日本映画

周防正行監督 「Shall We ダンス?」

「Shall We ダンス?」は、「シコふんじゃった」で映画賞を独占した周防正行監督の4年ぶりの新作。大いに笑わせながら、最後にしみじみと感動させてくれる大人の映画で、前作をしのぐ出来栄え。今年の邦画ベスト1最有力候補だ。

主人公の杉山(役所広司)は、マジメだけが取り柄、仕事だけが生きがいの典型的な中年サラリーマン。その彼が、ふと通勤電車の窓から見上げたダンス教室の窓辺には、若い美女・舞(草刈民代)の姿が。彼女にひかれるようにしてダンス教室に入所した杉山だったが、様々な人々との出会いを通して、社交ダンスそのもののすばらしさに夢中になっていく。夫の行動を疑う妻(原日出子)は、私立探偵(柄本明)に素行調査を依頼するがアマチュア・ダンス大会でステップを踏む夫の姿に心を動かされる……。

杉山ら平凡なサラリーマンたちが、ダンスのレッスンに悪戦苦闘する場面は、爆笑につぐ爆笑の連続だが、おかしさの中に会社人間の悲哀すら感じさせて秀逸なシーンだ。

出演者はそろっての好演で、とくに役所広司がいい味を出しているが、三度のメシよりダンスが好きという中年を演じた竹中直人と渡辺えり子の怪演ぶりも圧巻。清水美砂がアッと驚く役で登場しているが、それを探すのも、この映画の楽しみ方の一つに。

社交ダンスの世界を題材にしながら、人生の喜怒哀楽について考えさせてくれ、後味は実にさわやか。老若男女、誰が観ても楽しめる文句なしの傑作だが、日頃、映画を観る機会の少ない中年サラリーマンに、とくにお勧めしたい。

宮崎駿監督 「もののけ姫」

今年の夏休み映画では、前評判どおり「ロスト・ワールド」と「もののけ姫」に人気が集中し、記録的な大ヒットに。「ジュラシック・パーク」の続編である「ロスト・ワールド」は、恐竜が主役のアクション映画で理屈抜きに楽しめるが、後には何も残らない。

一方の「もののけ姫」は、「風の谷のナウシカ」「となりのトトロ」の宮崎駿監督が、5年ぶりに渾身の力をこめて完成させた冒険時代活劇。これまでの作品に見られなかった過激な描写とシリアスさに驚かされるが、観終った後に深く考えさせられる力作だ。

室町時代。村を襲ったタタリ神に呪いをかけられた少年アシタカは、呪いを解くために旅に出る。やがて彼は、タタラ製鉄集団を率いて生きるために森をひらく女・エボシ御前と、獣神(けものがみ)とともに森を守る少女サンとの壮絶な争いにまきこまれる。「森と人間が争わずにすむ道はないのか」と、どちらの味方につくべきか迷うアシタカ。そこへ、不老不死のシシ神の首をねらう人間たちが現われ、三つどもえのたたかいになっていく。

石田ゆり子、田中裕子、小林薫ら声優陣も豪華。だが、最大の魅力はCG(コンピュータ・グラフィクス)やデジタル合成を駆使したアニメーション技術で、総セル画枚数は13万5千枚。その迫力は「すごい」の一言で、「ヘラクレス」など足下にも及ばない。

21世紀を混沌の時代と見る監督の時代認識が色濃く反映しているが、「人間と自然との共存は可能か」との問いかけは鋭く深い。アシタカがサンに「ともに生きよう」とよびかけるラストには、「絶望するのはまだ早い」とのメッセージがこめられている。

是枝裕和監督 「幻の光」

「幻の光」は、昨年暮れに東京・大阪で公開され話題を集めた秀作で、最近の邦画の中では収穫の1本。ベネチアなど海外の映画祭でも数々の賞を受賞している。テレビ・ドキュメンタリー出身の是枝裕和監督による映画デビュー作で、原作は宮本輝の同名小説。

幼い頃に祖母が失踪した記憶も消え去らないまま、こんどは、結婚したばかりの夫が列車に飛び込んで自殺した。原因は、誰にも分からない。残されたヒロイン・ゆみ子(江角マキコ)は、5年後に再婚し、一人息子を連れて奥能登の漁師町に嫁いでいく。新しい家族に囲まれての平穏な日々の暮らしの中で、ゆみ子の心も次第に癒され、立ち直っていく。

モデル出身の新人女優・江角マキコが、夫をなくした喪失感を抱えて生きるゆみ子の心の旅を好演しており、新鮮な印象を残す。

全編が、詩情あふれるモノクロ写真集のような静けさと美しさに包まれており、光と影をたくみに生かした映像が、ゆみ子の内面の変化を的確に表現している。ロングショットと長回しを多用した画面は、テオ・アンゲロプロスやビクトル・エリセ、侯孝賢などの影響大だが、ロケの効果を生かした風景描写の素晴らしさには、思わず息をのむ。波や風、電車の音など日常的な音を生かした音楽も、注目すべき出来栄えだ。

ここ数年、新人監督のデビューが続いたが、是枝裕和は、「Love Letter」の岩井俊二監督とともに、テレビで鍛えた確かな演出力を示しており、今後が楽しみだ。

降旗康男監督 「鉄道員(ぽっぽや)」

 いま、日本映画が面白い。先月、紹介できなかったが、「39 刑法第三十九条」は、見応えのある力作であった。

 今回紹介する映画「鉄道員(ぽっぽや)」は、高倉健の5年ぶりの出演作で、少し気が早いが、今年の邦画ベスト1候補にあげたい秀作だ。

 原作は、直木賞を受賞した浅田次郎の同名短編小説。高倉健と数々のコンビを組んできた降旗康男監督が、原作のイメージを忠実に映像化。雪の北海道ロケと俳優陣の競演を生かして感動的な作品に仕上げた。

 高倉健が、愛する娘や妻の死に目に会うこともなく、廃止の運命にあるローカル線の駅長として、仕事一筋に生きてきた男の哀しみと喜びを見事に演じている。おそらく、生涯の代表作となるであろう。

 「網走番外地」シリーズから始まって「幸福の黄色いハンカチ」「駅 STATION」など、やっぱり、健さんには北海道がよく似合う。

 また、駅長の夫を支える薄命の妻を演じる大竹しのぶが、巧い。このところ、「学校V」「生きたい」「鉄道員(ぽっぽや)」と絶好調だ。

 娘役の広末涼子も、出番は、最後の30分だけだが、透明感あふれる初々しい演技で、今後の活躍に期待をもたせるものがあった。

 とにかく、誰が見ても感動できる稀有の作品。こんな映画がヒットすれば、日本映画の将来にも希望がもてるのだが。

森田芳光監督 「(ハル)」

「ザ・インターネット」をはじめとして、パソコンがらみの映画が相次いでいるが、その真打ちともいえるのが森田芳光監督の新作「(ハル)」だ。

パソコン通信による恋愛を描いた新感覚のラブ・ストーリーで、全編の半分以上、パソコン画面上で二人の交換する電子メールの文字を読ませるという試みが、予想以上に新鮮。森田監督としては、「家族ゲーム」「それから」以来、久しぶりに評価できる秀作だ。

盛岡に住み、恋人を交通事故で亡くしてから恋を拒み、転職を繰り返していた女(ほし=深津絵里)。東京で働き、映画好きの恋人と別れて、自分を見失いかけていた男(ハル=内野聖陽)。二人は、パソコン通信の「映画フォーラム」で知り合って、電子メールの交換をはじめる。最初は、ウソも混じったうわべだけのやり取りだったが、次第に本音を語り合える仲となり、恋に落ちていく……。

パソコン画面の文字を読んでいくうちに、孤独な現代青年の心情がひしひしと伝わり、都会での日常生活の描写もリアル。黒澤明監督「天国と地獄」を想起させる新幹線の使い方がうまく、「はじめまして」というセリフで終わるラストが洒落ている。主役の二人は、ともに爽やかな好演だが、現代的で大胆な女性を演じる戸田奈穂が印象に残った。

ただし、「映画フォーラム」の会話に出てくる題名が、新作だけ「仮名」になっていたのは、映画ファンとしては残念。最近の話題作について、森田監督(脚本も担当)の批評が聞きたかった。

今村昌平監督 「うなぎ」

いま、日本映画が面白い。

カンヌ国際映画祭でグランプリにあたるパルムドールに輝いた「うなぎ」は、今村昌平監督の「黒い雨」以来8年ぶりの新作。今年の日本映画を代表する屈指の秀作だ。

原作は吉村昭の短編小説「闇にひらめく」。浮気した妻を刺殺した山下(役所広司)は、8年後に仮出所すると、保護司の世話で理髪店を始め、再出発の道を歩む。極度の人間不信におちいり、一匹のうなぎだけが唯一の話し相手だったが、ある時、自殺未遂の女性・桂子(清水美砂)を助ける。人の善い隣人たちや桂子の優しい心にふれるなかで、閉ざされていた山下の心も次第にいやされ、人間性を取り戻していくが……。

「私は人間に興味をもつ」と語り、一貫して重厚なタッチで人間の性(さが)を描いてきた今村監督。だが、今回の「うなぎ」は、山下と桂子の愛と再生の物語をユーモアを交えて心温まる小品に仕上げており、監督の新境地を示すものだ。

役所広司と清水美砂が、監督の期待にこたえて難しい役どころを体当たりで熱演。常田富士男、倍賞美津子、佐藤充、哀川翔、柄本明、田口トモロウ、市原悦子ら脇を固める俳優陣がそろっての好演で、人間ドラマに厚みをくわえている。

他にも、「誘拐」は久しぶりの本格的な刑事映画の力作だ。とくに、新宿、銀座などでロケ撮影された身代金の受け渡しシーンは迫力満点で、アッと驚く真犯人の意外性もふくめ、洋画にひけをとらない面白さだ。

大林宣彦監督 「青春デンデケデケデケ」

 映画サークルの例会作品「青春デンデケデケデケ」は、昨年公開の日本映画のなかでも屈指の話題作。しかし、みなみ会館で短期間上映されただけで、見逃した方も多いハズ。

 舞台は、瀬戸内海に面した香川県の観音寺市。時代は、60年代のなかば。当時、全国の若者たちを熱狂させたベンチャーズのエレクトリック・サウンドに「感電」した高校生の5人組がいた。彼らは、アルバイトで稼いだ金で楽器を購入し、ロックバンドを結成。練習をかさね、合宿をおこない、時には、恋のかけらも体験しながら、音楽と友情に青春の情熱のすべてを傾けていく。そして、その成果を発表する時がくる……。

 映画は、5人の高校生たちの3年間を、時にはユーモラスに、等身大で生き生きと描いていく。テンポの早いカット割り、16ミリカメラによる手持ち撮影を多用した効果が生かされて、新しいタイプの青春映画として、みずみずしい仕上がりとなっている。

 同時代に高校生活を送ったものとして、たまらなく懐かしさを覚える映画である。また、高校生たちを励まし温かく見守る周囲の大人たちが実におおらかに描かれており、「受験競争が激しくなった今日、大切なものが失われているのでは」と問いかけているようだ。

 原作は、90年の文芸賞、翌年に直木賞を受賞した芦原すなおの文壇デビュー作品。「転校生」「ふたり」などの「尾道シリーズ」を連打してきた大林宣彦監督がメガホンをとっている。お寺の住職の息子役を演じた京都出身の大森嘉之君の存在感ある演技が見もの。

 ただし、ラストの15分はやや冗漫で、高校生活の最後をかざる文化祭の場面で終わっていたら、文句なしの傑作となっていたであろう。

平山秀幸監督 「愛を乞うひと」

今年の秋は、日本映画に見ごたえある秀作がそろっている。近く公開の山田洋次監督「学校V」は期待どおりの出来栄えで、久しぶりの主役を演じた大竹しのぶの巧さが目立つ。

この「学校V」とともに、今年の収穫といえるのが、平山秀幸監督「愛を乞うひと」。3世代にわたる母娘の愛憎のドラマを、戦後社会の状況とも重ね合わせて描いた力作だ。

夫を早く亡くした照恵(原田美枝子)は、娘・深草(野波麻帆)が高校生になった時、幼い頃に死んだ台湾人の父・陳文雄の遺骨探しを決意する。それは、自分探しの旅であり、母・豊子(原田美枝子・2役)に虐待され続けた辛い過去との決別でもあった……。

回想部分では、母・豊子による折檻シーンが執拗にくり返されるが、目をそむけたくなるほどの迫力で涙なしには見られない。あれだけの暴力をうけながら、なお母を慕いつづける娘の姿には、だれもが胸をしめつけられる。

原作は下田治美の同名小説だが、ラスト、原作にない母と娘の再会場面が静かな感動を盛り上げ、忘れられない名場面となった。

鬼のような豊子と菩薩のような照恵。対照的な母と娘の2役を見事に演じわけた原田美枝子の熱演が素晴らしい。今年の主演女優賞は確実か。また、娘・深草役の野波麻帆が爽やかで、友だち同士のような現代的母娘の関係が、暗くなりがちな映画を救っている。

山田洋次監督 「学校U」

現代日本社会の縮図のような夜間中学を舞台に、先生と生徒たちの心の交流を感動的に描いた「学校」から3年。山田洋次監督の新作「学校U」は、またしても観客の期待を裏切らない出来栄えで、秋一番の必見の秀作である。

今回は、北海道の小さな町にある高等養護学校が舞台。リュー先生(西田敏行)が担任する1年F組では、それぞれに障害をもつ生徒9人と3人の先生が共に学んでいた。

いじめによる心の傷から一言も口をきこうとしない高志(吉岡秀隆)、片時もじっとせず猛烈に暴れまくる佑矢(神戸浩)。そんな佑矢の担任となった新任の小林先生(永瀬正敏)、その試行錯誤と奮闘ぶりを温かく見守るベテランの玲子先生(いしだあゆみ)。映画は、生徒たちが厳しい競争社会へと巣立っていく卒業式までの3年間、この小さな教室とその周辺でおこる様々な出来事を、優しい眼差しで見つめていく。

小林先生は佑矢の世話にあけくれる毎日に疑問を感じていたが、生徒たちの成長と変化に励まされて、教師としての誇りと自覚を高めていく。永瀬正敏が、名作「息子」を想起させる好演を見せて爽やかだ。また、吉岡秀隆が心に傷をもつナイーブな少年役を熱演し、前作にも生徒役で出演していた神戸浩の存在感ある演技が印象に残る。いしだあゆみは、出番こそ少ないが、ベテラン先生役をさらりと演じて、さすがに巧い。

山田洋次監督作品には、「幸福の黄色いハンカチ」「遥かなる山の呼び声」など北海道を舞台にした秀作が多いが、「学校U」は、北海道の雄大な雪景色をバックにして、「学校とは何か」「教育とは何か」を見事に描いている。

山田洋次監督 「学校V」 

山田洋次監督「学校V」はシリーズ中でも屈指の出来栄え、この秋一番の秀作だ。

第1作では、東京下町の夜間中学、第2作では、北海道の高等養護学校を舞台にして、先生と生徒たちの交流・成長を描いてきた山田監督。今回は、東京下町の職業訓練校が舞台。リストラや倒産で失業した中高年たちの再就職にかける悪戦苦闘ぶりを温かい眼差しで描き、「がんばれ中高年」と励ましのエールを贈っている。

夫を過労死でなくし、自閉症の息子トミー(黒田勇樹)と二人暮らしの小島紗和子(大竹しのぶ)は、零細企業を解雇され、再就職の資格を得るため職業訓練校に通う。

この学校に集う生徒たちはいずれも不況の犠牲者で、急速に親しくなるが、大手証券会社の部長であった高野周吉(小林稔侍)だけは、皆にとけこめないでいた。その高野が紗和子の忘れた教科書を届けたことから急速に近づきとなり、お互いに好意を抱くようになる…。

物語は、職業訓練校に集まる中高年たちの心温まる交流に、紗和子と高野の間に芽生えるほのかな恋の行方をからませて展開する。久しぶりに主役を演じた大竹しのぶが、どんな困難にも負けず、明るく前向きに生きる女性を生活感たっぷりに演じて巧さを見せた。

クライマックスは、乳ガンの手術をすることになった紗和子を励ますために、かつての同級生たちが病院に集まるところ。イギリス映画の傑作「ブラス!」を想起させる名場面だ。不況・リストラという現実を正面から描いた名作の誕生に心から拍手を贈りたい。

市川準監督 「病院で死ぬということ」

 昨年から今年にかけて、病院を舞台にした作品が相次いで公開されたが、市川準監督の映画「病院で死ぬということ」は、その頂点をなす力作であり、本年度屈指の話題作だ。

 原作は70万部をこすベストセラーとなり大きな反響をよんだ山崎章郎著『病院で死ぬということ』。同じ原作をもとにしたという伊丹十三監督の「大病人」は期待外れだったが、今回の市川作品は期待以上の仕上がりで、原作ともども一見、一読をすすめたい。

 映画は、家族と医師に支えられながら、苦しみつつ、人間らしい死を求めて模索するガン患者の姿をドキュメンタリータッチで描き、人間の尊厳とは何かを問いかけている。

 とくに注目すべきは、大胆な実験的手法だ。カメラを病室内の一点に固定させた定点観測風の描写が続き、患者や医師の表情をアップにすることもない。そこには、誰もがいずれは迎える「死」を、観客とともに静かに見つめようとする監督の姿勢が貫かれている。

 また、病室シーンの合間に挿入されている四季の風景やなにげない日常の暮らし、庶民の表情を丹念に追った映像がすばらしく、「生きる喜び」を実感させてくれる。CM出身の市川監督の力量が遺憾なく発揮されている部分だ。

 違う種類のガンにかかり別々の病院で闘病をつづける老夫婦が、「お前と出会えたこの人生に感謝するよ」と語り合うシーンは感動的だ。また、死期が近づいたため、自宅で家族とつかの間の団らんをすごす40代の働き盛りの男性の姿は、涙なしには見られない。

北野武監督 「HANA−BI」

年末年始は、アメリカでも日本でも長大作「タイタニック」が大ヒット。映画史に残る傑作でありアカデミー賞を独占しそうな勢い。まだの方はぜひ劇場の大画面で。

正月第2弾作品の中では、やはり「HANA−BI」が見逃せない。ベネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)に輝いた北野武監督の第7作目。観客動員の点で課題を残した暮れの京都映画祭でも、前売券があっという間に完売となる盛況ぶりであった。

ビートたけし自身が演じる主人公・西は刑事。子どもをなくし、妻(岸本加代子)は不治の病に冒されている。ある事件の捜査で部下を失い、親友の同僚・堀部(大杉漣)は、凶悪犯の銃撃をうけ下半身不随の重傷に。この事件をきっかけに、彼は刑事の職をやめ、ヤクザから借りた金で、堀部や殉職した部下の家族の世話をする。そして、借金返済のために銀行を襲った彼は、ヤクザの追い立てを振り切り、妻と2人だけの旅に出る…。

「キタノ・ブルー」と定評のあるブルーを基調にした映像の中に、人生の切なさと哀しさ、「生と死」を静かに激しく描いている。

出演者はそろって好演だが、とくに岸本加代子が、ほとんど台詞のない妻役を演じて深い印象を残す。たけし自身が描いた色鮮やかな絵画が次々に登場するが、この絵だけでも一見の価値がある。久石譲の音楽も素晴らしい。

くり返される暴力シーンや「自決」に至る結末には、いささか疑問が残るものの、秀作「キッズ・リターン」につづいての力作で、北野武監督のマルチ才能ぶりが遺憾なく発揮されている。同監督作品が食わずぎらいの人にも、ぜひ一見をお薦めしたい。

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