冷たい2人の温度





























































「ねぇ、今なんて書いたとおもう?」
 
 
 
 
 
 
彼の背中に、濡れたゆびでかいた言葉、つたわればいいのに。
 
 
 
 
「わからない。もう一回。」
 

 
 















 わたしが海に誘ったら彼はすこし驚いたけど、いいよ、と言ってくれた。
 
あることのないとおもっていた。
 
だって彼には――――
 

























 
 
 
「それは今さらムリだろ〜」
 
 
その本当に苦々しい笑顔が、痛い。
 
ねぇ、もう我慢できないの。
 
今だけはこの背中はわたしの唯一の居場所にさせて・・・
 
 
 





 
「わかってたの?」
 
「わかるように、してただろ。」
 
「わたしを・・・すきになって。」
 
「ムリだってことはどうせ知ってるだろ?」
 
「だから誘ったんじゃない。」
 
 
 
ねぇ、まだあなたが大人になるまえに、子供なわたしに付き合って・・・
 
 
さっきまで水をかけあって遊んでいたのに、急に大人のようになって
 
肌が冷たい。
 
いつから、彼はわたしのそばにいなくなったんだろう。
 
気づかなかった。
 
永遠だと、おもった。彼といた時間。
 
もう戻らない?
 
まだ彼のくちびるの温度さえ知らないのに。



 
 
 




 
「最後に、おねがい。」
 
「俺は最後だから、おまえに付き合ったんだ。」
 
 


















 
彼の背中にもたれる、もうとなりにはいれない。
 
 
 


「まだ髪が濡れてる。カゼひいたらいけないからもう帰ろう。」
 
「やだ。」
 
 
 
ちょっとした言葉でさえ優しすぎる、毒。
 
 

















彼の手をとった。
 
ぐいっとひっぱって波がおいかけてくるところまでいった。
 
 
 
























すき
 











すき
 











すきすぎる
 












まだ。
 
 
 






















足をとられて彼は転んだ。
 
 
「冷た・・・・・・・・・」
 
 
























そのまま時間が止まったかのように
 
一度もこんなどばであなたの顔を見たことがなかった。
 
 
 
















「ごめん。」
 
 
 













そんな言葉をいわせたかったんじゃない。
 
 
 
「まだ、わたしは何ひとつ彼女らしいことしてなかったっ・・・
 
 あ、あなたの一人前の彼女になりたかったのに」
 
 
彼の濡れた手がほんとうに冷たくて、冷たくて。
 
 
 
 
 
 
 




「こんなに、弱かったんだな。」
 
「いまにも壊れそうだった。」
 
 
「でも、ごめ・・・・・・・・・・・・っ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 







その言葉はもう、一度だけでいい。
 
そのまま彼の言葉をさえぎった。
 
 
冷たい、くちびるの感触。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
放そうとした瞬間、それまで抱いていた彼の手がわたしの頭を押さえつけた。
 
息が、もたない。
 
 
 
「んっ・・・・・・は・・・なし・・・・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「はぁっ・・・・」
 
 
 
目の前が少しゆがんでぐらついた。
 
そして彼はわたしの手をとって立ちあがり、砂浜のほうへ歩いていった。


「これで、もういいだろ。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
家につくまでのあいだ、ずっと彼とは言葉を交わさなかった。
 
 
 
 
 
 
「じゃあな。」
 
「ん・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
遠くなる彼の背中 もう、元には戻れない。

ねぇ、どんな顔して彼女に会うの?

どんな優しさ見せるの?


























まだ、くちびるに冷たい感覚が残ってるのに。