PSO小説
present by ゲバチエル
エピソード『心の座』

PSO 〜for Seraphic Fortune〜 エピソード『心の座』 第二話〜戸惑う心に/VRフィールド宇宙船〜 「今日の試験・・・何か変」 「変って、不具合出てるんだから変に決まってるんじゃないかい?」  イリス達よりも早く次のエリアにたどり着いたエリスとセレナは、不自然な状況について思考をめぐらせていた。 「まあそうだけど・・・。でも―――ううん。なんでもない」 「言いかけてやめない。エリス、言ってみて?」 「なんっていうか・・・不具合出るのも想定内のような気が・・・。  安全を確保できないような状況で、試験を続けるほどチーフは馬鹿じゃないと思う」 「確かに。試験を続行するなんてちょっと考えにくい・・・」 「――確かVRフィールドって、AIカル・スがシュミレートしたものだよね?」 「んだ。イリスさんとエリの二人がバックアップをとったものを改修したのがラボのカル・スシステム。  そしてVRフィールドからラボのほとんどはカル・スが統制してるもの・・・」  セレナの言うとおり、VRフィールドでの適合試験。その全てはカル・スが統制しているもの。 何らかの原因でフィールドに不具合が出たなら、カル・スに問題がある可能性も高い、というわけだ。 「カル・ス――制御塔――これがはじめから、仕組まれた事だったら・・・?」  エリスは、ぼんやりと今回の試験の意味に疑問を持つ。 しかし―――現状では考える事はできても答えは導き出せはしなかった。 「―――セレナさん、行こう。IDも揃ってるし、ゴルドラゴン倒しちゃおう」 「そうだね。・・・イリスさんとエリ、大丈夫だといいけど」 「イリスンなら大丈夫でしょ。黄昏の熾天使の異名がついてるくらいだもん。  ――――でも・・・ううん、なんでもない」  そうは言いながらも、エリスはイリスの事がやはり心配であった。 ハンターズとしては心配はない。けれど、一人の仲間として友人として、それをぬぐう事ができないのだ。 「自分たちにできる事をしよう。今はこの試験に合格する事・・・でしょ」 「うん。よし・・・!」  エリスは両手に握るラヴィス=ブレイドを強く握り締めると、転送装置へ乗り込んだ。 彼女の心情を知ってか知らずか、セレナは軽く微笑みながら・・・続いて転送装置へと乗り込んでいった。 『ラボより、各チームに通達。  第2エリアの状況説明をいたします。  次のFINALエリアに進むにはIDが3つ必要です。  現在このフィールドには勝ち残ったチームの中から、  他のチームのIDを奪取していない3組が同時に設定されました。  つまり現在各チームは自分たちのIDを1つしか持っていません。  よって3つのIDを総取りしたチームだけが、  ゴルドラゴンが待つ次のエリアへと進む事ができます。  IDの取得に際しての手段は問いません。  では、第2エリアでの試験を開始してください。』  私たちが次のエリアにたどり着くと、ラボからの通信が響き渡る。 ・・・どうやら、このフィールド上に三つのチームがいて、 そのうち一つのチームしか先へ進めないようだった。 「ふー。やっとついたね」 「神殿エリアは散々でしたね。でも無事に進めて何よりです。  ―――にしても、このフィールドもさっきの影響を受けているんでしょうか?  ところどころでなにか不具合が発生してる箇所があるみたいです」 「はぁ。やっと安心できる、と思ったんだけどなあ。」  先ほどのように大々的に崩壊してないにしろ、どうやら気を抜くわけにはいかなそうだ。 ・・・不具合なのか、トラップなのか、一言には判断しづらいけど・・・。 「ダメージを受けないよう気を付けて下さいね!」 「エリこそ、私から離れないでね」  ただでさえ何が起こるか判らない状況なだけに、エリを私の傍から離すわけにはいかない。 離れてしまったら、とっさの対応が遅れかねないし。  シュウウン  私たちが部屋へ踏み込むと、そこには先ほどとは違うエネミーが立ちはだかっていた。 「ギルチッチ―――叩いても叩いても倒れないのよね」  先ほどとは変わって、現れたのは坑道を徘徊していた機械エネミー。 機械なだけに痛みも無いのか、しつこく襲い掛かってくる厄介なエネミーだ。  ・・・とはいえ、もう適合試験を受けている私にとっては今更驚く事でもないけど。  ヒュンッ!! 現れたエネミーに対して、私は勢い良く槍を突き立てる。  そのまま先端の刃がギルチッチを貫いたところで、私は勢い良く槍を引き抜いた。 「イリスさん―――右です!」  ブンブン!! エリの言うとおり、右側からもまた別のギルチッチが殴りかかってきていた。 「こんのぉ・・・!」  キイン!!  引き抜いた勢いを利用してその打撃を弾く。 そのまま、・・・その隙に勢い良く槍を振り払う。  ジジジジ・・・ドオオ!! 「ふぅ。いっちょあがりっと」  勢い良く切り離されたギルチックは、爆発し消滅していった。 「・・・すごい」 「うん?」 「反撃の隙も与えないなんて・・・」 「そんなすごくないよ。なんっていうか、何度も戦ってる相手だし。  ―――それより、あれ何だろ」  エネミーを一通り殲滅し終え辺りを見回すと、煙をあげている端末を発見した。 さっきまでレーザーフェンスのところにあった端末と同じようなものだ。 「コンピュータが破壊されてますね・・・。  誰かがいたのかしら・・・?  ずいぶん荒っぽい人たちみたいですけど・・・」  コンピューターが破壊されていた・・・と言う事は、誰かがいたと言うこと。 しかし―――このフィールドに配置されたのはたった三チーム。  おまけにこの区画にはエネミーが現れた・・・。 「とにかく行こう?」  まあ、考えても始まらない。足止めを食ってたらそれこそ馬鹿みたいだし。 「そうですね。先へ行きましょう!」  そのままエリは、ぼーっと立ち止まっていた遅れを取り戻すかのように足早に次の区画へと走り出していった。   ・・・私一人を取り残して。 「イリスさん!!大丈夫ですか!?」  私がエリと共に次の区画へ行こうとした時には、既にその扉は閉ざされていたのだから。 「ラボからの通達はあったわよね? 手段は問わない、って  ちょっと油断しすぎなんじゃない?」 「数の上で敵より勝る。これ、兵法の常套手段。」  言ってる事は確かに一理ある。けど―――そんな事でもしないと勝つ自信がないのだろうか? ―――もしそうだとしたら、この二人はとんだ間違いを犯している。  それは、分断した相手がエリではなく私だったという事だ。 閉ざされた扉に隔てられたエリは、少なくとも目の前の二人に襲われる心配はない。  そう、守りながら戦う必要もなかった。 どんなに兵法を語ろうと、私には負ける気なんてかけらも無い。  最初から、こうなる事は予想通りだったのだから。 「ここは戦場だ。悪く思う―――バカな・・・!?」 「兵法を語る前に、その力量をどうにかしたらどう?」  相手が余裕をかまして銃を構えきるより早く、私は槍でそれを叩き落す。 丸腰になったところを間髪いれず、一閃をもってレンジャーを再起不能に陥らせる。 「な・・・!!この、卑怯もの―――」 「―――私を仲間と分断して、二対一で戦おうとした卑怯者はどこのだれかな?」  こういう人こそ、本当口だけ。全てにおいて自分たちを正当化しているだけだ。 その程度の意思しか持たない相手に、私は負けてなんかいられない。  キィィィィン!! すかさず切りかかった私の槍を、相手もまた長刀で受け止める。 さすがに私から仕掛けたのもあって一撃では終わらなかった。  ―――とはいっても、それは一撃で終わらなかっただけの話。 「ガーディアン・ブレード!!空間を切り裂く力を示して!」  何合目かの打ち合いの直後、私は即座に後退して勢いよく愛槍を振るった。 「こんな状況下で素振りでもする―――な!?」  明らかに射程外での行動に、相手は馬鹿にされたかのような顔でこちらへ飛び掛ってきた。 ドン!!  私へ飛び掛ったハンターは、私に攻撃を成功させる事無く―――地面に倒れていった。 「そんな・・・私が・・一体どうして・・・」 「―――ESウエポン。ハンターなら知っていると思うけど・・・」 「・・・まさか。それを使いこなせる者がいたなんて・・・最初から負けていたようなもの―――」  それだけ言い残すと、女性ハンターはVRフィールドから完全に姿を消し去ってしまった。 ・・・嘘をついたけど。でも本当のことをいったところで話がややこしくなるだけだと思ったから。  実際私の武器は、特殊な能力を改造によって付加する事のできるESウエポンではない。 ―――自らの魔法力で生み出した、魔法剣という存在なのだから。 「大丈夫ですか?イリスさん!」 「大丈夫―――と言うより、こうなると思ってたから」  ここにいたはずのハンターがどこへいったか。私はそれを隠れているから、と判断した。 端末は破壊されているけど、エネミーは残っていた。  エネミーとの戦闘中に他のハンターに襲われたらひとたまりもない。 だとすれば、先に行ったところで同じ事。ならば答えは一つ、どこかに隠れていたって事になる。  読みが外れてたらどうしようかと思ったけど・・・当たっていて何よりだ。 「さてと。今度こそ進もうか」  さすがに、もう隠れているハンターはいないだろう。 っというわけで、私たちは次の区画へと走り出した。 いや、走ろうとしたところで予想外の声を耳にする事になった。 「引き返せ!」  背後から、私たちを引き止めるような強くはっきりとした声。 そしてどこか、聞いた事があるような・・・そんな声だった。 「・・・え?まさか・・・?  この声、あなた・・・カル!?」 「え―――?」  私はエリの言う名前に戸惑いながらも、おそるおそる振り返る。 するとそこには、紅い瞳の男性フォースが静かにこちらを見据えていた。  カル。エリがカルと呼ぶのは、ラボのメインであるカル・スシステムの事。 なのに関わらず・・・エリは、その名を口にしていた。 「もう一度言う。すぐに引き返したまえ。」 「カル?」  エリは、引き返せという態度に納得がいかないのか、問い詰めるかのように近づいていく。 「キミたちの存在は我々にとって危険だ。」  しかし、そんなエリの問いかけを無視するかのように、 カルと呼ばれたフォースは突然蒼白い炎をこちらへ向けて放ってきた。 「危ない!!」  ゴオオオオオ!!! 白い光は衝撃波のように吹き上げながら、勢い良く私たちへと向かって地を走る。  とっさに私はエリに向かって飛び込んだ。 直後、私たちのいた場所は、粉塵が吹き上げるほどの状態へと変貌した。  パラパラパラ・・・ と、吹き上げた光はVRフィールドの一部を破壊していたのだ。   「どうして・・・」  しかし、その問いがカルと呼ばれたフォースに届く事は無かった。 既に、目の前にその存在は無かったのだから。  にしても。どうしてというのは私も言いたいくらいだった。 どうして今のフォースをカル・スと呼ぶのか。あれは何なのか・・・だ。  ―――そういえば、このVRフィールドってカル・スが演算してるんだよね。 だとすれば、今のはカル・スって事?  ・・・でも、それだとおかしい。カルがエリを危険だなんていうはずがないからだ。 いや。そもそも、今回の試験はいつもと明らかに違う。  安全を保てないほど、フィールドの崩壊が始まっている事。 にもかかわらず、試験を続行する事。それを統制するのがカル・ス――――。 「あー駄目。考えてもしょうがないね。  とにかく、先に進もうよ。今のがカルか決まった訳じゃないんだし。  それにそれらを確かめる為にも・・・ね」 「なあルナ。それって本当の話か?」 「そんな事で嘘をついてどうするのよ。それともあたしの事が信用できないわけ?」 「いや・・・そうだよな。」  ルナは一人の青年と真剣な話をしていた。 紅き眼に、そっくりのペンダントを見につける青年と。 「あたしだって半信半疑よ。ラグオルに持ち込まれていたなんてね。  そして―――あの子があたし達と強いつながりがあることもね」 「今更だけど、出会いってのは不思議だよな。」 「偶然と必然は紙一重ってよく言うけどね。」 「まあな。でもいいのか?」 「いいって何が」 「いや、イリスの事だよ。何も教えてないんだろ?しかもこんな事になってるし」 「あら。イリスの事心配なのはあんたのほうじゃない?イリスの彼氏さん?」  ルナは、青年をからかうようにそう言った。 しかし、馬鹿にしているわけではない。ルナも心配なのは変わりないのだから。 「否定はしないけどな。でも―――ルナの話が本当なら、俺たちはイリスの手助けはしてやれない。」 「そうね・・・。残念だけど、カル・スの事に関しては力になれそうにないわね」 「―――で、あの子には言ったのか?本当の事」 「もちろんよ。あの剣の所有者だもの。しかし厄介なものをつくってくれたもんだわ。  良く判らないものを抑え込もうなんて、それこそ間違ってる。  挙句の果てに、制御できなくなって取り返しの付かないなんて最悪よ」 「それを、止めるんだろ?」  制御できなくなったもの。ルナと青年は、その事を話し合っていた。 過ぎた力。知られざる真実。それらに立ち向かう為に。 「絶対に、ね。・・・MOTHER計画のほうはイリスに任せるしかないわね。  多分―――この試験、全てはその為に仕組まれたものだと思う。  だとすれば―――あいつらも出てくる・・・。」 「あいつらって誰だよ」  青年の問いも最もだ。ルナは一人で納得するだけで、判るように説明しないのだから。 「あれ、判んない?まあいいや。行くわよ、フォル!」  ルナは、何かを思い立ったように突然走りだしていった。 まるで、秘策を考え付いたかのような顔で。 「行くってどこへ。」  青年―――フォル=フェイドは、ルナの行動の意図がまったく判らなかった。 今回の件に関して、フォルはあまりにも無知であったからだ。 「あいつらに話をつけるのよ!」 「だからあいつらって―――ああ、もう判ったよ。」  フォルが聞こうとするのも空しく、ルナは一人先に走っていってしまった。 そんな彼女を見失う訳にもいかない。そう思ったフォルもまた彼女の後を追った。 「イリス―――無事でいてくれよ。」  大切な人の無事を、静かに祈りながら。 「あれ・・・?おかしいな・・・解除できないんです。」  エリが機械を解除できない―――?いくらなんでもそんな仕掛けがあるのだろうか? ―――いや・・・もしかしてさっき機械が破壊されていたのは、コンピューターが作動しないから?  フィールドの不具合で、端末の操作を受け付けないとしたら―――。 だとしたら、方法はただ一つだ。  ザン! 私は勢いよく、機械にむかって槍を突き立てた。  ガゴン・・・ それと同時に、行く手を塞ぐ壁は何かの制約から解き放たれたかのようにゆっくりと次の区画への道を示していった。 「それでさっき・・・コンピュータが破壊されてたのか・・・。」  これでコンピューターが壊れるだけだったらどうしようかと思ったけど、これで一安心かな。 「でも!ちょっと可哀想です。イリスさん、機械だって――――」  しかし―――カル・スの一件で大の機械好きになっていたエリに、長々とお説教を食らう羽目になってしまった。  ある意味、私にとってエネミーよりもずっと手ごわい存在であった・・・。 「まったく、出口を見つけるのも一苦労かよ。フィールドの不具合なんて冗談じゃねえぜ。」  予期せぬ事態に愚痴る一人のレンジャー。イリス達と同時に配置された、残りチームの一人である。 「グズグズしてたら、オレ達の命に関わっちまう・・・」  フィールドの不具合のせいで、なかなか先へは進めない。 ましては出口に進む為には、残り二チームのIDが必要だった。  二つチームが争い、片方が失格したのをラボの通信で聞いている。  つまり、レンジャー側が漁夫の利を得るチャンスでもあるということ。 だが同時に、この状況下で勝ち残ったチームを相手にするのはたやすくないのも判る。 「・・・ん?」  とにかく、あまりよくない状況に愚痴をこぼしながらも慎重な足取りで辺りを歩いているとそこには二人の女の姿を発見した。  今現在このフィールドに配置されている、相手チームである。  どうやらレンジャーにはまだ気づいていないらしく、辺りのエネミーと戦闘を交えていた。 「おい!様子はどうだ!」  と、そんなおり相棒であるハンターが、進展があったかどうかを確かめるように呼びかけてきた。  気づかれてはまずい。できるだけ相手に気がつかれないように、レンジャーは相棒の下へ急いだ。 「しかし。合格するためとはいえ、他のハンターズを手にかけるのは気がとがめるものだな・・・。ん、どうした?」  ハンターもまた、愚痴をこぼしていた。しかし現状に、ではなくハンターと戦う事に対してだ。  どうやら相当プライドは強いのだろう。 だが、突然慌ててやってくるレンジャーを前に、何事だとばかりにその顔に緊張が走る。  ん?どうした?」 「獲物だ!獲物が来たぜ!」  獲物を倒せば先へ進める。それが見つかった事でレンジャーは半ば興奮状態にあった。 「やむなし・・・か。」  しかしハンターのほうは、プライドの高さゆえか溜息まじりそう嘆いた。 「さっきの手筈通りだ。準備に掛かるぞ!」  だが、だからといって試験に落ちるわけにもいかない。 二人は、先ほどうちあわせた作戦を遂行するべく、それぞれ行動に移った。 「エリ、次行くよ!」 「はい!」  もうだいぶな部屋を通り越してきた。 立ち向かういくつものエネミーを退けながらも、難無くフィールド上を進んでいく。 ―――残りの1チームも探しながら。  なにがあるか判らない状況なだけに警戒しながら。 っと、次の部屋へ踏み入れると、そこには私たちを待ち構えるように立ちはだかるハンターの姿があった。 「君もここまで生き残ったか。」  ふと見ると、その手には紅き双剣が握られていた。私の大切な人と一緒の、その双剣が。 ―――その双剣にどこか寂しさを覚えながらも、私は恐る恐るハンターへと近づいた。 「試験とはいえ、恨みも無い同士戦うのは実につらいものだな。」 「何?戦いたくないとでも言うつもり・・・?」 「―――IDを渡してくれ。無駄な争いはしたくない。」  結局、楽してIDが欲しいだけ・・・か。もちろん、渡すつもりなんてさらさらないけど。 「私も無駄な争いはしたくない。でも―――はいそうですか、って渡すわけにはいかない。  こんな所で、試験を棒になんてふってられないし」 「―――やはり素直に渡す気はないか。」 「残念ながら。もっともあなたも逆の立場なら素直に渡さないと思うけどな?」  私は警戒しながらも、ゆっくりとガーディアンブレードを構えながらにハンターへ近づく。 けど―――私は、今更それさえも、この会話さえも罠だと言う事に気が付いた。 「そうだな・・・当然の選択だ・・・。やむを得んな。  では、こんな状況ならどうする?おい!」  カツン、カツン、カツン。 後ろから、明らかにエリのものとは異なる足音が鳴り響く。  気が付くのが、遅すぎたのだ。 誰―――と思い私が振り向くと、そこにはエリがレンジャーに銃をつきつけられていたのだから。 「ッ・・・!」  思わず声も出ない。あまりにも自分が情けなくなるような展開に、半ば自分が呆れてくる。 「イリスさん・・・ごめんなさい。わ、私―――」 「おい、お嬢ちゃんよ。それ以上無駄口たたくんじゃねえ。」  両手に持ったマシンガンの銃口を更に近づけ、レンジャーはエリに脅しをかけていた。 マスクをつけた表情の伺えないのも相まって、エリは震えていた。 しかし、私は手を差し伸べてやる事ができない―――そんなもどかしさに自分がいやになる。 「おっと。変な気を起こすなよ?お前は大事な人質ってヤツなんだからよ!」 「・・・くっ」  この試験は二人一組のチーム制だ。だというのに、私たちが部屋に入った時にはハンター一人しかいなかった。  それに―――エリを置いて一人ハンターへと近づいていったのも間違いだった。 しかしそれらに気が付いてももう遅すぎる。いくら気づいたところで、状況は変わらない。 「交換条件だ・・・彼女が大切なら君たちが持つIDを渡してくれ。  フィールドシステムにも不具合が出始めている。  強制的に失格となれば現実の彼女の体にも影響が出るかもしれんぞ・・・?」  どうすればいいの―――?エリにもしもの事があったら―――。 でも・・・だからって私だけが合格したって何の意味も無い。 いいえ―――私がこの試験に合格する事自体、たいした意味は無いに等しいと思う。 そう・・・この試験はエリが合格しなくては何の意味も為さないものになってしまう。 「判った―――」  でも―――だからといって、エリにもしもの事があったらどうすればいいのか。 結局、私の思考はすぐに途切れていた。いくらなんでも、エリを傷つけさせるわけにもいかないからだ。 「やめて、イリスさん・・・!IDを渡すくらいなら私―――」  ―――そうだ。私はいいかもしれない。でも、エリは合格しなくちゃならないんだ。 理由は判らない。でも、私と同じく試験を通っているエリが、ギルドを通じてまで私に護衛を頼んできた。  ・・・そこまでして、エリはこの試験の合格しなくちゃいけない何かがある。 それを、私の彼女を案じるという行為だけで終わらせてしまっていいのか?  答えは絶対に、ノー。 そもそもエリを合格に導けなかったら、何の為の依頼なのか判らなくなってしまう―――。  さっきのカルと呼んだフォースの事もあるし、何もかも判らないままに終わってしまう。 「―――ねえハンターさん?一つだけ聞いていいかな。  恨みも無いもの同士戦うのは実に辛いっていったよね?  それじゃあ、人質に取るって行為は痛くもかゆくもないの・・・?  恨みも無いものを人質にとるのは辛くない・・・そうでしょ?  それとも―――あれかな。人質を取らなきゃいけないほど実力には自信がないとか?  私たちと戦っても勝てる自身が無いから、こんな手段を取ったんだよね。  その両手に持ってる双剣が泣いてるよ・・・。  人質を取らなきゃやってられないような小さい心の持ち主に―――」 「おい!!その娘を向こうに連れて行け!いいか、手は出すんじゃないぞ!」  ―――私の精一杯の挑発は、どうやら見事ハンターの神経を刺激できたようだった。 こんな状況下に私の言ってる事もだいぶ見苦しいけど―――エリを失格にするわけにはいかない。 「気が向かなかったがやむを得んな。私が君の相手になるとしよう。」  なんとか、相手もその気になってくれた。そのおかげで最悪の結果だけは回避できたみたいだ。 「そういうことだお嬢ちゃん。さあ、一緒についてきてもらおうか・・・」 「イリスさん―――ごめんなさい」  大丈夫、と私は笑顔をエリへと向ける。それが―――精一杯の私の気持ちだった。 「無駄口叩いてるヒマがあったら・・・ほら、さっさと動け!」 「IDを渡しておけば良かったと後悔する事になるだろう。  私の腕を過小評価したこともな―――」 「―――女よ、お互い遺恨は残さぬよう正々堂々と勝負してくれ」  ―――呆れた。何が正々堂々なの・・・? 大体エリという存在を既にこっちは人質にとられてるのに、遺恨が残らないわけが無い。  っていうか人質を取るやつが正々堂々?さっきの女ハンターもそうだけど・・・。 まったく、正義とか正々堂々とか兵法とか。 そういうのを軽々しく口にするやつほど、自分の思想のためならなんだって言ってみせる。  虫が良すぎるって言うかなんていうか、本当呆れてくる・・・。 そしてそんな程度の相手の罠にみすみすとはまった自分の不甲斐なさに、何よりも腹が立つ。 「できれば戦いたくはなかったがな―――」  ―――はぁ。言ってる事とやってる事があまりにも違ってるって気がつかないのかな。 そんな相手が双剣使いだっていうのが、ますます頭に来る・・・。 「―――これ以上言葉はいらない。戦いで決着をつけるよ・・・!」  私はガーディアン・ブレードを構えなおすと、勢いよく相手の間合いへと踏み込んでいった。 「うぅ・・・また負けたぁ・・・」  私の目の前では、紅き双剣を持った少年がすぐ眼前でその剣を私に向けていた。 私はというと、ガーディアンブレードで身体を支えるのがやっとでとても状況てきにも身体的にも反撃をできる状況ではない。  つまり、戦いに負けていた。 「今日も俺の勝ちだな。っていうかいい加減こうして戦うの止めないか?」 「何言ってるの、フォル!たまにはこうしてまがいなりにも実戦を経験しとかないと勘が鈍っちゃうよ!」 「―――ったく、相変わらずだな・・・イリスは」  目の前の少年―――フォル=フェイドは、双剣を解くと大丈夫か?とそっと私に手を貸してくれた。  そんな当たり前のように差し伸べた手を、私は受け取らなかった。 「一人で立てる!―――ずっと守ってもらってばっかりは嫌。  フォルやルナに迷惑をかけたくない。だから―――せめて二人と互角に渡り合えるくらいの強さが欲しいの」  私は、フォルやルナと魔法剣で模擬戦のようなものをしょっちゅうやっていた。 ルールは簡単。魔法などは一切無しに自分の武器だけで戦う事。 結果は散々だ。何度やっても二人に勝てた試しなんてない。  もちろん、私だってちゃんと練習しているし、エネミー相手だって難なく渡り合える。 だけど―――フォルとルナだけには何度戦ったって勝てる事は無かった。 「うーん、気持ちは判るけどな。でもイリス?  イリスは充分俺やルナと互角か―――いや、それ以上の実力は持ってるよ」 「そんな事言わないでよ・・・私一度も勝てた事が無いのに・・・」 「まあな・・・。でも、イリスは俺たちに使えない魔法も平気で使えるだろ?」 「そうだけど―――」 「大体ルールがイリスに最初からハンデあたえてるようなもんだって。  俺やルナは武器の扱いに長けてるけど、イリスはどっちかって言うと魔法だろ?」 「うん・・・。でも、なるべく魔法に頼らないでいきたいから・・・」 「イリス―――。まあ少なくとも、双剣の振るい方なんて決まってる。  あとはこの双剣をイリスがどう対処できるか、かな。  長物であるそのガーディアン・ブレードじゃ、攻防一体の双剣とは相性悪いかもしれないが―――」  キィィィン!!ドン!!  私と刃を交えるハンターは、大切な人と同じ双剣使いだった。 彼の物とは太刀筋などもまるで違うけど、基本は一緒。  いや―――彼の腕をこの身で体験していた私にとって、この双剣は難なく相手にする事ができていた。 『花のごとく咲く冷気、矢となり全てを射抜け!!ギ・バータ!!』  そして今は、あの時とは違う。今は魔法を使う事だってできる―――! 魔法―――といっても、こちらの世界と遜色無いように名称と効力は合わせてあるけど。 「しまった―――」  私の手から放たれた冷気は結晶となりハンターを包み、そのままその動きを封じていく。 チャンス、とばかりに私は勢い良くハンターへ向かって跳躍する。 「こんのぉぉぉ!!」  ザンッ!! その勢いのままに振り下ろされた槍は氷ごとハンターを打ち砕き、戦いは終わりを告げていた。 「・・・私では・・・相手にならなかったか・・・」  ―――相手のハンターも、決して弱くは無かった。 いいえ、実力で言えば充分ともいえるほどの強さは持っていたと思う。 ―――人質を取った事をどうこう言うつもりはない。 そもそも手段は問われない試験であり、そこで罠にはまった私が悪いのだから。  けれど口先ばかりで結局は何もやりきれないようなハンターに、合格できる器なんて無いと思う。 ましてはあのガルダバル島の調査なんて・・・その身を危険にさらすだけ・・・。 「悔しいが合格者にふさわしいのは私ではなく君のようだ。  早くパートナーの所へ行くといい・・・間に合うといいが・・・」  失格判定が下され、VRフィールド上から消えていくハンター。 その光景を見届ける事も、言葉を最後まで聞き届ける事も無く私はエリの元へと急いだ。 あのレンジャーが何をしでかすか判らない―――取り返しの無い事に、なってなければいいけど。 (私がなんとかしなくちゃ・・・!)  レンジャーに別室へと連れてこられたエリは、 この状況はをどうにか打破しなくてはならないと考えをはりめぐらせていた。  エネミーとの戦いもイリス任せ。ガルダバルでの現地調査もイリスが行っている。 だというのに、自分にできることといえば仕掛けを手早く解除する事や、状況を述べる事程度。 ほとんど・・・見ているだけだ。  挙句の果てには何も出来ない自分の護衛までしてもらっているのに―――この有様だ。 そんな状況を招いてしまっただけに、エリはどうにか打破するきっかけを探していた。  そんな中エリは、恐る恐る隣にいたレンジャーの顔色を伺おうと顔を見上げる。 (やるなら―――今しかない!せめて、武器を奪えれば・・・!!)  エリは、レンジャーの注意が自分に向いてないのを確認すると、隙をついて飛び掛っっていった。  しかし、それはうまくいかなかった。 非力なエリでは、武器を奪う事自体無謀な作戦であったからだ。 「―――遊びが過ぎたぜ、お嬢ちゃん?」  飛び掛ったエリに、あわせるように突き出されるレンジャーの腕。 その肘は勢いをつけたエリへとそれこそ刃のように突き刺さっていった。 「あ―――」  ドサッ  静かな声を立て、エリが無防備なまでに地面へと崩れ落ちていく。 「―――ちっ、おとなしくしていれば痛い目に遭わずに済んだものを・・・」  ハンターのように鍛えられていない、いわば普通の女の子であるエリはそのまま意識を失っていた。  唯一の救いと言えば―――それが単純に気絶しただけで失格判定につながらなかったことだろう。  カランカラン・・・。 エリの手にしていたハンドガンが、空しく地面へと転がり落ちていく。 「大体予定がむちゃくちゃくるっちまったじゃねえか・・・!!くそ!」  元々レンジャーは、相手のIDを手に入れられればそれで良かった。 しかしイリスの挑発にまんまとハンターが乗ってしまった事により、その計画は台無し。  全てがうまくいくはずだったのに、最後の最後で思い通りにならなくなった。 その怒りをぶつけるかのように、レンジャーは転がってきたハンドガンを蹴り飛ばす。  ハンドガンは放物線を描き―――それは空中で止まっていた。 正確に言えば―――受け止められた、と言うべきか。 「エリ・・・!!」  優しい顔立ちの男性フォースはハンドガンを見事キャッチすると、同時に倒れている少女の名を叫んだ。 「お前・・・すぐに彼女から離れるんだ」 「ああ?誰だお前は?いつの間に、ここに入って・・・」  レンジャーは、目の前にフォースがいる事に気がついていなかった。 いや―――気がついていなかったのではない。確かに、さっきまではこの場にはいなかったはずであった。  思い通りにいかない展開に、不自然な状況。それらにレンジャーは、やりきれないほどの怒りを感じていた。 「彼女から離れろ!!」  フォースは、それでもなお少女から離れない事に怒りを示したのか、レンジャーに向かってそっと近づき始めた。 「―――なっ」  それは、あまりにも常識を超えていた。 フォースがレンジャーに向けて手をかざした瞬間、すさまじい光がレンジャーを包み込んだのだから。 「―――ぐ!?」  突然言いようもない苦しみがレンジャーを襲う。しかしそれに負けまいと、レンジャーもまた銃器の引き金を引く。  しかし、その銃弾さえもすさまじい光に弾かれてしまう。 「――――!?!?」  声にもならない苦しみ。それが光とともに強まっていくのを、レンジャーは感じていた。 もはや苦しみのあまり、他の事を考えている余裕は無かったが――――。  パアアアアア!! 「一体何が――――エリ!!」  私が部屋に入った瞬間、そこはすさまじい閃光に包まれていた。 まぶしくて目を開けていられない―――そう思ったのもつかのま、 光は何事も無かったかのように消滅し、ゆっくりと辺りの光景が目に飛び込んでくる。  ―――私が今判った事といえば、光と共にさっきのレンジャーがVRフィールド上から消えた事、 先ほどエリがカルと呼んだフォースらしき人もまたどこかへ消えていったこと、 ―――そして、エリが力なく倒れている事だった。  その状況に、私の取れる行動なんて決まっていた。 というより思考よりも身体が先に動いていたというべきかな。 「エリ―――!!しっかりして!!」  私は倒れていたエリを抱き起こすかのように必死にその身体を揺さぶる。 無事でいて―――目を開けて―――ただそんな想いだけが私の中にあった。 「・・・カ・・・ル・・・」  しかし、エリは気絶していただけみたい・・・。 どうやら私の恐れていた事態にはなっていないようだ。 ―――というか、冷静に考えれば失格にならず倒れているんだから、 無事―――に決まってるじゃない・・・。 「ふぅ、ほんと良かった。エリ―――ごめんね。大丈夫・・・?」  思わず溜息をつかずにはいられない。そんな私に、エリも安心したのかぎこちないながらも笑顔を見せてくれた。 「私・・・無事だったんですね・・・もうダメかと思ってました・・・。ありがとう、イリスさん」 「お礼なんていらないよ。それより―――立てる?」 「あ、はい・・・大丈夫です。ごめんなさい、心配かけちゃって」 「だから気にしないでってば。一時はどうなるかと思ったけど―――とりあえずはなんとかなったね。  ―――エリを傷つけてしまったから、護衛としては失格だけど」 「そんな事無いです!やっぱり、あなたにお願いして正解でした・・・」  危うく失格になる所だったエリを、私はなんとか救い出す事が出来た。 多少無謀な作戦だったけど、それでもうまくいったことに、 エリは改めて私に依頼を頼んで正解だと思ってくれたみたいだ。 (でも不思議・・・彼に会えたような気が・・・。  あの人が傍で守ってくれていたような・・・) 「エリ?どうしたの?」 「あ、あの・・・ぼうっとしててごめんなさい。  さっき会った人、ずっと探していた人に・・・声がすごく似てて・・・  会った事もない彼に・・・」  彼―――それは恐らく、エリが「カル」と呼んだフォースの事だろう。 カル―――エリがカルと呼ぶのは、ラボのカル・ス端末のはずだ。  なのになぜVRフィールド上に現れたフォースをカルと呼ぶか、までは判らない。 でも―――少なくとも、ラボのカル・ス端末は、私とエリがバックアップをとったAIカル・スを改修したものだ。  そう、エリとはオンラインを通じて知り合っていたあのカルを改修した姿。 だからなんとなく・・・だけど、エリの言っている事が判るような気がした。 「ごめんなさい。イリスさん。  私もうひとつあなたに黙ってたことがあるんです。」 「黙ってた事・・・?」 「この試験に合格したいっていうのは、その・・・  さっきの彼・・・カルからの頼みなんです。」 「カルからの―――。」 「私、ラボのシステムを操作中に・・・彼からのメッセージを受け取ったんです。  ・・・短いメッセージでした。  『VRフィールドで行われる選抜試験に合格してほしい。』・・・それだけ。」  エリが、試験を受ける必要の無いエリが、この試験を受ける動機には・・・正直短すぎる気がする。  でも・・・エリにとって、カルはそれだけ大切な存在なんだ・・・。 私にとってのフォルのように―――エリにとっては、きっとそれがカル―――。 「わかってるんです。バカみたいだって。  ただのイタズラかもしれないし。  合格したって、なにも・・・なにも起こらないかもしれない。」  エリは、短いメッセージだけに突き動かされて試験を受けた事に対して馬鹿みたいだと言った。 ―――多分、そんな馬鹿みたいな事で私を巻き込んでいるというやりきれない気持ちもあると思う。  でも・・・。きっと、気持ちは理屈じゃないんだと思う。 エリの話から推測できる事―――それは唯一つ。会いたいという想いだろう・・・。  それに彼は・・・私たちとは違う・・・A―――」  言いかけて、エリは言葉を止めてしまった。 ・・・しかし、私にはエリの言おうとした事は判っていた。  そう、他でもなく・・・カルは人ではなく、人と同じような思考を持つAIだ。 そうだと判っているのに、エリはその気持ちをとめる事ができずにいる。  でも―――私はそれを変だとは思わない。 だって、例え相手がAIだろうが、大切な事には変わりないし、心があるのだから。 「えーと・・・ですね。ちょっと疲れたのかもしれません」  言葉を続けるのが怖かったのか辛かったのかは判らない。 けど、エリは突然突拍子もなくそんな事を言い出していた。何かを、偽るように。  ただ・・・これだけは絶対に言える。エリはAIと自ら口にしたくなかった事。 そして、そうだと認めたくない事だけは・・・。 「疲れた・・・なら休んでく?疲れた身体じゃまともに試験なんて出来ないでしょ?」  ―――絶対に言いきれるほど確信を持っている。 でも、それに触れるべきではないと思う。  エリが自ら触れたくない事に、私がずかずかと踏み込んでいいはずないんだから。 「大丈夫です!!頑張ります!!」  そんな私の気持ちを知ってか知らずか・・・エリはそう言った。 あれだけ胸のうちを吐き出したというのに、なぜかその目は決意に満ち溢れている。  そんな決意に、私も応えなくちゃならない。私にできる事、それはエリを合格に導く事だから。 「IDも3つ全部集まったみたいですし。合格までもう少し!  この付近に次のエリアへの転送装置があるはず。そこへ向かいましょう!」  フィールドの不具合、そしてエリが人質にとられたりととんでもない事はあった。 しかしなんとか、FINALステージへの条件を整える事はできた。  そう、あとはゴルドラゴンを倒すだけだ! 「うん、行こう!ぱっぱとゴルドラゴンを倒しちゃおうね!」  ぱし、と優しくエリの腕をつかむと、私たちはそのまま最後のエリアへと駆け出した。  このいつ何が起きるか判らない試験、いつまでもやってられないからね・・・! そうして幾つかの部屋を通り過ぎると、そこにはIDが無ければ開かない端末が待ち構えていた。  こういう操作は私よりエリの方が得意だ。 っというわけで、私はエリにゲート解除をお願いした。 「IDでゲートを開きますね。」  エリがここで手にいれた二つと私たちのIDを入力する。 すると、先を閉じていたゲートがゆっくりとあがっていった。  まるで・・・いかにもそれが最後だ、と示しているかのように。 「さあ、行きましょう!」  ―――と意気込むも、歩いて数十秒のところでまたゲートが待ち構えていた。 はっきりいって、これはいくらなんでもしつこいような気もするけど―――。 「これが最後のゲートみたいですね。」  これが最後―――つまり、ここを開けばゴルドラゴンの待つFINALステージが待つのみというわけだ。 「これでよし、と」  今度は端末の不具合も無いらしく、ゆっくりとFINALステージへの転送装置が姿を現していく。 私は一足先に転送装置へ乗っかると、振り返ってエリを待った。  考えたい事とか色々ある。でも―――今は試験が最優先だ。 それに、余計な事でエリを心配させるわけにもいかないし。 「後はゴルドラゴンを倒すのみですね。  いつも映像で見慣れてるとは言え緊張します・・・。  ちょっと待っててください。」  どうやら、エリはあの馬鹿でかいドラゴンと生で戦うと言う事に緊張しているようだった。 ハンターズならまだしも、エリは一般人にも近いオペレーターだ。  だから、ドラゴンほど巨大なエネミーには免疫が無いのだろう。 映像で見慣れている―――とはいえ、実体に戦うのとでは偉い違いだろう。 「慌てない。ほら、ゆっくり深呼吸して?」  そんなエリに、私は深呼吸をすすめた。 落ち付かない状況でゴルドラゴンと戦ったらそれこそ危ないからだ。 「は、はい!・・・ふぅ。・・・はぁ。はい・・・大丈夫です!行きましょう!」  エリはひとまず落ち着くと、私に続いて転送装置へと乗り込んだ。 「よーし!気を引き締めてね!!」  エリが大丈夫、と判断すると私は転送装置のスイッチをオンにした。 この先、何が待ち受けているかも判らない―――。 それでも、エリだけは守って見せるんだと言い聞かせて。  この時私はまだ気が付いていなかった。 これが終わりではなく、ようやく始まりであった事に・・・。 あとがきと言う名の駄文 05.3/29 プロローグ→第一話は二週間以上かかりました・・・。 が。第一話→第二話は一日足らずでした(笑) やっぱり前もって台詞を貼り付けておくと、作業が楽だなあ。 その都度スクショを見て引用すると、その作業に追われて他の文章がおろそかに・・・。 心の座でのメインはイリスとエリなので、他キャラは基本的にサブです。 ―――が、今作では心の座には無い完全オリジナルストーリーがある予定です。 まあ、ルナと結局出てきちゃったフォルの会話はその部分をさしているわけですね。 しかし、イリスですが・・・戦闘面では強すぎるかなあ?と思ったり。 戦闘描写が苦手なのを滅茶苦茶強いんです、ってごまかしてるような気がしてならない(汗 でも―――心の座で出てくる敵NPC如きに文章あんま割きたくなかったのもあるので、いいかなとも思ってます。 しかし、心の座だけを書こうとするとかなり難しいものがあ・・・る。 また文章中にもありますが、イリスはテクニックではなく魔法を使えます。 PSOの世界観が崩れるかもしれませんが、オリジナルって事で一つ(ぁ