2014年のベスト10


(100点満点で、☆20点、★5点)

日本映画

@ ぼくたちの家族 ☆☆☆☆★★ 「舟を編む」の石井裕也監督が家族の再生を描いた屈指の秀作。
A 紙の月 ☆☆☆☆★ 宮沢りえが体当たりの大熱演で、彼女の代表作となった力作だ。
B 私の男 ☆☆☆☆★ 難しい役どころを二階堂ふみが体当たりで熱演。恐るべき女優だ。
C 青天の霹靂 ☆☆☆☆★ 劇団ひとりが監督。あるマジシャンの出生の秘密を描いた感動作。
D そこのみにて光輝く ☆☆☆☆ 綾野剛と池脇千鶴の代表作となったか。ラブ・ストーリーの秀作だ。
E 0、5ミリ ☆☆☆☆ 安藤桃子監督が安藤サクラを主演にした初めての姉妹タッグ作。
F 太秦ライムライト ☆☆☆☆ 時代劇の裏方に光をあて、映画の現場をリアルに再現した秀作。
G 夢は牛のお医者さん ☆☆☆☆ 獣医になる夢を実現させた女性を追うドキュメンタリー映画の秀作。
H 小さいおうち ☆☆☆☆ 山田洋次監督の初の恋愛映画。女中役の黒木華に注目したい。
I 蜩ノ記 ☆☆☆☆ 「柘榴坂の仇討」に続く本格時代劇の秀作で、こちらの方が上だ。

外国映画

@ シャトーブリアンからの手紙 ☆☆☆☆★★ ナチスの犯罪をリアルに描いた屈指の力作。文句なしのベスト1。 
A 悪童日記 ☆☆☆☆★ 双子の少年の目から見た戦中戦後のハンガリー。屈指の力作。
B ジャージー・ボーイズ ☆☆☆☆★ イーストウッド監督がミュージカルに初挑戦。音楽ファンは必見だ。
C ソフォン/願い ☆☆☆☆★ 韓国の実際の幼女暴行事件を被害者家族の視点で描く力作だ。 
D マダム・イン・ニューヨーク ☆☆☆☆★ 女性監督による女性賛歌。成熟ぷりを示すインド映画の秀作だ。
E アクト・オブ・キリング ☆☆☆☆★ インドネシア共産党の大虐殺を描いた異色のドキュメンタリー映画。
F それでも夜は明ける ☆☆☆☆★ アカデミー作品賞受賞も納得の力作。一度は観ておくべき映画。
G ネブラスカ ☆☆☆☆★ 父親と息子のロードムービーの秀作。アカデミー作品賞の候補作。
H 罪の手ざわり ☆☆☆☆★ 実際におこった4つの事件を通し、中国社会の現実を描いた力作。
I 人生はマラソンだ ☆☆☆☆★ まさに「人生はマラソン」だと描いた秀作。誰にでもおススメできる。 

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2013年のベスト10

(100点満点で、☆20点、★5点)

日本映画

@ 舟を編む ☆☆☆☆★★ 15年間にわたり新しい辞書づくりに励む人々の姿を描いた秀作。
A 奇跡のリンゴ ☆☆☆☆★★ 無農薬リンゴに挑んだある家族の物語。マイベスト1の候補作品。
B 凶悪 ☆☆☆☆★ 昨年の日本映画で最大の問題作であり、力作だ。見応えは十分。
C かぐや姫の物語 ☆☆☆☆★ アニメ映画史に残る秀作。水彩画タッチの映像は一見の価値あり。
D 少年H ☆☆☆☆★ 少年の目から見た戦争を描いた秀作。水谷豊が父親役を大熱演。
E 東京家族 ☆☆☆☆★ 山田洋次監督が「東京物語」をモチーフに「家族」を描いた秀作。
F 標的の村 ☆☆☆☆★ オスプレイ発着帯に反対する戦いを描いた必見のドキュメンタリー。
G はじまりのみち ☆☆☆☆★ 木下恵介の原点描く秀作。「陸軍」のラストシーンは一見の価値。
H 約束 名張ぶどう酒事件 ☆☆☆☆★ 東海テレビの制作。奥西勝の再審開始・無罪を主張する力作だ。
I そして父になる ☆☆☆☆ 子どもの取り違えにゆれる2つの家族の葛藤と選択を描いた秀作。

外国映画


@ 夏、アムール ☆☆☆☆★ 「老老介護」の夫婦の:現実をリアルに描いた各賞受賞の力作だ。
A 海と大陸 ☆☆☆☆★ アフリカ難民が小さな島でおこす波紋を描くイタリア映画の秀作。
B スタートレック ☆☆☆☆★ ハリウッドにおける、SF映画の進化の到達点を確認できる力作。
C ゼロ・グラビティ ☆☆☆☆ 宇宙空間で撮影したかのような驚異の映像。3Dで体験すべきだ。
D ハンナ・アーレント ☆☆☆☆ 信念に基づき自説を発表した女性哲学者の勇気を描く問題作。
E セデック・バレ ☆☆☆☆ 日本統治下の台湾でおこった蜂起事件を描いた屈指の超大作。
F きっとうまくいく ☆☆☆☆ 学園ドラマ。大いに笑え、ラストでは泣けるインド映画の痛快作。
G 嘆きのピエロ ☆☆☆☆ 血も涙もないサラ金取立て屋とその母親を名乗る女性の愛憎劇。
H もうひとりの息子 ☆☆☆☆ イスラエルとパレスチナ間での子供の取り違え事件を描いた力作。
I 三姉妹 雲南の子 ☆☆☆☆ 経済格差の大きさをリアルに描き三姉妹の生き様を描いた力作。

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2012年のベスト10

(100点満点で、☆20点、★5点)

日本映画

@ かぞくのくに ☆☆☆☆★★ 在日2世のヤン・ヨンヒ監督が実体験を元にして「国家の分断と家族」を描いた秀作。安藤サクラ、井浦新が演技賞物の大熱演で、やっぱり、今年の日本映画のベスト1に推したい。
A ニッポンの嘘 ☆☆☆☆★ 戦後の日本社会を見つめてきた報道写真家・福島菊次郎の生き様を追った秀作だ。国家権力の嘘とたたかい続けてきた写真家の一枚一枚の写真がすべてを物語っている。
B わが母の記 ☆☆☆☆★ 井上靖の自伝的小説を元に、母親と息子の葛藤と和解をオーソドックスに描いた秀作。「クライマーズ・ハイ」など硬派の映画を得意とする原田眞人監督が新境地を開いている。
C おおかみこどもの雨と雪 ☆☆☆☆ 「サマーウォーズ」の細田守監督が“おおかみこども”たちとその母の成長を描いた秀作。人生の分岐点における決断を後押しする映画で、後味はさわやか。家族揃っての鑑賞を。
D 桐島、部活やめるってよ ☆☆☆☆ 高校生たちの5日間をリアルに描いた青春群像劇で、映画ファンには見逃せない秀作。1人ひとりの心の動きを丁寧に描いており、切ない片想いの役を大後寿々花が好演している。
E 鍵泥棒のメソッド ☆☆☆☆ 内田けんじ監督の新作は恋愛映画の秀作。広末涼子のコメディエンヌぶりは大きな収穫。堺・香川との3人のやりとりには爆笑の連続。練りあげた脚本で最後まで目が離せない。
F 終の信託 ☆☆☆☆ 周防正行監督が終末医療の問題を正面から描いた意欲作。笑いを封印し新境地を拓いた。後半の検察室での取り調べシーンは手に汗握る迫力。検事役・大沢たかおの熱演が圧巻。
G 希望の国 ☆☆☆☆ 園子温監督が「性」や「暴力」を封印し、原発を正面から取り上げて、被災家族のドラマとして描いた力作。大震災後の近未来、架空の町が舞台だが、まるで再現ドラマのようだ。
H 夢売るふたり ☆☆☆☆ 「ゆれる」「ディア・ドクター」の西川美和監督が、女性映画に初挑戦した異色の秀作。騙される女性たちだけでなく、騙す側の女性の心の揺れ動きをも、生々しく描いている。
I 僕達急行 A列車で行こう ☆☆☆☆ 森田芳光監督の遺作。松山ケンイチと瑛太のコンビで、現代青年の仕事・趣味・恋愛を描いている。「人間にしか興味がない」と語る森田監督らしさ満載で情報量も半端でない。


外国映画

@ オレンジと太陽 ☆☆☆☆★★ 英国政府による「児童移民」の真実を明らかにした1人の女性を描いた屈指の力作だ。監督のジム・ローチは、巨匠ケン・ローチ監督の息子。今後の活躍が期待できそう。
A 別離 ☆☆☆☆★★ 離婚や老人介護の問題をテーマに、イラン社会の現実を描いた今年度屈指の力作だ。アカデミー外国語映画賞など各国での90以上の受賞も納得。絶対に見逃せない1本。
B ヘルプ 心がつなぐストーリー ☆☆☆☆★ 60年代のアメリカ南部を舞台にして、人種差別に立ち向かう女性たちの姿を描いた秀作。アカデミー賞レースをにぎわせた女優陣が揃っての好演で、演技合戦が見ものだ。
C レ・ミゼラブル ☆☆☆☆★ 人気ミュージカルの映画版。映画ファンの期待を裏切らない出来栄えで、俳優たちの歌唱力に圧倒される。とくに、アン・ハサウェイの体当たりの熱演は素晴らしいの一言。
D アルゴ ☆☆☆☆★ 実話を元に、イランにおけるニセ映画を使った人質救出作戦を再現し、手に汗握る面白さの力作となった。ベン・アフレックの監督としての力量を示したもので、今後が楽しみ。
E ダークナイト ライジング ☆☆☆☆★ 新バットマン・シリーズ3部作の完結編。人間の善と悪、心の闇に深く迫っていく力作だ。アン・ハサウェイ演じるキャット・ウーマンが予想以上に爽やかで、★一つおまけしたい。
F キリマンジャロの雪 ☆☆☆☆★ マルセイユを舞台にして、労働組合の委員長とその妻のヒューマンな生き様を描いた秀作。「プロレタリア・ヒューマニズム」という言葉の意味を改めて実感させてくれる感動作。
G 幸せへのキセキ ☆☆☆☆★ 実話を元にした動物園映画の秀作。マット・デイモンが動物園再建という冒険に挑戦する父親を爽やかに好演。飼育員役のスカーレット・ヨハンソンも、新境地を開いている。
H ミッドナイト・イン・パリ ☆☆☆☆★ ウディ・アレン監督が、真夜中のパリを舞台に撮ったロマンティック・コメディの会心作だ。パリの街の魅力をたっぷりと描いており、ローマを舞台にした次回作が待ち遠しい。
I ドラゴン・タトゥーの女 ☆☆☆☆★ 話題のスウェーデン映画のハリウッドリメイク作。ミステリー・サスペンスであるとともに、切ないラブ・ストーリーの秀作に。ヒロイン役のルーニー・マーラの体当たり熱演が光る。

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2011年のベスト10

(100点満点で、☆20点、★5点)

日本映画

@ 八日目の蝉 ☆☆☆☆★★ 角田光代のベストセラー小説の映画化で、難役を演じきった永作博美・井上真央が大熱演で小池栄子も敢闘賞もの。2章構成の原作を巧みに再構成した奥寺佐渡子の脚本が光る。
A 一枚のハガキ ☆☆☆☆★ 新藤兼人監督が、「映画人生最後の作品」として、戦争の不条理を描いた渾身の力作。戦争に翻弄されるヒロインを見事に演じきった大竹しのぶにとっても代表作となった。
B 大鹿村騒動記 ☆☆☆☆ 長野県大鹿村で300年受け継がれてきた村歌舞伎を背景とした人情喜劇の秀作。阪本順治監督の下に集まった名優たちの演技合戦を堪能できる。原田芳雄の遺作となった作品。
C 冷たい熱帯魚 ☆☆☆☆ 園子温監督が実際におこった凶悪事件をモデルにして描いた衝撃の力作。でんでんの演じた殺人鬼役は映画史に残る怪演で、映画賞の助演男優賞を独占しそうな勢いだ。
D ヘヴンズ ストーリー ☆☆☆☆ ようやく京都で劇場公開された2010年の話題作。4時間38分の大作だが、見応えは十分。瀬々敬久監督は、新作「アントキノイノチ」でも確かな演出力を発揮している。
E マイ・バック・ページ ☆☆☆☆ 川本三郎の回想録を元にして、妻夫木聡・松山ケンイチの初競演で描いた話題の秀作。35歳の山下敦弘監督が初めて社会派のテーマに挑戦し、新たな境地を開いている。
F 阪急電車 片道15分の奇跡 ☆☆☆☆ 阪急今津線を舞台にした有川浩原作の映画化だが、期待以上の出来ばえの佳作。「グランド・ホテル」形式のドラマだが、宮本信子が演じる凛としたお婆ちゃんに拍手を送りたい。
G 僕たちは世界を変えることが… ☆☆☆☆ 実話をもとに、普通の学生たちがカンボジアに小学校を建設するまでを再現した秀作。映画初主演の向井理が、目標を見つけることのできた学生の生き様を爽やかに好演。
H ミツバチの羽音と地球の回転 ☆☆☆☆ 上関原発に反対する祝島島民のたたかいと生き様を描いた鎌仲ひとみ監督の秀作。島民たちの生活を丹念に追い、原発に反対する大義を声高でなく訴え、必見の映画となった。
I 東京公園 ☆☆☆☆ 「ユリイカ」の青山真治監督が新境地を開いたラブ・ストーリーの佳作で、榮倉奈々の存在感が光る。義理の姉とのけじめをつけにいく場面の長回しとキスシーンが秀逸。


外国映画

@ ソーシャル・ネットワーク ☆☆☆☆★ 「フェイスブック」を創設し巨額の富を築いた学生たちの友情と裏切りを描いた秀作。IT時代の青春を描いた人間ドラマとしても見応え十分で、数多くの映画賞受賞も納得。
A トゥルー・グリッド ☆☆☆☆★ 父親を殺した犯人への復讐を誓う14才の少女の大人への成長を描いた秀作。コーエン兄弟が、原作に忠実に映画化した西部劇の力作。少女役のヘイリー・スタインフェルドが光る。
B ブラック・スワン ☆☆☆☆★ バレエ作品「白鳥の湖」でプリマの座を射止めた主人公の葛藤を描いた心理劇の秀作。ナタリー・ポートマンが鬼気迫る大熱演で、アカデミー主演女優賞の受賞も納得だ。
C 黄色い星の子供たち ☆☆☆☆★ フランス政府による1942年のユダヤ人一斉検挙事件を描いた力作。50年以上にわたってタブーとされてきた事件の全貌を詳細に再現。生き残った少年たちの表情が忘れられない。
D ゴーストライター ☆☆☆☆★ ヒッチコックを想起させる「巻き込まれ型政治サスペンス」の快作。元英国首相役のピアース・ブロスナンを始め、脇を固めるキャストが好演。鮮やかなラストシーンに★一つおまけ。
E リアル・スティール ☆☆☆☆★ 人間ではなくロボットがボクシングの試合を行う2020年の米国が舞台。父と息子の絆、負け組の敗者復活戦などを描き、誰もが素直に感動できる拾い物的な快作となった。
F 英国王のスピーチ ☆☆☆☆ 吃音に悩むジョージ6世がナチスドイツとの開戦スピーチを行うまでを描いた秀作。国王と矯正専門家を演じたコリン・ファースとジェフリー・ラッシュは演技賞物の熱演。
G ザ・ファイター ☆☆☆☆ ボクシング映画だが、実話に基づいて家族のドラマを描いた秀作。主人公の兄と母を怪演した2人がアカデミー助演男優賞・女優賞に輝いたが、エイミー・アダムスにも注目。
H 猿の惑星 創世記 ☆☆☆☆ 1968年公開の「猿の惑星」で残されていた謎に挑戦した意欲的な新作。生命科学の問題をテーマに、現代にふさわしいSF大作として見応えは十分。オリジナルのファンは必見だ。
I 127時間 ☆☆☆☆ ダニー・ボイル監督が、ある登山家の6日間の壮絶な体験を映画化した秀作。登場人物は殆ど1人だが、回想場面などを巧みに挿入。正視できない衝撃的なラストも後味は爽やか。

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2010年のベスト10

(100点満点で、☆20点、★5点)

日本映画

@ おとうと

☆☆☆☆★★

山田洋次監督の10年ぶりの現代劇で、集大成ともいえる屈指の秀作だ。生活保護制度の果たす役割など、「格差と貧困」を描き、社会派の映画としても成功している。

A 春との旅 ☆☆☆☆★

小林正広監督が日本の家族を見つめた脚本を練り上げ、8年越しに実現させた秀作。現代版「東京物語」で、仲代達矢と徳永えりが代表作といえる巧演を見せている。

B 悪人 ☆☆☆☆★

九州の地方都市を舞台に、ある殺人事件を通して「誰が本当の悪人か」と問う異色作。逃避行を続ける妻夫木聡・深津絵里とも大熱演だが、満島ひかりも印象に残る。

C 告白 ☆☆☆☆★

湊かなえの本屋大賞受賞作を映画化した力作。原作に基本的に沿いながら、巧みなアレンジも含めて、中島哲也監督の演出が光る。復讐劇の教師役を松たか子が好演。

D 孤高のメス ☆☆☆☆★ 長編人気小説の映画化で、医療の現場を正面から描いた人間ドラマの秀作だ。映画としての完成度が高く、リアルな手術シーンも注目。夏川結衣の代表作となりそう。
E 十三人の刺客 ☆☆☆☆

映画史に残る工藤栄一監督作品のリメイクだが、見応え十分の力作。ラスト50分の壮絶な死闘は「七人の侍」を想起させる。新境地を開いた稲垣吾郎は助演男優賞候補。

F カラフル ☆☆☆☆

原恵一監督によるアニメの秀作。家族・友情・学校などのリアルな描写が光り、路面電車には懐かしさを感じる。鍋を囲んでの夕食シーンでは、思わず涙がこぼれた。

G パレード ☆☆☆☆ 都会の片隅で奇妙な共同生活を送る若者たちの今に迫った青春群像劇の秀作。若きキャストは揃っての好演で、自称イラストレーターの香里奈の存在感が印象的だ。
H 武士道シックスティーン ☆☆☆☆

剣道に励む2人の少女の葛藤と成長を描いた青春映画の秀作。成海璃子と北乃きい。旬の若手女優2人が「ゆれる瞬間」を生き生き演じている。ぜひ続編が見たい。

I 京都太秦物語 ☆☆☆☆ 山田洋次監督が立命大学生らと創りあげた新作は、若者たちへの熱い応援歌に。嵐電と大映通り商店街がもう一つの主役で、京都の風景が巧みに生かされている。


外国映画

@ インビクタス/負けざる者たち ☆☆☆☆★★★ 奇跡で南アを変えたネルソン・マンデラの不屈の魂を描いた秀作。モーガン・フリーマンとマット・デイモンが揃っての大熱演。リーダーシップについて考えさせる映画だ。
A 息もできない ☆☆☆☆★★

社会の底辺で生きるヤクザと女子高校生の偶然の出会いから別れまでを描いた力作。社会背景も丁寧に描かれており、漢江で2人の心が一つになるシーンは映画史に残る。

B 冬の小鳥 ☆☆☆☆★★ 父に捨てられた孤独な少女の魂の軌跡を描き、韓国映画の成熟ぶりを示した秀作。本作が初作品の女性監督が、自身の体験をふまえて、少女ジニのとまどいを描いている。
C フローズン・リバー ☆☆☆☆★★ 家族のために必死に生きる2人の母親を描いた壮絶なドラマで、恐るべき力作だ。不法移民の密入国、原住民の居留地など、アメリカ社会の現実がリアルに描かれている。
D 瞳の奥の秘密 ☆☆☆☆★

ミステリー+ラブストーリーのアルゼンチン映画の秀作。練り上げた脚本、巧みな伏線、意外なラストなど、アカデミー外国語映画賞も納得。キャストは揃っての好演だ。

E 白いリボン ☆☆☆☆★ 第一次世界大戦前夜の北ドイツの小さな村を舞台に、不可思議な事件の連鎖を描いた力作。モノクロ映像の美しさが最大の見もので、カンヌ映画祭パルムドール受賞も納得。
F グリーン・ゾーン ☆☆☆☆★ イラク戦争の真実に迫って、アメリカの戦争政策を鋭く告発した意欲的な力作だ。手持ちカメラを駆使した緊迫感あふれる映像の連続で、ラストまで一気に見せる。
G プレシャス ☆☆☆☆★

16歳黒人女性の自立を描いた秀作。フリー・スクールに通う中で生きる意味を見つけるプレシャスの姿が感動的。母親の悲劇が明らかになるラストも含め奥行きは深い。

H 第9地区 ☆☆☆☆★

南アフリカ出身の若き監督がアパルトヘイトとだぶらせて異星人を描いた異色作。B級SF映画の快作で、先の読めない予想外の展開とラストまで一気に見せる面白さ。

I マイレージ、マイライフ ☆☆☆☆

リストラ宣告人の生き様を描いた秀作で、アカデミー助演女優賞にノミネートされた対照的な2人の女性の存在感は抜群。実際にリストラされた労働者が登場している。

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2009年のベスト10

(100点満点で、☆20点、★5点)

日本映画

@ ディア・ドクター ☆☆☆☆★ 西川美和監督の人間観察が光る前作「ゆれる」に続いての秀作。笑福亭鶴瓶や存在感ある余貴美子は演技賞候補。「ニセ物」というテーマは深いがラストシーンは不要。
A ヴィヨンの妻 ☆☆☆☆★

妻役の松たか子が代表作といえる好演で女優賞レースの先頭に。夫婦の生き方に共感できないが、太宰治の世界と時代を見事に再現し、日本映画の底力を示した。

B
沈まぬ太陽
☆☆☆☆★

ジャンボ機墜落事故に焦点をあてた原作の再構成が成功。対照的な2人の男のドラマが見応え十分。日本航空のあり方を考える問題提起としても必見

C 誰も守ってくれない ☆☆☆☆★

「容疑者家族の保護」を題材に、日本社会の現実に迫った社会派ドラマの秀作。佐藤浩市が代表作となる熱演。マスコミの過剰取材も批判的に描かれている。

D 小三治 ☆☆☆☆★

小三治の生き様と芸を追ったドキュメンタリーの秀作。弟子との関係、旅先の姿、私的な遊びなど人間性がうきぼりに。語る言葉は含蓄に富んだ名言集。

E サマーウォーズ ☆☆☆☆ 日本のアニメ映画の充実を示す快作。「地球の危機」を救うある家族の絆とチームワークを描き後味は爽やか。30人近くの登場人物もしっかり描き分けられている。
F いのちの山河 ☆☆☆☆

岩手県沢内村での老人医療費無料化、乳児死亡ゼロのとりくみを描いた秀作。村長と妻の夫婦の物語としても楽しめ、とよた真帆が妻役を爽やかに好演。

G 劔岳 点の記
☆☆☆☆

まるでドキュメンタリー映画のような映像で、本物にこだわった木村大作監督の執念がにじみ出た力作。ただし、登頂の瞬間の映像をもう少し見せてほしかった。

H フィッシュストーリー ☆☆☆☆

続々と映画化される伊坂幸太郎の原作。荒唐無稽なホラ話だが、後味は爽やか。人と人のつながりをじっくりと描き、もう一度見直したくなる面白さ。

I ハゲタカ ☆☆☆☆

予想以上に見ごたえのある社会派の力作。複雑な経済問題を描いたドラマだが、テンポがよく、最後まで一気に見せる。

風が強く吹いている ☆☆☆☆ 箱根駅伝のシーンが見事で、正月の楽しみが増えた。


外国映画

@ グラン・トリノ ☆☆☆☆★★

監督・俳優クリント・イーストウッドの集大成で、「遺言」ともいえる秀作。「報復の連鎖」に終止符をうとうとする姿は、アメリカに対する強烈なメッセージとなっている。

A チェンジリング ☆☆☆☆★★

大恐慌前夜の米国で、警察組織の腐敗に立ち向かう母親の闘いを描いた秀作。並行する二つの事件を重ね合わせていく語り口の巧さは絶品で、演出がさえる。

B 愛を読むひと ☆☆☆☆★★ ナチスの戦争犯罪を題材にしながら、恋愛ドラマの要素を巧みに取り入れた秀作。ケイト・ウインスレットの抑えた演技が光り、アカデミー賞の主演女優賞も納得だ。
C アバター ☆☆☆☆★★

ジェームズ・キャメロン監督の集大成。単なるSF大作ではなく、米国と人類の行動への警告が明確なテーマに。3D映像も成果を上げているが、メガネの課題は残る。

D 母なる証明 ☆☆☆☆★ 母親役キム・ヘジャの熱演と息子役ウォンピンの巧演で屈指の力作に。意外な展開でラストは衝撃的。「真犯人は誰か」をめぐり、いまだに議論が続いている異色作。
 E カティンの森 ☆☆☆☆★

アンジェイ・ワイダ監督の集大成といえる渾身の力作。ソ連による大量虐殺事件と歴史の偽造を、被害者の家族たちの群像ドラマとして、淡々と描いている。

F チェ 28歳の革命 ☆☆☆☆★

チェ・ゲバラの闘いを史実に忠実に再現した屈指の力作で革命家としての人間像に光をあてている。ボリビアでの悪戦苦闘を描いた2部作「39歳 別れの手紙」も必見。

G レボリューショナリー・ロード ☆☆☆☆★

60年代のアメリカを舞台に、自分らしく生きたいと苦悩する夫婦の葛藤を描いた秀作。アメリカ社会の縮図を描いた問題作で、濃密な人間ドラマになっている。

H スラムドッグ$ミリオネア ☆☆☆☆★

インドのスラム社会の現実と人気クイズショーを巧みに交差させた構成が成功している。ハッピーエンドは意外だったが、純愛ラブ・ストーリーとしても楽しめる。

I 子供の情景 ☆☆☆☆★ 学校に行きたいと願う6才の少女の目を通して、アフガニスタンの今を描いた秀作。当時19才の女性監督の今後が期待できそうだ。
レスラー ☆☆☆☆★ ミッキー・ロークが痛々しいほどの熱演で俳優として復活。

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2008年のベスト10

(100点満点で、☆20点、★5点)

日本映画

@ 母べえ ☆☆☆☆★★ 治安維持法違反で父親が弾圧された一家の母と娘たちの生き様を描いた反戦映画の秀作。脇を固めるキャストが揃っての好演で、浅野忠信は助演男優賞の有力候補にあげたい。
A おくりびと ☆☆☆☆★★

納棺師の仕事・世界を描いた秀作で「お葬式」を超えた。本木雅弘が行う納棺の場面だけでも一見の価値あり、夫婦の物語としても楽しめる。映画史に残る名作。

B 闇の子供たち
☆☆☆☆★★ タイにおける幼児売買春、臓器密売を描いた渾身の力作。主役の2人、脇を固めるキャストが揃っての好演。日本人の責任を問いかけるラストに監督の思いが込められている。必見の映画。
C ぐるりのこと ☆☆☆☆★★

ある夫婦の10年を優しく描いた屈指の秀作。法廷画家という設定が効果的で、夫婦のドラマと社会的背景を巧みに交差させる。リリー・フランキーと木村多江が好演。

D トウキョウソナタ ☆☆☆☆★ 黒沢清監督が家族映画に挑んだ力作。リストラ、失業、家庭崩壊、イラク戦争など日本が直面するテーマを背景に描いている。香川照之が巧さを見せ、小泉今日子もぴったりの演技だ。
E 歩いても 歩いても ☆☆☆☆★ 1年ぶりに長男の命日に集まったある家族の1日を淡々と追った秀作で、是枝裕和監督が新境地を開いている。出演者が揃っての好演で、演技賞レースを賑わせそう。
F 花は散れども ☆☆☆☆★ 95歳の新藤兼人監督による自伝的作品で柄本明が熱演。同窓会シーンで戦争と原爆に対する怒りをぶつけている。ラブ・ストーリーとしても秀逸で、大竹しのぶが久しぶりにいい味。
G 人のセックスを笑うな
☆☆☆☆★

永作博美の小悪魔的魅力と蒼井優の存在感ある演技で、今年の収穫の1本。長回しの多用とカメラを引いた構図が、2時間をこす長さを感じさせず見応え十分。

H アフタースクール ☆☆☆☆★

「日本版スティング」の快作で気持ちよく騙される。大泉洋と佐々木蔵之介が代表作といえる巧演で脇を固めるキャストも揃って好演。見直すたびに新たな発見が。

I 花はどこへいった ☆☆☆☆★ ベトナム戦争での米軍による枯葉作戦の傷跡を追ったドキュメンタリー映画の力作。演出はシンプルだが、強く訴えかけてくる。
ブタがいた教室 ☆☆☆☆ 「ブタを食べるか、食べないか」。教室でのディスカッション場面が圧巻だ。妻夫木聡が教師役を好演している。


外国映画

@ つぐない ☆☆☆☆★★

少女のついた嘘がひき起こす戦時下の悲劇を描いた屈指の秀作で緻密な脚本の勝利。少女役シアーシャ・ローナンの存在感ある演技が光り、助演女優賞の資格十分。

A ラスト、コーション ☆☆☆☆★★

日本による占領下の上海を舞台に、抗日運動と禁断の恋を描いた異色の恋愛映画の秀作。トニー・レオンと新人女優タン・ウェイの演技は映画史に残るであろう出来栄え。

B この自由な世界で ☆☆☆☆★★ イギリスにおける移民労働者・派遣労働の問題をリアルに描いたケン・ローチ監督の秀作。子どもを守るために一線を越えてしまったヒロインへの監督の眼差しは優しい。
C その土曜日、7時58分 ☆☆☆☆★

シドニー・ルメット監督が年齢を感じさせない演出で、人間の業を描いた秀作。「ファーゴ」と同じ展開かと思ったが、衝撃のラストまで全く違う味わいの映画になった。

D リダクテッド ☆☆☆☆★ デ・パルマ監督がイラク戦争の真実に迫った実験的な野心作であり、力作だ。見ている間、ネット・ニュース映像の単なる編集かと錯覚したが、見事なフィクションだった。
 E 告発のとき ☆☆☆☆★

イラク戦争の泥沼から抜け出せないアメリカを描いた力作。息子の死の真相を探るうち、戦争の現実と傷跡が明らかになる構成が秀逸。トリー・ミー・ジョーンズが巧演。

F 4ヵ月、3週と2日 ☆☆☆☆★

「違法」中絶に協力するヒロインの緊張感に満ちた1日を描いたルーマニア映画の秀作。直接的な体制批判はないが、当時のルーマニアの雰囲気をリアルに再現している。

G ゼアウィルビーブラッド ☆☆☆☆★

ダニエル・デイ=ルイスの怪演が圧倒的。鉱山労働者から石油王となった男の破滅的人生を描いた力作。狂信的な牧師との確執、憎悪と復讐の連鎖は米国への警告か。

H アメリカン・ギャングスター ☆☆☆☆★

デンゼル・ワシントンとラッセル・クロウの演技合戦が見物の力作で、面白さでは抜群。2人の対決する場面はラスト近くまで待たされるが、そこからの意外な展開が鮮やか。

I ウォーリー ☆☆☆☆★ ゴミ・環境問題をテーマに「人間と地球」の関係を描いた異色のピクサーアニメ。米国アニメ史に残る必見の力作。
ヤング@ハート ☆☆☆☆★ 老人パワー全開のドキュメンタリー映画の秀作。音楽映画としても大いに楽しめる出来で、万人にお薦めの映画。

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2007年のベスト10

(100点満点で、☆20点、★5点)

日本映画

@ それでもボクはやってない ☆☆☆☆★★ 痴漢冤罪事件の裁判の経過をリアルに描いた問題作。綿密な取材をもとに、日本の刑事裁判の現状と問題点を鮮やかに浮かび上がらせている。加瀬亮が代表作ともいえる好演で、脇を固めるキャストもそろって巧い。
A 犯人に告ぐ ☆☆☆☆ 「劇場型捜査」を描いた本格的な刑事映画の力作で、マスコミの現状に対する批判的な視点も含めて、見応え十分の映画。キャストもそろっての好演で、主役の豊川悦司が初めての刑事役で新境地を開いている
B パッチギ! LOVE&PEACE ☆☆☆☆ 井筒和幸監督の「憲法9条」への熱い思いがみなぎる力作。乱闘場面に疑問が残るが、「在日」と「戦争賛美映画批判」というテーマは今日では貴重な存在。キョンジャ役の中村ゆり、国鉄マン役の藤井隆が収穫だ。
C 陸に上がった軍艦 ☆☆☆☆ 新藤兼人監督の戦時中の体験を本人の証言と再現ドラマとで描いた力作。軍隊生活の非人間性と狂気をリアルに再現し、戦争の本質を分かりやすく告発している。大竹しのぶが全編のナレーションをつとめている。
D 河童のクゥと夏休み ☆☆☆☆ 河童のクゥと少年とのひと夏の出会いと別れを描いた日本版「E.T.」だ。さすが「オトナ帝国の逆襲」の原恵一監督。鋭い洞察力とリアルな描写は見応え十分。大人の鑑賞に堪える久しぶりのアニメの登場だ。
E 夕凪の街 桜の国 ☆☆☆★★★ 広島における被爆体験を二つの世代に分けて、新しい視点で描いた原爆映画の佳作で、今年の反戦・反核映画の収穫の一本。被爆者として命を絶つヒロイン役の麻生久美子がベストともいえる好演を見せている。
F サッド・バケーション ☆☆☆★★★ Helpless」「ユリイカ」に続く青山真治監督の「北九州サーガ」の集大成的な作品。特に、母親役を演じる石田えりの存在感が圧巻で、すべてを包み込んで美しくたくましく生きる女たちのドラマを見せている。
G 続・三丁目の夕日 ☆☆☆★★★ 2年前に各映画賞に輝いた話題作の完全な続編で、前作ファンには大いに楽しめる内容。昭和30年代の東京を再現した映像に新鮮な驚きはないが、不作続きの邦画の中では佳作か。薬師丸ひろ子が相変わらず巧い。
H 東京タワー オカンとボクと、時々、オトン ☆☆☆★★★ オダギリ・ジョーが主演で、地方から東京に出て働いている息子の母親孝行をテーマにした佳作。子育てに苦労する母親役の樹木希林がピッタリの適役で、今年の助演女優賞の有力候補の一人だ。
I 日本の青空 ☆☆☆★★★ 日本国憲法誕生を巡る真実を明らかにした力作で後味爽やか。憲法草案をめぐるGHQと日本政府とのやりとは手に汗を握る。鈴木安蔵らの「憲法研究会」案がGHQ案の手本となった事実が分かりやすく示された。
天然コケッコー ☆☆☆★★★ 過疎の進む片田舎での中学生の初恋と成長をゆったりと描いた佳作。ヒロインを演じた夏帆が新人賞ものの好演で、今後が楽しみだ。


外国映画

@ 君の涙ドナウに流れ
ハンガリー1956
☆☆☆☆★★ ハンガリー事件に少しでも関心のある人には必見の力作。ハンガリー事件の経過を史実にそってリアルに再現しながら、水球チームによる「メルボルンの流血戦」をからめて感動的なドラマをつくりあげている。
A 善き人のためのソナタ ☆☆☆☆★★ 「ベルリンの壁」崩壊前の東独・監視国家の恐怖を、タブーを打ち破って描いた秀作。芸術家たちを監視する役人が新しい人生に目覚めて行く過程がスリリング。ラストには、「未来への希望」が込められている。
B ドリームガールズ ☆☆☆☆★ ブロードウェイ・ミュージカル大ヒット作の映画化で、期待通りの見ごたえ、聞きごたえ。黒人問題や音楽業界の裏側なども描いている。とくに、新星ジェニファー・ハドソンの歌唱力と熱演が最大の収穫だ。
C ツォツィ ☆☆☆☆★ アパルトヘイト廃止後の南アフリカの現実をリアルに描いた人間ドラマの秀作。悪の道にはまっていた不良少年が、赤ん坊との出会いを通し人間性に目覚めていく。感動的なラストには南アフリカの今後への希望が。
D ラストキング・オブ
・スコットランド
☆☆☆☆★ 実在したウガンダ・アミン大統領による独裁政治の恐怖と実像をリアルに再現した力作。スターリンや毛沢東にも通じる最高指導者の光と影、「強さ」と「弱さ」を描いている。西側諸国の責任を問う視点も鋭い。
 E バベル ☆☆☆☆★ アカデミー賞で主要部門の受賞を逃したが、もっと評価されても良かった異色の力作。特に、聾唖の高校生に扮する菊池凛子の存在感は抜群。3大陸の4カ国を舞台に人間たちの絶望と希望を描いている。
F ヘアスプレー ☆☆☆☆ 観る前の予想に反して嬉しくなるような出来栄え。ミュージカル映画としての力強さに満ち、人種差別問題もしっかりと描かれており、後味は爽やか。母親役に扮したジョン・トラヴォルタの怪演技は演技賞もの。
G エディット・ピアフ
愛の讃歌
 
☆☆☆☆ フランス映画の良き伝統を受け継ぐ力作。エディット・ピアフの歌声をたっぷり聞かせながら、ピアフの生き様を再現してくれる。マリオン・コティヤールの鬼気迫る熱演は演技賞もので、必見の一本となった。
H 4分間のピアニスト ☆☆☆☆ 名作「シャイン」を想起させる音楽映画の秀作で、とくにラストの4分間は圧巻。自国の歴史をしっかり見据えた骨太の作品。刑務所を舞台に、天才ピアニストと女性老教師との魂の交流を感動的に描いている。
I ボーン・アルティメイタム ☆☆☆☆ 開巻からラストまで、文字通り息つく暇もない。臨場感たっぷりの映像の連続で、アクション映画史に残る力作となった。人気シリーズの完結編で、前2作を事前に見ておくと、数倍楽しめることは間違いない。
バラダイス・ナウ ☆☆☆☆ 自爆テロに向かう2人の青年の2日間を描いた異色の力作。パレスチナ人の監督作品でありながら、自爆テロへの批判的視点を忘れていない描き方に好感がもてる。

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2006年のベスト10

(100点満点で、☆20点、★5点)

日本映画

@ ゆれる ☆☆☆☆★★ 32才の女流若手とは思えない西川美和監督の鋭い人間観察が冴える見応えある人間ドラマ。オダギリジョーと香川照之が熱演し、兄弟の愛憎と葛藤を見事に演じきっている。「地方と東京の対立」という隠されたテーマも深い。
A 紙屋悦子の青春 ☆☆☆☆★★ 黒木和雄監督の遺作。終戦を間近に控えた鹿児島の田舎町を舞台に、戦時下の庶民の日常生活、若者たちの恋、戦争の悲劇を淡々と描いている。ヒロイン悦子に扮する原田知世、義姉役の本上まなみは演技賞ものの巧演。
B 武士の一分 ☆☆☆☆★★ 山田洋次監督が夫婦愛をじっくりと描き、時代劇の新境地を開いた。木村拓哉が幼少から学んだ剣道を生かし殺陣にも冴えを見せる。美しき妻役の壇れいが爽やかで新人賞の候補。笹野高史の演技も助演男優賞ものの存在感。
C フラガール ☆☆☆☆★ 素直に感動でき、老若男女にお薦めできる秀作。閉鎖の迫る炭坑まちで、起死回生のプロジェクトに参加した青春群像を、笑いと涙たっぷりに描いている。時代背景への目配せもあり、後味は爽やか。最大の収穫は蒼井優か。
D 三池 終わらない炭鉱の物語 ☆☆☆☆★ 市民と行政、撮影スタッフの共同で完成させたドキュメンタリー映画の屈指の力作。「負の遺産」といわれていた三池炭鉱の歴史を「プラスの遺産」に変えた。とくに、三池争議にかかわる当時のニュース映像と関係者の証言は必見。
E 博士の愛した数式 ☆☆☆☆★ 小川洋子のベストセラー小説を小泉堯史監督が映画化。寺尾聰、深津絵里、吉岡秀隆らが好演し、透明感ある映画に仕上がっている。映画に登場する数学の内容について、専門誌「数学セミナー」が特集を組んだほどだ。
F 虹の女神 ☆☆☆☆ 岩井俊二監督が初めてプロデューサーをつとめた青春ラブストーリーの秀作。ひとりの青年と大学時代の親友だった女性との回想の旅をリリカルに描いている。今年の邦画の収穫の1本で、上野樹里にとっても代表作となる作品。
G 佐賀のがばいばあちゃん ☆☆☆☆ 「明るい貧乏」を生き抜くがばいばあちゃんの人生哲学の数々に不覚にも涙してしまった。島田洋七の自伝小説の映画化で、島田紳助・緒方拳ら、そうそうたるメンバーが友情出演。吉行和子の熱演に★一つおまけ。
H カミュなんて知らない ☆☆☆☆ 柳町監督の新作は映画ファンを楽しませる「遊び心」満載の力作。大学のワークショップによる映画制作のプロセスを描いているが、現実との境界線が一瞬にして突破されるラストの衝撃は、最近では味わったことのない体験。
I 六ヶ所村ラプソディー ☆☆☆☆ 鎌仲ひとみ監督が「ヒバクシャ」に続いて完成させたドキュメンタリー映画の秀作。本格稼働を目前に控えた六ヶ所村の核燃料再処理工場をめぐり、住民らの様々な反応と生き様を温かいまなざしで追っている。問題提起の映画だ。
ガーダ パレスチナの詩 ☆☆☆☆ パレスチナ・ガザ地区での女たちの生き様をリアルに描いた秀作。女たちの日常生活を追いながら、パレスチナ問題の全体像に迫っていく。映画を通して成長するヒロイン・ガーダを描き、女性映画としても秀逸な出来映えだ。


外国映画

@ 麦の穂をゆらす風 ☆☆☆☆★★★ アイルランド独立戦争をリアルに描いたケン・ローチ監督の集大成にして最高傑作。人間には、犠牲を恐れず戦わなければいけない時があることを感動的に描いている。中盤と最後の「一撃」には、涙を抑えることができない。
A 硫黄島からの手紙 ☆☆☆☆★★ クリント・イーストウッド監督が、「硫黄島の戦い」の真実に迫った渾身の傑作。兵士たちの内面を描いた人間ドラマとして秀逸だ。外国人による日本に関する映画として過去最高の出来で、「日本映画」でなかったのがまことに残念。
B 父親たちの星条旗 ☆☆☆☆★★ 「硫黄島の戦い」の悲惨さをリアルに描き、「英雄」に祭り上げられた兵士たちのみじめな末路を見つめた秀作。「戦争に英雄はいない」と米国の茶番を痛烈に批判するクリント・イーストウッド監督の集大成で戦争映画史に残る力作。
C 白バラの祈り ☆☆☆☆★ 「ヒトラー政権打倒」をかかげて立ち上がった一女学生の死を恐れぬ5日間の勇気あるたたかいをリアルに再現した秀作。自白させようとする尋問官との息詰まるやりとりは手に汗を握る緊迫の場面で、一瞬たりとも目が離せない。
D 母たちの村 ☆☆☆☆★ アフリカ社会に今なお因習として残る割礼を正面から描いたウスマン・センベーヌ監督の力作。保護を求める少女たちを救おうとする母親たちの行動は感動的で、その勇気ある行動に、保守的な男たちの中にも味方が生まれていく。
 E カポーティ ☆☆☆☆★ 事前の予想以上に小説「冷血」を書き上げるまでの作家の苦悩と葛藤を描いた重厚な力作。アカデミー主演男優賞を受賞したフィリップ・シーモア・ホフマンの演技が堪能できる。少しでも書く仕事に携わる者には身につまされる話だ。
F ユナイテッド93 ☆☆☆☆★ 9・11事件の悲劇を描いた力作。目的地に到達することなく墜落した機内で何がおこったのか、残された記録を元にして再現されている。乗客たちと犯人グループとの攻防は、結末が分かっているものの、手に汗を握る臨場感だ。
G ミュンヘン ☆☆☆☆★ スピルバーグ監督が、「テロ・報復の連鎖」に疑問を投げかけた力作。報復作戦のリーダーに焦点をあてて、報復テロの実行過程と苦悩を描いており、テロ対策と称して報復を繰り返すブッシュ政権への痛烈な一撃ともなっている。
H スタンドアップ ☆☆☆☆ アメリカでセクハラ集団訴訟に初勝利した実話の映画化で拾い物的な力作。労働者が立ち上がる様子をリアルに描いている。シャーリーズ・セロンが汚れ役に挑戦し、アクション映画では見せることのない演技力と輝きを示した。
I グッドナイト&グッドラック ☆☆☆☆ 「赤狩り」を告発したニュースキャスター、エド・マローの戦いを描いた秀作。ジョージ・クルーニー監督はモノクロ映像とジャズで50年代を見事に再現。放送界の現状を痛烈に批判したマロー演説は現代マスコミ批判にも通じる内容。
トンマッコルへようこそ ☆☆☆☆ 「グエムル 漢江の怪物」に続いて韓国映画におけるアメリカ離れの傾向を再確認できる快作。架空の設定によるファンタジーとはいえ、韓国軍と北朝鮮軍の兵士が力を合わせて米軍とたたかうという設定にはビックリされられる。

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2005年のベスト10

(100点満点で、☆20点、★5点)

日本映画

@ いつか読書する日 ☆☆☆☆★ 邦画に珍しい大人の恋愛を描いて、今年の収穫の一本。「火火」に続いて田中裕子の好演が光っており、主演女優賞の最有力候補かも。対する岸部一徳のうまさも見事だ。朝の通勤時の市電のシーンが巧みに使われている。
A 理由 ☆☆☆☆★ 「映画化は不可能」と言われていた宮部みゆきの長編ミステリー小説を見事に映像化した大林宣彦監督の渾身の力作。100人をこえる主要登場人物の織りなすドラマが日本の社会と家庭の縮図を示している。
B 蝉しぐれ ☆☆☆☆★ 黒土三男監督が藤沢周平の原作を読んで映画化をと考えてから15年。その執念が見事に結実。ラブストーリー、青春と友情、父と子、お家騒動など、日本映画の要素がてんこもり。市川染五郎と木村佳乃、その子役たちと、そろっての好演
C 火火 ☆☆☆☆

女性陶芸家の生き様をリアルに描いた秀作。久しぶりに登場した田中裕子の熱演が光り、高橋伴明監督が新境地を開いた。実在のモデルや医療機関の協力を得て可能となった窯業シーン、骨髄移植シーンに注目。

D カーテンコール ☆☆☆☆

昭和3040年代の映画館で活躍した幕間芸人が主人公。若き記者の目を通し、映画全盛期を生きた芸人一家のその後の人生を追う。「在日」の問題を描いた後半の展開が新鮮。映画への想いと家族を描いた力作

E 海女のリャンさん ☆☆☆☆

戦前、済州島から日本に渡り、大阪で暮らすリャンさんの半生を追う。38年前の未完成フィルムを生かし、一人の母親の生き様をリアルに紹介。53年ぶりに実現した済州島墓参り、息子たちの住む北朝鮮の映像も。

F 映画 日本国憲法 ☆☆☆☆

憲法制定の経緯や憲法第9条の意義に光をあてた映画で、アメリカ、中東、中国、韓国等の知識人が、日本国憲法について語ったインタビュー集。世界から見た日本国憲法の位置、第9条の先駆性が浮かび上がる。

G ALWAYS 三丁目の夕日 ☆☆☆★★★ 東京タワー建設が進行中の昭和33年の東京の下町が舞台。CGを駆使した特撮による東京の街や上野駅などの忠実な再現が見事。少年の目を通して下町の人情と家族を描く。吉岡秀隆、堤真一、薬師丸ひろ子らがそろって好演。
H メゾン・ド・ヒミコ ☆☆☆★★★

ゲイたちの老人ホームを舞台に愛のあり様を描いた異色作で、犬童一心監督のオリジナル。オダギリジョーと柴咲コウがともに難役を好演しており、詩情あふれる映像も見もの。

I フライ,ダディ,フライ ☆☆☆★★★

少年と中年男のひと夏の奇妙な師弟関係を爽やかに描いた異色作で、中年のダメ親父にエールを贈る佳作。平凡なサラリーマンが、娘の敵をうつために、トレーニングに励むシーンが秀逸な出来。

運命じゃない人 ☆☆☆★★★

日本映画になかったタイプの快作で、練り上げられた脚本の勝利。遊び心いっぱいの演出だが、こういう挑戦はもっともっと試みられるべきだ。


外国映画

@ エレニの旅 ☆☆☆☆★★ テロ・アンゲロプロス監督の6年ぶりの力作で、映像の美しさは絶品。水没していく村での水上葬儀の場面は、詩的な荘厳さをたたえており、必見。ギリシャの20世紀を描く3部作の第1作で、女性エレニの半生を描き、亡き母に捧げている。
A ミリオンダラー・ベイビー ☆☆☆☆★★

2度目の監督賞を受賞したクリント・イーストウッド監督の成熟ぶりを示す秀作。女子ボクサーに扮するヒラリー・スワンクの体当たり熱演は圧巻で、主演女優賞も納得。起承転結のハッキリしたストーリーだが、「父と娘」のドラマとして秀逸。

B シンデレラマン ☆☆☆☆★

かつての名作「レイジング・ブル」に匹敵するボクシング映画+人間ドラマの秀作。1930年代の深刻な大不況の時代を背景に、家族の生活を守るためにたたかう一人のボクサーの生き様を描いて鮮烈。ファイトシーンの迫力も超リアルで、手に汗を握る。

C 海を飛ぶ夢 ☆☆☆☆★

アカデミー外国語映画賞受賞も納得のスペイン映画の秀作。尊厳死のテーマを深く描いた人間ドラマだ。主役を演じたハビエル・バルデムの好演が光り、彼を取り巻く三人の女性たちと家族の描き方に、監督の温かい人間観察が感じられる。

D ヴェラ・ドレイク ☆☆☆☆★ 妊娠中絶の問題を題材として、ある家族の崩壊と再生を感動的に描いた力作。貧困、格差拡大などの社会問題を背景に、主人公の「善意」と「善意がもたらした悲劇」を丁寧に描いている。イメルダ・スタウントンが素晴らしく、彼女の演技だけでも一見の価値あり
E 故郷の香り ☆☆☆☆★

「山の郵便配達」のフォ・ジェンチイ監督の最新作で、美しい山村を舞台に、10年ぶりに再会した2人の切ない運命を丁寧に描いている。耳が不自由で口もきけない夫役の香川照之の巧さが目立ち、黒木瞳似のヒロインも爽やか。

F アビエイター ☆☆☆☆★

映画と飛行機に情熱を傾けた実在の大富豪家ハワード・ヒューズの光と影を描いたハリウッドらしい大作。キャサリン・ヘプバーン役のケイト・ブランシェットが好演で、助演女優賞も納得。ヒューズ役のディカプリオはやや貫禄不足か。

G Ray/レイ ☆☆☆☆

天才的黒人音楽家レイ・チャールズの生涯をリアルに描いた伝記物の秀作で、単なる美談に終わらせていない。レイになりきったジェイミー・フォックスの大熱演は、アカデミー主演男優賞受賞も納得の出来。

H ベルリン,僕らの革命 ☆☆☆☆

「グッバイ、レーニン!」に続く秀作。「社会を変える」理想に燃えながら、その道筋を見出せない若者の苦悩を描く。元学生運動の闘士であるブルジョアとの対話がテーマを掘り下げており、その存在感は抜群。

I サイドウェイ ☆☆☆☆

ワイン通の中年教師と売れない俳優の2人のワイナリーへの旅をコミカルに描いた人間賛歌。どこにでもいそうな平凡な中年男性たちの人生が、ワインと重ねて描かれ、誰もが共感を覚える秀作。

ヒトラー 最期の12日間 ☆☆☆☆ ヒトラー自殺にいたる最期の12日間を、秘書の女性の目を通して再現した力作。圧巻はゲッヘルス夫人が6人の子どもたちを手にかけるシーン。「若さは言い訳にならない」という秘書の回想とともに印象に残る

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2004年のベスト10

(100点満点で、☆20点、★5点)


日本映画

@ 父と暮せば ☆☆☆☆★★ 黒木和雄監督が井上ひさしの戯曲を映画化し、「戦争レクイアム3部作」を完結させた。生き残った被爆者の苦悩と葛藤を宮沢りえが巧演し、死んだ父親役・原田芳雄との演技合戦を堪能できる。反核・平和への想いにあふれ、今年の邦画を代表する屈指の秀作となった。「おとったん、ありがとありました」との最後のセリフがいつまでも心に響く。
A 誰も知らない ☆☆☆☆★ テレビドキュメンタリー出身の是枝監督作品として、デビュー作「幻の光」に匹敵する屈指の秀作。柳樂優弥君のカンヌ映画祭男優賞受賞も大いに納得の表情と演技だ。子役の4人が4人とも巧く、身勝手な母親を演じたYOUも印象に残る。実話を元にした悲劇で、ハッピーエンドではないが、今年必見の切ない映画といえよう。
B 東京原発 ☆☆☆☆★ なぜ、映画が完成してから2年間もお蔵入りしていたのか、理由のよく分からない傑作だ。原発という社会問題をとり扱いながら、エンタテイメントとして、実に面白い。「東京に原発を誘致する」という都知事の提案をめぐって、会議室でたたかわされる部長クラスの討論が勉強にもなり、興味深々の展開。ベスト10の上位にランクしたい作品だ。
C 笑の大学 ☆☆☆☆★ 三谷幸喜原作・脚本の映画化だが、こんなに腹の底から笑えた映画は久しぶりだ。時代は昭和15年、警視庁の取調室が舞台。ある喜劇台本の検閲をめぐり、7日間の攻防を繰り広げるが、皮肉にも台本はどんどん面白くなる。冷徹な検閲官役を演じる役所広司がさすがに巧く、不器用でしたたかな作家役の稲垣吾郎も好演している。
D 隠し剣 鬼の爪 ☆☆☆☆★ 「たそがれ清兵衛」に続く山田洋次監督の時代劇演出は、ますます快調で、笑いあり、涙ありと、ファンの期待を裏切らない秀作となった。永瀬正敏が少々貫録不足だが、目の演技で見せる松たか子をはじめ、助演陣のそろっての好演で、見応えあるドラマとなった。決闘シーンの迫力もあり、ラブ・ストーリーとしても秀逸で、ラストシーンが爽やか。
E 草の乱 ☆☆☆☆★ 神山征二郎監督が、120年前におこった秩父事件を描いた力作。制作費4億5千万円の殆どをカンパ・出資で集め、8000人のボランテイァがエキストラとして参加し、蜂起シーンの迫力をつくりだした。ドキュメンタリータッチで事件をリアルに再現し、死を賭してまで立ち上がらざるを得なかった人々の勇気を伝えてくれる。
F この世の外へ クラブ進駐軍 ☆☆☆☆★ 「KT」の阪本順治監督が本領を発揮した秀作。戦後の混乱期、音楽を武器にして生き抜く若者たちの青春、米兵との交流を生き生きと描いている。ラスト近く、朝鮮戦争が始まるが、「死ぬなよ」「逆だよ。戦争だ。殺しに行くんだ」との会話が胸を打つ。イラクへの自衛隊派遣ともだぶらせて、戦争の意味を正面から問いかけている。
G 熊笹の遺言 ☆☆☆☆ 国立ハンセン病療養所、栗生楽泉園のいまを描いたドキュメンタリー映画の傑作。日本映画学校の卒業制作作品として作られた。「ハンセン病元患者としてではなく、1人の人間として描きたかった」という今田哲史監督らスタッフとの人間的交流から、心を開いて自分の思いを活き活きと語る登場人物の姿がさわやかで感動的だ。
H ヴァイブレータ ☆☆☆☆

深夜のコンビニで出会った男と女のゆきずりの恋と別れを描いた力作。寺島しのぶが東京国際映画祭で女優賞を受賞したが、それも納得の熱演ぶり。現代女性の心の揺れをテーマに、日本では初のロード・ムービーの傑作となった。長距離トラックの車窓にうつる冬の日本の風景が、なつかしくも美しい。

I ジョゼと虎と魚たち ☆☆☆☆ 妻夫木聡と池脇千鶴の異色カップルが爽やかな後味を残す恋愛映画の秀作。とくに、池脇千鶴が地の大阪弁で、障害をもちながらシンの強いヒロイン役を体当たりで熱演している。恋愛の切なさと残酷さをリアルに描きながら、不思議な感触の映画となった。
深呼吸の必要 ☆☆☆☆ 沖縄のある島で、さとうきび狩りの作業シーンが延々と続く異色の映画だが、青春群像ドラマとして愛すべき秀作に仕上がっている。一面に広がるさとうきびを狩る作業を期日までにやりきる達成感が爽やかだ。出演作の相次ぐ香里奈も、これが一番、生き生きとしている。


外国映画

@ 父、帰る ☆☆☆☆★★ 久しぶりに登場したロシア映画の傑作。12年ぶりに突然帰ってきた父親と、その帰還に戸惑う2人の息子との葛藤を、詩情ゆたかな映像で描き、完成度はきわめて高い。説明をいっさい省略した映画の作り方に、「分かりにくい」との声もあるが、物語は至ってシンプル。すべてを観客の想像にゆだね、最後まで緊張感をみなぎらせている。
A オアシス ☆☆☆☆★ 「八月のクリスマス」以来の韓国製ラブ・ストーリーの傑作。「シルミド」のソル・ギョングが心優しい青年を巧演。ヒロイン役のムン・ソリは脳性まひの女性になりきって圧巻だ。誰からも理解されないなかで、真実の愛を育んでいく2人のやりとりに、一瞬たりとも目が離せない。
B ミスティック・リバー ☆☆☆☆★ クリント・イーストウッド監督の24作目にして最高の出来栄えの力作。児童虐待事件が3人の少年に残した傷あとを、25年後の再会と不幸な出来事を通して描く。ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケビン・ベーコンの競演だけでも一見の価値あり。米アカデミー賞レースの先頭を走りそうだ。
C 殺人の追憶 ☆☆☆☆★ 韓国映画のパワーと勢いを改めて示した力作だ。1980年代に起こった連続猟奇殺人事件を、捜査に当たる対照的な二人の刑事の姿を通して再現する。実話同様、事件は未解決のままで終わるが、軍事政権時代の歪みがハッキリと描かれ、映画に厚みを増している。
D フォッグ・オブ・ウォー ☆☆☆☆★ 「華氏911」は政府高官のインタビューが少なく、物足りなさを感じたが、これは全編が元国防長官マクナマラ氏のインタビュー。キューバ危機やベトナム戦争、東京空襲に関わった当事者の口から本音を引き出し、アメリカの過去と現在について考えさせるドキュメンタリーの傑作となった。
E モーターサイクルダイアリーズ ☆☆☆☆★ チェ・ゲバラの青年時代、南米大陸縦断の旅と主人公の成長を描いた秀作。おんぼろバイクに乗っての2人の若者の旅を迎える南米大陸の美しい自然と風景、旅の途中で出会う様々な人々の生き様が最大の主役か。この映画を企画・製作したロバート・レッドフォードに拍手を送りたい。
F インファナル・アフェア2 ☆☆☆☆★ 「インファナル・アフェア」の過去にさかのぼる作品で、壮大な3部作の序曲。驚くべき事実が次々と明かされ、登場人物たちが深く描かれている。二転三転のストーリーは一瞬のゆるみもなく、ラストまで緊張感が持続。香港版「ゴッド・ファーザー」の貫録十分で、特に今作の出来栄えは秀逸。
G コールドマウンテン ☆☆☆☆★ 「甘口のラブ・ストーリー」との予想に反し、南北戦争を背景とした超辛口の人間ドラマの力作。映像も音楽も素晴らしい。アカデミー助演女優賞も納得のレニー・ゼルウィガーの熱演がニコール・キッドマンを完全に食っている。未亡人役のナタリー・ポートマンの存在感も印象に残る。
H シルミド ☆☆☆☆ 現代史のタブーに挑戦し、パワーあふれる力強い映像で、最後まで一気に見せる。韓国映画よ、恐るべし。今の日本映画には、こんな政治的テーマを面白く見せる映画はほとんどない。東映の「仁義なき戦い」シリーズを思わせる男のドラマに、最後は不覚にも涙した。
I グッバイ、レーニン! ☆☆☆☆

「ベルリンの壁」崩壊が東ドイツにもたらした変化を、一家族を通して見つめ直した秀作。心臓発作を起こした母親を死なせないために、旧体制が続くふりをする息子の悪戦苦闘ぶりがコミカルに描かれる。当時のドイツ事情を知る上でも見逃せない。

少女へジャル ☆☆☆☆ トルコにおけるグルド人問題を描いた感動作で、よく練られた脚本の勝利。5歳のクルド人少女とトルコ人の老人との心のふれあいを繊細に描いている。国内で上映禁止となり、裁判で勝訴するなどして、映画が社会を動かした1本。今夏公開の外国映画の中ではイチオシの秀作だ。

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2003年のベスト10

(100点満点で、☆20点、★5点)


日本映画

@ 阿修羅のごとく ☆☆☆☆★ 向田邦子の同名原作の映画化。老いた父親の浮気をめぐる四人姉妹の葛藤を通して、人生の喜怒哀楽をユーモアを交えて描く。森田芳光監督作品とは思えないオーソドックスな人間ドラマの秀作。大竹しのぶ、黒木瞳ら4大女優の演技合戦が最大の見もの。母親役の八千草薫の巧さがきらりと光リ、今年の助演女優賞はこれで決まりか。
A スパイ・ゾルゲ ☆☆☆☆ 第二次世界大戦での連合軍を勝利に導いた国際スパイ・ゾルゲとその協力者・尾崎秀実たちの活躍を描いた力作。篠田正浩監督は、最新のデジタル技術を駆使して、戦前・戦中の東京の市街地をリアルに再現。戦争への道をつきすすんだ激動の昭和史の総括にもなっている。
B ロボコン ☆☆☆★★★ ロボットコンテストの全国大会優勝をめざす「落ちこぼれ」高専校生たちの姿を描いた爽やかな佳作。ロボットコンテストのシーンが意外に新鮮で、長回しの撮影はハラハラドキドキさせてくれる。不作の邦画の中では拾い物の1本。
C わらびのこう ☆☆☆★★★ 江戸時代の農民の生活と口べらしのための蕨野行を格調高く描き、「生と死」をみつめた意欲作。恩地日出夫監督が、山形県民の全面協力を得て資金を集め完成させた。ベテラン市原悦子と新人清水美那が姑と嫁を好演。
D アイ・ラブ・ピース ☆☆☆★★★ 地雷で片足をなくしたアフガニスタン少女と、義肢装具士をめざすろうあ女性の心の交流を淡々と描いた力作で、忍足亜希子がさわやかに好演。アフガン長期ロケの効果も生かし、真に必要な復興支援のあり方に迫っている。
E g@me. ☆☆☆★★★

狂言誘拐をゲーム感覚で描いた佳作。先の読めない展開に最後までハラハラドキドキ。藤木直人と仲間由紀恵が爽やかに好演、父親役の石橋凌も存在感を示す。日本映画にも、シャレた犯罪映画が作れることを示す貴重な1本

F チルソクの夏 ☆☆☆★★★ 「アジア映画祭」で関西初公開された佳作。永年、助監督をつとめ、昨年「陽はまた昇る」でデビューした佐々部清監督の思いが結実している。陸上競技のオーディションに合格したヒロインらの姿がまぶしく、後味は爽やかだ。
G 釣りバカ日誌14 ☆☆☆★★★ シリーズ中で屈指の出来栄えの佳作。とくに、マドンナ役の高島礼子が意外な収穫で、「男はつらいよ」の雰囲気を出しており、四万十川、足摺岬など観光名所の案内にもなっている。ただし、ラストの喧嘩シーンは少々やりすぎ。
H 座頭市 ☆☆☆★★★ 予想に反して正統派の時代劇で見応え十分。「椿三十郎」「七人の侍」など黒澤明監督作品の影響は大きい。「弱きを助け、強きをくじく」ヒーローを定番どおり描く新感覚の時代劇で、ラストのタップダンスにも違和感はない。
I ヒバクシャ 世界の終わりに ☆☆☆★★★ 湾岸戦争で使われた劣化ウラン弾や放射能漏れによる被曝の実態に迫るドキュメンタリーの力作。とくに、アメリカ編が秀逸で、乳ガン発生と原発事故の因果関係に迫る肥田医師の地道な研究成果にも注目したい。


外国映画

@ シカゴ ☆☆☆☆★ 久しぶりに、ミュージカル映画のパワーを十分に堪能することができる傑作の誕生だ。ゼタ=ジョーンズの存在感とダンスが抜群で、主役のレニー・ゼルウィガーを完全に食っている。ミュージカル映画の新しい歴史が作られていくのかもと予感させる1本だ。
A 戦場のピアニスト ☆☆☆☆★ ナチ占領下のポーランドで生き抜いた名ピアニストの運命を実話にもとづいて映画化した秀作。立場の違いをこえ、命がけでピアニストを救った人々の行動を描き、胸を打つものがある。ショパン、ベートーベンの名曲の使い方も巧く、音楽ファンも必見・必聴の1本。
B トーク・トゥ・ハー ☆☆☆☆★ 「オール・アバウト・マイ・マザー」のべドロ・アルモドバル監督が昏睡状態におちいった女性と向き合う二人の男を通して、愛することの本質や人間の孤独に迫った傑作ドラマ。脚本の勝利で、完成度はきわめて高い。監督自身のオリジナルによる劇中劇の無声映画にも注目したい。
C フリーダ ☆☆☆☆ 共産主義者でもあった伝説の女性画家フリーダ・カーロの激動の生涯を再現した力作。壁画家ディエゴ・リベラとの不幸な結婚生活、トロツキーとの不倫の恋など興味津々の題材を、メキシコ出身のサルマ・ハエックが制作・主演をかね、見応えあるドラマに仕上げている。
D マグダレンの祈り ☆☆☆☆ マグダレン修道院に収容された女性たちの実体験をもとにした衝撃の問題作。ケン・ローチ監督作品でおなじみのピーター・ミュランが怒りをこめて演出し、昨年のヴェネチア映画祭で金獅子賞に輝いた。自由を求めてたたかい続けるヒロインたちの凛とした姿が印象的だ。
E 名もなきアフリカの地で ☆☆☆☆ 「ビヨンド・サイレンス」のカロリーヌ・リンク監督が、アフリカのケニアを舞台にして、ナチによるユダヤ人迫害を新たな視点から描いた秀作で、アカデミー外国語映画賞受賞も納得。少女の成長とともに、お嬢さん育ちの主婦がたくましく変化する様子が、丁寧に描かれている。
F シティ・オブ・ゴッド ☆☆☆☆ ブラジルからやってきた衝撃の映像で、キッズたちの「武器なき戦い」を描いた力作。60年代末〜80年代初頭、リオデジャネイロ郊外のスラム街「シティ・オブ・ゴッド」が舞台。目をそむけたくなる場面もあるが、スタイリッシュな演出が冴え青春映画としても出色の出来。
G ヘヴン ☆☆☆☆ 故キェシロフスキ監督の遺稿を、ドイツの新鋭監督が映画化した力作。誤って無実の人々を死に追いやった女性と若き刑務官との愛の逃避行が、胸に迫る。ケイト・ブランシェットが、女主人公の心の揺れ動きを繊細に演じており、彼女の代表作となった。
H 少女の髪どめ ☆☆☆☆ 「運動靴と赤い金魚」のマジッド・マジディ監督が、イランにおけるアフガン難民の現実をふまえ、若者の「無償の愛」を描いた心にしみる秀作。9・11テロ事件以前に撮影された映画だが、「世界が戦争でなく、愛によって支配される日を夢見て」という監督のメッセージが胸をうつ。
I 復活 ☆☆☆☆

タヴィアーニ兄弟が、トルストイの原作にほぼ忠実に、現代に通じる人間ドラマとして見事に蘇生させた3時間7分の超大作。偽善的な貴族社会と決別し、新しい生き方を選択するカチューシャの凛とした生き方が共感をよぶ。

ボウリング・フォーコロンバイン ☆☆☆☆ 1999年のコロンバイン高校銃乱射事件がなぜ起こったのかを探るドキュメンタリー。マイケル・ムーア監督は、ユーモアを武器に、アメリカ社会の深層に鋭く切り込んでいく。ブッシュ政権の無法なイラク攻撃の背景にも迫る。

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2002年のベスト10

(100点満点で、☆20点、★5点)

日本映画

@ たそがれ清兵衛 ☆☆☆☆★★ 「今までの時代劇に不満」という山田洋次監督の執念が実った見事な傑作。人生と家族のドラマであり、ラブ・ストーリーとしても秀逸。真田広之とともに宮沢りえが印象に残る。
A 海は見ていた ☆☆☆☆★ 黒澤明の遺稿を熊井啓監督が見事に映画化。江戸・深川の岡場所に生きる女たちを生き生きと描いた女性映画の秀作。清水美砂と遠野凪子の代表作になるだろう。
B KT ☆☆☆☆ 自衛隊の情報収集やアメリカの支配など、よくここまで映画化できた。登場人物では、特攻隊員や共産党員の経歴を持つジャーナリス・神川が興味深々だ。
C 折り梅 ☆☆☆☆ 老人介護の問題を正面からみつめた秀作で、今年の邦画の収穫の一本。原田美枝子と吉行和子の自然体の演技が素晴らしく、いつのまにか、目頭が熱くなっていた。
D 阿弥陀堂だより ☆☆☆☆ 心の病をもつ女医が、田舎生活の中で癒される物語に素直に感動できた。樋口可南子に、こんな名演技ができるとはビックリした。北林谷栄の助演女優賞は決まりだろう。
E ごめん ☆☆☆☆ 京都・大阪を舞台に、思春期の性のめざめと初恋を爽やかに描いた秀作。自転車の使い方が巧いのは、「翔んだカップル」の故・相米慎二監督へのオマージュか。
F OUT ☆☆☆★★★ 原田美枝子をはじめ女優陣は揃って巧い。本年屈指の問題作であり力作だが、ストーリーに共鳴できないので★一つ減点。秀作「愛を乞うひと」には、遠く及ばない。
G 夜を賭けて ☆☆☆★★★ 終戦後の大阪を舞台に、在日の生き様を描いたパワフルな力作。韓国の巨大なオープンセットは一見の価値あり。
H 突入せよ 「あさま山荘」事件 ☆☆☆★★★ 「彼らは革命の英雄でなく、国民の敵だ」という観点で描かれていてスッキリしている。警視庁と長野県警とのごたごた劇は、「踊る大捜査線」より面白い。
I 陽はまた昇る ☆☆☆★★★ どうせ企業の宣伝映画かと期待せずに見たが、VHS開発の夢を追う男たちのロマンに素直に感動できた。
ピンポン ☆☆☆★★★ CGを駆使した試合シーンは、元卓球部キャプテンも大満足の出来栄え。卓球場の老婆に扮する夏木マリが巧い。

なお、「平塚らいてうの生涯」(☆☆☆☆)は、ドキュメンタリー作品のため、「特別賞」とします。

外国映画

@ ブレッド&ローズ ☆☆☆☆★★ ロサンゼルスを舞台に、移民労働者たちの熱いたたかいを描いた感動的な力作だ。悪戦苦闘する主人公たちに向けるケン・ローチ監督の温かい眼差しが心にしみる。
A チョコレート ☆☆☆☆★★ 2人が初めて結ばれる場面はアメリカ映画史に残るハードで美しいシーン。ハル・ベリーの主演女優賞も納得の秀作
B 酔っぱらった馬の時間 ☆☆☆☆★★ イラン・イラク国境地帯に住むクルド人一家・兄弟の悪戦苦闘ぶりを見つめた傑作。邦題の意味は見てのお楽しみ。
C ノー・マンズ・ランド ☆☆☆☆★ 戦争の愚かさをブラックユーモアたっぷりに描いた傑作。アカデミー外国映画賞に輝いた今年必見のボスニア映画
D 活きる ☆☆☆☆★ 政治の激動に翻弄される家族の悲劇をリアルに描いた力作。原作の悲劇性をおさえた演出に好感がもてる。
E ロード・トゥ・パーディション ☆☆☆☆★ 単なるギャング映画に終わらせず、3組の父親と息子の葛藤を重厚に描く秀作。全編モノクロに近い画面が渋い。
F 息子の部屋 ☆☆☆☆ カンヌ映画祭グランプリ受賞も納得の感動作。静かだが、家族再生への力強いメッセージに満ちている。
G 鬼が来た! ☆☆☆☆ 日本軍が中国で何をしたのか。ブラック・ユーモアをまじえて鋭く描いた力作。秀吉役で活躍中の香川照之が好演。
H ゴスフォード・パーク ☆☆☆☆ 群像劇の得意なロバート・アルトマン監督の職人技が冴える殺人ミステリーの力作。上流階級への風刺が痛烈だ。
I 太陽の雫 ☆☆☆☆ ハンガリーの激動の20世紀を、あるユダヤ人一族の3代を通して描いた力作。サボー監督らしく男と女の物語にも。
モンスターズ・インク ☆☆☆☆ アメリカのアニメ映画にこんな傑作が登場した。子どもたちだけに見せておくのは惜しい大人向けの力作だ。


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