サマナ☆マナ!4

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エピローグ

 ドランさんとの召喚契約が終わった後。
 ドラゴンの血を使ったことと極度の精神集中から解き放たれた反動で、あたしはその場に崩れ落ちてしまった。
 真っ先に駆け付けてくれたパロさんはじめ皆さんが心配してくれたけど、あたしは大丈夫ですと答えたわ。
 うん、身体は大丈夫。
 でも、本当にあたしの判断は正しかったのか、今になって自信がなくなってきたりして・・・
 心のほうは何だかすっきりしないままだったの。
 やがて事件が解決したと見るやお城の兵士さんたちが来てくれて、リングやテントの撤去など大会の後始末が始まった。
 一方あたしたちは城内に呼ばれて、大広間に通されたの。
 クレア様を前にして事件のあらましを説明してくれたのはジェイクさん。
 お二人は若い頃からの付き合いなので、こんな時は話が早くて助かるわ。
 ジェイクさんが一通り話終わると、クレア様は「分かりました」と頷いていらっしゃったの。
 そこへ口を出したのは、例によってガイだった。
「クレア様、ドランの処分は如何いたしますか?」
 突然出て来た「処分」という言葉に、思わず身体が反応する。
「テメエ、まだそんなこと言ってるのかよ!」
 真っ先に反論したのはリ・ズーさん。
 でもガイは、リ・ズーさんの言葉をバッサリと切って捨てる。
「何を言ってるんだ。あれだけの騒ぎを起こしたんだぞ。処分は当然じゃないか」
 その他の皆さんも、リ・ズーさんに同調する人あり、あるいは処分は妥当だと主張する人ありで。
 すっかり混乱してしまっている。
「皆さん、静かに」
「・・・」
 クレア様が命じられると、この場にいる人すべてがピタリと静かになった。
「そうですね。彼にはそれなりの処分を科すとしましょう。召喚師マナ、ドランをここへ」
「えっ・・・」
 クレア様の命令に戸惑うあたし。
 だってクレア様はヒューマン以外の種族にも理解を示してくださる方だわ。
 だから今回もドランさんを擁護してくれると思っていたのに・・・
「マナ、クレアの言う通りに」
「はい・・・」
 決して納得したわけではないわ。
 だけどジェイクさんに言われたら、さすがに拒むことはできない。
「サモン・ドラ・・・ってあれ?」
「どうした? まさかドランの処分に反対だっつうんじゃねえだろうな」
「いいえ、違うんです。その・・・魔力が」
「魔力がどうした?」
「魔力が尽きてしまっていて。だから」
 そうなの。
 召喚師も魔法使いと同じく呪文の使用回数には制限があるわ。
 ドランさんと召喚契約したのは第4ランク。
 そうよね、大会優勝のご褒美に貰えた経験値でレベルアップして、新しく追加された領域だわ。
 そこは呪文の使用回数がわずか一回だけ。
 つまりドランさんと召喚契約する時にその一回を消費してしまったから、今は魔力切れな状態。
 これではドランさんを呼び出すことはできないわ。
 新しく書き変わった冒険者カードを確認しても、やっぱり第4ランクの魔力は「0」と表示されている。
「なるほど。すいませんがあれを持ってきてください」
「かしこまりました」
 クレア様に命じられた侍女さんが一度席を外してから、何かを持って戻って来た。
 侍女さんの手には紫の布が張られたトレイ、その上には青く煌めく宝玉があった。
「召喚師マナ、この宝玉に手をかざしなさい」
「はい」
 クレア様に言われるまま、宝玉に手をかざす。
 すると
「あっ、魔力が回復しました」
 冒険者カードを見るまでもない、魔力の回復が自分でもはっきりと感じられる。
「それではお願いします」
「はい」
 クレア様をはじめジェイクさんたちが見守る中、あたしは気持ちを落ち付けてドランさんを呼び出す。
「サモン、ドラコンロード!」
 召喚の言葉と共に浮かび上がる緑色の魔法陣。
 そしてその中には、元の姿に戻ったドランさんが静かに佇んでいた。
 クレア様に対して膝を折り、頭を垂れるドランさん。
 無言のまま、クレア様の下される裁定を待っている。
「君主ドラン、貴方は先程魔物に姿を変え、暴れることで式典を騒がし、決して少なくない被害を発生させました」
 ゆっくりと紡がれるクレア様のお言葉は静かだけれども、それ故にとても重い。
 果たしてどんな処分が下されるのか、あたしたちは皆息を殺して見守っているわ。
「よって、冒険者資格の停止を言い渡します」
 しん、と静まり返る大広間。
 そんな・・・
 冒険者資格を停止されたら、もう正規の冒険者としては活動ができなくなってしまう。
 大会にも優勝して、まだまだこれから大活躍が期待できる冒険者を失うのは、ダリア城塞都市としても失うものが大き過ぎるはずなのに。
「承知いたしました」
 誰も声すら上げられない中、ドランさんが一礼して返事をする。
「そしてもう一つ、貴方に処分を科します」
 クレア様の更なる言葉に、一瞬その場にいる人たちからざわめきが起こった。
 だって冒険者資格の停止だけでもかなりの処分なのに、その上まだあるなんて・・・
 一同の視線がクレア様に注がれる。
「ドラン、貴方には召喚師マナの契約モンスターとして仕えることを命じます。
 召喚師マナに服従を誓い、主のために働きなさい」
「えっ!」
 クレア様のお言葉に一番驚いたのは、他でもないあたしだった。
 だってドランさんと召喚契約したとはいえ、それは成り行きで一時的なもののはず。
 龍の魔人になってしまったドランさんをちゃんと元の姿に戻すことができたら、解約するつもりだったのに。
「クレア様、それは・・・」
 さすがにこの処分は受け入れられないと、申し出ようとしたところで言葉を被せられてしまった。
「承知いたしました。このドラン、召喚師マナの契約モンスターとして、主のために命を賭けて尽くすことをお約束いたします」
「ドランさん!」
「良いんだマナよ。どの道この大会で優勝できたら、クレア様に仕えるつもりだった。
 その仕えるべき主がマナになったというだけのことだ」
「でも、あたしなんかじゃ・・・」
「いいや、マナは俺が命を賭して仕えるにふさわしい主だ。
 マナはリ・ズーのために涙を流して訴えてくれた。そして俺が魔物になっても、俺を信じ続けてくれた。
 俺が仕えるにふさわしい、これ以上の主はいないだろう」
「ドランさん・・・」
 それ以上は言葉が詰まって何も言えなかった。
「うむ、その通りだ。マナならドランの主として何の不足も心配もねえだろう」
「オレも賛成だ」
「私も賛成させていただきます」
「俺も良いと思うぜ」
 リ・ズーさんが言い出したのをきっかけに、ジェイクさんやパロさん、それにシン君もドランさんを召喚モンスターとすることに賛同してくれた。
「召喚師マナ、どうかしら? この女王クレアの命、受けてもらえますか?」
「分かりました。クレア様の命を受け、ドラコンロードのドランをあたしの召喚モンスターに加えることにします」
 あたしがペコリと頭を下げると、城内から拍手が起こった。
 大会の時のような湧き上がるような拍手じゃないけど、とても温かくて優しい拍手。
「ドランさん、これからよろしくね」
「こちらこそよろしく頼むマナ・・・いやマスターマナよ」
 新しい召喚モンスター、ドラコンロードのドラン。
 きっと心強い味方になってくれるはずよ。
「そうだ。ドランさんがマナの召喚モンスターになったということは、リ・ズーさんはパートナーを失いますよね。
 どうでしょう、私たちのパーティに加わってはもらえませんか?」
 ドランさんのことが片付いたのを見計らって、パロさんがそう提案したの。
「オレ様をパーティに、だと・・・」
 それに対してリ・ズーさんはしばらく考えた後に
「いいや、遠慮しておこう」
 ゆっくりと首を横に振った。
「どうしてですか?」
「オレ様は少しこの街を離れようと思う。あちこち見て回るのも悪くなさそうだしな」
「そうですか、それは残念です」
「ああ。この街はオレ様には狭すぎると思っていたんだ。ドランの面倒をマナが見てくれるってなら、丁度良い機会だ」
「そんな。面倒を見てもらうのは、むしろあたしのほうで・・・」
「ガハハ。ドランを頼むぞ、マスターマナよ」
「はっ、はい!」
 リ・ズーさんにバンバンと背中を叩かれたら、あたしとしてもそう返事をするしかないわけで。
 ドランさんの契約主として恥ずかしくない召喚師になれるよう、今まで以上に頑張らなくちゃね。
「これにて一件落着、でしょうか」
「いんやクレア、もう一人処分の必要なヤツがいるぜ」
「それは誰でしょう?」
 ジェイクさんの言葉に、不思議そうに首を傾げるクレア様。
「こいつだよ」
 ジェイクさんはニヤリと笑うと、ガイの首根っこを押さえ付けて引っ張り出したの。
「って、ジェイクさん、どうして俺が・・・」
「そもそもお前が表彰式で暴れ出したからこんな騒ぎになったんだろうが」
「そ、それは・・・」
 あれだけ不遜な態度を取り続けていたガイも、ジェイクさんには頭が上がらないのよね。
 ジェイクさんの意見に、クレア様もなるほどと頷いていらっしゃるわ。
「ジェイク、その者の処分について、何か考えでも?」
「ああ、こいつのことはオレに任せてもらえないか。この曲がった根性叩き直してやるからよ」
「分かりました。本来ならば冒険者資格の停止もありうるところですが、特別にジェイクに預けるということにいたします」
「よーし、覚悟しておけ、このバカ野郎が」
「お手柔らかにお願いします」
 ジェイクさんに凄まれて、すっかりおとなしくなったガイ。
 その様子に、あたしたちはみんな声を上げて笑ったんだ。

 その後は関係者を集めて、年の初めと大会の成功を祝ってのパーティが開かれたの。
 まさかお城でのパーティに参加できるなんて思ってなかったから、もうビックリ。
 おいしい料理に楽しいおしゃべり。
 もう、気分は最高よね。
 その席で、ドランさんがあたしの身体を担ぎ上げ、肩に乗せてくれた。
「みんな聞いてくれ。俺はマスタークラスで優勝した。そしてマナはビギナークラスの優勝者だ。
 そしてチャンピオン同士が戦った結果、俺はマナに負けた。
 マスターマナこそが、この大会のグランドチャンピオンだ!」
 ドランさんの言葉に、会場から一斉に拍手が起こった。
「そんな、グランドチャンピオンだなんて・・・」
 どう対応して良いのやら、困惑するあたしでした。
「良いぞ、グランドチャンピオン!」
「マナ、カッコいいわよ」
 シン君やパロさんも、ドランさんと一緒になってやんやと囃したてる。
「そのグランドチャンピオンが、来年はドランを手下にしてディフェンディングチャンピオンとして戦うわけか。これは今から一年後が楽しみだな」
「ジェイクさん、そんな来年のことなんて気が早過ぎますよ!」
 こうして楽しいパーティは夜が更けるまで続いたの。
 今年はきっと良いことがある、そんな気がして今からわくわくするわ。

   ☆   ☆   ☆
 
 パパ、ママへ。
 こうしてあたしは闘技大会で優勝しちゃったの。
 新しい仲間もできて、年の最初から最高のスタートが切れたわ。
 パパが変身したことを聞かされてちょっぴりショックだったけど、今度帰った時にゆっくりお話聞かせてほしいな。
 その時は新しいお友達も連れて行くから、楽しみに待っててね。
 レベルアップしてちょっぴり強くなりました。
 マナより。

サマナ☆マナ!4・・・END