あれから、どれくらいの時間が経っただろうか。
遥か空の東側で傾いていた太陽は、すでに、一日で一番高くなる方角を過ぎ、
やや西に傾き始めていた。
あれからスピア達は、お互いの事をいろいろと、笑い話も含めて話した。
だが、スピアの頭からはすでに、今まで生きて来た事のほとんどが消え失せ、
身の上話すらできない状態にあった。
そのためか、解かった事と言えば、ほとんどがルティナの事であった。
ほんの数日前に、ラサシティーから今の家があるポーラルと言う集落に
引っ越して来た事、連れ去られた時の様子、家族構成などがそれにあたるが、
スピアが一番気になっているルティナの力、「ルミナス」の事については、
彼女は全く話そうとしない。
だが、あの、奇妙な機械の建物の中で見せた彼女の涙が、ルミナスの事を詮索
しようとしたスピアの、さっきできたばかりのわずかな記憶から、鮮明に蘇って
来て、それが「今は何も聞くな」とスピアに呼びかけてくるのを感じた彼は、
口に出かかった言葉を慌ててしまい込んだ。
スピア(ルティナは俺の恩人だ、今はそれで十分・・・。)
スピアの見せたこの行動に、ルティナは笑顔のまま、首を少し横にかしげた。

次に、それぞれの、これからの身の振り方を話し合う。
ルティナは当然、ポーラルに帰ると言った。
だが、スピアには帰る場所どころか、自分が生まれた故郷すら、精神世界の
データライブラリィには存在していない。
だからと言って、自分達にさんざんな仕打ちをしたあの建物に再び潜入する
など、自殺行為に等しかった。
スピア「お、俺は・・・どうしよう・・・。」
いくら呼び覚まそうとしても起きようとしない自らの記憶を必死で揺さぶり、
自分が行くべき場所を探し続けるスピア。
そもそも、ここがなんと言う大陸で、なんと言う場所なのか。
彼にはそれすらも解からなかった。
いくら探しても見つけ出せぬ答え。
それを拾い上げ、道を示してくれたのは、自分よりも明らかに年下である、
自分の真っ正面に座っているルティナだった。
ルティナ「・・・じゃあ、一緒にポーラルに行きませんか?」
ルティナが時折見せる、まるで一輪の花のような可愛い笑顔。
そんな表情でこう誘われたら、どんな男だって断る事などできないだろう。
当然、スピアの出した答えは、Yesだった。

だが、まだ、スピアの中で吹き荒れる問題の嵐は、完全に通り過ぎたわけでは
なかった。
そう、ここがどこなのか、と言う事である。
見通しが良いこの高原を見渡せば、確かに集落のような物が見える。
そして、ついさっき、自分達が抜け出して来た機械の建物が、遠く霞んで見えた。
だが、その程度のヒントでは、記憶を失っている者に対して、1つしかない
ブロックを、2つ並べて消せと言っているのと同じなのだ。
ルティナなら、何かを知っているかもしれないが、何せ、ルティナがポーラルに
越して来たのは、高々1週間前の出来事である以上、それも望み薄であった。
しかし、そう考えていたのはスピアだけ。
ルティナにとっては、何てことのない、道案内されている迷路を攻略するような
モノだった。
ルティナ「私が連れ去られた時、何か、大きな音がする乗り物に乗せられたん
          ですけど、起伏を感じたのは山一つくらいでした。だから・・・。」
なるほど、彼女は、視界を遮られた状態であっても、自らの感覚によって、
大体のイメージはついていたようだ。
こうなれば、話は早い。
スピア「じゃあ、あの集落に行ってみよう。あそこがポーラルかもしれない。」
スピアとルティナは、青々とした草のじゅうたんに落ち着けていた腰をすっと
立ち上げ、さっき来た側とは反対の、ふもとに見える小さな集落へ向かって
歩き始めたのだった。

しかし、見晴らしが良いと言うのも、取り方によっては厄介な事である。
何せ、こちとら追われる身なのである。
悪い事はしていない。だが、脱走して来た建物にいた者達にとっては、ただの
脱走者・・・と言うよりは、脱獄犯なのだから。
今までのんびりしていた分、すでに、建物の連中がすぐそこまで詰め寄っている
可能性も否定できない事を十分に理解していたスピアの足は、言うより早く、
俊敏に動いていた。
かたや女の子のルティナは、それについていくだけでも精一杯と言った感じで、
時々、息を切らせながら、スピアにこう尋ねる。
ルティナ「な、何で、そんなに、早くっ、歩くんですかっ!?」
もう、顔中、汗びっしょり。
ついには、ルティナは棒のように固まり始めた足を止め、その場に座り込んで
しまった。
仕方なく、スピアもその足を止める。
スピア「俺達をツケて来てるヤツがいるかもしれないんだ・・・。」
すでにクタクタなルティナを見詰め、心配そうな表情をしながらも、スピアは
彼女の手を取り、立たせようとしていた。
だが、その時、スピアの第六感が、敵に襲撃された小鳥の群れのように、
ざわざわと騒ぎ立て始めた。
そして、その予感は現実のモノとなってしまう。
スピア「ってか・・・ツケて来てるヤツが、ここにいるんだっ!」
スピアが、ほとんど殺傷能力のないイミテーションの斧を構える。
すると、所々に突き出した岩の陰から、あの建物で見たのと全く同じ銃を
抱えた数人の兵士達が、こちらを睨みつつ、姿を現した。
疲れていて、思うように動く事のできないルティナの前、兵士がいる方角に
向かって、盾のように立ち塞がるスピアの目が、話していた時とはまるで違う
様子に変わっていた。
しかし、相手は銃を構えた兵士達。
イミテーションアクスで対抗できるほど、彼らは甘くはない。
兵士達の人差し指が、一斉に引き金に押し付けられる。
スピア「くっ・・・、今度こそ、ジ・エンドっ!?」
もはや、この後の展開の予想は、最悪のモノ一つしかできなかった。
が、その時っ!
スピア達の周りをぐるりと囲んでいた兵士達の周り、半径50センチくらいの
場所を先端に、奇妙な光が地を這い始めた。
そして、その光は七色に輝きながら大きく真上に突き出し、兵士達の周りを
ぐるりと囲んでしまったのだ。
不思議な光の輪からはみ出していた銃身が、光の壁を境にして、真っ二つに
割れて落ちる。
兵士「・・・な、何だぁ、これはっ!?」
自らが所持している、唯一にして絶対の武器を使用不能にされてしまった兵士
達の顔色が、光の輪とは対照的に、青一色になっていく。
と、そこに、一人の男性が姿を現した。
そのいでたちは大柄で、強固な肉体を思わせる腕の筋肉が特徴的。
加えて、大きな木も一瞬で真っ二つにできてしまいそうなくらいに大きな剣を
持っていた。
大柄の男「動くな。それに触れたら、お前達の体も、その飛び道具と同じ運命
          になるぞ。」
ただでさえ、その雰囲気で他の者を圧倒してしまうほどの迫力の持ち主が、
それに輪をかけるかのように、兵士達を脅す。(しかも無表情で)
兵士「あ、あんたはっ!?ひ、ひぃぃぃっ!?」
青ざめた顔に、火が点けられそうなくらいの脂汗が、兵士達の肌を潤していく。
その様子をじっと見ていたスピアとルティナも、何が起こっているのかが、
まるで把握できてはいなかった。
口をぱくぱくさせながら、ただ、信じられない光景を見詰めているだけ。
そんな彼らに、奇妙な力を使ってみせた大柄の男の声がかかる。
その印象は、この非常事態であるにもかかわらず、全く感情を垣間見る事が
できないほどに、落ち着いていた。
大柄の男「こいつの効力はじきに切れる。今のうちに逃げろ。
          ポーラル集落はすぐそこだ。」
それとは対照的に、全然落ち着きがないのがこの男。
スピア「で、でも、あんたはっ!?」
大柄の男の言葉に従い、足に疲労が蓄積しきっていて動けないルティナをおんぶ
して走りながらも、スピアは振り向いて問い掛ける。
だんだん遠くなっていく戦場から返って来た言葉は、妙に自信たっぷりなこの
セリフだった。
大柄の男「赤子の手をひねるだけだ。」
そのすぐ後に、大柄の男と、メインにして絶対的な武器を失った兵士達が対峙
している山の中腹は、まるで、事の次第を包み隠すかのように、気まぐれな山
の霧によって見えなくなってしまう。
「いくら何でも一人であれに向かうのか!?」と、面識のない男の事を心配する
スピアとは対照的に、ルティナの表情は、疲れていながらも、なぜか安心
しきっているような雰囲気を浮かべていた。
その雰囲気をなんとなく見とめたスピアが抱く疑問が、思わず彼の口からついて
出てしまう。
スピア「ルティナ、何で、そんなに、安心しきってるんだ?」
その言葉に、ルティナはただ、こう答えるだけ。
ルティナ「あの人なら、たとえ100人相手にしても大丈夫ですよ♪」
・・・誰に見せるでもなく、ルティナの顔が嬉しそうに笑みを浮かべていたのを、
この時、スピアは気付く事ができてはいなかった。

一気に山を駆け下り、ようやくふもとにまで辿り着く事ができた二人。
駆け下りて来た斜面の上を見渡せば、そこにはさっきから覆い隠している、
白く漂う霧のスクリーン。
すでに、戦っているはずの男達の声や音は、遥か彼方で掻き消されている。
スピアの背中の上には、ちょっと顔が赤くなっている一人の少女。
そんな彼女が、スピアの耳元で、そっとささやいた。
ルティナ「スピアさん、ありがとう・・・」
その後ルティナは、どこか遠くを見ているような、そんな目つきになり、
何を聞いても、答えを返してくれなくなってしまった。
自分の首の回りの限界のせいで、それを見る事のできないスピア。
彼の肩に何かのしずくが2つ落ち、服を濡らしたのは間もなくのことであった。
だが、想い出を失い、たった今始まったばかりの彼にとっては、この涙が何を
意味しているのかなど、到底理解できるわけがない。
逆に、「俺がしてる事で何で涙を流すんだ?」と、頭を悩ませてしまうのだった。

そして、気がつけば、もう辺りは、赤系統の色が支配する夕暮れへと変化を
遂げていた。
西の地平線に沈んで行く、昼間の王者。
記憶を無くしたスピアにとって、それはあまりにも美しい、初めての夕日だった。
彼の肩の後ろには、いつの間にか眠りに落ちているルティナ。
その静かな寝息が、スピアの耳元で小さく渦巻いている。
スピア「急ごう、いくら何でも、夜にやって来たよそ者を歓迎してくれる村人
        なんか、いないはずだ・・・。」
自らの体内に蓄積されている極度の疲労を黙殺し、スピアは集落へと足を速め、
いそいそと歩いていった。

スピア「・・・!」
スピアが集落への入り口を通り過ぎようとしたその時、彼は何かの気配に気が
ついた。
先ほど捕まっていた奇妙な機械の施設の時にクセがついてしまったのか、その
気配をじっと辿っている。
すると、集落の入り口のすぐ側にある、ちょっとちびデブな木の木陰から、
いかにも気弱そうな少年が、ひょいっと顔を覗かせた。
おとなしそうな少年「・・・お兄ちゃん、誰・・・?」
――いきなりそう来たか。
気弱そうな少年が、いかにもハリボテな斧を持った金髪の男を前にして身構え
ながらも、尋ねて来た。
それに対してスピアは、ちょっぴり自分自身を皮肉って答える。
スピア「俺?名前は多分、「スピア」。見ての通り、ただのよそ者だよ。」
ただ、この言葉の言い方に、ちょっと問題があった。
疲れている体のせいか、上手く細かい制御ができなくなっていた。
その結果、無意識のうちに大きな声になってしまっていたのだった。
当然、この声を聞きつけた集落の住人達が、何事かと血相を変えて家の外へと
飛び出して来た。
そして、気弱そうな少年越しに見えたのは、同じく村の住人である少女を、
今にも倒れそうな勢いでふらふらしながら背負った男。
一瞬、集落内のひんやりした空気が、さらに心を凍らせんがごとく張り詰める。
だが、その空気は、住人の中から出て来た中年の男女によってほどかれる事に
なる。いや・・・、ほどかれると言うよりは、ブチ切られると言った方が良い
かもしれない。
中年の女性「・・・あんたがしょってるの、ルティナじゃないか!」
ちょっと小太りな中年の女性が、言葉にせずとも伝わる「さっさとルティナから
離れな!」と言うニュアンスの視線をスピアに投げかけながら近付いてくる。
そして、それを、同じく険しい顔で静止したのが、ちょっとやせこけた感じが
印象的な、ルティナと同じく、蒼い瞳を持つ中年の男性だった。
中年の女性「あんた、何すんだいっ!娘の一大事に、よく落ち着いてられるね!」
小太りな女性が言った言葉から察するに、この人達はルティナの両親のようだ。
彼女はその太い腕で、ルティナの父親の、衝撃を与えたら折れてしまいそうな
左腕をがっちりとつかみ、彼をどかそうとした。
だが、父親は、その体に似合わず、なかなかその力に押し流されようとはしない。
逆に、ルティナの母親の両目の中心をまじまじと見ながら、落ち着いて彼女を
諭した。
ルティナの父「ここに連れ戻してくれた人が、さらったヤツらの仲間のはずが
              ないじゃないか。」
ルティナの母「あんたはお人好し過ぎるんだよっ!!だからこの間だって!」
ルティナの父「なっ・・・、それとこれとは関係ないだろう!!」
言うが早いか、その場で、犬も食わない夫婦喧嘩が始まってしまった。
一気に騒がしくなる、黄昏の闇に抱かれたポーラル集落。
この騒がしさで、いくら疲れているルティナでも目を覚まさないはずがない。
「ふにゅ・・・?」と寝ぼけてて意味不明な言葉を漏らすルティナ。
そして、寝ぼけまなこでぼんやりと映ったのは、見るにも耐えない、恥かしい
両親の口論だった。
その会話を、スピアの金髪の頭越しにじっと聞いているルティナ。
だが、ここで仲裁しなければ、どんどん論点がそれてしまうのは明らかだった。
そして、ついに、恥かしさで顔が真っ赤っかのルティナが言葉を発した。
ルティナ「違うの!この人、私と一緒に捕まってた人なの!恥かしいからやめて!!」
一瞬止まる、周りの空気と時間。
それは、さっきまで殴りかからんとしていた両親の動きさえも止めてしまうほど
の力を秘めていた。
一方、耳元で突然大きな声を出されてやや耳がキーンとしているスピアは、
塞がっていて使えない両腕をうらめしく思いながら、こう思うのだった。
「あんな大きな声が出せたのかよ、ルティナって・・・。」

所変わって、ここはルティナの家。
外からぱっと見た感じでは、ポーラル集落の家にしては珍しく、天井がやや
高めに付いているのが目に留まる。
華美な装飾を好んでいないのか、外壁や屋根などに飾りの類は一切置いてなく、
白く塗られた壁には、屋根に降り注いだ雨を流すハーフパイプくらいしか、
見当たらなかった。
中身はと言うと、この母親から受ける第一印象とは対照的に、モノがきっちり
と整理され、ゴミも特に落ちてはいなかった。
やはり、最近引っ越して来たばかりだからだろうか。
まだ汚れも目立たず、清潔な印象を受ける。
ただ、まだ、住人が家の勝手をつかめていないのか、まだまだ使えそうな箇所
がたくさんあった。
そんな、いかにも住み始めたばかりと言うような感じの、ルティナの家の、
この集落の建物にしては割と広いゲストルームに通されたスピア。
テーブルの、スピアが座った所の反対側に、さっきの両親の恥ずべき言動から、
まだ立ち直れていないのか、目を両手で覆って顔を朱に染めているルティナが
座った。
さすがに、疲れている様子の娘に、無理矢理客人のおもてなしをさせる事は
できなかったようだった。
そんなルティナの母親が、二人にお茶を持って来たのは、二人が行儀良く着席
してから、ほんの少し経ってからの事だった。
まず、スピアの方に、お茶を差し出すルティナの母親。
彼女は、茶を置いた後で、ちょっぴり太めの腕に張り付いている服の袖を
たくし上げながら、いろんな事があり過ぎて余計にくたくたになっているスピア
に、さっきとはまるで別人のような口調で話し掛けた。
ルティナの母「すまなかったねぇ、勘違いしちまって。」
スピア「いえ・・・ぼ、僕の方こそ、いきなりお嬢さんを馴れ馴れしくおんぶ
        なんかしてきてしまって・・・」
突然だが、スピアの苦手なモノの一つが、この「敬語」だった。
慣れない言葉づかいのせいか、彼が放った言葉は異様に片言で、歯切れが悪い。
それを、対岸で思わずクスッと笑ってしまうルティナの姿が。
だが、母親にはそれが、わからなかったようで、普通なら「失礼でしょ?」の
一言ぐらいあっても良い所が、全然それをしようとはしなかった。
そんな事はおかまいなしに、ルティナの母親(スピアからすればおばさん)は、
ルティナにもお茶を出しながら、スピアとは対照的に、とても砕けた言葉づかい
で話しを続けた。
ルティナの母「ありがとうね、娘を助けてくれて。」
その後当然、スピアは自分の名前や出身地など、自分でも解かっていない事を
バンバンと質問されるハメになったのは言うまでもなかった。
その度に、彼は「あー、えーと、そのー、あうう・・・」と、歳にも似合わない
言葉を吐いてしまう。
仕方なく、彼は自分の置かれている背景を、ルティナの母親に語って聞かせた。

ルティナの母「・・・そう、記憶喪失とはねぇ。それじゃ、あんた、行くアテも
              何もないんだね。」
記憶喪失の事や、脱走の際の話などを全てぶちまけたスピアに、おばさんの目が、
お茶に使われているハーブの匂いよりも強い人情をたっぷりと放ち始める。
そして、おばさんが放った一つの提案に、スピアは目を丸くしてしまった。
ルティナの母「よっし、どうせ開いてる部屋があるから、しばらくはここで
              寝泊まりしな!」
スピア「え、でも、俺・・・じゃなかった、僕、年頃の男ですよ?」
自分で自分の事を「年頃」と称したスピア。
そこまでアガる事ないのに。
と、そこに、ルティナの父親が、血相を変えて駆け込んで来たのは、間もなくの
事だった。
この事態に、さっきまで優しい顔をしていたルティナの母親の目が、急に、
さっきの夫婦喧嘩の時のような感じに変わってしまう。
ルティナの母「あんた、どうしたんだい!?お客様がいるってのに!」
また、集落中に聞こえてしまいそうなくらいに響き渡る強さを持ったおばさんの
アルトな声。
一方、それにさらにビビったおじさんが、まるで蚊の鳴くような声(しかも震えて
いる)で、今さっき、自分が見て来た緊急事態を告げた。
ルティナの父「ぐぐぐ、軍隊みたいな格好したヤツが、「ルティナと言う女と
              金髪の男を知らないか」って、尋ねて回ってるんだよ!
              知らないって言ってた御近所さんも、ひどい仕打ちを受けてた!」
おばさんの声のおかげで、虫の鳴き声一つしなくなっていた客間。
それだからだろうか、その声はスピアとルティナにもハッキリと聞こえていた。
ルティナは困った表情を浮かべた。
だが、それとは反対に、スピアの目が、昼間の高原の時と同じく、真剣なモノに
変わっている。
家の外同様、白くて汚れていない、それでいて装飾もほとんど見当たらない
ような部屋の中をぐるっと見回す。
すると、そこには、彼が持っているイミテーションとは明らかに違う、本物だが
戦闘用とは到底思えない、まるできこりの道具のような斧を見つけると、それを
片手ですっと持ち上げ、ルティナの両親に、こう告げた。
スピア「僕が招いてしまった、招かれざる客ですから、僕が追い払います。
        ルティナは家の中にいてくれ!」
彼のその言葉に、ルティナも、ルティナの両親も、思わず目をぱちくりさせて
しまう。
そんなしぐさが、やはり親子なんだなぁ、と思わせるのだが、今のスピアに、
そんな事を感じる余裕などない。
ルティナ「でも、相手は銃を使うんですよ!?斧じゃあ・・・」
そう言うルティナの表情が、不安と心配を浮き彫りにさせる。
だが、それでも、スピアの意志は変わる事はなかった。
さすがは大人と言った所か、その意志を肌で感じ取ったルティナの両親が、
スピアに何かを手渡した。
ルティナの瞳同様、蒼く透き通った、まるで宝石のようなもの。
スピア「これは?」
これが一体何の役に立つのか、と、今度はスピアが目をぱちくりさせてしまう。
そんな彼に、ルティナの父親は、その宝石のような物の意味を教えてくれた。
それによれば、この宝石のような石は、通称「スキルマテリアル」と呼ばれる
道具で、半永久的に魔力を自身で放ち、これを装着した武器や防具を者に特殊な
技術や効果をもたらすとの事だった。
ルティナの父「ちなみにそれは、「ガンサバイバー」ってヤツだ。これで、
              銃による即死効果は完全に無効化できる!」
ルティナの母「疲れきった客にこんなことをさせるのは忍びないけど、アクト
              が帰って来てない今はあんたしか頼れなさそうだからね。
              いいかい、死ぬんじゃないよ!ルティナの恩人なんだから、
              あんたは!」
スピア「・・・ありがとうございます、じゃ、行ってきますっ!」

ルティナの家族の強力な助けを受け、今、スピアが、にわか仕込みの戦場へと
飛び出した!
  

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