夢の星の物語 ――夢乃Side 3:初デート・・・になるのかなぁ?(前編)

夢乃「あぁぁぁぁぁー・・・。」
あれから、妹の星乃とは一切口を聞かなかった。
両親も、いったい何が起こったのかと問い詰めたが、互いの意地のぶつかりあいもあったのか、
うやむやのうちに終わってしまっていたような気もする。
だが、とにかく、この日は来てしまった。
そう、大地との1対2のデート(?)の日。
本当は1対1の方がうれしいところなんだが、何せ、向こうはこっちが自分のことを好きになって
いるなんて毛頭思っているはずもなく。
鈍感だから、ということもあるが、幼なじみだもんなぁ。
とにかく、その日は来てしまったのだ。
お互い、しゃべることもなく、冷戦を続けたまんま、自分のチャームポイント(?)を生かした
服装にチェンジする。
ファッションバトルに発展していた。
「さて、ここはこれでよし、あとは・・・。」
夢乃必殺の髪型を決めるための必須アイテムを装備した後で、今度は持って行く小物を決めようと
自分の和式クローゼット(たんす。)を引き出し、今までほとんど使うことのなかったバッグを
さくっと肩にかけて、姿見に自分の決めポーズを映し出す。
「んー、完璧ッ!」
ミドルヘアに見合うカチューシャ、春を感じさせる薄いピンクのノースリーブ、白くて、これまた
ミドルなひらひらスカート。
ちょっと少女ちっくだが、これはこれでかわいい。
これで、夢乃のデートバージョンのファッションは決まった。
それから少しだけ時間を置いて、星乃も決めファッションの装着を完了した。

約束の時間は午後1時。
その時ちょうどに、商店街の入り口にいればよい。
ただ、夢乃には大きな弱点が存在している。
もう知ってのことだが、彼女は定時に特定場所にたどり着くことが苦手なのである。
学校では遅刻魔として有名だし。
もっとも、本人はそんな事、気にも留めていないのだが、今日ばかりは遅れるわけにはいかない。
「今日遅れたら、星乃に出し抜かれちゃうもんね!」
気合十分、夢乃はスカートをひらめかせ、ちょっと春風が強いアパートのエントランスを潜り抜けて
行った。

そして、1時。
よほど気合が入っていたのか、夢乃は珍しく、定時に商店街の入り口にスタンバッていた。
さすがに、常に5分前行動を徹底している星乃にはかなわなかったが、肝心の大地がまだ来て
いなかったので無効化されている。
商店街の1時。
この時間帯は、商店主の遅い昼食がようやく終わりを迎える、ちょうど空いている時間帯である。
人混みもあるわけがない。
そんな、よく見通せる場所だから、大地が時間ぎりぎりにぜーぜー言いながらかけてくるのを、
二人とも見とめることはたやすい。
「早いなぁ、おまえら・・・って、なんだよ、その気合の入りようは!?」
夢乃たちの着こなしを見るなり、大地は唖然とした。
幼なじみの戯れに、この気合はいったい・・・みたいな?そんな感じは誰でも受けるはずである。
「このー、こんな美女二人とデートできるんだから、あんたもそーとー御偉くなったもんねぇ♪」
夢乃はそう言って、さりげなくデートという言葉を強調した。
「ん・・・。自分で美女って言うのもなんだと思うけど・・・。今日は、よろしくね、大地くん」
相変わらず、星乃は異様におしとやかに顔を赤らめて言う。
そんな、いつもとは全然違う二人の態度に、一瞬、大地はきょとんとしてしまうのだった。

そんなこんなで、いよいよ初デートがスタートした。
といっても、大地の言うとおり、前々から、ここを3人でぶらつくことはよくあったことなのだが、
高校生になってからは初めてだったということもあり、はたからみればハーレムかよ!?みたいな
感じもしてしまいかねない。
それを意識してなのか、大地は最初から、顔を赤らめっぱなしだった。
それを見ていると、なんだか本当に脈あり??と一人勘違いしてしまいまいそうになる夢乃。
自分の恋は初めてだらけ、わからないことだらけなのだ。
(余計な期待とかはできるだけしないぞ、うん!)
夢乃は心の中でそうつぶやくと、星乃とは違って積極的に大地に話し掛けていった。
「ねーねー、せっかく久しぶりの3人一緒なんだからさ、何か買って食べない?」
夢乃さっそく、ちょっとだけアプローチ。
「買い食いはちょっと、気が・・・。」
意識してるのかしてないのか、星乃がサクッと足を引っ張った。
おいおい・・・。
とか思って夢乃の頬に一筋の汗が流れるも、今度は大地が、夢乃の代わりに、星乃の言葉を打ち消す。
「ん?俺たちはもう高校生だからいいんだって♪そんな、中学生みたいな校則なんてあそこにはないし。」
「そ、そうだけどぉ!!」
それを言われた星乃が、ちょっとムッとするが、そこは幼なじみ、扱い方も慣れていた。
「それじゃあ、俺、お金持ってきた意味ないじゃん?おごるからさ、な?」
「それじゃあ・・・。」
そうやって、しぶしぶOKを出したように見せかけて実はうれしい星乃の横顔を見つつ、夢乃が思った
事・・・。
(お、おのれぇぇぇぇ、あたしよりしたたかじゃないの、このアマ!!)
すんげぇヤキモチなのだが、まぁ、ここはどっちから見ても星乃に軍配なのであった。

そして立ち寄ったのは、お好み焼き屋。
東京人ならもんじゃだろう!!というツッコミはさておいて、実はここ、3人にとっての密会の場所(?)
として、古くから使われてきた場所なのである。
御小遣いをくすねてはこの店へと行き、嫌がる星乃を引きずってよく3人で食べたっけ。
こーゆーのをフードハラスメントとでもいうのだろうが、そんな事はお構いなしだった。
まぁ、子供のときの話だし。
さて、昔話はこれくらいにしておいて、おごると名乗りをあげた大地がさっそく、親しみなじんだ
店のおばさんに声をかけた。
「おばちゃーん、いつものヤツ3つたのんまーす!」
すると帰ってくる、威勢の良い甲高い返事。
「はいよー!」
すると、ちょっとだけ間を置いて、おばさんが材料を持ってやってきた。
そして、3人をみるなりいきなり、「おやまぁ、3人でデートかい?」と言って笑う。
確かに、大地を挟むようにして大空姉妹が座ってんだ、そうも言いたくはなるだろう。
「そうかもね〜♪」
おばちゃんに調子を合わせ、夢乃はゴキゲンでそう返す。
星乃は対照的に、顔を真っ赤にして「幼なじみなのになんでですか!?」と慌てふためいている。
しかしおばちゃんも口がうまく、「そんな御めかししていう言葉かい、星乃ちゃん!?」と、なおも
笑いながらしゃべるしゃべる。
「もぉ・・・・っ!」
星乃、おばちゃんにしてやられ、撃沈したのだった。

それから、3人は仲良しさんそのものといった感じで、おしゃべりしながら少しずつ、鉄板の上の
お好み焼きを食べていった。
その間、夢乃のモーレツアタックは続きまくり、完全に主導権を奪われた大地はただ、たじたじと
しているだけ。
まいったなぁ、もう。と言った感じである。
「でさぁ、中学のころ、あんたどんな事やってたの?」
できるだけ平静を装いつつ、夢乃が切り出す。
「んー、部活に「工作部」ってのがあったから、そこに入り浸りだったぜ?」
あくまで趣味の世界に入り浸りになっていたという大地が答え、さらに、「そこの先輩がいかにもっ
て感じでさー」と笑い話に持ち込もうとした。
「ど、どんな??」
興味津々の夢乃。
さっきまでしたたかな女の役柄を受け持っていた星乃は、ただ黙って聞いているようだった。
「髪の毛が異様に長くて、めがねかけてて。顔洗ってるのかどうかわかんないくらいぶつぶつ。」
「うわー、モロオタク顔想像しちゃうじゃないの、ソレ。」
先ほどまで星乃のうまいやり方にヤキモチ焼きまくってた夢乃の表情が、嬉々として輝き出す。
「オタクなんだってば。」
そんな事とはつゆ知らず、大地はサラッと、いつもの調子(でもないか)でツッコむ。
「あ、そっか」
夢乃、ピーンチ!ここでせっかくの主導権をなくしてしまうのか!?
・・・と、思いきや。
「そいつのプラモデルの出来と行ったら、すごかったなぁー。流石はオタクって感じだったぜ。」
結局、大地の興味はプラモデルのようであった。
「そのプラモデルがその先輩だったらキショいよね」
でも、そんな大地に救われ、ついに夢乃節、復活!!とばかりにボケる夢乃。
さっきよりもきれいなおねえさ・・・げふんげふん、表情が豊かになっているのは確かなようだ。
「うわっ、とんでもねぇなぁ、そんなの、作りたくねぇーっ」
ここでどっと沸きあがる、夢乃と大地と星乃の大爆笑。
周囲にお客さんがいない(別に閑古鳥なわけではないが。)から別にいいのだが、混んでいる店で
コレをやったら大迷惑必至だというにも関わらず、というくらいだ。
この後も、こんなやり取りがしばらく続いたわけで・・・。

「はい、今日は特別に1,200円におまけしておいてあげるわ。」
しばらくのおしゃべりの後、お好み焼きをを食べ終わった3人。
切符の良いおばさんの計らいで、今もっている小遣いをわずかながらセーブすることができた大地。
次は・・・。
「次は、あそこいかない?」
と、さっそく夢乃が誘う。
あそことは、あそこである。
「えっ、まだ食うのか?」
大地はそう言って、ちょっと汗を一筋流して聞き直す。
「うん、なんだか今日は食べたい気分なのよ♪」
そう言って、夢乃は大地の心配(?)をよそにさっさとその場所へと歩いていってしまった。
「お、お姉ちゃん!?」
「まったくもー、仕方ないなぁ・・・」
その後を、慌てて追いかける2人。
なんだか、端から見ていて妙に似合っていると思ったのは作者だけだろうか・・・?

そして、着いた先は、ちょっとしたお菓子屋さん。
何の変哲もないお菓子屋なのだが、ここは、3人にとっては思い出がいっぱいの場所なのである。
それは後々、書き下ろし読み切りで紹介するとして、いの一番で到着した夢乃が、今度は自分の
財布を開ける。
そして、「今度はあたしがおごるよ」と、いきせく走ってきた二人に左手でストップをかけて、
商品をざっと、握れるだけ握った。
融けるもんじゃないから安心。
で、そのままそそくさと、店の中へと入っていってしまった。
後に残ったのは、きょとんとする星乃と、ははぁーんと腕組みをする大地の姿だけである。

まず、入っていく。
カウンターまで行き、普通に品物を一つだけ買う。
いったん外のほうへと向かい、食べて、再びカウンターへ。
ここで、夢乃必殺の、ある事をするのだが、それは・・・。
「いっ、いた、いったぁぁぁぁぁい・・・。」
おなかを抱えて、その場にうずくまるのである。
慌てて駆けつけてくる、店のおっちゃん。
「ど、どうした・・・って、夢乃ちゃんか。その手には乗らないよ。」
・・・どうやら、バレバレだったようである。
つまり、ここで買った食べ物でアタッたフリをして、お金を払い戻してもらおうと言う、なんとも
悪辣な算段だったのであるが・・・。
「あうう、あたしの演技も地に落ちたものよのぉ・・・。」
もはや通用しないことを知り、夢乃はがっくりと肩を落とす。
そして、そのまま、乱暴に財布を開けると、小銭を出して、さっさと帰ってきてしまった。
いそいそと出てきた夢乃に、軽い感じで「どうだった?」と聞く大地に、「ま、まさか・・・」と
冷や汗だらだら流している星乃の、対照的な表情が飛び込んできたのは、それからまもなくしての事。
「良いわけないでしょー・・・。とおっくにバレバレだったわよ。」
夢乃はそう言うと、ちょっと不機嫌そうな表情を残しつつも、はいっと、まずは大地にお菓子の
手取り分を渡した。
その後で、妹の星乃にも、同じ数を渡す。
その時、その様子を見ていた大地が、ある事に気が付いた。それは・・・。
「あれ、夢乃、自分の分はどうしたんだよ?」
自分の分はどうしたのやら。
「あ、あたしはいらないから、あはははは・・・。」
ホントは、大地のことでいっぱいで自分の分など頭になかったとは言えず、夢乃は軽く笑って、
その場の問題をそらすしかなかった。

3人でという、ちょっと異常なデートはこの後も続くわけなのだが、今までのところ、夢乃も星乃も、
戦果は五分五分という感じに終始している。
はてさて、この後どうなるのやら。
それは、次回のお楽しみ。
  

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