少女「はぁぁぁぁぁぁ〜」・・・。
今、少女はとっても憂鬱である。
何しろ・・・

「受験生が、あたしだけ!?」
校内に響き渡る、甲高い声。
その発生主が、彼女だった。
そうなるのも無理はない。
今年の卒業試験の受験資格を得たのが、何と、彼女だけだったからである。
そもそも、この学校のレベルはトップクラス。
学校と言っても、我々のように、四則演算読み書きパソコンを習うような場所ではない。
この世界――緑の大地「ファリスタ・スラスト」には、我々が使えない「魔法」と言う技術がある。
ファリスタ10,000年の歴史が培った英知だ。
ようは、それの専門学校なのである。
そんな所の卒業試験が、今回は彼女しか、受験する資格がないのだ。
「あたしの他にもできる人、もっといっぱいいたよーな気もするのに、何で?」
校内の掲示板に張り出された受験資格取得者名簿の前で、ただただ彼女はため息を吐いていた。

そうそう、紹介が遅れてしまったが。
彼女の名前は「如月麻奈」。学校の友達からは「マナ」の愛称で親しまれている、14歳の少女で、
いつも自前の、セーラー服に似た緑と白の上着に青いプリーツスカート、その下にスパッツを
決め込んでいる。
彼女が、ひょんな事から通い始めた魔法学校。
確かに彼女はトップ・オブ・ザ・トップの名にふさわしい秀才だった。
器量良し、体力は若干、ほかの生徒には劣るが、校内では天才美少女ともてはやされている。
もっとも、彼女はそんな事、気にも留めていないのだが。

話を戻して・・・。
そんな、校内で一人だけの受験生に選ばれてしまったマナが次に向かう場所は、担任の教師・・・
もとい、試験官となる先生がいる、個室の職員ルーム。
確かにうれしいが、一人だけと言うのは恥ずかしい。
そんな気持ちを抱きながら、彼女は向かった。
これから発表される試験の内容に、緊張の度合いを深めながら。

コンコン。
「失礼しまーすぅ・・・」
恐る恐る、職員ルームのドアを開けるマナ。
そこにいるのは、担任兼・試験官。
たった一人きりで、彼女を待ちわびていた。
「お、来たな。調子はどうだい、マナ?」
試験内容の発表だと言うのに、妙に気さくにしゃべりかけてくるこの男性。
彼もまた、魔術師。
一般には、ソーサラー(女性はソーサリス)と言う名称で呼ばれる存在である。
「さて、来たところでさっそくだけど、試験の内容を発表するよ。」
「は、はいっ!!」
マナの緊張の度合いが、ピークに達しようとしている。
「魔法力の根元が何か、もちろん覚えているよね?」
試験官の目がキラリと光る。
「は、はいっ!!」
爆発寸前の彼女の胸が、さらに躍る。
「あたしと、同じ名前の、「マナ」です!」
その緊張ぶりに、言葉が思わず途切れ途切れになっていく。
しかし、試験官は余裕の表情を保ったまま、淡々と質問を続ける。
「それはどこにあるかな?」
「はい、宇宙です!」
・・そう、この世界における魔法の源は、宇宙から降り注ぐ「マナ」と呼ばれる成分から成り立って
いる。
いわば、魔法の基本中の基本、と言うわけだ。
「そうだね。さて、試験の内容だが・・・」
この時、試験官はなぜか、ニヤリと口を歪ませた。
「・・・まさか・・・宇宙に行け、って事ですか・・・?」
マナの緊張の顔が一変、いやぁ〜な顔になったのは一目瞭然であった。
しかし、試験官は、やっぱり笑顔で「そうだよ」と答えた。
その場にて、思いっきりコケるマナ。
その様子を見ながら、先生はアハハと軽く笑ってみせると、いよいよ重要な部分を言ってくれた。
「冗談だよ。本当の試験内容はね、宇宙にあるマナを紡ぎ出すとされる、世界のどこかにあるはずの
  世界樹を探してくること。探してきて、見つけた証を持って、この場に帰ってくること。」
先生のその言葉の半分以上言ったところで、ようやく体を起こしたマナは、その首をかしげ、言う。
「あれ・・・世界樹ってたしか、地図の果てにあるところの・・・」
「そうだね。でも、つい最近、謎の原因で、精霊反応がなくなってしまったんだよ。」
急に神妙な面持ちになって、先生は言った。
「え・・・?」
つられてマナの顔も、神妙になった。
先生の話によると、今までは地図の果てに描かれている孤島で、管理人と呼ばれる人の守護の基に、
マナを紡ぎつづけていたと言うが、最近になって、その樹に宿る精霊の生命反応とも言うべき代物、
その名も「精霊反応」が急激に薄れ、今では感知できないくらいになってしまったとのこと。
「そ・・・それを、何であたしが探さなきゃいけないんでしょう・・・?先生。」
不安いっぱいに聞いてみるマナ。
すると先生は、再び明るい顔を取り戻すと、こう答えるだけにとどまった。
「それは、旅の中で見つかるさ。」
その後で、先生は、もっとも重要とも言える部分を口にする。
「期限は半年。それ以上かかると、精霊が消えてしまうかもしれない。急いでほしい。」
その言葉に、マナは、何であたしが・・・とココロのなかで思いつづけながらも、元気いっぱいに
返事をした。
「はい!」
その返事を聞いた先生の顔が、少しだけほっとした表情になった後・・・。
「では、行ってよろしい。がんばってくるんだぞ。」
「じゃ、失礼しましたー!!」
マナは今までの元気を精一杯に復活させると、勢い良く・・・ドアを開けた!!
バンッ!!
・・・ん?何かが当たったような・・・。
ブルーメッシュの男の子「いってぇ〜・・・っ」
その声のした方向は、マナの足元だった。
その場所に目を向けるマナ。
するとそこにいたのは、いつもマナのところを見ていたりしていた、ちょっと言葉づかいが乱暴な男の子
だった。
身長はマナより少し高め、金の髪の毛につむじの辺りがブルー。
青い瞳が特徴的な、ちょっと変わった男子生徒だった。
「おい、どこ見てドア開けてるんだよ、お前!!」
怒鳴り散らす男の子。
「あー、リック。なにやってんの、こんな所で?」
とぼけた調子で、マナは平然と答える。

リックと呼ばれたこの男の子。実は、本名ではない。
本名は、「草薙 力(りき)」。
どうにもこうにも、親のネーミングセンスが疑われる子供だった。
このリックと言うあだ名、マナから送られたものらしい。

さてさて、通りかかったのかどうか分からないが、リックをドアで思い切りどついてしまったマナ。
「ったく!俺は漫才師か!!こんなコケ方させやがって・・・」
痛い背中をまだ押さえつづけるリック。
それに対してマナは、急にはっとした表情を浮かべると、指差し大声でいきなりこんな事を言い出す。
「あー、あんた、ひょっとして、あたしのストーカーでしょー!!」
「す・・・すと??」
そのあまりにも意外な言葉に、一瞬声を失うリック。
だが、すぐにまた頭に血が上って、彼は怒髪天に昇ってさらに怒鳴り散らした。
「なんだと、オラ!!」
しかし、マナは動じない。
すぐにこう言葉を返すと、くるっと後ろを向いた。
「朝からずーっと覗いてたのもあんたね!!お風呂とかも覗いてたんでしょ、いやらしぃ〜」
「な・・・」
また、声を失うリック。
なんで、そんな話に発展するんだ。
とりあえず、リックは否定した。
「ちがーう!!」
だが、不安や緊張から解き放たれたマナを止められるヤツは誰もいなかった。
「きゃぁぁぁぁ、助けてせんせー、ストーカーに襲われるぅ〜!!」
そう言って、なぜか玄関のほうへと駆け出すマナ。
そんなマナに、もう、リックの怒りは頂点に達していた。
「ふ・・・ふざけるなテメェ!!待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

それから、マナは懸命に、かけて行った。
ストーカーから避難する・・・げふんげふん、世界樹探しの旅に、出発するため。
その先にある、自分の「運命」、「前世」、そして、「宿命」に、彼女はまだ、気づいていない。
そして、今、もっとも重要なことにも・・・。
  

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