互いの道を歩みつつ、偶然とも運命とも取れる邂逅を果たした二つのパーティが、その場所から
再び大空の見える大地に戻ってきたのは、はいってから丸一日以上経った朝だった。
パルス「げっ・・・もう朝になってたのかよっ・・・」
灼熱の炎に彩られた洞窟の入り口を照らす、いつのまにか上っていた太陽を見詰めつつ、パルスは
まぶしそうに手を日傘にし、真っ先にフレイドームから一歩、足を踏み出す。
トーン「こんなに長い間いたのね・・・」
続いて、トーンが出る。
その後を追うように、スピアとルティナも、そよ風涼しい外へと舞い戻った。

今から思い返してみれば、スピア達が経験した戦いは、長いようで短い、なんだか微妙な時間だった。
炎と熱風の輪舞に包まれ、力の限り戦った二人の心の中には、その相手であるフェニックスがいる。
パルス達の目的は、宝捜しだったようだが、それは不発に終わり、双方、まったく逆の成果を上げた
今回のことは、2つのグループに、光と影をそれぞれ落としている。
だが、一時的だが出会った4人は、これから、同じ道へと歩み出すことになる。
この時は、まだ気づいてはいないのだが。

スピア「なぁ、あんたら、これからどうするんだ?」
山から下り始め、しばらくしてから、スピアは口を開いた。
トーンとパルスは冒険者みたいだが、ラサ大陸を行き来する船はそう多いわけではない。
輸入物を運んでくる貨物船はともかくとして、人を乗せてやってくる船が今度来るのは、確か・・・
一ヶ月後である。
トーン「んー・・・行くアテもないわね〜・・・。君たちはどうするの?」
目的不達成なのに、妙にあっけらかんと答えるトーン。
ルティナ「ポーラルに帰りますけど。」
それに対してルティナも、妙にさっぱりした表情で返す。
この時、スピアとパルスの心の中に去来したもの、それは――
「女って、こういう時は妙にドライだよな・・・」
ルティナ「何か言いました?スピアさん」
スピアの思いは、ルティナには筒抜けだった。
スピア「ん?あぁ、天気がいいねぇ、って」
とりあえずごまかしたスピアだったが、その言葉はべたべた。
回避したつもりが、ただ単に、トーン達の笑いのネタにされてしまうのだった。
「あははは!!」

それからしばらく時間を置いてから、トーンはパルスを呼び寄せると、何やら二人で打ち合わせ?を
始める。
その様子をうかがうでもなく、スピアとルティナは、先ほど契約したルミナスの話に華が咲いている。
そんな二人に、トーンはいきなり振り替えると、話し合いの結果を、二人に伝えた。
トーン「あたし達も、ポーラルにしばらく落ち着くことにしたよ。新しい情報が入るかもしれないし」
パルス「そっか。んじゃ、しばらくは一緒ってわけだな。」
やっぱり、会ったばっかりだからだろうか、妙にそっけない二人。
それから、4人は同じ場所へ向かって、ただひたすらに歩きつづけることになる。

そして、山道もすっかり終わり、4人の眼前に広がるのは、ただただ広い、緑のじゅうたん。
ここまでくれば、後はポーラルまでの道は平坦だった。
その景色に見とれるでもなく、4人はただ、ポーラルが見えるのはいつかいつかと、黙々と歩き続け、
その姿はまるで、赤の他人同士。
初めて会ったパルス達とはともかく、ルティナもスピアも、あれからは口を開こうとしない。
まるで、これから来る脅威を予感しているかのように。

しばらく行くと、先を先導していたスピアが急に、その場に立ち止まった。
スピア「おい・・・何かの気配がしなかったか?」
スピアはおもむろに辺りを見回すと、持っていた斧をいつものように、いつでも振り上げられるように
構える。
それに続いて、自分の武器を構えたのはパルス。
パルス「ああ・・・何かいるな。」
パルスが持つ斬竜刀の先には、一見、どこまでも続く草原が広がっているだけのようにも見える。
だが、スピアとパルスは、その中に隠れている、何かに目をやり、睨み付けている。
その表情は、さっきまでの寡黙さとは打って変わって、いつでも出てこいという、自信さえ伺える。
トーンとルティナは、そんな二人を見て、「動物か何かじゃないのか」と思いつつも、緊張の度合いを
徐々に高めていた。
だが・・・二人の予想は、見事に外れていた。
唐突に、ルティナの横、ちょうど人一人分離れた場所から、何とも言えない、臭いにおいが立ち込めて
来たのだ。
パルス「っ・・・このにおいは・・・死臭・・・っ」
スピア「このにおい・・・苦手なんだよな・・・」
そのにおいをかぎつけ、スピア達は、そのにおいの先に目をやる。
するとそこから出てきたのは、一匹のゾンビ!!
それは、今まで身を隠していた草陰から、ゆっくりと起き上がると、不気味な咆哮を上げて、徐々に
こちらへと迫ってきた。
だが、その動きは、およそゾンビのものとは思えない、妙に機械的で、精密な動きだった。
近寄ってきたゾンビに、まずはパルスが一太刀浴びせる。
パルス「臭いものにはふたをってな!」
しかし・・・。
その刃先は、振り下ろされることなく、途中で止まってしまった。
なんと、このゾンビ、パルスの剣を素手で受け止めているのだ。
そして、その剣先を持ったまま、ゾンビはもう一つの拳でパルスの脇腹を狙うっ!
パルス「あぶねっ!?」
すんでのところでかわしたパルスだったが、その背後から、また違う視線が投げかけられる。
トーン「ちょっとパルス、後ろ!」
トーンはそう言うと、走りながら何かの呪文を唱え、持っていた魔道具の先に刃をつけた。
トーン「カオスウェポン、「ビッグブレード」!」
そして、パルスの背後まで駆け寄ると、そこに近づくゾンビの足を払った。
斬られた足はその場に張り付き、その上だけが見事に転ぶ。
その様子を見ていたルティナが、不意に、周りをきょろきょろと見回し始める。
トーン「なにしてるの、ルティナ?」
斬った後で体勢を立て直し、トーンは聞く。
だが、よく見てみたら、それをしているのはルティナだけではなかった。
そう、スピアも。
パルス「こんな時になにしてるんだよ、おまえら・・・首振り体操してる暇なんてないだろうが!!」
この二人の奇怪な行動に、パルスは感情むき出しに詰め寄る。
その間に、スピアとルティナの視線の先が、一つになった。
スピア「そろそろ出てきたらどうだよ・・・操ってるのはお前だろ!?」
スピアはそう言って、持っていた斧を、視線の先へとつきつけた。
そこから出てきたのは・・・
金の短髪、歳は30〜40代と言った、一見からしてこわもてのおっさんだった。
おっさん「ほう・・・にわか仕込みのパーティにしては感が鋭いな・・・」
おっさんは、そう言った後で、まだ動いているゾンビ達に、「止まれ」と命令を下し、その場に
留まらせた。
いきなり出てきたこのオヤジに、パルスとトーンは、一瞬、目をぱちくりさせていた。
そして、さっきまでの怒り調子とは打って変わって、パルスが、スピアの耳元でこう聞く。
パルス「操ってるって・・・どゆこと?」
だが、スピアは、振り向こうともせず、「詳しいことは後で話す」とだけ言うと、まだおっさんに
視線を投げかけている。
そして、スピアはおっさんを睨み付けると、大声でこう切り出した。
スピア「お前は誰だ!?」
敵と思われる人物を見据える4人の間に、戦いとはおよそ無関係な、すがすがしい草原の風がすうっと
吹きぬける。
そして、その風に乗せて、おっさんは口を開いた。
おっさん「この私に「誰だ」とは・・・。報告どおりだな、記憶喪失とは。」
スピア「なっ・・・!?」
その言葉に、スピアは動揺した。
何故、見たこともないこの男が、自分の記憶喪失を知っているのか――
だが、相手はそんなことにはお構いなしに、言葉を続けた。
ネルセス「とりあえず、自己紹介だ。私はネルセス。いづれ、この世界を力で支配する者。
          おまえらが逃げ帰った、あの施設の首領だ。」
・・・素っ頓狂だった。
今時、「世界征服」を企んでいる酔狂な男が、まだ実在していたとは。
しかし、やっぱりというか、ネルセスは、そんな周りの空気もお構いなしだった。
彼は再び黙すと、その左手を大きく上へと振り上げた。
すると、一体どこから来たのだろうか、スピア達の周りから、続々とゾンビ達が現れ、そのゾンビは
およそゾンビのものとは思えないスピードでこちらへと向かってきた。
スピア「げっ・・・こんなたくさん!?」
スピアが口走る。
そう言った後の間髪もなく、大量のゾンビは、死臭を放ちながら4人の目前に迫り、腐りかけた拳や
足を繰り出してきた。
パルス「っ!?」
とっさの判断で交わしたパルスが、先ほど止められた剣を再び持ち直すと、ゾンビめがけて、その剣を
大きく横に振り込んだ。
パルス「斬空閃っ!!」
切っ先から生まれる、一筋の真空っ!
それはゾンビ達の体にいっせいに当たり、彼らの腕を落とす。
だが・・・
ネルセス「私のしもべを甘く見るなよっ!」
そう言うネルセスの一声で、ゾンビの切り裂かれた体が、どんどん再生していくっ!
パルス「そ、そんなの詐欺っ!?」
よみがえって再び襲い掛かるゾンビに、パルスは思わず悲鳴を上げた。
確かに、これではきりがない。
それでも、4人はひるむことなく、立ち向かっていく。
何度倒しても復活するゾンビ達。
復活しても、またねじ伏せるスピア達の体力は、徐々にだがなくなっていった。

そして、ちょうど、ゾンビを10回ほど倒したころ・・・。
先ほどまで、ただ黙ってその様子を見届けていたネルセスが、突然にその声を上げ、ゾンビ達に、
再び止まれと命じた。
ルティナ「?」
いきなりのことに、ルティナは思わず首をかしげる。
かしげた後で、なにをする気かとネルセスに尋ねるルティナの顔には、一筋の汗が零れる。
すると、ネルセスの言葉を受けて、その場に制止しているゾンビ達が、今度はネルセスのほうへと
集結し始めた。
そして、ゾンビ達に囲まれたネルセスは、ルティナに向かって余裕の言葉を吐き捨てた。
ネルセス「今回は力を試しただけだよ、ルミナスサマナーのお嬢さん。」
言うその視線が、明らかにルティナ達を見下している。
パルス「力を試す・・って、てめえ、ゾンビ達を駆って俺達を食らわせるつもりだったんだろうが!」
その様子に激怒するパルス。
だが、ネルセスは動じることなく、まるで相手にしてないと言った様子で、4人に背中を向けた。
そして――
ネルセス「最終試験だ。受け取れ。」
そう言って、何かの合図をした。
すると、先ほどまで、ネルセスを囲んで微動だにしようとしなかったゾンビ達が、真ん中の一匹を
中心に、次々と一点に集まり始めた。
トーン「が、合体する!?」
集まった屍肉が、次々と一つになっていく・・・
ゾンビ「あ・・・ああぁぁぁぁぁううううう・・・・・っ」
腐った口から吐き出させる息が、次第に瘴気へと変わって行く。
出来上がった死体の巨人。
2本の太い腕を取り囲むように、無数の小さな腕がうごめくその異様な姿は、まさにバケモノだった。
死体の巨人「がああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
太い腕が、風を切り裂く音と共に振り下ろされたのは、それからまもなくのこと。
スピア「ちぃっ!?」
その腕を、間一髪のところで、斧で防ぐスピア。
その先には、後ろを向いたままのネルセスの姿が。
彼は再び、手を上に挙げると、何やら唱え始め・・・
消えた。この言葉を残して。
ネルセス「さっきのゾンビは元々、その大きさだったのを、分割しておいたものだ。
          今は再生能力はないが・・・勝てるかな?フフフ、ハハハハ・・・!!」
パルス「くそ、逃げるなっ!!」
パルスが叫んだが、その声はもう、ネルセスには届いていなかった。
変わって、死体の巨人の無数の腕が、パルスの胸元に迫る!
トーン「危ないっ!」
とっさに、トーンが魔道具の刀身を、ゾンビの腕に振り上げた。
だが、その刀身は音を立てて弾け飛び、そのまま伸びつづけた腕は、パルスの胸元をつかんで、高々と
その身を持ち上げ――
パルス「あぁっ!?」
草が生い茂る大地へと、叩き付けたっ!
その衝撃は、パルスの骨を砕いているであろうほどの音と共に、草原中に駆け巡る。
焦ったのはトーン。
自分の武器が通用しない上に、パルスが戦闘不能に陥ってしまった。
トーン(こんなヤツ・・・今まで相手にしたヤツの比じゃない!)
武器を失い、一歩、また一歩と引き下がるトーン。
次に前に立ったのは、真打とばかりにスピアだった。
スピア「食らいやがれっ!」
襲い掛かる豪腕と、その周りの腕を掻き分け、スピアの渾身の一撃が、死体の巨人の左胸に入る。
続けて、ルティナが、先ほど契約したばかりの力を使った魔法を頭の中で瞬時に描き――
ルティナ「ブロウ・エッジ!」
飛び出た炎の刃が、ゾンビの巨体に深く刺さる。
間髪入れずに燃え上がったその体をかきむしるゾンビ。
だが、口から出される瘴気が、その炎を邪魔し、次第に炎の勢いを小さくしていってしまった。
ルティナ「うそ、炎が!?」
見る見るうちに消えていく炎を目撃し、ルティナは我を疑った。
そして・・・
死体の巨人「がぁぁぁぁぁううっ!!」
二つの、丸太のような腕を振り上げると、その真下にいるスピアめがけて、思い切り振り下ろした。
スピア「くっ!?」
それはまるで、スローモーションのごとく。
いや、ストップモーションと言ったほうが正しいか。
だが、いつまで経っても、スピアの体に衝撃は走らなかった。
変わって、スピアとゾンビの周りには、一筋の白い光が。
その円形の光は、今まで素早かったゾンビの動きを、一瞬にして止めていた。
スピア「なにが・・・起こったんだ!?」
思わず、スピアはそのリングから飛び出し、ゾンビの後ろを見渡す。
するとそこには、見慣れない二人の男女の姿があった。
そのうちの一人は、何やら呪文のようなものを静々と唱えつづけている。
謎の女性「聖なる円陣はさまよえる魂を導き、天へといざなうべくその力を示す・・・」
そして、次の瞬間!
謎の女性「ホーリィ・ウェイ!」
魔法らしきものが完成し、その円陣から放たれる白い光は天へと駆け抜ける!
その光は、死体の巨人の体を軽々と中に浮かすと、その光を一瞬、閃光へと変えた。
一瞬、視界が弾け、周りが見えなくなった。
ルティナ「なっ・・・!?」
思わず、両腕で目を覆うルティナとスピア。
だが、円陣を発したと思われる女性は、そんな事はしようともせず、会ったこともないはずのスピア
達に、大声でこう叫んできた。
謎の女性「なにやってるの、さっさとルミナス出しなさい!」
「え・・・?」
その女性の言葉に、びっくりした様子で腕の傘を解く二人。
そこに飛び込んできたものは、先ほどの円陣ではなく、空中に浮かぶ白い結界と、その中に閉じ込め
られた、巨人の、力の限りもがく姿だった。

4人のピンチの中、突如として現れたこの二人組。
強大な力を持つこの女性は、一体何者なのなのだろうか・・・。
この戦いが終わったとき、その断片が明らかとなる。
  

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