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「さぁーて……やっと出番ね」
彼女はそう呟いた。その瞳には欲求が満たされる事を切望する色で彩られている。そ
の事実に疑念を挟みようもない。
『アスカ、どぉ?』
いつもは鬱陶しさすら感じるミサトの問いかけも、今の自分にはアクセント代わりに
丁度よい。景気よく返事を返す。
「いつでもいいわよ。
情報は何かある?」
『この間取り逃がした【第三使徒】であることが確認されたわ。
マヌケ顔が増えているけど、完全には回復していないらしいわ。
腕が一本無くなったまま、片腕よ』
「そんな、どうでもいい事じゃなくって!
他には!?」
『無いわ』
ミサトの軍人らしい何の芸もない答えは面白くなかったが、まぁそれはしょうがない。
獰猛さすら感じる笑みを浮かべてアスカは独白した。
「つっかえないわねー…いいわ。
シンジの食べ残し、ってのが気に入らないけど、【使徒】を殲滅するのがアタシの役
目、華麗にキメて上げる。
ファースト!」
『…何』
「これがワタシの本当のデビュー戦なんですからね!!
アタシの足引っ張るんじゃないわよ」
『…アナタ、戦うの…初めてじゃないわ』
「【使徒】戦は初めてよ!」
『…インド洋』
「ア、アレはノーカウントよ!」
『…そう』
「何よ、何か言いたいの!?」
『…何も。私はただ命令に従うだけ』
「あー、もう! ゴチャゴチャ云ってんじゃないわよ!
バカシンジが居なくて安心したら、ファーストがこんなだったとは誤算だわ」
『…アナタ、寂しいの?』
思いもかけないレイの問い掛けは、アスカに小さからぬ衝撃をもたらした。
「なっ、何いってんのよ!? そ、そ、そ、そんなことある訳無いじゃない!」
『そう…』
レイの静かな返答に如何に応じるべきかアスカが迷っているところへ、ミサトの通信
が割り込んだ。
『はい、はい、はい、はい。
アスカ、レイ! おしゃべりはそこまで。
出撃よ!!
準備は?』
『…完了しています。』
レイは即答する。
何故か内心ホッとした安堵感にひたったため、アスカの返答は少し遅れた。
「いいわよ。
出して!」
2人の返答を確認したミサトは久方ぶりに発令所から命令を下した。
『発進!!』
スーパー鉄人大戦F
第七話〔彷徨:It wanders〕
Eパート
<ジオフロント・【ネルフ】本部第二発令所>
「エヴァ両機、第三新東京市地表へ展開。
目標まで15300!」
日向の報告がミサトへ告げられる。
「了解。
リツコ、何か判った!?」
「何も。
一見傷付いている様だけど、相手は【使徒】よ。
外見に騙されては駄…」
リツコの言葉をメインモニターの閃光と日向の報告が遮った。
「RPV(無人偵察機)全機撃墜されました! ビームの様なモノを撃ってきてます!
T3ICS監視網、定点センサー群へシフト!
戦術指揮に支障無し!」
嘆息してリツコは言葉を続けた。
「…駄目なようね」
「やってくれんじゃないの…二人とも、聞いているわね?
そーいう訳だから、前のデータ役に立たないと思って慎重に行きなさい」
『どーいう訳よ!』
「細かいことを気にしないの! とにかく慎重に、いいわね!
フォーメーションはそのまま。フォワード・アスカ、バックアップ・レイ」
『『了解』』
:
「データが役に立たないか…上等! 殺られる前に殺ってやる!
ファースト、ジャマしたらコロすわよ」
『…了解』
『目標、交戦圏に突入!』
チーフオペレータ日向の報告が響く。
『アスカ!』
ミサトの叱咤にも取れる声がアスカに飛んだ。
「判ってるわよ! 先手必勝ぉーっ!」
『全然、判ってないぃっ!!』
EVA弐号機が巨体に似合わぬしなやかな動きで駆け出した。その猛烈な加速は機体
背面気圧を一気に低下させ、急速に【第三使徒】へと接近する弐号機を追うようにして、
数条の水蒸気雲がたなびいた。
「でぇぇぇーぃっ!」
気合い一閃、弐号機は手にした全長 35mの大薙刀・ソニックグレイブを振り下ろす。
アスカが【第三使徒】への斬撃の命中を確信したときだった。
「!! 何っ!?」
【第三使徒】がブレたかと思ったら、視界から消え失せる。弐号機必殺の斬撃は空を
切り、地面を穿つ。
無論、アスカは次の瞬間には横へ転がるようにして、その場から逃れる。殆ど、無意
識の行動だった。
転がりながら辺りを確認すると間一髪であったらしい。【第三使徒】左腕パイルが先
ほどまで弐号機のいた空間を突き通していた。
【第三使徒】は攻撃が避けられたと確認すると、弐号機から飛び退きレイの乗る初号
機へ先ほどの弐号機に倍する勢いで迫撃した。
『…目標を確認、回避しま、くぅっ!』
初号機の居た区画で土煙が上がった。
「ファーストーッ!」
:
『ファーストーッ!』
初号機が【第三使徒】の体当たりを避けきれず、その線上にあったビル群を樹脂模型
のように跳ね飛ばした。
【第三使徒】の方はユラリと幽鬼のように佇み、つい今し方まで初号機のいた場所で
アスカ達を値踏するかのように見回していた。
「何よっ、あれ!
この前と全然動きが違うっ!」
ミサトの驚きに、データを確認しながらリツコは答えた。
「…ATフィールドの出力は大差ない…いえ、少し落ちているかしら。
今の初号機の出力で十分中和出来ている。
喪った片腕の再生に廻すエネルギーを運動機能の強化に使ったと考えるのが妥当ね」
リツコの解説を聞きながら歯軋りするミサト。彼女は素早く指示を発した。
「アスカ、レイ。EVAではスピード負けしているわ。
距離をとりつつ前後から挟撃して、目標を殲滅!」
『簡単に言ってくれるわね。了解!』
頭がふらつくのかレイの反応が遅れる。
『…了解』
「EVA初号機、シンクロ率3ポイント低下。
パイロットは多少の意識混濁を認めますが、怪我はありません。
装甲損傷率 17%、機能喪失部無し!」
EVA各機のモニターを行っているマヤの報告が響く。
元々レイと初号機のシンクロ率はシンジの本番ぶっつけのそれに劣る。当然、その事
実は初号機の動きに反映されていた。ダメージでシンクロ率が落ちた今ならなおさらだ。
そんな獲物の様子を【第三使徒】は見逃していなかった。T3ICSを通して、【第
三使徒】の動静をつぶさに観察・解析するMAGIの戦術報告を見て、日向が叫んだ。
「目標、初号機へ狙いを絞ったようです!」
ミサトは舌打ちして、命令を下す。
「アスカ、初号機へ【使徒】を近づけないで!」
モニターに映し出される弐号機は、【第三使徒】の疾さに翻弄されていた。それでも
過酷な訓練をくぐり抜けてきたアスカである。精々一次装甲の表面処理がささくれる程
度の被害しか受けていない。
『やってるわよ。
ちぃぃ、疾い!』
しかし、【第三使徒】の爆発的瞬発力は脅威だった。EVAパイロット一番の巧者で
あるアスカを持ってすら、多少行動を制限する程度の事しか出来ない。
「目標、初号機へ接近します」
「レイ、避けて!」
だが、ミサトの叫びも虚しく、再び初号機は宙を舞った。
もうもうたる土煙が後を追う。
土煙の先では、初号機が兵装ビルにもたれかかるようにして動きを止めていた。
「EVA初号機、活動を停止。
パイロットは意識を失っていますが、生命に別状はありません!
装甲損傷率 37%、機体機能損傷率 15%」
ミサトは弐号機に初号機を回収させるべく、【ロンド・ベル】の出撃を決断した。
前回、前々回の戦訓を踏まえて、MS隊等は予め機上待機状態で地表近くまで上げて
ある。
「くそっ!
【ロンド・ベル】に出撃要請します!
宜しいですね、ブライト大佐!?」
ミサトの確認に、指揮官に求められる威厳ある返答を返すブライト。
無論、この場面で異を唱える様な事はしない。
「当然だ。
【ロンド・ベル】待機中の各機、出撃せよ」
:
『【ロンド・ベル】待機中の各機、出撃せよ』
ブライトの命令がスピーカから響いた。
それを聞いたジュドー・アーシタは、面白く無さそうに呟く。
「まーったく、何で攻撃が効きもしないってのに出なきゃあ、なんないだろうなぁー。
そうは思わないか、ルー?」
『思わないわよ。そう思ってるんなら、ジュドー、アナタ(攻撃を)効かせてご覧なさ
い。…で、無駄口はソレぐらいにして。
仲間を見捨てる訳にはいかないでしょう?』
呼びかけられたルーは、彼女らしいつれない口調で応じた。ジュドーはそんな彼女の
返答が気に入らない。
「でもよー…」
そういってジュドーはやや弱腰で不満を表した。ルーのこめかみに青筋が薄く浮かん
だことに果たして彼は気付いていたのであろうか。
ルーは微笑みを浮かべて、ジュドーを呼んだ。
「…ジュドー」
「何だよ」
「あんまり、グダグダ言っているとリィナに言いつけるわよ」
その言葉にジュドーは恐怖する。
ルー達に怒られる位ならまだいい、誤魔化しも効く。だが、愛しの実妹リィナにだけ
は彼一流の欺瞞の一切が通じない。ようするに精も根も尽き果てるか、本当に反省する
まで解放してくれない。実妹ながらこの時ばかりは実に手強いイヤな相手だ。
「わかった、わかったよ。行きますってば!」
彼は慌てて、ルーに許しを請い最悪の事態を回避しようと努めた。それを聞いたルー
は勝ち誇る。そのまま彼女のペースで話を前に進めた。
『まあ、当然よね。
いい? 手順を確認するわよ。
打ち出されたら、目標へ最短コースで接近。交戦圏に入り次第ドッキングアウト。
以後は各自に戦闘へ参加。
いいわね?』
ルーの説明にジュドーは仏頂面で答えた。
「了解、了解」
『全くもう…【ネルフ】コントロール!
ジュドー・アーシタ、ルー・ルカ、【ReGZ】発進準備よろし』
『【ネルフ】コントロール了解。
カタパルトハッチ開放開始。全開放後、直ちに発進!』
それを聞きながらジュドーは通信回線スイッチを切って、つまらなさそうに呟いた。
「了解、了解。出ますよ、出りゃあいいんでしょ」
全く今日も厄日だ。そんな事を考えている事を推察するに難しくはなかった。実に分
かり易い。
その気の弛んだ所へルーの一撃。
『ジュドー、何か言った?』
「わわわわっ!」
聞こえていない筈のルーからの指摘はジュドーを大いに慌てさせる。通話スイッチを
確認しても切れている。彼女はそんな彼の様子に頓着する事無く、【ネルフ】コントロ
ールに応答を返していた。
『【ネルフ】コントロール、こちら【ReGZ】!
了解、ハッチ全開放後直ちに発進する』
モニターを見ると迎撃機用カタパルトハッチが開き外の光が差し込み始めていた。
:
レッシィは乗り慣れた愛機のコックピットで緩い上昇感覚を感じながら、ダバと段取
りを合わせていた。
『レッシィ、今日の相手は妙なバリアーを持っている。
気を付けるんだ』
「妙なバリアー?
もしかして、ここを攻撃したリィリィ達を追い返したっていう化け物モドキの仲間な
のか?」
『リィリィ?』
ダバが聞き慣れない名を聞いた、と言う顔をした。ダバには言ってあった筈だと思い
つつもレッシィは説明をし始める。
「ああ、私がここに潜入する前に、ここへ、ヘビーメタル隊を率いて攻め込んできた連
中がいただろう? あの時の指揮官だ。
あの時【オージェ】に乗っていた。十三人衆の一人だ」
『なんだ、あの【オージェ】この間の(テンシャン山脈包囲戦時のネイ搭乗機の事)と
は違うのか。
それはいいとして、話を元に戻すよ。
レッシィの云う通り、この前の化け物と同類らしい。けど、タイプが全然違う。どん
なデータを見たか知らないけど、多分、役に立たない。
気を付けていこう』
「了解…ダバもね」
『感謝する』
レッシィは通信を切って呟いた。
「感謝…か。軍では聞けなかったセリフだな。
【クロス】、行くわよ」
それに答えるように、彼女の【Cテンプル】イレーザードライブ出力が一瞬脈動した。
:
「さーてと、予想通り現れるとは芸のないヤツだ。
2機掛かりと殺り合って、追い返すまでは誉めてやる。
だけどな、前の借りはキッチリ耳揃えて叩き返してやるぜ。
タァ〜コ殴り、だっ!」
甲児は拳を突き上げて、モニター上の【使徒】へ喧嘩を売っていた。そんな彼の様子
を苦笑しながら【ゲッターロボ】パイロット・流竜馬は諫めた。
『甲児、意気込むのもいいが慎重に行こう。
明らかにアレはこの前とは違う』
竜馬の指摘を同パイロット神隼人が補足する。
『そうだ、甲児。あの動きがイイ【ネルフ】の機体が追い切れていない。
下手をするとこっちがカモられかねん』
が、そんな彼らの忠告に、甲児は自信満々で応じた。
「お二人さんとも言うことが違うねぇ。
けど、任せな。俺はガキじゃねえんだ。経験の差…って言うヤツを見せてやるぜ」
『けどよ、アレの相手は大変だと思うぞ。言いたかないがお前さんの【マジンガーZ】
やこの【ゲッターロボ】じゃあ、苦戦は免れんぞ。
クソ、こんな時に【ゲッターロボG】がありゃあなぁ』
同パイロット・車弁慶の言葉はやや高揚気味であった甲児に冷や水を浴びせる。
「うっ…」
甲児は一瞬息を詰まらせた。
この【ゲッターロボG】とは、早乙女研究所が今竜馬達が乗り込んでいる【ゲッター
ロボ】を完全に戦闘向けに再設計した極めて強力な機体だ。
一応惑星開発用多目的研究機として開発された原型機とは違い、当初から戦闘用途を
主目的に想定・建造された【ゲッターロボG】は、自らの存在理由を脅かすと考えた連
邦軍及び戦自首脳部に極めて不評であった。前大戦終結時には強制接収すら検討されて
いたと言う噂もある程だ(これを逃れるため、早乙女研から戦自に【ゲッターロボGo.】
と呼ばれる、簡易設計型の試作機と設計図を譲渡したと言われる)
甲児はDr.ヘルの策略によって奪取された【ゲッターロボG】を、竜馬達と合同で追
跡した。が、結果的に同マシン破壊、Dr.ヘル配下も取り逃がすという結末となる。
そのため【ゲッターロボG】再建造または新規代替機建造を早乙女研が連邦に働きか
けているが、管理不行き届き等々を理由に未だそれは実現していなかった。
当然このことを甲児は知っている。彼の性格を考えるにゲッターチームへ負い目を感
じていることは間違いない。
『『弁慶っ!』』
不用意な弁慶の発言を竜馬と隼人が叱咤した。今ココで言うべき事柄では無い問題だ。
無い物ねだりをするばかりか、甲児にも余計な心理的負担を加えてしまう。
弁慶もそれを今頃理解したらしい。応じる言葉も短く苦渋に満ちたモノであった。
『…すまん』
『甲児君、気にしないでくれ。
…Dr.ヘルの手に渡るのを防げた事で良しとするしかない』
だが、甲児の返答は優しくなかった。
「いいや、気にするぜ」
『甲児、すまんっ!』
甲児の言葉に弁慶は重ねて詫びる。
そんな弁慶の様子を揶揄するように甲児は言った。
「やっぱり、落とし前は付けなきゃあイカンよな。
取り敢えず、今日のところはあの化け物倒す事にするぜ。
Gの利子分ぐらいにはなるだろう?」
『『甲児…』』
感極まり、彼の名を呼ぶ竜馬と弁慶。だが、隼人の反応は少し毛色が違っていた。
『…お前さんにそんなキザは似合わんぞ』
「デッ!
…一言多いんだよ、隼人は」
『性分でな』
「…まぁいい、出番だ。行くぜ!
マッジーン、ゴー!!」
『『『応っ! ゲッターマシン、ゴー!!』』』
:
「ちょこまか、ちょこまかと鬱陶しい!
こっちは足手まとい抱えて、動けないってのっ!」
擱坐している初号機を背にアスカの弐号機が【第三使徒】を足止めしようと奮闘して
いる。
相手の方が動きがEVAとは比較にならないほど速いことから、近接白兵戦は余りに
危険であると判断され、今の弐号機は右手にパレットライフル、左にパレットガンと言
う中距離戦闘向けの装備に切り替えていた。
これが人間であったら、得物に振り回されるのがオチだが生憎と持っているのはEV
Aだ。安定には、事欠かない。
ただ、問題は【第三使徒】のA.T.フィールドを貫けない、その一点だけであった。
「ミサト、次の銃出しといて!」
『もう上げてあるわよ。13番ラックへスタンバってるわ』
「さっすが、ミサト。えぇい、寄るな、首無し黒タイツっ!」
アスカは素早くMAGIより転送された【第三使徒】行動予測を読みとって、パレットラ
イフルを叩き込んでいた。
火線があっけないほど【第三使徒】へと伸び、命中した。
近接戦闘で見せたあの動きならば、容易に避けられるはずであるが【第三使徒】は火
線を避けようともしない。無論、効いてはいないようだが、それなりのA.T.フィールド
を展開するために必要であるのか、足を止めてはいる。取り敢えずは、それでよしとす
るしかない。
もしかしたらあの動きは【第三使徒】に消耗を強いるのかも知れない。アスカの明晰
な頭脳はそう分析した。
だが、それでも懸念は山ほどある。第一、【使徒】の行動限界が判らない。悔しい話
だが多分自分一人相手では、先にこちらが消耗しきってしまうだろう、とアスカは推測
していた。
「えぇい、せめてフォワードも出来るまともなバックアップがいたら、こんなヤツもっ
と楽に片付けてやるのに!
敵なのに、敵なのに、敵なのにぃっ!!」
視野が狭窄したかと思うと、周りの全てが沈黙した。あるのは、斃すべき敵だけ。
アスカの心の中に何かが吹き出してくる。ドス黒い吠え猛る何かだ。それはアスカの
心を黒く染め上げようとする。
「敵…敵…敵! 殺す、殺してや…」
アスカが『ドス黒い吠え猛る何か』に支配されようとしていたその時だ。
『発令所、ブライト!』
『何だ?』
『シンジ君を見つけた』
『何ぃ!? 何処だ!』
その通信は狂乱しかけていたアスカに冷水を浴びせるようにして、冷静さを取り戻さ
せていた。
「…シンジ?」
《戻ってきてくれた…?》
それはかなり誤解があるのだがそんな事は彼女に判るはずもない。
彼女の脳裏に、ふとあのバカ助の顔が浮かぶ。
《なんで、ここであのバカが出てくんのよ!》
頭を振って愚考を振り払うアスカ。が、愚考とともにソレは今まで彼女を支配しよう
としていた『ドス黒い吠え猛る何か』をも、彼女の心から拭い去る。
狭窄していた視野が開ける。同時に周りの全てが再び自己主張を始めた。
『アスカ、前!』
気が付くとミサトが叫んでいた。
「!!
生意気なぁーっ!」
:
アスカが狂乱に巻き込まれようとしていた少し前、アムロはコックピット内での出撃
前最終点検に忙しかった
『アムロ、リミッターはファンクション15で解除出来ます』
「モーラ、判った。ありがとう」
モーラ整備長の言に言葉少なに答えるアムロ。口ではそういっているが彼の注意は戦
況確認に注がれている。
「で、戦況はどうなっている…?」
戦況を見て、アムロは呟いた。戦力差を鑑みるにはっきり言って負け倒していると言っ
てよい。戦闘開始早々に【ネルフ】機を行動不能にしたのはフロックではなさそうだ。
「云わんこっちゃ無い…シンジ君、君の抜けた穴は大きいみたいだぞ…」
アムロは出撃前データリンクチェックを兼ねた、戦域モニター確認を行いながら違和
感を感じた。
「うん……?」
手元のコントローラを操作して、画面を任意に切り替える。違和感を感じた画面を再
度パンして、目を凝らした。
「…人? 何処のバカが戦場でノコノコ歩いている、一体誰だ!?」
画面が操作に従ってズームする。人影の像が段々と鮮明になる。思わずアムロは叫ん
でいた。
「やはり、シンジ君か。えぇい、ややこしい所へ現れる!
発令所、ブライト!」
『何だ?』
「シンジ君を見つけた」
『何ぃ!? 何処だ!』
「戦場のまっただ中だ。
戦域モニター38番」
ブライトもシンジを確認したらしい。顔を引き攣らせて、アムロに命令した。
『…ア、アイツッ!
アムロ、あのバカ回収して、すぐ俺の所へ連れてこい!
葛城少佐!』
『アムロ少佐、サードチルドレン回収願います!
他の機体は【使徒】を牽制! 少佐と【ネルフ】機を援護!』
「了解した。
アムロ・レイ、【ジェガン・ハイストリーマー】出るぞ!」
開きつつある最終隔壁を前にアムロは、馴染まないスロットルを押し込んだ。
:
その頃シンジは、生身で大型機動兵器同士の戦闘に巻き込まれるという、なかなか得
難い過酷な体験をしていた。
流石に直接爆風に巻き込まれなくとも、30mを超える機体の余りに激しい機動は周
囲の大気を掻き乱し、人の身には十分以上の猛威となって、彼を襲う。
「うわっ! うわわぁぁぁっ!」
余りに風圧に外れた看板がシンジに向かって飛んでくる。
《!……、右に………!》
彼は何処からか聞こえた声に従う様にして必死でそれを避けた。
「ひっ!」
腹に響くゴツイ音を立てて、看板が地面を抉る。
間一髪で看板は彼を逃した。少しでも反応が遅れていたら今頃どうなっていたか、考
えたくもない。彼のアンダーウェアは先ほどより少し湿っていた。
:
「いけない、そっちはダメだ!」
看板がシンジを襲う様はT3ICSへデータリンクしていたアムロにも、伝えられて
いた。実際は画面に現れるよりも早くソレが飛んでくる事を判っていたが、流石にその
映像はアムロの肝を冷やす。
「右だ、右に避けろっ!」
アムロの叫びに従うかのように動いた。看板の陰へ隠れるシンジ。
「!? …聞こえた?」
看板の陰からシンジが現れるのは判っていたが、実際にケガ無く彼が現れて一瞬ホッ
とした。だが、急がなければいつ地面に赤黒いシミをブチ撒ける事になるか判ったモノ
ではない。
アムロの気が急いた。だが、今彼の乗機となっている【高機動型ジェガン】はその名
を裏切り、遅々として先に進まない。
「えぇい、動きが悪い。やはり高機動型とは言え、所詮は汎用か。
【アレックス】と同じレヴェルを期待するのは酷だな」
サイド1ジャンク屋店員イーノ・アッバーブが泣き言を言うような機体であっても、
彼の基準からすると到底合格点を与えられる機体では無かった。苛付くアムロが目を遣
ると、サブモニタ上ではシンジが依然として暴力的なまでに吹き荒れる風に翻弄されて
いた。
「だが…」
手早く手元のコンソールを操作して、リミッターを解除する。
「急げよっ!」
アムロは枷を取り払われ、ジャジャ馬振りを大幅に増した【高機動型ジェガン】のス
ロットルを目一杯押し込んだ。
:
先ほどの大看板からは辛うじて逃れたシンジであったが、それで彼の受難が終わった
わけではなかった。
大物小物、大小有害無害関わらず、辺りを飛び回っている。
「く、来るなっ!
どうして、僕の後を追い掛けてくるんだ!」
別段苦難が彼を追い掛けていた訳ではない。苦難の先を彼が走っているだけだ。彼が
懸命に逃げている間にも事態は刻々とエントロピー増大方向へと傾倒する一方だった。
視界の端を見ると、少し離れたビルに流れ弾らしき火線が吸い込まれた。
小さな着弾煙を上げたビルであったが、何事もなかったかのようにそびえ立っている
ように……見えた。
被弾したビルは突如として崩壊し始める。スローモーションのように崩れ落ちるその
光景はTV黎明期特撮セットより現実感に欠けていた。
途端に辺りを飛ぶモノが増え始める。
何かの一部らしい樹脂部品が彼の目の前に落ちたかと思うと、割れ散った。咄嗟にシ
ンジは腕で身体を庇おうとする。破片がシンジを襲い、腕や庇い遅れた顔に細かい傷を
付けた。
破片が飛び終えたかと思い、顔を上げると向こうから土砂流とも言うべき猛威が文字
通り怒濤の如き勢いでこちらに押し迫ってきていた。
その迫力にシンジは我を忘れた。いや、実際はこれから起こるであろう、自分に降り
掛かる現実の結果を、言葉では説明し得ない何かで考え感じていた。
そして一瞬でそれを終えたシンジのした事は、至極シンプルだった。
「…アスカ」
ただ一言の呟き。
それだけだった。
:
「間に合ってくれ!」
向こうからビル崩壊に伴う爆風が、その構成物や周囲の構造物を巻き込みつつ辺り一
面に伸び拡がり、今シンジをも飲み込もうとしていた。
悠長に拾い上げる間など、無い。アムロは覚悟を決めて、シンジの直前へ機体を飛び
込ませた。
そして、土石流に向けシールドを地面に突き立てた。
直後、怒濤の土と石と暴風の混合物が彼らを飲み込んだ。現役パイロットとしては余
り聞きたくない、機体やシールドを強打する音が聞こえた。
永遠の数瞬を経て、アムロはその音が止み始めた事を確認した。
「…シンジ君はどうした?」
全周囲モニタの下方へ目を向けた。そこには随分と汚れてはいたがシンジが五体満足
で少し呆けたような顔をしながらこちらを見上げていた。
アムロはひとまず安心して、外部回線を開き、下のシンジに呼び掛けた。
「僕だ、アムロだ。シンジ君大丈夫か。収容する、この手に乗ってくれ」
そういって、アムロは【ジェガン】の右手のビームライフルを地面に置き、空いた手
をシンジの前に差し出した。
シンジは一瞬迷って、その手へと乗る。アムロは急いでコックピット前までMSの手
を引き上げ、コックピットハッチを開いた。
「早く、乗れシンジ君」
「でも…」
「急げっ! 惣流君達が苦戦している。ボヤボヤしているとここで殺られるぞ!」
緊張感溢れたアムロの口調にシンジはそれ以上何かを言うことが出来なかった。
「あ……はい」
「補助シートに乗ってくれ、この裏だ」
コックピットに乗り込んだシンジへ、アムロはパイロットシートの後ろを指し示した。
その言葉に従い、パイロットシートの裏に回る。そこにはパイプを組み上げたような
如何にも"補助"と言う言葉を体現したかのようなシートがあった。
「乗ったか!?」
「は、はい。
あの…アムロさん、僕は…」
「ベラベラ喋るな…舌を噛むぞ!
くそ、何でこっちに気付く!」
モニタの先では今まで他を向いていた【第三使徒】が確かにこちらに向いてきていた。
:
【第三使徒】がこちらに身体を向けたかと思うと、古いソレを押しのけるようにして
生えていたマスクの眼窩から光が放たれた。
「ちぃぃっ!」
「うわっ!」
間一髪で回避するアムロ。だが、その急激な機動は補助シート上のシンジへ経験した
ことの無いGが襲っていた。
「【ネルフ】コントロール! こちら、アムロ!
シンジ君を回収した。支援を!
このままでは、後退できない!
…言っている先から!」
【第三使徒】がこちらへとダッシュしてきていた。流石に単純過ぎる攻撃衝動丸出し
のそんな動きは疾くはあるが、アムロの腕を持ってすれば避けられないモノではない。
ただ、逃げ切れるほど甘くもなかったが。
通信回線ではミサトが我鳴っていた。
『アスカ、アムロ少佐の後退を支援。援護射撃!
少佐、そこから西へ 14000のところに搬入出口があります。そこからリフトにてジオ
フロントへ入ってください』
「遠いっ! もっと近いところのヤツを教えてくれ!」
『ですが…』
「EVAの射出口があっただろう。ソレでいい。誘導してくれ」
『…了解。北西2プロック先にあります。モニタのナビに従ってください。
宜しいですね』
「そいつは【使徒】とか言うヤツに言ってくれ!
シンジ君、逃げるぞ! 歯を食いしばれ!」
再び、シンジの身体を強烈なGが襲った。
:
チョロチョロと逃げ惑うアムロ機を追って、離れる【第三使徒】。アスカはそんな敵
へパレットライフルを向けて牽制しようとする。
一応、足止め程度にはなるのだがもう一つ効果が薄いため、アムロ機が離脱しきれな
い。
また、効果を上げるため【第三使徒】への距離を詰めたいのだが、擱坐している初号
機が居てはそう言うわけにも行かない。あのとんでも無い動きをされて、アスカの護り
が無くなった初号機を狙われて喪ってはどうしようも無いからだ。
アスカの苛立ちが増す。
「全く、バカシンジの所為でっ!
この、このぉっ!」
今もアムロ機に飛び掛かろうとしていた【第三使徒】へ一撃を与える。アラームが上
がった。残弾がもう十数発しか無い。
「マズイ!」
アスカが舌打ちした。
その隙を衝くように、またもや【第三使徒】はアムロ機に飛び掛かっていた。
「舐めるなぁ〜っ!」
最後の一撃は【第三使徒】を叩き落とした。が、それだけだ。すぐに立ち上がり、再
びアムロ機との距離を詰めようとしていた。
アスカは叫んだ。
「ミサト、弾切れっ!」
『早く13番ラックへっ!』
「ダメ、間に合わない!」
アムロ機へと飛び掛かる【第三使徒】。だが、その突進はビルを突き破って伸びてき
た手に絡め取られて、強制的に停止した。
:
「やっと、捕まえたぜ…待たせたな【第三使徒】さんよ」
赤い壁が輝く。
絶対領域で自身に絡みつく【ゲッター3】の腕を押し退けようとしたのだろう。
それを見て、【ゲッター3】メインパイロット、車弁慶は不敵に笑った。
「A.T.フィールドだぁ?
…触れないっていうんなら、そのおかしな膜ごと掴むまでだ。
行くぞぉ、ゲッタァァ3ーッ!」
弁慶はそう叫ぶと、ニョキニョキと節操無くコックピット内にやたら生えているコン
トロールスティックの内操縦メイン系の2本を力強く掴み、この怪しさこの上ない鋼の
巨人を操った。
【第三使徒】に巻き付いた蛇腹腕が、軋みすら聞こえてきそうな様子で更に獲物を締
め上げる。
【第三使徒】は藻掻きながら抵抗している。時折苦しそうな痙攣すら見せていること
を見るとなかなか効果を上げているらしい。
『いけるぞ、弁慶』
「おうさっ! 甲児には悪いがコイツは俺が貰ったぁーっ!
大・雪・山・おろしぃーっ!」
風車の様に景気良くクルクルと回って、宙を飛ぶ。そして、投げ上げられた【第三使
徒】へ【ゲッター3】頭部両脇のミサイルがランチアップされ、【第三使徒】へと向け
られた。
「喰らえ、ゲッターミサイルッ!」
ミサイルが【使徒】へと真っ直ぐ飛び、吸い込まれたかと思うと盛大な爆炎が上がっ
た。爆炎の中からこぼれ落ちるようにして、黒い塊が煙から落ちた。
「どうだ!?」
『殺ったか!?』
だが、地面に落ちたかと思うと塊は再び直立し、動き始めた。行き先を読みとった隼
人が叫んだ。
『イカン、そっちには行くな!』
その先には工事中の区画を利用して改装中の【グラン・ガラン】が停泊していた。
:
「レッシィ!!」
ダバがそう叫んだとき、【第三使徒】が彼らの目前へと叩き落とされてきた。
急いでセイバーを持ち構える、2機のヘビーメタル。
【第三使徒】は身体の至る所から紫色の体液を流していた。だが、まだ斃れてはいな
い。いや、むしろ立ち昇る気配は依然として、闘争意欲に満ちていた。
ぎこちない動きをしつつ、【第三使徒】は立ち上がろうとしていた。
レッシィがダバを呼ぶ。
『ダバ、どうする!?
トドメか!?』
だが、それにミサトが割り込んできた。
『待って! もしかしたらやられた様に見せかけているだけかも知れない。
ここは【グラン・ガラン】へ行かないよう、牽制に徹するように!』
それはダバの懸念と一致していた。ダバはミサトの指示を了解する。
「了解。このまま【第三使徒】を牽制する」
【第三使徒】はそんな彼らを見るようにして、上体を右へ左へと迷わせていた。
『ダバ…どうする。
アレが効かないんじゃ、私たちの攻撃が効くとも思えない…』
「判っている…少し試したいことがある。
仕掛けるタイミングを合わせて、挟み撃ちする。いいね?」
『判った…(【第三使徒】が)動くぞ!』
仕掛けようとしないダバ達に興味を失ったのか【第三使徒】は【グラン・ガラン】方
向へと行こうとしていた。
「レッシィ!」
『よしっ!』
それを合図にして、2機は左右同時に斬り掛かる。
【第三使徒】は鬱陶しそうに足を止めずA.T.フィールドを展開した。右前からのレッ
シィの斬撃はソレで防がれる。だが、反対側左後ろから斬り込んだダバの一撃は【第三
使徒】を傷付けることに成功していた。
痛みを感じたかのように仰け反り、腕を振り回す。しかし、ダバは既に飛び退さって
いた。
「さぁて、恨みがあるわけじゃない。
だけど、簡単に行かせて上げるわけには行かないな」
そう言って、ダバは軽く唇を舐めた。
:
一方、動きのとれない【グラン・ガラン】艦内はてんやわんやしていた。改装のため
艦内が整理という言葉からはほど遠い状態であった上に、敵が間近まで接近していたか
らだ。
流石にナの国の兵とはいえど、動けぬままのところへ迫る巨大な敵への生理的な恐怖
心には勝てない。兵に動揺が奔る。
「何をしているか、落ち着け! 落ち着かんか!」
その中で一人、シーラは超然と玉座に佇んでいた。
彼女は軽く目を閉じる。
「狼狽えるな!」
彼女はとてもその大きいとは言えぬ身体からは想像できないほどの声で、叱りとばした。
「ナの国きっての武士(もののふ)が揃って、見苦しい!
カワッセ、艦内回線、開け!
戦況を報告!」
「はっ! 現在【グラン・ガラン】前方4200に大型強獣あり。
かの獣、当艦へと迫ろうとしておりますが、【ろんど・べる】隊士ダバ殿、レッシィ
殿のご尽力にて、その足を止めております」
「よい。では、【グラン・ガラン】へと迫るは幾ばくかの時間もあろう。
慌てるな!
砲門準備! 但し、撃ち方用意そのまま!」
「承知っ!」
「オーラバトラー隊、騎乗にて出陣待て!」
「はっ!」
「安心せよ、【グラン・ガラン】は陥ちはせぬ!
総員部署に着き、命令に備えよ!」
「「おぉ〜っ!」」
気勢を上げる兵を余所にシーラは一息つく。そんな彼女の傍らへカワッセが近づく。
「シーラ様、ここは危のうございます。
お下がりを」
「ならぬ。
それでは、今戦っている【ロンド・ベル】への不信を兵に与えかねない。
そうならないためにも私は【ロンド・ベル】の者達を信じて、ここに留まるとする」
「ですが…」
「それに…」
「何か、ご懸念でも?」
「アレには悪意を感じます。私はあの獣を見逃してならぬと、感じているのです」
「…御意」
かしこまるカワッセ。
シーラは【第三使徒】を鋭い視線を向けていた。
:
少し離れた兵装ビル屋上より、ダバ達の奮闘を見下ろしている漢が居た。
「少し出遅れたか…」
頭に巻いた真っ赤な鉢巻きが印象的だ。それは間違いなく流派東方不敗継承者、ドモ
ン・カッシュに間違いない。漢は度重なる波状攻撃にも屈せず、不可解な障壁で張りつ
つ猛烈な反撃を行う【第三使徒】を見据えていた。
「ふん、面白いヤツが来たものだな…
相手にとって不足はなさそうだ。では、行こうか」
ドモンの顔に笑みが浮かぶ。頬の古傷が浮かべる笑みで歪むと同時に彼の右腕が動く。
「でろぉぉぉぉっ!
ガァンダァァァムゥゥッ!!」
:
その頃、シンジは【ネルフ】本部へ到着していた。
アムロの【高機動型ジェガン】からアムロと降りるシンジ。そんな彼らの前には何か
を抑え込んでいるような顔をしたブライトがいた。
ブライトは性急に話を切り出す。その声は静かではあったが感情の猛りが潜んでいる。
そんな声だった。
「シンジ君、どうして逃げ出した」
「…乗りたくなかったんです」
「乗りたくない?」
ブライトの言葉に押さえていた辛辣なモノが混じり始める。それに触発されるように
して、シンジは感情を爆発させた。
「僕がいなくったって、エヴァじゃなくったって、【使徒】は倒せるんでしょう!!
だったら、僕がエヴァに乗る必要なんて無いじゃないですか!!」
「何を言っているか!!」
それを聞いて、ブライトはシンジを殴り飛ばした。
「!? い、いきなり何をするんですか!?
殴るなんて!
…父さんにも先生にも、殴られた事ないのにっ!!」
シンジの安っぽい反発をブライトは一喝にて一蹴した。
「甘ったれるな!! 殴って何故悪いか!!
貴様はいい、そうやって愚痴を言っていれば気が晴れるんだからな。
だが、今の貴様は、ただ逃げているだけだ!」
完全に迫力負けしているシンジは先ほどより小声であったが、なおも反発する。
「逃げちゃ…いけないんですか」
「時と場所を考えろ!! 自分に与えられた責任を果たさずに逃げ出してどうする!!」
「…僕が望んだわけじゃないのに…」
「だったら自分勝手に降りていいというのか!?
一度でも自分の意志でエヴァに乗り込んだことはないのか!?」
そう言われてシンジは気付く。あの時…【第三使徒】と初めて戦ったとき、彼は確か
に自分で決断してEVAに乗ったのだ。
シンジの反発する心が急速に萎え始めた。
「あ……そ……それは……」
ブライトの言葉は続く。
「始めは人に強制されていたとしても、自分で決めたことなら、最後までやり通してみ
せろ!
最低でもケジメはつけるものだ!」
「ケジメ…」
「そうだ。貴様自身のことなんだからな」
シンジはブライトの言葉を噛み締めた。
そんなシンジにアムロがダメを押す。
「シンジ君、君がエヴァに乗りたくないというのなら、せめてこの戦いが終わってから
にしてくれないか?
上では、惣流君達が苦戦している。彼女たちを見殺しには出来ないだろう?」
「…はい。そんなのはイヤです」
「そうしてくれ。辞めるにせよ、続けるにせよ、今だけは戦ってくれ。
キミの仲間…惣流君や綾波君…そして、みんなのためにも」
「みんなの…ため…」
そんなシンジを見て、納得したアムロはブライトに向いた。
「ブライト、俺はシンジ君をEVAのところへ連れていく」
「判った。急げよ!」
その言葉に既に背を向けていたアムロは手を挙げて、応えた。
:
『ケイジ内全てドッキング状態』
『パイロット、エントリープラグ・パイロットシートへ』
『パイロットシート定位置へ固定!』
『了解、エントリープラグ挿入』
『プラグ固定終了』
『第一次接続開始』
『エントリープラグへLCL注水開始』
オレンジ色をした血の臭いのする液体が流れ込んできた。その光景を見てシンジは少
し身を固くした。
《また、僕はこれに乗る…》
『主電源接続』
『全回路動力伝達』
『コントロール起動シーケンス・スタート』
『A10神経接続異常なし』
『初期コンタクト・オールグリーン』
『双方向回線、開きます』
『いけるわ、シンクロ率が殆ど落ちていない。』
『よっしゃーっ!
アスカ、待ってなさいよ、飛びっ切りの援軍送ってあげるわ!』
ミサトはそう叫んだかと思うと、ここに繋がっている回線へ向く。
『シンジ君、行くわよ!!』
ミサトがシンジに最後の確認とも言うべき声を投げかけてきた。
《今ミサトさんに返事をしたら、僕はこれに戦う…》
シンジの脳裏にそんな思いがよぎった。だが、彼の口は即座に開き、明確な返事を返す。
「はい」
『了解、エヴァンゲリオン零号機!
発進準備!!』
再び、オペレータ達の合唱が始まる。
『第一ロックボルト解除』
『解除確認』
『アンビリカルブリッジ移動』
『第一・第二拘束具除去』
『1番から15番までの安全装置解除』
『内部電源、109.2%チャージ確認』
『外部電源コンセント異常なし』
『EVA零号機、射出口へ!!』
リフティングアームに固定されたまま、カタパルトへと移動する振動を感じながら、
シンジは小さく呟いた。
「行くよ…僕は…選んだんだ」
その瞳には、もう迷いはなかった。
<Eパート・了>
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ver.-1.01 2001/11/25 公開
ver.-1.00 1999_03/19 公開
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<作者の…のほほん(火暴)>
作者 「やっと……次で7話も終わりです♪」
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