PSO小説
present by ゲバチエル
エピソード『心の座』

PSO 〜for Seraphic Fortune〜 エピソード『心の座』 第四話〜響きあう心〜/中央管理区〜 「ここが中央管理区・・・。映像で見るのとではやっぱりだいぶ違いますね。  なんだかいやな感じ・・・。誰かに見られてるみたいな・・・。」  中央管理区。ガルダバル内部にある、何者かが作ったと思われる施設。 今では無数のエネミーが巣食う場所となり果てているけど・・・。  辺りには、目視できるほどの異常なフォトンが霧のように立ち込め、 時折雷の音や光も感じられた。  それは天候がたまたま悪いからではない。 現に、私は何度かここへ来ている。―――だが、いつきても同じ。  光は遮られ暗く、不気味で肌にまとわり付くような冷気。 そして常に辺りをとりまく悪天候は、まさに『異界』と呼ぶにふさわしい空間であった。 『エリ――来て――くれたんだね。』  その異界に私達を導いた張本人、カルは静かに口を開いていた。 姿は無い。だが、エリのナビシステムを利用して。 「カル!あ、イリスさん!  彼からです。いつものナビシステムで聞こえてます?」 「ええ。私も聞こえてるよ」 「良かった、ちゃんと動いてるみたいですね。カル?」 『ありがとう。エリ。僕のわがままにつきあわせてしまって・・・。  本当に申し訳ないと思ってる。』  ―――私もなんだけど?なんて事は、あえてここでは言わない。 言ったって話がそれるだけだし。―――ちょっぴり寂しいけど。 「―――ううん。そんなことないわよ。  ラボには内緒で転送装置を使っちゃったけど、怒られるのには慣れてるし。  ラボに入ったばかりの頃なんてもう毎日!  ―――あなたこそ、その・・・大丈夫――なの?」  大丈夫―――エリの言うとおり、カルは『緑のカル』でいつまでもいられる状態ではない。 彼がいるということはあの『紅いカル』もいるのだから。  それを抑え込んででなければ私達と話している事はままならない。 話をできる、ということは大丈夫なのだとは思うけど・・・。 『今のところはね。エリ。でも、時間がないことには変わりはないんだ。  今から話すことをよく聞いて欲しい。  この先に転送装置があるはず。そこを目指してほしい。』 「転送装置・・・」  エリは確かめるように次の目的地を小さく繰り返していた。 自分自身に、暗示のように・・・。  だがカルは、そんなエリに対して優しい声をかける事もなく話を続ける。 ―――恐らく、今は大丈夫とはいえ時間が限られているのだろう。  聞き返す余裕が無いかもしれない。 私はそう思うと、エリの肩をさすりながらに注意深く話に耳を傾けた。 『僕はこれからまた、時折会話ができなくなると思う。  「彼ら」を抑えなければならないから・・・。  でも、できる時にはこちらからアクセスして話をしようと思っている。  君たちの聞きたがってたことを――――勝手な話だけど――頼―――僕―――』  聞き返す余裕が無い、どころじゃなかった。 カルの言葉は、突然ノイズのようなものとともに途切れてしまった。 「カル!?」  返事は、無い。 恐らくカルに対して、何か――紅いカルだろうか?――が干渉しているのだろう。 「・・・わかった。転送装置ね・・・。」  これ以上話は望めない。エリはそう思ったのか、顔を上げて転送装置へ続く道を見据えた。 よし。そうと決まったら、あとは進むのみだ。 「・・・ごめんなさい、イリスさん。こんなことに巻き込んじゃって・・・。  でも、私―――」  だが、エリはこんな時に私に謝ってきていた。 それがエリの優しいところなんだけど―――今はそうも言っていられない。  カルの為、そして何より・・・エリの為に。 「行こう!!立ち止まってる暇なんてない!早く転送装置へ!!」 「・・・!はい!!」  私達は、異界と化した中央管理区を駆け出した。 転送装置へ―――カルを導く為に。  ウッキッキ!! だが、そんな私達を無数のエネミーが立ちふさがる。 「ガルダバルに生息する猿型エネミー、ギボン・・・。間近で見るのは初めてだけど・・・」  エリは深い霧の中からでも判るほどに、震えていた。 緊張感からか、恐怖心からか、あるいわその両方か。  どちらにせよ―――本来オペレーターであるエリには荷が重過ぎる。 「エリ―――無理しないで。自分の安全を最優先だよ。  私のことはいいから、ね?」 「で・・・でも・・・」  ギィギ!!  ―――こちらが話をしているのも構わず、今度は上空から声が鳴り響く。  蜂型のエネミー、ギー。 その声と共に、鋭く大きな針がエリへ向かって放たれていた。 「エリ!」  キンッ!! すかさず私は、自らの槍でその針を叩き落す。 そのままタンッと軽く踏み込むと、力いっぱい槍を振り払った。  ザシュッ!! と言う音と共に、あたりを取り囲むギボンの群れは断末魔をあげる。  だが上空のギーの群れは、それらにひるむ事なく再び針の発射態勢に入っていた。 『極寒の冷気よ!凍結世界をここに示せ!!』  しかし私もまた、止まらない。 ギーの群れへと間髪入れずにラバータを真似た物を放つ。  降り注ぐ冷気は一瞬にしてギーの群れを凍結させていた。 ガシャン、と飛ぶ力をなくしたギーは勢い良く・・・地面へと砕け散っていった。 「一閃で―――エネミーを全滅させるなんて・・・。  これが、黄昏の熾天使と呼ばれる力・・・」 「エリ・・・私のふたつ名なんて知ってたんだ。  別に呼んでくれって頼んだ覚えは無いけどね」  黄昏の熾天使。それはハンターズでの私のふたつ名だ。 もちろん自分から名乗った事は無い。  だがどういうわけか、私はこう呼ばれていた。 どのあたりが天使なのかが判らない。まあ―――本当の意味で言うなら間違いじゃないけど。 「でも・・・みんながその名で呼ぶの、判る気がします!  VR試験の時もそうでしたし、今も・・・」 「―――今は私の話をしてる場合じゃないでしょ?」 「そう・・・ですね」  話をしてる場合じゃないと言うよりも、私はそのふたつ名で呼ばれるのはあまり好きじゃなかった。  やりづらいというか、とにかく良い気分にはなれない。 ―――そんな中、エリのナビシステムから声が響く。カルだ。 『――僕は君たちも知っての通り人間ではなくて、AIなんだ。  正式な名称をAIカル・ス。  ラグオルの地下で君たちに助けられてラボのシステムとして復元された。』  君たちに助けられて―――ここに来て、ようやくカルは私の事も呼んでいた。 忘れてしまったのかとすら思い始めたけど、しっかり覚えてくれていたようだ。  じゃあエリはあの時の事を覚えているのだろうか? 少しその事が気になった―――が、今ここで口にするような事でもない。  あーもう。こんな時に私ったら、些細な事ばかり考えてる・・・! 『でも、その時点では「僕」は「僕」ではなかった。  ――「彼ら」――つまりAIカル・スという集合体の一部だったんだ・・・。』  集合体の一部―――。つまり緑のカルもカル・スの一部でしかないと言う事。 AIカル・スの中には色々な人格がある―――とでも言えばいいのだろうか。 「・・・」  カルの言葉に、エリは言葉を失っていた。 AIなのは判っていた。 でも・・・まさかそれがカル・スそのものではないなんて思わなかったからだろう。  薄々は感じ取れたかもしれない。でも、こうして現実を突きつけられたショックは消せない。  完全にではないにしろ、私はエリの気持ちを理解しているつもりだった。 気持ちは痛いほど判る。 でも―――たとえ辛い現実があろうと、ここで立ち止まってちゃいけないのも事実だ。 「・・・行くよ。気持ちは判るけど、やるべきことはやらなきゃね」  私は今日何度目か判らない。とにかく先へ進む事だけを言い聞かせた。 エリに対して―――そして、自分自身にも言い聞かせるように。 「ねえルナ。制御塔の地下―――なんて、どこから入るの?」  同じく中央管理区。イリス達とは別の場所を進む三人の姿があった。 三人のうち二人―――エリスとフォルは次の目的地に疑問を抱いていた。  彼女達が目指している場所は、制御塔と呼ばれる場所の地下なのだから。 ラボの調査、及びデータには地下などというものは一切記されていない。 「地下―――あそこは一種の封印が施されていると思うの。  だから転送装置の座標にはもちろん、制御塔内部から侵入するのは難しいわね・・・」 「難しいって、そんなんどうやって入るんだ?  ―――ま。それが判ってないまま来るルナじゃないか」 「そうゆう事。と言うか、その為にもエリスの協力が必要なんだけど」 「うちの?」 「ええ。薄々感じていると思うけど―――」  それは突然だった。彼女達が中央管理区を進むと―――ラヴィス=ブレイドが光を放ったのだ。 「何・・・!?」  その光は、さほど強くは無い。しかし一定の周期でチカチカと点滅していた。 「―――まるで反応。いや・・・共鳴だな。  だけどルナ。これと共鳴するって事は、やばくないか?」 「今更何言ってんのよ。それとも何、怖くなったの?」 「馬鹿言うなよ。―――ただ、まさかあの手が相手だと思わなかったからさ」  あの手。それはラヴィス=ブレイドと共鳴しうる力をもつモノ。 同等の力を持つか―――あるいは、対となる力を持つかどちらかでしかない。 「―――あいつが・・・」 「正確に言えば、あれとは別の物だと思う。  大体、東と西のほかにもう一つ制御塔があっただけでも驚きなんだから。  でもね、あたしのこの眼はごまかせない。  いくら封印したところで、それがフォトン―――魔力なら、見抜いてみせるわ。」 「―――蒼穹の魔眼ね。」  蒼穹の魔眼(そうきゅうのまがん)―――それはルナの蒼き瞳のふたつ名にも似た名称だった。  もっとも、コーラル出身である人間がその眼のふたつ名を知る事は無い。 ルナは、コーラルの文明とは違う別世界の人間だ。  彼女は本来ハンターズが携帯するはずのテクニックジェネレーターを介さずテクニックを使う。 いや―――テクニックを凌駕した、魔法と呼ばれる力を。  そもそも未知のエネルギーであるフォトンは、魔力と呼ばれるものの結晶体だ。 言い方を変えれば、精神エネルギー。  そして―――ルナはそれらを自在に操る事ができた。 操るだけではない。 フォトンテクノロジー、つまり魔力の産物で制御されるものも見抜く事ができるのだ。  簡単に言えば―――魔力を直接その身で感じる事ができる、といったところか。 「―――にしても、この魔力の濃度は何?なんだか、気分が悪いわ」  だがそれは、良い事ばかりではなかった。 コーラルの文明の人間からすれば、フォトンの力を自由にできるルナをうらやましく思うかもしれない。  しかし―――それは同時に、彼女の身体に負荷を与える要因でもあった。 「ルナ、大丈夫?」  エリスが心配そうに声をかける。エリスは知っていた。 ルナが魔力を自在に操り、そして感じる事ができるのを。 「なんとかね。でもあんまり―――長居はしたくないわ。」  魔力を感じる事。それは外側から半ば強制的に力が加わると同じ事だった。 それゆえ、それを直接感じる事のできるルナにとって、 この『異界』と化した中央管理区は負荷そのものでしかなかった。 「急ごう。この濃度じゃ、俺のほうまで参りそうだ」  フォルは、長居をするほどにルナに負荷がかかるのが判っていた。 ―――その身で直接。双子の姉であるルナと同じように、自分も魔力を感じられるのだから。 「そうだね。ただでさえ気味悪いし・・・。」  エリスは二人ほど身体に負荷がかかったりはしていない。 しかしまとわりつく異常フォトンと、光のない不気味な寒さと暗さにあまり良い気分ではなかった。  それだけじゃない。 光を放つラヴィス=ブレイドからは、言いようの無い不安を感じていたのだから。 「―――それじゃ、行きましょ。  エリス、ラヴィス=ブレイドがどの辺りから反応を示してるか判る?」 「反応―――」  言われるがままにエリスは自らの愛剣に意識を集中させる。 ラヴィス=ブレイドは持ち主と心を通わせる―――そんな不思議な能力がある。  それが光を放ったと言うこと―――ルナはそれを、近くにあると判断していた。 それを介せば制御塔の地下の場所も明確に特定できるのではないか、と。 「多分・・・こっち、だと思う。間違ってたらごめんね」  エリスは愛剣から感じ取った場所へ向かって、静かに歩き出していた。 ルナとフォルもまた、その後を続いた。  間違っていたとしても、彼女を責める事はできない。 二人は正確な目的地の場所を知らないからだ。 (・・・恐らく、あいつが来る・・・)  ふと、エリスはそんな予感がしていた。 予感―――というよりも、確信と言っていいかもしれない。 (―――あいつがこのまま黙ってるとは思えない。やっぱり―――)  ルナもまた、予感があった。確信と呼べるほどの、予感が。 彼女達の確信は、どんな形で現れるのか。そして、制御塔の地下という存在。  ―――全ては、ラヴィス=ブレイドの光が導くままに。  エネミーを退けながらに転送装置を急ぐ中、再びカルが喋りだした。 私達は彼の言葉を聞き漏らさないよう、静かに立ち止まり耳を傾けた。 『―――でも「僕」はまた気づくことができたんだ。君にね。エリ。』  話はついさっきの続きだ。 前置きとかが無い辺り、抑え込むのに相当な力を割いてるんだと思う。  だが、それでも何とか私達に話をしてくれた。 だからこそ―――かな。  急がなきゃいけない今でも、立ち止まってしっかり話を聞かないといけないと思う。  カルの為、エリの為、同時に真実を知る為にも。  ―――カルが復元されたカル・スシステムの中で、再びエリに気づけた。覚えていた。 偶然じゃない―――どこか運命めいたものを感じるけど・・・。  でも・・・カルが再びエリを覚えていてくれたなら、あの時バックアップを取って本当に良かったと思う。 『それがなぜなのかはわからない。  システムを通して君からのアクセスを何度も受けたよ・・・。  ・・・君と話したかった。  でも―――システムはそれを許してはくれなかった。』  システム―――つまりカル・スそのもの。 カル・スそのものにとって、AIにとって、誰かと話したいと言う事は邪魔なものでしかないんだと思う。  だから―――カルのその気持ちが許される事は無かった。 『その時、僕は思ったんだ。  ・・・君と同じ―――君と同じ体になりたいって』 「同じ体・・・私と・・・」  AIである事を捨て、生命に生まれ変わる。カルはそれを望んでいる。 AIの一部が独立していわば転生する―――そんな事が、できるのだろうか・・・? 『――ここは「僕」と「彼ら」がAIとして生まれた場所なんだ・・・。  僕たちが生まれた「制御塔」から全ては始まった。  そこへ行けば―――僕はきっと君と同じ体になれる―――。  1つの生命体として生まれ変わる事ができるんだ。  君と一緒に―――生きる事ができるんだよ。エリ。』 「そんなこと・・・それって本当――なの・・・カル・・・」  確かに普通で考えたら―――そんな事ができるなんて思えない。 けど―――。私は一つの例外とも言える存在が、親友にいる。  だから―――その可能性を、否定する事はできない。いや、したくなかった。 「AIが生命に、か。何だかすごい事になってきたね・・・」 「でも・・・そんな事って、普通じゃ―――」 「うん、まずありえない事だと思う。  でも・・・カルが嘘をつくとも思えない。  ―――ま、転送装置もついたみたいだし。  嘘か本当か、確かめにいけるね?」  話しながらに進んでいると、ようやく目的の場所までたどり着いていた。 すぐそばには転送装置と繋がっていると思われるコンピューター端末。  そして、前方の細長い道の先には転送装置が待ち構えていた。 ―――でも。 あそこはかつてβ630―――ガルグリフォンの巣だった場所に繋がってるはずだけど・・・。 「・・・カル!来たわ!あそこに転送装置がある!」 『――ありがとう。エリ。そこのコンピュータは周辺のシステムにつながってる。  それに「僕」を接続してくれないか?』  案の定、すぐそばのコンピューターは転送装置とも繋がっているようだった。 「・・・わかった。・・・つないだわ。カル。」  エリは言われるがままにナビシステムごと、カルをコンピューターへと接続せる。 まるで―――ハッキングを試みるかのように。 『アクセス・・・ターミナル接続・・・制御システム検出・・・侵入開始。  Mシステム位置座標検出開始・・・検出完了。』  ナビシステムから、機械的な音声が響き渡る。 ―――と。コンピューター上には、 ある地点の座標が事が明記されていた。  同時に、その横には巨大な塔のようなものが写っている。 その映像は、前方の転送装置にそびえる『制御塔』そのものであった。 『あれが「制御塔」だよ。エリ。  「僕」が生まれた場所。「僕」の父が死んだ場所。  つまりあそこには僕たちを生み出したものが存在しているんだ。  「MOTHER」僕たちはそう呼んでいた。  装置の転送先を制御塔へ切り替えるから少し待っててくれ。』  MOTHER・・・?それって、MOTHER計画の事・・・だよね。 でも―――私の知るMOTHER計画とは、全然違う気が―――。  それから時間にして三十秒くらいだろうか。 コンピューター上に無数ログが流れていき―――転送先の座標が書き換えられた事が表示されていた。  制御塔、内部へと。 『・・・これであそこカラ―――制御ト――ニ――イケ―――バ――コ  ダ―――騙サレルナ。』  けど、突然カルの声にノイズが走っていた。まるで、何かに妨害されているように。 「カル・・・!?キャッ!」 『騙サレルナ。』  瞬間、すさまじい光がコンピューターとナビシステムから飛び出した。 同時に、転送装置へのゲートに、突如ロックがかかる。 「大丈夫!?」  その勢いに軽く吹き飛ばされたエリに、そっと駆け寄る。 「大丈夫です。それより・・・」  良かった。エリには怪我は無いようだ。 だがエリは、どこか不安げな顔で私の後ろを指差していた。 「え・・・?」  私は、その表情を前に少しびくびくしながらに後ろを振り返る。  そこには、紅と緑のカルがそれぞれ立っていた。 VRフィールドではなく、れっきとした現実世界なのに関わらず、だ。  先ほどの光から、なんとなくそんな予感はあった。 でも、当たり前のような光景も不自然な光景に他ならなかった。  何せ、AIであるはずの彼らが今現実世界に姿を見せているのだから。 ―――多分、辺りに満ちている高密度のフォトン――魔力を媒介に姿を映しているんだろうけど。 「・・・AIカル・ス・・・。」 「騙されないほうがいい。今の彼には明らかにAIとしての異常が見受けられる。  『制御塔』に戻るということが我々にとって何を意味するか・・・  キミは知っているはずだ。アレはそういうものではない、と。」  紅いカルは、私達に警告をすると同時に、緑のカルへと現実をつきつけるように言葉を放っていた。  私達には彼が言っている事、それがどういうことかよく判らない。 判らないだけに、何を聞けばいいかも判らない。  そう考えた私は、再び聞き手にまわることにした。 ―――今回、あまりにも判らないことが多すぎるから・・・。 「進化を捨て個体となり生きたい。  その意志は我々の進化の一部として理解しよう。  だが、たとえ「MOTHER」を利用したところでキミの望むものは得られん。  簡単なシミュレーションを行えば明らかなはずだ。  キミが存在を留める事すら限りなく低い確率でしかない。  そのような可能性に我々総体は進化を委ねることはできない。  それが意味するのは・・・我々自身の性質の放棄。我々自身の存在の否定。  つまり「死」だよ。」  紅いカルは、事実を淡々と―――それこそ機械のごとく語った。 緑のカルの気持ちと行動を、全て否定するかのように・・・。  でも―――紅いカルは言った。『限りなく低い確率でしかない』と。 逆に言えば。それは『ゼロじゃない』という証拠でもあった。  何より―――試験の時からこの紅いカルの言い方には、むかっと来る所があった。 委ねることはできない?放棄?否定?挙句の果てに死だって・・・?  やる前から諦めたら、そこで終わってしまう。  それに否定からは何も生まれない・・・!そんなのは・・・!! 「「そんなの!やってみなくちゃわからないじゃない!」」  私はたまるにたまった気持ちをその一言に込めて言い返した。 いや。私は、ではない。私とエリは、ほぼ同じタイミングで同じ事を言っていたのだ。 「イリスさんまで・・・どうして」  何だかこの場面で意見が一致した事が妙に嬉しくって、私はエリに笑顔を向ける。 「ふふふ。珍しく意見が一致したね。  確かにカルやあなたはAIかもしれない。  でも・・・AIだって心があるでしょ・・・?  私達と何が違うの?一緒でしょ・・・!」 「イリスさんの言うとおりです!彼は優しいし・・・人を思いやる気持ちもある・・・。  充分、私たちと同じだわ!  そんな彼がそう望んだとしても・・・自然なことじゃない!」  例えば、男性が女性になるのを望むように。 例えば、人が鳥に憧れるように。例えばAIが生命に憧れても・・・おかしくなんてないと思う。 「教えてあげよう。エリ=パーソン、及びイリス=シルディア。  彼はキミ達の知っているカルではない。」 「え・・・?」 「私達の知っているカルじゃない・・・?何が言いたいのっ!」  思わず、槍を握る手に力がこもる。感情的になっちゃ駄目だって判ってる。 でも―――止める事ができなかった。 「キミたちの知っている本当のカルはもう何処にもいない。  キミたちの言葉で説明するなら彼は「死んだ」のだ。」 「死んだ・・・?」 「そう、死んだのだ。キミたちとの記憶というデータを残して、  その後ラボのシステムとして復元された我々の「一部」がその残存データを受け継いだ。  それがキミたちの目の前にいる「カル」・・・。  彼の持っている記憶はデータにしかすぎない。  言ってみればキミたちとの思い出を持ったカルの複製なのだよ。  そして、それは彼自身が一番よく知っていることだ。」 「そんな・・・そんなの・・・嘘・・・」  エリは、紅いカルの言う事を受け入れられずにいた。 今まで、カルはオンラインで知り合ったカルそのものだと信じていたのだから・・・。 「嘘という言葉は我々とは縁遠い言葉だ。エリ=パーソン。  本来はね・・・我々にとってその行為は何の意味も持たない。」  だが、信じたくないというエリの気持ちにまで、紅いカルは事実を突きつけていた。 ―――私だって、ショックが無かったといえば嘘になる。  でも、エリにはかなわない。カルをかけがえのない大切な人だと想っている、エリには・・・。 「・・・すまない。エリ・・・」  ―――しかし、紅いカルの言うとおり、嘘はそこには存在しなかった。 緑のカル、本人がエリに向けて静かに謝っていたのだから。  本人が謝る―――つまり、これが真実であるに他ならない。 だけど―――。 「カル・・・?」 「それは本当なんだ。エリ。ここにいる「僕」は君の知っている「カル」じゃ・・・ない。」 「そんなこと関係―――!」 「関係無い!カル、あなたがたとえ私達の知っているカルじゃないとしても。  だから何なの!?カルはカル、それだけだよっ!」  再び私達は意見が一致していた。 が―――今度はエリの言葉すらかき消すほどに、私が叫んだ。  そう。そんな事は関係ないじゃら。 いや―――むしろ、AIがデータに過ぎないなら人間の記憶はどうなのだろう? 何ヶ月も会っていない人は、大なり小なり何かが変わっている。  そう、再会した時。記憶の中のその人とは別人。似ているけど、違っている人・・・。 昨日の私はいないように、あの時のカルはもういない。ただ、それだけの事。 それにあの時のカルを受け継いでいるならば。エリを呼びかけたのならば。  たとえ人違いだとしても、カルであることには変わらないし、二人の思いだって変わらない。 「そうよ!イリスさんの言うとおり・・・だからそんなの関係ない!!  だって、私―――」 「判ってるんだ。エリ。君の言いたいことも。君の性格も。君の優しいところも。  全部―――でも、それは全て僕がデータとして受け継いだ君との記憶―――  それは、事実なんだ。僕が今まで君を騙していたことにかわりはない。」 「でも・・・でも・・・!」  現実を突きつけられても、エリにとってカルはカルだった。 それは彼女の言葉、表情、そういうものを見ていれば明らかだ。  それに、人間で言うならば複製なんて言葉より・・・素敵な表現もある・・・! 「カル・・・。私からも言わせてもらうよ。  データが何?騙してた?複製と言ってしまえばそれまでかもしれない。  でも―――あなたがカルの転生した姿って言い方もできるよね。  それに全てのものは常に変わり続ける。私の知ってる何かもきっと変わっていく。  何より―――あなたの大切なエリを辛い思いにさせたいの・・・?  現実より何より大事なのは、気持ちだと思うよ」  私にとって。カルが過去の複製だとか、そんな事はどうでもよかった。 ショックはあったかもしれない。でもそれはただの結果にすぎない。  結果があったって・・・気持ちは、変わらないんだから。  それに、エリが辛い思いをするのが・・・何よりも嫌だった。 「エリ=パーソン。並びにイリス=シルディア。  我々は早急にメインシステムへと復帰する必要がある。  キミのナビシステムは我々総体が依存するにはあまりに脆い構造だ。  負荷によってシステム自体が破壊された時―――我々は帰る場所を失う。  つまりキミたちの言う「カル」ともども消滅してしまうぞ。」 「カル・・・!!!」  エリの悲痛な叫びが響き渡る。 そんなエリに哀しそうな顔を浮かべながら、緑のカルが静かに語り始めた。 「エリ・・・君との記憶を持てた僕はとても幸せだったと思うよ。  たとえそれがデータに過ぎなくても・・・。  ・・・君は僕にいろいろな話を聞かせてくれた。  君の星のこと。生き物たちのこと。人々のこと。  ・・・英雄は、最初から英雄だったわけじゃない。  どんなに可能性が低くたってやってみなくちゃわからない。  そう言って僕に怒ったこと覚えてる?  でもなぜなのかな・・・。僕も今は素直にそう思えるんだ。  AIである僕が・・・これっておかしなことだよね・・・。  僕は行くよ。エリ。大丈夫。すぐ戻ってこれる。  その時はきっと君と一緒に―――」  それだけ言うと、二人のカルの姿が今にも消えてしまいそうな危ういものにとなっていた。 「止――メロ――アソコデ――待ッテイルノハ永遠ノ眠リダ。  !!オマエ――我々マデ道連レ――スルツモリ―――  アアアアアアア――――!!!」  突然―――狂ったように紅いカルが叫びをあげる。まるで、自我を蝕まれたかのように。 「カル!!!」  そのまま、二人のカル・スは実体を失い、それこそ魂のような形に変わってしまった。 ―――そしてそれは、制御塔へと向かっていっていた。  カルのいなくなったこの場所に、再び異界の冷たさと静けさだけが包んでいく。  だけど、やらなくちゃならない事は一つしかなかった。 他でもない。カル・スに会いに行く事!迎えに行く事!真実を確かめる事!!  そう、制御塔へ行く事だけだ。 「・・・」  しかし、エリはというと話の衝撃のあまりどこかぼーっとたたずんでいた。  うっすらと、涙を浮かべながら。 慰めるべきだろうか?いや―――そんな事したって、エリが余計辛いだけだ。  ―――それに。エリがカルに会いに行かなくちゃ・・・どうにもならない。  だけど、エリを言葉で立ち直させる自信がなかった。 そうおもった私は、静かに彼女のそばに近づき―――右手を振り上げる。  パァァァンッ!! 私の手のひらは、勢い良くエリの左ほほをひっぱたいていた。 「イリス・・・さん・・・?」  エリは、左ほほをおさえながらにこちらをじっと見る。なんで?という顔で。 「エリ。いつまで・・・そうやってしてるの?  私たちは今何ができる?  エリがカルに怒ったように。やってみなくちゃ判らないじゃない。  そう、やらなきゃ判らない。こうして何もしないんじゃ・・・何も判らないよ。  泣いてる暇があったら、次できる事を考えよ!  それでも泣きたいなら、何度でもひっぱたいてあげる。  大切なものを、見失わない為にもね!」  ちょっとやりかたはきつかったかもしれない。 でも―――私はこれでエリが立ち直ってくれると、信じてた。 「イリスさん・・・。そう、そう・・・ですよね。  私――私――!!こんなことしてちゃ!!」  私のビンタと言葉にはっとなったのか、エリは吹っ切れたかのようにコンピューターを操作しはじめた。 「ダメ・・・やっぱり緊急ロックがかかってる。」 「こんな時に・・・!」  やはり、先ほど紅いカルがは余計な置き土産を残してくれたらしい。 先ほどゲートにロックがかけられたのは、気のせいなんかではなかった・・・と。 「パスワードを探してる時間ないし・・・。  ―――そうだ。別の経路でロックを!」  エリは、慣れた手つきで必死にコンピューターを操作する。 私には、その背中がどこか強く見えていた。 「・・・・・!あった!」  イリスさん!これ・・・見てください!  ここに地上施設用の避難用端末があるみたいなんです。  この端末を使えば緊急ロックを解除できるはず。  でも、どこから行けば―――リフトを探してるヒマなんて―――」  コンピューターのディスプレイには、避難用端末の映像が映し出されていた。 ―――ここの崖下にある、端末の。  私は冷静に状況を考える。焦りはある。 でも・・・それに負けないようにと、自分に言い聞かせながら。  普通に考えて10メートル以上はある崖を、普通に飛び降りる事は危険すぎる。 かといって、辺りを見回しても安全に降りられるリフトのようなものは見当たらない。  あったとしても―――恐らく、起動に時間がかかってしまうだろう。  探して見つかるとも限らないし―――リフトは頼れない。 じゃあこの崖を降りるか。・・・斜面はほぼ90度の崖をそのまま降りるのは危険すぎる。  ―――だったら、手っ取り早くあの場所に行くには―――あれしかない。 やれる事をしなくちゃならない。  私になら――あの力なら行けるはず。なら・・・今こそここで、その力を使わなくちゃ! 「エリ―――私も黙っていた事があるんだ。」  私は、静かにエリに告げた。 「イリスさん?」  この状況に突然の言葉。それにエリは戸惑いの顔を浮かべる。 それでも私は、かまうことなく言葉を続けた。 「私ね―――コーラルの人間じゃないの。ましてやパイオニア2や1のハンターズでもない。」 「え―――どういう事ですか・・・?」 「私はエリはもちろん他のハンターズに使えないような力を使う事ができる。  どうやらその力も―――これで隠しているのはおしまいみたい。  ごめんね。私は魔法使い―――ううん、天使なの。」 「力・・・?魔法使い・・・天使・・・?イリスさんは一体―――」  私はそれ以上は何も言わずに、勢い良く崖へと向かって駆け出した。 ・・・魔力を、確実に集中させながら。 「え!?イリスさん―――そんな危ないです―――?」  エリの静止も聞かず、そのまま崖へとジャンプする。 ―――同時に、私は言葉とともにその力を発現させた。 『私の中に眠る天使の翼よ!今こそその力を解放せよ!!バリク・リトゥス』  直後、私の背中には大きな二枚の翼が姿を見せていた。 マグなんかではない。それこそ鳥のように、空を飛ぶ確かな翼を。  テクニックジェネレーターのようにディスクを用いて擬似的に現象を起こすのではない。 自らの意思で、道具に頼らないで現象を発現させること。それが魔法だ。  その魔法の力を使える種族の事を天使、と呼ぶ。異世界の住人、天使。それが私の真実。 だけど、それでもラグオルやコーラルやみんなに対する想いは本気のつもりだ。  だからこそ、今こうして異世界の力を使ったのだから・・・。 私はそのまま魔法の翼をゆっくりと羽ばたかせ―――私は崖下へと着地に成功する。  カクリ、とちょっと着地を失敗したのはエリには秘密だ。 本当は翼の具現化―――風の魔法――は苦手なんて、言えないし。 「イリスさん!よかったぁ・・・無事なんですね・・・。心配したんですから!!  いきなり崖に飛び降りて、翼が生えて・・・心臓が止まるかと思ったじゃないですか!  今のがその力なのかよく判らないけど―――あんまり無茶なことしないでください・・・。  ―――グス――もう―――あとで説明してくださいね―――。  え、えーと。でも、その先です。  その先に端末があるはず。お願いします!」  上から、フェンスごしにエリがこっちを心配そうに見下ろしていた。 10メートル以上離れた距離じゃ表情は判らないし、声もうまく聞き取れない。  それでも、エリが私を心配してくれている事は判った。 「任せて。すーぐ戻ってくるからね!」  私はその背に翼を携えたままに、大きく手を振ると――そのまま避難用端末へと走った。 「気をつけて!なにかそっちに!」  ドオオオン!!  走り出したとほぼ同時だった。 エリの呼びかけと共に、勢いよく巨大な猿が私に向かって飛び掛ってきたのだ。  以前高山地区で見かけた―――ここら辺一体のボス的存在、ギブルス。 「ごめんね、悪いけどかまってる余裕は無いの。  今は何よりも時間が惜しい―――光の最上級魔法でケリをつける・・・!」 『降り注ぐ蒼き流星、示せ!天空の光!!セレスティアル・スター!!』  私の手より無数の蒼き光が空へと舞い上がる。 ―――と思うと、その無数の光は巨大猿へと降り注いでいった。それこそ、雨のように。 その光の前に、巨大猿は跡形もなく消滅していく。  と、同時にガクン―――と私の中で何かが抜けていく違和感に襲われた。。 「く・・・やっぱり光の最上級魔法なんて使うんじゃないな・・・」  普段私が力を使わないのは二つの理由がある。 一つは、私が別世界の人間だって判らせないこと。 そしてもう一つは、効力が絶大故に負荷もすさまじいということ・・・。  いわば魔法は、必殺技的な存在なのだ。 先ほどもかなり魔力を消費する飛翔魔法を使ったし。  それだけじゃない。 VR試験からほとんどノンストップで積み重ねてきたダメージが、ここに現れたんだと思う。 「でも―――エリが待ってる。行かなくちゃ・・・!!」  私はガーディアンブレードを確かめるように握ると、勢いよくロック解除の端末へと走り出す。  その頃、ルナ達もまた目的地へと迫っていた。 「今の・・・間違いなく、イリスね」 「そうだな・・・」  フォルとイリスは、イリスが魔法を使った事を肌で感じていた。 イリスの魔力は、それだけ見れば実際二人以上の力を持っている。  それだけに、魔力を感じられる二人にとって、同じ異界にいるイリスの力を感じ取れないわけがなかった。 「魔法を使う事態―――って事は、大分な状況みたいね・・・。  こんな時・・・あたしは何もできないけど―――」 「落ち着いて、ルナ。らしくないよ?」  普段チームメンバーの中でも一際冷静なルナ。 しかし、今はその冷静さが見られない。そんな彼女を、エリスは優しく落ち着かせようとしていた。 「エリス・・・。それは判ってるんだけど・・・。  なんだか、イリス一人に辛い事背負わせてる気がして」 「何言ってるの?自分こそ、充分重いもの背負ってるでしょ。  イリスンの事は・・・無責任だけど、信じるしかないよ・・・。  大丈夫だって・・・!」  しかし、エリスの言葉にルナはおろか、フォルも何も返す事は無かった。 それだけ、みんなイリスの事が心配でしょうがないのだ。 「―――こっちはこっちで、やれる事をやろう。  考え出すと、悪いほうばっかり思い浮かんじゃうからな」  しばらくの沈黙。それを打ち破ったのは、フォルだった。 「そうだね・・・。  ―――にしても、困った事になったね」  エリスも、さっきのように振舞っていないと自分が押しつぶされそうだった。 だから、自ら話を切り替えていた。少なくとも、表面上だけでも意識しないですむから。 「困った事?」  ルナが何の事とばかりエリスに尋ねる。 「うん・・・。ラヴィス=ブレイドのおかげで、目的の場所は伝わってくる。  でも問題は、どうやって近づくか、だよ」  エリスのいうことは最もだった。 なぜなら、今現在彼女達が歩いている場所と目の前にそびえたつ制御塔は、海で隔たれているのだから。  そして、ラヴィス=ブレイドはその制御塔から反応を示している。 「転送装置なんてないものね。それに、塔内部に転送されても恐らく意味が無いわ・・・」 「うん・・・判る。ルナの言うとおり、塔内部から地下にはいけないと思う。  ラヴィス=ブレイドが、そう教えてくれてる・・・」 「ルナ、まさか何も判らないでここへ来たのか?」 「まっさか。二人とも、ガルダバルそのものが秘密研究所だったのは知ってるわよね」 「うん。だけどそれが・・・?」 「おかしいと思わない?セキュリティを解除しないと中央管理区内部に入れない。  にも関わらず、ここの先にあるのはガル・グリフォンの巣への転送装置と東塔の転送装置だけ。  研究所だったはずなのに、それらしき施設はほとんどない。  ここが初めから施設じゃないというなら判る。でも・・・それならセキュリティが不自然よ。  海底にあるプラントはまさに研究施設だったようだけど・・・。  中央管理区と違ってセキュリティまでかかっていない。」  プラントが研究施設なら、そちらにセキュリティをかけるべきだというのがルナの考えだった。  中央管理区は言うなればもぬけのから。 なぜ三箇所もの離れたセキュリティをかける必要があるのか、それを疑問に考えていた。 「そういわれればそうだな・・・。でも、制御塔の存在のせいじゃないか?」 「恐らくね。でも―――変だと思わない?  中央管理区の調査は一応終了しているのに、制御塔の転送装置なんか無かったでしょ?」  フォルの言うとおり、制御塔関連だと考えるのが筋だろう。 しかしながら、中央管理区の調査はおおまかには終わっていた。  そして東塔の存在と西塔の存在も明らかになっている。 だが・・・西塔は海底プラントの転送装置に位置している。  そして、中央管理区内部にはこれ以上転送装置のようなものがあるようには見えない事。 それらから、完全に中央管理区だけに厳重セキュリティがかけられているのは不自然だった。  まさに、異界と呼ぶにふさわしいばしょともいえるのだが。 「何らかの手段で隠している・・・って考えるのが自然だね」 「ええ。でも―――完全に海で隔てた場所に、制御塔を造る事ができるかしら?」 「パイオニア1の資材のほとんどはセントラルドームの建造に使われたと思う・・・。  制御塔を作る資材や人手があったとは到底思えない・・・。  そんな状況下で海に隔たれたような島に塔を作るなんて、なおさら―――」 「でしょ。―――そう思って、中央管理区の事を詳しく調べてたのよ。  そしたら、一つ判った事があるわ」 「判った事・・・?」 「そう。中央管理区、制御塔、プラント、そしてセントラルドーム。  四つを繋ぐ大型海底トンネルがあったことがね。」 「え・・・!?」  ルナは自らが調べた情報を静かに二人に話していた。 あまりにも突拍子な、事実を。 「ラボの調査した極秘情報よ。判らなかったのも無理ないわ。  海底トンネル一帯に、強力な電波妨害が備わってたのだから。」 「セントラルドームの建造を名目に、海底トンネルを作った・・・。  そしてそれを名目に、そこから資材や物資を運んだ・・・。」  海底トンネルが存在するならば、エリスの考えは自然といえた。 「ってことは、そこから制御塔の周りに出れるんじゃないか?」  フォルは、資材や物資を運んだならば、制御塔の周りに出れると考えていた。 いくらなんでも、内部から建造していくとか考えづらかったからだ。 「そういう事!エリス、しばらく道案内よろしくね。  多分―――それに従っていけば、海底トンネルの入り口にたどり着けると思う。」  彼女達は、時折爆発するような魔力を感じながらに、更に先へと急いだ。 強すぎる魔力ゆえに、その魔力に近づいている事も・・・気が付かず。 「えーと、これね。―――よし!これでっ!!」  全速力でエネミーを退け進んでいた私は、ようやくセキュリティを解除する事に成功した。 『これで制御塔にいけるはず―――!  さきほどイリスさんが着地したあたりに上への転送装置を開いたので、  まずはこちらに戻ってきてください!』  ハンターズ用の端末から、リアルタイムのエリの声が響く。 ―――どうやら、魔法も精神力を使うのだと配慮してくれたようだった。 「ありがと。今戻るね」  私は短くエリに伝えると、転送装置へと走った。  ドックン・・・。  なぜか突然、私の胸は何か予感を告げるように高鳴っていた。 何かがが―――エリのそばに向かっているような、そんな気とともに。  さきほどまでエリの近くには誰もいなかったはず。  そして、エネミーがいるような事も無いと思う・・・。 感じるのは、辺りに満ちるフォトンの霧に混じって感じられる強い魔力・・・。  そして、殺気にも似た悪寒。  その二つに、私の胸の鼓動は早まるばかりだった。  急がなくちゃ。エリに何かあってからじゃ遅い・・・! 「イリスさん!」  ようやく先ほど私が着地したあたりまでたどり着く。 上で私の名を強く叫ぶエリに、大丈夫だよと手をふってみせた。  それは―――今なお強くなる、胸の鼓動をごまかすように。  しかしこうしてはいられない。焦りにも似た気持ちで私はすぐに転移装置へと足を踏み出した。  いや、踏み出そうとした。 ―――が、彼らは既に到着してしまっていたのだ。 「・・・あ。」  エリが、そんな彼らを前に声すら出せずに立ち止まる。 私の中にあった悪寒もまた、胸の鼓動とともに大きくなっていた。 「久しぶりね、イリス。上がってきたら?」  その赤き爪には見覚えがある。そしてその隣に見える大鎌も見覚えがあった。  ここからじゃ、人物の特定まではできないけど・・・それが誰だか間違っていない自信だけはあった。 ―――いいえ。それだけじゃない。 辺りのフォトンとは違う魔力も、確かに近くに感じられていた。  ―――上がってきたら、と言われてこのまま見ているわけにもいかない。 厄介な事になったな、なんて思いながらも私は転送装置で上へと向かった。  転送先で待っていた二人は、やはり間違いなんかではなかった。 赤き爪を装備する黒きニューマン、スゥ。 大鎌をその手に携える紫のアンドロイド、キリーク・ザ・ブラックハウンド。  何かにつけて私達の前に現れるブラックペッパーの二人であった。 「久しぶりね。ご活躍は耳にしてるわ。でも、それもちょっとここでストップ。  制御塔に行くのを許可するわけにはいかないの。」  スゥは、済ました顔で最低限の用件をこちらへつきつけてきていた。 この二人が来たって以上―――そんな事を言ってくるだろうと、想像はついたけど。 「それとエリ=パーソン。」 「は・・・はい!」  なんともいえない威圧感を発する二人を前に、エリは怯えていた。 ―――まあブラックペッパーの幹部クラス相手じゃ、無理もないか。 「既にアナタの行動は目をつぶれないところまで来てる。  ・・・可愛そうだけど。ラボに戻ってもらうわ。  アナタ自身の身の安全のためにもね。」 「そ・・・そんな!」 「逆らうと言うのなら命の保障はできないわ。  イリス。キミも一緒にラボへ戻るのよ。  ・・・これは忠告よ。足手まといを連れて危険すぎるってのくらいわかってるでしょ?」  スゥの忠告は最もだ。 しかし、私はそれをはい判りましたというほど聞き分けの良いできた女じゃない。 「まあ・・・ね。でも―――何とかしてみせる。  スゥとキリークなら知っていると思うけどな、私の―――いえ、私たちの力をね。  足手まといだろうがなんだろうが、絶対何とかしてみせる」 「イリスさん・・・」 「仕方ないわね―――」 「ちょっと待って。このまま言わずにおけば気がつかないとでも思ってる?  ―――ルナ、エリスン、それに―――フォル」  スゥが何かを言おうとしたところで、私はすぐ後ろにある魔力の持ち主の名を呼んだ。  先ほどから感じていた魔力。私がその名を呼ぶと、その三人が静かに姿を現していた。 「近くに来るまで気が付かなかったわよ。  あんたの魔力が強すぎるのと、辺り一帯のフォトンのせいで距離感がつかめなかった。」 「それは私もだよ。ルナの魔力もすぐ近くに来るまで気がつけなかったもん。  それより―――どうしてここにいるの、フォル!」  私達の故郷である世界にいるはずのフォル。なのに、なぜか彼は目の前にいた。 しかも、よりによってルナやエリスンと一緒に、だ。 「説明してよ、みんな・・・」 「なんっていうか・・・イリスンが知らなかっただけかな・・・。」  私が知らなかっただけ―――って事は、みんなは知ってるって事・・・? 「―――お互い、やらなきゃならない事あるわよね。  絶対この事話してあげるから。今は、やる事やろう・・・?」 「・・・そうだな。それにイリス、俺たちのやる事に想像はつくだろ?」 「うん・・・。」  フォル達のやる事―――それは恐らく、エリスンに関係した事だろう。 それが証拠に、ラヴィス=ブレイドは通常とは比べ物にならない光を放っているのだから。 「ラヴィス=ブレイドがね、反応してるの。あそこ―――制御塔の中にね」  反応―――まさか、ダークファルス?ううん、そんなはずない・・・。 ダークファルスは確かに私達が倒したんだから・・・。  でもじゃあ・・・何?それに制御塔の中に反応してる・・・? カルが言っていたMOTHER計画と、ラヴィス=ブレイドは何か関係があるっていうのかな。 「この前話したわよね、エリスの事。」 「うん。話したけどそれが―――もしかして・・・!」  私は、ここに来てようやく三人がどこへ行くのかが判った。 制御塔の中に反応を示す―――つまりはそれが三人の目的地だろう。  だけど絶対に私達と行動をする事もないだろうけど・・・。 「多分イリスの考えてる通りよ。  それで―――イリスとエリは、何してるのよ」 「何って・・・スゥとキリークが・・・」  二人が現れた事により、私達はすんなり制御塔へと行けずにいた。 下手に行こうものなら、今後の行動に足かせがつく。それは、避けたい。  でも・・・いち早く制御塔に行かないとならないのまた事実。 じゃあ、どうすれば・・・! 「イリス。お前のその実力、どれほどになったか確かめてやる。」  突然、キリークがそんな事を言い出した。 あまりに唐突すぎる発言に、私達は思わず言葉を失っていた。 「スゥ。俺とコイツだけなら文句ないだろ?」 「ちょ・・・ちょっ!旦那!何を言い出すのよ!!」 「お前が連れて行けないのはイリスではなくエリ=パーソン。  ならば俺とコイツで行けば問題はないのだろ?  こっちの連中に頼まれてるのはイリスとエリ=パーソンの無事の確保。  変わりに情報はリークするという条件つきだ。  ならば、俺がイリスと行けばいいのだろう?  それにこっちの連中は、俺がどうこうする問題ではなかろう」  確かに―――キリークとはほとんど敵同士のような存在だけど、その実力は確かだ。 キリークとなら・・・守りながらではなく、完全に戦力として頼る事ができる・・・。  そして、エリといくよりもずっと危険度が下がるのも事実だった。 「あんたの言う事には一理あるな。」  そんな中、フォルがポツリと賛同の意見を口にしはじめた。 「確かに―――イリスとはいえあそこを守りながら戦うのはきついだろう。  素性は知れないが、実力のあるあんたと一緒のが確かに問題はないと思う」  フォルだけではない。 他のみんなも、私とエリで行くよりもずっといいとキリークの提案に賛同していた。 「―――はぁ。ったく。後でちゃんと手はず通りね!」  スゥは一人だけ考えている事が違っていたのか、溜息混じりにそういった。 どうやら、元々はこの二人で制御塔内部へ行く予定だったらしい。 「わかっている。お前にもその娘にも、誰にも悪いようにはせん。」 「どーだか」  スゥは呆れ混じりだった。 まるで予定を崩されてやるせなくなってるような―――そんな感じで。 けれど、こちらにとっては好都合だった。 真実をこの眼で確かめる事が出来るのだから。 「カル・・・」 「気持ちはわかるけど今は彼らに期待することね。  アナタが一緒じゃイリスも大変だわ。」 「・・・ごめんなさい。イリスさん。・・・お願いします」  エリはもう本日何度目だか判らないほどの、ごめんの言葉を私に向けてきた。 だけど―――エリがそんな風に負い目を感じてほしくはなかった。 「何言ってるの。最後の最後まで付き合うって言ったよね?  私達に任せて。大丈夫、あんまり待たせないように努力する!」 「・・・さっさといきなさい?キミには借りがあるから見逃してあげてるんだから。」  私がエリと話していると、スゥは不満そうに背中越しに言葉を放った。 予定を崩されたのがそんなに不満なのかは確認のしようがない。  でも、スゥの言うとおりさっさと行くにこしたことはないのもまた事実だった。 「―――みんな」 「なーに?」 「・・・行ってくる。あそこに真実がある。それにエリの為にね」 「いってらっしゃい。だいじょーぶ、あんたなら余裕でしょ?」 「それは買いかぶりすぎだと思うけど・・・。  でも・・・みんなも無茶しないでよ?」 「それはお互い様。帰ったらぱーっとご飯でも食べに行くわよ!」 「ルナ―――」 「ルナは相変わらずなんだから。それじゃあイリスン、気をつけてね?  お土産話、よろしく!それじゃ、行こう!」 「エリスン―――」  ルナとエリスンは、それだけ言うと静かに二人歩き出していた。 「・・・イリス」  二人が私達から離れると同時に、私の大切な人であるフォルがそっと私の名を呼ぶ。 会いたくてたまらなかっただけに、何を言えばいいか・・・判らない。 「フォル・・・」 「そう辛気臭い顔するなって。今は・・・やる事やらなくちゃな」 「そうだね―――ちょ、ちょっとフォル!?」  カランカラン・・・  突然の出来事に、私は思わずガーディアンブレードを落としてしまった。 私は、フォルに抱きしめられていたのだから。 「嫌なら離すけど―――」 「嫌なわけない・・・。ただいきなりでビックリしただけだよ。」  嬉しさを感じながら、私も彼の背にそっと手をまわした。 ずっと離れていたから・・・その時間を埋めるように、強く・・・そして優しく。 「フォルも無理しないでね?フォルに何かあったら、私―――ん―――!?」  再び、それは唐突だった。今度は声も出ない。いや、出せなかった。 何も言わずに、そっと私に唇を重ねてきたのだから・・・。 「ん――――」  しかしそのキスの時間さえも、ほんの数秒で終わりを告げてしまった。 今は二人の時間を楽しんでいるわけにはいかなかった・・・からだ。  ちょっと残念だったけど―――でも、やらなきゃいけない事が残ってる。 「積もる話も、この続きも、時間がある時にしよう。  それじゃ・・・俺も行ってくる。イリスも、気をつけて」 「うん・・・。フォルも気をつけて・・・。」  フォルは、慌てるように二人のもとへと駆け出していた。 ―――多分、ルナとエリスンは・・・私達に気を遣わせてくれたんだろう。  最も、スゥとキリークがその場にいるんじゃ、気を遣わせるも何もない気はするけど・・・。  私は三人の背中を最後まできっちり見送ると、落としたガーディアンブレードを拾いなおし気持ちを新たにした。 「こっちも準備オッケー。行きましょう、キリーク」 「クハハ・・・。どれほどの腕前になったか・・・きっちりと見届けてやろう」  私もまた、キリークと共に制御塔の転送装置へと駆け出した。 微かに残る、甘いキスの余韻を感じながらに・・・。 あとがきと言う名の駄文 05.4/4 第四話、終わりました。 が・・・読み手の方は大変になるんじゃないかな、これ。 色々判りにくいところ、判らないところが多くあると思うんで・・・。 いきなり魔法とか言われても判らないよなあ、と思いつつ書かない事には進まないので出しました(笑) うう、EP1及びEP2の小説でしっかり補間しないと・・・。 むしろ・・・心の座を加筆訂正するべきか(汗 それよりも何よりも、PSOだっていうのにラストのシーンはなんなんだという(ぁ えー作者の趣味が滲み出てるようなきが・・・反省・・・。 でも、シリアスなところに華くらい欲しいかなぁ・・・と思ったので(いらないかも あと残すは全ての決着、制御塔内部だけです。 第五話では原作には無い完全オリジナルの話が加わりますのでお楽しみに!!(ぉ ・・・しかし、誤字脱字多くてゴメンナサイ。これでも修正してますが・・・。 思うと想うなんか、わざとやってる時もあったりするし・・・。 話と話しとか。判ると分かるとか。色々ややこしいよね、日本語って(言い訳 と、とにかく第五話、あとはラストスパートです!お楽しみにっ!