無名抄 その拾壱


 ショートショート「かっこいい(?)勝ち方」


「さっきの個人戦決勝、すげかったっちゃな」

「あ〜、『外したら負け』ってやつな」

『射詰め(いづめ)』っていうんだ」

「それそれ。ふたりともいつまでも外さねぇし、外したと思えば後のやつも外すし」

「いつまでも決まらねえから、とうとうちっこい的になったっけな」

「あれは『八寸的』っていうんだ」

「いちいち説明すんな!でも八寸て何センチや?」

「24センチくらいだ」

「じゃあ一寸法師って、身長3センチなのか」

「1寸は3.0303センチ」

「こまけぇな。普通の的は直径36センチだよな」

「たしか。それにも時々しか中たらねえ俺達って、なさけなくね〜?」

「俺達って言うな、お前だけだ。練習しろ!」

「でもかっこいいよなぁ、あんなに中たるようになりてえな」

「観客とか審判とかみんなに注目されてんのによ」

「緊張しても関係なく引けるようになりて〜!そんで勝ちて〜!」

「んだな〜!『すげ〜かっこいい勝ち方』って、どんなだべ」

「まず射型が鬼のようにキレイで会が深くて…」

「おまえ、早気だもんな」

「うるさい。あと、後から蹴っ飛ばされても倒れないような胴造りの人が決勝に残る、と」

「ん〜、まず射詰めで皆中ぐらいしなきゃな」

「ただの皆中じゃなく、『的心』に皆中!」

「いやいや、まだまだ。『的心に刺さった矢』に皆中!!」

「なにやそれ?自分の矢の筈に矢が刺さるってことか?」

『継ぎ矢(つぎや)』っていうやつ?」

「そうそれ!!1本目に2本目が刺さって、2本目に3本目が刺さって、3本目に4本目が…」

「オイ、そりゃないぞ。的から矢が抜けて落ちたり、矢が地面に付いたら×になるんだべ」

「でも、そうならないくらい深くまっすぐ中たれば不可能じゃないだろう!」

「無理だよ、4本つながったら相当長いぞ。それに矢が壊れる」

「いいっちゃ、すげ〜かっこいいっちゃ!!」

「矢返ししても、その矢使えねえよ。4本目で決めないと」

「じゃぁ、4本目で決着つくことにするべ!前の人は外して待ってる、と」

「後の人はすげー会が深い、と」

「し〜んと静まり返った射場に弦音が」

『ブチっ』と響く」

「…弦切れすんのか」

「おう。矢は静寂を切り裂いて飛んでいって『ガチっ』と3本目の矢の筈に命中だ」

「おぉ、弦も切れたし、THE ENDだな」

「ちょい続く。『ばった〜ん』という音とともに勝った後の人、残身のカッコのまま倒れます」

「…おい、それ、かっこいいか?」

「一射絶命を体現したのだ!」

「そういう意味でないべよ(;-_-メ;)」


2002.09.05 観

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