文壇の間・三又様のお部屋・スペシャル

戻る


ケータイ日記2005
「思いがけない熱戦。」


<パーティ編成>

ユンカース ドワーフの戦士、自分に正直な中立。
シュヴァルツ 人間、生粋のサムライ、空気が読める中立。
ドワルニコフ ドワーフなのに盗賊、中立。
カチューシャ エルフ、生粋のビショップ、根は善人。

古いバージョンの携帯版では4人パーティだったので、
今回も4名で組んでみました。
上級職も2名いましたし、結果的にはレベルの上がり
具合もよく、成功だったと思っています。

では、ワードナ討伐のリプレイをお届けします。
いろいろ試して、結局小説形式になってしまいました。
こういうの書くのも久々です。

長文ご容赦。



<最下層にて>

もう、何度目になるのか。
最下層の回廊を、パーティは黙って歩き続けていた。

たったいま護衛の魔物を打ち破ったこの玄室へ足を
踏み入れたパーティは、そのまま城へ帰還するのが
暗黙のルールとなって久しい。

ここから次の回廊へ転移すれば、それはおそらく、
邪悪な大魔道師の立て篭もるこの迷宮の、最深部に
辿り着く一本道となるからだ。

それを確かめて生還したものはいない。
だが、不思議に誰もがそれを確信していた。
だから、あえて足を踏み入れ確かめることはしなかった。

そして、悪の大魔道師*ワードナ*を倒して魔除けを
取り戻すという冒険の目的は、いつしか形骸化して
いったのだった。

しかし、今日は違う。
今日に限って経験値も低い、稀少なアイテムを持って
いる可能性も薄い、いわゆる避けて通りたいような
護衛ばかりが玄室に現れ続け、しかもしつこくパーティ
へ微細なダメージを与えてきたが、パーティは黙々と
先を急いだ。

この玄室にいたってはドラゴンゾンビの先制攻撃を喰らい、
ブレスのダメージを癒すのにマディを1回消費してしまう
ほどだったが、引き返すつもりは毛頭なかった。

「まだ行ける」、は「もう遅い」。
先達の残した「鉄則」だ。
一行もそれを肝に銘じて、この迷宮で生き延びてきた。

そう、あのときまでは・・・



<最深部へのいざない>

その日、その回廊へ足を踏み入れてしまったのはまったくの
偶然からだった。
絶好調で護衛を撃破し、意気揚揚と帰途に着くはずだった
最後の玄室で、ドワルニコフが宝箱から取り出したアイテムを
うっかり取り落としてしまったのだ。
罠を調べる、解除する、アイテムを拾い上げる−−−−−
一連の動作を、まるで自動的な連鎖反応のように事務的に
こなしてしまったドワルニコフは、拾い損ねたアイテムを
お手玉しながら、姿勢を崩した勢いでワープゾーンへ・・・

一行はこうして、最後の玄室に足を踏み入れてしまった。
だが、救いはあったのだ。
意を決して進んでいた視線の先に、地味に輝く大魔道師の
事務所の看板とともに、反対側の壁に一瞬煌く「隠し扉」
の影が見え隠れしていた。

隠し扉の先は、この最下層のスタート地点、ワープゾーン
のすぐ隣の回廊であった。

こうして一行は、迷宮の最深部まで足を踏み入れながらも
城へと転移し戻ることができた最初のパーティとなった。

ただ、誰もそのことを他人に漏らそうとはしなかった。
メンバーはみな一様に、何かを思い悩むように黙り込み、
何かと葛藤しているようであった。


数日が経った頃、誰誘うともなく再び酒場に集まった
メンバー達は、各々、冒険の身支度を済ませていた。
合図もなく町外れへと向かい、名残を惜しむかのように
城塞都市を仰ぎ見る。

彼らは取り戻したのだ。
冒険の目的を。戦う意義を。
アイテム集めと経験値稼ぎに明け暮れる毎日を捨ててなお、
命を賭して余りある名声を目指す決心を固めたのだ。

4人の冒険者たちはここではじめて互いの顔を見合わせ、
声なく頷くと、これが最後になるかもしれない迷宮行へと
旅立っていった。



<再び、最深部にて>

隠し扉の存在は、パーティに大きな安心をもたらしていた。

ワードナがどんな呪文を操ってくるのかわからないうえ、
ひとりで冒険者を待ち受けているほど呑気者でないことは
明らかだ。

最後の護衛はどんな強者なのか。
ワードナの呪文とのコンビネーションはいかほどの威力か。
それがわからないうえ、この玄室自体が罠である可能性も
否定はできない。
マロールのある7レベルの呪文は当然、使い果たしてしま
うことだろう。
そのとき、城へはどうやって戻ればいいのか?

あらゆる不安が渦巻いている、この最後の回廊が、幾度と
なく踏破してきたほかの回廊と同様に城へのワープゾーン
へ繋がっているとわかっただけでも、パーティにとっては
百万の味方を得た思いなのであった。

やがて、一行は最後の扉へと辿り着く。
扉の看板には、

悪の大魔道師*ワードナ*

の記名がある。


ドワルニコフが扉の向こうの物音を伺っている。
シュヴァルツも「気」の流れに注意を払う。
なるようにならぁな、という表情のユンカースも、
まだ見ぬ最後の敵との戦術、兵法を頭の中では計算し続けて
いる。

「気」を読みかねているのか、シュヴァルツは眉をひそめた。
ドワルニコフも扉から身を離した。
もとより奇襲を狙おうとするほど、幸運に期待してはいない。
一行は意を固めた。

「行くか」
「行こう」
言葉は交わさず、視線で頷きあっただけで、


4人は最後の扉を蹴り開けた!





<第一ターン>

扉の向こうに待っていたものは、激しい氷の嵐だった。
玄室に転がり込んだ一行は、信じられないスピードで詠唱される
ラダルトの呪文のただ中にいた!

ラダルトの使い手は、悪の大魔道師・・・

*ワードナ*!

奇襲同然のスピードで魔法力を呼び起こしたのは、太古に滅んだ
はずの高速言語のなせる業だった。
迷宮最深部の濁った空気が、鋭い氷の刃となってパーティに降り注ぐ。
準備万端整えていたはずのパーティの一行に、敵は突然襲いかかって
きたのだ。

34〜98ダメージの先制攻撃!


しかも、そのダメージさえ感じることのできない者もいた。
ドワルニコフが、氷刃の吹雪の痛みよりも激しい衝撃を受け、
その場に崩れ落ちる。

呪文の巻き起こす疾風よりも素早く、パーティの只中に切り込ん
できた敵があったのだ。


バンパイアロード!


伝説に語られた闇の貴族が、邪悪な意思の忠実なる影となって
この迷宮に潜んでいたのだった!


ドワルニコフは、痺れて動けなくなった!
ドワルニコフは、4レベル下げられた!


どんなに豪華な革鎧とて、闇の貴族が繰り出す麻痺爪の前には
ボロキレ同然であった。

仕留めた獲物に見向きもせず、ドワルニコフから引き抜いた爪先を
カチューシャのいる後列へ鋭く振りかざすバンパイアロード!
カチューシャの喉元に、闇の貴族の熱い眼差しが注がれる。

そのとき、己の凍傷も構わずに、間に割って入ろうと駆け出した
のはシュヴァルツだった。
村正を下段に抜き放ち、バンパイアロードの腕を刎ね上げようと、
居合の構えを整える。

しかしそれを待っていたかのように、背後から飛びかかる下僕の
バンパイア!
真紅に汚れた爪先が、シュヴァルツの体にも麻痺毒を打ち込んだ。
崩折れるシュヴァルツ。


シュヴァルツは、痺れて動けなくなった!


バンパイアロードの動きは、最も体力のあるドワルニコフへの
4レベルドレイン麻痺攻撃であったと同時に、村正の使い手の
動きをも封じる「罠」であったのだ。


もう一体のバンパイアが、ユンカース目がけて突進してくる。
彼の「英雄の鎧」がその爪先を弾き返したのは、持って生まれた
強運の成せる業であったろう。
しかし、この時点で、この玄室へ飛び込んだわずか数十秒の間に、
パーティの戦力は半分に減らされてしまっていた。

敵は総勢4名。
予想していたよりは、遥かに少数パーティの「最後の敵」だ。
しかし立ち向かうことのできる味方の数は、いまやその半分しか
いないのだ。



<第二ターン>

カチューシャは、息を整える間も惜しむように呪文を唱えはじめ
た。
バンパイアたちの唱える片言の攻撃呪文よりは、素早く詠唱を終
える自信はあった。
だが、あの魔道師の次の詠唱を上回れるかどうか−−−−!

カチューシャが視線を巡らせたとき、ワードナの姿はすでにそこ
になかった。
だが、もう気にしてはいられない。
カチューシャは一気に詠唱を締めくくった。

同時に、清らかな鎮魂の祝詞が玄室に響き渡る。
闇の貴族を滅ぼすために、幾世代にも渡って研究され
磨かれてきた呪文の発動。

カチューシャは、ジルワンを唱えた!
バンパイアロードは、死んだ!

ワードナの呪文が来れば、自分は確実に耐え切れない。
そう判断したカチューシャは、攻撃呪文の使い手として、
自分の命があるうちにバンパイアロードを確実に滅ぼし、
パーティへの危険をひとつでも減らす道を選んだのだった。
ワードナが唱えてくるであろう、強力な攻撃呪文と、
刺し違えてもいい覚悟であった。

ところが、ワードナは呪文を唱えてはこなかった。
驚くべき体術でバンパイアロードの遺骸を飛び越え、
一気に間合いを詰めた老魔道師は、濃紫色のローブを閃かせ
身動きの取れぬドワーフへ手刀を振り下ろしたのだ。


ドワルニコフは、首をはねられた!


咄嗟にユンカースが、愛用のメイスをワードナへ振り下ろす!
手応えはあった!

7回あたり、70のダメージ!

しかし、一撃必殺の感触ではない。
ワードナは、ふたたび一足飛びに戦列から離脱していった。

ユンカースは、ローブ一枚纏っただけの老人を殴り倒したに
しては重過ぎる痺れを、メイスを持つ手に感じていた。


君主を失った下僕のバンパイアは一様に混乱し、ある者はマハリトを、
ある者はモリトを唱え、主人の仇を遠ざけようとしている。
凍傷で傷ついたパーティに、容赦ない炎雷が浴びせかけられる。



<第三ターン>

カチューシャの体力はもはや1/10も残っていなかった。
しかしカチューシャに迷いはなかった。
パーティの戦力を回復しなくては−−−−−!
回復呪文特有のあたたかい「気」が玄室を満たす。

カチューシャはマディを唱えた!
シュヴァルツは全快した!

バンパイアはなおも残った魔力を使い、己の身を守るためだけに
下級の攻撃呪文を繰り返してくる。
マハリト、メリトの火球が、カチューシャを直撃した。

カチューシャは、死んだ!


ワードナは、ゆっくりとユンカースに向き直った。
呪文の詠唱。
高速言語ではないが、しっかりとした発声。

しかし体力は、半分も残ってはいるまい!
続けざまに、メイスを振りかざすユンカース。
こいつさえ倒してしまえば−−−−−!
ユンカースは渾身の力を込めて、メイスを振り下ろした!

骨をも砕く感触!10回あたり、74のダメージ!

ワードナの動きが止まった。
「力のメイス」は深々と、濃紫色のローブにめり込んでいる。

しかし、半分以上も埋もれたメイスの向こうで呪文の詠唱は続いて
いたのだ!!


ワードナはマダルトを唱えた!


ユンカースは猛烈な吹雪に弾き飛ばされ、さらなる凍傷が64の
ダメージを与える!
何事もなかったように佇むワードナ。
その口元からは、最強の攻撃呪文の詠唱が始まっていた。




<第四ターン>

一方シュヴァルツは、残された「魔法使い」としての使命を冷静に
果たそうとしていた。
静かに印を結び、精神を集中して呪文を詠唱し始める。
途中、ワードナの放ったマダルトが体力の半分以上を奪っていったが、
サムライとしての集中力は、そのダメージにも怯むことはなかった。

なおも混乱し、効果の薄い攻撃呪文を唱え続けるバンパイアの群れ
よりも素早く、遥かに効果の高い攻撃呪文を詠唱し始める。

それはワードナの口から漏れ聞こえてきた、同じ呪文の詠唱よりも
一呼吸早く完了できるタイミングであった。

シュヴァルツは、ティルトウェイトを唱えた!

バンパイアは、死んだ!
バンパイアは、死んだ!

ワードナは、呪文を、邪魔した!


!!


最強の攻撃呪文をも無効化する、トレボーの魔除けの魔力の凄まじさ!
しかし、無効化したとはいえその衝撃は、同じ最強呪文でパーティに
とどめの手を伸ばしかけていた悪の魔道師、ワードナに一瞬の怯む時間
をもたらした!
あとひと言で完成する、ワードナ最後の詠唱が途切れたその瞬間−−−−−!

ユンカースは、ワードナを激しく突いた!
そして9回あたり、64のダメージ!

ワードナは、死んだ!

ユンカースは、魔除けを手に入れた!






<城への帰還>

あとはもう、無我夢中だった。
玄室を出、隠し扉に飛び込んだものの、
どこをどう歩いたものか定かではない。
気づけば城下で、近衛に囲まれ賞賛の嵐を浴びていたのだった。


*おめでとう!*

誇りを持って、称号 > を付けなさい!


こうしてパーティは騎士の称号シェブロンを受け取り、
カント寺院でカチューシャとドワルニコフも無事生還した。




<エピローグ>

レベルが4も下がるという大打撃を受けたにも関わらず、結果的
に他のメンバーとほぼ同じレベルに留まっていられたのは、ドワ
ルニコフの盗賊としてのレベルがもともと高かったからだろう。

大儀は果たしたが、迷宮にはなぜか魔物が徘徊し続けている。

盗賊の短刀を見つけて忍者となり、ずっと保管してきた手裏剣で
腕試しをするようになるのかどうかはまだ決めていない。

カチューシャも同様だ。
ビショップとして僧侶呪文を最高位、レベル7まで極めるべきか、
いまだ決めかねている。

シュヴァルツとユンカースも、賞金をもらって、さっさと旅暮らしに
戻るはずだったが・・・

4人ともなぜか城下を去ろうとはしないのだった。


別れがたいものを皆感じているのかもしれない。
あるいは、より強力な武具や経験を求めて、いまいちど迷宮へ足を
踏み入れるつもりなのかも知れない。
しかし4人は誰言い出すともなく、今日も酒場に佇んでいる。

この後、彼らがどうしたのか、誰も知らない。


<おしまい>