夢の星の物語 ――夢乃Side 4:初デート・・・になるのかなぁ?(中編)

高浪商店街の空は今日も晴れ渡っていた。
雲一つない、まさにブルースカイ!!という感じ。
しかし、ある一個所だけ、どんよりとした空気を放つ娘が一人。
夢乃だった。
さっき失敗したお菓子代騙し取り作戦のせいで、せっかくの初デート気分が台無しになっていたので
ある。
「あー、ムカつくわ、あの親父!!あたし=詐欺だなんて!!」
辺りかまわずキーキーわめいている夢乃に、さりげないツッコミが来たのはまもなくのこと。
「今までが今までだから仕方ないよ、お姉ちゃん」
・・・星乃だった。
「ナニあんた!!姉に向かってその態度わ!!??」
・・・もはや、八つ当たりである。
こうなったら、なだめることができるのは彼一人。
「まぁ、仕方ないって。それだけ俺達も大人になってきたって事だろ?」
一触即発状態の姉妹に板挟みにされているこの男性、彼が二人の恋のターゲット、立原大地である。
今日は、久しぶりに3人で商店街をぶらつくという、微妙ながらも絶好のアピールデイだった。
夢乃が詐欺りに行っている間、ひょっとしたら、星乃が夢乃を出し抜いているかもしれない。
そんな事もあって、これなのである。
「あんた、好きな人暴露されたくなかったらおとなしくしなさい!!」
・・・ついにはこんな事まで言い出すこの姉。
「お姉ちゃん・・・、それやったら自分も墓穴掘るよ?」
それに対して、星乃はあくまでも冷静に、言って返した。
しかし、当の大地は、何の話だかサッパリわからないまま、次の行き先を決めることでしか解決不能
と踏んで、言う。
「おーい、次はあそこ行こうぜ〜」
その言葉を見とめて、喧嘩寸前の二人はいっせいに大地のほうへと振り向く。
それをちらりと見てから、大地は指差した方向へとダッシュしていった。
「だ、大地、ちょっとまってよ!!」
「そんなに走らせないで〜」
その後を、またもや慌てて追いかけていく二人。
そして、ついた場所は、商店街の端にある・・・と言うか、商店街の隣にある高浪公園だった。
3人の思い出の地。
昔はよく、ちょっと大き目の上級生に絡まれた所を、夢乃が先頭を切って喧嘩を吹っかけていたっけ。
そんな所なのにも関わらず、昼はお子様達が泥んこまみれになって遊び、その隣で奥さん達が井戸端
会議を始めている。
「いつも通学で通ってるけど、3人で来ると懐かしいわね〜。」
そう言って、夢乃は昔を振り返って懐かしんでいる。
「ホント、あの時、俺弱かったからなぁ、いっつも守られっぱなしだったっけ」
続いて、大地も当時を振り返って、一人うなずいている。
一方、置き去りにされているのが星乃だった。
「・・・」
ずっと、黙りっぱなし。
これは・・・ちゃーんす!!
そうにらんだ夢乃が、さっそく、大地へのアタックを開始した。
と言っても、いつもの通りの夫婦・・・げふん、かけあい漫才モードなのだが。
「だったらあたしが試してあげようか?どれだけ強くなったか」
そう言って、夢乃は腕まくりして大地の肩をたたいた。
「それはちょっとヤバイだろ、お子様見てるし。」
大地は大地で、やっぱりやりたくないのか、必死で夢乃を止めようとしている。
「なーんだ、つまんないの。まぁ、今のあんたにはかなわないかもね、あたしも。」
夢乃は後ろを振り向くと、さりげなく大地のほうに振り向き直し、また肩をたたく。
「おまえ、男にもセクハラされたって言う奴いるの知ってるか?」
あまりの態度の変貌に、大地はずずずいっと身をひきながら、さらに答えた。
「えー、じゃあ、あんたもセクハラでしょー?触らせたーって言えばみんな振り向くわよ?」
・・・脅しだった。
その言葉に、大地も、さっきから忘れられている星乃もたじたじだったのは言うまでもない。
「お、おい、やめてくれ、それじゃーキャラが変わる!!」
慌てふためく大地に、夢乃はにやりと笑みを浮かべ・・・
「みなさーん!ここにいる人はさっきあたしに・・・」
みんながいっせいに、夢乃に振り向く。
「お、おい!!何言ってるんだよ!!」
「何にもしてませーん!!あはははは」
・・・ガクッ。
その言葉に、さっき振り向いた人たちは唖然呆然、大地も突っ込むのを忘れてただぽかーんとしている
だけだった。

それから3人は、ちょうど彼らが座るのに十分なスペースの、ちょっとこじんまりとしたベンチに
座った。
右から夢乃、大地、星乃の順だった。
この配列、実は昔からそうなのである。
逆ドリカム・・・言い方は古いが、まさにそんな感じだった。
そこでも、まず口を開くのは夢乃。
夢乃はちょっとにやけた顔を残したまま、極力、星乃と大地の両方を視点にするようにして振り向き、
いきなり「大地って好きな人いたことあるの?」と聞き始めた。
焦ったのは大地。
なんで、唐突にこの話題になるのか、と、汗をかきかき、必死になって答えた。
「い、いない!!」
そう言って、大地は顔を赤らめてしまった。
「へぇ〜・・・じゃあ、初恋はこれからなんだ〜。いいねぇ〜、御若いの」
あくまで、いつものペース。
それをキープするので、夢乃は精一杯だった。
しかし、そのペースを思いっきり乱すような言葉が、大地から飛び出たのは、それからまもなくの事
だった。
「告られた事ならあるんだけどな。」
――ドキッ!!
この言葉に、夢乃も、対岸側にいる星乃も、思わず声を挙げそうになる。
しかし、ここは落ち着いて・・・
「ま、マジっすか・・・?どんな人?」
夢乃は平静を装いつつ、相打ちを打つ。
「ん、中学の後輩でね。とにかくおとなしい感じの子だったよ。」
さっきの必死さとは打って変わって、当時のことを淡々と語る大地。
聞いているこっちはたまったものではなかった。
(まるっきり星乃タイプじゃないの・・・それって・・・)
小声でぼそっとつぶやく夢乃。
しかし、隣にいる大地には聞こえてしまっていた。
「ん、何か言った?」
「な、なんでもないっ!!」
大地のさりげない聞き返しに、夢乃の胸のうちは今にも弾けそうになっていた。
星乃は星乃で、さっきから黙っている・・・かと思えば、たまたま転がってきたボールをお子様に
返したりしていて、それどころではなかったようである。

と、その時だった。
さっきまで晴れ渡っていた空が、急に曇り始めたのは。
さわやかな風が一変、冷たい北風となって3人に吹きつける。
「ん・・・降るかな・・・?」
空を見上げつつ、星乃はそう言って、次に吹いてくる風に備えて、ジャンパーを羽織り直す。
そう言った瞬間、なんと、降ってきたのは・・・。

「雪!?」

降ってきたのは、春だというのにも関わらず、大粒の雪だった。
さっきまで暖かかったのに、何故雪なのか。
それは気象予報士しか知らない。
「あーあ、今日はここまでかー・・・」
残念そうにつぶやく夢乃。
星乃も、言葉にはしないがちょっとさみしそうな顔を見せる。
そんな二人の様子を見たのか見ないのか、大地はすくっとベンチから立ちあがると、急に二人のほうに
振り向き、こんな事を提案してきた。
「しょうがないなぁ、後は俺の家でしゃべろーぜ」
・・・え!?
思わず声を挙げてしまった夢乃。
フォローもなにもできないまま、寒さとあいまって、その場に固まる。
「夢乃、いやなのか?」
・・・またも、大地の相打ちが痛く響き渡る。
「そんなわけないじゃないの!!あたしだって暇だし・・・」
・・・なんだか、夢乃の調子が狂ってきた。
主導権を握っていたはずの会話が、いつのまにか、大地に移っていた。
「じゃあ、早くいこーぜ♪」
そう言って大地が、夢乃と星乃、両方に手を差し伸べる。
・・・なんで、そんな、困らせるようなことを、あんたはいっつもしてくるのよ・・・
頭の中までしどろもどろになる夢乃。
それは星乃も同じだったようで、差し伸べられた手をつかむ自分の手も震えている。
「なんか、さっきからおまえ達変だぜ・・・?」
うっ・・・気づかれた!?
夢乃の脳裏に、一筋の不安が過ぎる。
しかし・・・
「やっぱり、まだ風邪なんじゃねぇの?とりあえず、俺の家のほうが近いから、そこまで行こう」
助かった。鈍感に、助けられた。
ほっと胸をなで下ろす。
そして、元気を取り戻したように振る舞おうと、勢いよく大地の手をつかんで――
「握手も久しぶりだねぇ、大地くん!!」
と、なぜか子供をあやすような声で言う夢乃。
「お姉ちゃん、それちょっと失礼・・・」
星乃のさりげないツッコミも、もはや夢乃の耳には届かない。
「さーて、いきまちゅよ〜、ほれほれ〜」
図に乗って、まだ言いつづける。
「俺、そんなに子供!?うわーん」
ついには大地まで悪乗りする始末。
それに引き換え、周りの子供の視線が気になって仕方がない星乃は、何とかこの二人の悪ふざけを
止めようと、必死になって割って入ろうとする。
「ちょっと、恥ずかしいよ!!子供が見てる!!」
しかし、やっぱり星乃の叫びは夢乃には届かなかった。
大地には届いていたのだろうが、なおも漫才しつづけるこの娘に、またもや完全に主導権を奪われて
いたのだった。

雪はだんだん激しさを増していく。
季節外れの雪は、かくも3人を冷やしていく。
「は、早く行こうっ・・・」
3人の足は自然に速くなる。
「にしても、なんで春に雪!?」
夢乃のツッコミが、北風にむなしくかき消される。
春らしい格好をしてきたがゆえの、この寒さ。
時々吹き付ける強い風に、夢乃のスカートがバッとめくれそうになるが、そこは何とかカバーし、
大地の家へと急ぎ歩く。
肌がだんだん、赤くなっていく。
「だぁぁぁ、こんなんじゃ肌が荒れるぅ〜!!」
しまいにはダッシュになっていた。
その直後に聞こえる、後ろからの声。
「お、おい、行き過ぎ行き過ぎ!!」
なんと、夢乃は必死になりすぎて、大地の家を通り越していたのだった。

そして着いた、大地の家。
都市に似合わず、古めかしいたたずまいを備えたこの家は、じいさんの代から続く不動産屋。
そんな場所だからだろうか、「入居募集」だかなんだかの張り紙が、入り口のいたるところに貼られて
いるのである。
その扉をがらがらと音を立てて開けたのは、もちろんこの家の住人、大地。
「おじゃましまぁ〜す・・・」
大地に続いて、入っていったのは夢乃だった。
それにしても、古めかしい建物だけあって、中も恐ろしく寒い。
「は、肌に悪いわね・・・くしゅっ」
あまりの寒さに、思わず夢乃はくしゃみをしてしまった。
すると、大地が唐突に、古い建物には不釣り合いな近代道具、ハロゲンヒーターをどこからか持って
来て、夢乃達に来るように促した。
「おーい、こっちの方があったかいから、来いよ!」
「おぉ、なかなか現代的な機械じゃないの♪」
夢乃はそう言って、我先にと、まるで扇風機のような形状のヒーターへと近づいていった。
それに続いて、星乃も。
こうこうと照りつづける赤外線の管の周りは、一気ににぎやかなものへとなっていく。
「しまっておかなくてよかったよ、コレ。ふー。」
ヒーターに手をかざしながら、大地は思わず、生活臭い言葉を発した。
「あれれ、主婦みたいだったぞ、今?」
思わずツッコミを入れる夢乃の左肩に、星乃の右手がぽんっと乗ったのは、それから瞬く間の事。
「大地くんって・・・片親じゃない・・・」

――はっ。
しまった。
夢乃、これはやってしまった。
大地の母親が当の昔にいなくなっていたことをすっかり忘れ、思わず言ってしまった一言。
これは汚点か――!?

と、思いきや、大地はその夢乃の言葉を軽く流すと、顔色一つ変えずに、こう言って終わらせたので
ある。
「ああ、オフクロは月に一度会いに来るからいいんだよ。さて、部屋に行こうか。あっちもヒーター
  あるからな」
――ほっ。
・・・しかし、夢乃はほっとしつつも、心の奥底で思った。
(漫才も諸刃の剣ね・・・気をつけなきゃ。)

突然降ってきた雪に、突然降ってわいた、大地の自宅でのデート続行。
夢乃の長い一日は、もうしばらく続きそうです・・・。
  

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