「何とか、次の手がかりを聞き出せたなぁ。」
奇妙な屋敷に住む、長髪を後ろで真一文字に結んでいる、ルミナスの研究者のラクシス=アルフレッドから
ルミナス神殿の位置を聞き出し、スピアとルティナは、彼の家の門をくぐりぬけつつ、安堵した表情を浮かべて
ため息を漏らした。
二人が感じていた時間の流れと相反して、それほど日は昇ってはいない。
「まだまだ日は長そうですし、早くいきましょ。」
恐怖のお化け屋敷から無事に生還できたことが(?)よほどうれしかったのか、ルティナはさっきまでの引きつり顔から
一転、最高の笑みを浮かべて、スピアを誘った。
「ああ、そうだな。行こう。」
それはスピアもどこかしらにそのような気持ちがあったみたいで、彼はその誘いに快く応じる。
だが、二人でそう会話して前を向いた瞬間、なんだか、大きな壁がいつのまにできたのか、という
くらいの人影が目に飛び込んだ。
その主は、この男しかいなかった。
アクト「どうやら、次の目的地が決まったようだな。」
ルティナ「お、お化け屋敷の延長ですか!?」
慌てふためき、ルティナは声を挙げる。
それに対して、アクトは何があったのかと、一瞬、口をあんぐりと開けっ放しにするも、すぐに素を
取り戻して、言葉を続ける。
アクト「あー、げふん。おまえ達、何か忘れてはいないか?」
「へっ?」
アクトの問いに、二人の声が同時に出る。
スピア「何かほかに、やらなきゃいけないことなんてあったか?」
ルティナ「さあ?私にはちょっと見当が・・・」
首をかしげる二人とも。
しかし、この男、アクトはそれに対しても表情を変えずに、その答えを指し示した。
アクト「その装備で、ダンジョンに出かけるというのか?」
「――あっ。」
また、二人の声が合った。
ルティナ「で、でも、ポーラルに、そんなもの扱ってるお店なんてありませんよ?」
ポーラルのことには割と詳しいルティナが、次に沸き上がった疑問を、アクトに投げかける。
すると、アクトは、スピア達の進行方向・・・つまり、自分の後ろを振り向くと、その方向に指を
差し、その先にいる人間のことを説明し出した。
アクト「あそこにいる行商人は、日用品のほかに、そんなに良いモノではないが武器と防具を売って
        いる。利用しない手はないだろう。」
そう言って、いきなりスピアの左手をぎゅっとつかむと、反射的に開いたその手に幾ばくかのお金を
渡し、さらに言葉を続けた。
アクト「このくらいの金額なら、一応だが一通りそろうだろう。さあ、行商人が行ってしまう前に、
        早く買いに行きなさい。」
ルティナ「・・・ありがとうございます・・・。」
でかい図体の割に意外と細かな気配りができるアクトの見送り姿に、二人はお礼を言って、すでに
帰り支度を始めている行商人のもとへと急いだのだった。

「すいませーん、装備品がほしいんですけどー。」
よっこらしょ、とリュックを背負いかけている行商人に、まず声をかけたのはスピアだった。
続いて、ルティナが。
「お帰りのところ、申し訳有りませんが・・・。」
その二人の様子に、何かを感じ取ったのか、行商人は背負いかけた皮色のリュックを再び地に置くと、
装備品と、危険な旅に必要な道具をさっと並べ、「どれが良いかな?若いお二人さん」と、さっそく
商売を再開した。
本来なら、ここは、売っている最高の品を身に付けておきたいところだが、そこはそれ、二人が持って
いるのは、先ほどアクトから頂戴した最低限のお金と、ルティナが持っているちょっとした小遣い程度
だった。
仕方なく、お金が十分足りる範囲でそろえる二人。
スピアが買ったのは、戦闘汎用の両刃の斧、甲殻虫の皮でできたショルダー、染色された硬質繊維の
緑の服、そして、ちょっぴり頼りない腕用ガーダー。
ルティナは、どこにでも売っているような鋳鉄製のロッドと、微弱な魔力を宿す、独特なデザインの
帽子。
二人とも、おそろいのブーツでしめに入り、道具はたいまつなど少々。
行商人「しめて、45Crです。まいど!」
これで、買い物は済んだ。
二人は、わざわざ自分達のために足を止めてくれた行商人に深くお礼を言うと、今度こそ、目的の洞窟
「フレイドーム」へと向かうことにした。

フレイドームへの道のりは、ラサ大陸各地へと向かう十字路を北西に曲がり、途中までまったくの
平坦な一本道をさらに延々と北西に行き、辿り着いた山を道沿いに歩いて中腹にあるとのことである。
その中は、ひんやりとしているというイメージの洞窟に相反して、いるだけで汗をかくほどの暑さを
誇っているという。
そんな山への道を、二人はできるだけリラックスして行こうと、適当な話をしつつ、ひたすら歩く。
「なぁ、何で行商人が来る事、ルティナは知らなかったんだ?」
さっきのアクトとのやり取りの中の矛盾を、にやけながら問うスピア。
「!!そ、それは・・・、気、気が、動転してたからですよっ!!」
その問いに、なぜか慌てふためくルティナ。
そこを、スピアがさらに突いて、「ホントは買い物なんてしたことなかったんじゃないの?」と言う。
一瞬、その言葉がルティナをギクッと不安定な動きにさせたが、彼女は慌てて、それを否定した。
「したことありますよ!!もう、いじわるなんだから・・・」
その後の、二人の大笑い。
その声は、遠くポーラルにまで聞こえるほどだった。

と、その時だった。
先ほどまで、スキが有りまくりだったスピアの表情が、一気に違うものになった。
そして、ルティナの背中に回り込むと、身を構えて急に、大声で何かを言い放った。
すると、草原の所々に生えている木々の合間から、何かが出てくる。
そこからは、もうもうとした敵意を感じた。
その発生源の中の一つが、大きなうなり声を挙げ、一目散にこちらに向かってきた!
「させるかっ!」
手に持ったバトルアックスをひらめかせ、スピアは向かってくる敵を一撃、切り付けた。
しかし、襲い掛かる影はひるむことなく、なおもこちらに爪を立てようと躍起になって向かって来る。
「な、何なんだ、こいつら!?」
襲って来る敵にひたすら斬りを浴びせながら、スピアが緊張ムードいっぱいに言葉を発する。
しかし、相手は言葉を持っていないのか、ただ、うなり越えを挙げて向かってくる。
そして――
「ぐあっ!!」
斧を振り上げたスピアの胴に、謎の襲撃者の爪が入る!
次の瞬間、スピアはそのパワーに一瞬、体勢が崩れた。
しかし、先ほど購入した硬質繊維の服が功を奏したのか、ダメージはそれほど食らってはいない。
ひるんだフリをして、スピアは辺りを見回す。
その目の先には、この間、マーライオンから教わった「ルミナスロアー」を、思い付きで放つ
ルティナ、そして、それを受けてもなお、向かってこようとする襲撃者の姿が。
「こ、こいつは・・・」
何もないはずのスピアの頭から、何かが鮮明に蘇えってくる。
「こいつ、ドゥームだっ!!」

ファリスタ・スラストにおいて、通常のモンスターは、人間やエルフと共存関係にある。
よって、彼らの領域を不注意に侵さない限り、彼らは襲ってくることはない。
しかし、目の前にいる魔物は、ほかに姿が見えないのにも関わらず、執拗にスピア達を襲ってくる。
そして、その動きと動きの間に、一瞬だが、タイムラグがある。
いつかの夜闇の戦いのときに見た、ゾンビドゥームのあの動きと、似過ぎているのだった。

スピア「ルティナ!こっちに来いっ!!」
その正体がドゥームであることに気が付いたスピアが、術を放ち続けるルティナを急いで呼び寄せる。
「な、なんですか、スピアさん!?」
呼ばれて近寄ったルティナが、小声でスピアに問う。
少し間を置いて、スピアが敵の正体を口にした。
「なぜか思い出せた、こいつは、「ブッシュストーカー」って言う熊のドゥームだッ!!」
言いつつ、スピアは身を起こしてブッシュストーカーの爪をかわし、通常攻撃から、この間使用した
技を一閃、敵に浴びせつける。
「グォォォォォッ!!」
その攻撃に一瞬ひるんだブッシュストーカーだったが、すぐに体勢を立て直して次の一手を加えようと
ものすごい勢いで近づいてきた。
「くっ・・・くそ・・・どうすれば・・・」
辺りが、スローモーションのようにゆっくり流れる中、スピアは何か手はないか、と考え出す。
その答えは、すぐに思い付いた。
「これだっ!!」
スピアが、先ほど脳裏に描いた方法を、実践に移した。
それは――
「必殺、スパイラル・スピーン!!」
ルミナスの力によって与えられた水の力をバトルアックスに纏わせた彼は、渦巻きのように回転を
しながら、襲い掛かってくるブッシュストーカーを巻き込み、幾重にも斬りつけた。
そう、螺旋によって斬りつけられているように。
そして、最後に上から直接、断頭斬を浴びせつける。
この苦境の中、スピアは、「必殺技」を編み出したのだ。
回転するスピアの螺旋攻撃に、ブッシュストーカーのうちの一匹は、ドゥームを操る中枢であり頭脳で
あるCPUを両断され、その場に倒れ伏せると、口から泡を吹いて消えていった。
残るはあと、ルティナと交戦している一匹。
ルティナも、次第に追いつめられ始める。
「た、助けて、スピアさんっ」
何とかブッシュストーカーの攻撃を食い止めてはいるものの、このままではいつか、ルティナの体に
傷が付くのは時間の問題だった。
スピアは着地後、すぐに体勢を立て直し、ルティナが戦っているブッシュストーカーの方へと
駆け寄っていく。
その時だった。ルティナが必死で思い描いた事が、具現化されたのだ。
それは、無数の小さな氷柱が、敵に向かって押し寄せるように飛んでいく、と言った感じの、初の
ルミナスロアーだった。
ルティナ「いっけぇー!!アークティック・ラァァァァァンスッ!!」
ルティナのそろえた両手から放たれる無数の矛が、もう一体のブッシュストーカーの体中、
ルティナに向いている方に突き刺さる。
「ガァァァァァッ!!」
体が損傷し、そのドゥームはその場にうずくまる。
「いまだっ!」
そこへスピアが到着し、一気に飛びあがった。
「食らえっ、断頭斬ッ!!」
閃いたバトルアックスの刃先が、ブッシュストーカーの体を切り裂く!
ドゥームの断末魔の咆哮が轟く。
――そして、この勝負は、そのままスピアとルティナが勝者と言う形で決着がついた。

後に残るのは、戦いを終えた後の息遣いと、敗者の死骸のみだった。
刃先に付いた敵の血を振り払い、スピアはルティナのもとへと近寄っていく。
スピア「大丈夫か、ルティナ?」
自分の受けた傷よりも、精神力を消耗したルティナを気遣うスピア。
ルティナ「私は大丈夫です。でも、スピアさん、怪我してますよ・・・?」
そのお返しとばかりに、ルティナもスピアを気遣って言う。
それに対してスピアは、こんなものかすり傷、と、威勢を張ってみせた。
しかし、ルティナの心配はとまらなかった。
体が温まっているせいか、なかなか血が止まらない、と言うのがその理由のようである。
そして、ルティナは虚勢を張って腕を大きく上に突き出しているスピアの、むき出しの傷口に手を
近づけ――
癒しの力を使ったのだった。
「あ、ありがとう・・・。ホント言うと、すっげぇ痛かったんだ」
「もう、無理しないでください、これから、目的を達成するまでずっと一緒なんですから!」
・・・だ、大胆な。
そう思いつつ、またもにやけるスピアの目の前には、すでに笑顔を取り戻しているルティナの
姿があった。

それから、二人はまた、歩きつづけた。
平坦な草原の道を超え、山道へと差し掛かり、なおも二人は歩きつづける。
余計な時間を使ってしまったせいか、フレイドームと思しき洞窟の入り口が二人の眼前に現れたのは、
空が少し赤らんで見える、夕闇の迫るころだった。
「・・・どうします、スピアさん?このまま行っても、途中で倒れちゃいますし・・・。」
不安そうにつぶやくルティナ。
それに同調し、スピアも言う。
「・・・そうだなぁ・・・。たとえ終わっても、また夜だったら帰れないしなぁ。」
そして、二人が出した結論とは・・・。
「今日は仕方ない、火を熾そう。」
野宿だった。

初めてすごす、夜空が何も会さずに見える外での止まり。
火は、洞窟内でも重要だ。
ここで熾しておけば、洞窟用に買っておいたたいまつにも、楽々火が点けられる。
スピアは、なぜか体に叩き込まれているビームカッターの熱を使って、そこらに散らばっている
枯れ木に火をつけ、その周りの、ちょうど良い背もたれになる岩場に腰を落ち着けた。
見上げれば、満天の星空。
「・・・きれいですね・・・」
「ああ・・・。ん、今、星が落ちなかったか?」
「え?・・・ああ、流星ですね・・・。ほら、あっちからも!」
「ほ、本当だ、すごい!」
「お願い事、しようかな・・・。」
記憶がないスピアにとっては、流星群もまた、初めてお目にかかるものだった。
そんな、なんだか甘ったるいような時間が、ゆるりと過ぎていく。
赤々と燃える炎を前に、二人は談笑し、そして・・・。
「おやすみなさい。」
「俺、見張ってるよ。」
思い思いの夜更けをすごすのだった。

ルティナの寝息を背に、スピアは辺りを見回していた。
だが、それも長くは続かず、すぐに、彼も夢の世界に旅立ってしまった。

スピアの頭の中で上映される、空想か真実かもわからない立体ショー。
彼は、大きくて奇妙な、何かの液体が入っているカプセルが並ぶ場所で、何か、四角い突起物が無数に
並んでいる機材を、10本の指先でちょいちょいと弄くっている。
カプセルの中には、何かしら、得体の知れない、もやもやしたものが浮かんでいる。
スピアはその行動の中、制御できない体で思う。
「・・・何なんだ、これは・・・」
そして、何か、自分の指先が、一定のボタンを押しながら、もう一方のボタンを押すと・・・
「何をしている!」
誰かが殴り込んできた。
どこかで見覚えがある。
スピアの口が、勝手に開き、舌を打った。
「な、なんでだよ、何で逃げているんだ、俺は!?」
またも勝手に動き出す体に、彼は問い掛けつづける。
しかし、体は答えようとしない。
なおも追いかけてくる、誰か。
そして、彼は何かを撃たれ――

夢はそこで覚めた。
気が付くと、スピアの体は汗びっしょりにぬれていた。
たき火の火も消えかけている。
「い、いけないっ!」
スピアは急いで、新しい枝を拾ってくると、次々と投入していった。

一体、あの夢はなんだったのか。
それは、スピア自身にも、わからない。
わからないから、余計に、怖いと言う感情が表れ始める。

そして、朝が訪れた。
スピアの心のうちに反して、眩しい光が両者の頬を照らす。
それにつられて、ルティナも目を覚ました。
寝ぼけ眼でスピアを見るなり、彼女は不思議そうに、スピアの顔を覗き込む。
だが、彼の顔は、昨日とは打って変わって、暗く落ち込んでいた。
  

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