朝日が照らす洞窟への道のさなかにいるスピアとルティナ。
二人の顔を照らし出すのは天然と人工の炎が一つずつ。
目を覚ましたルティナと、眠った気がしないスピアの対照的な顔が、互いの眼に映し出されたとき、
日はすでに東より昇っていた。
スピアが見た夢が持つ意味は、今は誰にも分からない。
ただ、とてつもない疲労感だけが、彼の中に残っている、それだけははっきりしていた。
しかし、こんなところでこのままいても仕方が無い。
二人はそのままの支度で、いよいよ目的地であるフレイドームへと足を踏み入れた。
入って最初に感じたのは、洞窟の内部だと言うのに、灼熱と言わんばかりの暑さ。
炎の洞窟の名に恥じないその猛暑は、二人の肌に容赦なく照りつづける事になる。
スピア「あついな・・・。」
自然と流れる、双方の汗。
ここには長時間はいれない、二人の脳裏をかすめたものは、同じだった。
一体、この洞窟の熱の発生源は何なのか。
それは、少し洞窟の中を探索していけばすぐに分かることだった。
ルティナ「何で洞窟の中に、自然に火がともってるんだろう・・・?」
洞窟の壁をもうもうと走り抜ける炎。
これが熱の発生源のようだ。
スピア「火のルミナスがいるんじゃあ、これは納得の範疇かもしれないな。」
二人はそう言ってぼやきつつ、さらに足を進めた。

内部には切り立ったがけのようなものがいくつか存在している。
中には、人が一人歩けるかどうか微妙な足場の場所も見られた。
「危ない場所だなぁ。」スピアは思う。
確かに、落ちたらひとたまりもない場所である。
そんな場所を、二人は息を止めながら忍び足で歩いた。
息なんかしていられる暑さではないのだ。
しかし、中には比較的涼しい場所も存在している。
そこまでの我慢だった。

そして、二人が洞窟に入ってから小一時間ほど経ったころ・・・。
スピア「しっ・・・何かいる。」
スピアの視界の中に、わずかに動いたものがあった。
それは、岩の陰に身を潜めてこちらを伺っているようにも取れる。
むこうからの息遣いが聞こえる。
間違いなく、動物である。
それにやや遅れて気が付いたルティナが、辺りをきょろきょろと見回す。
確かに息遣いは聞こえるが、姿がどうにも見えにくい。
熱がもたらすかげろうが、それの発見を邪魔していた。
緊迫の時間が続く。
どちらがしびれを切らすかの持久戦だった。
スピア「出てこないつもりか・・・?」
そう思ったスピアの頭上に、何かが振り下ろされようとする!
スピア「わっ!?」
それを間一髪かわした彼が、次に見たもの、それは・・・。
変な衣装「なんだ人間じゃんよ。」
・・・は?
よくよく見ると、そういうそいつも人間のようである。
包丁に似た奇妙な大剣を片手に持ち、頭には縁の無い帽子とゴーグル。
どう言い表して良いか、どう見ても民族衣装の上着に、これまた奇妙なジグザグの刺繍が入った
ズボン。
そして、スピア達と同じようなブーツを決め込んだ少年のようであった。
スピア「あんた・・・誰?」
そのいでたちに思わず、スピアは目を丸くしながら問い掛けた。
するとその変な衣装の少年は、くるっとカッコつけて回り、包丁がでかくなったような剣をぶんっと
振り回しながら、決めのポーズでも取るかのように言い捨てる。
パルス「へん、俺様はその名も高いパルスさまよ!よぉ〜く覚えておくんだな!」
・・・パルス。
全然聞いたこともない名前だった。
ルティナ「失礼ですけど・・・そんな人、知りません。」
思わずルティナが、失礼そのものの言葉を吐き捨てた。
その瞬間、相手の肩がガクリと落ちるのが見て取れる。
すると、その横からもう一人、今度は少女が出てきて、その言葉を付け足した。
魔法武器の女「あたしたち有名じゃないじゃないの、パルス・・・。ごめんなさい、この子、
              ちょっと自信過剰なのよ。」
さらに出てきた謎の少女。
ピンクの髪してミドルヘア、衣装はパルスと変わらないくらいへんてこりん。
魔道具と取れる、左右対称の、角のような武器を持ったこの子は、パルスとは対照的に、ずいぶん
落ち着いた様子で自分を名乗った。
トーン「あたしはトーンって言うの。よろしくね。」
スピア「は、はぁ・・・。」
そんな相手に、二人から出るのは、ただただため息だか生意気だかよくわからない吐息だった。
パルス「ったく、俺達を知らないってのは常識もんだ・・・ごふぅっ」
相変わらず自信満々のパルスに、トーンのツッコミが脇腹を直撃する。
トーン「あたしたち、なんか名の挙がることやったっけ?そんな有名でもない人、知らないのが
        常識じゃないの。」
いわれれば、そのとおりである。
それから、いろいろなことを説明された。
冒険者として食べていくため、依頼や御宝を見つけてはこなしている、それなりの実力者だとか。
一回、10年前の英雄「如月麻奈」にもあったことがある、だとか。
もちろん、これはつい最近の話らしい。
その時行動を共にし、争い、結果、麻奈に出し抜かれて終わった、とか。
ようは、「伝説になりきれなかった二人」なのである。
その話を聞くと、もはやスピア達は自分達のことを話さないでいるわけにはいかなかった。
そして、自分達の旅の目的を淡々と語るルティナ。
こういう事は、彼女のほうが得意だった。
パルス「へぇ、復讐の旅、ねぇ。いいじゃん、そういうの。」
二人の話に興味を持ち、身を乗り出して根掘り葉掘り聞こうとするパルス。
スピア「厳密には、ルミナスを見つけて、世界を救うって言う大義名分があるんだけどな。」
トーン「世界を救う、か。一時期、あたし達もやっきになってたわね。」
スピアの言葉に、昔の自分を思い出してしみじみするトーン。
そして、次にトーンが発した言葉は、ルティナがとっても困るものだった。
トーン「で、二人は現在どういう仲なのかな?恋人になったの?」
ルティナ「えっ・・・。」
明らかに狼狽するルティナ。それと対照的にスピアは、あっさりと否定する。
スピア「俺達は同じ目的で旅してるだけだよ。」
しかし、その次の言葉は、まるで恋人になりたいとでも言わんばかりのもの。
スピア「まだ、今は・・・」
パルス「え、おまえ、好きなの!?」
パルスのそのさりげない、でも的確なツッコミに、今度はスピアが慌てふためく。
スピア「あ、あのなぁ!!」
ルティナ「・・・。」
その間、ルティナはただ、「恋人」と言う言葉に反応してぼーっとしているだけだった。

そんな与太話が延々と続いて、気が付けばもう、2時間は経っていると思われた。
トーン&パルスの口撃に、スピアとルティナは圧倒されっぱなし。
お互いの目を見詰め、ただただ赤くなっているだけ。
この洞窟の熱もあいまって、何だかいづらい雰囲気が漂い始める。
すると、トーンとパルスはすくっと立ち上がり、こう言って二人に背を向けた。
「俺達は御宝を探しに来たんだ。出し抜かれるわけにはいかないから、もう行くぜ。」
こうなると、スピア達も座って談笑しつづけるわけにもいかない。
さっきからずっと暑い場所にいることを思い出すと、汗をかきかき、急いでパルス達の後を追うの
だった。

ようやく二人が奥地へと辿り着いたのは、それから更に時間が経過しての事だった。
そのころにはもう、暑さにも慣れてきて、服さえ脱いでおけばある程度は我慢できるほどになって
いた。
だが、こんな場所にいつまでもいれば、暑さにぶっ倒れるのは必至。
二人の足は自然に速くなった。
そのころパルス達は、御宝を求めて右往左往、そして、ある仕掛けがある場所まで辿り着いていた。
パルス「なぁ、これ・・・どうやって開けるんだ?」
そこのわけのわからない仕掛けに、パルスはただ呆然と立ち尽くすだけ。
そのころトーンは、壁に張りつけてある碑文に目をつけていた。
それには、こう書かれている。
「二人の世界の中で目が合って、カッコ良い彼にもう釘付け!きゃ、もう絶えられないっ!!!!!」
トーン「・・・何、この落書き・・・。」

そして、いつのまにか、後から出発したスピア達に追いつかれていたりして。
スピア「何やってるんだ、おまえら?」
ルティナ「仕掛けですか?」
その二人の様子を見たスピア達が、口々に疑問を投げかける。
トーン「ねぇ、この文章・・・なんだと思う?」
そんな二人に、トーンは御知恵を拝借しようと近づいて言う。
読んで、思わず噴いた。
スピア「なんだよ、この落書き!ダンジョンの碑文じゃねぇってば!!」
しかし、ルティナは違った。
その文章のある部分に目をつけ、急に、地面に描かれている円の中心へと入っていく。
そして、何かを数え始めたのだ。
ルティナ「1、2、3、4、5・・・」
すると、5秒後に扉が音を立てて開き、4人を中へと導いた。
トーン「あ、そういう事か!その円の中が「二人の世界」で、最後のびっくりマークは秒数、ね。」
意外にも簡単な開放に、トーンは納得し、パルスは愕然としていた。
パルス「なんだよ、そりゃあ・・・。簡単すぎじゃねぇか。」
ルティナ「昔、読んだことがあるんです。この手の仕掛けが描かれてる本。」
そして、その開法を、ルティナはもう知っていたのである。
さらに腰の力が抜けるパルスに、スピアがぽんっと手を置いて同情の意志を示した。
スピア「まぁ、こういう事もあるさ・・・。」
しかし、パルスの耳にはその言葉は入っていなかった。

扉の先にあったのは、ポーラルで見かけた、あの祭壇だった。
スピアとルティナは、ここに用がある。
なので、パルス達とはここでお別れである。
パルス「こんなところにそのルミナスってのはいるのか?」
トーン「あたし達はさらに奥が目的地だから、ここまでね。それじゃ、ごきげんよう。」
こうして、二つのパーティーはあっけない別れを迎えたのだった。

そして、ここからはルティナの仕事。
意外にあっけなく着いたその場所で、例の呪文を唱え始める。
ルティナ「天にまします光の使徒よ、願わくば我が声を受け、その御姿を示さんことを。
          我が名はルティナ=バズライト・・・」
祭壇の中に立ち、口にした言葉がそのまま天井を突きぬけ、空にまで到達する。
すると、祭壇から立ち上るとてつもない閃光が、二人を包み込んでいった。
洞窟の熱が、光に遮断されるように、治まっていく。
そして、次に二人が見たものは、炎を身に纏った巨大な鳥だった。

炎の鳥「われを呼び出したるはそなたか・・・ルティナよ」
炎の鳥が、二人の意識に直接、話し掛けてきた。
その言葉は、荒々しささえ感じさせる、ごうごうと押し寄せる炎の波のようであった。
ルティナ「はい。私です。」
ルティナの物理的な言葉がこだまする。
対して、炎の鳥が返す言葉は、物理ではとても言い表せない、言うなれば空間を飛ばしてくる電波。
その声が、二人の頭に木霊する。
フェニックス「われは不死鳥・・・フェニックス。炎と燃え盛る命を司っている。して、此度は
              何用ぞ?ルティナ=バズライト。」
フェニックスの瞳の燐光が、二人の眼に強く印象をつける。
ルティナ「あなたと契約しに来ました。今、世界は危機にさらされています・・・。」
その猛然たる瞳を目の前に、ルティナは懸命に説得を試みる。
しかし、フェニックスの返した言葉は、意外なものだった。
フェニックス「ふむ、ドゥームのことはわれも知っておる。今のそなたたちではかなうまい・・・。」
ルティナ「では!」
フェニックスの意味ありげな言葉に、思わず身を乗り出して聞くルティナに、フェニックスはまたも、
意外な言葉を返してきた。
フェニックス「しかし、われと契約するには、われの要求を飲まねばならぬぞ。
              要求とは、われと戦い、勝ちぬくこと。それでもよいか?」
ルティナ「えっ・・・。」
ルミナスと戦闘する。
こんな意外すぎる言葉は、ルティナは想定していなかった。
世界の守り手と戦うには、己達は弱すぎる。
そう思えてならないのだ。
しかし、スピアは違った。
彼は炎のイメージから、最初からこうなることを予測しているようだった。
スピア「ああ、俺はいいぜ。ほえ面かかせてやるよ」
その自身満々の言葉に、フェニックスはしばし笑い声を上げ、こう言い放った。
フェニックス「存分に楽しませてもらうとするか。ルティナよ、そなたはどうじゃ?」
彼と契約するには、戦うしかなかった。
仕方なく、ルティナも・・・。
ルティナ「ええ、わかりました・・・。」
そう言って、戦闘態勢へと自らを転換した。
それに続けて、スピアも斧を手に取り、構えた。
フェニックス「では、まいるっ!!」
炎に彩られた翼をはためかせ、迫り来るフェニックス。
こうして、フェニックスとの死闘が始まったっ!!
  

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