管制室へと急ぎます。

 

「どっひゃあ!ラクス様が2人!?」

 

必死の形相で基地内を駆け回るにミーアに、

本物のラクスを案内したばかりの兵士もお約束の反応。

毎回ミーアが絡むと、ギャグが80年代になります。

 

「あかんで、あれ、ほんまもんや!」

 

本物の登場に焦るマネージャー。

ミーアが偽者だとバレてしまったら大騒ぎになります。

 

「あぁん? 何言ってんのよ、竹田?」

「ちゃうちゃう、パチもんや、名を語る偽もんやがな」

 

しかし、当の本人であるミーアは未だに危機感ゼロ。

本人に自覚症状がなくなってきたら、いよいよヤバイです。

 

「ほな、行くで!」

 

発進停止を求める通信を尻目に、

虎はノリノリでシャトルを発進させます。

よほど気に入ったのか、関西弁のままです。

 

「ええ、行きましょう!」(ざまあみろ偽者め!)

 

ミーアを出し抜いたことがよほど嬉しかったのか、

ラクスも勝ち誇ったような笑みで応えます。

 

「私の偽者なんて……許せない!」

「いや、あんたが言うたらあかんやろ」

「MSを出せ!シャトルを行かせてはならん!」

 

偽者の偽者の登場に逆上するミーア。

もはやラクスに憧れていた頃の彼女の面影はなく、

本物のラクスを撃墜するため、MS隊を出撃させます。

 

「ちぃ!ぎょうさん付いて来とるわ!」

 

予定外の事態に慌てる虎。

シャトルを奪うことには成功したものの、

ここがザフトの基地だということを忘れていました。

すぐにザフトのMS隊がシャトルを追跡します。

ラクスたちが乗っているのは輸送用のシャトル。

ひたすら逃げる以外に手段はありません。

 

「よくも騙してくれたな!貧乳め!」

 

ラクスが偽者だとわかった途端、

さっきまでサインをもらって喜んでいた兵士たちが、

ロッチのシールを掴まされた子供のように、

喜びを怒りに変えて、シャトルに攻撃を開始します。

 

「ひ、貧乳……」

 

みんなが胸の大きいミーアを本物と見なしたことに、

大きなショックを受けるラクス(胸の小さい方)。

 

「上がれ〜!上がらんか〜!」

 

このままでは追いつかれてしまう。

虎はレバーを折らんばかりに気合を込めて、

必死にシャトルのスピードを上げようと試みます。

 

「あ、あかん!何かピコピコしてる!何かピコピコしてる!」

 

しかし、根性論が機械に通じるわけもなく、

ミサイルとの距離は次第に縮まっていきます。

 

「アンディ!アンディ!起こせジャストレボリューション!」

 

なおも必死に気合を込める虎。

このままシャトルが撃ち落されて死んでしまったら、

ガンダム史上最もマヌケな死に方をした2人という、

不名誉な記録が後世まで語り継がれてしまいます。

 

「大丈夫ですわ、きっと……」

 

熱くなって負けそうな虎をよそに、

ラクスは冷静に目の前を見据えています。

まるで助けが来るのを確信しているようです。

 

「キラが……助けに来てくれますわ」

 

自分の彼氏は最強のコーディネーターにして、

最強のMSであるフリーダムを駆るキラ・ヤマト。

おとなしそうな顔をして、実は目立ちたがり屋の彼が、

ヒロインのピンチに駆けつけないはずがありません。

 

「遅れてごめん、ラクス!」

 

はい、助けに来ました。

 

「遅いで、ほんま心臓に悪いわ」

「すみません、カッコつけたい年頃なので」

 

毎回計ったようなタイミングで現れるフリーダム。

待たされる方は堪ったもんじゃありません。

 

「いてこましたれ〜!」

「わかりました!」

 

今日も始まるお裁きの時間。

水戸黄門でいうところの20時40分です。

 

「やめ!てよ!ねっ!」

 

あれほど戦いたくないと言っていたキラですが、

ラクスのためなら問答無用に斬り捨てていきます。

付き合う女性によって性格が変わるタイプです。

 

「んな、アホな!」

 

たった一機のMSにバビ隊が全滅。

信じられない光景にうろたえるマネージャー。

ミーアも完全に呆けてしまっています。

 

続けて地上のMSの殲滅にかかるフリーダム。

ラクスに攻撃を仕掛けてしまったのが運の尽き。

フリーダムはディアキア基地を壊滅へと追い込みます。

 

「あかん!」「うわあ!」「きゃあ!」

 

フリーダムの攻撃に悲鳴を上げるミーアたち。

タイムボカンシリーズの三悪みたいな立ち位置です。

 

「きゃああああ!」

 

ミーアたちの眼前すれすれまで接近するフリーダム。

その衝撃で管制室の窓ガラスが粉々に砕け散ります。

ラクスと同じ顔をしているミーアにも容赦ありません。

むしろ本物のラクスよりも胸が大きいことに、

理不尽な怒りすら覚えているようです。

 

「お邪魔しました!」

「二度と来るな〜!」

 

今日も人々にトラウマを植え付けて去っていくフリーダム。

次はあなたの町にやってくるかもしれません。

 

「おかえりなさい」

 

戻って来たキラを笑顔で出迎えるラクス。

世界中のみんなが胸の大きい方を選んでも、

キラだけは自分(胸の小さい方)を選んでくれます。

 

「やっぱり心配だラクス、僕も一緒に……」

 

自分も同行するように訴えるキラ。

虎はさっぱり役に立っていなかったのを見て、

自分が守らなければという思いを強くしたようです。

 

「それでは、カガリさんが泣いてしまいますわ」

「誘拐なんかするんじゃなかった……」

 

ラクスもキラと一緒に行きたいのは山々ですが、

かがりちゃん(18さい)をアークエンジェルに残しては行けません。

泣き虫の彼女をあやすことができるのは、キラだけなのです。

 

「私なら大丈夫ですわ。必ず帰ってきます、貴方の元へ……」

「ラクス……」

 

2人の絆の深さを信じて、愛おしむように笑みを浮かべるラクス。

しかし、そんな顔をされると、キラも余計に別れづらくなります。

 

「安心しろ、オレがきちんと守る。お前の代わり、命がけでな」

「あなた、前に自分だけ助かっていたでしょう」

 

虎(標準語に戻った)の説得力のない言葉に促され、

キラもようやくラクスを見送る決心がつきました。

 

「本当に気をつけて、ラクス!」

「キラ!」

 

最後までお互いを心配し合うキラとラクス。

アスランとカガリのように、別れのキスの一つでもしたいところですが、

シャトルはそんな2人を待ってはくれません。(横に虎も乗っているし)

 

「ほな、行ってくるで〜」(また関西弁に戻った)

「やっぱり心配だ……」

 

やがて小さくなるシャトルを不安そうに見送るキラ。

虎スーツを持っていくのを忘れているけど大丈夫なのか。

「アークエンジェルに取りに帰る」とか言い出さないだろうか。

 

 

続く。