光が渦巻く炎の世界に足を踏み入れ、火のルミナス「フェニックス」に挑戦することになった二人の
冒険者。
スピアとルティナの眼前に立ちはだかる炎の鳥の威容に、二人は圧倒されつつも、戦場となったこの
場所に、二つの足をしっかりと踏みとどめ、構えた。
一方のフェニックスも、自らの体から沸き立つ朱の炎を更に赤々と燃え上がらせ、轟きにも似た咆哮を
うならせていた。
「いくぞ、フェニックスっ!!」
「参られい、若き戦士よ!」
この間購入したばかりの、何の変哲も無い斧を振りかざし、スピアがフェニックスの片翼に、勢いを
つけて飛び掛かる。
「はぁぁぁっ!!」
挨拶代わりといわんばかりのその閃きだったが、相手は空飛ぶ鳥、その攻撃はひらりとかわされた。
代わりに――
「その程度か!」
狙った片翼が猛烈に翻り、スピアの体にやけどを思わせる痛みを感じさせた。
「くっ!」
何とか空中で体勢を整え直したスピアだったが、フェニックスを取り巻く炎にはばまれ、攻撃の機会を
見失ってしまった。
「われは全てを灰塵に帰す灼熱の炎!!」
そのすきをついて、今度はフェニックスの声が高らかと響き渡った。
「おぬしらの言う魔法、とくと見よ・・・フラム・ウェイブっ!!」
力のこもった「声」より発動する、無数の炎の波!
「いきなりかっ・・・」
言葉どおりのピンチを迎えたスピアの後ろから、何かを発動させたルティナの声が、光の壁に反響
しながら通る。
「フリーズバリアッ!!」
その声に合わせ、スピア達の前に広がる、氷の壁が炎を遮った。
強烈な炎の熱で音を立てて崩れ落ちる氷が、一瞬染まった朱の光を抱きつつ、完全に溶けてなくなった
のは、それから瞬きもしないうちだった。
「ぬぅ、やるっ!」
ルティナのとっさのイメージから生まれたルミナスロアーの効果に、フェニックスは舌打ちをしながら
両翼をはばたかせ、更なる攻撃を加えようとした。
「今かっ!?」
その一瞬のタイムラグを、スピアは見逃さなかった。
「スパイラル・スピン!!」
ついさっき覚えたばかりの必殺技を、フェニックスの胴に浴びせつけたスピアは、そこから更に、背中
まで振り上げた斧を、思い切り振り下ろす。
「シングル・スラッシュッ!!」
「ぐおおっ!?」
振り向きざまに食らった連続攻撃が、フェニックスの翼を一時止めた。
しかし、それは一瞬だけ。
すぐに体勢を立て直したフェニックスが、お返しとばかりに突撃してくるっ!
「受けてみよっ!!」
そのすさまじい眼光に、一瞬ひるんだスピア。だが、すぐに平静を取り戻すと、後ろにいるルティナに
向かって一言、左に飛べ、と放つ。
言われた通りに左にジャンプしたルティナの真横すれすれを、炎の鳥が弾丸となって飛んでいく!
すかさず、スピアがその後を追うが、さすがに鳥には追いつけず、少し進んでからその場にとどまり、
さらに身構える。
すると、姿の見えないフェニックスの声が、とんでもないところから聞こえてきた。
「ここは我が世界であるっ!!」
声が聞こえたのは、何と、スピアの真後ろだった。
「スピアさんっ!?」
ルティナが叫ぶのと同時に、フェニックスの今一度の特攻が、スピアの背中を直撃する。
「うあっ!?」
衣服には炎が燃え移り、なおも衝撃で飛ばされるスピア。
その炎は彼の全てを焼き付くさんと、彼の体中にほとばしっていく。
そして、スピアは体勢を立て直すこともなく、そのまま地面へと叩き付けられた。
「スピアさんっ!!??」
その光景に、ルティナの狼狽は最高潮に達する。
しかし、まだスピアの命が燃え尽きたわけではなかった。
一瞬広がった炎はすぐにスピアの体から離れ、違った場所へと落ちていく。
「・・・す、す、スピア、さん・・・きゃあああああっ!!」
・・・なんと、スピアはすごい速さで上半身の服を脱ぎ捨てていたのだった。
「し、仕方が無いじゃないかっ!!」
「で、で、でもっ・・・」
二人の間に広がる、恥ずかしい空気。
しかし、それを端から見守っていたフェニックスが、ついに声を挙げた。
「我が炎を忘れるとは!!」
二人が取った行動に逆上したフェニックスの口が、裂ける勢いで猛然と開く。
そこから飛び出してきた、小岩ほどもある火の玉をすいっとよけたスピアとルティナが思うこと。
「これで勝ったかも」
フェニックスの攻撃の命中率は、明らかに下がっていた。
さすがは燃え盛る怒りの象徴でもある炎、その怒りの効果はてき面のようであった。
もちろん、意とした行動ではなかったのだが。
「今度はこっちの攻撃だなっ!」
意気込んだスピアが、怒り狂う炎の中へと飛び込む。
その時、ちらりと見た、炎に赤く彩られるルティナ目。
そこに見出したのは・・・あれだった。
「頼んだぞ、ルティナっ!!」
「はいっ!!」
もはや怒りで自我を失いつつあるフェニックスを眼前に、ルティナの体から放たれる青白い光。
「おいで、マーライオンっ!!」
その光から姿を現したマーライオンの、普段は温和な目が突然、百獣の王の名にふさわしき鋭い眼光と
なって、フェニックスを捕らえる。
そして――
スピア&ルティナ「コラボレーションアーツだぁぁぁぁぁぁっ!!」
フェニックスに向かってごうごうと押し寄せる大津波。
その間に、スピアは天高くへと飛ばされ、波になぎ倒されたフェニックスの頭部めがけて、一直線に
落ちていく。
――捕らえた。
炎の鳥の、断末魔の叫びとも取れる叫びが、辺り一面に轟く。
「終わったか!?」
言って、着地したスピアは、自分の正面に横たわる炎に目をやる。
すると・・・
「なかなかやるな、おぬしら・・・少しは・・・楽しめそうだっ!!」
なんと、声も高らかに舞い上がるは紅の炎に身を纏った大きな鳥っ!!
「マジかよ!?」
言ってスピアが、その体をルティナの方へと走らせた。
それと同時に、先ほどスピアがいた場所へと、巨大な炎の塊が落ちてくるっ!!
轟音と共に砕ける炎の岩の向こうから、さらになびいてくる、炎の波が、スピア達を更に襲う。
「もう一度っ!フリーズバリアっ!!」
イメージで発動するルミナスロアーが、炎の波と噛み合い、共に崩れて行く。
「ぬう、同じ手はもう利かぬか・・・」
天井近くから二人を見下ろすフェニックスが、またも舌打ちをしながら惜しがった。
そして、次の手を打ってくる。
それは、今までに見たことの無いような、青き炎に彩られ直したフェニックスが、猛然と地へ落ちて
くる一撃だった。
「これでも食らえっ!!」
咆哮と共に地に響き渡る、強烈な炎のしぶきが二人を襲った。
「うわああっ!?」
その時だった。
とっさにルティナをかばったスピアが、青の炎に再び体を包まれてしまった。
その場に崩れ落ちるスピア。
その時、何があったのか、ルティナはそれを目の当たりにしていた。
「・・・!」
一瞬、止まる時間。
燃え尽き、果てるスピアの向こうには、にやりと笑みを浮かべるフェニックスの正面が見える。

「・・・ゆ・・・」

「むぅ!?」
あまりにもむごい仕打ちを受けたスピアの、炎に包まれた体を見るルティナの体から、再び青白い光が
溢れ出す。

「ゆ・・・許さない・・・」

光は今までに無く、果てしない強さを持っていた。

「許さないっ!!」

そして、弾ける閃光っ!!
そこから現れたのは、さっきよりも鋭い眼光を光らせるマーライオンっ!!

「ここまでする必要があるか、フェニックスよ!!」

「マーライオン・・・お願いっ!!」

「今回は特別ですよ・・・?」
すると、光の獅子は、凄まじいオーラを放ち、その両手から、激しく飛び跳ねる水の竜を2匹、咆哮と
共に放った。
先ほどよりも果てしなく巨大な大津波が、竜の後ろから迫る。
一匹の竜は天に向かって飛び、もう一匹は、先ほどまで青い炎に身を纏っていたフェニックスへと
向かう。
「く、来るなぁ!!??」
そう吐き捨てて光の壁へと逃げ込もうとするフェニックスだったが、一歩遅かった。
その体を水の竜に巻き取られ、激しく地に叩き付けられる。
そして、強力な力を秘めた巨大津波が、さらに激しく打ち付ける。
さらに、天井まで上り詰めたもう一匹の竜が、フェニックスの真上から迫り、身を粉々にしながら
激しく貫いた。
「ぎゃああああああああっ!!!!」
そして最後に、マーライオン自らが、フェニックスの体をめがけて特攻していった。

終わった。
そこに立っていたのは、ルティナだけだった。
水浸しになった光の部屋。
そこに倒れ伏せる、フェニックスとスピア。
ただ一人、立ち尽くすルティナの両目から、涙が自然と流れ落ちる。
「い・・・いや・・・もう・・・やめて・・・」
そして、ルティナも、その場に崩れ落ち、そのまま涙を流す。
と、その時だった。
今まで墜されていたフェニックスが、そのままの姿勢で首をぐっともたげ・・・
「すまなかった・・・この男の魂は、われが呼び戻そう・・・」
涙をそのままに、顔を上げるルティナ。
すると――
なんとも言えない、光のしずくがスピアの体をそっと包むと、そのまま光をさらに強め、一瞬視界を
奪った後、消えていった。
あまりの眩しさに、ルティナはその目を腕でかばい、その場をしのぐ。
そして・・・。
「ルティナ・・・すまない、勝手にやられちまって。」
死んだはずのスピアの声が、ルティナの耳に届いた。
「え・・・?」

・・・!

スピアは、まるで何事もなかったかのように、ルティナの目の前に立っていた。

ルティナの目から、また、あふれる涙。
「・・私だけ生き残ったって、意味ないじゃないですかっ!二人でいなきゃ、勝てないんですから!!」
そう言って、ルティナはスピアを叱った。
そこから、いきなり口を挟んだのは、あのフェニックスだった。
「われも、少々羽目を外しすぎたようじゃ。すまぬ。スピアよ。」
その声に、スピアは後ろを振り向き、ルティナはぬれた頬を上げた。
「われの負けじゃ。我が望み、ここに叶えられた・・・」
「えっ!?」
フェニックスの意外な言葉に、二人は声を失う。
「われも、おぬしらの力になろうぞ。少々、マーライオンの怒りっぷりにはびっくりしたがな・・・」
そうして、二人の体に、マーライオンのときと同じく、あふれんばかりの光が射し込み――
「忘れることなかれ。戦いとは常に、生と死じゃ・・・。」
「あ、ああ・・・」
こうして、フェニックスとの、今までに経験したことの無い激しい戦いは終了した・・・。

「あぁ・・・終わったんだな・・・。」
気がつくと二人は、元の灼熱の洞窟の中枢にいた。
そこには、ルミナスとの激突を目前に知り合った、二人の冒険者もいた。
パルス「はぁー・・・すごかったな、あの光・・・あれがルミナスってヤツか?」
相変わらずのとぼけた調子で、パルスが言う。
スピア「まったく・・・こっちの苦労をねぎらってほしいもんだよ・・・」
立ったまま、スピアはため息を吐いて、がっくりと額に手を合わせた。
トーン「こっちもこっちで最悪だったわよ・・・。はぁ。」
続いて、トーンもため息を吐いて、首を横に振ったのだった。

それから、スピア、ルティナ、パルスとトーンは、お互いの戦果を語り合いながらその場を去った。
彼らは彼らで、あの向こうにあったなぞ解きに四苦八苦し、ようやく解いて宝の部屋へと入ったら、
そこにはもう何も無かったというオチに見回れていたらしい。
「あー、踏んだり蹴ったりだぜっ!!」
むしゃくしゃしながら足元の小石を蹴るパルスの顔が、半ばヤケクソになっていたのが、どことなく
可愛かったのが印象的だった。

そんな中、ルティナの頭の中には、ある言葉が引っかかっていた。
「今回は特別」。
一体、何のことなのか。
使っておいて、その言葉には、まったく見当がつかない。
ルティナ(今度、またあの怖い御屋敷で聞いてみよう・・・。)

4人がフレイドームの出口に到達したころには、すでに次の朝日が昇ろうとしていた。
その光は、ルミナスの光とは違った、強くもやさしいものだった。
ルミナスとの戦いがもたらした、常に有る生と死の狭間。
スピアとルティナの戦いは、これから始まるのだ――
  

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