無名抄 その弐拾四
冬道にご用心
高校時代、唯一の自力交通手段は「自転車」でした。
道路が圧雪状態であろうと、凍結状態であろうと、自転車で移動するしかありませんでした。
横転して前カゴがつぶれたり、事故になりかけたり。自転車用の冬タイヤがほしいと、何度思ったことでしょう。
社会人となった現在は、文明の利器「自動車」で移動できます。弓具を積んで、雨でも雪でも平気です。
移動範囲も、高校時代とは比べ物にならないほど広がりました。
ただし、気をつけなければ恐ろしい目に遇う、という程度もだいぶ広範囲・大規模になっている事を、最近思い知りました。
◆◆◆
12月のある土曜日。土曜は勤務日。夕方から雪が斜めに降り出しました。暖冬とはいえ、降る時は降ります。
こりゃ今日は早く帰った方がいい、と職場のかたに言われなくとも早く帰りますとも。
「今日と明日は一年生大会という大会があるので、仕事が終わったら夕飯を食べて盛岡に向かわなくちゃならないんです」
「なに、今から?! やめなさい、道路がつるつるで死んでしまうぞ。明日行けばいいべ」
「でも、宿をとっていただいてあるし、ミーティングしなきゃならないし、みんな(たぶん)待ってるはずなので」
「明日のあさ行きますって電話すればすむでしょ」「いやいや、行かねばならんのです(^^;)ゆっくり行きますから」
定時(18時)であがり、家で夕飯を食べ、荷物をチェックしていざ盛岡へ。
ガソリンは半分あるのでよし。山道を抜けて、水沢インターから高速に乗ることにしました。
いつもならiPodを大音量でかけて運転するところですが、食後なのと仕事後なのとでちょっと眠気があり、
音楽までかけたらうっかり居眠りしてしまうかもしれない、とやめておきました。
気温零度。道路はまだ凍結はしていないようです。用心しつつ山の連続する坂道カーブを進みます。
今日の戦績はどうだったのか。だれもメールをよこさないところをみると、悪かったのでしょうか。
・・・カラカラカラ
(なんだ?)
ときどき、何かの音がします。
職場の駐車場を出るときにも聞いた音で、(木の枝でも巻き込んだのかな)と思っていましたが、
やがてハンドルを左に切るたびに聞こえるようになりました。
・・・カラカラカラ〜ン
(・・・なんだろう。あんまり大きい音じゃないけど)
これから高速に乗るのに、一般道で異常音なんて、こまった中古車です。来月の12ヶ月点検でみてもらおう。
いや、ガソリン半分なら寄らなくてもいいのだけど、一応水沢のスタンドで見てもらったほうがいいかなぁ。
夜道、冬道で動かなくなったら、と思うと、やや遠回りをしてでもスタンドへと向かってしまう心配性の自分。
「レギュラー満タンお願いします。あと、なんかさっきから『カラカラ』音がするんですけど・・・」
スタンドのおじさんは車体をちらと見て、
「あ〜、タイヤが取れかかってますね」
「ええ〜っ!?」
前右の冬タイヤ、ナットが2つないです。ほかの4つのナットも一目見てわかるほどゆるんでいます! なんてこった!!
「ど〜しよう、これから高速乗って盛岡まで行くんですけど!」
スタンドのおじさんたちが他のタイヤもチェックし、代わりのナットを探してきてくれた。
他のタイヤも、みごとにゆるんでいたそうです。
「これでとりあえず大丈夫ですよ。自宅で交換したんですか?電動ので?最後にレンチで締めないとあぶないんですよ」
「高速に乗る前でよかったですねぇ。高速道走っててはずれてたら・・・」
多重事故の一台目になっていたかも・・・おそろしい!! (@O@;) もう帰りたい!!
まず家に電話をして、タイヤ交換の大部分を行った親に事情と苦情を言い、
続いて盛岡で待っている顧問の先生に事情を説明。先生もびっくりされていました。
今日の結果をうかがうと、早くビデオを見なきゃ、いったいどんな行射でこの結果を出したのかと気になります。
しかし、タイヤはもう大丈夫と言われても、なんだか不安です。ほんとに大丈夫か?!
大丈夫かどうか、一般道を予定よりも長く走り、花巻南インターでナットをすべて指で確認してから高速に乗りました。
サービスエリアでももう一度チェック。どうやら大丈夫そうです。でも、道路は凍結しはじめていて、薄氷が。
なんにしても冬道には用心につぐ用心が必要です。ゆっくりゆっくり行きましょう。
宿に着いたら22時過ぎ。選手たちはミーティングを終え、元気に騒いでいました。やれやれ・・・
◆◆◆
走行中にタイヤがはずれたらどう対処したらいいか、なんて自動車学校でも教わりません。
いろいろな偶然が重なって(雪が降った、音楽をかけていなかったので異常音が聞こえた、寄る必要がなくてもスタンドに寄ってみた、等)
命を失わずにコーチ業を果たすことができました。
本当にあやういところでした(--;)
この大会の10日前、U2のさいたまスーパーアリーナライブを観に行って『もう思い残すことはない!!』などと思っていたのですが、
やはりまだ死にたくないな、と思いなおしたのでした。
2007.2.12 観