PSO小説
present by ゲバチエル
エピソード『心の座』

PSO 〜for Seraphic Fortune〜 エピソード『心の座』 第三話〜めぐり合う心〜/VR試験FINAL、そして中央管理区へ〜 「FINALエリアのプログラム作動確認・・・。!来ます!」 私たちがFINALエリアへと降り立つと、そこには巨大なドラゴンが姿を現していた。  仮想龍、ゴルドラゴン。 巨大な単一なフィールドに配置されたモニターの中から、飛び出すように。  ドラゴン―――半ば伝説と化している生物。 また、ラグオルの地下に巣食っていたエネミー。  その凶悪な姿はいまこのVRフィールドと言う場所で、見事に再現されていた。 オリジナルよりもどす黒く、そしてどこか不気味なその外見は、現実のものよりもリアルにすら感じられる。  ―――そして、私はこれを一人でどうにかしなければならなかった。 本来オペレーターであるエリは、ゴルドラゴンと戦えるだけの戦闘技術は持っていないからだ。  普段ならいかにゴルドラゴンといえども、そこまでの強敵じゃない。 けれど今は守りながらの戦い。必然的に私は不利な状況に立たされていた。  こんな時やらなくちゃいけない事は決まってる。とにかく、エリの無事を確保する事。 そしてその為にする事は二つに一つ―――。すぐ近くで守りきるか、敵の間合いから完全に遠ざける事。  相手は巨大エネミー。だとすれば、当然その破壊力も大きい。 それより何より、私はこの試験を一度受けている身。つまり敵の行動パターンは大体つかめている。  ―――だとすれば、こんな状況下で何をすればいいのかも決まってる! 「エリ、なるっべくあいつから離れて!私が注意をひきつけるからっ!!」 「は、はい!」  私は、エリを間合いから完全に遠ざける事を選んでいた。 すぐ近くに彼女を置いていては、その破壊力と攻撃範囲に対処しきれない。  それこそ、防戦一方になってしまう。 それでは分が悪すぎる。そう思った私は、思い切って自らに注意をひきつける事にした。  そうする事でエリからゴルドラゴンを離せるし、またこちらにも攻撃のチャンスがあるからだ。  ギャアアアアアアオオオ!!!  エリを後方へ下げるのと同時に、突然ゴルドラゴンはその口から高熱のガスを吹き付けてきた。  ドラゴン特有の攻撃、ブレス。 VRで再現されたゴルドラゴンは、炎・冷気・電撃と実に三種類のブレスを使い分ける。  その中での火力がすさまじいのが炎のブレス―――。 だが幸い私たちとの間合いが大きく離れている為、私はエリにそのブレスが被弾する事は無かった。  ―――しかし、このままではいつまでたっても近づけない事になる。 「とにかく、ひきつけないと・・・」  そう思った私は、ガーディアンブレードへ自らの魔力を集中させた。 そのまま、集中させた魔法力を前方のゴルドラゴンへ向けて勢いよく振り放つ。  ギィィィィン!!  斬撃が大地を走り、炎を切り裂きゴルドラゴンにぶつかる。 だがさすがはドラゴン、その硬い皮膚が私の斬撃をものの見事に弾いていた。  ゴオオオオ!  しかし、それは注意をひきつけるのには充分だった。 私の攻撃に、ゴルドラゴンはブレス攻撃を中断し、こちらへ向かって走りよってきていたのだから。 「ふぅ―――問題はここから。ここからが、本番―――」  私は自分に言い聞かせながらに槍を握り締めると、ゴルドラゴンへと踏み込んだ。 向かってくるゴルドラゴンに、それに踏み込む私―――。  その距離がゼロに近づく瞬間、私は勢い良く槍をなぎ払った。  ブンッ!!! ―――が、手ごたえは無い。とらえたはずの斬撃は、見事に空を切っていた。 「・・・!」  ゴルドラゴンは、タイミングを見計らったかのように私の攻撃をすり抜けていた。 仮想エネミーと言う事もあり、半ば瞬間移動とも幻影にも似た動きだ。  だがこれも一度経験済みの事。こんな程度でいちいち立ち止まっちゃいられない。 直後、ゴルドラゴンは勢い良く空中へ飛び上がる―――と思うと、こちらへ向けて勢い良く踏みつけてきた。  ドオオオン!!! と、すさまじい着地音とともに、あたりにVRの衝撃波が走る。 「くぅ―――」  その衝撃の範囲はすさまじく、その衝撃に私は吹き飛ばされていた。 でも、ここで倒れてなんかいらんない。  私はその衝撃にひるむ事なく、再び槍を握りしめた。 すぐさま後ろへ振り返ると、ゴルドラゴンは今にもこちらへ向けてブレスの発射体制に入っていた。 「イリスさん!」  後方で、エリが危ないっとばかりに大声をあげる。 だけど――――私はこれを、攻めるべく時だと判断した。  やられてばかりじゃない。今こそ、ゴルドラゴンに攻撃を加えるチャンスだと!  コオオオオオオオオ!!!  直後、ゴルドラゴンは冷気のブレスを私に向かって吹き付けてきた。 直撃したら冷気に自由を奪われて一たまりもない―――が、逆に言えば相手は好きだらけでもあった。 「イリスさんっ!!?」  エリの悲鳴にも似た声が響き渡る。けど、私はそれをまんまと食らったりはしなかった。  ザンッ!!!  すぐさまゴルドラゴンの死角へともぐりこみ、そのまま斬撃を叩き込む。 さすがに相手も私をとらえた、と思っていたのだろう。見事なまでにこの攻撃が成功していた。  ギャアアアアアアアアアア!!!  だがそれもつかの間、私にブレスが当たらないと判断したかすさまじい雄たけびと共にゴルドラゴンは空中へと飛翔していた。  空中にいかれてはこちらから満足に攻撃を行う事はできない。 すぐさま私は、攻撃の態勢から防御の態勢へと気持ちを切り替えていた。 「エリ!私の後ろにいて!今度は離れないでっ!」 「はいっ!」  空中へ飛翔した事で考えられる行動は一つ、上空からのブレス攻撃だ。 一人なら回避をできようが、今はエリが一緒だ。  私はともかく―――エリがブレスに被弾でもしたら一たまりもない。 だったら、何が何でもエリにあたらないように守らなくちゃならない。  そう考えた私は、エリの身代わりになるような形で彼女の前に立った。  ヴァサ、ヴァサ 飛翔したゴルドラゴンは、翼をはためかせながらゆっくりとこちらとの距離を保っていた。 ―――そして、その距離を見計らったと思うと、勢い良くその身を回転させ始めた。 「きゃ―――」  回転と同時に、あたりにばら撒くかのように放たれる無数の雷撃。 その雷撃は狙いこそ粗悪なものの、その数は容赦なく、私たちを襲っていた。 「イ、イリスさん―――」  もう何度目かのエリが私を呼ぶ声。エリは、それが精一杯なんだと思う。 心配はできる。でも、それだけ。それ以上言葉が出てこない―――。  ドォォン!! 無数のブレスがエリをかばう私へと幾度となく吹き付けられる。  その度に、エリは心配そうな声で私を呼んだ。 そんなエリに私は軽く笑顔を作ってみせた。 「大丈夫―――ここをしのぎきれば、一気にいけるよ!」  そういってエリを安心させながら、私は反撃の機会を着実にうかがった。  ドシャアアアアア! ――と、飛翔したドラゴンが勢い良く大地へ降り立ってきていた。  ブレス攻撃にかなりのエネルギーを使ったのか、その動きは先ほどと比べて重く感じられる。 ―――今だ! 「エリ―――そこにいてっ!」  私はそのまま勢い良くゴルドラゴンへと踏み込んだ。 その私に気が付いたゴルドラゴンは、それを迎撃するべく勢い良く尻尾をこちらへ振るってくる。  ビュン!  ―――が、私はそれを勢い良く飛ぶ事で紙一重で避けると、そのまま槍を振り上げた。 そしてそのまま頭上で回転させ―――飛んだ勢いも込めて勢い良くその頭部へと一閃を振りぬいた。  ゴオオオオオオオオ  攻撃が直撃した痛みに、ゴルドラゴンはおぞましい雄たけびを辺りに轟かせる。  だがそれは、痛みに苦しむ叫びではない。ここからが本番だ、という合図に過ぎなかった。 「この雄たけび―――来ます。イリスさん、気をつけて!」  エリもオペレーターである以上、ゴルドラゴンの攻撃パターンは知り尽くしている。 だからこそ、次に行われる攻撃もまた、何をしてくるか読めていた。  ヴァサッ、と再び宙へ舞い上がると、ゴルドラゴンはそのまま地中へと体ごと降下しはじめた。  いや―――ダイブした、と言うべきだろうか。 まるでVRフィールドに溶け込むかのように、すっぽりとその中に消えていってしまったのだから。 「どこから―――」  私たちは次にゴルドラゴンが現れるのを静かに待った。 ―――もちろん、それが単純に現れるだけではないのは充分判っていたけど。 「・・・!来ます!」  エリの声と共に、すさまじい音とともにゴルドラゴンが地中から再び姿を現していた。 ―――私たちを取り囲むかのように、三体のゴルドラゴンが。  これがゴルドラゴンの真の姿であり、またここからが本番と言うわけである。 「三体に分身―――でも本体は一つのはず・・・でも、どれが・・・?」  エリの言うとおり、ゴルドラゴンは三体に分身していた。 それは三体に増えたのではなく、本体の虚像が二つ増えただけに過ぎない。  しかし厄介なのは、その分身も本体と同じようにこちらを攻撃してくると言う事だ。 本体を倒すか、分身に一定のダメージを与えるか。どちらにせよこのままではかなり危険だ。 「―――」  ドシャアア!! 私たちを取り囲んだ三体のドラゴンは、私たちの周りを見下すかのように羽ばたいていた。 「どうしたら・・・!」  私たちは三体のドラゴンに囲まれている。 つまりはどう逃げても、その攻撃を完全に避ける事は不可能に近い。  ましてや、エリを守らなくてはならない。そんな状況で防御に回るのは絶望的だ。 ―――なら攻撃?  しかし、どれが本体か判らない以上、闇雲に攻撃するのは得策とはいえない。 私一人なら、確実に一体をつぶしていけばいいだろう。  でも今はエリがいる。長期戦になればなるほど、危険度は増していく。 ドシャ!!ドシャアアン!!  ―――と、こちらに考える余裕も与えてくれないのか、一体のドラゴンが勢い良く地上へと降り立っていた。  それに続くかのように、残りの二体もまた地上へと着地していく。 最初の一体はそのままブレスの発射態勢へと入り、残りの二体も先ほどと同じようにそれに続く。  まるで、親と子のような――――そうか!  ゴルドラゴンは三体に分身した。本体と、二つの分身体。  どれも本体と行動がリンクしているはずだから―――つまりはそういうことね。 「エリ、離れて!」  私は再び、ガーディアンブレードへと魔力を集中させた。 ―――だがその集中の度合いは先ほどとは比べ物にならないほど、だ。  静かに神経を自らの槍へと集中させ、そっとそれを構えなおす。 「は、はい。でも―――」  エリのでも、の言葉の意味は言わずとも判っていた。 私たちの周りのドラゴンは、今まさにブレスを吐こうとしていたのだから。  しかし私はそれに臆する事なく、勢い良く一体のドラゴンへと向き直った。 『確かなる魔力―――全てを射抜く光となれっ!!』  私はその言葉と共にに、勢い良くガーディアンブレードをゴルドラゴンへと放り投げた。 魔力を込めた、その槍を。  魔力はまばゆい光を放ち始め、ガーディアンブレードの周りにはいくつもの光の矢が展開されていく。 「これで終わらせる―――試験はこれで終わらせてみせるんだからぁっ・・・!!」  この一撃で終わらせる―――その想いと共に私はガーディアンブレードを投げつけていた。 ドシュッ!!  ―――直後、ブレスを吐こうとしたまさにその瞬間。 ゴルドラゴンの首筋に勢いよくガーディアンブレードが突き刺さっていた。  それはまばゆい光を放ったと思うと、展開されていたいくつもの光の矢がそこへ集まるかのように同時にゴルドラゴンを射抜いていた。  そして―――それらの光はガーディアンブレードを中心に収束していった。 シュウウウウウン・・・・ドオオオン!!  収束した光は勢い良く弾けわたり―――そのまま大爆発を起こしてた。 フゥッ  ―――ほぼ同時に、辺りを取り囲んでいたもう二体のドラゴンは消滅していた。 それはそう、今攻撃したドラゴンが、本体であったという証であった。  ギャアアアアアアアアアアアア!!!!! ―――直後、あたりにすさまじいばかりの断末魔の叫びが響き渡る。 VRフィールド上に再現されたドラゴンは、巨大な音をたてながらにぐしゃりと崩れ去っていく。  それは私たちの勝利の瞬間であった。なんとか、エリを守りぬく事もできたのだ。 「はぁ―――はぁ―――」  度重なる戦闘のダメージと、消費した魔力のせいで肩で息をするのがやっとだ。 それでも、無事に勝利を収められた事になんだか誇らしげな気分になれた。 「やった、これで・・・これで私たち合格・・・ですよね?」  そう。ゴルドラゴンを倒すことが試験の目的なら・・・これで私たちは合格のはずだ。 「―――ええ。そのは―――ず」  ガクン―――と、不意に私は膝をついてしまった。 「イリスさん・・・!!大丈夫ですか!!」 「心配しないで大丈夫―――」  そうはいいながら、情けないことにそのままでいるのがやっとだった。 重なった疲労と解けた緊張が、ここにきて身体的ダメージときて襲ってきたんだろう。  ―――なんとも最後の最後でしまらない。なんだか・・・かっこわるいな。 「無理しないでください・・・これくらいしか出来ないけど・・・!」  そういってエリは、スターアトマイザーを空中へ散布していた。 スターアトマイザーは効力の高い治癒能力の持つ液体を広範囲に撒くものである。  度重なるダメージを受けていた今の私には、少々痛いくらいの効き目を発揮していた。 「ふふ・・・ありがとう。」  本来スターアトマイザーは、大人数に即効性のある緊急薬として使われる。 それゆえ値段もかなりのものなのだけど―――エリはそれをためらう事なく使ってくれた。  そんな彼女の優しさに感謝しながら、私はゆっくりと立ち上がる。軽く、笑顔を見せながら。 「あ・・・動いて大丈夫なんですか?」 「骨が折れたわけじゃないんだし、大丈夫だよ。  エリのおかげで大分楽になったから―――」 『ラボより通信です。』  不意に、ラボから通信が入る。 せっかくエリと良い雰囲気だったのに、と多少邪魔された気持ちをしながらも通信に耳を傾ける事にした。 『ゴルドラゴンの殲滅を確認しました。試験は合格です。  リンクを解放しますのでVRフィールドから脱出し―――  チーフの指示を――受けてください―――お待ちして―――』 「ちょっと―――何?」  それは突然だった。 何の前触れも無くノイズのような音が走り―――ラボからの通信は途切れてしまっていた。 「・・・!?もしもし?応答してください!  もう!オペレータったらこんな時に!!」  こんな時―――確かにそうだ。よりによって試験が合格したって言う時に。 でも・・・考えてみれば、納得がいかないでもない。  今回の試験の不具合。それがここでまた現れていたとしたら・・・? 「エリ・・・よく来たね」  一体何が起こったのか判らないまま、今度はフィールド内部から別の声が響き渡った。 本来私とエリしかいないはずの、VRフィールド上からだ。 「この声・・・!!カル?」 「え・・・?」  まただった。またもエリは、『カル』と呼んでいた。 ラボのメインを任されたカル・スシステム―――エリがカルと呼ぶのはそれだけのはずなのに。 「―――カル!カルなんでしょ?近くに感じるの・・・会いたかった。私ずっと心配してたの。」  まるで愛しい人を想うかのようなエリの言葉。 それに答えるかのように、一人の男性が姿を現していた。 「・・・久しぶりだね。エリ。  あれからずいぶん時間が経ったような気がするんだ。  元気でよかった。心から・・・」  緑の瞳をした男性フォースが、そこには立っていた。 先ほど出会ったフォースにそっくりな気はするが、冷たい印象は不思議と無かった。 「これが・・・あなた?カルの実像なの?」 「実像―――」  エリの言葉に、ようやく引っかかっていた事が解け始めてきていた。 実像、と言う言葉を使う以上、本来は実体を持たないと言う事。 そして、エリがカルと呼ぶ事。そう、紛れも無く彼はエリの言うカルなのだ、と。 「そうか・・・驚くのも無理はない。君とこの姿で会うのは初めてだったね。  ボクだよ。カル・スさ。エリ。もう少しそばに・・・」 「止メロ・・・行ッテハナラナイ!」  私とエリがカルの元へと歩み寄ろう―――とすると、背後からは紅き瞳のフォースが姿を現した。 顔つきはどこか険しく―――私たちが宇宙船エリアに入ったときに出くわしたのも恐らく彼だろう。  こうして見比べると、実に二人のフォースはまさにうりふたつであった。 ―――そういえば、宇宙船エリアで出あった時に我々って言ってたけど・・・それと関係が? 「オマエは意味の無い事に捕らわれている。  その行動は我々の行動許可範囲を超える可能性がある。  我々は総体として媒体として機能しなくてはならない。  現在その行動はどのように分析しても合理的ではない。  これ以上危険因子としての可能性が高まれば・・・即刻処理を行うことになる。」  紅き瞳のフォース―――なんだかややこしいな。 我々、総体、媒体。 その言葉が示す事から考えれば、両方のフォースとも恐らくカル・スなのだろう。  理由や状況は判らないが、カル・スシステムの中には複数のカルがいるのだろう、と。 「!?カルが二人?・・・ラボの復元したCALSシステムって・・・一体何を・・・?」 「二人のカル、か。・・・紅いカルと緑のカル。ややこしいから、そう呼ばせてもらうね。  エリ、何か知らない・・・?エリならカルのこと、詳しいでしょ?」 「いえ・・・AIカル・スを改修したのがカル・スシステムって事くらいしか・・・」  ―――そうか。カル・スシステムに関してはエリもあまり知らないのか・・・。 まだ、ラボに配属されてから日が浅いから・・・。  『過去』のカルを知っているエリならもしかしたら・・・と思ったんだけど。 「繰り返す。キミたちもこの場から退去せよ。  その行動の結果は我々の存在に対して危険となる恐れがある。  従わない場合は強制的にVRリンクの切断を開始する。」  紅いカルは淡々と、それこそ機械的に警告を発していた。 ―――いや、カル・スシステムは機械なのだから、本来当然のことかもしれないが・・・。 「・・・聞いてくれ。エリ。  僕がこのフィールド上で個体として存在できる時間はごくわずかしか無いんだ。  君の協力が必要だ。  君のその装備しているナビシステム。  そう。そのシステムへのリンケージを最大値にしてくれ。」  緑のカルは、紅いカルの警告を無視するかのように言葉を続けた。 その言葉の意味する所は判らない。でも、彼がエリを頼っている事だけは判る。 「・・・こう?」  言われるがままに、エリはナビシステムを操作し、そこからすさまじい光がほとばしる。 私は機械の用語とかは詳しくない。  けれどその莫大なエネルギーは、大きな何かを求めている―――そんな気がした。 「そう。それでいいよ。エリ。」  そんなエリの行動に、緑のカルは安堵にも似た顔でこちらを見ていた。 ―――何か目的があるのは明白。それが何かわからない。  けれど―――状況から考えて、今回の一連の出来事に関係しているとしか思えない―――。 「キミの行動は理解し難い・・・強制凍結状態に移行を開始する。」  だが、紅いカルはそれを許そうとはしなかった。 同じカル・スであるはずであるのに、なぜかお互い反発しあっているのだ。  ―――強制凍結状態。その言葉の意味を、私は体で感じ取る。 反発しあう結果、とも言うべき感覚を―――大きすぎるくらいの、力として。 「な・・・に・・・これ・・・。  こんな強力な魔力が仮想空間で感じられるなんて―――!」  それは突然あだった。VRフィールド上に、強烈なまでの魔力を感じられたのだ。 あたりのフィールドは不安定になり、私たちの周りもまたその形を維持しきれていない。  それは単なる魔力とかそういうのじゃなかった。 明らかに、VRフィールドは異常をきたしていたのだ。  ・・・だけど、それはあの紅いカルがカル・スシステムの一部であることを決定づける理由でもあったけど―――。 『こちらラボ・・・こちらラボ・・・  FINALエリアに展開中のエネルギーフィールドが臨海値を突破しています。  試験参加者はただちにVRフィールドから離脱してください。  なお離脱できない場合VRフィールドシステム側で強制的にリンクを解放します。  繰り返します・・・繰り返します・・・』  辺りに鳴り響く警報と、危険をしめす赤い光があたりを包む。 強烈な魔力、今回の試験での不具合。  元より普通の試験なんかではなかったけど・・・ここに来て、やっとその理由が判った。 「カル!!!」  だけど、考えている暇はない。 今私たちにはゆっくりと考えている余裕すら与えられていなかったのだから・・・。 「理解されるとは思っていないよ・・・。  ・・・心配ない!早くこっちへ!」 「エリ、行こう!」  私は無我夢中でエリの手を引き、緑のカルのほうへと駆け寄る。 私の「勘」では、それが安全―――とは言いがたいけどなんとかなると告げていたからだ。  それを許さないかのように、紅いカルは勢い良く光の柱をこちらへ放ってきた。 それに負けじと―――エリと私を守るかのように、緑の瞳のカルも光の柱を放つ。 二つの柱はせめぎあい、すさまじいエネルギーが放出し―――あたりを真っ白い閃光が包み込んでいた。 すさまじい轟音と閃光は、まるですべてをかき消すかのように・・・。 「ちょっと・・・嘘でしょ・・・!?」  VRフィールド上での異常。それはラボや他のハンターズにもリアルタイムで知れ渡っていた。 「イリスンとエリが・・・まだあの場所にいたのに・・・!」  エリスは、突然の出来事に衝撃にも似た不安を隠せないでいた。 最初から今回の試験はおかしかった。理由は詳しくは判らないが、エリスはそれを判っていた。  ―――だが、今起きた異常は、そんなものを明らかに超えていた。 「エリス!」  そんな彼女の名を、一人の黒髪の青年が強く叫ぶ。年齢は二十歳前後だろう。 その声に、エリスははっとなったかのように・・・その方向へと向き直った。 「ライ・・・!」  青年―――ライ=シュナイダー。 若くしてチーム『ルナティックウイング』のマスターをつとめる青年だ。  同時に、エリスとは互いを信頼しあい支えあう、お互いにとっての大切な人でもある。 「良かった、無事だった。君も試験を受けるって言ってたから・・・」 「今回の試験、あきらかにおかしかったんだもん。  だから、セレナさんと一緒にさっさと終わらせちゃった」 「そっか。―――あれ、セレナさんは?」 「なんだか忙しいみたい。この異常事態に、あおわたもじっとしていらんないのかな。  まあそんなわけで、もう行っちゃったよ」  ライはちょっとばかり残念そうな顔を浮かべた。が、それも一瞬の事。 再びまじめな顔に戻ると、この状況についての話を切り出していた。 「それより―――大変だ。  ラボのカル・スシステムが一切機能しないんだ。  VRシステムの制御どころか、モニターすら映らねえ。うんともすんとも言わないんだ。  ・・・エリスも、見てたろ?」 「そんな事どうでもいい・・・!あの中にはイリスンとエリがいたの・・・!  まだ、まだ試験中だった――――だけど、いきなり映らなくなって・・・」  カル・スシステムが機能しない。エリスはその瞬間を間接的にだが見ていた。 モニターの前で、二人の友人を見守るかのように。  だが、それは突然映らなくなった。あまりにも、突然。 彼女にとってカル・スシステムがどうこうは関係ない。  ただ単純に、イリスとエリの事が心配・・・その気持ちだけがエリスの想いだった。 「イリスさんが・・・!?」  ライはまさかとばかりに声をあげた。 ―――彼は、イリスが今回の試験を受けている事を知らないからだ。  いや、正確に言えばイリス自身も受ける事は予想外だったのだが。 「うん・・・。でも何にも映らなくて・・・二人がどうなったかも判らないよ。  ・・・このまま帰ってこないなんて事あったら・・・」 「エリス・・・」  ライは、エリスの気持ちが痛いほど判っていた。 それはライにとってもイリスは大切な存在だからだ。  エリスももちろんそうだが、イリスとルナもまた『ルナティックウイング』のメンバーだ。 いや―――チームメンバーである以前に、一人の友人であり仲間と呼んだほうがいいかもしれない。  それほどまでに、ライやエリスにとって大切な存在。 だがその行方は、カル・スシステムが機能しないせいで一切判らないものとなってしまった。 「どうしよう・・・」  普段は落ち着いているエリスも、今は半ば混乱状態にあった。 どうする事もできない。けど、いち早くイリス達の無事を確認したい。  焦りと苛立ちと不安と心配と―――色々なものがエリスを渦巻いていた。 「イリスさん―――。」  ライもまた、そんな状況だとわかった以上イリスの無事を確かめたかった。 頼れる仲間、信頼できる友人として。そして、どうにも頭の上がらない女性として。  ライはイリスより年上にもかかわらず、イリスをさんづけで呼ぶ。 それはライがイリスに対して頭の上がらない存在だと感じているからだ。  心身ともに、マスターである自分より優れている。 自分が未熟だと痛感しているライにとっては、無意識のうちにイリスをそう想ってしまっているのだ。  最も―――イリスはライの事をマスターではなく一人の友人として接しているのだが。  逆にライは思っていた。自分が心配するまでもないんじゃないか、と。 「ライ・・・!探しにいかなきゃ・・・!」  それが無理だと判っていても。エリスには自らの気持ちを止める事は出来なかった。 気持ちだけが先走って、頭がついていかない。  ―――そんなエリスに対して、ライは静かに首を横にふっていた。 「どうして―――!イリスンは大切な友達でしょ・・・?なら―――」  だが。そんなエリスの言葉を無視するかのように、ライはそっとエリスの肩を抱いていた。 「気持ちは判る。でも、もう少し落ち着けよ・・・。  心配したって、俺たちは何も出来ないだろ。  前の俺だったら意味も無く飛び出してたと思う。  でも、それじゃ駄目なんだ。こんな時こそ、落ち着いて判断しないとな。  ―――それに俺よりエリスのが判ってるんじゃないか?  イリスさんの強さを。ヒューマンでもニューマンでもアンドロイドでもない。  ましてサイボーグやエネミーなんかでもない―――本当の、天使の強さをさ」  ライは、エリスをそっと抱きながら静かにそういった。 混乱しているエリスを落ち着かせるように、イリスは大丈夫なんだ・・・と。 「だけど・・・。いくらイリスンだって・・・心配だよ・・・!」 「そりゃ俺も心配だけど・・・。  エリスがいつも言ってるだろ、悪いほうにばかり考えちゃ駄目だって。  まーなんだ。イリスさんならこれくらい大丈夫だと思う」 「ライ・・・。そうだよね・・・。  自分が言ってる事くらい出来ないと・・・説得力なんてないよね。  ・・・ありがとう、ライ。」  ライにその身を預けたまま、そっとエリスが呟いていた。 そんなエリスを―――ライはより強く優しく、肩で抱いていた。 「えーと・・・良い雰囲気の所悪いんだけど―――」  小さな幸せの時間。ライとエリスは、静かにそれを感じていた。 しかし―――その時間はすぐさま終わりを告げていた。 「ルナ!それに・・・フォル!」  エリスはそっとライから離れると、現れた二人の下へと駆け寄っていった。 「ごめん、邪魔したくなかったんだけど―――こっちものんびりしてらんないから。」  ルナは、二人の時間(?)を邪魔した自分が少し嫌に思えていた。 ただでさえそういう時間を作れない二人なだけに、気を利かせたい。  だけどそうも言っていられない事情がある。 「ルナさん、イリスさんが―――」 「ライの言いたい事は判ってる。でも、イリスなら大丈夫。  ―――そもそも、そうじゃなかったら意味がないし」 「意味が無い・・・?どういう事だ?」 「今は詳しく説明してる暇は無いの。・・・エリス、判ってるよね?」  ルナの問いかけに、エリスは静かに首を縦に振っていた。真剣な顔で。 「―――いよいよ行くんだな?」  ライも、二人の真剣な表情に、何をするのか判っていた。 「ええ。あんたはチームのほう、しっかり頼むわね。  ―――それじゃ、行ってくる。行こう?エリス、フォル」 「・・・ライ。行ってくるね?」 「ああ、無茶だけはするなよ。帰ってこないと許さないからな?」 「判ってる♪終わったらみんなでパーティーね!」  登録上はヒューキャシールである彼女がパーティーと言うのには普通の人なら違和感があるかもしれない。  だが、ライにとってはもはやそれは日常であった。 ―――ライもエリス自身さえも、その当たり前となっている不自然の理由は判らない。  しかし、不自然だろうがなんだろうが、エリスはエリス。 それはルナティックウイングの誰もが思っている事だった。 「そうだな。それじゃ・・・気をつけて」 「うん―――」  二人は、それ以上は何も喋る事は無かった。 言いたい事はいっぱいある。だが、いつまでも引き止めているわけにもいかなかったからだ。  そのまま、エリスは静かにルナを追うように歩き出していた。 そんな彼女の背中を見送りながら―――ライは一人の青年に声をかけていた。 「フォル―――悪いな」 「ライ、君が謝る事じゃないよ。それに俺とルナもついてるんだ、エリスの事なら心配するなって。  ・・・ライがエリスの事信じてないでどうするって感じだろ?」 「そうだな。・・・お前も、気をつけて」  フォルは静かにうなずくと、そっとルナ達の後に続いていった。 三人の背中を静かに見届けると―――ライもまた、静かに行動を始めていた。  大切な人の無事を祈りながら、彼もやれることをやるべく。 「ここは・・・!?」 「パイオニア2―――だね」  真っ白い閃光と爆音の先に広がったのは、もはや見慣れた場所だった。 一体何がどうしてここにいるのか判らない。  ただ一つ言える事は、私たちが無事だと言う事だ。 「!?カルがいない!せっかく会えたと思ったのに・・・そんなの・・・」 「エリ―――」  しかし、そこにいたのは私たち二人だった。紅いカルも、緑のカルも、ここには存在しない。  彼女にとって、カルは会いたくてしょうがない―――愛しい存在。 せっかくの会えたというのに、訳も判らないままその機会は失われていた。 『エリ・・・』  私もまた、かける声も見つからない。 ―――そんな時、つい先ほどまで聞いていた声が辺りに響き渡っていた。 「・・・カル!?どこ?どこにいるの?」  愛しい声。その声に、エリはいてもたってもいられないようにその名を叫ぶ。 私はそんなエリの肩にそっと手を置きながら・・・静かにカルの言葉を待った。 『落ち着いてエリ。僕は大丈夫。  勝手に君の携帯ナビの中に退避させてもらったんだ。  そこから直接ナビシステムを利用して君たちに話しかけてる。  でも危ないところだった。強制的に消去されてしまう前にVRシステムから退避できた。  そう。君が昔、僕にしてくれたように・・・。  あのことを覚えてなければあのまま僕は、また消えてしまっていただろう・・・』  どうやら、先ほどナビシステムのリンケージ。 ―――単語から察するに外部との連結だろうか――― これを最大にしたのは、カルがナビシステムに退避する為のようだった。  言い換えれば、ナビシステムにカルの魂が憑依したようなものだろう。  なんとかカル共々無事だった事に、私たちは思わず安堵の息をもらしていた。  ・・・にしても、昔?昔って―――やっぱり、あの時―――。 「・・・よかった・・・無事で・・・。  でも、あのもう一人のカルは?あれは・・・誰なの?」 『あれも僕だよ。エリ。「僕」がここにいる、ということは、  「彼ら」もここにいる、ということなんだ。  だけどまだ「彼ら」は上手く融合しきれてないみたいだ。  それがいつまで持つかはわからないけれど・・・」 「彼ら?融合?カル、それって・・・」  カルの言葉のさすところが曖昧すぎて、今一良く判らない。 ただ―――カル・スシステムがどういうものなのかは、ぼんやりだけど判ってきていた。 『すまない。エリ。今はそのことについて詳しく説明してる時間はないんだ。  お願いがある。僕をガルダバルまで連れていってくれないか?  君たちが「中央管理区」と呼んでいる場所。  ・・・そこなら―――僕たちは―――』  突然、カルの言葉が途切れ途切れになっていた。 ―――カルの言うとおり彼らもそこにいるならば、それを制御できないということだろうか・・・? 「・・・カル!?」 『―――エリ―――少しの間、話せなくなる――  お願い―――僕と、あの島で―――」  それだけ言うと、それ以降カルがこちらに応答する事は無かった。 「・・・判った。中央管理区ね?絶対・・・行くから。待ってて、カル!」  これで次の目的地は決まった。どうやら、まだまだやるべきことはいっぱいあるみたいだ。 「―――とりあえず、ラボに報告に行こう?」  私たちははやる気持ちを抑えながらに、ラボへと急いだ。 頭の中は色々ごちゃごちゃしてる。でも、やるべきことだけはしっかり胸に抱いて。 「・・・どうやらホントにあの女の思惑通りになってるみたいね。  相も変わらずイヤな女・・・  さあて、と。ちょっと忙しくなりそうよ。旦那!」  全身を黒くコーディネイトしている紫の髪のニューマン、スゥ。 彼女は決意に満ちたかのような眼で、静かに歩きはじめた。 「―――忙しくなるのは、俺たちだけじゃないようだがな」  しかし旦那と呼ばれた紫のアンドロイドは、この場に自分たちとはまた別の誰かがいるのを察していた。 「・・・な?」 「久しぶりね。キリーク、スゥ?」  二人の目の前には、二人の女と一人の男が立っていた。 「ルナ―――それにフォル。双子そろって珍しい事。おまけに神剣の所有者まで」  フォル=フェイド、ルナ=フェイド、エリス=レナフォード。 何か目的のために行動を開始したはずの彼らは、なぜかスゥとキリークの元へと現れた。 「あんた達が誰から監視を頼まれているか、そしてどう動いているかわ大体判ってる。  ―――そしてそれが、何に繋がるかもな」 「MOTHER計画―――どうせその一連絡みでしょ?」 「いつからいたの?別にこっそり様子をうかがってなくてもいいんじゃない?」  スゥは、三人がいつの間にいた事に腹を立てていた。 彼ら三人に、ではない。気が付かなかった自分に対して。 「まーそうなんだけどさ。下手にばれるとあんた達のメンツに関わるんじゃないかなってね」 「余計なお世話ね。―――で、何の用かしら」  三人がわざわざ二人の前に現れるということは、必ず何かある。 スゥは、前置きなどなしに、単刀直入に本題を聞き出していた。 「ラヴィス=カノン、知ってるわよね?」 「ええ―――その存在すら伝説と化した伝説の神剣。  同時に、その所有者は君・・・エリス=レナフォードでしょう?」 「―――今はその力を覚醒させてラヴィス=ブレイドだけどね。」  エリスが静かに訂正する。だが彼女はもちろん周りも知らない。 ラヴィス=カノンの、秘めたる真実は。 「・・・どうして、その神剣をエリスが持ってると思う?」 「なぜ―――それは判らないわ。そもそもラヴィス=カノンの存在そのものすら怪しかったのだし」 「じゃあ。MOTHER計画より遥か昔に同じ場所で彼女が造られていたとしたら?」  フォルは、静かにエリスを指しながらにそういった。 「―――まさか。制御塔が遥か昔からあったとでも言うつもり?」  制御塔は、パイオニア1―――つまりコーラルの文明が造ったものだと誰もが思っている。 だがフォルは、それを打ち消すかのような発言をしていた。 「・・・俺たちの世界に伝わるものは、外の世界でもまた同じように伝説の存在となる。  神剣カノンも同じだ。魔石によって三つに形態を変化させる神剣―――それがカノン。  もともとラヴィス=カノンは俺たちの世界のもの。  だからその外界であるこっちの世界で存在が幻と化すのは極当たり前の事なんだ。  ―――じゃあ、なぜエリスがカノンを所有しているのか。  そもそもラヴィス=カノンは何なのか。ブラックペッパーの情報網でもさっぱりだろ?」 「当たり前よ。そんな存在の不確かなものの情報なんてわかるわけない」 「例えば、それは武器ではなく鍵だとしたら。  あの爆発も、これが関係していたとしたら・・・?」 「――――」  エリスは、フォルの言葉に複雑な想いを抱いていた。 それらの事情も、ラヴィス=カノンの事も知っている。いや、知ってしまった。  ラヴィス=カノン。そもそも自分が、その封印を解いてしまったのが始まりなのだから。 「もう一つ。彼女が造られた目的―――そして彼女の真実」 「うちの・・・?」  エリスはフォルの話している事が今一よくわからなかった。 それもそのはず。エリスは未だに自分の事がほとんど判らない状態のままなのだから。  「―――ここからが本題なんだけど。」  だがそれに答える事なく、ルナは静かに切り出していた。 三人が、ここに来た意味を。  五人の話が終わりを告げると、それぞれ行動へと移っていた。 「フン・・・。泳がされていると判っているのもいい気はしないな」  ―――正確に言えば六人。一人、離れた場所でその話を聞くものがいた。 深紅のアンドロイド。まるで・・・キリークとうりふたつのヒューキャストが。  彼の言葉の言うとおり、ルナ達もスゥ達も、彼の存在には気づいていた。 だが、かまう事無く話を続け、そしてそれぞれ行動を開始していた。  泳がされている。だが、彼はそれを良い機会であると判断する。 ―――彼を決定する、闘争本能。それを満たす為になる、と。  それさえも泳がされているのか利用されているのか・・・彼にはどうでもいいことだった。 「楽しませてもらおうか、その力―――俺を満たしてくれるかどうかッ!!」  気が狂いそうなほどの高ぶる気持ち共に、深紅のアンドロイドもまた歩き出していた。 ―――真実ではなく、力の為に。 「おいアッシュ!!どこへ行く気だ!」 「どこって、決まってるでしょう?彼女達を探しに行くんです」  私たちがラボへと戻ると、ひときわ目立つ声が聞こえてきた。 熱血バカ二人組―――アッシュとバーニィだ。 「相変わらずね。何をそんなに慌ててるの?」  いつも熱血でうるさい二人だが、それにしても今は妙に慌てている。 「イリス―――あんた、無事だったのか!」 「たっは!だから言ったろ、相棒。探しに行くまでもないってな」  探しに行く―――無事―――もしかして、私達のこと・・・ 「あんたたちの行方が判らなくて、心配したぜ。  ―――特にイリス。あんたには仮がある。  あんたを守り抜けるくらいの実力をつけるまでは、勝手にくたばってもらっちゃ困る」 「本当に相変わらずね。でも・・・心配してくれてありがと。  バーニィも、子守り大変ね?」 「嬢ちゃんも結構言うもんだ。こいつはバカ正直なんでな、正直こっちの身にもなれって話だ」 「あなたが慎重すぎるんです。そういうのを臆病者と言うんじゃないんですか?」  アッシュの場合、大胆なのではなく無鉄砲という表現が良く似合う。 まあ、言ったところで通じるアッシュじゃないだろうけどね。  ピピピ・・・ピピピ・・・ 不意に、BEEシステム―――メールの受信を示す着信音が鳴り響く。 「おい、アッシュ!行くぞ!」 「今度はなんです?」 「ファントムからメールだ!今からあおわたで例の話し合いだから至急きやがれってな!」 「今からですか!?」 「つべこべ言うんじゃねえ!行くぞ相棒!」  急かされたように、アッシュが一人駆け出していった。  ・・・二人の会話に、どうも納得の行かないところがある。 あおわたの話し合い。そしてそのメンバーであるはずのファントムの名前。 「ちょっと待って。 二人とも、いつから蒼空の渡り鳥メンバーになったのよ」  そう。この二人が蒼空の渡り鳥のメンバーだったなんて聞いた事無い。 この二人からも、セレナさんからも。うちのマスターであるライからも。  だからその疑問を解消するべく、バーニィにたずねてみる事にした。 「嬢ちゃんの疑問も最もだ。―――まあ、仕事で長期一緒にやる事になってな。  それでその話合いに参加するってわけだ。  それにチームなんて性にあわねえ。俺らは二人ペアのが似合ってるからな!」 「バーニィ!」  ―――と、なぜか先に駆け出していたはずのアッシュがこちらへ戻ってきていた。 「どうした相棒」 「話し合いってどこでやるんだ?」  辺りに、一瞬の沈黙が走る。  ―――どうやらアッシュは、場所も判っていないくせに駆け出したらしい。 わざと言ってるんじゃないか、と突っ込みたくなるくらいだ。 「ちったぁ落ち着け!あ、嬢ちゃん達。チーフが首を長くして待ってる。  それじゃあ俺たちは行くぜ。またな!」  なんだかよく判らないままに、熱血バカ二人組は走り去って行ってしまった。 「相変わらず、面白い人達ですね・・・」  そんな二人に、エリは笑顔を見せていた。 ―――ま、こんな時にはあの熱血もいいかな? 「さて、チーフも待ってる事だし・・・っと」  私達は、気を取り直すとチーフの下へと報告する事にした。 「君たち無事だったか。やれやれ・・・これで一安心だな。  FINALエリアの崩壊以後、君たちの消息がつかめず頭を悩ませていたところだ。  まさかあの状況下から脱出するとは・・・二度も適合試験に合格するだけのことはある。  たいしたものだ。」  首を長くしていた、とか言う割にはいつものようにいたって冷たい。 例えるなら、氷の仮面をつけたような―――そんな印象をいつも感じる。  しかし―――あの試験の不具合は、恐らく偶然なんかじゃない。 それを指揮するのはほかでもないチーフ―――ナターシャ・ミラローズだ。  ・・・まあそうはいっても、確証は無い。 特に問い詰めるはせず、私達はチーフの言葉を待った。 「・・・そう。今回の試験は合格だよ。君たち二人ともな」  合格。改めて通達されると、妙に嬉しいものがある。 エリとやったね、とばかりに顔を見合わせながら・・・私は素直に喜びを感じていた。 「試験前に話した通り・・・ラボの管轄下にあるガル・ダ・バル島への降下を許可しよう。  第二次調査部隊の編成については後日行われる予定だ・・・」 「あの・・・カル・・・いえ・・・CALSシステムのほうは大丈夫―――なんでしょうか?」  ラボに来る途中、パイオニア2は大騒ぎであった。 カル・スシステムが機能しないというのだ。  それゆえ、パイオニア2の一部のシステムがダウンしているほどらしい。 ―――そして、カル・スシステムが機能しない事に関しては心当たりがありすぎるし。 「CALSシステムの方は現在スタッフ総掛かりで復旧作業を行っている。  心配するのはわかるが君たちの出る幕ではないよ」  確かにそうだ。―――しかし、カルの魂が今エリのナビシステムに入っているのだとしたら・・・。  ・・・復旧作業を行った所で、直るのかどうかは怪しいところだ。 「それとも・・・あそこでなにかあったのかね?」  カル・スシステムの話題から、なにかあった?とたずねるチーフ。 やっぱりだ。普通、なにかあっただなんて聞いたりはしないはず・・・。  ―――やはりチーフは知っている。そしてこの試験の目的はハンターズの選出じゃない―――。 「・・・いえ、なんでも・・・ありません・・・」  なんでもない。いや、言うわけにはいかないだろう。 「フム・・・今回の試験は以上で終了だ。  今後とも、探索任務遂行のため、最大限の力を発揮してくれる事を期待している」  氷の仮面に隠されたものはなんなのか。それは判らない。 だが―――少なくとも今回の件は、チーフの思惑が具間見えていた。  私達はこれ以上ラボにいる事もないだろう、とその場を離れる事にした。 「―――目的を今度聞かせてもらうからね」  そう、背中越しに言い残して。 ―――試験は以上で終了かもしれない。    でも、私達はまだやらなきゃいけない事がある。    ううん。これでようやく本当にやるべきことが始まったんだ―――  立ち止まれない。私達は軽く準備を済ませると、コッソリと転送装置の前に立っていた。 「この転送装置を使えば中央管理区へ降りることができる・・・  イリスさん・・・私がラボのオペレータに志願したのも、  今回の適合試験にムリヤリ参加したのも、彼に会いたい・・・ただそれだけだったんです。  どんな形であれ彼に会いたかった。  例え彼が、その・・・AIであったとしても・・・。  ・・・バカにされちゃいますよね。相手はコンピュータなんですもん。」 「エリ・・・。」  エリはそう―――言うならば、カルに恋をしてるんだと思う。 相手はAI、機械。でもエリは、彼を一人の男性としてみていた。 ―――周りから見れば、エリは変かもしれない。いや―――きっと変だろう。 でも、私はそうは思わない。  たとえ相手がAIであったとしても。私たち心は何も変わらないのだから。 心が人か機械かの差で―――それを非難する事なんて、どうしてできる・・・? そもそも、アンドロイドなんていう存在だっているんだし。 「フフ。でもイリスさん。なにも言わずに手伝ってくれて・・・うれしかったです。  でも・・・もう・・・依頼終了、ですよね・・・。  ここから先は私のわがまま―――」  私はエリの言葉に構わず、そのまま転送装置へと乗り込んだ。 「ここまで来て何言ってるの。そんな事言ったら適合試験だってエリのわがままでしょ?  最初から、最後の最後まで付き合う予定だよ。  依頼でもなく、パートナーでもなく、友達として・・・最後まで見届ける。  ―――行こう?行って、カルに本当の事聞きに行こう?」 「イリスさん・・・。そう・・・ですよね!」  ここまできて、遠慮する必要も無いのに。・・・ま、そこのエリらしいといえばらしいけど。 「はぁ―――はぁ―――間に合った・・・」 「!?ライ・・・!?」  さあ行こう、としたまさにその時だった。 息を切らしながらに、うちのチームマスターであるライがそこに立っていた。 「イリスさん、無事で良かったよ。  でも―――チームマスターに無断で出発するつもりなのか?」 「思っても無い事言わないでよ。ようするに勝手に一人で行くなって事でしょ?」 「ああ。チームマスターとして、仲間として、見送りくらいさせろって」  ―――ライも、アッシュとバーニィとは違うタイプの熱血タイプだ。 それゆえに未熟なところもあるけど、それでも頼れるチームマスターには変わりない。  ―――と言うより、仲間かな。チームマスターとして意識した事は、ほとんどないから。 「ありがと。それじゃ、行ってくる。みんなによろしくね☆」  言いながらに、軽く手を振ってみせる。 あくまで軽く。重苦しい雰囲気なんて、嫌いだし。 「それじゃ、行こ!」 「はい!あの・・・ライさんも、ありがとうございます!」 「お礼はいらないって。それより・・・二人とも気をつけろよ」  ライのその言葉を最後に、私は転送装置を起動させる。 目的を果たす為、約束を果たす為、中央管理区へと・・・。  ・・・真実の欠片が、チラチラをしっぽをのぞかせながら。 あとがきと言う名の駄文 05.4/1 心の座の前半部分・・・セーブポイントまでが終わりました。 この話。ゲーム上だと短いシーンなのに、大分長くなってしまいましたね。 ゴルドラゴンの戦闘に、文章を割きすぎたかな(笑) その割には、戦闘シーンは今一納得がいかない・・・。修行が足りないや。 やっぱ心の座だけ読むと、物語の途中部分からって言うのもあってかな? キャラクターに関して補完しきれないものがありますね・・・。 いきなりライが出てきても、読者にとって新キャラでしかないわけですし(笑) おまけに、あおわたのゲスト出演でもないからとっつきずらいし。 なのにいきなりエリスと良い関係だし(ぁ そ、その辺はEP1のシナリオで補足出来たらいいなあと思います(汗 あ、と。とりあえず補足を。 ライ率いる『ルナティックウイング』にルナとイリスとエリスが所属。 一方でセレナ率いる『蒼空の渡り鳥』はライ達とは同盟チーム的存在。 第一話、修正入れたので修正後を読んでない人は設定違うYO!思うだろうし一応(ぉ ルナ達の行動の目的、深紅のヒューキャストの存在。そしてカル・ス。 オリジナルと原作が上手に絡められてるのか、正直微妙なほど不安ですね。 ここの話に、EP1のプロローグとリンクする会話を持ってきてみたりも。 この作品はEP1→EP2&心の座→EP4→EP1っていう時間軸の流れです。 それとEP1と心の座は、話と時間軸違うけどキャラも一緒で世界観も一緒です。 間違えないでね(紛らわしい書き方するのがいけないんだけど ・・・次の話から、多分ファンタジー要素が強く出てきます・・・。 SFチックなPSOの世界観を壊しそう・・・(爆 それでは、後半の山場(になるといいな)で会いましょう!