Seraphic Fortune PHANTSY エピソード1
第一話〜コード・ルナ〜
「・・・ラグオルの有人探査!?」
ライとオーウェンが総督府で告げられたのは、ラグオルの有人探査だった。
「そうだ。あの爆発以降、いくつもの無人探査機を送ってきたがどれもが失敗。
そこで我々は、ラグオルの有人探査に踏み切ることにしたのだ」
「やはりそうでしたか。あのような事件があってから発表が無いのはおかしいとは思っていましたが・・・」
なるほど、とオーウェンが頷く。
「だが、そうすることも限界だろう。『パイオニア2』はラグオルへの移民船。大地を目の前にして―――」
「総督、それ以上は言わずとも判ります。それは私とて同じ気持ち、一刻も早く原因を確かめたいところですし」
「そうか・・・。そう言ってくれるとありがたい。それでことの詳細なのだが―――」
「・・・ちょっと待てよ」
しかし、総督が詳細を告げる前に、ライが会話に割って入る。
「どうした? 何か質問でもあるのか?」
「―――なんで俺たちなんだよ。やるならそれこそハンターズ全員に頼めばいいだろう? それにハンターズチームならごまんとある。ルナティックウイングより大きいチームだっていくつもあるんだ。だってのに、どうして俺たちなんだ・・・!?」
総督府に直々に呼ばれる、ということ自体極めて特殊なケースだ。
だというのに、なぜライたちのチームが呼ばれたのかが、彼には判らなかった。
「・・・レッド・リング・リコ。そうですね、総督」
総督の代わりに、オーウェンがぽつりとつぶやく。最初から、判りきっていたかのように。
「・・・・・・」
しかし、総督は何も口にはしなかった。立場上、そうとはいえないのだろう。だがその沈黙こそがまた、答えとも言えるのだが。
「おっしゃらなくても結構です。・・・ですが、心配には及びません。『彼女』のことを確かめようとうずうずしていたのもいるくらいですから」
ちらり、とライを見ながらオーウェンはそう言った。そう、わざわざ言うまでもないことなのだ。
「そうか・・・」
それでも、総督の表情は硬い。やはり、『実の娘』の心配をぬぐうことはできないのだろう。
しかし立場上にも現状においても、私情でハンターたちを動かすことはできないのだから。
「―――それでは、チーム『ルナティックウイング』に任務を言い渡す。ラグオル地表の調査、そしてパイオニア1の生存者確認。とにかく、原因究明を最優先とする。・・・また、危険だと感じたらただちに帰還するように。以上だ」
単刀直入にそういうと、総督は深く頭を下げた。
「やめてくれよ、仮にも総督ともあろう人が。・・・ラグオルで何が起きてるかなんて知ったこっちゃないが、リコの奴はここへ連れてくる。絶対に・・・な」
ライは強い口調でそう言い切った。親友を、必ず見つける・・・そう自分に言い聞かせるように。
「ライの言うとおりです。頭をあげてください、総督。―――大丈夫、すぐにラグオルが安全であることを証明して見せますよ」
やや困ったような口調で、オーウェンが言う。
「ああ、期待しているぞ」
「はい。それでは、失礼します。―――ライ。カナとミラに召集をかけろ。場所は・・・いつもの部屋だ。準備は俺がしておく」
二人はくるりと総督のもとを後にしながら、すぐさま次の行動へと移っていた。
「頼んだ。コード『ルナ』で呼び出せばいいんだろ?」
「そうだ。判ってるじゃないか。じゃあ、二人のことは頼んだぞ」
それだけ言葉を交わすと、二人の姿はすでに総督府にはなかった。
「・・・これで、いいんでしょうか?」
二人が去った後、アイリーンがぽつりと呟く。
「・・・我々は後戻りできないのだ。だからこそ、彼らのようなものに託すしかないのだよ」
どこか複雑な表情で、総督が告げる。心境を察するアイリーンには、そんな総督にかける言葉など・・・見つかりはしなかった。
「―――オーウェン! ライ!」
召集後、二人が部屋で話し合いながら待っていると、透き通るような明るい声が部屋に響いた。見れば、部屋の入り口では二人の女性が立っている。
一人は薄緑色のストレートロングをしたレイマール、もう一人は同じく薄緑色のショートウェーブのフォマール。髪の色や雰囲気からは、二人が姉妹であることが感じられた。
そしてその後ろにはがっしりとした黒いレイキャスト。それは、ライたちにとっては見知った顔だった。
「コード『ルナ』ということは、いよいよ・・・ラグオルへ降りる時が来たんですね?」
フォマールの女性が、判りきっているかのようにライたちのたずねる。
「ああ。総督府から直々に、な。ミラの言うとおり、ラグオルの有人探査が決行されることになった」
「でもオーウェン?」
今度はレイマールの女性が、きょとんとした瞳でオーウェンにたずねた。
「どうした、カナ」
「いやね、パイオニア1の報告によるとラグオルってすごい安全な場所だって聞いたけど」
「・・・そうだな。アレク、その辺の情報はどうなっている?」
確認する必要があると考えたのか、オーウェンは黒いレイキャスト―――アレクに意見を求めた。
情報という面では、人間よりもアンドロイドのほうが明らかに正確だからだ。
「カナ様の言うとおり、ラグオルは非常に安全な場所だという報告を受けています。 先日爆発のあったセントラルドーム周辺は移住区となっており、その辺りにはブーマやラッピーといった温厚な動物が生息していたようです」
自らのデータバンクにある情報を簡単にアレクは説明した。そう、パイオニア1の報告ではラグオルはいたって安全な場所のはずだった。それこそ、爆発など起きる場所などではない。
「・・・だが、無人探査機はどれもが失敗に終わっているらしい。少なくとも、現状でパイオニア1の情報を過信するわけにはいかないだろう」
「そんなこと、言われるまでもねえさ。とにかく行けば判る・・・そうじゃないのか?」
「ライの言うとおり。コード『ルナ』の言うとおり、もう準備はできてるよ? この日のために『ヤスミノコフ2000H』をちゃんと手入れしてきたんだから」
カナは愛銃とも呼べるハンドガンを腰元から取り出すと、強く決意の満ちた表情を浮かべる。
「そうですよ。今は一刻も早く原因を究明させるのが先だと思います。ならば私たちのすることは決まっているでしょう?」
ミラもまた、先端に羽のついた杖『カジューシース』を取り出す。どうやら二人は、とっくにラグオルへ行くつもりらしい。
「やれやれ、エルフェザー家のお嬢様二人はとっくにやる気でしたか」
「もちろん。コード『ルナ』を待ってたくらいだしね」
ため息交じりのオーウェンに対して、勝気な口調でカナが言い切る。
「お言葉ですがカナ様。コード『ルナ』を待っているというのは少々不謹慎では」
そんなカナへ、アレクが釘をさすようにコメントを告げた。
「いいのっ! それよりラグオルへ行くんでしょ、ライ?」
「ああ。これより『ルナティックウイング』はラグオル探査を任務とし、原因の究明を第一とする。パイオニア1の生存者の確認も忘れないでほしい。そして、絶対いかなる時も生きてパイオニア2へ帰還すること。判ってるな?」
ライの言葉に、その場にいる誰もが強く頷く。判りきってる、そして絶対に守る、と。
「それじゃあ行くぞ、ラグオルへ! ルナを実行する!」
「おーっ!」
五人は掛け声と共に、ラグオルの転送装置へと駆け出した。はやる気持ちを抑えながら、まだ見ぬ真実へと。
「・・・さすがはオーウェンが見込んだだけあります。ライさんも少しはマスターらしくなってきたじゃないですか」
―――その途中。ミラはどこか嬉しそうな顔を浮かべてそういった。
「少しは、な。だが、まだまだ一人前とは呼べんさ」
「相変わらず厳しいですね。けれど―――ルナティックウイングを創設した当初に比べればかなり成長してると思いますよ?」
「たった五人のチームだ。成長も何もないだろう」
表情一つ変えずに、オーウェンは答える。そんな彼に、ミラはくすりと微笑んだ。
「とかいって、本当は認めているんでしょう?」
「・・・まあな。そうでもなければあいつをマスターには立たせんさ」
「―――『黒き翼』の異名を持つあなたがライさんを認める理由、いつかは聞かせてもらいたいところですけどね」
「黒き翼か・・・。今はもう、古い呼び名だな。それに、理由なんてないさ。強いて言うなら―――」
そこまで言いかけて、オーウェンは言葉を止める。そして一度首を横にふると、再び口を開いた。
「いや、強いて言うほどのことではないな。それよりミラ、お前のテクニック・・・あてにしているからな」
「ええ、任せてください。最も、テクニックを使う場面が来ないことが望ましいですけどね・・・」
ミラの言うことは最もだった。この有人探査が、ただ単純にラグオルが安全であることを確認できればそれにこしたことはないのだから。
「オーウェン! 姉さん! 転送装置起動させるから早く!」
―――何はともあれ、それらも直に判ること。そう自分に言い聞かせながら、オーウェンとミラも転送装置へと乗る。
「よし、転送装置・・・起動!」
手馴れた操作で、ライが装置を起動させる。ラグオル地表で何が待っているのか、それは・・・まだ誰にも、判らない。
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