最初の戦闘から一夜明けた日のこと・・・。
若さもあいまって、すっかり回復したマナは、「どうせ行くあてもないから」と、しばらく同行してくれる
ことになったカミューと一緒に、タグスの街で、旅に必要なものを買い揃えてから、次の目的地に行くことに
した。
世界樹がある場所の手がかりがあるかもしれないと言う場所は、昨日、プリティグラスの親子から聞いている。
なので、二人はすっかり安心しきって、今日の買い物へと繰り出してきた。
あれから、リックは、その場にいるのが気まずくなったのか、いそいそと寮へ帰ってしまった。
そんな訳で、今日は、ストーカーの被害にはあわずに済みそうだった。

タグスの街は、昨日とは打って変わって、昼間だと言うのに、ある種異様とも取れる活気に満ちていた。
そこら中に、店の売り子と客が、あれやこれやと話をし、どの店も繁盛している様子。
だが、マナ達が向かった場所は、そんな、生活をするための物などを売っている店ではなかった。
冒険者をお得意様とする、グッズショップ・・・。
ルルドの森の、いまだ未開の部分が多い森の中にお宝のにおいを感じ取ったのかもしれない冒険者達が数人、
その店にはいた。
そこを、マナとカミューが通り抜けようとすると・・・。
冒険者「お、あんたらも冒険か?」
気さくに声をかけてくる冒険者の一人。
それに、どう答えていいかわからないマナだったが、隣にいたカミューは、その声に、こちらも余裕の
表情で言葉を返した。
カミュー「ああ。この子と一緒に、世界中を回ろうと思ってね。」
その横顔からは、やはり、冒険者としての心得がビシバシと伝わってくるようだった。
しかし・・・。
他の冒険者も、カミューの話についてきていたが、やはり、マナだけは、その輪の中には入れなかった。
しばらくしてから、カミューがその事に気が付く。
カミュー「あぁ、ごめんごめん。すっかり話に夢中になってしまった。」
ちょっとむすーっとし始めてきたマナを、カミューは懸命になだめる。
その光景を見て、冒険者達は一様に、大笑い。
冒険者「あはは、嬢ちゃん、冒険は初めてのようだなぁ?まぁ、せいぜい頑張れや。」
・・・相手が子供だと言うことで、見下しているようだった。
その時、その人とは別の冒険者が、急に、昨日の、マナ達のモンスター狩りの話題を振ってきた。
その様子は、子供に出し抜かれたな、と言うような、一種後悔の念が混じっているみたいである。
さっきまでしゃべっていたカミューも、この話については、しばらくじっとして、話を聞いている。
と、気が付くと、一人の冒険者が、マナのほうをじろじろと観察し始めた。
しばらくそれをすると、今度は、あーっ!と驚きの声を挙げた。
冒険者「ひょっとして、昨日、ここの連中が騒いでた英雄ってお前!?」
それを聞いたほかの冒険者も、次々に「あぁーっ!」と奇声を挙げる。
本来なら「そうでーす!いえーい」とでもやりたい年頃なのだろうが、ここはぐっと我慢我慢・・・。
マナ「わ、私、あれからずっと寝てたから、よくわからないですけど・・・そうみたいです。」
上がってしまって、思わずカタコトになるマナ。
今まで散々のけ者にしてきて、いきなり話を振られたら、こうなるのもうなずけるのだが・・・。
そこへ、カミューが口を挟む。
カミュー「ああ。この子が、近くの魔法学校の首席で、卒業試験を兼ねた、ある物を探す旅をすることになった子だよ。」
・・・え?
その言葉に、マナは驚愕した。
卒業試験の内容は、全然話していない。
なのに、何故。
その事をカミューに問いただすと、彼女は、こう言うだけに留まり、また冒険者と話し始めてしまう。
カミュー「あの魔法学校は有名だからね。試験内容も、噂で流れるのさ。」
むぅ〜・・・。
あっさりと答えられた都合の良い理由に、マナは納得がいかなかった。
もっと、しっかりと答えてほしかったのに。
しかし、今のマナに、それを主張するだけの度胸はなかった。
再び、冒険者と話し始めたカミューを、ただ恨めしそうに見つめるしか、できなかった。

それから、カミューは、他の冒険者との談笑を、しばらく楽しんでいた。
当然、マナについての事も何個か触れられたが、やはり、冒険初心者の彼女のことをいくら聞いても、
冒険者達は2言、3言で終わらせてしまい、結局、マナにしゃべる権利は与えられなかった。
そうしている間にも、時間はどんどん過ぎて行く。
置いてけぼりにされているマナの心の中には、少しずつ、不安と寂しさが募っていった。
本来の目的を、忘れている・・・そんな気さえ、漂い始めている。

と、そんな時だった。
ジト目でこちらを見つつ、店主が現れたのは。
さっきから、買い物をしようともしないでしゃべりまくっているこの冒険者達のことを、商売の邪魔だ
とでも思ったのだろう、店主は大きく咳払いをし、彼らの談笑を制止した。
そして、言う。
店主「買わないんだったら、さっさと出ていきな・・・」
その表情は、元からゴツい無精ひげのスキンヘッドとあいまって、相当怖い。
さすがの冒険者達も、それにはひるんだ様子で、「あ、すまねぇ、本来の目的を忘れてた」と、次々と、
品物が陳列されている棚のほうへと散っていった。
この状況に、逆にマナは、ようやく解放されたと言う気持ちで、ちょっとだけ幸せになってしまった。
カミュー「じゃ、私たちも、必要な物を買うとするか。」
そう言って、カミューは、真っ直ぐ、保存食が陳列されている棚へと向かっていった。
マナ「あ、待ってよ!」
幸せ気分に浸っていたマナが気が付いたときには、すでにカミューは、めぼしい食料を手に取り、
いそいそと、今度は防寒具がつるしてある場所へと向かっていた。
その後を追い掛けるマナ。
通りすがりには、さっきまでいかつい顔をしていた店主の姿が。
すると、その店主は、急に、マナを呼びとめた。
立ち止まり、「何ですか?」と振り向くマナに、店主は・・・
店主「そう言えばお前、魔法学校のエリート嬢じゃねーか。昨日はごくろうだったな。」
と、ただでさえ怖い顔を、異様に緩ませて(別の意味で怖い)、その顔を、マナの顔の位置まで下げてきた。
この顔・・・少しいやらしい。
マナ「はぁ・・・どうも・・・」
とりあえずそう返したマナだが、その頬には一筋の汗がたらり。
店主はと、それから、何もしゃべらずにこちらのほうをじろじろと、まるでなめまわすかのように
見回している。
ひ、退く・・・。
この時、マナが思っていたこと、それは・・・
「この人・・・顔も目つきも怖すぎる・・・変態?」
だが、いくらマナが思ったことをすぐ口にしてしまうタイプであろうと、さすがにこれは口には出せない。
とりあえず、「あの、何でしょう・・・?」と、恐る恐る聞き直してみる。
すると、店主は、さっきまでのいやらしい顔をころっと変え、急にまじめな顔をして、こうマナに言って
来た。
店主「そう言えば・・・魔法学校の実地試験、今年だけ特別らしいな。」
マナ「あ・・・どこで聞いたんですか?」
店主の言葉に、マナはとっさに問う。
それに対して店主は、こんな事を、さっき思い出したかのように語った。
店主「何でも、1ヶ月ほど前に、変な長身の男がやってきて・・・それから、急に変わったんだそうな。
      ほれ、あそこにいるポニーテールみたいな奴だ。」
マナ「えっ・・・」
その言葉に、マナは絶句した。
たしかに、今年の卒業試験は特別なものだった。
魔法学救済を兼ねた、実地試験。
そもそも、考えてみれば、おかしい。
普通なら、熟練の魔導士たちが、あらゆる手段を尽くして、世界樹のありかを捜し当てるはず。
それを、学生にやらせるのは・・・。
そして、長身の男が来てから、急に変わったと言うのは・・・。
学長が、何かを告げられたのか。
それだけで、急に変わってしまうのか・・・。
しかも、それが、カミューそっくり・・・。
何かあるに違いなかった。

マナは、必死に、疑問を解決しようと、頭の中で、いろいろなケースを考えていた。
でも、いくら考えても、わからなかった。
その時、ふと、自分のポシェットが目に入る。
中には、大切なものが入っている。
そう、いつかの誕生日にもらった、最後のプレゼントも・・・。
とっさに、ポシェットから、その中身を取り出す。
それは・・・聖書。
幼かった頃にもらったもので、当時はどうしてこんなものをくれたのかわからなかったが・・・。
一つだけ、1ページだけ、興味を持った個所があった。
ページ・・・いや、石盤。
そこに彫られている、その前のページの文字とは明らかに違う、おそらくは古代文字だろう、それを、
なぜか自然に読むことができたマナにとって、その中身は、ある種・・・滅びのときを現す予言だった。
マナ「・・・これと、関係があるのかな・・・。」

アルトな声「ごめん、待たせたな。」
マナが、そこまで考えに及んだ時、すでに買い物を終えたカミューが声をかけてきた。
さっきまで、マナのほうをじろじろと見つめていた、あのイヤらしい店主も、すでに、自分の持ち場へと
戻っている。
マナ「あ。・・・ちょっと考え事してたから、大丈夫・・・」

それから、彼女たちは、増えた荷物を手に、店を出た。
その間も、マナの頭の中は、さきほど浮かんだ疑問のことで、頭がいっぱいだった。
そして、その疑問は、ついに、頭の中だけでは治まらなくなり・・・
マナ「ね、カミュー・・・。魔法学校に、立ち寄ってない?・・・その、一ヶ月前に。」
ついに、言ってしまった。
でも、この疑問が解決されないと、頭がおかしくなりそうだった。
答えてほしい。
これから、時を同じくするのだから。
その思いは、カミューにもしっかりと伝わっていた。
カミュー「・・・立ち寄ったよ。」
重い口調で、そう答えるカミュー。
だが、その後、マナがいくら、もっとも重要な部分を聞こうとしても、カミューは答えることなく、
ただ、「そのうち」と言ってはぐらかす。
さすがに、マナも、終いにはこう言って、その話を終わらせた。
マナ「じゃ・・・いつか、話してね。絶対だよ。」
その言葉に、カミューは、ただ黙って、こくりとうなずいた・・・。

買い物は終わった。
だが、終わった頃には、すでに、日が西に傾いていた。
カミュー「ああ・・・つい話し込んでしまったな・・・これでは、出発は明日だ・・・」
自らの失敗に、あちゃー、と頭をかかえるカミューに、マナは、ちょっと笑いながら、ツッコんだ。
マナ「そりゃー、あたしをのけ者にして、楽しそうにおしゃべりしてたもんねぇ・・・。」
そして、二人の間に広がる黄昏。
気が付けば、もうカラスの声が、四方八方に響き渡っていた。
と、そこへ・・・カラスに混じって、乱暴な男の声が・・・。
ブルーメッシュ「あー、いたいた!ったく、どこ行ってたんだよ!」
・・・げ、リック・・・。

マナ「あんた、寮に戻らなくてもいいの?宿題出てるんでしょ?」
疲れた様子で、マナが言う。
だが、リックは得意げに、その言葉を思いっきり否定した。
リック「宿題なんて、しばらくは出ねぇよ。」
・・・へ?
マナが聞き返すと、なんと・・・。
リック「休学届け出してきた。卒業試験受けられないんじゃ、どーせもう一年?だったら、お前に付いて
        行ったほうが、楽しいしな。」
・・・マジデスカ・・・。
と、ため息一つ。
それはカミューも同じで、あきれながら、「おいおい・・・」ともらす。
しかも、よく見ると、どこから持ってきたのか、旅支度はすでにばっちり、完了していた。
マナ「あんた、付いてくるのはいいけど、襲わないでね」
もはや、マナの精神的疲労はピークに達していた。
つい、憎まれ口を叩いてしまう。
それにカンカンになったのは、当然ながら言われたリック。
リック「襲うわけねぇだろ!!ったく、何なんだよ、こないだからストーカーだのなんだのって!
        お前には慎む心ってのがないのか!?」
・・・それは、あんたに言いたい。
その場にいた、リック以外の全員が、そう思っていた・・・。

こうして、新たなメンバー(?)を加えて、一行が宿に戻ったのは、すっかり、一番星が見える頃になっていた。
力なくドアを開けるマナに、やる気満々のリック、そして、いつものように、宿屋の親父に、気軽に声を
かけるカミュー。
三者三様の行動をとりながら、もう一泊泊まることをオヤジに告げ、昨日の部屋へと足を運んだ。
すると、そこには、昨日助けた、プリティグラスの親子が、待ちかねた様子でこちらに手を振っていた。
カミュー「おや、森に帰ったと思ったら、こんなところにいたんだ。」
そう言って、カミューは手を振り返す。
一方のプリティグラスの手には、何やら、透き通った玉が握られていた。
プリティグラス「あの・・・昨日、お渡ししようと思って忘れていたのですが、これを・・・。」
それを、シルフィーの母親が差し出す。
マナ「ありがとう。」
ありがたく受け取ったマナ。
そして今度は、シルフィーが口を開く。
シルフィー「あと、これはお願いなんですけど・・・。私も、一緒に連れていってくれませんか?」
・・・突拍子もなかった。
しかし、マナにとっては、うれしい申し出だった。
リックと一緒に旅をすることになって、これから先がお先真っ暗だった彼女にとっては、せめてもの救いだった。
しかし、今は自分一人ではない。
ここは、話し合わねば。
そう思って、マナは、他の二人のほうを向くと、「どうする?」と、それぞれの意見を聞いた。
カミューは「いいんじゃないか?プリティグラスと言えば、博識だし。」と言ってくれた。
だが、リックは・・・。
リック「戦いもあるんだから、子供を連れて行くわけにはいかないんじゃねぇか?俺は反対だぜ。」
言ってることは正論だが、なんかムカつく。
マナ「でも、人間の子供じゃないのよ?戦力にはなるわよ。」
食って掛かるマナ。
だが、両者、一歩も退かない。
いがみ合う二人。
マナ「あんた、勝手に付いてきてるくせに!」
リック「俺だって一緒に行くんだから、意見くらい尊重しろ!」
・・・いつもの言い合いが始まった。
これでは、収拾が付かない。
そう判断したカミューが、二人を制止し、ある提案をした。
それは・・・。
カミュー「多数決、ってのはどうだ?ちょうど3人いるから、必ずどっちかに決まる。」
その言葉は、マナに対する助け船だった。
この時点で、リックの意見が通らないのは目に見えている。
さすがのリックも、これには大反対した。
リック「って、やる前から結果出てる・・・んぐぐっ」
その減らない口を手でふさいで、マナは「さんせーい!」と喜びの声を挙げる。

・・・多数決の結果は、皆まで言わなくてもお分かりでしょう・・・?

シルフィー「皆さん、よろしくお願いしますね。」
そんなこんなで、シルフィーの同行が決定した。
中にはいまだにぎゃーぎゃー騒いでいるおばかもいたが、それは完全に無視だった。
カミュー「よろしくな。」
先頭を切って挨拶したのはカミュー。
その後ろでは、何を言われたのか、ショックのあまり撃沈しているリックと、勝ち誇るマナの姿が。
彼女はその後、すぐにシルフィーの元へとやってくると、ぺこりとお辞儀をして挨拶した。
マナ「長い旅になるよ、頑張ろうね!」
シルフィー「はい!」

こうして、大混乱の中、夜は更けていった・・・。

明くる朝。
鳥のさえずりに目を覚ましたカミューが、皆を起こして回る。
カミュー「ほら、出発の準備をして。」
すっかり引率の先生みたいな感じになってしまっているカミューの声に、まず反応したのはマナだった。
マナ「お、おはよう・・・早いね・・・」
寝ぼけ眼をごしごし拭きながら、何気なく外を見てみると、まだ日が昇って間もない時間だった。
続いて、シルフィーが起きる。
シルフィー「おはようございます・・・」
こちらは意外にも目覚めはいいようで、夜になって閉じていた頭の花も、すぐに開いた。
そして、問題は・・・やはり、この男。
リック「・・・んー・・・あと5分・・・いや、3分寝かせて・・・」
一向に、布団から出ようとしない。
カミュー「まったく、今日は出発なんだから、最初くらい気持ちよく目覚めなよ・・・。」
そういくら言っても、やっぱりうなり声を挙げて、そのまま布団をかぶってしまうリック。
こうなれば、最終兵器の登場である。
マナ「・・・起きなさいってばストーカー!えっちな夢でも見てるんでしょ?」
マナは勢い良くリックの布団をひっぺがすと、耳元で声を挙げた。
効果はてき面、「ストーカー」に反応したリックが、ものすごい剣幕で怒りの目覚めをし、「お前なぁ〜!」と、
今にも殴り掛かりそうな表情でマナに迫る。
マナ「・・・はい、起きた。こーゆー奴の起こし方はこうよ、わかった?カミュー」
カミュー「・・・はぁ・・・。」
リックの形相を見てもケロッとして言うマナに、カミューは呆気に取られていた。
そこへ、誰もが思ったはずであろう事をツッコんだのはシルフィー。
シルフィー「あの、マナさん、妙に、手慣れてますね?」
その場の空気が、一気に凍り付いた。
急に、慌て出すマナ。
その表情は、いかにも、「まずい、勘違いされた」と思ったような感じである。
無論、シルフィーが言いたかったのは、「以前にもこういう事があったんだろう」と言う疑いの念から
来るものなのであるが。
それを聞いたカミューも、「あぁ、なるほど」と、勝手に納得している。
これは、マナにとっては大ピンチだった。
マナ「ち、違うわよ!!こんな奴と一緒の部屋に泊まったのなんて、初めてだもん!!」
大急ぎで否定するマナ。
一方のリックは、にやにやしながら、ベッドから立ち上がってマナに近づき、「ありがとよ、奥さん」と、
まるでざまあみろと言わんばかりに、マナの肩をぽんっと叩いた。
マナ「セクハラするなストーカー!!それに奥さんって何!?ひどすぎる、みんな!!」
どっと湧き起こる笑い声。
しかし、当事者であるマナは、思いがけないリックの逆襲に、半べそでわめくしかなかったのだった。

そして、チェックアウトの時間がやってきた。
さっきのやり取りは非常に長いものになっていたが、それでも、まだ、小鳥のハーモニー以外に聞こえてくるのは、
マナ一行の足音くらいである。
カウンターの前まで行くと、そこには、すでに店の親父が、朝も早くに、慣れた手つきで働いていた。
カミュー「おっちゃん、チェックアウトよろしく。」
昨日と変わらぬ様子で、カミューはオヤジに言った。
オヤジ「あいよ。どこへ行くんだ?」
こういうシチュエーションには慣れているのだろう、オヤジも同じように、気軽だ。
カミュー「ああ、フェイテスって街だよ。それまではどのくらいかかるんだい?」
カミューがそう言うと、なぜかオヤジは顔を曇らせた。
その表情は、ちょっとだけ、連れの子供たちを哀れんでいるようでもある。
それに気が付いたカミューが、不審に思って、オヤジに聞き返す。
カミュー「どうしたんだい?浮かない顔して」
すると、オヤジは、一行に、こんな事を言い始める。
オヤジ「あの街はの人間はほとんど皆、よそ者には差別的なんだよ。冒険者なんかが行っても、きっと、
        不快な思いをして帰って来るハメになるぞ?」
その言葉を聞いて、マナが一抹の不安を覚えたのは言うまでもない。
その不安(と言うよりは不満)を、彼女が口にしたのは、まもなくのことだった。
マナ「いやだなぁ・・・。みんな、一緒なのに・・・、そういうのって。」
言って、視線を床のほうへと向ける。
しかし、カミューはそういうのには慣れているのであろうか、「なんだ、そんな事か」と、軽く笑ってみせ、
「何、心配することはないよ。冒険にはそういうのは付き物だからね」と言うニュアンスの言葉を、マナ達に
言い聞かせた。
つられてシルフィーも、「そうですよ」と言う。
何だか、いやそうな顔をしているマナ。
それとは対照的に、リックは「ははん」と鼻で笑うと、こう言って、マナの方を見てにやにやしていた。
リック「なんだ、お前、人には散々差別的発言しておいて、自分がされるのは弱いんだな。」
相変わらず、一言多い男である。
しかし、その言葉は、都合よくも、マナの耳には入ってはいなかった。
一人、頭を抱えて「あうう・・・」ともらすだけ。
それを見かねたカミューが、その場を仕切り直してみせる。
カミュー「まぁ、中には友好的な人もいるだろうさ。それをアテに、早く出発しよう。」
マナ「・・・うん。」
この言葉に、マナはしぶしぶ、出発することを決意した。

こうして、タグスの街を出た4人は、プリティグラスの親に教えられた道順をたどって、一路、フェイテスの街へと
向かっていった。
フェイテスの街までは、およそ半日かかると言う。
もちろん、皆、この街に行くのは初めてのことで、その街の予備知識と言えば、「街と言うよりは村に近く、
一様に差別的」と言うことくらいである。
本当に、そんな場所で、世界樹の手がかりなどあるのかと言う、一種の不安はあったものの、ここ以外に、聞き出せそうな
場所は思い当たらない。
ならば仕方ないと、半分諦め調子でもあった。

歩きながら、周りの風景を見渡してみると、左手には、一面に広がる大きな森が見える。
実は、ルルド大陸の大半は森に包まれており、人家がある場所までは、結構な距離があったりする。
まぁ、不便な大陸ではあるのだが、食料と水には困らないので、みな、その事に関しては目をつぶっていた。
道を行き交う人間は、見当たらない。
まぁ、フェイテスから半日かけてタグスまでやってくる人と言うのも珍しいと言えば珍しいので、当然のことなのではあるが。
そんな道を、一行は足早に抜けていった。

ところが・・・。
そろそろ半日経とうかと言う時刻になっても、フェイテスの街らしきものは見えてこない。
歩きつかれたマナが、その場にへたっと座り込み、「何で着かないのよ・・・」と愚痴をこぼす。
カミュー「聞いた通りに来たはずなんだが・・・」
つられてカミューも、見えるはずのない街を、きょろきょろと探してみて回ってしまう。
リック「ひょっとして、道を間違えたんじゃねーの?分かれ道とか結構あったし。」
と、意外に冷静なリックが言う。
たしかに、言われてみれば、そろそろ記憶があいまいになってきているところなのではあるが・・・。
しかし、シルフィーはそれを否定した。
シルフィー「・・・私の記憶だと、この道で合ってるはずですが。」
マナ「そっかー・・・。」
出るのはため息ばかりなり、であった。
しかし、こんなところで立ち往生していては、野宿決定である。
と言うことで、ここで退き返すかどうか・・・は、カミューが、自分のカンを頼りに決めた。
カミュー「仕方ない、もう少し進んでみるか・・・」
またも、歩き出す一行。
だが、その道は・・・。

なおもしばらく歩いた一行。
しかし、見えてきたのは、街ではなく、森でもなく、ちょっと切り立った岩場だった。
これは・・・。完全に、道を間違えたようである。
それを悟った一行は、一様に、こう思う。
「どーしよ・・・タグスまで引き返すと言っても、遠すぎるし・・・」
一行の間に流れるのは、困惑によどんだ空気。
それに混じって、強い風がながれてきたのは、それからしばらく経ってからのことだった。
カミュー「・・・?」
その風に、カミューは何かの違和感を覚えた。
それは、マナも同じで、突然吹いてきた風に、急に辺りをきょろきょろと見回す。
そして、「この風、おかしくない?」と、いぶかしげに皆に聞く。
カミュー「ああ・・・これは、人工的な風だな。魔力も流れてきているようだし。」
それに、カミューはそう答えて、さらに、風の出所辺りを見回す。
と・・・。

女の声「迷子の迷子の小猫ちゃん・・・うふふ・・・」

どこからか、風に混じって、女の声が聞こえてきた。
その声は、歳にして、マナと同じか少し上くらいの感じの、ちょっと綺麗な声だった。

「誰だ!?」

一気に、緊張感が高まる。
しかし、その声の主は、逆に、ちょっと慌てた様子で、さらに言葉を返してきた。

女の声「やだなぁ、そんな怖い顔しないでよー」

マナ達の後ろのほうで、ふっと気配が現れる。

「!?」

そこに現れたのは、なんと、緑の長い髪の毛の少女だった。
服装は独特な、どこかの食堂屋とも取れる白衣に似た感じの、いわゆる民族服のようで、背は、マナより少し、
低いくらい。
髪の毛同様、緑の瞳が特徴的な子である。
カミュー「あんた・・・誰?」
思わず、カミューがそれを聞く。
すると、間髪入れずに、その少女は、髪を風になびかせながら答えた。
シュシュテ「あー、あたし?風使い、シュシュテ=エンベスト。この谷に住んでるの。」

突然現れた、この少女。
現れたからには何か目的があるのだろうが、それは、一体・・・?
  

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