PSO小説
present by ゲバチエル
エピソード『心の座』

Seraphic Fortune PHANTASY エピソード『心の座』 プロローグ〜心のかたち、私の気持ち〜  私はいつものように、ハンターズとしてギルドに来ている仕事をチェックしていた。 とはいっても、ここ最近ラボの息のかかった区域で調査やらなにやらをしているので、 依頼という依頼はほとんど来ないんだけどね。  まあ、とはいえ・・・いざ来たって時に依頼を見てなかったなんて言えない。 だからまあ、日課として依頼をチェックしていたんだけど・・・。 「え・・・?」  それは、私の目をひくに充分な内容だった。 『依頼主:エリ・パーソン』  と、書かれた『私を直接選んで』送られた依頼だった。 エリ・パーソン―――いや、エリは私の専属オペレーターである。  以前実施されたVR試練にて私のオペレーターを務めるのがエリで、 それに合格した私と同時にまたエリもパートナーとして選ばれた、というものだった。  オペレーターブースで顔を合わせた時、エリは私に対してはじめまして・・・といった。 まあそれは周りから見れば普通かもしれないけど、実際はそうじゃない。  私は過去に一度だけ、たったの一度だけどエリに会った事があった。 あの時も・・・。あの時もエリが依頼を出してきて、その依頼を請けたのが私だった。  セントラルドームの爆発で誰も生き残っていないかのように見えた中、 エリはパイオニア1の友達からメールを受信した・・・。 その友達に会いたい。その想いが強まってギルドにまで依頼を出したってみたいだったな。  私もパイオニア1の生き残りがいるのなら一人でも多く助けたかったし、 何よりラグオルの異変をどうにかするためにこっちに来た。 そしてこの女の子の願いはかなえなくちゃならない。  そんな気持ちで、エリとともに洞窟の地下にあった坑道へと向かった。 まあ・・・途中ちょっとのろけ話とかもあったりしたけど、別に悪い気はしなかったな。  普通の女の子であるエリを守りながら坑道の機械どもを相手にするのはちょっと辛かったのも覚えてる。 ・・・その奥で待っていた現実は、エリにとっても私にとっても衝撃的なものだった・・・。 人だと思っていたものが、AIで。そしてそれが何かに今まさに侵食されている最中だったんだから。  そのAI―――カル・スは、最後の力を振り絞って友人であるエリへメールという形で呼びかけた。 そして・・・二人は色々な意味で運命の出会いを果たした・・・。  けれど、カル・スはもう・・・自我を保つ余裕がこれっぽっちも残っていなかった。 「エリ・・・!バックアップを取って!!いいから早く!!」  思い立った私は、大声でエリに呼びかけ・・・二人係でカル・スのバックアップを取った。 私が請けた依頼は、エリをカル・スに会わせる事。  AIでもエリの友達なら―――そう思った私は、カル・スのデータをエリに託した。 ・・・エリは、今にも泣きそうな顔でありがとう。 ―――って言って報酬をカウンターへ預けていったのを、今でも忘れられないなあ・・・。  ・・・報酬なんて、いらなかった。いや、受け取る資格は無かった・・・。 むしろ、年頃の女の子であるエリが辛い現実に立たされたのに、私は何も出来なかった・・・。  それから、ずっとその事が頭から離れないままに・・・多大な月日が流れていったと思う。 「やっと会えました!イリス=シルディアさん!」  VR試練を終え、見事合格を果たした私を待っていたのは・・・他でもなく、あの時のエリだった。 適合試練中も、オペレーターとしてのエリ・パーソンの声は聞いていたけど・・・。 にわかに本人だとは信じられなかった。  けど・・・再び「再会」した時、私はかなりの衝撃を受けずに入られなかった。 私が未だに・・・過去を引きずっている人・・・そのものが目の前に現れたんだから。  目の前のエリが、あの時のエリだって知っていながら・・・。 私は、久しぶり―――と言う事が出来なかった。 エリも、おどけているのかは忘れているのか判らないし・・・。 ううん・・・。カル・スの事で頭がいっぱいで、私の事なんて忘れているに決まってる。  何にも出来なかった私・・・。そんな私の事を・・・覚えてるわけ・・・。 「どうしたのよ、イリス?なんだか思いつめてるわよ?」 「あ・・・ルナ・・・」  ルナ―――フルネームはルナ=フェイド。 蒼くサラサラなストレートロングに蒼き瞳が印象的な私の幼馴染。 肌身離さず三日月をあしらったフローライトのペンダントをつけてるのも特徴の一つだ。 もとい―――間接的に血の繋がった姉妹でもあるんだけど、私達はそれを意識した事は特にない。 「早く帰りたい・・・とでも思ってるわけ?」 「ううん・・・そうじゃないよ」  早く帰りたい―――それは単純に家に帰る――という意味じゃない。 簡単に言えば・・・私とルナはまったくの別世界へ飛ばされたって言えばいいのかな。 その飛ばされた先が他でも無いラグオル―――。 「じゃあ何?離れ離れになった恋人の事でも想ってるの?」 「ち、違うよ!フォルの事は・・・いいでしょ!?」  フォル―――私の恋人、フォル=フェイドの事。同時にルナの双子の弟でもあるんだけどね・・・。 飛ばされた―――って言っても、フォルは事情を知っている。  でも・・・だけどやっぱり恋人と離れ離れは辛い。特にルナも私もいなくて一人だから・・・。 しっかしルナってば、私がいつもフォルの事だけで悩んでるとでも想ってるのかな。 「まったく、ルナは私になにかあるといつもフォル絡みだと思ってるでしょ?」 「ごめんごめん。それで・・・何?依頼チェックしながら相当思いつめてるみたいだけど―――」  あても無くラグオルへ降り立った私達を、 ある人が親身になってくれたおかげで・・・今はこうしてハンターズとしての生活を送っている。 今じゃ私達の部屋、まで手配してくれた人だ。  同時に―――私達が所属させてもらってるチームのマスターでもあるんだけど。 「あ・・・なるほどね・・・」 「なるほどって判ったの?」 「判るわよ。エリちゃんからの依頼・・・イリス、前の事・・・」 「うん・・・ちょっと思い出しちゃって。仮にもパートナーの私がこんなんでいいのかって感じだけど」  ・・・そう。私は過去はどうあれ、今はエリとのパートナー。 そのパートナーの私がこんなんじゃ・・・駄目だっていうのは判ってはいる・・・。 「単純にパートナー、ってだけじゃないでしょ・・・その依頼。  イリスを信頼してるから。パートナーとして、友達として、ね。  だから・・・イリスに直接依頼だしたんじゃない?  あたしはあいにくパートナーじゃないから依頼だしにくいだろうし・・・。  それに、過去に依頼を請けたのも・・・イリスだからね」 「その事は・・・もうエリ忘れてると思うな。  再会した時だって、はじめましてって言われたから」 「そんな事いったら、あんただってはじめましてって言ったでしょ」 「まあ・・・そうなんだけど。でも覚えてないと思うよ?  カル・スの事で手一杯だったと思うから・・・」 「そうね・・・。でも・・・それは過去でしょ?で、依頼内容はどうなの?」  あ―――。感傷に浸ってるせいで肝心な依頼内容を見てなかった。 『オペレーターではなく、パートナーとしてのお願いです!』 「エリ・・・」  当たり障りのない一行。そして、詳細も一切書かれていない。 そこからは不信感ではなく、私を心から信頼してるのが・・・垣間見えている。 「イリス、どうするの?」  ・・・また力になれないかもしれない。そんな不安が私の中にあった。 でも・・・私を頼ってくれているのに、それを断るなんてできない。 ハンターズとして、ではなく。パートナーとして、友達として・・・。 「断る理由がない・・・かな」 「なんて後ろ向きな言い方なのよ。まあ・・・いいけどね。  それで、いつ?」 「んー・・・明後日になってるけど」 「・・・ごめん。あたし手伝えそうにない。その日ちょっとね」 「例の適合試練?」  明後日―――は、どうやらラボがしつこくVR適合試練をやるらしい。 私はすでに合格している身なので、受ける必要性はあんまりないんだけど。 「ま、そう言う事。イリスはスケジュール空いてる  ―――ってエリは専属オペレーターなんだからイリスのスケジュールも知ってるわね」 「そうだね・・・」  といいながら、私は依頼書に必要事項を記入し、ギルドカウンターへと持っていった。 これで仕事を正式に引き受けた事になり、依頼主にも連絡がいく手はずになっている。 「・・・まあ、イリスなら大丈夫だろうけど、無茶しないでよね?」 「判ってるよ。ルナこそ適合試練―――気をつけてね」  私はどこか言いようのない不安を感じながら、エリの依頼を引き受けた。 そうする事が一番―――だと思ったから。  後悔ばっかりしてられない―――パートナーとして頼ってくれるなら、それにこたえなくちゃならない。  思えば―――ただのパートナーとしての依頼は、思いもよらない方向に進んでいたなんて私には知るよしもなかった・・・。  依頼の時間通りに、私は待ち合わせの場所へと向かう。 ―――とそこには、相変わらずオペレーターの衣装に身を包むエリの姿が見えた。 「こんにちは、イリスさん。エリです、フフッ。」  待たせたかな・・・なんて思ったけど、エリは気分がよさそうに挨拶をかけてくれる。 そんなエリに、私もまた挨拶を明るくかえす。  どういうわけだか上機嫌なエリに、暗く返すわけにはいかない。 「いつもラボでの任務ご苦労様です。」 「エリこそ、オペレーター任務ご苦労様。それで、私に依頼っていうのは?」 「えーと、ですね。今回ギルドを使ってまで来てもらった訳は・・・  ハンターズとしてのイリスさんにお願いしたいことがあるんです。」 「ハンターズとしての私・・・」 「そうです。誰にも言っちゃダメですよ?」 「言わないよ。だいたい依頼の事を口外するなんてハンターズ失格だもんね」  そうでなくても、人のプライバシーを言いふらす事を私はしたくないし。 ・・・エリは自分を落ち着かせるように深呼吸すると、静かに内容を切り出していった。 「実は、私の…えー、知り合いの新人ハンターズさんのですね、  護衛をお願いしたいんです。」 「護衛・・・?」  私の問いかけに静かに頷くと、エリはそのまま話を続けた。 護衛―――なんか嫌な予感がする。それにあの時の事が・・・また・・・。 「・・・その人 今度ラボの適合試練を受ける事になったんですけど・・・」 「適合試練―――あの私達が受けた・・・?」 「はい。あのVR試験です。」  VR試練―――。私はあの試練にいい思い出はほとんどない。 エリも上官に怒られてばかりみたいだったし・・・それはお互い様だと思うけど。 「でも、その人絶対に適合試験に受からなくちゃならなくて。  周りに味方になってくれる人もいなくて…」  その人―――って誰だろう。味方になってくれる人もいない・・・? うーん・・・なら依頼主が直接私に依頼すればいいのに・・・何もエリを伝わなくても・・・。 「お願いです。なにがあってもその人を裏切らないで、ついていってあげて欲しいんです。  1人じゃ・・・やっぱり心細いと思うから。」  私は少しだけ、返事に迷った。 何せ・・・誰を護衛するのかこの段階で判らないからだ。  本来なら、ハンターズとしてこんな怪しい依頼は引き受ける気はしない。 でも―――それが他ならぬエリの頼みならば、私は・・・断る気にはならなかった。  それに・・・なんだかエリのはっきりしない言い回しにも気になったし・・・。 「判った。私に任せて!その人のこと、しっかりと護衛させてもらうよ」 「ホントですか?」 「こんな時に嘘ついてどうするの。」 「…よかったあ。もし断られたらどうしようかと思ってました…」  ほっと肩をなでおろすように安心するエリ。 そんなエリを見ただけでも・・・引き受けてよかったかな、って気がしてくる。 「…あ!いけない!もう始まっちゃいます!」 「始まるって何が?」 「なにが?…って、なに言ってるんですか、もちろん適合試練です!」  適合試練―――!? 「ちょっと待って―――」 「あ。心配しなくても大丈夫ですってば!  今回の適合試練は2人1組で参加する試練で、イリスさんの登録も済ませてありますから!」  私の登録―――引き受けてくれること前提なのね。 まったく、そこまで信頼されると逆にこっちが不安になるよ・・・。  でも・・・今日の適合試練・・・って、ルナも参加するやつ・・・? それにいきなり今日も今日、しかも今から!? あの適合試練だとは聞いてたけどそれがまさか・・・今日―――。 「今日の適合試練―――」 「どうか、よろしくお願いしますね。」 「ちょっとエリ!!」 「さあ、ラボに行きましょう。」  エリは私の言葉も聞かず、スタスタとラボへと向かっていった。 事情はよく判らないけど、引き受けた以上はここで投げ出すわけにもいかない。  誰を護衛するか、そして何をするかも一切判らないまま私はエリの後を続いた。 どことなく、妙な予感だけを・・・胸の奥で感じながら・・・。