サマナ☆マナ!3

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エピローグ

 気が付いたら馴染みのある天井の模様が目に飛び込んできた。
 ぼんやりとその模様を目で追っていくと、アルビシアにあるあたしの家の、あたしの部屋の天井だと気付く。
「あれ・・・あたしどうしてここにいるんだろう?」
 あたしは今、ダリアにあるジェイクさんの家にお世話になっているはずなのに・・・
 そんなことを考えながら視線を横に向けると、うつらうつらとしたママの顔が見えたわ。
 次第に記憶が鮮明になってくる。
「そうか、あたしはアルビシアに帰ってきていて、そこでマーカスと戦ってドラゴンに・・・」
 そこでガバっと飛び起きた。
 そうよ、そうだった。
 あたしはマーカスと戦ってドラゴンに変身しちゃったんだ。
「んっ・・・マナ、気が付いたのね?」
「ママ・・・」
「良かったわ。心配していたのよ」
「ごめんなさい」
 ママがそっとあたしを抱き締めてくれた。
「ママ、あたし、どれくらい寝てたの?」
「そうね・・・丸一日半くらいかな」
「そう」
 以前ドラゴンに変身した後は、丸三日は眠り続けたそうよ。
 それに比べたら半分くらいだから、ひょっとしたらあたしの身体がドラゴンに変身することに慣れてきたのかもしれないわね。
「起きられる?」
「うん。たくさん寝たから気分もスッキリしてるわ」
 ベッドから抜け出てカーテンを開けると、窓の外は今日も良いお天気。
 南国の太陽が陰ることなく照り付けていたわ。
 あたしが気を失っている間にママが着せてくれたんだと思う、汗で濡れたシャツを着替えたらリビングへ。
「おお、目が覚めたね」
「マナ!」
「やっとお目覚めか」
「マナちゃーん」
 パパ、パロさん、シン君、それにティアちゃんも。
 みんなあたしが意識を取り戻すのを、じっと待っていてくれたんだわ。
「みんなゴメンね、心配掛けて」
「いや、マナが無事ならそれで良い」
 パパのその言葉が、みんなの気持ちを表しているのね。
 その後はパパが淹れてくれたお茶を飲みながら、事件の顛末について話し合ったの。
 特にあたしがマーカスと一緒にドラゴンの洞窟へ行った時の様子とか。
 あとは、あたしが気を失っている間の出来事よね。
 あたしがドラゴンからヒトの姿に戻った後、マーカスはパパたちに身柄を拘束されたの。
 あれだけあたしが痛め付けた割には、右腕の骨を折っただけだったって。
 案外丈夫な身体をしているのね。
 マーカスが強制契約で捕らえたドラゴンは全て解放されて、各々アルビシアの火山の火口から洞窟にある自分たちの棲みかに戻っていったって。
「マナが目覚めたらマーカス君が会いたがっていたんだけど・・・どうする?」
 パパがそう聞いてきた時、少し迷ったわ。
 でも
「会います。会わせて、パパ」
 そう返事をしたの。
 パパの案内でドラゴンの洞窟へ行くと、湖のほとりでマーカスが座り込んでいたの。
 よく見るとマーカスの周囲には、正三角形と逆三角形を組み合わせたような文様が輝いていて。
「結界だ。魔方陣を操れるのは、何も召喚師だけじゃないんだよ」
 パパが得意げに説明してくれた。
 マーカスはあたしが気を失っている間、パパが作った結界の中で自由を拘束されていたのね。
「マーカス・・・」
「やあマナちゃん、気分はどうだい?」
 マーカスの表情からは、やはり精気とか活力といったものが全く感じられなかった。
 骨折したという右腕は包帯で固定されて、顔や身体のいたるところが絆創膏だらけ。
「マナちゃん、済まなかったね。君にはずいぶん酷いことをした」
「マーカスも。痛かったでしょう?」
「ああ。痛いとかそんなものは通り超えて、死ぬかと思ったよ」
「あたしもちょっとやり過ぎたかなって反省してるわ」
 マーカスと目が合い、お互いにふっと笑ったわ。
 そこへ、パロさんが話に加わってきたんだ。
「ちょっと良いかしら。マーカスさん。お話があります」
「なんでしょう?」
「例の写真のモデルの話ですが、正式にお断りさせてもらうわ」
 パロさんは自分が写った写真の束を取り出すと、それらを次々と破ってはマーカスの前に捨てていった。
「パ、パロさん・・・」
 せっかく綺麗に撮れていた写真が何だかもったいないような気がして。
 でもパロさんは、晴れ晴れとした顔で写真を破り続けていたわ。
 やがて最後の一枚をマーカスの前に投げ捨てたところで、あたしに向って頭を下げてきたの。
「マナ、冒険者を辞めたいなんて言ってごめんなさい。だけどもう迷わないわ。これからも冒険者としてやって行きたいの。だから、今後も私とパーティを組んでもらえないかしら」
 パロさんのその言葉に思わず涙が出そうになった。
 だってあたしの答えは最初から決まっていたから。
「そんな、こっちこそお願いします。これからもあたしやシン君と一緒にパーティを組んでください」
「マナ、ありがとう・・・」
「うう、パロさーん・・・」
 パロさんと抱き合って、二人で一緒に泣きだしたりして。
 ふう、これでこの問題は解決かな。
「ところで、マーカスはこれからどうなるの?」
 気になったのでパパに聞いてみた。
 あれだけのことをしたんだから、アルビシアのお役所に突き出されるのかしら?
 でも、それも何だか気の毒な気がして・・・
「そうだね。もしマナが許してくれるなら、彼を役所へ渡すのは止めようと思う」
「本当?」
「ああ。ただし島から出すことは許さないよ。彼にはこの神殿の復旧作業を手伝ってもらおうかと思っているけど、どうする?」
 今回の事件でこの神殿もあちらこちらが崩れ落ちてしまったわ。
 これを直すには、確かに人手が必要よね。
 パパに聞かれたあたしはもう一度マーカスを見つめたの。
 マーカスは何も言わずに、ただあたしの言葉を待っていたわ。
「もしもマーカスが本当に反省しているなら、そうしてあげて、パパ」
「それで良いんだね、マナ」
「はい」
「マナちゃん、ありがとう」
 マーカスが深々と頭を下げた。
「あー、それならマーカスさんにもう一つお願いがあるんだけど」
 と、これはママ。
「お願いって?」
「観光客相手に写真を撮ってもらえないかしら。それを売れば良いお土産になるわ」
「分かりました。僕で良ければお手伝いさせてください」
「やった。これで決まりね」
「もう、ママったら」
 そこで、みんなが一斉に笑ったんだ。
 もう一つ、あたしには気になることがあったの。
 それを解決するために、みんなで地底湖を渡り、螺旋階段を上って大広間へ向かう。
 大広間へ出ると、そこには元通りたくさんのドラゴンたちがいつもの暮らしに戻っていたわ。
 その中に、あのファイアードラゴンの姿もあった。
「サモン、ドラゴンパピー」
 あたしは静かに召喚の言葉を紡ぎ、モモちゃんを呼び出してやった。
 そうよね、モモちゃんとは必要に迫られて召喚契約しちゃったけど、本当はまだまだ子供なんだから。
 きっとお母さんの傍にいたいはず。
 だからこのままあたしが連れて行くわけにはいかないわ。
 ここで契約を解除して、モモちゃんをお母さんの元に返してあげなくちゃ。
「モモちゃん、短い間だったけどありがとう。お母さんと仲良く暮らしてね」
 ピー。
「ホラ、早くお母さんのところへ行きなさい。どうしたの、モモちゃん?」
 ピー、ピー!
 あたしがいくら背中を押してやっても、モモちゃんはお母さんのところへ行こうとしないの。
 それにお母さんのほうもモモちゃんに対して素っ気ない態度を取っているような気がして・・・
「どうしたのかしら?」
「きっとその子もマナと一緒にいたいのよ。遅かれ早かれ、子供はいつか親元を離れるものよ」
「ママ・・・」
「マナ、もしマナが嫌じゃなかったら、そのドラゴンパピーを連れて行ってあげなさい」
「パパ、良いの?」
 あたしが聞くと、パパもママも、そしてパロさんもシン君も黙ってうんうんと頷いてくれた。
「それじゃあモモちゃん、あたしと一緒にダリアへ行ってくれるかな?」
 ピー!
 今までで一番大きな声で鳴くモモちゃん。
「よし、決まりだよ。モモちゃんはこれからもずっとあたしのお友達だからね」
 ピー。
 ドラゴンにしてはまだまだ小さい、でもあたしの身体よりもずっと大きいモモちゃんをギュッと抱き締めてあげたんだ。

 その後はみんなで海で泳いだり、山の中を散策したり。
 そうそう、ジェイクさんのお母さんのお墓参りにも行ったわよね。
 あとは神殿の復旧作業のお手伝いなんかをしたりして、南の島でのバカンスを満喫したんだ。
 やがてアルビシアに滞在してから二週間が過ぎ、いよいよダリアへ戻る船に乗る日がやって来たの。
「マナ、ママ寂しいわ」
「もう、ママったら。今度はママがダリアに遊びに来てよ。ジェイクさんやベアさんも待ってるわよ」
「そうね、ママ、きっと行くから」
 まだぐずるママを何とかなだめて、パロさんとシン君の三人で船に乗り込む。
 見送りはパパとママと、アルビシアに残ることになったマーカスさん。
 そう、マーカスさんとはすっかり和解して、今では以前のように良い関係に修復できたわ。
 やがて出港を知らせるドラが鳴った。
「ママー、パパー、行ってきまーす」
「マナー、元気でねー」
 ママってば、最後まで泣き通しだったんだから。
 ファイアードラゴンのお母さんのように、ママにも早く子離れして欲しいものだわ。
 帰りの船は一週間の旅。
 その間もにぎやかに過ごしたの。
 船長さんに新しくお友達になったモモちゃんを紹介したら、とても驚いていたわ。
 そして、あたしたちはようやくダリアの街に帰ってきた。
 たくさんのお土産を抱えてジェイクさんの家へ。
「おー、帰って来たか」
「ただいま、ジェイクさん」
「そうそう、思い出したよ。あのマーカスってヤツ。
 確か腕の良い召喚師だったんだけど、パーティのメンバーと折り合いが悪くなって冒険者を辞めたんだったな。どうだ、何か変わったことはなかったか?」
「だあぁぁぁ」
 ジェイクさんの言葉を聞いて、あたしたちはみんなその場にへたり込んでしまった。
「んっ、どうかしたか?」
「ジェイクさーん、そういう大事なことはもっと早く思い出してくださいよー」
 ガックリとうなだれるあたしたちを前にして、不思議そうに首を傾げるジェイクさん。
 さすが、あのママのお友達だけのことはあるわよねえ・・・

   ☆   ☆   ☆

 パパ、ママ、アルビシアではお世話になりました。
 三人とも無事にダリアに帰って来れたわ。
 島でのママの話をしたら、ジェイクさんもベアさんも懐かしいって大騒ぎ。
 今度はママがこっちに来るように、あたしからも頼んでくれって。
 あたしはこれからも、パロさんとシン君の三人でパーティを組んでやっていくわ。
 もっと修行して、パパやママに負けないくらい強い冒険者になれるよう頑張るからね。
 あなたたちはあたしの憧れです。
 マナより。

サマナ☆マナ!3・・・END