ジェイク4

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エピローグ

 ピラミッドから脱出するのに一回。
 そして一気に砂漠を越えるのにもう一回。
 連続マロールで一気に町まで帰って来た。
 冒険が終わり、ホッと一息つける瞬間だ。
 町外れでレンタルしていたラクダを返す。
 一頭失ってはいたものの、幸いにも保険が適用されて損害を請求されるような事は無かった。
「皆さん、今日はホンマにおおきに」
 ラッキーが何度目かのお礼を言うと共に、ズッシリと中身の入ってそうな皮袋を取り出した。
「礼金や。受け取ってや」
「ありがとう」
 エイティが受け取るのを素早く横取りして中身を確認する。
「ジェイクはん、そんな疑わんでも。ちゃんと約束の金額が入ってるから」
「一応な」
 何たって朝の件があったからな。ここは確認しておかないと。
 幸いと言うか何と言うか、袋の中には三人分の報酬がキチンと入っていた。
 これで一安心だ。
「それではワイはこれで」
 ラッキーが意気揚々と引き上げようとした時だった。
「ラッキー〜〜〜♪」
 通りの向うから、一人の女がラッキーの名前を呼びながら駆けて来ていた。
「おー、ルビー、今帰ったで」
「お帰り、ラッキー」
 女は、まるでタックルでもするかのように、ガバッとラッキーに抱き付いてきた。
 その様子に、オレ達はしばし呆然・・・
 やがて。
「あっ、紹介するわ。コイツ、ルビーいうんや。まあ、なんつーか、ワイの彼女なんやけど」
 ルビーと紹介されたその女、腰まで届かんばかりのフワフワの髪は淡いブラウン系。
 クリッとした目に顔にはソバカス。
 この土地の太陽の日差しを受けて肌は小麦色に焼けていた。
 既に日が沈んでいるからだろう、タンクトップにミニスカートと大胆に肌を露出させている。
 特徴的なのがそのボディラインで、いわゆるボン、キュ、ボンと出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいるという。
 オレなんかはともかくエイティですら及びも付かない程の見事なものだった。
「皆さん、こんばんは〜☆ ええっとぉ、どちら様でしたっけぇ?」
「ああ、この人達が一緒にピラミッドまで行ってくれたんや」
「そうだったんですかぁ。ラッキーがお世話になりました」
 ペコリとお辞儀をするルビー。
 見かけに寄らず礼儀正しい性格らしい。
「ラッキー、あなた・・・彼女がいたの?」
 信じられない、といった表情のエイティ。
「ああ、言わんかったっけ」
「聞いてないけど・・・でも彼女がいたのにあーんな事したり、こーんな事言ったりしてた訳?」
「あっ、いや、それは・・・」
 エイティの口撃にたじたじになるラッキー。
「なになに? ラッキー何かしたの? あー、また女の人にチョッカイ出してたんでしょ。もう、どうもすいません。ラッキーったらカワイイ女の子に弱いんですよぉ。何か変な事されませんでした?」
「まあ、色々とあったわね。いろいろとね」
「ラッキー!」
「あっ、いや、勘弁してや、ルビぃ〜」
 ルビーに平謝りするラッキー。
 そんなんだったら最初から変な事するなよって思うけどな。
「なぁルビー、機嫌直してぇな。ホラ、約束のモン見つけてきたで」
「えっ、それってひょっとして」
「ああ、ルビーの目玉や」
 ラッキーはさっとルビーの目玉を取り出すと、ルビーの目の前に差し出した。
「きゃあ〜〜〜☆ ラッキーありがとう、だーい好き♪ チュ」
「そっか、そっか。そら良かった。良かったなあ」
 ホッペにキスされてデレデレのラッキー。
 見せ付けられているこっちがバカみたいだ。
「そんなら皆さん、今日はどうもや〜。ほな」
「バイバーイ♪」
 ラッキーとルビーは抱き合ったまま行ってしまった。
「まったく、何だったのかしら、一体?」
「まあそうむくれるなエイティ。恋人の為に同じ名前の宝石を探していたんだろう。いいヤツだったじゃないか」
「あのねえベア、別に私はむくれてなんか・・・まあ良いわ」
「エイティさんにはボクがいます」
「そうよねえ。私にはボビーがいるわ。ねえ」
 エイティはボビーを抱き上げると、優しく頭を撫で始めた。
 ああは言っているけど、内心は複雑なのかも知れないな。
 女心ってのは難しいらしいからな。
 にしても、だ。
 恋人と同じ名前の宝石、か。
 ん? どこかで聞いたような気が・・・
 そうか、あの時の海賊の親分か。
 ヤツも確か自分の名前と同じ、シルバーの物を集めていたっけな。
 ったく、男ってのはどいつもこいつも単純だよな。

「ねえ、ジェイク、あなたまさかあんな男になりたいとか思ってないでしょうね」
「えっ? まさか。思ってねえよ、そんな事。思ってない」
「本当にぃ?」
「ああ。本当だって」
 エイティの追求をキッパリと跳ね除ける。
 オレにはラッキーのようなマネは出来そうもない。
 何故なら、オレとラッキーは明らかに違う生き物だからだ。
 ラッキーが見せてくれた、男の本能みたいな物はオレには無い、それだけは良く分かったよ。
「ところでさ、オッサンはオレやエイティに何か特別な感情とか持ったりしないのか?」
 ベアだって男だからな。
 ひょっとしたらひょっとするかも知れない。
「ワシか。そうだなあ・・・」
 ベアはそこで言葉を切ると、自慢の髭を撫で始めた。
「ジェイクはともかくとしてだ、エイティも良い女だとは思うが別に何とも思わんな」
「あら、それ失礼じゃない?」
「いや、やはり髭の無い女は物足りなくてイカン。昨日会ったあの娘などはキュートな髭が魅力的だったな」
「はっ?」
 エイティと二人、顔を見合わせてポカンとなってしまった。
 髭の生えた女?
 それも昨日会った・・・
「おー、昨日の兄さんじゃないの。どう、これから一杯」
「おー、昨日のセニョリータではないか。これは奇遇。たった今お前さんの事を考えていたところだ」
 ベアが、声を掛けてきたもう一人のドワーフと握手を交わしている。
 このドワーフどこかで見たような・・・
「あー、思い出した。昨日酒場で話を聞いたあのドワーフだ」
「という事はあのドワーフ・・・」
「女だったんだ・・・」
「嘘・・・」
 呆然としているオレとエイティを尻目に、ベアはさっさと女ドワーフと共に行ってしまった。
 分からねえ、世の中本当に分からねえ。
 ドワーフの女ってみんなあんな風に髭が生えていたのか?
 ひょっとしたら、今まで女と気付かずに接してきたヤツも結構いるんじゃないだろうか?
 て言うか、何でベアはあれが女だと分かるんだ?
 顔は髭だらけだし、声だって低くて野太いし、体型もずんぐりしているだろ。
 どこに見分け方があるのか、今度教えて欲しいもんだ。
「あーあ、男どもはみんな女の所に行っちゃったわね。ジェイク、後は女同士で一杯やりましょうか」
 女同士か、そんな言葉にも少しずつ抵抗が無くなってきたよな。
「ああそうだな。今日は本当に喉が渇いたよ。冷たいビールでも飲みたいよな」
「あー、ジェイクはまだお酒はダメでしょ。ジュースかミルクにしなさい」
「えー、そんなの子供の飲み物じゃねえか。オレもう大人だよ」
「ダーメ。君はまだまだ子供だから。言う事聞いてジュースにしておきなさい」
「何だよ、子供扱いなんかして」
「フフフ。でもね、君があとニ、三年したら、一体どうなっているのかしらね?」
「えっ?」
「何でも無い。さあ、行きましょう」
 あとニ、三年したらオレはどうなっているのか・・・
 そんなの今から分かるかよ。
 男の格好のままでいるのか、それとも・・・
 まあ良いや。
 今日はもう何も考えない。
 そんな事よりも早く酒場にでも行って、この喉の渇きを癒したいよ。
 今夜はとことん、飲んで飲んで飲みまくろう!

ジェイク4・・・END