サマナ☆マナ!

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エピローグ

 あたしが今いるのは、ダリアの城塞都市からほど近い港町。
 そう、アルビシア島からの船が到着したのがここだったのよね。
 クレイディアの洞窟での指輪探し大会から一週間が経った。
 ドラゴンに変身するところを見られてあんな大騒ぎになったんだもの、もうここにはいられないよね。
 ドラゴンから元のヒトの姿に戻った後のあたしは、そのまま意識を失ってしまった。
 だからこれは後から聞かされた話。
 
 あの後、シン君が洞窟の外へ飛び出して助けを求めてくれたそうなの。
 王宮の兵士さん達はもちろん、あたしのことが心配で様子を見に来ていたジェイクさんも駆け付けてくれたそうよ。
 みんな驚いてたって。
 ダニー達はドラゴンのあたしが吐いた炎のブレスで丸焦げになっている。
 あたしはあたしで気を失っていて、おまけにパロさんが差し出してくれたマント一枚にくるまったままの格好なんだもん。
 いったい何が起こったのか、パロさんとシン君は説明するのに困ったって。
 それでもあたしが変身したことはうまく伏せてくれて、ダニー達の悪行を報告したの。
 もちろんダニー達は拘束されて、審判で冒険者資格をはく奪されたって。
 だからもう二度と冒険者としては活動できないってわけ。
 そのダニー達だけどね、あたしのことを「悪魔憑きの娘」として、寺院に告発するって息巻いてたらしいの。
 でも寺院はそれを聞き入れなかった。
 冒険者資格をはく奪された者が何を言っても信用されなかったのね。
 ジェイクさんの家に運ばれたあたしは、その後丸々三日三晩眠り続けた。
 以前にドラゴンに変身した時もそうだったんだけどね。
 目が覚めたあたしは、ジェイクさん、パロさん、シン君にドラゴンに変身することについて説明したわ。
 みんな驚いていたけど、どうにか納得してくれたみたい。
 特にジェイクさんは、昔パパがドラゴンの神様の血を呑むところを直接見ていたから。
 一番にあたしの話を信用してくれた。
 でも、頭で分かるのと気持ちの整理がつくのとは別よね。
 パロさんやシン君はきっと、あたしのことを気味の悪い女だって思っているはずだわ。
 それにジェイクさんにもたくさん迷惑を掛けたみたい。
 ジェイクさんは話してくれなかったけど、ダニー達が寺院にあたしを告発した件で、クレア様に掛け合って手を回してもらったらしいの。
 ジェイクさんにもパロさんにもシン君にも、もうこれ以上迷惑は掛けられない。
 だからあたしはアルビシアに帰るわ。
 パパもママも、あたしが帰ればきっと喜んでくれると思うし、これで良いのよ、ね?

「えーと、アルビシア行きの船は・・・」
 港へ来たのは良いけれど、肝心なアルビシア行きの船が見つからない。
 ちょっと聞いてみようかな。
「すいません、アルビシア行きの船は何処ですか?」
「アルビシア? ああ、それなら一週間後じゃないと船は出ないよ」
「一週間!」
 気の良さそうなおじさんの返事に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「何しろ遠い島だからねぇ。船が出るのは二週間に一度さ。ところで嬢ちゃん、アルビシアに何の用だい?」
「いえ、別に・・・それじゃあ」
 もうおじさんの言葉は耳に入ってこなかったわ。
 どうしよう・・・
 ジェイクさんの家には「帰ります」って置き手紙をしてきちゃったし、かと言って船が出るのは一週間後。
 進むもならず、戻るもならずとはこのことだわ。
「どうしよう・・・」
 当てもなくトボトボと歩きだした、その時だった。
「何をどうするんだって?」
「ジェイクさん!」
「ったく、こんな置き手紙ひとつで島に帰るだなんてな。思い立ったらスグのところはエイティそっくりだぜ」
 ジェイクさんはあたしが残した置き手紙をヒラヒラさせている。
 そしてジェイクさんの後ろには
「マナ、どこへ行く気なの?」
「俺達に黙って行っちまうなんて、ひどいんじゃねえの」
「パロさん! シン君!」
 一緒に来てくれたパロさんとシン君が、少し怒った表情であたしを見ている。
「ごめんなさい。だって・・・」
「もう。マナ、私達はパーティの仲間でしょ。迷惑掛けたり掛けられたりは当たり前なの」
「そうだぜ。お互いに助け合うのがパーティの仲間ってやつさ」
 二人の言葉がじわりと胸に染みる。
「いいの? こんなあたしで本当にいいの?」
「そりゃまあ驚いたけど、ね」
「マナのおかげでダニー達をやっつけられたし、胸がスッとしたしな」
「そうそう。私もザマぁ見ろって思っちゃった」
「だよなあ」
 ワハハと笑うパロさんとシン君。
「くすっ、アハハ」
 あたしもつられて笑っちゃったわ。
「よーしマナ。もうコレはいらねえな」
 ジェイクさんはあたしが残した置き手紙をビリビリと破いて海に捨てた。
「代わりにこんな物を預かってるんだけど」
 そう言って差し出した一枚のカードをあたしに手渡してくれたの。
「これは・・・クレア様からの招待状!?」
「ああ。是非ともクレアがお前に会いたいってな。昨日預かってたんだわ。もちろんあんたらも一緒にな」
「私達も良いんですか?」
「やったぜ、女王様に会える!」
 驚くパロさんに喜ぶシン君。
 ちょっとシン君、はしゃぎ過ぎじゃないの、もう。

 そして翌日。
 王宮を訪れたあたし達は謁見の間へと通されていた。
 ジェイクさんに「一番良い服を着て行け」って言われたんだけど・・・
 冒険者としての正装であるローブやなんかはあの時に破れてしまったのよね。
 だから今は、初めてジェイクさんに会った時に着ていた水色のワンピースを着て来たの。
 パロさんとシン君はいつもの格好だけどね。
 あたし達のほんの数メートル先には豪華な玉座、もうすぐここへクレア様がお着きになるはずだわ。
 ドキドキして待っていると
「皆さん、お待たせしました」
 洞窟の入り口で聞いたあの透き通るような声が響いた。
 謁見の間へと入って来られたクレア様はしずしずと歩き、やがて玉座へと着座される。
 あたしもパロさんもシン君も、頭を下げたままの姿勢でコチコチに固まってしまっていた。
「皆さんそう固くならずに。頭を上げてください」
 クレア様に言われてゆっくりと頭を上げる。
 こんなに間近で女王様のお顔を拝見できるなんて・・・
 ああ、やっぱりクレア様は綺麗な女性だわ。
「皆さん、先日の指輪探し大会ではご苦労さまでした。大会結果はうやむやになってしまいましたが、改めてあなた達のパーティを指輪を持ち帰ったパーティとして認定して報奨金を与えたいと思います」
「はい、ありがとうございます」
 パーティを代表してパロさんがお礼の言葉を述べる。
「今後もより精進して冒険者としての腕を磨き、ダリアのために働いてください。それと、召喚師マナ、こちらへ」
「は、ハイ!」
 いきなりクレア様に名前を呼ばれて心臓はバクバク。
 何とか転ばないように気を付けながら、クレア様の前へと進みでる。
 玉座の前で恭しく頭を垂れる。
「マナ、顔を見せて」
「はい」
 クレア様に言われてゆっくりと顔を上げる。
「あなたがエイティの娘さんなのね。うんエイティによく似てるわ」
「ママをご存じなんですね」
「ええ。私があなたくらいの年の頃に初めて出会ったの。それからも良いお友達としてお付き合いさせてもらったわ」
「ママが女王様のお友達って本当だったんですね」
「ええそうよ。それでねマナ、あなたにはこれを貰って欲しいの」
 クレア様が「アレを」と命じるとお付きの人が小さな箱を差し出す。
「受け取って」
「はい。開けても良いですか?」
「どうぞ」
 箱を開けると中には指輪が入っていた。
 宝石こそ飾られていなけど、シルバーに輝くリングには精巧な細工が彫られてある。
「もしも今後気持ちを抑えられないようなことがあったら、その指輪を見てほしいの。うっかりドラゴンに変身しちゃったら、分かるでしょ?」
「あっ・・・」
 そうか、もしも指輪をはめた状態でドラゴンに変身しちゃったら、この指輪もきっと粉々に砕けてしまう。
 クレア様から頂いた指輪をそんなふうにはできないもの。
 だからこれはお守りなんだわ。
 あたしが自分を見失ってドラゴンに変身しないように、というお守り。
「クレア様、どうもありがとうございます」
 その後はクレア様の私室に場所を移して色々なお話をして過ごしたの。
 もちろん話題のほとんどはママとクレア様の思い出話。
 クレア様の口から次々と語られるママの武勇伝の数々。
 ママってば、本当に凄かったのねえ。
 クレア様との楽しいお話は、いつまでも尽きることがなかったわ。

   ☆   ☆   ☆

 パパ・ママへ
 こうしてあたしの冒険者としての生活は始まりました。
 ジェイクさんもいるし、素敵な仲間もできたわ。
 だからもうしばらく帰れません。
 一人前の召喚師になるために頑張ります。
 あたしがいなくて寂しいかもしれないけど、許してね。
 二人とも仲良く、そして元気で過ごしていてください。
 あなた達の愛する娘・マナより

サマナ☆マナ!・・・END