Seraphic Fortune PHANTSY エピソード1
第四話〜エターナルと守護天使〜
―――丁度、その頃。
「・・・つまらないわ、本当」
森の一画で一人の女性が、不機嫌そうに吐き捨てた。女性の外見はスラリとした長身で、黒ずくめの服装。腰を超えるほど長い白い髪をさらりと流し、その手には杖が握られている。
『愚痴ってもしょうがないって。この星を放っておいたら、どれだけのマナが・・・』
彼女の愚痴に反応するように、杖が小さく光を放つ。
「判ってるわ。・・・だからつまらないのよ。この件は『エターナル』が関与してないんだから」
『それがあるべき姿なのは判ってるでしょ。あなたはエターナルとしての自覚が足りてなさすぎなの』
続く彼女の愚痴に、一際強い光を放つ杖。・・・どういう理屈か判らないが、この杖は彼女と会話ができるらしい。最も、直接頭に語りかけるような感じなのだが。
「・・・『自由』のお説教も聞き飽きてきたのよね。本当に第二位なのか疑いたくなるわ」
『それは契約者のあなたがだらしないせいでしょうが! まったく、どうしてこんなのを契約者に選んじゃったのか・・・』
やれやれ、という感じの女性に対して、杖―――『自由』は彼女へと怒りを示す。言葉の割に、どこか楽しそうではあるが。
「そんなこと言われても知らないわよ。・・・それより、こんな普通の星がほんとにマナなんか暴走させるの?」
冗談はさておき、と女性が尋ねる。見渡す限りの森。一部人の手が加わっているゲートやら何やらの要素は見えるが、なんら普通の自然にしか見えなかった。それこそ、異常があるようには思えない。
『・・・アリス!!』
キィィィィィンッ!
その問いかけには答えず、『自由』は契約者の名を強く叫んだ。そして同時に、思念を彼女の頭へと送る。
「ちょっ・・・いきなり何よ!」
突然思念を送られたことで、アリスは驚かずにはいられなかった。様々な情報が瞬時にして送られてきたのだから、無理もないが。
『判んない? うまく気配を消してるけど・・・かすかに感じる力を』
『自由』の言葉に、アリスは意識を集中させる。感覚という感覚が消えうせ、次第に力がはっきりしていく。そうするうちに数十秒、ついにその力を特定する。
「・・・確かに感じるわ。けど・・・私がそうまでしないと認識できないなんて、よほどの使い手ね」
『私もついさっきまで気がつかなかった。敵か味方かは判らないけど、気をつけて』
彼女たちは、よほどのことがない限り気配に気がつかないということはなかった。それこそ、よほどの能力を持った相手でもない限り。しかし『意識』してもかすかにしか読み取れないということは、そのよほどの能力を持っていることになる。それが敵か味方かが判らない以上、先ほどのように冗談をやっている場合ではなくなっていた。
『―――それともう一つ。神剣に似た波動を感じたよ。今は、感じ取れないけど・・・』
考えながら、『自由』はそう告げた。しかし、『自由』もアリスもそれがどういう意味なのかまでは判るはずがなかった。
キィィィィィィンッ! キィィィィィィィンッ!!
―――それは突然だった。『自由』は警告を発するように思念を送り、アリスもまた全身にまとわりつくような力を感じ取ったのだ。
「今のは・・・!?」
全身に未だ残る力の感覚に、アリスは寒気すら感じていた。それは、彼女の持つ力と同等。いや、それ以上とも言える力だったからだ。
『さっきの力みたい。エターナルのものとは違うものみたいだけど・・・』
「行ってみれば判るでしょ。確かめるわよ、『自由』」
強く『自由』を握りしめると、アリスは素早い身のこなしで駆け出した。人間離れしたほどの速度で。
『ちょっとアリス!! ・・・もう、ほんと困った契約者なんだから。こうなったら覚悟決めるしかないね』
止めても無駄なことが判っている『自由』は、自らも力を高めはじめた。その力はアリスへと注ぎ込まれ、二人はそれこそシンクロ状態へと変わる。
―――そして、気配の元へとその力を確かめもせずに打ち込んだ。
ズドオオオオオオオオオオオンッ!!!
すさまじいばかりの爆音が、辺りに響く。真っ白い閃光がほとばしり、爆炎が巻き上がる。
『ちょっと、敵か味方も判らないのに攻撃する馬鹿がどこにいるの!!』
あまりに突然な行動に、『自由』も思わずそう叫ばずにはいられなかった。それくらい、彼女たちの力は強大なのだ。敵ならともかく、無関係なものに向けるにはあまりにも危険すぎる。
キインッ!
―――しかし、その心配は必要なかった。なぜなら、爆炎の中からアリスへと勢いよく大鎌を振り回す蒼き少女が姿を現したのだから。
「どこの誰だか知らないけど、いきなり何なのよっ!!」
怒りをあらわにしながら、大鎌を振り回す少女。しかしその斬撃は乱れがなく、まったくもって隙がない。
「なかなかやるわね・・・」
不意打ちににも関わらず乱れのない攻撃に、アリスは素直に感心していた。エターナルといえども、そこまで冷静にいられるものはそう多くはないのだ。彼女は改めて、少女の強さを認識する。
「・・・って」
爆炎もおさまり、視界がゆっくりと開けていく。そこにくっきりと浮かび上がる、二つの影。その姿に、アリスは肩透かしをくらった気分になってしまった。それが敵じゃないと判断したアリスは、『自由』を収め戦闘態勢を解除する。
「・・・そりゃあ強いわけよ。はっきりいって、話に聞いていた以上」
その二つの影に、アリスは一人で納得していた。どうして強大な力を感じたか、乱れのない斬撃が飛んできたのか。そのどれもが、考えるまでも判ってしまったのだ。
「―――はじめまして、ルナ=フェイドにイリス=シルディア」
やがて完全にはっきりとしてきた二つの影の名前を、アリスを呼んだ。不意打ちしておいてはじめましては無いだろう、と自由は呆れていたが。
「・・・なんであたし達の名前を?」
大鎌を依然構えながら、少女―――ルナがアリスへ問いかける。その眼から明らかな警戒を発しながら。それもそうだろう、いきなり襲ってきた挙句武器を収めてはじめまして。おまけに名前も知っているとあれば奇妙なことこの上ない。
「私達の間では有名なのよね。神をも切り捨てる力の持ち主、そして世界において重要な存在って」
簡潔に、アリスが答える。しかし、それだけで彼女たちには十分すぎる返答だった。
「あなたは一体何者ですか・・・? その杖からも、特殊な力を感じますし・・・」
もう一人の少女、イリスが彼女をじっと見る。突然現れて自分たちを知っているのだから、興味を持つのは自然と言えた。
「・・・さっき『自由』って言ったわね。・・・! まさかあんた、約束されし自由アリス・・・!?」
「え・・・!? 自由の翼の異名を持つ・・・?」
ありえない、といった表情でルナが叫ぶ。その名前を前に、イリスも驚かずにはいられなかった。そんな二人を前に、アリスがふふっと笑みを浮かべた。
「あら、私も結構有名なのね。本来私たちは誰の記憶にも無くなる存在なのに。・・・まあ、あなた達には関係ないか。ルナの言うとおり、私は約束されし自由アリス。エターナルと呼ばれる存在ね」
「エターナル・・・? それじゃあ、あの杖は・・・」
「私の友達でパートナー、永遠神剣第二位『自由』。伝説の武器とかあの類と思ってくれていいわ。もっとも、今は杖の形してるだけなんだけど」
ぶんぶんと軽く振り回しながら、アリスが愛剣を紹介する。扱いは随分と酷く見えるが。
「・・・で。そのエターナルがこんな場所に何の用?」
説明はいらない、とばかりにルナがストレートに疑問をぶつける。
「その言葉、そっくりそのまま返したいところだけど・・・。まあいいわ。多分、あなた達と目的は一緒だと思う」
「世界の均衡を崩しかねない何かを止めること・・・か。最も、あたし達にはほとんどさっぱりなんだけど」
「それは私も。止めて来いって言われたはいいけど、原因がサッパリ。はっきり言ってやる気無くしてたところよ」
そこまで堂々と言っていいのかは知らないが、とにかくこの星で何が起きてるのかはサッパリだった。
『・・・それにしても妙だよ。こんなに人工物があるのに、人の気配がしないんだもの』
先ほどまで口を閉ざしていた『自由』が、静かに自らの考えを述べる。
「ちょっと、何でさっきまで黙ってたのよ?」
『ルナとイリスが敵なのか味方なのか判んなかったから。アリスと違って私は人見知りなの。襲い掛かった相手にはじめましてなんて言える性格じゃないよ』
先ほどのことを根に持っているのか、『自由』はあえて強調して言い放つ。
「あれは悪かったってば! すんだことだからいいでしょ!」
言わなくてもいいのに、と慌てた様子でアリスが言い返した。
「アリスさんと『自由』って仲がいいんですね」
そんな二人の様子に、イリスは思わず笑わずにはいられなかった。はたからみれば、くだらないことで喧嘩してるのだから。
「ま、随分と永い時間一緒にいるから。で、何だっけ?」
何の話をしていたっけ、と『自由』に話をふるアリス。元はといえば、彼女が腰を折ったのだが・・・話が進まないので、それは言わずに話を戻した。
『明らかに人が暮らせるように、この辺りは作られてる。だというのに、人がいない。あの浮かんでる船にいるとしても、一人もいないのは考えられないよ』
『自由』の言うことはもっともだった。この星には、人の気配が気持ち悪いくらいにないのだ。
『でも・・・さっき遠くで数人の気配を感じたかな。あの船から来たみたい』
「あの船ねえ・・・」
言いながら、遠くに浮かぶ大型の船を見つめるアリス。それは船というには少々大きすぎで、小さい惑星くらいは十分あるように見えた。
「・・・とりあえず、目的地はあそこね。あなた達も行くんでしょう?」
「むしろそれくらいしか行く当てが無いわよ」
「そう、じゃあ決まりね。行くわよ、ルナ、イリス」
ちゃっと『自由』を構えると、アリスは先陣きって歩き出した。それだ当たり前とばかりに。
「行くって・・・一緒に・・・?」
ぽかん、とした表情のルナ。イリスはというと、何を言うべきか言葉に困っている。
「何よ、不満? ただでさえ情報が少ないんだからここは協力したほうがいいと思うのだけど」
『いきなり襲いかかっておいてよく言えるね、協力なんて。ほんっとアリスは図太い性格してる』
やはり『自由』は怒っているのだろう。しかしそんなやり取りを前に、ルナとイリスは思わず笑いをこぼしてしまう。
「ふふ、大丈夫です。アリスさんが敵じゃないって判りましたし、一緒にいきましょう!」
「ちょ、ちょっとイリス! 一緒にいくって、本気なの!?」
「え? ルナは駄目なの?」
あっけらかんに言うイリス。そんな風に言われては、ルナも駄目とは言い返せなくなってしまった。
「判ったわよ、もう。一緒に行けばいーんでしょ、一緒に行けばっ」
彼女とて敵じゃないことは判っている。しかしいきなり攻撃されたのもあって、納得しきれていなかった。そのため、口調は自然と乱暴になってしまう
「―――さて、一体どうなるのかしら」
どこか面白そうに、アリスが呟く。その答えが見つかるのは、ずっとずっと先の話になるとも知らずに。
『独り言はいいから、行くよ!』
そんなぼやきに、律儀に突っ込みをいれる『自由』。彼女たちが、またくだらない言い合いをしたのは、言うまでもなかった。
あとがき
はい。二次創作やってる人の頭なんてそんなもんです。ゲバチエルです。
ありえない世界観が二つ飛んできました。片方はオリジナルですが、片方はおもいっきり永遠のアセリアです。
いやですね、裏設定というかまた別の未公開作品に『自由の翼アリス』っていうのがあるんですよ。
永遠のアセリアの二次創作が。エターナルになる前〜なった少し後のアリスのお話ですが。
どうせならってことで、出してしまいました。いやそのどうせなら、っていう考えがアレですけど(笑)
一応アセリアやった人なら判ると思いますが、彼女はどちらの陣営にもつかないエターナルです。
どうせオリジナルだから、勝手に中立作ってもいいかなあと。
それと、永遠神剣は何も趣味だけで出したわけじゃありません。ちゃんと、シナリオにも関連してますよ。本当に。
ユウトとかは出てきませんが、オリジナルのロウ・エターナルとかは出るかもしれません。
オリジナルキャラだからいいよね、と思って勝手やってますが。
彼女らがどんな活躍をラグオルでしてくれるかは、未だ予測不能です。 |