夢の星の物語 ――夢乃Side 3:初デート・・・になるのかなぁ?(後編)

ここは、季節外れの雪が降り出した高浪の中の一角・・・大地の家。
その中の2階部分のほぼ半分を占めている部屋があった。
そこに通された夢乃と星乃の目に、まず飛び込んできたのは・・・
「うわ、プラモデルだらけ!?」
所狭しと飾られた、無数のプラモデルたちだった。
よく見ると、いかにも古めかしいのまでまざっている。
その一つを手に取った夢乃は、それを指差して「これ、レトロだねぇ~」と言ってみせた。
すると大地は、勝手に持ち出したことを怒るでもなく、ただ、「ああ、組み立てちまったからもう
コレクターにはウケないけど」と返すに留まっている。
・・・それにしても、長年集めたプラモデルの数々は、こんなにも異様な風景を作り出すものなの
だろうか・・・。
その数はもはや、部屋の3分の1を占めているほどで、一歩間違えば、数点軽くぶっこわせそうな
くらいに、人間がいれるスペースは狭い狭い。
棚には置ききれず、机にまであるのだから。

それはさておき、大地の部屋に入った二人は、実はあるものを無意識のうちに探していた。
それは・・・
「なぁ・・・さっきから、何探してるんだ?」
いぶかしげに聞く大地。どうやら、何をしているのかさっぱりわからないようである。
だが、二人・・・特に夢乃は、あるモノ探しに夢中になってて、その声は耳に届かない。
変わって星乃が答えたのは、大地が声を発してから、しばらく経っての事だった。
「え、あまりにもすごいコレクションだなぁー・・・って。」
・・・もちろん、嘘である。
と、その時だった。
唐突に、夢乃が机の横のベッドの下に潜り込んだのは。
その言動に、大地は絶句している。
「お、お姉ちゃん!?」
星乃も仰天している。
だが、夢乃の探索行動はなおも続く。
「♪~~、~~」
なぜか鼻歌が混じっている。
そして、夢乃はまたもや唐突に、ベッドの下から出てくると・・・。
「よかったー・・・いけないご本がなくて。大地、ありがとう」
この時、夢乃の顔には満面の笑みが零れていた。
「そんなの探してたのかよ・・・。」
こんな事されても、大地はなぜか怒らなかった。
幼なじみのよしみ・・・と言っても、多少行き過ぎている。
この時、夢乃は心の中で、こう思っていた。
(大地って、意外と穏やかになったなぁ・・・)

こうして、ようやく、夢乃の奇想天外な行動は終了し、3人はようやく、腰をたたみへと落ち着ける
事ができた。
こうなれば、後は、当初の予定どおり、おしゃべりに興じるだけだった。
そこで、夢乃が切り出した話題は・・・
「ねぇねぇ、さっきの告って来たコの事、もっと聞かせてよ。」
これだった。
だって、気になるもの。
これが理由。
これからどう落としていこうかと言う相手に、以前目をつけた女が、どういう子で、どんな風に知り
合ったのか。
それは星乃も同じで、その話題を持ち出すと、二人そろって、まるで同じ頭脳で動いているかのように、
まったく同じタイミングで身を大地のほうへと乗り出す。
「またその話か!?」
この二人の、あまりに熱烈な態度に、大地はただただ、焦るばかりである。
しかし、夢乃の好奇心はマリアナ海溝並みだった。
そんな事で、「知りたい」欲求を収めることなどできるはずもない。
「いいじゃん、聞かせてよぉ~」
少々気持ち悪い気もするが、夢乃は猫なで声まで使って、大地に迫る。
と・・・その時だった。
大地の様子に、変化が現れたのは。
さっきまで、普通に幼なじみと話しているような感じだったのが、急に、顔を真っ赤にしだしたのだ。
(ははぁ~ん・・・大地って、こういう萌えキャラ系が好みなのね・・・)
心の中でそうつぶやく夢乃。
しかし、それはそれ。
今、夢乃にとって大事なことは、告った女のことを聞き出すことだった。
なおも萌え風に言葉を発しながら、徐々に詰め寄っていく。
こうなってしまっては、大地もどうしようもなかった。
「あ、話す、話すからっ・・・そんな、ウィル・オ・タッキーが来そうなアニメ声出すのやめてっ!!」
・・・夢乃の読みは、微妙にはずれていたようです・・・。

そして、大地は語り始めた。
中学時代、たまたま飛んできた野球の球をキャッチしたところ、その後ろに、後に告白してきた子が
いたこと。
なぜかそれで一方的に好きになられたこと。
告白されて、焦ったこと。
そして・・・告白された次の日、その子は引っ越していったと言うこと。
「ふぅ~ん・・・。なんだか一方的なラブストーリーね・・・」
現実に起きたことだと言うのに、そのシナリオに夢乃は難癖をつける。
星乃は星乃で、その話に、ただぽーっとしている。
「一方的ってか、告白の言葉の出だしが「明日引っ越してしまうから言わせてください」だもんな。
  返事はいらない、みたいなこと言って。」
話している大地は、当時のことを振り返りながら、やっぱり顔を真っ赤にしたままだった。

その後も、話題は大地の初・告られの一点に集中していた。
終始、焦ってるのか恥ずかしいのか、顔が赤い大地に、ずんずんと身を乗り出すフリして、徐々に
その距離を近づけていっている夢乃。そして、その場から動こうとしない星乃。
3人の微妙な距離は、縮まっているのだろうか・・・。
と、そんな時、大地が急に、こんな事を言い出した。
「なぁ、俺のは話したんだから、おまえらのも聞かせろよ。」
・・・ギクぅ!?
その言葉を聞いた瞬間、夢乃と星乃は同時に凍り付いた。
・・・今、目の前にいる、あんたがその相手だ、なんて言えるわけがない。
そんな二人の様子に、大地は軽く笑って、さらに言葉を続ける。
「もしかして、今、おまえらの好きな人って、同じ人か?アハハハ」
・・・的を得ていた。
凍った二人が、さらに凍てつく吹雪に吹かれているように、さらに結氷している。
「あ、あ、あは、アハハ・・・告られた事なら、山ほどあるから、覚えてないわよっ」
声も絶え絶えに、夢乃は苦し紛れの言葉を発した。
明らかなる動揺。
だが、大地はそんなことはお構いなし、続いて「じゃあ、星乃のを聞くか。」とさらーりとした
表情で言う。
とりあえず危機が去って、夢乃は内心、ほっとしていた。
そして、さっきまでの焦りっぷりが一変、いつもの調子を取り戻したかのように「おぉ、いいねぇ~」
と相づちを打つ。
困ったのは当然・・・。
「わ、私は、そんな事ないもんっ・・・!!」
星乃。
顔から手の平から、汗でびっしょりになっているのがわかる。
・・・ニヤリ。
夢乃はほくそえんだ。
こうなったら、星乃を楽にからかえる。
うふふふふふ・・・・・・・・・
「何言ってるのよ、あの時の話があるじゃな~い♪」
言って夢乃は、いやらしいまなざしで星乃をじっと見詰めた。
その言葉を信じた大地も、同様に身を乗り出してくる。
「あの時の話!?星乃さま、ぜひ聞かせて下さいませ~」
こんな二人に言い寄られては、星乃にはどうしようもできない。
彼女は息をはぁ、と一つ吐くと、恥ずかしそうにしゃべり始めた。

星乃が初めての告白を受けたのも、大地同様、中学生のときだった。
相手は、当時3年生の、星乃の先輩だったと言う。
いつのころからか、委員会の中でよくしゃべるようになり、気がついたら、向こうをその気にさせて
いたのだとか。
もちろん、告白は断ったらしい。
それと同時に、委員会も世代交代が行われ、その男子生徒とは会わなくなったそうな・・・。

「はぁ・・・はぁ・・・恥ずかしいから、あまり人には言わないでね・・・」
全部語り終わった後、星乃は汗だくになりながら、そう付け加えた。
だが、これがなぜ恥ずかしいことなのか、夢乃と大地にはわからなかった。
「うーん、良い話の種ができたなぁ、これからいろんな人に言って回ろう」
意地悪な夢乃がそう言うと、大地もこくりとうなずく。
その様子を見た星乃が、真っ赤だった顔をさらに赤くして、「二人ともやめて!!」と大声で叫んだ。
もはや、涙目である。
夢乃はそんなことは気にも留めずに、大地のほうへと振り向く。
二人とも、冗談だと言うのは暗黙のサインでわかっていた、はずなのだが・・・。
大地はその涙に焦り、慌てて弁解を始めた!
それには夢乃も焦る。
また、塩を送ってしまったかも、とか不安になったりして、彼女から笑顔が消えた。
(しまった・・・だめ、さっきから調子がおかしいわ・・・)
慌てて反省する夢乃だったが、反省すべき点がずれているのと同時に、取り返しがつかなかった。
しばらくは涙目のままだった星乃は、夢乃と反対に、大地の必死の弁解に、ようやく笑顔を取り戻し、
大地に無言のアピールをしている。
夢乃は更にブルーになっていく。
このままでは・・・

と、その時だった。
下の階から、少ししゃがれた男性の声がしたのは。
「ただいま~・・・」
その声の主、それは・・・。

大地が下に降りて、その顔を確かめる。
「あ、オヤジ、お帰り。」
そんな二人のやり取りが、古い床と壁を通して、夢乃達に伝わってくる。
そして、夢乃は思わず、独り言を言った。
「た、たすかった~・・・」

それから、大地のオヤジは、二人がいる2階へとあがり、自分の部屋で、かばんの荷物をいそいそと
取り出し始めた。
その部屋からもれてくる、大地とおじさんの声。
その声は、少しミュートがかかりながらも、二人のところまでしっかりとどいていた。
「大地、デートはどうだったよ?」
「デートってオヤジ、幼なじみと遊んできただけだって!」
こんなやり取りである。
デートと言われた大地の、力いっぱいの否定を隣の部屋で聞いていた二人は、思わず吹き出す。
すると、その声も隣へと伝わり、おじさんにもその声が届いた。
「なんだ、連れてきたのか」
「ああ、でも、もうそろそろ日が暮れるし、雪やんだし」
その声の後、大地とおじさんは、二人がいる部屋へとやってきた。
久しぶりにみたおじさんのすがたは、すっかり白髪が増え、少しやつれたような顔立ちになっている。
「あ、おじさん、お久しぶりです」
星乃が、おじさんに向かってぺこりと一礼する。
「小東富美です。」
だが、夢乃は謎の名前を発した。
次の瞬間、湧き起こる爆笑の嵐。
その声は家を突き抜け、外まで漏れ出すほどだった。
そんな中、ふと、玄関と同じ方向を向いている窓に目をやった夢乃。
外はすでに雪がやみ、代わって、空を赤く染める太陽が、山とビルの陰に消えていくさまが見える。
これが意味するもの、それは、今日のデートの終了だった。

「お邪魔しました~。」
おじさんも加わって、4人で一緒に玄関の外へと出た。
普段するのと変わらないあいさつで、夢乃と星乃は、大地の家を後にしようとした。
と、その時、背後から、大地の声が聞こえてくる。
「明日は学校、来れるよな~!?」
その言葉に、2人は再び振り返り、夢乃は言葉で返事を返した。
「行くー★」
対して星乃は、首を縦に振って答えた。
すると、おじさんも、言葉を発した。
「夢乃ちゃん、こいつみたいにまた遅刻するんじゃないぞー!」
「お、オヤジっ!?」
ハメられた大地の周りに、また、どっと笑いが巻き起こると、空には一番星が輝き、いよいよ、
夜の到来を告げようとしていた。

その帰り道・・・。
夢乃は、今回のデートの戦果を快く思っていなかった。
横に並んで歩く星乃をジト目で見ると、「あんた、めちゃくちゃアピールしてたじゃない。」と、
不機嫌丸出しで彼女に言う。
それに対して星乃は、まるで性格が変わったかのように、言って見せた。
「次はがんばってね、お姉ちゃん」

・・・うがあぁぁぁぁぁっ!!

その叫びは、半径50メートルくらいに伝わるくらい、大きなものだったと言ふ・・・。
(こ、こひつ・・・。何気に勝ち誇ってるし・・・あぁぁぁぁぁ、もうっ!!)

その夜、一晩中、夢乃の不機嫌は止まらなかったのだった・・・。
  

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