メモリーズオフ・REVERSE | ||||
present by ゲバチエル | ||||
登場人物 |
稲穂信: 本編の主人公 唯笑への想いを伝えようと決心する
三上智也:
今坂唯笑:
桧月彩花:
双海詩音:
音羽かおる:
飛世巴:
白河静流
白河ほたる
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最終章〜想いの果てに始まる明日〜 | |
『エピローグ〜架け橋〜』澄空祭も終わり、学校はすっかり普通の雰囲気へと戻っていた。 そんな様子を信は少し寂しく思いながらも自分の教室へ向かう。 文化祭が土日と続けてあったものの、 進学校という事もあるのだろうか月曜日を休みにすることなどなく普通に授業が行なわれる。 「おっはよ〜」 勢いよくドアを空けると、昨日までの喫茶店とは思えないくらいの喧騒が教室内を包んでいた。 「おはよー信!」 すっかり名前で呼ぶ事になれた様子で、かおるが挨拶を返す。 「おっす。昨日は大変だったよな。家とか大丈夫だった?」 「え・・・?うん、別に大丈夫だよ。信がちゃんと家まで送ってくれたじゃない」 そのまま直行した打ち上げ―カラオケ―だったが、歌う・騒ぐととにかく盛り上がっていたのだった。 夢中になるがあまりすっかり遅くなっていたために、信はかおるを送っていった。 「ああ、あれくらい当然だって」 「それが当然のように出来ない人が日本にはたくさんいらっしゃいます・・・」 信の隣の席で読書をしていた詩音が反応したかのようにこちらをみていた。 「もう・・・またそういうことを・・・」 信もかおるも、詩音が日本人嫌いだったという過去は知っている。 しかしみなと出会ってからはそういうことも口に出す事も少なくはなってきていた。 「すいません。でもみなさんは素敵な方ということは判っています。ふふふ何を言ってるんでしょうね」 詩音が冗談なのか本気なのか判らないようなそぶりで微笑んでいる。 そんな詩音にやはりどこかあの人の影を重ねずにはいられなかった。 「ははは。でもその通りだ。俺は昨日を境に人間として素敵になった・・・そう信じている!」 唯笑に想いを伝えて、その結果を受け止めて乗り越えた信は爽やかな顔でそう言った。 「そんな事言って・・・打ち上げの時なんて最初結構暗かったじゃない」 「そうですね・・・空元気というか・・・ため息ばかりついていましたね」 そのまま直行したはいいものも、判っていたとは言えふられてしまった事にやはり信はどこか寂しさを感じていた。 最初のほうはどちらかというと、カラオケというよりもお悩み相談となっていたのだった。 「そうだっけ?とにかく俺は成長したんだ!わかるだろう?二人とも・・・俺の周りに漂うこの精霊達を!」 突然何かが狂いだしたように信が語り始める。もはや完全に稲穂信ワールドに入っている状態だった。 「おはよう〜」 一人別世界に入り始めた時、彩花そして智也に唯笑が教室に姿を現している。 「おい、信!またお前わけの判らないことを言い出してるな!?」 智也もまたいつも訳判らない事を言い出すのだが・・・それはクラスの誰もがあえて口にはしなかった。 「なにぃ?お前には俺の気持ちの変化が見えないというのか・・・そうか実に残念な奴だ。 俺は昨日を機に自分にケジメをつけて生まれ変わったのだ!昨日までの俺とは違う俺だ!」 表現こそ間違ってはいるだろうが、確かに信は自分でも判るほどに変わっていた。 唯笑に想いを伝えた瞬間から・・・。振られた事は切ない想い出ではあるが、自分自身に素直になれたこと。 そしてそれを吹っ切って、新たに決意をしていたこと。全てが実感するように全身を駆け巡っている。 「でも唯笑わかるよ?信君変わったって事。えへへ」 そう言って唯笑は少しだけ恥ずかしそうに笑ってこちらを見た。 結局は打ち上げ会場で、 信と唯笑はお互い申し訳なさや辛さなどを話し合ったり相談する中で、 解決し以前よりも仲が進展していたものだ。 「そうかぁ!やっぱり唯笑ちゃんは判るよなぁ!うんうん・・・」 キーンコーン 不意にHRの始まりを告げる金が鳴り響き、さわやかな表情を浮かべたままに信は席へとついた。 そんな明るい様子に、隣の詩音も今まで信のことを心配してた事すら忘れてしまいそうなくらいだ。 この日の信は終始さわやかで明るいままであった。もう悩みなど無いかのように周りには見えていた。 そんな周りの目も裏腹に信は新しい悩みにぶつかりはじめていた・・・。 (なんだろう・・・やけに詩音さんが気になる。やっぱあの時のお姉さんと髪の香りが同じだから?) 以前詩音にその影を重ねている事に気づいた信ではあった。 しかし、静流の時のように気持ちが加速するかもしれない、 そう考えていた信は唯笑への気持ちに決着をすることを選んだのだ。そして見事に乗り越えたというわけだ。 それを乗り越えたが故に、影を重ねる詩音の事が気になってしょうがなかった。 以前から気にしていないといえばウソになる・・・ が今はそんなものは比べ物にならないくらいに気になっている。 「信さん・・・?どうしましたか?」 詩音が信の視線に気づいたか、不思議そうに尋ねる。 「ん?いやぁ詩音さんは綺麗だなぁなんてね・・・」 「うふふ。褒めても何にもなりませんよ?」 信自信詩音をずっと見ていたとも思わなかったため、 いつものように自分自身をはぐらかすようにそう言った。 最も嘘をついたというわけでもないが、ストレートに言うには恥ずかしすぎた。 それからというもの、その日は授業を受けてもどうも詩音の方に神経が傾きはじめていた。 (やはり詩音さんはあの日のお姉さん・・・?) しかし疑問は疑問を呼び、自分自身の気持ちすらよく判らなくなってくる。 そうこうしているうちに気づけば昼の時間が到来していた。 「信お前さっきから何考えてんだよ?」 智也が面白い事でもないかといったように信に尋ねる。 「企業秘密だ!というか俺自身よくわからん」 「なんだそれ。やっぱお前朝から変だぞ?今だってなんか妙にさわやかだしよ」 「もう智也。いつまでもくだらない事いってないの!でも信君が何考えてたかは気になるよ」 彩花は智也に突っ込みをいれつつ、信に向かって首をかしげている。 「そーだよぉ信君。表情からして深刻な悩みってわけでもなさそうだけど・・・」 そうはいわれても、自分自身よく判るどころか何がなんだか判らない事を話す事すらできない。 というより、今この三人を頼る事はしたくなかった。 今まで頼りすぎていた分今は自分でどうにかしたい気持ちがあったからだ。 「そうは言われてもなぁ、俺自身よく判らない事を言えないよ。今はなんとなく一人で外の風にあたりたいのだ! というわけで俺は屋上で昼食の時間とする。それじゃまたあっとで〜」 そう言うなり信はさわやかな表情を残したままに教室を飛び出してしまった。 そんな様子にクラス中が『いつもの信だ』と思いながらクスリと笑っていた。 「ったくどうしたんだ?本当。」 「簡単な事じゃない。人はね、恋をすると強くなれるのよ。」 わからなそうにしている智也に、彩花は堂々とそう言った。 「ほえ?」 隣にいた唯笑もまた智也と同じような表情を見せる。 「ほら、良く言うじゃない。女の子は恋をすると綺麗になる・・・とか。 だからぁ、信君も唯笑ちゃんの事で強くなれたんじゃないかな?」 「そうなのかなぁ?んー唯笑よくわかんないや」 彩花に力説されて余計わからなくなったような表情を作る唯笑だった。 「まったく・・・お前がそんなんかよ。信の奴、お前のどこに惹かれたんだろうなぁ・・・って天然なところか?」 「もぅ!智ちゃんのイジワル!はずかしいよぉ!」 信が走り去って行った教室内には、いつものような笑い声がこだましていた。 「やっぱ外は気持ちいいなぁ〜」 屋上の心地よい風に当たりながら信は一人昼食をとっていた。 そして自分自身の想いと向き合っていた。 「はおっ」 気づくと横には巴が座っていた。あまりにも考えていて気づかなかったらしい。 「はお。いつからそこに?」 「んー二分くらい。なんか夢中だったから」 「ごめんごめん。それより俺―」 「詩音ちゃんの事でしょ?」 突然まとを射るような発言をされて驚きを隠せなかったものの、信は巴に隠す必要もなしと現状を語った。 「そういうことね・・・。確かに自分自身気持ちをある程度判ってないと行動できないもんね」 「これが憧れなのか好きなのかよく判らないんだよ」 そう言って信は頭をかいた。いくら親しいとはいえこういう話をするのには恥ずかしいものがあった。 「人には良いこと助言するのにライシン自身はだめよねー」 「そうなんだよな。本人ができなくてどうするって感じだよ」 信は笑いながらにこういった。こうもうまくいかない事が顔に出ている。 「でも、私はこう思うんだ。憧れとか恋愛とか関係ない、好きは好きじゃない? ほら、こんなこと言うのあれだけど・・・私もライシンの事好きだしね。あ、誤解しないでよ。友達としてだよ?」 「残念だなぁ。ととも俺のことって思ったのに。なんてね。でもそうだよな。好きな気持ちに理由なんてないし!」 「なんだ判ってるじゃない。はじめからそうやって悩んだりしないの。 でもまぁ・・・難しいんだけどね、そういう気持ちって」 二人は顔を見合わせると再び考え始めていた。が巴が閃いたように意見を述べた。 「そうだ!静流さんに相談してみたらどう?憧れのお姉さんなんでしょ?だったら何か判るかもしれないじゃない」 「あ。その手があったか!くぅぅ静流さんに話が聞けるって考えただけで最高だ!」 静流の名が出て早くも暴走が始まっている信を制しながら巴はなんとか言葉を開いた。 「まだ早いでしょ!それでね、今度の土曜日、ほわちゃんの家に行くことになってるの。 静流さんがお菓子を食べてほしいって言ってたみたい。だからライシンも一緒に行こうよ」 「静流さんのお菓子!?オッケー!じゃあどこで待ち合わせ!?」 さっきまでの様子もぶっとび信はさわやかさに上乗せされたようなすがすがしい表情をしていた。 「んもー。それじゃ一時に藍ヶ丘駅前ね。遅れないでよ?」 「判ってるって。ありがとな、とと。」 「そのかわり私が悩んだりしたときは相談乗ってよね?」 「任せとけって。そろそろ授業だから戻ろうぜ」 信がそういうと、二人は荷物をまとめて教室へ戻っていく。 「それじゃ、土曜日忘れないでよ!」 「判ってるって!」 そういってお互い別々の教室へと滑り込んでいた・・・。 そして約束の日がやってきていた。 日に日に隣の席に座っている詩音の存在が自分の中でも大きくなっているのが判っていた。 ただそれが憧れの人の代わりをもとめているような気がして少し怖くもあった。 それ故どうしても答えを出せずにいたのだ。そんな事を考えながら、家を出ていた。 「ん?信じゃねえか。なにやってんだ?」 駅へ向かう途中、一人でぶらぶらしている智也と遭遇していた。 「ととと藍ヶ丘で待ち合わせだ。」 「何っ!?お前いつの間にそういう関係に・・・」 「馬鹿。そんなんじゃねえよ。そういうお前はどうしたんだ」 「お、俺か?それはだなぁ・・・」 智也が恥ずかしそうに言葉を濁していた。その様子から察することはひとつだった。 「彩花ちゃんとデートか。羨ましいね〜この野郎!」 「う、うるせえ。それより藍ヶ丘で待ち合わせなら俺もそこまで一緒だぞ」 さすがにそこまで一緒だとは思わなかったので正直驚いたが、特に問題はないので信は智也と一緒に行く事になっていた。 「なぁ信。お前詩音さんの事どう思ってるんだ?本人は気づいてないみたいだけど周りに色んな噂ながれてるんだぜ?」 そこまで表に出ていたものか・・・と自分の行動を思い起こしてみるが・・・判らずにそのまま智也が言葉を続けた。 「唯笑の事ちゃんとケリつけたんだから、もっと自分に素直になれよ。信は馬鹿みたいなほうが似合ってるんだよ」 「なぁ!馬鹿とか聞き捨てならねえ。まいっか。まぁその事でととと待ち合わせてるんだよ」 それを聞いた智也はというと、またまた何かを思い出したように口を開いていた 「そうそう。お前とととが仲がいいからってこっちもちやほや噂が流れてるぞ。 まぁとと本人は噂を知ってるみたいだから大丈夫だろ」 「まったくどいつもこいつも色恋沙汰が好きなのね・・・。 って人の事は言えないか。それで静流さんの家に行くところなんだ」 「ああそういうことか。何か判るといいな。ってもう着いたな」 そうこうしているうちに駅前についたらしかった。二人は待ち合わせているはずの人物を探していた。 「はおっとと」 「はおっ。ってトミーも一緒じゃない。」 「え?智也にしては随分と早いじゃない」 そこには巴と彩花が二人そろってそこにいたのだった。 「約束の一時には五分も前だろーが。ったく・・・彩花勝手に早く来ておいて文句言うなって」 「夫婦喧嘩はご馳走様」 「ととちゃん!!夫婦じゃないっ」 否定しながらも彩花は顔を真っ赤に染めていた。智也も智也で大分表情が緩んでしまっていた。 「ははは。俺もそれくらになりたいよ。よし、んじゃいくか」 「そうね。じゃあ私たちいくから。じゃあね〜あーちゃん、トミー」 「頑張ってね!信君」 「お、おう!」 そういって智也と彩花は改札へ入ると、すでに電車が滑り込んできていた。 後ろの二人にもう一度手を振るとそのまま電車に乗り込んだ。 「あの二人もう過去の出来事はすっかり乗り越えたみたいね」 巴が笑顔でそういった。しかしその言葉を信は修正していた。 「三人・・・だろ?」 「そっか。ゆーちゃんもか・・・。なんかあーちゃんがいるのがすっかり当たり前だけど ・・・ほんの少し前まで考えられなかったんだよね」 奇跡ってあるんだな・・・と巴が喋っている横で信は言葉もなくただどこかを見つめていた。 「ごめん・・・。ライシン・・・私」 彩花の事故で起きていた問題・・・幼馴染である三人とそれを見ていたという信。 その事に再び触れてしまったのではないかとあわてて謝っていた。 「と、とと・・・謝らないでいいって。なんか、今の時間が不思議だなってなんとなくそのへんみてた。」 「ライシンそんな柄だっけ・・・?まぁなにはともあれ行こうよっ。静流さんなら力になってくれるって」 「静流さん・・・そうだな!俺たちもいくぞーー」 信は全速力でその方向へと駆け出していった。あわててその後を巴が追いかける。 「ちょっとー待ってよー!!」 「はぁはぁ・・・ついた・・・」 駅から徒歩十五分ほどの住宅街の一角に、静流の家はある。 しかしハイテンションに吹き飛ばしているうちに五分程度で到着してしまっていた。 「もう・・・ライシン。早すぎるって・・・まあいいか。ちょっと待ってね」 ピーンポーン 家の呼び印をならす音があたりに鳴り響く・・・とすぐに中から足音がドタドタと聞こえてきていた。 「はーい。あ、ととちゃんと信君来てくれたんだね。あがってっていいよー」 ほたるが二人を促すと、荷物を置いてリビングへと向かった。 巴は何度も来たことがあるらしく、慣れた感じであった。 しかし信は初めて・・・まして女の子の家・・・だったので勝手がよく判らなかった。 「あらいらっしゃい。信君と巴ちゃんそろって来たのね」 「ととちゃんそうだったんだぁ・・・」 白河姉妹が勝手に納得していると巴が否定していた。 「もう。そんなんじゃないって。えーと・・・親友・・・だってば」 そういいながら少し恥ずかしそうにしていた。 男の親友って少ないのかと信はぼんやり思うと同時にそう認めてくれる巴をうれしく思っていた。 「わかってるよー。それより、お姉ちゃん?二人とも来たしお姉ちゃんのお菓子食べようよ」 「ほたる?そんな焦らなくても逃げないわよ。 仕方ないわね・・・それじゃみんなちょこっと準備手伝ってもらって良いかしら?」 エプロン姿の静流がそういうと、信はティーカップを巴はテーブルを、 ほたるはお菓子を・・・とそれぞれてきぱきと準備にとりかかっていた。 みるみるうちにテーブルの上にはお菓子などが並べられていき、あっというまに準備は整っていた。 「はーい。それじゃあ召し上がれ、味の感想もいってよね?」 静流がいたずらっぽくそういうと、いただきますとともにお菓子を食べ始めた。 「静流さん。このクッキーほのかに甘いっすよ!うん、んまいっ!!」 何しにここに来たのか判らない様子で信がその美味さを語っていた。 「信君〜あわてちゃだめだよぅ。ほたるのぶんまで食べないでよ?」 「わぁってるよ。たるたるのぶんまで食べるほど俺は嫌なやつじゃない!」 「そういってー。ライシン食べすぎないでよね」 他愛もない会話。いつもと変わらない時間の一こま。しかしそれを制したのは静流だった。 「それで?今日は信君話があって来たのよね?」 お菓子も食べ終わり、感想を一通り述べてゆっくり雑談をしてるところに静流は切り出していた。 「え、ええ。静流さんに聞いてもらえればおれ自身何か見つかるんじゃないかって思って。」 「えー?どうしてお姉ちゃんなの?」 ほたるがだったら巴でも自分でも相談すれば良いのにと思っていた。しかし信の一言にその疑問も解消されるのだった。 「憧れのあの人に影を重ねてるから・・・だから静流さんなら・・・って・・・」 静流が信に告白されたこと・・・それはほたるも知っていた。仲のいい姉妹だけにその話も聞いていた。 だがそれが信だとはほたるも思ってはいなかったのだが。 「そうね・・・でも巴ちゃんにある程度相談はしたんでしょ?」 「でも私の力じゃ解決とかできなくて・・・。静流さんならって私も思ったんです」 巴が切なげな表情をみせながらに静流に言った。 「私に出来る事ならするわ・・・でもその前に信君の話を聞かないことには始まらないわ」 信は今の現状を話していた。詩音への気持ちが大きくなっていること、唯笑への想いを乗り越えたこと。 しかし自分自身がよく判っていないこと・・・と今いえる範囲を事細かく説明した。 「信君・・・それは、あの時の事を後悔しているのかしら?それを繰り返したくない・・・そんな風に聞こえるわ」 「それは・・・。そうなのかもしれないです。俺あの日あんな会ってすぐなのにあんな事しちゃってお互い・・・」 あの時、それは静流と信が始めて出会った共通の過去。 その日のことを悔やんでいたことを静流に見抜かれていてしまっていた。 「それが信君の長所でもあって短所なんじゃないかしら?普通あの状況で告白なんて出来るものじゃないわよ? 自分自身に素直じゃなきゃ・・・いくら憧れの人に似ているからってそんな事言えないわ」 静流はあの日感じていた想いを素直に信に伝えていた。それが信のためになると思って。 「でも・・・俺はふられたわけですし・・・。迷惑でしかなかったかな・・・って。人違いにもほどがありましたからね」 信が遠くを見るような目で静かにそういった。しかしそれに答えたのは静流ではなくほたるだった。 「そんなことないよぉ!ほたるは絶対にそういうのは迷惑じゃないって思うよ。 そういうことされたこととかないから判んないけど・・・ でもきっと想いとか伝えられたら、嬉しいって思う」 「そうね。ほたるの言うとおりだわ。もっと自分に素直に自信を持つことが大切ね。 話を聞く限りじゃ『好き』なんでしょ?過去の事とか関係ないわ。今は今よ・・・」 そう言う静流だったがその表情はどこか寂しい様子を見せていた。だがそれに誰も気づくことはなかったが・・・。 「そうですね。やっぱり俺どうかしてたみたいです。 結局怖かったんだとおもうんです。そうやって自分が傷つくのも怖くて・・・。 いきなりこんな事相談しにきちゃって、すいません・・・静流さん」 「信君謝ってばかりね。悪い癖よ」 「そうだよぉ。そんなんじゃ駄目だよ。」 そんな様子を見てた巴が思わず笑い出していた。 「あはははは。変なの。ライシンっぽくないじゃない。いつもならありがとみんなーとか言ってるのにね」 「笑うことないだろ・・・?とと」 「ふふふ。そっちのほうが信君らしいわ」 静流も一緒になって笑みを浮かべ始めていた。 「静流さんまでっ!俺ってそんなんじゃ・・・」 「きゃはははは。ほら信君も笑ってよぉ。表情が暗いよぉ?」 「たるたるも・・・。まったく俺は何しにここに来たんだか判らなくなりそうだ!」 「信君の悩みも解決できたし、おっけーじゃん♪トーバンジャン」 「ほわちゃん面白くないよ!」 その日、他愛もない笑い声があたりをこだましていた。 信もその中で悩んでいたのが嘘のようなきすらしてきていたくらいだった。 「それじゃあ、俺たちそろそろ帰ります」 そう言って信と巴が帰る支度をしたのは午後七時の事だった。結局盛り上がったままに夕食までご馳走になっていたからだ。 「そうね、もうこんな時間ね。外気をつけてね?秋になって大分暗くなってきてるでしょう」 「あははは。静流さん大丈夫ですよ。いざとなったらライシンもいますし」 「でも気をつけてね?二人とも」 心配そうにこちらを見る二人だったが、信は心配しないでと表情に出すとそれを見て二人も安心していた。 「それじゃまたね〜」 「たるたるに静流さん、今日はありがとうございましたっ!」 「静流さん、ほわちゃん、お邪魔しました〜」 二人は元気よく白河家をあとにしていた。 巴を一人で帰らせるのもなんなので、信は家まで送っていく事にしていた。 「ごめん、ここまでしてもらっちゃって」 「気にするな。ととにはかなり世話になってるからこれくらいさ」 「ありがと。でも・・・静流さんすごいよね。本当に解決しちゃうんだもん。私じゃ解決できなかった事も」 巴は決定的なアドバイスをしてやれなかった事を悔やんでいるように見えていた。 「でも、ととが静流さんの事言わなかったら俺ずっと悩みっぱなしだったと思うぜ。だからととのおかげでもあるんだ」 「ありがとう。これからも私で良かったら言ってよね。詩音ちゃんの事応援してるんだからね!」 「ととも、なんかあったら俺を頼っていいからさ。ととの家ここでいいんだっけ?」 気づけばもうそこは目的地についていた。二人とも会話に夢中で気づかなかったらしい。 「送ってくれてありがとう。ライシンも!一人で考えすぎないでよ」 「大丈夫だって。それじゃあまたな」 「うん。それじゃ」 静かに巴の背中を見送るとぽつりとこういった 「ありがとな・・・。」 巴の家に向かって静かに一度そう言うと、そのまま家へ歩いていった・・・。 あたりはすっかり秋の冷たい空気に包まれていた。 季節は秋・・・しかし新たな春は今訪れたばかりだった。新たな想いと共に信は歩き出した・・・ TO BE CONTNIED・・・ |