Seraphic Fortune PHANTSY エピソード1
プロローグ〜若き意思〜
「総督府からの情報は未だ無いのかよ・・・!!」
ここはパイオニア2の一画にある、ハンターズ用の区画。そこのある部屋の中で、二人の男性ハンターズが話し合っていた。若きヒューマーと、熟練した顔立ちのレイマーが。
「オーウェン、状況はどうなってるんだ?」
二人のうち一人―――まだまだ二十歳前後の若い顔立ちの青年が、目の前の男の名を呼んだ。
「さっぱりだ。あれ以降表立った発表も無ければ依頼もない。お前も少しは落ち着いたらどうなんだ?仮にも一応チームマスターだろう」
血気盛んに言葉を発する青年とは別に、オーウェンと呼ばれた男は実に冷静であった。しかし立場は青年のほうが上らしく、オーウェンは彼をチームマスターと呼んでいた。
「これが落ち着いていられるか! やっとラグオルへついたと思ったら、あの大爆発。それからパイオニア1からの通信が途切れたんだ。冷静でいろってほうが無茶だろ!」
しかし、彼は叫ばずにはいられなかった。これでは、どちらがマスターなのか判らない。
「だから落ち着け。お前がそんなんで、チームはどうする?」
「どうするったって・・・状況がさっぱり判らないのにどうしろって言うんだよ。それともなんだ、オーウェンには秘策でもあるってのか?」
「――――そういう意味じゃ無いんだがな。まあいい。それで、お前としてはどうしたいんだ? 状況とか云々じゃなく、お前自身がどうしたいか・・・だ」
「俺自身―――どういうことだ?」
「やりたい事とかあるだろう?お前が知りたい事、とかな」
「俺がやりたい事―――知りたい事―――」
青年は、突然そんな事を聞かれて戸惑っていた。彼はハンターズとして、またそのチームマスターとしてどうするかばかり考えていた。
しかしオーウェンは、青年自身が何をしたかをたずねたからだ。あくまで個人、一人の人間としての意見を・・・オーウェンは求めていた。
「たまにはわがまま言ってみろ。お前の意思くらいは尊重したいからな」
「わがまま?そんなもの―――」
「隠すな隠すな。俺とお前の仲だろうが。―――素直に言えよ。リコの事、心配なんだろ?」
オーウェンの言葉に、青年は思わず言葉を失っていた。それだけは知られたくないと思っていた事。それを見抜かれていたのだから。
「なんでそれを・・・」
「判るさ。お前の事なら大体な。リコ=タイレルの数少ない友人様―――いや親友なんだろ。男女である前に、ハンターとしてな」
「―――まあな。だけど、それが何だよ・・・?」
青年は、つとめて冷静に振舞おうとした。ここまで言われてもなお、それをオーウェンに見せたくなかったからだ。
「何だよじゃないだろう。そのリコ=タイレルがパイオニア1にいてあの大爆発だ。できる事ならいち早く探しに行きたいんだろ。違うか?」
「―――」
青年は答えなかった。まさにオーウェンの言うとおりだったからだ。本当ならば、今すぐにでもラグオル地表へとリコの行方を捜したい。
しかし、現在ラグオル地表へ行く事はできない。ただでさえ情報が安定していないだけに、転送装置の使用は禁止されているからだ。
「ライ。たまにはわがままの一つを言ってみろ。お前の要望くらいチームメンバーにも話をつけるさ。そりゃ、批判とか反対とかくらうだろうけどな。 ―――良い機会じゃないのか?このチームをどうこうしてくさ」
青年―――ライは、オーウェンの言葉に静かに思考をめぐらせていた。自分のやりたい事。チームマスターという立場。そしてチームの現状。色々問題や課題はある。そして、状況や情報もまた不確か。
―――そんな中、チームとして何ができるのか。個人として何がしたいのか。その決断を下すのは、他でもなくライ自身であった。
「・・・確かにあいつの無事を確かめたい。けど、転送装置が使えないんじゃどうにもならないだろ・・・? いくらやりたい事があっても、それはできないじゃないか・・・! こんな時何をしろって言うんだよ!」
ライの言う事は最もであった。状況が判らない、おまけに転送装置も使えないのでは何も知る事ができない。 気持ちだけあっても何もできない―――良くも悪くもそれがハンターズというものだから。
しかし、そんなライの言葉にオーウェンは小さく微笑みを見せていた。
「・・・?オーウェン、何がおかしいんだ?」
「別におかしかないさ。いや、なんだか妙に嬉しくてな」
「嬉しい?」
「ああ。―――と、そろそろ来る頃なんだが」
オーウェンは、ライの問いかけには答えず唐突にそんな事を言い出していた。
「そろそろ来る―――?」
ライは、オーウェンの言葉の意味するところが判らなすぎた。彼とはチームを発足以前からの相棒兼親友ではあるが、その言動は未だに判らないものが多い。
特に今日の言動からはその心理を読み取る事が出来ずにいた。
ピピピ・・・ピピピ・・・
―――と、オーウェンの言った通り、部屋に来客を示すアラームが鳴り響いていた。
「ライ、俺が出る。」
「頼む」
オーウェンは自分の用事だと言わんばかりに、玄関口へと向かっていく。――玄関の先に立っていたのは、金髪で細身の女性であった。
ハンターズをやっているものならほとんどが知っているであろう女性―――。総督府の秘書をつとめる、アイリーンが姿を現していた。
「おう、来たな。そろそろ来る頃だと思っていたぜ」
オーウェンは軽く後頭部をかきながら、待ちくたびれたとばかりに声をあげる。だが、アイリーンは扉の前に立ち尽くしたままその場を動こうとしなかった。
その表情はどこか険しく、そして冷たさすら感じられるものを放っていた。
「―――?アイリーンさん、どうしたんですか?」
なぜ総督の秘書でもある彼女がここに来たのかも疑問だが、ここに来て何も言わず立ち尽くすその行動もまた理解できない。
オーウェンはそれを知ってか知らずか、彼もまた静かに腕を組み立ち尽くすだけだった。ライは、そんな二人の行動がまったく理解できない。
逆に言えば、この二人は何かを知っている―――そう直感が判断していた。やがて、アイリーンは静かに口を開いた。感情を押し殺し、あくまで秘書として。
「総督がお呼びです。すぐに総督府までお越しください。」
言葉にして、ほんの二言。しかしそれは、ライにとっては衝撃的とも言える発言であった。
「総督が―――?」
「はい。ライさんとオーウェンさんの両名をお呼びです。 チーム『ルナティック ウイング』の代表として、お二人にお話があるそうです」
ルナティックウイング。狂った翼。ルナ―――月という響きとは裏腹に、ライのチーム名はそんな意味を秘めていた。まだまだ十人足らずの少数精鋭のチームではあるが、それでもハンターズとしての知名度はそこそこ高い。
中でもオーウェンの技量は、ハンターズ内でも敬意を込められているほどだ。ライもまた、リコ=タイレルの親友的存在であったとしてハンターズ内でも有名である。
だがしかし、リコの英雄として名高い反面で、ライは一度たりとも明るみに出た事はないのだが・・・。
そんな周りからの目もあってか、ルナティックウイングは実質オーウェンがマスター扱いされる事も少なくない。だが、それでもオーウェンはライを常にマスターとして立たせ、今日までこうして一緒にやってきている。
―――それほどの技量と知名度を持ちながら、なぜライと行動をするのか。それを知るものはほとんどいない。恐らく―――ライすら知らないだろう。
「行くぞ、ライ。」
オーウェンの本当の目的。それは以前判らないかもしれない。・・・しかし、ライにとってそれはどうでもいいことであった。
頼れる相棒。心許せる親友。ライにとってオーウェンとは、それ以上でも以下でもないのだから。
「ああ。ルナティックウイングに総督直々の話・・・一体なんだろうな」
しかし、オーウェンは答えない。まるで自分は全てを知っているかの横顔をライに見せながら、その口が動く事は無かった。
何とか言えよとも思ったが、どうせ直に判る事。ならば今はいち早く総督の下へ行くだけだ。好奇心と緊張と―――そんなものを内に秘めながら、ライはオーウェンと共に総督府へと向かった。
それが、思いもよらない出来事の始まりになるとは、彼らには知るよしもない。いや、心のどこかで予感はあったかもしれないが―――。それを確かめる事など、できるはずも無かったのだから。
・・・この時は良かった。何もしらない、この時は。
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