ジェイク7

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エピローグ2

 翌日、オレは一大決心を固めていた。
 固めてはいたんだけど、なかなか踏ん切りが付かない。
「ジェイク、まだぁ?」
「いやもうちょっと・・・」
「手伝ってあげようか」
「いいよ」
 部屋の外にいるエイティの申し出を強引に断る。
 オレの目の前には一着の水着。
 そう、島に来る前にエイティがオレ用に買ってくれた、ピンクのワンピースのヤツだ。
 この水着を着て海に行き泳ぎを教えてもらう・・・というのが今日の予定なんだけど、イザ着ようとするとこれがまた恥ずかしいやら勇気がいるやらで。
 かれこれ30分近く水着とにらめっこをしていたんだ。
「ジェイク、いい加減にしないと無理やり着せちゃうわよ」
「分かったよ!」
 こうなりゃヤケだ、オレは着ているものを全部脱ぎ捨ててピンクのワンピースに着替えた。
 人生初の水着姿だよ、ハハハ・・・

 ようやくのことで着替え終わったところで宿を出る。
 さすがに水着姿のまま出かけるわけにはいかないから、今はその上に巫女のローブを着ているけどな。
 海岸に着くと、先に宿を出ていたベアが一杯始めていた。
 昨夜島の人との宴会で浴びるほど飲んだはずなのに、今日も朝から飲むのかよ。
「よう、待ったぞ二人とも」
「ごめんねベア。ジェイクがなかなか着替えてくれなくて」
「だってなあ・・・」
 恥ずかしいんだぞ、と言いたかったけど言葉が続かない。
「さあジェイク、ここまで着たら覚悟を決めようね」
「うむ、男は度胸だぞ」
「いや、オレ女だし・・・」
 エイティとベアの期待に満ちた視線が突き刺さる。
 その視線の意味するところは「早くローブを脱げ」の一言だ。
 もう泣きたくなってきた。
 観念して巫女のローブを脱ぐ。
 生まれて初めての水着姿を人前で披露するのはとんでもなく恥ずかしい。
「きゃあ、カワイイ!」
「なかなかのものじゃないか、ガハハ」
「見るな、頼むから見ないでくれ」
 自然に手が動いて胸やら足やら隠そうとするんだけど、隠しきれるもんじゃない。
 そこへ追い討ちが来た。
「ほう、そんな恰好をしているとやはりお前は女なんだな」
「ランバート! どうして・・・」
 まさかここへランバートが来るとは思っていなかった。
「私が呼んだのよ。一緒に楽しみましょうって」
「まあ来るだけは来てやった。昨日の礼も言いたいしな」
 どうやらエイティがランバートを呼んだらしい。
 ったく、余計なことを。
 ベアがいるだけでも恥ずかしいのに、これ以上男の目を増やさないでくれ。
 しかしそんなオレには構わずランバートが話し始めた。
「まず謝らせてくれ。
 ジェイク、エイティ、ベア、そしてボビーも。昨日は済まなかった。特にジェイクにはいくら謝っても謝りきれない」
「だからいいって」
 ランバートに殊勝な態度で頭を下げられるとこっちの調子まで狂ってくる。
「ランバート、体調はもう良いの?」
「ああ、傷のほうはなんとかな。だいぶ出血したようだが、それもじきに回復するだろう」
 ダイヤモンドドレイクになっていたとは言え、エイティはランバートを聖なる槍で貫いたからな、心配なんだろう。
 まあ、その傷を治療したのもエイティなんだけどな。
 昨夜の宴会の最中も時どき席を外してはランバートの所へ行って治療呪文を掛けていたらしいし。
「ただ、病気は治らなかったようだ。俺の命もあと五十年だな」
 ふっと自嘲気味に笑うランバート。
「それじゃあその五十年、思いっきり楽しみましょう。大丈夫よ、ランバートはもう一人じゃないわ。私・・・達がいるじゃない」
「そうだな、それも良いだろう」
「よし決まり。まずは今日という日を楽しみましょう。さあ、泳ぐわよ」
 エイティが着ていた服を脱ぎ捨てるとその下は青いビキニ。
「エイティ、この前と水着が違うじゃねえか」
「あっ、気付いた? 全部で三着持ってきたからね。せっかくだから色々な水着を楽しみたいじゃない」
「水着を変えるのの何が楽しいんだよ?」
「ジェイク、それが女心ってものよ。さあ行きましょう!」
「おいエイティ、待て・・・」
 エイティに腕を引っ張られて海へと連れて行かれる。
 簡単に準備運動をした後でいよいよ泳ぎの練習だ。
 でもその前に気になったことを聞いてみた。
「なあエイティ、さっきランバートに言ったことなんだけどさ」
「それがどうかした?」
「『私達がいるじゃない』の『私』と『達』の間に微妙な間があったような気がするんだけど・・・」
 オレが言うとエイティは鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。
「何が言いたいのかしら、ジェイク?」
「エイティは惚れっぽいからさ、その気があるならちゃんと・・・」
「ジェイク、そんなこと言ってるとこの後地獄の特訓だからね」
「わっ、エイティ待て。助けてくれー」
 エイティがオレに飛び付いて水の中に沈めようとするのに必死に抵抗する。
 こうしてオレの泳ぎの特訓が始まったんだ。

 特訓の甲斐あって、何とかバタ足程度なら泳げるようになった。
 一段落したところで海から上がって一休みだ。
 ランバートが用意してくれたサンドウィッチとお茶でランチを楽しむ。
 その最中もエイティは何かとランバートに話をしていたからな、やっぱり満更でもないんだろうよ。
「オレ、もう少し泳いでくる」
 腹ごしらえもできたところでもう一度海へ。
 一通り泳ぎの復習をこなしたところで仰向けになって海面に浮んでみた。
 そのまま波の流れに身を任せる。
 フワフワとした浮遊感がなんとも気持ち良い。
 南の島の太陽が眩しくてじっと目を閉じる。
 すると今までのことが次々に頭の中に浮かび上がってきた。
 ベインと過ごした旅の日々。
 初めてエイティやベアと出会った時のこと。
 海賊相手に戦ったりもしたよな。
 エルフの森の神殿では、オレの出生の秘密に近付いた。
 ピラミッドへ行った時は数々のトラップに泣かされたっけ。
 乗っ取られたレマ城を奪還するための悪魔軍団との壮絶な戦い。
 思いがけずに死者の世界へ行って、ベインとも会ってきた。
 そして今回はドラゴンの神だ。
「色々あったよな・・・」
 そう、そんな色々な経験を重ねたからこそ今のオレがいる。
 男として生きてきたオレだけど、それももう終わりにしても良いよな。
 これからは肩肘張らずに自然体で生きていけばいい。
 ル'ケブレスも言ってたじゃないか、『男とか女とかは小さなことだ』って。
 そう、オレは人として生まれてきた、そのことに誇りを持って生きていけば良いんだ。
「でも・・・これからどうなるんだろうな?」
 街に帰ってからどうなるのか、ちょっと想像が付かない。
 今までオレを男だと思っていた人達に何て説明すれば良いのか分からないし、冒険者カードは男として登録されているから、その扱いも問題だ。
 不安なこともたくさんある。
 けど・・・
「まっ、なんとかなるだろ」
 今までだって何とかなってきたんだ、きっとこれからだって何とかなるさ。
 だってオレは一人じゃないんだから。
 エイティやベアの他にも、今まで出会った多くの仲間がいるんだから。
 オレはただ、誇りを持って生きていけば良いんだよ。
 女として生まれたことに。
 そして、人として生きていくことに。

ジェイク7・・・END