メモリーズオフLostMemory
present by ゲバチエル
第一章〜幻影と消失〜

9/25(火) 『交差する時間』

ドンドンドン・・・ドンドンドン 「んだようっせえなぁ・・・」 俺が気持ちよく眠っていると激しく窓の音をたたく音が聞こえてきた。 だが、俺は眠い。今この睡眠を邪魔されるわけにはいかない。 だから俺はそれを無視して二度寝を試みた。 「おやすみ」 「ちょ、ちょっと!智也!」 次の瞬間。俺の体から布団は剥ぎ取られていた。こうなっては起きるしかなかった。 目の前では勝ち誇るような表情を見せる者・・・彩花がいた。 彼女の名前は桧月彩花。俺と物心ついたときから一緒にいる幼馴染だ。 俺の部屋と彼女の部屋は、密集住宅地のためその差僅か十センチだった。 そのため窓をあければ簡単にお互いに家に侵入できるのだ。 昔から何度もこうやって侵入されている。 なんだかんだで鍵をかけないあたり俺は彩花が起こしてくれる事を、 素直にありがたいと少しは思っているのかもしれない・・・。 それともう一人幼馴染がいるのだが・・・それは別の機会に話すとして。 「おい、彩花。人がきもちよーく寝てるのにたたきおこすんじゃない!大体今何時だ」 「七時半だけど?」 即答された。七時半っていったらまだ学校も余裕じゃないか・・・ そんな疑問もこうなっては通じるはずもない。 「八時に出りゃあ間に合うだろうが。  ったく毎日のように俺を安眠から遠ざけやがって、なんのつもりだ!」 「だってえ、八時で間に合うとかいいつついつも走ってるの誰よ。 だから今日は走らなくても間に合う時間に起こしてあげたの」 これまた即答。しかしいつも走っている事が事実故に反論する事が出来ない。 ここは素直に彩花に従うしかなさそうだ。 だが起こされたはいいものの俺は制服に着替えなきゃならないのだが・・・ 彩花がいる前でそんな事はできない。 「あのさ」 「何よ」 「俺制服に着替えたいんだけどさ・・・」 「ああーもう。早く着替えてよね!」 彩花は顔を真っ赤にして窓から自分の家へと戻っていった。 でももし彩花がいなかったら俺は毎朝起きられるかどうか・・・そんな事を考えていた。 もしも彩花がいなかったら、ずっと起きる事は無いんじゃないかって。少し不安になった。 だけどそんな事は絶対無いと俺は信じているしあって欲しくもなかった。 いや、もしこれが夢だったら・・・?だとしたらどうだっていうんだろう・・・ ってぼんやりしてる場合じゃない!制服着替えていたんだっけ。 俺はベルトをしっかり締めると勢いよく家を出た。 家の目の前では彩花が頬をふくらましていた。俺急いだつもりなんだけどな・・・。 「智也。まったく遅いってば!もう・・・まあいっか。今日は走らなきゃギリギリって時間でもないし」 確かにこのままいつものペースで歩けば学校には余裕で着くだろう。 「智也、朝ごはん食べてないでしょ?ほらこれ」 そういって差し出されたのはサンドイッチだ。 毎朝毎朝彩花にこうして朝ごはんをもらえることに俺はありがたく思っている。 おかげで制服を着て家を出るだけですんでいるんだから。 そのまま俺はサンドイッチを受け取りそれを口にもっていく。ん・・・これはいつもの卵のサンドイッチ。 「ねえどう?」 どうって言われても困るんですけど。いつもいつも食ってるから今更感想を求められても、と常々思う。 「どうって。美味いけど。いっつも食ってるからそんな聞かれても困るんだけど」 「そっかぁ・・・それじゃ次はいつも食べてない新しいの作ってくるね」 新しいのって。なんでそうなるんだか。まぁ作ってくれる事は嬉しいし別に否定する事も無いだろう。 「それより着いたぜ」 俺たちはとある家の前で立ち止まり、インターホンを押す。 ちょっと待ってくれと家の人に言われて一分ほどでようやく姿を見せた。 「智ちゃん〜彩ちゃん〜おっはよ〜」 「おはよう唯笑ちゃん」 またの機会が早くもやってきたようだ。 彼女は今坂唯笑。ゆいしょう・・・じゃなくてゆえ。 いつまでも笑っていられるようにという願いをこめてつけられたんだったか? こいつは彩花ともう一人の幼馴染だ。 昔っからよく三人で今思うと馬鹿な事をやってきたと思う。 唯笑は後ろをちょこちょこついてくる妹みたいな存在だ。 つっても俺自身は一人っ子だしほんとの妹を知らないけど。 しかし唯笑の奴、いっつも決まって黒いタートルネックをつけてんな・・・。 本人はポリシーって言ってたけど意味わかってんのか? 「智ちゃんいくよー」 気づけば二人はやや先に歩き出している。俺が唯笑のことを説明してたセイだろう。 ってなんで俺は今更唯笑の事を再確認するようなことしているんだ?まぁいいか。 気にするだけ馬鹿ってやつだな。 「おーい待ってくれ〜二人とも!」 俺はあわてて二人の後を追っていた。 こうして三人で学校に登校するのが俺たちの毎朝の日課だ。 たまに俺とか唯笑が寝坊してギリギリセーフなんだけど。 やっぱ彩花のおかげで遅刻してないのかな?なんて改めて思ってみたりする。 彩花のせいで遅刻しかけたことなんてないし。 「それでね、A組の光ちゃんがね・・・」 とはいえ朝はくだらない会話をするだけだ。もっともそれが楽しかったりするんだが。 「なに!誰かと付き合ってるって話か!」 適当に話を大げさに盛り上げようとしてみる。こうやって二人をからかうのも面白かったりする。 「智ちゃんそれほんと!?唯笑初めて聞いたよ?」 「ふっふっふ。俺の情報網を甘く見るな!だが誰と付き合っているかまでは知らん。  だがな、これはとある人物から聞いた話で信頼性が高いぞ」 「えーーーーーそうだったんだぁ!?唯笑、光ちゃんそんなこといってないから知らなかったよ」 ほんと毎度の事ながら唯笑の奴大げさに驚いてくれる。ここまでくるとだましがいもあるってもんだ。しかし・・・ 「確かね、他の学校の人だったと思うよ。だからさすがに名前とか判らないんだけど」 何!?それは本当ですか彩花さん。嘘のつもりで言ったのにこんな展開になるとは思いもよらなかったぜ。 「智也、何処でそんな事知ったのよ?」 さすがに作り話のつもりでした。なんて言ったら彩花に殴られそうだ。ここはなんとか適当に誤魔化そう。 「俺に勝てたら教えてやるよ!あそこまで競争だ。よーいどんっ!」 俺は言うが早く一人全力疾走した。こういうときは逃げるが一番だ。 「あーちょっと智也。待ってよぉ!」 「唯笑も置いてかないでよぉ!!」 二人の足の速さは遅くは無いがスポーツは得意である俺には敵わないのさ。 なんて思いながら余裕で先に走っていた俺だった。 「もう・・・早いって・・・」 「俺に負けた以上これは教えられません」 「むぅ・・・唯笑も気になるよ・・・」 「駄目だ。秘密をばらすのは俺の主義じゃない」 ていうか冗談のつもりが本当なんだから答えに困るのが本音だけど。 「ぶう・・・いいもん。彩ちゃんいこっ」 「教えてくれてもいいじゃない。私たち幼馴染じゃないの!もう知らない」 幼馴染にでも言えない事だってあるでしょうが。ってなんで二人ともこれくらいですねるんだ? さすがにもうなれたとはいえ・・・まったく世話のかかる奴らだ。 というかスタスタと二人俺を置いていってるんですけど・・・。 「おい!二人とも。置いてくな!」 「だって智也さんがぼーっとしてるから」 ん・・・んん!?あれ? 「そうだよ?智ちゃんが寝ぼけてゆっくり歩いてたから遅れちゃうもん」 寝ぼけて・・・そうか。俺は立ったままいやむしろ歩いたまま寝ていたのか。我ながら器用な事をするもんだ。 って違う違う。というとさっきのは夢か。なんか妙にリアルな夢だったような気がする。 「ほら智也さん。シャキっとしないと遅刻しちゃいますよ?」 大きいリボンと長いツインテールが印象的なみなみちゃんがまだぼーっとしてる俺の手を引っ張っている。 そういえばみなもちゃん・・・みなも・・・あれ?苗字なんだっけ。 「みなもちゃんの苗字なんだっけ・・・?」 突然の俺の質問にみなみちゃんは不思議そうな表情になる。まあ確かにこんな質問しないわな。 「えー智ちゃん忘れちゃったの!?」 「そうじゃなくてだな・・・えーと・・・ほら、細胞が死滅するとかよくいうじゃねえか!」 「もう智也さん。まだ寝ぼけちゃってるんですか?  初めてお会いした時もおんなじような事言ってましたよ?伊吹ですよ。伊吹みなも」 そうか思い出したぞ!伊吹みなも。どこぞの戦艦みたいでかっこいいとか少し思ったんだっけな。 確かあの時は、唯笑の紹介で俺とみなもちゃんが知り合って、 苗字がかっこいいとか言ってて肝心の名前をすぐ忘れてたんだっけな。 なんつーか人の名前覚えるの苦手だからな。さすがに身近な人くらいしっかり覚えないとな。 「なんかこう・・・まだ寝ぼけてるみたい。ん・・・じゃあもう大丈夫だ。行こう」 「もう、また寝ぼけないでくださいね?」 「みなもちゃん、そういう時は智ちゃんの鼻に洗濯ばさみを・・・」 「え!?それはさすがに智也さんがかわいそうだよ」 ちなみにみなもちゃんが俺に敬語を使ってるのはみなもちゃんが一年生で俺が二年生、そう後輩だからだ。 別に俺はタメ語でいいっていったのだが、どういうわけかそれは譲れないらしい。 唯笑の親友であって、唯笑は俺の幼馴染なんだし別に改める事もないような気がするんだが。 「じゃあ、腕だったら痛くないんじゃない?」 「うーん・・・そうなのかなぁ?でも痛いと思うな」 というか待て。なんで俺を洗濯ばさみの痛みで起こすっていう話になってるんだ。 「どこに挟まれても痛いっての。それよりのんびり歩いてると遅刻するぞ」 「え、智ちゃん聞こえてたの!?」 普通の会話の音量で喋ってれば聞こうと思わなくても聞こえるって。 「バリバリ」 「普通に起こせばいいと思うよ?唯笑ちゃん。それよりほんとう遅刻しちゃうよ」 「ぶぅ・・・判ったよ。洗濯ばさみは諦めるよ」 よしそれでいい。洗濯ばさみ「は」ってところがなんか気になるが・・・まあいいか。 そのまま俺たちは長い長い坂を上った先にある澄空学園に着いた。 なんで学校は坂の上にあるんだ?といつも思う。さすがになれたが一年の時はかなりしんどかった気がする。 うちの学校は比較的校風が自由な進学校で、結構人気も高い。偏差値でいうと中の上くらいなんだが、 正直俺や唯笑の学力じゃ結構きついものがあった。 勉強こそしたものの、マークシートの運が良くて入学できたようなものだ。 「おはよう!唯笑ちゃん、みなみちゃん!」 校門あたりまで来ると、悪友であり親友である稲穂信があいさつを・・・いや俺にはしてない! 「おはよ〜信君」 「おはようございます稲穂さん」 女の子ばっかに声かけやがって嫌な奴。まぁ本気じゃないからいいけど。 それに唯笑はともかくみなもちゃんは可愛いし。 「わざとやってんだろ?」 「あはは。冗談だって智也。それより後で二人だけで話がある」 信が俺だけに?なーんか嫌な予感が・・・まぁ聞くだけ聞いてやばかったらパスすればいいか。 「じゃあ昼飯ん時でもな」 「わりいな。」 「えー唯笑は?」 「唯笑ちゃん、たまには智也さんと稲穂さんだけで話したい事もあると思うよ」 「そういうこと。悪いな唯笑ちゃん。俺はコイツと話があるの。女の子同士の逆って言う奴?」 男同士だけってのもなんか嫌な響きだな 「判ったよぉ。しょうがないなぁ・・・」 「あ、それじゃあ私教室あっちだから。それじゃあまた〜」 みなもちゃんは学年が違うため当然教室のあるフロアも違う。そのためみなもちゃんだけ行く方向が違うのだ。 「みなもちゃん頑張ってね〜」 「ふふふ。唯笑ちゃんも」 そういって俺たちはみなもちゃんと別れ自分たちの教室へ向かった。 もっとも俺たち三人は一年の時からどういうわけか教室が同じなのだが。 「なぁ智也。知ってるか?」 さっき俺だけに話があるって言ってたけど・・・それとは別の話題か?なにはともあれ信の話に耳を傾けた。 「実はだな。今日転校生がうちのクラスに来るらしいのだ」 「うちのクラスに!?しかも何でこんな時期に編入・・・」 今はもう二学期・・・九月の末だ。 そういえば九月の頭にもうちのクラスに転入して来たのがいたっけ。確か信の隣だったと思うけど。 「そこまでは判らん。しかも女の子らしい。」 女性だと言って信はなにやら嬉しそうな顔・・・というより危ない顔をしている。 ここまでなるのもどうかと思ったが、 俺も気にならないといえば嘘になる。不細工な女だったらそれこそ困るが。 「しかーも!うちのクラスで空いてる席っていえば、智也!お前の隣なんだ!だからいいか。 転校生が美人だったらそれとなーく俺をアピールしてくれ」 なんかすでに自分の世界に入っちゃってるぞ、信。親友とはいえお前のこういうところだけはついていけない。 「んなこと自分でしろ!」 「そうやって智ちゃんが自分を売り込むんでしょー?」 うを。すっかり忘れてたよ唯笑の事。っていうかなんでそういう解釈されなきゃならん。 「あほか!そりゃ可愛い子だったらいいなぁーとは思うけどな。大体となりって決まったわけじゃ・・・」 ん!?可愛い子だったらいいなあ・・・って何を言ってるんだ俺?思わず口が滑ってるぞ。 これじゃ唯笑に対して墓穴を掘ったようなもんじゃないか。 「ふーーん。」 なんだその疑いの目と台詞は。信は信で自分の世界入っちゃってるし。 きーんこーんかーんこーん 気づけば朝のホームルーム・・・普通HRって書くのが主流か。 別に言うのが面倒とかそういうのじゃない。HRの時間になっていた。 「おーいお前ら。今日はなうちのクラスに転入生が一人来る。だから紹介しとくぞー」 担任の伊東がやってくるなりそういう。伊東はぶっきらぼうだが結構面倒見も良かったりする。それでいて面白い。 二年連続で伊東が担任だが、俺個人としては結構いい先生だと思うんだけどな。 しかし信の奴毎度の事ながら女のことになると情報早いな。 「それじゃあ、音羽。軽く自己紹介をしてくれ」 ん?今音羽って言わなかったか?俺は聞き間違いだと思って入ってくる女性に目を向けた。 「って音羽さん!?」 俺より早く信が声に出していた。 「え!?稲穂クン?それに三上クンに今坂さんも。」 音羽さんは知り合いがいる事にびっくりしていたがそりゃそうだ。というか俺たちもびっくりです。 「お前ら知り合いか?まぁ感動の再会とやらは後にして自己紹介を」 伊東が呆れたように音羽さんをせかす。 というか感動の再会とか言ってる時点で見てるのがうらやましかったり・・・するかも。 「えーと。音羽かおるです。趣味は、映画鑑賞で・・・勉強は数学が苦手です。 まだまだ転入してすぐですが、色々ヨロシクおねがいします!」 こうして音羽さんの短い自己紹介は終わった。 まぁそういう俺たちも音羽さんと長い間一緒だったってわけじゃないんだけど。 「それじゃ・・・音羽は三上の隣。三上、色々教えてやってくれ」 「判りました」 俺は適当にそう返事した。とはいえ音羽さんにだったら悪い気はしない。むしろ嬉しいくらいだ。 「それじゃあ各自授業の準備をするように」 そういうと伊東はそそくさと出て行ってしまった。出席とってないけどいいのか? なにはともあれさっそく音羽さんが俺の隣にやってくる事になった。 こりゃ信のいってたアピールとかの必要も無くなる。 「まさか三上クン達が一緒の高校だなんて思わなかったな。私こう見えても人付き合い苦手なのよ」 ショートカットの髪型に、その明るい口調からはそんな風に感じ取れないんですけど。謙遜しちゃってないですか? 「そうは見えないけどな・・・」 「でもさ、久しぶりだよね。あれ夏休みの時だったから・・・一ヶ月ともう少し前かな?」 そうだ。音羽さんと知り合ったのは夏休み。 あれは確か信が旅行にいこうって言い出して、結局金もない俺たちはみなもちゃんの祖父母の家に泊まりに言ったときの事だ。 メンバーは俺と信、それと唯笑とみなもちゃんだったな。いつものメンツっていうか。 ちょうど海辺を散歩してた時だ。見知らぬ女性・・・音羽さんが何か探してて信が得意のナンパの要領で 「どうかしましたか?俺たちでよければ手伝いますよ」 「あ、ありがとう・・・大事な物がはいってる・・・ウエストポーチなんだけど・・・」 なんて声かけて・・・というか俺たちを勝手に巻き込んじゃって。 まぁ俺も困ってる人をほっとくには性に合わないし手伝った。 んで探し物は三十分くらいして見つかって・・・。 「あ、あったよ!」 「ありがとうございます。そういえば名前も言ってなかったですね。  私音羽かおるです。年は16です。私早生まれだから」 気づけば同年代って事に気づいてお互いに堅苦しい敬語もすぐに使わなくなったんだっけ。 やっぱりみなもちゃんは敬語を使うのがポリシーみたいだったけど。 まぁそれで夜まで一緒に遊んで、この辺だったらまた会えるだろうと俺たちは思ってたんだけど、 転校するからもう会えないなんて言われて、一応お互い住所先とか交換して・・・それ以来会ってなかったんだけど。 まさか澄空に転校してくるとは。あの時ちゃんと聞いておくんだったと思う。まぁこうして再会できたんだしいいか。 「本当運命って言うか。ほんと不思議だよね」 音羽さんも同じような事を考えてたらしく、そんな事を言っている。 「ねえねえ、音羽さん何処から来たの?」 なんか気づけばクラスメイトが音羽さんの席を取り囲んでいるぞ。 必然的に席が隣の俺も囲まれてるんだけど。まぁこれが転校初日の運命なのかな。 質問攻めになりながらも丁寧に受け応えする音羽さんがなんだかすごいなと思えた。 俺も席を立って信あたりと喋っていたかったが、人垣のせいでそれも出来ずに授業が始まってしまった。 一時間目は確か・・・世界史だったと思う。 「ふぅ・・・」 さすがに質問攻めされたのが堪えたらしく、音羽さんはため息をついていた。 「確かにありゃすごかった。まるで有名人にでもなったみたいだった」 「あはは。三上クンって面白い事言うね。そうそう。私ここの教科書まだ持ってないから今日は見せてくれる?」 面白いっていうか見たまんまをいったつもりなんだけどな。まぁ教科書くらい大歓迎です。 「いいけど。そこに挟んで一緒に見よう」 そういって俺は俺の机と音羽さんの机で教科書をうまい具合に挟もうとしていたがこれがうまくいかない。 「その教科書ここにはまりそうもないよ。しょうがないな・・・二人で持とうよ」 確かに世界史の教科書は小説みたいな形をしてるのでうまく机の間に挟まらない。 仕方ない・・・音羽さんとだったらいいだろう。というわけで俺は音羽さんと教科書を持つことになった。 何やら信がうらやましそうな顔でこっちを見てるが・・・そういう問題じゃない。 なんかお互い近づかないと教科書もてないせいでお互いの距離がかなり近い。 向こうは意識というか関係ないみたいだが、こんなに接近するとちょっと恥ずかしい。その差十センチ程度だ。 そういえば前にもこんな事があったっけ。 「えー!?智也教科書忘れちゃったの!?」 あれも同じ歴史の授業だったと思う。俺はうっかり教科書を忘れてサボろうかと思ったくらいだ。 しかしそんなのもつかぬま授業が始まってしまいどうしようかと途方にくれていた。 「智也?一緒に・・・見よ?」 彩花が教科書を差し出して来た。俺にとっては願っても無かった。 と思うもつかの間。彩花は急接近してきていた。いくら教科書見せるんでもおおげさなほどに。 なにせ顔と顔が今にも触れ合いそうな距離だ。なんか心臓がばくばく言ってるし。はずかしいったらありゃしない。 彩花の長い髪の毛のふわっと窓からはいってきた風に揺らされ、その柑橘系のにおいをそよそよと運んでいった。 「ん?智也ちゃんと教科書みなきゃ駄目じゃない」 「ん・・・ああ」 俺は彩花のほうをじっとみてしまっていたらしい。これこそめっちゃくちゃ恥ずかしい。 急に恥ずかしくなって、誤魔化すように教科書を見ることだけに集中してた。 とまぁ音羽さんはその彩花が近づいたくらい近づいてるってわけだ。 これじゃあ授業に集中できない。仕方ない、今回も誤魔化すようにノートと教科書に神経を注ぐか。 俺はシャーペンを片手に授業に集中する事にした。しかし一時気を緩めて見れば、至近距離に音羽さんがいる。 信はうらやましそうに、唯笑はいじけたような表情を俺にぶつけてきていた。 ああ、恥ずかしい。早く終わってくれ!!気が気じゃねえ! キーンコーンカーンコン 「ふぅぅぅ」 結局世界史だけじゃなく、他の教科書もまだらしく昼飯までの時間俺はずっと気が気じゃなかった。 もっとも音羽さんに聞いて見たら「隣だし」となんとも簡潔に即答されてしまった。 まぁ迷惑でもないけど視線が痛いし。できる事なら一日でも早く教科書を持ってきてください。俺はそう祈る事しかできない。 そういやぁ信が話があるっていってたっけな。なんて思ってたら信から声をかけられた。 「おい智也。朝も言ったけど話が。でもその前に購買早くいかねえと」 そうだった。購買は需要が猛烈に高いらしく早く行かないと欲しいものは全て売切れてしまう。 と言うよりも修羅場となり部活の連中などがチームプレイとかせこい手を使ったりして身の危険すらあったりする。 まぁ俺はのんびりいっても大丈夫なように購買のおばちゃんに約束してるんだけど。 とはいえ早く食べたいのでいつも修羅場となる前に買いに行っていたりする。 「修羅場になる前に行くぞ!ほら信急げ!」 俺は信に呼びかけると、長い廊下を駆け出し階段を駆け下り購買まで神速を超える勢いで急いだ。 「ふぅ・・・おばちゃんいつものー」 俺は取り置きしてもらっているパンを頼む。幸い人垣が出来るほど人は集まっていないため苦無くカウンターまでやってこれた。 「誰がおばちゃんですって?」 ん?おばちゃんじゃなかったら誰がいるんだ? と思ってたらびっくりした。年のころでいうと二十歳くらいだろうか。いやもう少し若いかもしれない。 なんとこ綺麗なお姉さんの代名詞的な人がそこにいるじゃないか。 「あーあなたが三上クンね。うちのお母さんから聞いてるわよ」 「いいからいつもの」 「いつものね・・・それじゃあちゃんと放課後うちの手伝いしてってよね?」 そんな事まで喋ったのかい。 俺はカレーパンとあんぱんという黄金コンビを取り置いてもらってるがその条件として放課後手伝う事になっていた。 娘にそこまで教えるとは。さすが修羅場を仕切るおばちゃん。恐るべし! 「はいはい判りました。それじゃお姉さん―」 「ちょっと。お姉さんって呼ばないでくれる?ちゃんと霧島小夜美って名前があるんだからね。小夜美って呼んでよね」 んなこといわれても名前知らなかったんだししょうがないじゃん・・・。 「判りましたよ小夜美さん」 「それじゃあ二百五十円になりまーす」 あいにく百円玉とかがなかったので、俺は五百円を一枚小夜美さんのもとへだした。 「えーとおつりのほうは百五十円になりまーす」 待った!百円足りねえ!父親が単身赴任で母親がそれを心配して追っていってしまっている一人暮らし当然の今では 百円もかなりでかい。そんな状態の俺だったからすぐに気づいたのだろうけど。 「五百円のおつりは二百五十円です!」 「あはは、ごめんね。はい今度こそ」 俺はしっかり二百五十円を受け取ったことを確認してから財布に入れた。わざとやったのかな・・・ 「あぁ!あの時の」 今度は信が小夜美さんを見て大声をあげている。知り合いだったのか? 「新聞勧誘でなんか変な演技で無理やり入ってきた人!一日しか残ってないチケットなんて」 「はいはい。もうその辺にして。それより三百五十円になります」 信も俺と同じく五百円を出す。しかしおつりとして返ってきてるのは五十円明らかに少ない。 どうやら俺のときもわざとだったんじゃなくて素で計算間違いだったんだと思った。 そういえや急に遊園地に夏休み誘われたけど・・・あれは小夜美さんが売り込んだのか。 音羽さんといい小夜美さんといい、なんか妙なとこでつながってるな。 なにはともあれ俺と信は戦利品を手に屋上へと向かっていた。屋上で食べる購買のパンは最強なのだ。 屋上に着くまでには絶対にあけたりしない。そんな事すると屋上での楽しみが半減してしまうからだ。 「ふぅ。やっぱここで食うのは最高だ」 屋上へ着くと即効俺たちは戦利品を食べ始めていた。やはりここで食うのは美味い。 「にしてもお前はいいよな。」 「何が」 「ナニガ!?じゃない。音羽さんとあんな至近距離で。お前一人だけ隣だからって抜け駆けしやがって」 話ってこんな事だったのか?いや話の後に音羽さんが来た事を知ったんだからそれはないか。 「いや、あれは教科書がうまく挟まらないから一緒に見てただけで・・・」 「くううう!なんでお前ばっかりそういういい思いをしてやがる。」 「いや・・・それより話って何だよ」 たしかに恥ずかしくてやめて欲しいとは思ったが悪い気もしない。 このままでは俺に負が悪いと見たので話を戻すことにした。 「いやな、お前にしかいえない事なんだよ」 なんだ?なんか急に信がすんげーまじめな顔をしてるんだが。 「俺唯笑ちゃんの事がさ・・・」 まじか!?よりによって唯笑か。まぁ黙ってりゃ可愛いしな。 って信はいつも唯笑と喋ってるじゃないか。どこに惹かれたんだコイツ。 「それは本当か!?いや・・・だったら応援するぞ」 しかしそう言ってみたものの信の表情はなんだかマジなままだ。なんかやりづらい。 「お前・・・。本当に応援するのか?」 「当たり前だろうが。信・・・俺とお前はそんな薄っぺらい模造紙みたいな関係だったのかよ!」 いかん。ついつい熱くなるのは俺の悪い癖だ。しかしなんで応援するって言ってるのに疑念を抱くんだ? 「だからこそ本当にいいのかってな。お前と唯笑ちゃん幼馴染なんだろ?」 「そりゃそうだが。あいつはただの幼馴染であってそれ以下でもそれ以上でもない。 強いて言うなら親しい幼馴染だな。親友というかなんていうか」 判ったぞ。信の奴漫画の読みすぎだ。幼馴染が結ばれるってのは王道的シナリオだからな。 俺と唯笑がそうなんじゃないかって思ってるんだろう。 だいいち俺は彩花と・・・う・・・?なんだ彩花と・・・・ なんだよ・・・頭が痛い。これ以上思い出せない・・・何故だ? 彩花・・・彩花が・・・なんだ?判らない・・・でもなぜか思い出そうとすると頭が痛む・・・。 まぁどのみち唯笑は確かに特別な存在だが恋愛感情なんて抱いてない。そうだ。そうに違いない。 「ったく。幼馴染=恋人っていう方程式があるわけじゃあるまいし。そんなお約束あるかよ」 大体信のそんなマジでちょっとブルーな顔を見たくないし。 「ははは。そっか・・・俺の考えすぎ・・・ってか。んじゃ俺が告白を決意してもいいんだな?」 告白って。展開早! 「でもまだ言うには早いぞ。幼馴染として色々見てきたからな唯笑のことなら相談に乗ってやる。  神風特攻隊になっちゃ意味がねえだろ」 まったくこういうことだけは決意が早いんだな、信は。俺なんてそういうのほんと無縁に近いってのに。 「判った。このことは唯笑ちゃんはもちろん、みなもちゃんや音羽さんには内緒だぞ!?」 「判ってるって。俺はそんな口がやわらかいアホじゃない」 少なくとも人の秘密は言いふらしたりする人間じゃないと自負はしているくらいだし。 「なるほど。稲穂クンが今坂さんを好きだったとは。これはスクープだわ!」 ってこの声の主は! 「音羽さん!?」 「いつからそこにいた!?まさか俺の話全部聞いてた・・・とか?」 うかつだった。いつも俺と信、それに唯笑やみなもちゃんに隣のクラスの飛世・・・ くらいしかここに来ないもんだから、すっかり油断してた。 「うん」 キッパリと言い切った。これはまずいぞ・・・音羽さんだってそうぺらぺら人に喋るタイプじゃないとは思うが、 知られたというだけで信のダメージは大きいはずだ。 「私で良かったら相談に乗るから。大丈夫この事絶対に言わないから。 そうね・・・もし喋ったら稲穂クンに五万円あげるわ。  まぁそれくらい言えば信じてくれるかしら?」 「音羽さん・・・いやむしろ頼れる仲間が増えたって感じで・・・。 俺友達いっぱいいるけどこういう事話せるの智也か唯笑ちゃん、  みなもちゃんくらいしかいないんだよ。とはいえ唯笑ちゃんにいえないしさ。」 なるほど、そりゃ確かに俺にしか言えないことだ。というか唯笑の事っていったら俺に来るのも妥当な話だな。 こういうことって異性よりやっぱまず同性に話すほうが話しやすいってのもある。 「なるほどね。でもこれからは私もクラス一緒だし、どんどん相談していいから。あ、無理にとは言わないわ。  言いたくない事の一つや二つだってあるからね。そのかわり私も困ったときは相談しちゃう」 平気で相談しちゃうとか言われてもなんだか悪い気は起こらなかった。 むしろそれが当たり前のような仲にすでになっていたからだ。 それに信も音羽さんの申し出は願っても無い事だったらしい。 なんか逆に聞かれちゃってて音羽さんと仲良くなったって感じだ。 「まぁ今坂さんの事は幼馴染の三上クンが一番知ってると思うけど、 逆に女にしか判らないことってあるかもしれないじゃない。そういう時はさ」 確かに一理ある。というか唯笑の女心とかそんなものは十年以上の付き合いでもよく判らない。 昔誰かが女の子は秘密だらけなのとか言ってたけど、それって知ろうとしないだけ、教えないだけだと今更思った。 俺の場合唯笑や彩花の事に別に聞こうとか思ったりしなかっただけだ。だからといってしらなすぎる気もするが。 「まあだからまあ信も一人で考えたり突っ走ったりしないように」 わざとえらそうに先生ぶってみる。 「偉そうだな、智也!まぁそれもそうだな。二人ともヨロシクな」 「稲穂クン、今更改まらないの。ほらもっと明るく!」 うーん一緒にいたのこれで二日目だけど・・・これも音羽さんの才能?それとも信か? 何はともあれ音羽さんも協力してくれる事だし・・・これで百人力って感じだな。 きーんこーんかんこーん くそ・・・・邪魔なチャイムめ!俺たちがせっかくいい気分になってるのを邪魔しやがって! と思わず言いたくなったが、学校にいる以上は仕方ない。 俺たちはしょうがなく学校と言うルールに身を任せ教室へと戻っていった。 つっても会社いっても勤務時間があるから変わらないんだろうけど・・・。 きーんこーんかーんこーん ようやく一日の終わりを告げるチャイムが鳴り響いていた。 普段はうっとおしい鐘の音もこの時の鐘の音だけは清らかな音に聞こえる気がする。 こんな事言ったら音楽に詳しい人に怒られそうだ。 「来週末は中間テストだ。悲惨な点数にならないように今のうちからちゃんと勉強しておくように」 HR終了時に伊東がこんな事言ってたっけ。 俺の一学期の期末のテストの結果は確か・・・お世辞にも良いとは言えなかった気がする。 日本史と世界史はいい点数だった気がするんだが・・・なんにせよ勉強しとかないとまずいか。 「智ちゃ〜ん。」 「なんだよ唯笑?」 まあ大体HR終わった後だ、一緒に帰ろうって言うのがオチだろうけど。 「今回のテスト、ちゃんと勉強しないと駄目だよ?」 違ったか・・・ってなんで唯笑にそんな事言われなきゃならんのだ。 はっきりいって俺といい勝負って時点で唯笑も良い方じゃない気がするんだが。 というか人がやる気になったところによりによって唯笑に言われるとは。 ここはいい点数とって見返してやらなくてはならん。 「判ってる。だから俺は今から図書室で勉強しに行くところだ。 またお前と低レベルな争いをするのはごめんだ」 言い方こそ少しひどいかと思ったが唯笑の場合これくらいが丁度いいだろう。 「て、低レベル・・・。ぶぅぅ!いいもん智ちゃんよりずーっといい点取って見返してやるんだから!」 そういって唯笑は教科書をありったけ鞄につめこみはじめ・・・ 「それじゃあね!智ちゃんには負けないんだから!」 そういい残してそそくさと帰っていってしまった。 俺はさっきも言ったとおり、図書室で勉強するつもりだ・・・ というのもはっきりいって重い教科書持って帰るのはかったるいからだ。 善は急げだ。気が変わる前に中間で唯笑や信を見返してやるんだ。 そう意気込んで俺は古文と現国の一式を持って図書室へと向かった。 「おい智也。その用意まさか・・・」 「そうだ。俺は今から勉強する。今日から心を入れ替えて中間に備えるとしよう」 信は言葉をなくして唖然としている。失礼な、そんなに俺の勉強している姿が珍しいのかよ。 別に中間くらいマジメになる奴はいっぱいいると思うけどな。 「と・・・ともやがべんきょうだと!?てんぺんちいがおきる!いや・・・あすははやすぎるはつゆきか!?  くそう・・・おまえなんかにまけるか!」 なんでそう棒読みなんだよ。そんなに変な事してんのかよ俺は・・・。 信も唯笑みたいに教科書を詰め込んでそそくさと帰ってしまった。 うーん。なんていうか・・あれだよな。俺が頑張るとみんな頑張るのか? 自分で言うのもなんだがほんと俺たちってレベル低・・・。 「あ、三上クン」 「ん?どうした音羽さん」 「今からテスト勉・・・だよね?」 「そうだけど・・・どうかした?」 音羽さんは少し考えたそぶりを見せた後ですぐに言葉を見つけたように俺に尋ねた。 「うーん私数学苦手だからさ、日本史と世界史は得意なんだけど・・・良かったら今度教えて欲しいなって」 数学・・・。困った得意も苦手も一緒じゃないか。これじゃお互い何にも教えられないじゃないか。 というより数学ほとんど寝てるし。 公式だけ唯笑や信のノートみたり適当に教科書見て覚えようとしてもこれがうまくいかないし。 「うーん実は俺も。数学苦手、日本史と世界史は大得意。俺に聞いてもハテナマークがお互い増えるだけだと思う」 「でも・・・ううん。ごめんね。でももしかしたら勉強手伝ってもらうかも。範囲とかよく判らないし」 そういえば今日転校してきたばっかだっけ。親しげな雰囲気のせいですっかり記憶から抜け落ちていた。 「それくらいならなんとか。でも数学だけはほんとだめだから。  唯笑や信あたりに聞いてくれ。数学ならあいつらのほうがまだできるはずだ」 「うん。ありがと。それじゃまた明日」 そうやって俺は音羽さんと別れを告げると決意が鈍らないうちに図書室へと急いだ。 ガラガラガラ 「ドアの開閉は静かにお願いします」 高ぶる気持ちのままドアを勢いよく開けると、やや銀髪の整った顔立ちの女性に注意されてしまった。 目の前の女性には見覚えがあった。顔をよーく見てみたけど・・・誰だっけ・・・。 ああそうだ。二学期早々うちのクラスに転校してきて信の隣に座っているっていう・・・双海詩音だったかな。 なんとも人を寄せ付けないオーラを発していたっけな。 自己紹介のときも「好きなものはありません」とか冷たく言い切ってた。 それに委員会を決めるときなんか堂々と図書委員に立候補して誰も文句なんて言えなかったな。 ってなんで説明口調なんだ俺は。 「なにか御用ですか?」 どうも俺は双海さんのことをじっと見ていたらしい。 にしても言葉の一つ一つがどうも冷たく感じるのは気のせいだろうか。 「あいや。テスト勉ここでしてもいいよな?」 「かまいませんけど・・・図書室では静かにお願いします」 まぁ冷たいのもきっと理由かなんかがあるんだろうな。理由もなくああいう人って案外いないもんだし。 さてと・・・勉強をするかな・・・。教科書とノートそして問題集をセットして・・・。 む!?俺はちょうど座った席の前に気になる掘り込みを発見した。 『図書室の読姫・双海詩音』『D組の華!今坂唯笑ちゃん』『気になる転校生音羽さん』『はおっが魅力の飛世さん』 ネコピョーンは唯笑だろうが・・・今日来たばっかの音羽さんの事ばっか書かれているとは情報とは恐ろしいものだ。 つかなんで俺の知ってる人ばっかなんだか・・・世の中って狭いな・・・。なんて考えながら俺は勉強を始めた。 ・・・・・・・ なんか授業で嫌々やるより自主的にやるほうが頭にはいるぞ。あれほど拒絶した現国もけっこういける。 俺って案外自主勉強の天才だったりする!?受験勉すらろくにしてない俺がこんなこというなって話だが。 「はおっ」 俺が勉強に集中していると不意に挨拶されていた。こんな特徴的な挨拶をしてくるのは一人しかいない。 「飛世さんか。いたならいたっていってくれよ」 正直突然声をかけられてびっくりしたし。 彼女は隣のクラスの飛世巴。俺や唯笑や彩花の中学時代からの友達だ。 飛世さんの友達に白河ってのがいたと思うけど、浜咲のほう行ったらしいから最近見てないな。 「ごめんごめん。あんまり三上君が勉強に夢中だったからさ。 私もテスト勉してたんだけどどうしても判らないところがあって。  誰かに聞こうと思ったんだけど知ってる人三上君ぐらいしかいなかったから」 しかし声をかけらんないほど勉強してたとは我ながらビックリだ。 信の言ってた通り天変地異でも起こってもおかしくないかも。 「それで・・・教科によっては教えらんないけど、それでいいなら」 「えっと、現国だけど・・・三上君今やってるし得意なのかなって」 うーん、飛世さんそれは誤解だ。むしろかなり苦手なんだけど。そんなすらすらやってたか、俺? しかし飛世さんが判らないといって出してきたページは、俺もついさっきまで意味不明だった場所だ。 だが何故か自主勉開始からすらすらと進んでいた俺としても判らなかった俺としても、 どうして判らなかったかも判るし教えられる自信もあった。 そもそもやっているのは長文というか著書の一部を抜き出したものから描写の意味するものを答えるというものだ。 「雨はいつ上がる・・・この場合は、天候の雨を指してるんじゃないんだ」 俺は問題集の解説を自慢げに開始していた。なんだ、勉強ってできれば楽しいじゃん。・・・できればだけど。 「というと」 「ここにさ、雨に打ちのめされたように僕の心は酷く沈んでいたってあるだろ?  つまり、この作品の場合、雨が罪とか悲しみとかそういうものを表しているんだ。」 なんだろ。この作品の言葉酷く心に突き刺さる気がする・・・。 胸が痛いような・・・気のせいか?それを気のせいと決め付けて俺は説明を続けた。 「ほら最後に、傘を差して歩いていけばいいんだ。って書いてあるだろ。  俺も最初は雨降ってないのになにいってんだこいつらなんて思ったけど、違うんだ。  心が罪とか悲しみとかに打たれ続けボロボロになってるくらい傷ついてる状態を、雨はいつ上がるつまり  そういう憎しみとか悲しみ・・・そういうのはいつなくなるんだろうって言ってるんだよ」 飛世さんも俺の説明になんとなく理解を示してきてくれたみたいだ。なんだか教えがいがある。 「だけど最後のこの台詞は、雨が上がるのを待つんじゃなくて傘をさして悲しみとかから守ればいいって・・・言ってるんだ」 はっきり言って、問題集の答えには本当に答えしか載ってない。どうやってそれを導き出せばいいかなんてさっぱり書いてない。 だから言わば持論みたいなものになるんだが・・・それで答えが合っていたんだからたぶん大丈夫だろう。 「そういうことだったんだ。ありがとう三上君。国語って表現を置き換えたりしてややこしいけど言われてみればそうね」 飛世さんはあの解けなかったもやもやが解消したように閃いた表情を見せていた。 「ほら、謎が解けるとなんだよって感じだろ?」 「本当。でも三上君が教えてくれたおかげで助かったよ。この容量でなんだか他の文章もいけそう」 うーん俺なんかが役にたったらしい。 テストの順位なんて中の下程度なんだけど。どう見ても飛世さんのほうが頭良さそうだし。 「良かったら一緒に勉強する?幸い勉強したい教科も一緒だし、二人でいたほうがはかどるだろうしさ」 「ほんとに?ありがと。助かるよ」 俺は下校時刻まで飛世さんと現国の勉強をした。この容量なら授業を寝てても余裕そうだ。なんて思ったりして・・・ 「ふぅーーー今日はありがとう。おかげで助かったわ」 「いいって。俺なんかの実力がお役に立てれば光栄です、って感じかな?」 俺はちょっと自慢げに腕を組んで見せた。そんな様子をおかしくて飛世さんに笑われてしまった。 「普段はこうでもないんだけどね・・・伊達に役者やってないし。読解は得意なほうなんだけど」 そういえば飛世さんはどっかの劇団に所属してるって過去に聞いた事があったっけ。 そんな飛世さんが悩むって事は結構難しかったのか? 「本当は・・・あの時の事を書いてあったような気がしたから。だから判ったつもりでも判ろうとしなかった」 ん?いきなり何を言ってるんだ?あの時?雨の描写はそうだと思ってたけど それは違うんだって認めようとしなかったってこと・・・・?どういうことだ? 「ごめん・・・三上君に言う事じゃなかったね。それよりもう帰らない?」 確かにもう下校時刻ギリギリだ。それよりも俺に言う事じゃないってのが気になってしょうがない。 「よし帰るか。」 「あ、ちょっと。教科書忘れてるって」 危ない危ない。教科書無くして今後勉強できなくなるなんて事態になるところだったじゃないか。 飛世さんから教科書を受け取ると、俺たちは図書室を後にした。 こんな時間まで、律儀に双海さんは図書室の番をしていた。なんていうか図書委員の鏡だなって感じだ。 「お疲れ様」 そんな双海さんにこう一言告げてから俺たちは帰路へとついていた。 なんか双海さんが不思議な顔してたけど・・・なんだったんだろ。 「そうそう中学のころからずーーーっと思ってたんだけど」 澄空駅までの途中で突然飛世さんがこう言い出した。当然何を思ってたなんて見当もつかない。 「お互い苗字、しかもさんづけってもう五年の付き合いになるのに変だよね。お互いあだ名で呼び合おうよ」 へ!?あだ名!!? 「私には『とと』っていうしっかりしたあだ名があるんだからね。唯笑ちゃんにはととちゃんって呼んでもらってる。」 そういえば中学のとき、飛世のと+巴のとで『とと』とか力説してたけど・・・未だに健在とは思わなかった。 飛世さんの友達の白河が『あだ名大魔神』とかいうすごい称号をつけてたな。 「三上君は・・・三上智也・・・だから」 ん?自分の事をあだ名で呼ばせるから大魔神じゃないのか? 「ミッカー!」 み、みっかぁ!?なんていうか某ホラーゲームで天井をはいつくばってそうな名前なんだけど。舌伸びるし。 ちなみにあのゲーム信に貸したまま返ってきてないな。 って違う!俺は今そんなおぞましいあだ名をつけられそうになっているんだ。 ここはなんとしてでも逃げ延びなくてはならない!自衛のために。 「待った!それは勘弁してくれ!第一だな。俺には三上智也というれっきとしたすばらしい名前があるんだ。 普通に三上か智也って呼び捨てすればいいじゃないか」 「それじゃああだ名大魔神の名がすたるのよ。」 まじですか。なるほど・・・あだ名大魔神はどんな人間でもたちまち変なあだ名をつけるという、 恐怖の奥義からついた称号だったのか。 こうなったらせめて無難なのにしてもらうしかなさそうだ。 「うーん・・・トモヤン」 「なんかメルヘンチックっていうか・・・俺には合わない」 「なら・・・ミト」 水戸?納豆?俺はちゃんと風呂はいってらぁ!どういう意味だ。 「いやちゃんと風呂はいってるからそりゃないでしょ」 「え?私みたいに三上のみと智也のとをくっつけてみたんだけど」 何だそういう意味か。でもなんかやだな。というか永遠と続きそうなんですがこれ。 「仕方ないな・・・トミーは?」 ん、無難だな。てかちょっと外国人っぽいけど俺はなんだか腹が減ってきた。 今までの中で一番これがまともだしこれにしとこう。 「オッケー!それでいい!飛世」 なんかあだ名で呼ぶのは恥ずかしいので結局さんを抜いただけな俺でしたが。 「もう。トミー。ととって呼んでよ。私とあなたは友達でしょ?」 うっ・・・そう言われるとなんだか辛い物があるんですけど。しかし恋人でもないのに恥ずかしいっての。 「いや!俺はあだ名より苗字の方がなんかナイスだと思う。かといって巴なんて呼び捨てしたら恋人みたいだし。 そういうわけで俺のポリシーにかけ飛世と呼ぶ!」 ただ恥ずかしいだけですが。 「もう、名前で呼び捨てくらいで恋人じゃないって。それにただ恥ずかしいだけでしょ?すぐ慣れるって」 くっ・・・恐るべしあだ名大魔神。狙った敵は逃がさないどころかととって呼ばせるまで俺を離さないつもりか! ぐぅぅ・・・ まずい。テスト勉に夢中になったせいでかなり腹が減ってきてる。 しかしこのままでは澄空駅についても帰れそうにないぞ。 ってむしろもう澄空駅だし。すぐ慣れるって言ってたけど・・・まぁあだ名のほうが友達っぽいからな・・・仕方ない 「判ったよ、とと。」 俺はあだ名大魔神に負けてしまった。まぁこれくらいいいだろう。 「ふふ。トミーも最初からそういえばいいの」 あだ名で呼び合うの異性だからやっぱ恥ずかしいぞ。うーん早く慣れたい。 「それじゃあ私ここで待ち合わせしてる友達いるから」 「ん、白河か?」 俺はふと思い当たった名前を聞いてみた。 「ああそっか。ほわちゃんも一緒の中学だったもんね。てかなんでほわちゃんは白河なのに私は飛世さんだったのよ」 言われてみればなんでだろう。なんか考えたら眠れなくなりそうなのでやめた。 「高校違うとなかなか会えないからさ。こうしてたまに待ち合わせているってわけ」 ととと白河は親友の間柄だったっけ。 俺なんか高校が違うだけでほとんどのやつと二年にもなると付き合いが薄れてるんだけど。 「ほわちゃんみんなにも会いたがってたよ。トミーとかゆーちゃんとか・・・あーちゃんとか」 ん?なんかあーちゃんって多分彩花の事だけど、なんか間があったな。 なんでだろう。確かに高校は一緒じゃないけど・・・けど・・・? この先を考えるのがなんだか怖かった。 いやおれ自身拒絶していたのかもしれない。こういうのは考えないのが一番いい。 きっと単純に中学からあんまりあってない彩花や唯笑に会いたいって事だろう。 白河に会いたい気持ちこそあったが、俺は空腹には勝てなかった。 「そっか。だけど今日は親いないから自分で料理とかしないとならんし、それに二度と会えないってわけじゃないし」 なんか俺らしからぬ事を。ちょっとくさかったかも。 親いなくて料理しないとならんのは本当だがほぼ毎日のことなので大変じゃないんだけど。 「そう。でもトミーもほわちゃんに会いたがってたって伝えておくね。それじゃっ」 トミー・・・まぁととにそういわるとなんかいい気分というか・・・。 ともあれ俺はととと別れを済ませて空腹を満たすべく俺は自宅まで急いでいた。 家に入るとすぐに、鞄を自室へ投げ出して昨日の残りの炒飯を電子レンジで温めた。 昨日全部食べきらなくて良かったなんてつくづく思っていた。ちーんと音がすると俺は超高速で炒飯を平らげる。 おっと。これじゃ栄養がタリン。冷蔵庫をあさると・・・あった。ポテトサラダ(俺愛用)だ。 その辺にわかめスープの元が・・・。あったあった。 さすがにカップめんばっかは気が引けるしなによりあれは後味が悪いので、 よほど疲れてるときじゃない限り作る事にしてる。え、こんなの俺じゃない?生きるための知恵と言ってくれ。 いくらめんどくさいとはいえ、毎日カップめんだと胃とかむかむかして気持ち悪くなるし。 一人暮らしのうちに色々調理を必然的に覚えたし、休日には自分のもの洗濯したり・・・。 ってこんなとこで俺の身の上話をしてどうなるってんだ。俺も一回脳をゆすいできたほうがいいかもな・・・。 ふぅ。夕飯を食ったらなんか眠くなってきた。めんどくさいしシャワーで済ませてささっと歯磨いて今日は寝るか。 体を洗って髪洗って・・・歯磨いて・・・気がつけば俺は夢に落ちていた・・・。 「ちょっと智也?」 「ん?なんだよ彩花」 いつの間にやら不法侵入してきた彩花だったが、なんかノートと教科書に問題集を持ってる。 今の時刻・・・夜九時。二十四時間に直すと二十一時です。 良い子は寝る時間です。つか今日は学校でも勉強したし寝かせて・・・。 「もう・・・そうやって寝ちゃってテストの時に大変な目に合ってるの智也でしょ?」 確かに・・・仕方ない。やるしかないか。 「じゃあ今日はこれ。智也の苦手な現国から。」 ふふふ。今日はとととの特訓のおかげで俺は現国など敵ではないのだよ! 「昨日までの俺と思うな!」 ちょっと調子に乗ってこんな台詞を言ってみたりする。 っと思ったら。彩花が読み出したのはなんだか国語っぽくないんだけど。 「最初から好きじゃなかったの・・・」 へ!?そのネタはフライングだ!早まるな彩花! むしろそこの作者!全国のメモオフファンにどう謝罪すればいいんですか! じゃなくて。何を読み上げてるんですかあなたは。・・・ ふと見ると、彩花は密かにノート達を隠れみのにして少女漫画をもちだしている。 それでも君を想い出すからの二巻だ。 そういえば少女漫画の割に何故か絵が少年漫画ぽいとかなんとか誰か言ってたようなきもする。 確か最新刊が今現在五巻?もっとも買わない俺の記憶は定かじゃないけど。 それよりいきなり意味深な台詞を読み上げられても困りますよ彩花さん。 「これってどういう意味で言ってると思う?」 む。なんか下手な読解より難しいんですけど。漫画の分際で俺を陥れようって言うのか・・・。 「ほんとに好きじゃなくて惰性で付き合ってやったんじゃないの?」 はっきりいって判らない。しかし俺にはそれぐらいしか思い当たらない。 もっともそんな台詞惰性で付き合ってても使わないだろうし違うだろうけど。 ちなみに惰性とは好きでもないのに、 ただテンションや気分とかだけで建前とかだけで付き合ったりする事・・・だったと思うけど違ったか? 「そんなわけないよぉ。実は私も二巻買ったばっかりで続きまだ持ってないから想像しかできないんだけど」 っていうか二巻で別れとか唐突すぎるだろ。なんていう恐ろしい漫画だ。 他に思いつく事っていったら・・・ 「あーもしかして。好きなんだけど、心を鬼にしてさようなら・・・何か理由があるんじゃないか?」 まぁほんとに両想いだったらそれくらい言ってやらないと別れられそうも無いし・・・。 「・・・」 けれど彩花は何も答えることはしなかった。 9/26(水) 『忘却の想い』 結局彩花のせいでなんだか眠った気になれない。 正確に言うと寝た気になれないかな? というか彩花の沈黙の後の記憶が無いし。 リアルすぎて夢だったんだか区別がつかないがそれを決定付ける事があった。 ふと隣の部屋の窓を見る。ああそうか彩花は引っ越したんだっけ。 今は誰も住んでないんだった。何やってるんだか俺は。 夢の中でもとととの勉強の事覚えてるし・・・ なんだかあちこちごっちゃになってるぞ俺・・・大丈夫か? 寝ぼけて夢と現実の区別もつかなかったみたいだ。 今じゃあの漫画八巻くらいまで出てるし。 あいつ中2の時引っ越して以来会ってないな・・・。 元気だろうか?とはいえ彩花の事だ。ひょんなことで俺や唯笑の顔を見に来るに違いない。 だから電話とか手紙なんて出さなくても平気だろ。 なんて自分に言い聞かせて俺は着替え始めた。やっぱり昨日も寝ぼけてたな。 引越してんのに彩花がサンドイッチなんか作るはず無いし。 なんかみなもちゃんと唯笑と一緒だと彩花と唯笑と登校した日を思い出すんだよな。 だぁ!もう!なんか切ないぞ!くそう。冷蔵庫から適当にパンをひぱっりだすと俺はさっそうと家を出た・・・。 「おはようございます。智也さん」 いつも待ち合わせている駅に行くとみなもちゃんの姿があった。 「おはよ。唯笑はまだか?」 「まだですけど・・・どうしたんでしょう」 とみなもちゃんとしばらく喋っていると唯笑が走ってきていた 。自分で言うのもなんだが俺より遅いのも珍しかったりする。 「はぁはぁ・・・智ちゃんみなもちゃん・・・ ごめんね・・・唯笑テスト勉に夢中になったらすっかり眠って・・・寝坊しちゃった」 なんとも唯笑らしかった。というかまだ二週間前だ。追い込みには早すぎるだろうが。 「はははははは。勉強で寝坊なんて間抜けな奴」 「ぶぅ・・・笑わないでよ」 「ふふふ」 「あーみなもちゃんまでー」 そんなこと言ってもしょうがないだろうが。 俺に負けまいといきなり徹夜(?)しだすか普通。そりゃみなもちゃんも笑うって。 あまりに唯笑が可笑しかったので学校につくまでその話題で盛り上がる一方だった。 「だって智ちゃんが二週間前から勉強なんて悔しかったんだもん」 結局学校についても唯笑のあほっぷり論議は続いていた。 「あのな、そりゃ普段は三日前になって徹夜してポイント絞って覚えるような人間なのは自覚してるけどな! 人は何かになれるっ!」 この間始めたばっかりのゲームの見出しをちょこっと使ってみる。 えーとゲーム名は・・・なんだっけ?まぁ唯笑たちに聞いても答えは出ないので置いておこう。 「ふふふ。でも智也さん、さすがにいきなり徹夜は・・・」 「いきなり飛ばすなんて絶対にないな」 なんか今日は随分とみなもちゃんとのシンクロ率が高い気がする。 今ならユニゾンアタックも夢じゃないぞ!って何を言わせるんだ! くそう、俺のもう一人の親友である水無月翔の影響を最近もろに受けている気がするんだが。 ちなみ水無月翔は中学からの付き合いだが今は確か隣のクラスだったと思う。 なんか確か声優になりたいとか言ってたけど最近本を書きたいとか言い出してたな。 「ん?どうした?唯笑ちゃんどうかしたのか」 昇降口へ行く途中に信が俺たちの様子を見てか耳打ち程度に聞いてきた。 俺とみなもちゃんで簡潔に説明すると、信も笑い出していた。 「唯笑ちゃん。」 「ほえ?」 「知ってるか?人間は夜十時を過ぎると極端に記憶効率をさげるんだぞ!?寝たらなおさら忘れてしまう」 うまい!なんだかんだで信も唯笑をのせたりからかうのがうまい。 好きだから唯笑の事が判るのだろうか・・?それはよく判らないけど。 俺は好きでも彩花の事をあんまり知らなかったけど・・・。 俺と彩花は付き合いだしても何も変わらなかったし。 なんだろ・・・最近記憶から抜け落ちてた事が多い彩花の事を妙に思い出してるぞ・・・? 遠く離れてるからか余計切ないし。 「唯笑ちゃん、睡眠も大事だからね?それじゃ私こっちですから」 結局最後までみなもちゃんは唯笑を攻撃して自分の教室へと向かっていた。 俺らはというと、唯笑への攻撃は続いていた。 ラウンドはすでに二桁目辺りに到達しているころだろうか? もはや戦いというか、唯笑は守り一方なんだが。 とくだらないことをいつまでも続けてたらいつの間にか授業の時間だ。 まぁいいや。そろそろ唯笑にちょっかいをだすのも終わりにしよう。 もう今日は満足したと言う気分だし。 今日はすでに音羽さんが教科書を揃えて来てくれたおかげで安心して眠れる。 おやすみ。授業時間は寝られる事に意義があるんだ。 ツンツン ん?なんだ?腕なんか刺さるような感覚が・・・ ツンツンツン ん・・・?回数が増えてる? ツンツンツツンツンツンツツンツン リンリンリリンリンリンリリンリン・・・今度はどっかの歌のリズムだし。 こんなことして遊ぶのはお隣の音羽さん以外ありえない!くそう彩花の悪夢は終わっていないのか。 やっと半年ほど一人の席でバンザーイだったってのに、安眠を邪魔する輩が現れたか! 去年は唯笑の密告や信のちょっかいが激しくておちおち眠れなかったんだがさすがに飽きたらしく今年は平和だったのに。 ブサ 痛!おもっきりささっとる。くそう『第一話〜彩花の悪夢、再び』だぞ・・・これじゃあ。 ほんとあいつは人が気持ちよく寝てるとシャーペンや定規で俺の妨害を繰り広げたものだ。 俺が睡眠を決め込むと最終兵器『コンパス』・・・方位じゃなくて円を書く方の・・・を取り出してくる。 あれが刺さって腕がかなり痛かったなんて嫌な想い出もある。 あいつが引っ越してからそこまでのレベルはもう無いと思っていたんだが。 ツツツツンツンツンツツブサ 勝利のファンファーレのリズムすら俺には悪魔のリズムにしか・・・てか最後ささってますよ。 畜生!『第二話〜殺戮の針』が発動した。くそお俺の安眠を妨害する奴はただじゃおかん!待ってろ今俺が説得してやる! 「あやっと起きた」 音羽さんが平然な顔している。こっちは痛かったり音楽の解答もとめられたりで大変だったんですけど? 「もう終わってるよ?」 「へ!?」 気づけば一時間目はとっくに終了していた。 音羽さんは安眠を妨害するのではなくこの事実を教えてくれていたのか。 悪夢再びとかいっていた俺が恥ずかしい。 「で、二時間目は自習だから。暇だからお隣の三上クンとでも雑談しようかなって」 自習か・・・前言撤回。俺は寝てても良かったじゃないか。 もともと水曜日の一時間および二時間目は現国と古文のダブルコンボだ。 まぁ音羽さんと雑談か・・・それも悪くないが・・・。 こんな時選択肢でも出ないもんか?なんて現実逃避を考えてみたり。 →寝る →就寝 →睡眠 って結局寝る事しか頭に無かった俺には選ぶ余地も無く睡眠の時間へと誘われていった。 「もう・・・三上クン・・・。しょうがないなぁ・・・おやすみ」 音羽さんの一言を最後に、二時間目も夢の世界へと急いだ・・・。 「んーーーああああああ!んんーーっ!!」 「お目覚めですかー?」 二時間目が終了するチャイムとともに俺は儀式を始めていた。 寝起きの体を覚醒させて、身も心も爽やかな風に乗せると言う俺が覚醒するための秘奥義だ。 「何してんの?」 「見て判らないか!?身も心も爽やかになるためにこうして伸びるいわば儀式だ!」 この素晴らしさが判らないとは・・・音羽さんもまだまだだな! 「なんか・・・やばそうな儀式だね?」 うっ・・・言われてみればそうだ。 常人からすれば普通の伸びだろうがこんな解釈をつけるのは俺だけだろうし・・・ まぁ多少やばい解釈をしようが俺は死ぬまでこいつを『儀式』と名づけていくつもりだが。 くだらん事言ってないで早くしろって? 確かにそうだな、儀式のよさは俺にしか判らないだろうし。 俺がここで起きたのは、朝のコンボに変わって三時間目と四時間目は、日本史と世界史の黄金コンボだ。 水曜日は似たようなジャンルが何故かセットだ。 ちなみに五時間目と六時間目は理数コンボだ。これはまあ普通だけど。 「まぁ・・次が歴史だから起きたんでしょ?」 さすが俺と得手不得手の教科が同じだけある!判ってらっしゃいますなぁ音羽さん。 「そういうこと。歴史なら任せろだ」 「三上クンって単純だね・・・」 音羽さんが呆れたような顔をしている。 悪いか単純で。こうやるのが俺の生きがいなんだから仕方ないだろう。 そしてついに黄金コンボが始動していた。 これはもはや授業ではない。趣味の一ページを開いたかごとくである。 余談だが、世界史と日本史の成績は十段階で悪くて9しか取ったことがない。 むしろほとんど10だったりする。 それほどまでにこの時の俺は精錬され、そして磨かれているのだ。もう回りなど見えない。 翔の言葉を借りるならば、日本史と世界史のシンクロ率は400%を超えている状態にあるのだ。 人はこういう状態とトランス状態とも呼ぶかもしれない。でも趣味にのめりこむと言う事はこういうことじゃないか? 教科書、ノートに神経を注ぎ先生の言葉に耳を傾けその一言一言の中から重要なものをメモしていく・・・。 そうこうするうちに二時間、ついにこの俺の戦いの時間は幕を降ろしていた・・・。 「ふぅ・・・今日も最高だな・・・っと」 「すごいね・・・三上クン・・・さっきまで寝てたのが嘘みたいな集中力で声なんてかけられなかった」 切り替えが早いって言ってくれ。なんだか褒められてるような気がしないんだけど・・・。 おっとそうこうしてるうちに購買のパンがめんどくさく・・・あっ。 テスト勉に夢中ですっかり小夜美さんの手伝い忘れてた。取り置きしてくれるか不安だ・・・これはますます急がなくては! 「音羽さん!俺は今から修羅場へ突貫してくるからっ!」 「え!?修羅場!?」 音羽さんが何か聞いてきたが、戦闘モードに移行した俺にはもはや聞こえていなかった。 超神速で校内を駆け抜け・・・ふうさすがに人こそ多いけど修羅場にはほどとおい。 「あー三上君。昨日来なかったでしょ?まぁ信君に聞いたらテスト勉頑張ってたっていうから許してあげるわ。  はいいつもの、二百五十円ね。それで今日こそは手伝ってよ?テスト近いみたいだから私も無理させないつもりだから」 少し勉強時間が減ってしまうが修羅場前ですら入手が難しいのに取り置き不可なんてつらすぎる。 これだから勤労学生はつらい・・・。って俺の場合違うか。 お釣りを間違わないように丁度の値段を渡して俺は黄金コンビを手に入れた。 今日は・・・うーん、外の天気を見ているとなんだかとても外が恋しくなってきたな。 屋上もいいが外のあの木陰のベンチもたまらない。有言実行!俺は疾風がごとく校庭へ走った! ん・・・しかし以外にも先客が一人弁当を食べていた。 「あ、双海さん。一緒にいいか?」 本当なら勝手に座っていいんだろうけど何故か俺はこんな事聞いてた。 「ええ、構いません」 なんだかやっぱそっけないな・・・。 まぁいいか。俺は双海さんの隣・・・といっても至近距離じゃないところに腰掛けた。 一瞬双海さんは「どうして」といった表情を見せたが、俺にはその表情がよく判らなかった。 ・・・・・・・・・・・・・。 うーん双海さん相手に何喋ったらいいんだろう。 なんかそんな事考えてる自分がいて俺はなんだか居心地がよろしくなかった。 「うーん、いつもこんなとこで食べてるのか?」 こんなとこといいつつお気に入りのスポットにしてる俺はなんなんだという疑問は置いておいて。 「ええ。私一人が好きですから・・・。気楽ですし」 気楽・・・まぁその意見には否定はしないけどなんだかひっかかるんだよな。 「双海さん友達とかいそうだけど・・・」 「そういうのは作らない主義なんです。私どうせすぐに転校しますし」 なんだかそれって悲しくないか?辛い思いをするからそんな思いをする前に拒絶するってのも・・・ まぁそれが彼女なりの自衛手段なんだろうけど。 「それに私日本人は嫌いですから」 なっ!?突然の爆弾投下。隣の信があほやらかしてるせいでこんな事を考えてしまったのか!? いや違う。自己紹介のときからこんな感じで信のせいとかじゃない。 うーん音羽さんとかととにみなもちゃんとか唯笑も信だってあと翔の奴だって良い奴だと思うけどな。 それ以外にも双海に似合う友達が見つかったっておかしくないだろう。 それなのに日本人全員を拒絶する事も無いんじゃないか? 日本人嫌いとこの・・・心の壁もといA・Tフィールド。すんごく深い理由がありそうなんだけど。 なんか身近にこんな悲しい人がいるなんて思いもよらなかった。 日本人そのものを嫌うなんて絶対理由があるはずだ。 でもどうしたら・・・。理由も判らないまま拒絶されるってのもお互い ・・・俺はともかく双海さんは悲しいだろ・・・日本人の良さだってきっとある。 ふわっ っ!この香りは彩花の髪の香り・・・確か『アーブレイオルガニコのカモマイルハーブ』だったかな。 あいつが自慢げに語るもんだから覚えちまった。 そういえばなんで双海さんをこんなにも放っておけないんだろう・・・。 髪の香り、その髪・・・それにどことなく彩花と似ているからだろうか? 遠く引っ越した彩花の影を重ねているのだろうか。 別に会おうと思えばいつだって会えるのに。けれど・・・もしそうだとしても俺はほうってなんかおけない。 彩花に似てるとかよりも、そんな悲しそうに拒絶されても俺はどうも心配になってしまう・・・・。 とそんな事を思っているときだった。 「きゃっきゃあっ!」 突然双海さんの悲鳴が聞こえたので何事かとそちらをみた。 見ると双海さんはある一点を見て怯えていた。へなへなと力なく立てずにいる。 「蜘蛛のくせにっ・・・いやっこないでぇ!」 過去に何かあったのだろうか・・・とことん蜘蛛を嫌っているようだ。 とはいえ蜘蛛自体に罪は無いし、可愛そうだから誘導するように双海さんの元から遠ざけてやった。 「蜘蛛の・・・あ・・・もう、大丈夫です」 俺が蜘蛛を追い払うとすぐに、双海さんは平静を装っていた。 なんだ、そんな女の子らしいめんがあるんだと俺は逆に安心していた。なんていったら叩かれそうだけど。 「あの・・・ありがとうございました・・・」 ん・・・?今ありがとうっていったよな!? 小さくてよく聞き取れなかったけど確かにそういった。念のため俺は聞きなおしてみた。 「ん?今なんて・・・?」 「いえ、なんでもありません。それよりせっかくのお弁当が台無しに・・・」 いつもの壁を張られてしまった。 なんていうかいつもの双海さんだけど・・・なんか双海さんが悲しく見える。仕方ない。 「・・・ほら。俺のアンパンまだ食ってないから。ここの購買のは美味いからさ。」 そういって俺は食べようと思ってたアンパンを双海さんに渡した。 「結構です。私なんかにそんなにしなくても」 「もうクラスメイトだろ?変な気遣わなくていいから。」 結局こんな事しか言えないがなんとか双海さんはアンパンをもらってくれた。 パンひとつになんでこんな苦労してるんだろう、俺。 パンをもらった双海さんは一瞬嬉しそうな表情を見せたがすぐにいつもの無表情へと戻ってしまっていた。 「それじゃ邪魔したな。またな」 なんだかやりづらくなって俺は逃げるようにして教室へと戻っていった・・・。 そして五時間目、六時間目と難なく終了し、ようやく放課後の時間が訪れていた。 「三上クン、明日の放課後空いてる?」 ん明日?確か木曜日だっけ?何も無いと思うけどな。 「ん?どうしたんだ?」 「ちょっと一緒に勉強してほしいなって思ったから。テスト範囲とか教えてもらいたいし」 ああそういうことか。ちょっと期待した俺が馬鹿でした。まぁもともとテスト勉するつもりだし問題ないだろう。 「オッケー。明日ね。」 「ありがとう。あ、今日は用事があるんだった。三上クンまた明日ね!」 何やら急いでた音羽さんと別れを告げると俺も少しのテスト勉の用意を鞄に詰め込むと、小夜美さんの元へ向かった。 信も唯笑も俺には負けまいとそそくさと自宅で自主勉に勤しんでいるようだった。 なんかそれはそれでちょっと悲しいんだけど。 「お、智也」 購買へ向かう途中、不意に翔に声をかけられた。 「なんだ翔か。どうしたんだ?」 「用ってわけでもないけど。お前テスト勉やってるけどさ、  授業で覚えちゃってテスト勉の時間を遊びに費やせた方が良いなっておもわない?」 確かにそうだ。しかし授業というと縛られた気分であの黄金コンボと体育以外はどうも乗り気になれないんだが。 「それだとロープレとか消化する時間が減るぞ?テストのたびにそれだと気が滅入るだろ」 こう軽々と言うなっての。だいたい翔のテスト順位確か学年で三十番より上位だったと思うんだけど。 授業でポンポン頭に入る奴はいいよな。努力しないで入るんだから。 寝てる奴が言うなって?いやなんとなく授業受けてるだけで大丈夫なんてなんかずるいだろ。 「今努力しないでなんで出来るんだって思ったろ」 くっ何気にこいつ鋭いんだよな。頭の回転速いから信みたいに馬鹿で釣るのも難しい。ある意味強敵だ。 「自分で言うのもなんだけど、寝るのは努力以前の問題だろ? 俺は授業受ける分智也よりは努力してる気がするんだけど」 むぐ。俺が酷い事考えているもんだから見事にカウンターを食らった気分。翔には敵わん。 「とはいえ、テスト勉をしてる智也の姿勢はいいんじゃない? それがきっかけで勉強とか楽になったりするかもしれないし」 現国は確かになんか楽になった・・・ってこいつは何故俺を見透かしているように ・・・やはり回転速度が違う。CPUはPENTIUM4搭載型だな! 「まぁ俺としては智也みたいに自由で気ままにやってられる性格が結構良いなって思ったりするんだよな」 翔が俺のことを良いとかいうのは結構珍しい。あいつ人の評価良いも悪いも言わないからな。 だから友達としてはかなり付き合いやすいみたいだけど。 その白黒はっきりつけないのが悪いのか一部の女子どもから、 忌み嫌われているみたいだが本人結構気にしてるんじゃないのかな? 「自由はいいけど結構めんどくさいんだよこれが。俺はお前みたいに頭の回転が速くなりたいよ」 とまぁここまで言うとかなりマジメで勉強も出来て友達も多い完璧人間に聞こえるかもしれないがそうじゃない。 リミッター解除すると、俺や信でも時についていけないほどの世界を展開するのだ。 まぁそれは別の機会に解除させてやろう。俺は今は小夜美さんを待たせている。 「それじゃあ俺小夜美さんが待ってるからそろそろいくわ」 「ああ、取り置きの引き換え条件って奴か。」 よく覚えてるな。関係ないことまで覚えてる所がある意味怖い。 と翔の記憶力に感心しながらも俺は購買へ向かった。 「小夜美さーん。いるー?」 「はいはーい」 呼ぶとすぐに小夜美さんが出てきた。購買にある荷物を整理するみたいだが・・・ これくらいなら一時間もあれば片付くだろう。俺はダンボール片付けに荷物整理とせっせと働いていた。 「そういえばおばちゃんどうしたの?」 なんだかんだでおばちゃんの代わりに小夜美さんが来た理由を聞いてなかったのでここで聞いてみる事にした。 「ああ、お母さんね、うちで変に重い物無理やりもったもんだから腰壊しちゃってね。  中間終わったら復活すると思う。私はそれまでの代打ってとこかな」 中間が終わったら小夜美さんに会えないのか。 それはそれで残念な気もするが・・・。しかしおばちゃんも無茶するもんだ。 「小夜美さん働いてるけど学校は?」 「れっきとしたビューリホー女子大生よ?出席日数が余裕だからこうして働いているってわけ」 ビューリホーって・・・なんか修飾の仕方間違ってると思うんですけど。 まぁ小夜美さんが大丈夫って言うんだから大丈夫だろう。 小夜美さんと自分の話をお互い簡単に話しながら作業をする。 作業も自体も簡単で小夜美さんも一緒と言う事もあってか、終わったのがすごく早く感じた。 時間にしてみると、一時間ちょっと程度なんだが。 「ふう。お疲れ様。三上君。お母さんが特別に取り置き許可してる理由なんとなく判った気がするわ。手際いいし」 うーん、さすがに一年以上こうしてると慣れてくるってもんなんじゃないのか? 取り置きしてもらって最初は容量わからなかったし。 「それじゃあテストも頑張ってね?酷い点とったらおねーさん許さないんだから」 「この間はおねーさんって言わないでって言ってませんでしたっけ?」 「それはそれ、これはこれ!とにかく頑張りなさいよ」 それはそれって言われてみても困りますよ小夜美さん。まさか忘れてたんじゃないですか? とか何とか思いつつ俺は疲れたので素直に家に帰る事にした。 しかし疲労が家に帰る事によって押し寄せた俺には、 勉強という存在と戦う事は無いまま眠りについていたのだった・・・。 雨が降っていた。あの時俺は傘を忘れてこの突然振り出した大雨にかなり困っていた。 一体どうしようかと止む気配もなく途方に暮れていたところだった。 彩花もいないし唯笑もいない。こういう日に限ってなんでいないんだろうか。 なんて昇降口でボーっと立っていたら。目の前には彩花がいた。 「智也・・・ごめん。先行っちゃって。智也傘持って来てなかったって思ったから、迎えに来たの」 俺はこの時の彩花が天使に見えた。しかし彩花は傘を一本しか持っていない。 途中で引き返してきたのだろう。いや一本じゃ帰れないって。 「・・・一緒にはいろう?」 ぬぁにっ!相合傘と来ましたか。 なんつーか雨宿りしてるクラスメイトとかいっぱいいるしなんか恥ずかしいんですけど・・・ まぁ彩花となら相合傘も悪くないな。そう思って俺は彩花と一緒に相合傘で帰ったんだった。 今思うと家が隣同士ってなんて素晴らしいんだろう。 どっちかが不幸な目にあって途中から帰るってこともないし。 あの日以降、俺は雨の日は彩花と一緒に相合傘で恥ずかしいながら帰っていた。 途中からそんな想いは消えていたけど・・・。 あの日からだったかな・・・俺が彩花の事を幼馴染以上の存在だってはっきり認識したのは。 それまでは自分の気持ちなんてよく知ろうともしなかったし。 彩花と相合傘で帰れるから俺は雨の日が好きだった。いや・・・ 雨の日は好き・・・?雨は好き・・・??? おかしいな・・・彩花と一緒に帰った夢を見てるはずなのに・・・。 雨の日は好きだった・・。過去形? 判らない・・・。でも雨の日を今は・・・今は好きなのだろうか・・・? 判らない・・・。いや多分好きなんだ・・・と思う・・・。 あれ・・・?なんで・・・?怖い・・・。これ以上考えるのは怖い・・・。 なにかが・・・見てはいけないような。 なんていうか死んだ後の事を考えてるみたい・・・。 俺は夢の世界を閉ざし完全な熟睡状態に入る事にした。そして朝まで思考を停止させた。

あとがき

今作を作るにあたって。なんか俺の理想とするメモオフ1stを創造してみたいなーなんて思って。 彩花の存在が俺の中で大きすぎて・・・。 しかし第一章では、色々謎のままにして終わっています。 とかいいつつ答えに近いヒントを残していってしまう俺なんですけど(笑) まぁ結末は俺が書く作品なんだから、とある程度予測できるでしょう(笑) なんていうか彩花の好きな漫画も 『それでも君を想い出すから』だったかなぁ・・・と思ったのであえて使ってみました。 途中にある智也の馬鹿っぷりはわざと、です(笑) こいつは虚言壁が完治したらショーゴや一蹴になっちゃいますし(笑) 所々あきらかにネタとか「ていうか作者!」 とかはっちゃけている部分もありますけど、突っ込みや笑ったりしてくださいw ちなみに水無月翔は自分自身を完全に投影したキャラです。 水無月=六月。自分の誕生日はちやほや言っているように、 静流さんと同じ六月三十日。ここから引っこ抜いてこのキャラを作ってみました。 物語の大筋は出来ているものの、 自分自身、メモオフキャラとどう絡んでいくのか楽しみです。 ととにゲバチエルってあだ名をつけられたり・・・するかも!? ちなみに最後の方で選択肢を投下してシナリオ分岐する予定です。お楽しみあれ〜。 それではちょっと暗いかもしれない今作ですが、二章を期待して待っていてくださいね☆彡

第ニ章〜追憶の彼方に〜 の扉を開く 入り口へ戻りますよ