無名抄 その拾六
嬉しいとき。
「悲しいとき」ばかりではむなしいので、「嬉しいとき」も並べてみましょう。
高校弓道2年間、最終的に「嬉しいとき」の方が多いといいですね。
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嬉しいとき。
自分のゆがけや矢を買い揃え、部の備品を交代で使わなくてもよくなったとき。
嬉しいとき。
「一年生、基礎トレ今日で終わりね」と先輩に言われたとき。
嬉しいとき。
的前を許可され、「一年生用」の記録帳を渡されたとき。
嬉しいとき。
弓道人生における初的中を記録したとき。
嬉しいとき。
そのとき、同級生や先輩達が「お〜」と拍手してくれたとき。
嬉しいとき。
「初的中か、どこに当たったか見てこい」と先生に言われて急いで矢取りに行ったとき。
嬉しいとき。
天気がいい休みの日の朝、道場に一番乗りだったとき。
嬉しいとき。
部活が少人数の日に先生が来て下さり、みっちり指導してもらえたとき。
嬉しいとき。
休日の部活に部員が手作りのお菓子をもってきて、練習後にみんなで分けて食べたとき。
(観が覚えているもの…梅干しクッキー、カボチャのババロア、ティラミス)
嬉しいとき。
先生が全国大会のお土産に、キーホルダーやらお菓子やらたくさん買ってきて下さったとき。
嬉しいとき。
もう転勤したにもかかわらず、先生が全国大会のお土産を送ってきて下さったとき。
嬉しいとき。
転勤後の大会で、弓道部から記念に贈ったネクタイを締めた先生が私達の前に現われたとき。
嬉しいとき。
先輩達に「一年生」とまとめてではなく、名前で呼ばれるようになったとき。
嬉しいとき。
8キロの弓を卒業したとき。
嬉しいとき。
矢がぼろぼろにはなったけど、癖を克服できたとき。
嬉しいとき。
私は1級だったけど、弓道の段級の免状を、先生が一人ひとり読み上げて手渡して下さったとき。
嬉しいとき。
大会で舞いあがって訳が解らないながらも初的中、看的に「○」が表示されたとき。
嬉しいとき。
同級生達が初皆中を記録したとき。だいぶ遅れて私も初皆中を出せたとき。
嬉しいとき。
初めてレギュラー発表で自分の名前が呼ばれたとき。
嬉しいとき。
当時は学校の備品だった袴や胴着を、理科準備室から運んできて初めて身につけたとき。
嬉しいとき。
袴を踏まずに立てるようになったなと友達に誉められたとき。
嬉しいとき。
道場に行ったら、矢道や周辺の伸び放題だった草がきれいに刈り倒されていたとき。
嬉しいとき。
雪だけど先に誰か来ていて、雪の中に道が出来ていたとき。
嬉しいとき。
引退した先輩達が、大会前に差し入れをもってはるばる大勢来て下さったとき。
嬉しいとき。
日が長くなってきたとき。
嬉しいとき。
射場から見上げた空に、完璧な虹が出たり、冴え冴えとした満月が見えたりしたとき。
嬉しいとき。
何か偶然でも、すごくいい矢飛びで的中できたとき。
嬉しいとき。
滅多に誉めてくれない先生に誉められそうだったとき。
嬉しいとき。
先輩が個人戦でインターハイへ。お土産に四国の絵はがきを買ってきてくれたとき。
嬉しいとき。
インターハイに出場した先輩に、卒業式でみんなで寄ってたかって握手してもらったとき。
嬉しいとき。
その先輩が近年岩手に帰郷、同じ道場で一緒に弓を引いているとき。
嬉しいとき。
部活帰りに、かき氷屋を弓道部が占拠してみんなでかき氷を食べたとき。
嬉しいとき。
授業で自分があてられる順番のときに大会で公欠になったとき。
嬉しいとき。
大会の宿舎が温泉宿だったとき。
嬉しいとき。
宿の料理が案外豪華だったとき。
嬉しいとき。
予選一日目、「ありがとうございました」と宿を出ようとしたら、「予選通過して戻ってきてね」
と宿の人達が応援して下さったとき。「いってきます!」とあいさつしなおしたとき。
嬉しいとき。
そのとおり、団体予選を三位通過、荷物をもって出た宿に再び戻れたとき。
嬉しいとき。
2年前に転勤した顧問の先生が、予選通過のお祝いにわざわざ宿まで来て下さったとき。
嬉しいとき。
個人戦で、うちのチームの大将が射詰めの最後の2人までずっと残っていたとき。
嬉しいとき。
最後の2人どころか、ついには岩手の頂点に立ったのをこの目で見届け、みんなで飛び跳ねたとき。
嬉しいとき。
インターハイ出発の日の新幹線ホーム、恥ずかしいからやめろと言われたけどみんなで横断幕を掲げて見送ったとき。
嬉しいとき。
テスト期間が明けて部活に行けるとき。
嬉しいとき。
新しい的に最初の一矢が的中したとき。
嬉しいとき。
矢道の雪が融けて、草が見えたとき。
嬉しいとき。
新発売のお菓子を買ってきてみたら好評だったとき。
嬉しいとき。
先生が休みの日に部活に子供さんを連れてきて、私達に子守りをさせるとき。
嬉しいとき。
先生が道場に小型電気カーペットを寄贈して下さったとき。
嬉しいとき。
冬なのに天気が良くてあたたかいとき。
嬉しいとき。
春夏秋冬を問わず、天気が良くて風もなくてあたたかいとき。
嬉しいとき。
いい成績を残せなかったにも関わらず、弐段に上がれなかったにもかかわらず、
高校弓道の楽しさをこのくらい覚えていることに気がついたとき。嬉しいとき…
2002.11.23 観