アメリカ映画

ジョン・マディン監督 「恋におちたシェイクスピア」

 「恋におちたシェイクスピア」は、今年の米アカデミー賞で最優秀作品賞など7部門を受賞。イギリス映画界の好調ぶりを示す1本で、映画としての魅力に満ちみちている。

 なんといっても、脚本のアイデアが新鮮。あの名作「ロミオとジュリエット」の誕生の裏に、シェイクスピア自身の情熱的な恋の物語があったという大胆な設定で、史実と虚構、現実と劇中劇を巧みに交錯させながら、現代に通じるラブ・ストーリーの傑作を誕生させた。

 映画の舞台となる16世紀のロンドンを豊かな想像力で再現した衣裳や美術が素晴らしく、それだけでも一見の価値はありそう。シェイクスピアが生きた時代の演劇界の裏側も興味深い。

 お気に入りの若手女優の一人であるグウィネス・パルトロウは、運命的な恋におちるヒロイン役を生き生きと演じ、主演女優賞に輝いた。これからが楽しみだ。エリザベス女王に扮し、たった8分間の出番で助演女優賞を獲得したジュディ・デンチの迫力ある存在感も見どころの一つ。

Queen Victoria/至上の恋」に続いてコスチューム物に挑戦したジョン・マッデン監督は誰が見ても、映画の面白さと幸福感を味わうことのできる稀有の作品に仕上げた。

カーティス・ハンソン監督 「L.A.コンフィデンシャル」

アカデミー賞では助演女優賞・脚色賞の2部門にとどまったが、米批評家の選ぶベストテンで作品賞を総なめにした「L.A.コンフィデンシャル」。半年以上前から評判だけが伝わっていたが、期待を裏切らない出来栄えで、映画の醍醐味にあふれる傑作だ。

舞台は、50年代初めのロサンゼルス。あるコーヒー・ショップで、元刑事をふくむ6人の男女が絞殺される。ただちにロス市警による捜査が始まるが、背後には、暗黒街の支配をめぐる警察内部の腐敗が横たわり、事件は思いがけない展開を見せていく……。

最大の見どころは、捜査にあたる3人の刑事たちの正義と葛藤のドラマだ。殺された母への思いから刑事となった猪突猛進型のバド(ラッセル・クロウ)、殉職した父をもち、出世のためなら平気で仲間を売る野心家のエド(ガイ・ピアース)、人気テレビ番組のアドバイザーを務めるジャック(ケビン・スペーシー)。3人ともが「正義のヒーロー」でなく、屈折した影をもっている点が、物語にリアリティーを与えている。

そして、男たちの熱きドラマに華をそえているのがキム・ベイシンガー。映画女優に似た高級娼婦リン役を存在感たっぷりに演じ、初めてアカデミー助演女優賞に輝いた。

「ゆりかごを揺らす手」のカーティス・ハンソン監督が、ジェイムズ・エルロイの同名長編小説を巧みに料理し、50年代ロサンゼルスの暗部を見事に再現させた。「GODZILLA」をはじめ期待はずれの大作かならぶ中、この夏一番のお薦めの力作である。

フランク・ダラボン監督 「ショーシャンクの空に」

「ひめゆりの塔」「きけ、わだつみの声」など戦後50年記念作品が公開中だ。いずれも、平和への熱いメッセージがこめられた意欲作で、戦争を知らない世代には一見の価値がある。が、旧作とくらべて物足りなさが残ったのも事実。「シンドラーのリスト」に匹敵するような「映画史に残る傑作」とはならなかった。

そんな中で、小粒ながらキラリと光る傑作「ショーシャンクの空に」が見逃せない。

この映画は、「スタンド・バイ・ミー」とならぶスティーブン・キングの非ホラー小説の傑作「刑務所のリタ・ヘイワース」を忠実に映画化したもの。妻を殺害した容疑で有罪となり、刑務所に服役した若き銀行副頭取アンディー(ティム・ロビンス)と、その親友となる刑務所内の“調達屋”レッド(モーガン・フリーマン)。この2人の約20年にわたる友情と絆を人間味あふれるドラマとして描いている。

物静かで無口ながら、自分だけの世界をもって黙々と行動するアンディー。彼が自らの力と職能を武器にして塀の中に新風を吹き込み、所長らの信用を得ていく前半部分が、ユニークな展開で面白い。物語の後半、真犯人を知っているというコソ泥の入所で事態は急変。無罪証明の望みを絶たれたアンディーは、すっかり人が変わったように……。

だが、一転して迎える「あっと驚く」ラストでは爽やかな感動につつまれる。結末は観てのお楽しみだが、最後まで観客に気づかせない描き方は、原作より徹底している。

ティム・ロビンスとモーガン・フリーマンの2人が共に好演。「映画の良さ」をしみじみと味わえる点で、今年度屈指の秀作。今のところ、ベスト1の最有力候補だ。

スティーブン・スピルバーグ監督 「シンドラーのリスト」

 スティーブン・スピルバーグ監督がナチスのユダヤ人虐殺に正面からとりくんだ「シンドラーのリスト」は、今年1番の話題作であり、1人でも多くの人に見てほしい力作だ。

 この映画は、ナチス党員でもあったドイツ人実業家オスカー・シンドラーが、1200人近いユダヤ人をナチスの虐殺から救い出した実話を元にしたもの。トーマス・キニーリーの原作(邦訳・新潮文庫刊)を読んだユダヤ人のスピルバーグ監督が、10年ごしで企画を温め、ようやく実現させた。

 全編のほとんどが白黒フィルムで、ニュース映画を見ているような臨場感にあふれている。とくに、数十分にわたって描かれるゲットー(ユダヤ人居住区)の解体場面、収容所所長による狂気の虐殺シーン、アウシュビッツのガス室行きを選別するためユダヤ人が裸で走り回らされる場面など、一度見たら忘れられない。

 主人公のオスカー・シンドラーは、戦争に便乗しての金もうけ、賄賂やヤミ取引にあけくれ、妻を平気で裏切るなど、およそ英雄らしからぬ人物。この男が、同胞による虐殺・虐待を目撃し心を痛めるなかで、私財を投げ打ってのユダヤ人救出を決意し、実行に移すところが最大の見どころ。なぜ、シンドラーが命の危険を冒してまでユダヤ人を救ったのか、その内面描写はやや物足りないが、「僕は今まで映画で真実を語ったことがなかった」というスピルバーグが、監督料を返上し「面白さ」の追求とは無縁の形で映画化した真摯な挑戦に、心からの拍手を送りたい。

 来年の「映画100年、戦後50年」を前に、映画史に残る傑作が誕生した。 

ヤン・デ・ボン監督 「スピード」

 京都国際映画祭を頂点に、映画ファンにとって充実した年となった94年。そのラストを飾るにふさわしい傑作が、正月映画の目玉として公開中の「スピード」だ。すでに試写を含め3回観たが、何度観ても興奮する。これこそ映画。開巻からラストまで、全編がクライマックスの連続で、アクション娯楽映画では90年代のベスト作品と断言したい。

 物語は極めて単純明快。時速80キロ以下に減速すると爆発するよう仕掛けられた路線バス。ロス警察SWAT(特別狙撃隊)隊員がバスに乗りこみ、人質を救出するまでの話を中心に、超高層ビルでのエレベーターの宙づり、暴走する地下鉄での死闘を見せる。

 ストーリーの核をなす仕掛けは、佐藤純弥監督「新幹線大爆破」でも使われていたもので目新しくはない。だが、カメラマン出身のヤン・デ・ボン監督は、練りあげられた脚本を生かし、最高12台のカメラを回してのカメラ・ワークで、一難去ってまた一難、絶体絶命のピンチの波状攻撃をかけ、息つく暇をあたえない。エレベーター、バス、地下鉄など誰もが体験する日常生活にひそむ恐怖心が、いやがうえでも主人公への共感を高める。

 デニス・ホッパー演じる狂気の爆弾魔に体当たりする警察官役キアヌ・リーブスが、命がけの熱演で新しいヒーローを誕生させた。また、スピード違反で免停中の女性役サンドラ・ブロックの度胸ある運転ぶりが、緊迫感をもりあげ、大いに笑わせてくれる。

 この映画の面白さを活字で伝えきることは不可能だ。まずは一見をおすすめしたい。

ピーター・フォートン監督 「マイ・フレンド・フォーエバー」

 限りある命をみつめる少年たちの友情を描いた「マイ・フレンド・フォーエバー」。夏の終わりにじっくりと鑑賞し、いつまでも記憶にとどめておきたい1本だ。

 12歳の夏休み。エリックは生涯忘れることのできない友人と出会う。赤ん坊の頃の輸血でエイズに感染し、いわれなき偏見に苦しみながら毎日を生きる11歳のデクスター。熱き友情で結ばれた2人の少年は、エイズの治療法を捜し求めて冒険の旅に出る。

 涙なしには見られない感動作だが、死と背中合わせに生きる友人と出会った少年エリックの成長が丹念に描かれており、後味は実にさわやか。ともすれば感傷的になりがちな話を、2人の冒険の旅を中心に、生き生きとしたドラマに仕上げている。

 エリック役には、「依頼人」でデビューしたブラッド・レンフロ。デクスターに扮するのは、「永遠の愛に生きて」のジョゼフ・マゼロ。2人の少年の存在感ある演技が素晴らしく、観るものの胸を熱くさせる。また、不治の病に冒された息子をもつ母親に扮するのは、「ゆりかごを揺らす手」のアナベラ・シオラ。強さと優しさ、怒りと悲しみをあふれさせた熱演が印象的で映画全体を引きしめている。

 輸血感染によるエイズを扱った初めてのハリウッド映画として、日本でも社会的話題をよびそうだが、この映画、そうしたメッセージを声高に叫ぶこともなく、2人の少年の友情物語としてキラリと輝いている。

ティム・ロビンス監督 「デッドマン・ウォーキング」

死刑の是非をテーマにした「デッドマン・ウォーキング」は地味だが深い感動をよぶ秀作で、公開中の「イル・ポスティーノ」とならんで、この夏いちばんのお薦めだ。

若いカップルを惨殺した罪で死刑を宣告され、死の恐怖に苛まれる日々を送る死刑囚マシュー(ショーン・ペン)。その求めに応じ、精神アドバイザーとしてマシューに接し、心の扉を開こうとするシスター・ヘレン(スーザン・サランドン)。映画は、2人の精神的交流を軸に、死刑執行に至る過程での様々な立場の人間の心情をリアルに描いていく。

傲慢な態度をとり、あくまで犯行を否認するマシューだったが、献身的なシスターの努力と勇気によって人間としての感情に目覚め、処刑を前にして真実を告白する……。

遺族たちの深い憤りと悲しみに接し、動揺と葛藤をくりかえしながら、最期までマシューの心の支えになるシスター役をスーザン・サランドンが熱演している。一方のショーン・ペンも、死を前にして初めて真の愛を知る死刑囚の感情の揺れ動きを見事に好演。

監督は、映画俳優のティム・ロビンス。実際に何人もの死刑囚に精神アドバイザーとして接したシスター・ヘレンの同名著書をもとに映画化。死刑囚やシスターをヒーロー・聖人として美化することなく、被害者側の苦しみもしっかりと描いている。死刑の是非の判断を観客にゆだねているが、かえって死刑制度への鋭い問題提起となった。

 「人を殺すのは、まちがっている。それが俺であっても、あんたたちであっても、政府であっても」。マシューの最後の言葉が胸につきささる。

バズ・ラーマン監督 「ロミオ&ジュリエット」

今年は、演劇界だけでなく、映画でもシェークスピア原作が大流行だが、その中で最も話題と人気を集めそうなのが、近く公開される「ロミオ&ジュリエット」だ。

監督は、「ダンシング・ヒーロー」で世界の注目を集めたオーストラリア出身のバズ・ラーマン。登場人物のセリフやストーリーはあくまで原作を尊重しながら、舞台を現代に移し変え、斬新な映像感覚で、若者の共感できるラブ・ストーリーに仕上げている。

ロミオに扮するのは、秀作「マイ・ルーム」にも出演し、いま人気絶好調のレオナルド・ディカプリオ。これまで屈折した役柄が多かったが、今回、恋に生き、恋に死んだ情熱的なロミオ役を体当たりで熱演し、イメージを一新している。一方、ジュリエットに扮するのは「若草物語」の3女役でデビューしたクレア・デーンズ。あのオリビア・ハッセーにもひけをとらない爽やかさとみずみずしさで、現代的ヒロイン像を好演している。

物語は改めて紹介するまでもないが、仮装舞踏会で2人が初めて出会う場面、有名なバルコニーでの恋の語り合い(プールが効果的に使われている)、運命のいたずらから2人が悲劇の死をとげるシーンなどに演出の冴えが見られ、胸をドキドキさせられる。

 フランコ・ゼフィレリ監督の「ロミオとジュリエット」も、新鮮な感覚で古典を現代に甦らせたが、今回の新作は、メキシコ・シティロケも生かした現代的で大胆な演出、独創的な衣裳や美術など、30年前の傑作が色あせて見えるほどの新鮮さに満ちている。

「クリムゾン・タイド」

続映中の秀作「マディソン郡の橋」「あした」に続き、東京・大阪で大ヒットした話題作「午後の遺言状」の公開がようやく始まった。今月は他にも「蔵」「カストラート」「ドンファン」などの秀作が相次いで公開され、映画ファンにはうれしい悲鳴だ。

その中でも、原子力潜水艦を舞台に核戦争勃発の危険を描いた「クリムゾン・タイド」は必見の傑作。核実験反対・核兵器廃絶の声が高まる中で、タイムリーな映画だ。

ロシアの国粋主義者と旧ソ連軍の反乱勢力が手を組んでシベリアの核ミサイル基地を占拠し、アメリカと日本に核攻撃すると脅しをかけてきた。この緊急事態に、核ミサイルを搭載した戦略原子力潜水艦アラバマに出動命令が。通信装置が途中で故障するなかで、即時攻撃を主張する艦長と指令の再確認を要求する副艦長とが激しく対立する。

 最大の見どころは、実践経験の豊かな叩き上げの艦長(ジーン・ハックマン)とハーバード大学卒のエリートで新任の副艦長(デンゼル・ワシントン)との葛藤と対立のドラマ。潜水艦内部という密室での2人の名優の息づまる熱演が、手に汗にぎる緊迫感を大きく盛り上げ、ラストまで一気に見せる。久しぶりに堪能できる男のドラマだ。

物語の舞台は「199X年」と近未来に設定されているが、物語の発端から、艦長の判断ミスで核戦争勃発の寸前にいたる経過まで、実にリアリティーにとんでいる。クリントン米大統領が絶賛したというが、決してタカ派の映画ではない。むしろ、「核兵器を廃絶しない限り、核戦争の危険はなくならない」ことを強烈に認識させてくれる。

ジョエル・コーエン監督 「ファーゴ」

「ファーゴ」は、「ミラーズ・クロッシング」「バートン・フィンク」などスタイリッシュな映像に定評のあるコーエン兄弟の最新作。アメリカ中北部の雪深い片田舎で実際におきた悲劇的な犯罪事件をもとに、滑稽でおかしく、情けなくて哀しき人間たちの姿を乾いたタッチで描き、観終った後に不思議な温かさの残る人間ドラマの傑作となつた。

 自動車セールスマンのジュリーは、借金の穴を埋めるため大胆にも妻の偽装誘拐を計画し、資産家の義父から身代金をだましとろうとする。だが、彼に雇われた二人組が警官・目撃者を射殺したことから、事件は雪だるま式に思いがけない大惨事へと発展していく。

この奇妙な事件の捜査にあたるのが、妊娠中の女性警察署長マージ。マージは、仕事熱心で夫にも優しいごく普通の女性だが、牛のように確かな歩みで事件の核心に迫り、ジェリーたちを追いつめていく。ジョエル・コーエン夫人でもあるフランシス・マクドーマンドが、愛すべきヒロイン役をピッタリと演じており、忘れがたい印象を残す。

欲にかられて犯罪を企み、破滅への道を転げ落ちていくジェリー。一方、犯罪と隣り合わせの日々を送りながら、マイペースで人生を楽しんでいるマージ。コーエン兄弟は、寒々とした雪景色の中に、二つの対照的な人生を対比も鮮やかに描いている。事件が解決した後、マージ夫婦がベッドで会話をかわすラスト・シーンが秀逸だ。

ロバート・アルトマン監督  「ザ・プレイヤー」

 久しぶりに、映画的興奮に満ちたアメリカ映画の傑作の登場だ。かつて、朝鮮戦争(ベトナム戦争)をブラック・ユーモアたっぷりに描いた「M★A★S★H」でカンヌ映画祭グランプリを獲得したロバート・アルトマン監督が、ヒット作第一主義にあるハリウッド映画界の内幕を痛烈な皮肉をこめて描いた話題作が、「ザ・プレイヤー」だ。

 「プレイヤー」とは業界用語で、ハリウッドのすべてを牛耳る実力者のこと。その地位をめざしている映画製作会社重役のグリフィン・ミル(ティム・ロビンス)は、かつて企画をボツにされたことのある脚本家から「殺してやる」との脅迫状が何通も届き、おびえる毎日を送る。その上、出世争いのライバルが出現し、仕事の面でも緊張が続く。

 ついに犯人らしき人物を探し出すが、口論のすえ誤って殺してしまう。警察の追及が始まり、絶体絶命の窮地にたたされるなかで、殺した相手の恋人ジューン(グレタ・スカッキ)に本気で恋をしてしまうグリフィン。映画は、ラストの人を食ったようなハッピーエンドに至るまで、悪漢小説仕立てでサスペンスを盛り上げる。

 映画ファンとして見逃せないのは、ジュリア・ロバーツ、ブルース・ウィリス、シェール、ジャック・レモンら総勢60人をこえる有名俳優らが、本人自身の役で、次々に登場すること。開巻冒頭の八分以上にわたるワンシーン・ワンカットの長回しも見ごたえがある。映画中映画として名作「自転車泥棒」が登場し、別格扱いされているのもうれしい限りだ。

 昨年のカンヌ映画祭では、監督賞と主演男優賞を受賞。ハリウッドを痛烈に批判しているにもかかわらず、アメリカ国内での評価も高い。アカデミー会員の反応が注目される。

クリント・イーストウッド監督 「許されざる者」

 「チャーリー」「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」など、アメリカ映画の秀作、力作が相次ぎ公開されているなかで、ひときわ異彩を放っているのが、クリント・イーストウッド製作・監督・主演の「許されざる者」。本年度の米アカデミー賞で、作品賞、監督賞など主要4部門のオスカーを獲得した「異色の西部劇」だ。

 かつては「冷酷無比な賞金稼ぎ」として恐れられていたマニー(クリント・イーストウッド)。結婚後は人が変わったように真面目な生活を送り、妻なきあとは2人の子供をかかえ、ひっそりと暮らしていた。そんな時、若いガンマンが一緒に賞金を稼ごうと訪ねてくる。カウボーイに顔を傷つけられた町の娼婦たちが賞金稼ぎを探しているというのだ。だが、その町き保安官(ジーン・ハックマン、助演男優賞)が完全に牛耳っていた。

 この映画は、かつての西部劇がくりかえし描いてきた「ヒーロー伝説」を容赦なく破壊し、登場人物をリアルに描いている。マニーは、2人の子供のためにと11年ぶりに銃を手にするが、その腕はおとろえ、馬にさえうまく乗れなくなっている。また、保安官は自分の町を守るために暴力をほしいままにし、マニーの親友ネッドをなぶり殺しにする。「ヒーロー伝説」を書こうとやってきた伝記作家は、真実をつきつけられ、がぐぜんとする。

 監督自身が、本作は自分にとって最後の西部劇になるだろうと語っている。白昼の決闘場面など西部劇につきものの派手な見せ場こそないが、「暴力と正義」をテーマに、西部劇のワクをこえた人間ドラマとして、味わい深く、見ごたえがある。

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