――小鳥のさえずりが聞こえる。
3日間に渡って光を放ち続けた舞台もようやく鎮まり、いつも通りの静かな朝を
迎えたポーラル。
優しくも明るい日差しに顔を照らされたスピア達の目が覚めたのは、それから
間もなくのことだった。
3日前とは打って変わり、すっかり目のクマも取れた二人が向かった先は、玄関が
隣接しているダイニングルーム。
そこにある、家の外壁同様、白いテーブルクロスが敷かれた楕円形のテーブルには、
すでに目覚めのハーブティーが二つ、テーブルの両端に置かれていた。
だがそこに、ルティナの両親の姿はない。
不思議に思ったスピアは、思わず辺りをキョロキョロと見回してしまった。
ルティナ「・・・何だかスピアさん、田舎者の来訪者って感じ丸出しですよ?」
それがおかしかったルティナは、敬語ながらもついつい、打ち溶け合っている人に
するようなツッコミを入れていた。
言われて気がついたスピアの顔が、思わず朱に染まる。
スピア「はぁぅっ!?うぐぐ、ここもじゅーぶん田舎じゃないかっ」
その反応に、ルティナは思わず、少しだけ笑ってしまう。
しかし、この時、スピアにはなぜかうれしいような、そんな気持ちも少しだけ存在
していた。

それにしても、普段聞こえる、やかましいくらいに景気の良い声がないというのも、
それに慣れてしまうと、ない事がかえって不自然に思えてしまう。
「・・・」
二人の間に流れる沈黙のメロディー。
・・・気まずい。めちゃくちゃ気まずい。誰か助けて。
それは互いが同時に思っていた事だった。
スピア「・・・なあ・・・。」
その気まずさに先に耐えられなくなったのはスピアの方だった。
彼は何を思ったのか、ルティナの顔をまじまじと覗き込むように見詰めて言葉を
発する。
ルティナ「・・・なんですか?」
スピアの意味ありげな振りに、ルティナは口をつけたティーカップをテーブルに置いて
から、言葉を返した。
スピア「これから、どーするんだ?」
ルティナ「――あ。」
すっかり平和な朝の風景に包まれていて忘れていたのか、ルティナははっとして
情けない声を上げた。
スピア「ルミナス神殿に行くのは良いけど、そんなのがどこにあるのかすらも全然
        解からないし。」
ルティナ「うーん・・・」
いきなり待ち構えていた大問題に、二人は頭を悩ませ続けた。

そして、小一時間ほど経った頃――。
不意に何かを思い出したルティナが、一つの提案をした。それは、以前アクトが
言っていた、あの考古学者を訪ねてみよう、というもの。
またもや、言われて思い出したスピアも、その提案には賛成した。
スピア「でさ、ラクシス・・・だっけ?そいつの家ってどこなんだ?」
まだ何にもわからないスピアなら当然のこの質問だが、これはルティナにもあまり
わからなかったようで、彼女はまたまた首をかしげて「んー・・・」と悩み始めて
しまう。
やっぱり八方塞がり?と思い始めた、その時――

バタン。
壁際の玄関が唐突に開き、そこから入って来たのはルティナの父親だった。
父親「おはよう、二人共。」
不意に現れた、この存在感のない父親の姿を見とめた二人の表情が、一気に手がかりをつかんだ
ような顔になったのは言うまでもない。
とりあえずおはようと言われたので軽く返事を返すと、まずは父親の扱いに慣れている(?)ルティナ
が、先ほど議題に上った「ラクシス」さんの家のありかを聞き出す。
すると、その家とは、ポーラルの外れも外れ、壁と建物に挟まれて夕日さえ差し込まないような、
普段、誰もそんなところには行きませんて、みたいな場所にあるという答えが返ってきた。
その後で、父親はさらに、こんな事を付け足した。
父親「それにしても、なんであんな変わり者の家になんか行くつもりなんだ?普段から家にこもり
      っきりだし、どうやって衣食住をまかなっているのかさえわからない学者のところに。」
スピア「うわ・・・。なんだかすごい人が、神殿のありかを知ってるみたいだな・・・。」
彼の話を聞いたスピアが思わず、不安で仕方なさそうな声を上げた。
つられて、ルティナも同じような口調になる。
ルティナ「もやしがいっぱい生えていそう・・・。」
確かに、聞いた話から推察するともやしみたいなのが生えていそうな気もしないでもないが、この
言葉にはさすがの父親もおなかを抱えて大笑いを繰り広げる。
父親「もやしか、あははははは・・・。でも、気をつけるんだぞ?あまり陰気に飲み込まれると、
      それがうつってしまうかもしれんからな、あはははは・・・」
まだ笑いを止める事ができていない父親は、そういうと、何か忘れ物でもしていたのだろうか、
自分の部屋へとそそくさと入っていってしまった。
と、同時に、二人は外へ。
これから、もしかしたら死地へと赴くのかもしれないと思いつつ、教えてもらったとおりの道を
進んでいくのだった。

前にも書いたとは思うが、ポーラルの総面積自体は、大した広さを誇っているわけではない。
むしろ、村とも言えぬくらいの、本当に元・休憩所と言った感じの狭さなのだ。
そんなんだから、集落の外れに行くにしろ、ものの10分もあれば十分に足りる。
おまけに、昼前という時間帯もあり、二人は特に、誰とも会うことなく、教えられた場所へと
たどり着いた。
確かに、言われたとおりの立地条件だった。
万年コケが生えているような日陰、集落の壁にほぼぴったりとくっ付いているような外壁。
ドアを開ければお化け屋敷がこんにちわしてきそうな、そんな異様な雰囲気を醸し出している
家だったのである。
これにはさすがに、ルティナもかなり身をのけぞらせて引きまくる。
ルティナ「・・・こ、こ、恐すぎますよ、これっ!?」
その横でスピアは何をしているかと思えば、ルティナとは対照的に、「面白そう」という表情を
あからさまに浮かべて家を指差す。
スピア「面白そうだなぁ、どんな仕掛けが飛び出してくるのやら・・・お化けだぞぉー、ミイラ
        だぞぉー、みたいな♪」
・・・おいおい。

そんな対照的すぎる二人のリアクションはさておいて、いよいよ、この、ちょっとヤバ気な家に
入ることにした二人。
ルティナは最後まで不安そうな顔を浮かべては周りをきょろきょろと見回すそぶりを見せていたが、
もはやスピアにはそれは見えてはいなかった。
そして、いかにも古くてきしみまくりそうなドアを、いそいそとノックし、少しだけ間を置いて、
ドアの向こうから聞こえてきた声は、こんな感じだった。
「お客さんですか?珍しいなぁ、どなたですか?」
・・・意外にも、まとも。
すっかり拍子抜けしてしまうこの返事に、スピアはちょっとがっかりしたが、ルティナはほっと
胸をなで下ろした。
ドアをノックしたにも関わらず期待を裏切られた(?)スピアに変わり、今度はルティナが言葉を
発する。
ルティナ「あ、私たち、ラクシスさんに用があって来た者なんですけど。」
すると、その言葉をドア越しに聞いていた助手の声色が一変、ちょっと不気味な言葉使いを使った
のである。
「ひっひっひっ、ようやくイケニエが・・・ひひひっ」
その言葉に、ついにルティナが大きな悲鳴を高々と、天に向かって上げた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」
そして、失神。
スピア「お、おい、しっかりしろよルティナっ!?」
それに続けて狼狽するスピア。
それがちょっとの間続いた後、今まで不気味な雰囲気を醸し出しつづけていたドアがようやく、
意外にも静かに開いた。
白衣の男性「い、いや、すいません、ちょっと悪ふざけが過ぎたようですねっ、、、」
スピア「ほどがあるわぁぁぁぁぁぁっ!!」
開いた片開きのドアからひょっこり顔を出した男性に向かい、スピアは思わず声をあげる。
その男性の人相は、この屋敷にはちょっと不釣り合いな、どちらかというと色黒で健康的な、
それでいてちょっと体つきもなかなかナイスな、若い研究者という感じである。
だが、意外にも肝っ魂は小さいらしく、外の様子にひどく慌てて、気絶したままのルティナを
ひょいと抱えあげると、スピアを先に家の中に入らせ、いそいそとドアを閉めてしまった。

スピア「失礼ですけど、あなたがラクシスさんですか?」
入るやいなや、玄関先でいきなりこう切り出すスピア。
しかし、白衣の男性は首を横に振り、「いえいえ、私は助手ですよ」と言葉を返すにとどまった。
その後は、かわいい顔で気絶しているルティナとともに客間にスピアを通す。
そして、このころになってようやく目が覚めたルティナに思わずケリを食らった助手は、かなり
慌ててルティナを床におろすと、「しばらくそこでお待ちください。呼んでまいります」と丁寧な
言葉を使って、スピアたちの視界から消えていった。

しばしの沈黙が続く。
客間と思われる、割と大きな、でもちょっと暗い部屋の中といえば、お化け屋敷と思われている場所
にも関わらず、割と普通の小物を置いている。
白塗りの壁なのだろうが、こう暗くてはうす灰色にしか見えない。
その中でルティナはなぜか、まだ怖そうな表情を浮かべつつ、周りをきょろきょろと見回している。
スピアはその様子をちらりと確認すると、ルティナの耳元でぼそっと、
スピア「おまえも田舎者みたいだぜ?」
とつぶやく。
一瞬、体をぶるっと震わせて硬直したルティナだったが、今度はすぐに正気を取り戻すと、先ほど、
スピアがした言い訳と同じ事を言う。
ルティナ「ここ自体が田舎なんですから、しかたないですよっ・・・。」
とか言いつつ、なんだかうれしそうな表情に変わっていたことを、またもやスピアは見逃していた。
「・・・おほん。」
二人の耳元にはっきりと届く咳払い。
はっとして振り替えるとそこには、いかにも研究者、という感じのいでたちの、さっきの助手とは
明らかに違う白衣の男性が立っていた。
二人「あ、はぁっ、ご、ごめんなさいぃっ!?」
思わず、二人の声がハモる。
間髪入れずに、色白の白衣の男性は自己紹介を始めた。
ラクシス「では・・・。ようこそ御見えいただきました。私がラクシス=アルフレッド、
          古代グリシアナ及びルミナスを専門とする研究者です。よろしく。」
ずっと引きこもっていた割には滑舌が良いラクシスの挨拶に、まずはルティナが御返事をする。
ルティナ「私、ルミナスサマナーのルティナ=バズライトです。アクトさんの紹介で来ました。」
「ルミナスサマナー」のフレーズを聞いたラクシスの目の色がさっそく変わる。
ラクシス「おぉ、やはりそうだったのか、その魔力。偶然だなぁ、この地にルミナスの祭壇が
          あって、なおかつルミナスサマナーがここにいるとは。
          失礼だが、君のホームルミナスはなんだい?」
研究の虫、なのだろうか、その後もずばずばと質問攻めを繰り広げるラクシスに、当のルティナは
さすがに困惑しながらも、その都度丁寧に答えていった。
その横で、すっかり忘れ去られているスピアが、さっきのお返しとばかりに咳払いを行う。
スピア「あー、うん。」
それにはっとしたラクシスが、慌ててスピアのほうに向き直る。
ラクシス「こ、これは失礼した。つい、研究の虫が騒いでしまって。すると君は・・・。
          ルミナスサマナーと行動をともにし、力を合わせることで道を切り開いていく存在、
          シンクロナイザーということだね?」
それにしても、この滑舌はどこから・・・。と思いつつも、スピアはさらっとそれを認め、
軽く自己紹介をした。
スピア「俺の名前はスピア。ラストネームは忘れた。」
ぶっきらぼうな言い方だが、嘘は言ってはいない。
ラクシス「そうか、君は記憶喪失、というわけか。」
スピア「どうやらそうらしいッス。」
特に困っているというそぶりもみせずに、スピアはなおもさらっと答える。
その様子を見たのか見ないのか、ラクシスは不意に、こんな事を言い出した。
ラクシス「ふむ。実は、ルミナスの中には、記憶を司っているものがあるんだが・・・。」
ルティナ「えっ・・・?」
その言葉に、なぜかルティナが閉口する。
だが、ラクシスはかまわず、先を続けた。
ラクシス「だが、彼にあうには、火・水・風・土の4体のルミナスと契約する必要があるんだ。
          ルティナくん、君のホームルミナスはマーライオンだったね。
          だとしたら、次は火のルミナス「フェニックス」に会いに行きなさい。」
スピア「その場所は・・・?」
ラクシスがいきなり出してきた答えに、今度はスピアが身を乗り出し、問う。
ラクシス「この地から北東に位置する、地下に伸びる洞窟の中だ。」
ルティナ「あ、ありがとうございます・・・。」
スピア「教えてくれて。」
その位置関係にどことなく疑問を持ちつつも、二人は交互にお礼を言った。
ラクシス「君たちの成功を、祈っているよ。」
ラクシスはそう言うと、客を玄関に送り届けるでもなく、いそいそと研究室らしき地下へと
戻っていったのだった。

次の行き場所は決まった。
ここから北東の洞窟。
ここから、彼らの物語が、本格的に始動する・・・。
  

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