無名抄 その七
なんでもお見通し?
高校弓士へのアドバイスの中で、「…審査員の先生方はお見通しです」と書きましたが、
みなさんはそれを実感したことがありませんか?
私は、何回もあります。「えっ、なんで解るの先生?!」
ちょっと不気味に思えるほどに、先生方はいろいろお見通しなのです。
◆ ◆ ◆
私達が関高の道場で練習していたころ、関高には弓道の段を持った先生が二人もいました。
これは環境的にかなり恵まれていたのではないでしょうか。
しかも、教士七段と五段の現役ばりばりの先生方です。
入部したばかりの頃は「教士ってなに?」といった感じでありがたみもよくわからず、
教士七段のT先生には毎回おこられあきれられの部活動の日々でした。
なんでこんなに注意ばかりされるんだろう? きっと私は相当下手なのだ。
頑張らねば! めったに誉めてくれないT先生に誉められるくらい上手くなるぞ!
私達はそれぞれひそかにそう思いながら、弓道にのめりこんで行ったようです。
◆ ◆ ◆
一年ぼうずたちも、外で巻藁をやる時間よりも道場の中で的前に立つ時間が長くなってきた頃。
その頃には「一年生用の弱い弓」ではなく、自分がいつも使う「○キロの弓」というのが
はっきり解ってきます。私は12キロの弓を使っていました。
なんとか「ぶるぶる」しないで引き分けられるようになったぞ、狙いもわかってきた、
的中は少ないけど…と思って練習を続けていたある日、T先生がおっしゃいました。
「お前、その弓じゃ弱いだろう。もすこし強いのにしたらどうだ」
「えぇっ? これでやっとですよ」
「いや、弱いな。これでちょっと一本引いてみろ」
先生が差し出した13キロの弓を素引き…つ、強すぎます。
「…これ、ほんとに13ですか?」
「まぁいいから引け」
しかたなく、しぶしぶ言われる通りに引いてみました。すると、
矢飛びも良く1本目から的中です。
T先生は「ほれ見ろ」といった表情で、びっくりしている私やその他の部員を見ていました。
「せんせい、オレも! オレの弓はこれでいいでしょうか!」
「お前はそれでもうちょっと引いてろ。大きく引き分けないと。お前はな…」
先生から見れば、私達はヒヨコ同然。ヒヨコから見れば先生は猛禽類の成鳥、オオワシか何かです。
とは解っていても、やっぱり凄いなぁと思った出来事でした。
◆ ◆ ◆
一般弓道会に所属してからも、先生ってお見通しなんだなと思い知らされたことがありました。
遠方から中央講師を招いての講習会で、講習の前に一手行射をし、講評を伺いました。
中央講師の先生は、ほとんどの人にとって初対面で、この2本しかまだ見ていただいていないのに、
「あなたは、以前に肩をケガしたことがありますね」
「あなたは、最近ゆがけを取り換えたばかりかな?」
受講生のことを次々と言い当ててしまいました。聞いている私はあっけにとられるばかり。
永年いろいろな人の射を見て、ご自分でもいろいろな弓の経験を積んできた先生方。
とてもその目を誤魔化せるものではありません。本当に何でもお見通しなのです。
段級審査でも、そういう先生方に審査して戴くからこそ、その段位には意味があるのだと思います。
今の自分の射にはきっと、「この人は的に囚われ、いらぬ恐怖感を捨てられずにいます」といった姿が
ありありと映っているにちがいありません。
しかし、いつかは、何でもお見通しの先生方に、
「でもそれは過去の弓で、今はもう乗り越えたんですよ」と見通して戴けるようになりたいものです。
修練あるのみ。
2002.07.08 観