約束されし自由アリス
第二話〜女二人、怪しげな場所で〜
「さて・・・何からはじめればいいのかなあ」
―――私たちは、出雲へと到着していた。とはいえ辺りに広がっているのはありきたりな日本の一部分でしかない。
強いて言うならばどこか古臭く、お寺やら神社やらがあるくらいだろうか。出雲大社がある以上、それも違和感なく受け入れられるけど。
そんな光景が珍しいのか、さつきはきょろきょろと見回しては驚いてを繰り返している。私たちが普段都会よりな場所にいるせいもあるのだろう。・・・とはいえ、この様子じゃ何しに来てるのか不安になってしょうがないが。
「・・・最初にホテルよ。こんな荷物持って調査しろって言うの?」
パンパンにつまった二つのカバン。今回の作戦に使うものは日用品などを詰め込んだこれは、正直重いにもほどがある。それに、かさばる。こんなものを持って何かしたくなんてなかった。
「それもそうだね。それで・・・どこに泊まるの?」
興味津々、とばかりにさつきが目を輝かせる。きっと彼女は修学旅行気分だろう。・・・うるさくなること間違いなしなので、今日までどこに泊まるとかは伝えていないのだけど。いや、言ったら絶対否定されるし。
「・・・アリス?」
そうして私たちが泊まる予定のホテルへとたどり着くと、さつきが淡々と私の名前を呼ぶ。
ピンクのかかった怪しい配色の看板に、どこか光を感じさせない不気味なつくり。そして、不自然なライトの数々。大人なら、一発でどういう場所かは判るだろう。・・・それだけに、さつきの思ってることも十分判っている。
「何? もうついたわよ。早く部屋を取りましょ」
「ついたわよ、じゃないでしょー! 何で私とアリスでこんな場所泊まらなきゃなんないの!? いくらなんでもおかしいよっ!」
ありえない、とばかりにさつきがまくしたてる。・・・やっぱ怒るわよね、普通。
「文句、ある?」
「おおありだよ! なんでよりによってラブホテルに泊まるの? 女同士だよ? それに遊びに来てるわけじゃないんだよっ!?」
「そうよ。だから、ここにするのよ。私たちの仕事、どういうものだか判ってる?」
言いたいことは判るし、私が同じことをされても文句をいうだろう。けれど、それにはちゃんとした理由があった。・・・いいえ、そうでもなきゃ私だって選ばない。
「それくらいちゃんと判ってる! でも、それとこれとは―――」
「いい、さつき。私たちは極力秘密裏に行動する義務がある。やってることが表舞台にばれたらとんでもないことになるでしょ? だから、些細なことでも足がつかないようにする必要があるのよ。普通の旅館やらホテルだと手続きがめんどうな上に、しっかりと足が残る。だけどラブホテルは違う。大した手続きもいらない上に、ほとんど足が残らないわ。それが機械清算や部屋清算ならなおさらね。・・・つまりはそういうこと。プライベートじゃ無い以上、これで我慢してちょうだい」
さつきの言葉に構わず、はっきりと理由を述べる。『ラブ』という名称こそあれだが、身を隠したりするには最適だった。私たちのような『裏』の人間にとっては、うってつけな場所なのだ。
「そういうことは先に言ってよ。いきなりこんな場所連れてかれる身にもなってよー」
「・・・前もって教えたら理由があろうが反対するでしょうが」
「う・・・。で、でも! だからってこんな場所に・・・」
「じゃあ、野宿する? 当然のことながら、宿なんて取ってないわよ?」
それでもさつきはここへ泊まりたくないらしい。そんな彼女に、ちょっと意地悪をしてみる。
「それは・・・もっとやだけど・・・」
「じゃあ決まりね。行くわよ、さつき」
最初から、さつきに拒否権なんてなかった。我ながら酷いと思うが、こうでも言わなきゃ入ってくれないし。
「判ったよー・・・」
力無くうなだれるさつき。そんな彼女を半ば無理やり引っ張りながら、私たちはホテル内部へと入る。
そこで待っていたのは、無人のフロント。すぐそばには部屋が空いているかどうかのパネルがあり、そのほとんどが点灯状態―――つまり、空室状態だった。
「人のいないフロントってなんか気味悪いよ・・・」
こういう場所がはじめてなのか、さつきは緊張とも恐怖ともつかない感じでカチンコチンになっている。もっとも、足がつかないようにあえて無人フロントを選んだんだけど。
「部屋、あっち」
鍵を手早く取ると、早足で部屋へと向かった。どういうわけが、さつきがべったりくっついてるんだけど。まったく、お化け屋敷じゃあるまいし・・・。
「・・・部屋は思ったより普通なんだね」
キョロキョロと部屋を見回しながら、さつきがそうコメントした。先ほどより動きが自然になっており、少しは慣れてきたみたいだった。
「一体どんな場所だと思ってたの? まあ、いいわ。とりあえず荷物、まとめときましょ」
「あ、うん」
私たちはとりあえず適当に荷物をまとめた。それが終わると、一息つきながらにベッドへと腰掛ける。
「あれ、何売ってるの?」
もうすっかり落ち着いたようで、面白そうに部屋の一角にある自動販売機へと近づいていくさつき。
「・・・別に面白いもの売ってないわよ」
判ってる私は、一応注意がてらそう言ってみる。が、時既に遅く、自販機の前で硬直している。
「ね?」
「うん・・・。なんかがっかりしちゃった」
さつきは元気がなさそうにこっちへ戻ってくると、そのまま私の隣へと腰掛ける。そもそもこんな場所で何を期待していたんだか。
「そのうちお世話になると思うけど・・・。今のうちに社会勉強は済ませといたら?」
「そ、そのうちって・・・相手がいないよっ」
「とか言って、いつも一緒にいるじゃない? あれは私の見間違いかしら」
「――――!! ア、アリスの馬鹿ッ!! そんなの私の勝手だよーっ」
顔を火が出るくらい真っ赤に染めながら、さつきが私をぽかぽかと叩く。なるほど、そういう意識はしてるんだ。
「それよりっ! これからどうするか決めないと!」
逃げるように話題を変えるさつき。・・・しかし彼女の言うとおり、私たちは何も決めていなかった。やることは色々あるのだが、まだ宿を取ることしか終わっていない。
「そうね・・・」
考えながら、ジャケットの裏側からいつものを取り出す。黒く輝く、シンプルな銃身のハンドガン。しかしあまりに飾り気のないそれは、どこか禍々しささえ感じられた。
「―――とりあえず、現場へ直行かしら?」
ロックを外しながら、もっとも確実だと思われる行動を提案する。あとはさつき次第だが―――。
「さっすがアリス。やっぱりそう来るよねー」
待ってましたとばかりに、さつきが立ち上がる。二振りの刀をジャケットに忍ばす様は、どうやら私と考えは同じらしい。
「まわりくどいの、めんどうでしょ。それに・・・何となく、ただじゃすまない気がする」
根拠があるわけじゃない。ただ、地球のものじゃないエネルギーという時点で現実とかけ離れてるのは間違いなかった。どういうわけかそれが、何かとんでもないもの・・・そんな気がするのだ。
『マナ・・・を・・・』
「え・・・?」
それは突然だった。さつきのペンダントがまたも青く輝いたのだ。しかも今度のは、頭の中にはっきりと言葉が聞こえてきた。
「マナ、か・・・。私たちの機関ではいわばこの世界とは別のエネルギーの総称だったわね?」
「うん。・・・でも、どうしてペンダントから・・・」
マナの意味は判る。だが、さつきのペンダントをどうしてそんな単語を出したのかはさっぱりだった。私にまで、聞こえたし。
「・・・今回調査するのも、言葉の定義で言えばマナよね? もしかしたら、関係があるのかも」
銃器を腰に差しながら、自分の考えを述べる。というより、そうでもなきゃ説明がつかない気もする。
「それだとますますさっぱりだよ。先祖代々伝わるお守りってことしか判んないから・・・」
しかし、考えれば考えるほどに判らないことだらけだった。結局のところ、ペンダントが喋った事実しか判らないのと同じである。
「・・・まあ行けば判るわね。こいつらの出番が来なきゃいいんだけど」
こいつら、とは銃器や刀のことである。有事の際は必要だが、正直進んで使おうとは思えなかった。
「それはその時だよ。・・・アリス、頑張ろうね」
さつきの言葉に静かに、そして強く頷く。・・・こんな時だからこそ、その言葉が嬉しかった。さすがに、こんなこと言えないが・・・。
「それじゃ、作戦開始よ」
決意を新たに、私たちは現場へと向かう。それは―――現実とは違う場所へと、踏み出す瞬間でもあった・・・・。
あとがき
嘘は、書いてません。本当に密偵とかそういう事をやるのなら、ラブホテルが向いてると思ったので実行しました。
あえて現実であることを持ってきて、それでいてどこかずれてる現実。二人っぽいかな、と思って。
でも別に18禁話を書いたわけじゃないので、特に問題は無いかなあ・・・と思ってます。
元ネタとして永遠のアセリアがあるわけですが、あんまり現段階ではそれっぽくないかも?
さて、いよいよ物語のはじまりです。ここまでオリジナルはかなり「日常」という無駄がありました。
それこそ、恋愛ADVのようにズラズラと。しかし小説の場合『絵』と『声』が根本的に足りてない。
そう意識した時、だいぶ削れることに気がつきました。ってわけで、プロローグ部分は四分の一以下になってます。
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