無名抄 その四


 高校弓士へのアドバイス(段級審査について・その弐)

 ※但し、対象は岩手県で無指定〜弐段を受審する高校生です。


その壱に引き続きまして、岩手の高校弓士のみなさんへ、
当たり前の事ばかりですがアドバイスを掲示しておきます。

射技・体配篇。

1 的中よりも正しい射に気を配りましょう。
審査で中たったからといって喜ぶのはちょっとどうかと思います。
反対に、中たらなかったからもういいや、とがっくりする必要はありません。
皆さんが受審する「無指定〜弐段」は、的中が絶対条件ではないからです。
的中しないと射が良くても不合格になるのは、参段以上の場合です。
弓道教本一巻の巻末に、「審査規定」が明記してあります。
射がよければ的中するはずだし的中ももちろん大事ですが、審査では
「礼の仕方、歩き方、座り方、立ち方等…体配を正しく丁寧に行なう事」
「射法八節を基本に忠実に行なうこと」
「同じ立の人と息を合わせて、審査の間合いで正しく行射できること」
「矢所の安定」(掃き矢厳禁。的からあまり離れすぎず、2本があまり離れすぎないこと)

がより大切です。
(掃き矢=矢が安土の下に行きすぎて「ジャッ」とほうきで掃いたような音がすること)
審査前講習会に出て解らない点は確認し、何度も繰り返し練習して、
審査の間合いで自信をもって行射できるように努めてください。
また、会場の都合で一射場5人立ではない場合もあるので、気をつけて下さい。

2 弓返り。
段級審査の合格基準は、県によって違う場合があります。
岩手県では、「弓返りが90度以上できているか」が、初段合格のひとつの目安になっています。
正しい手の内ができていれば、離れのあと弓は自然と返るはずだからです。
ただ、無理に弓返りさせようとして一瞬手の内をゆるめたり、
弓手を振って弓返りさせようとする癖がついてしまう人もいます。癖を直すのは一苦労です。
「弓返り」ではなく「弓返し」になっては、正しい射から遠のいてしまいます。
無理矢理ではなく、自然にくるっと返るように、手の内を整えましょう。
かんたんではないことですが、焦らずに練習を重ねて下さい。

3 普段の練習から体配に気を配りましょう。
練習ではだらけていて審査当日だけちゃんとやろうとしても、審査員の先生方にはお見通しです。
入場のときの礼を見れば、その人がどのくらい引けるかだいたい解るそうです。
練習中のいつものくせが思わずでてしまうということもあり得ます。
たとえば、中たらなかったときに首をかしげるくせや、弓倒しより顔向けを先にもどすくせ、
学校の道場が狭いために弓倒しで弓の先を前の人の右側に下ろしてしまうくせ、などです。
道場の狭さはどうにもなりませんが、普段から妙なくせを身につけないよう気をつけましょう。
審査前講習会で高校生の皆さんがよく注意される点は、次の点です。
【礼・揖】
猫背にならない。首だけ曲げないこと。腰から頭までは1枚の板のような気持ちで礼をする。
入場の際の礼は、審査員席の審査委員長を目視(にらまない)してから礼。
「これから行射します、よろしくお願いします」という気持ちで。
【執り弓の姿勢】
両拳は腰骨の位置に。弓の先は床から10センチの位置に。
弓と矢の延長線が体の前方中央で交わる二等辺三角形のようになっていますか?
二本の矢は揃えて持つ。ばらりと離れている人がけっこういます。
を持つ位置は、開き足が一足の人(礼射系の流派)は矢じりから10センチ程のところ
開き足を二足で行う人(武射系の流派)は矢じりを隠して持ちます
背筋をまっすぐ伸ばし、ひじをやや張るような感じで。鏡を見て確認しましょう。
【歩き方】
弓の先はいつでも床から10センチの位置に。
目線に注意。うつむかず、自分の4メートル位先の床を見るかんじです。
かかとをなるべくあげないように摺り足で進みます。
自分の立位置の本座まで来たら、両かかとを「L」字にして的の方へ向きを変えます。
【座り方】
座るときは、体が10センチ沈んだ分弓の先も10センチ下がるので、そのまま床につきます。
右足を半足引いて重心をやや後ろに移動、ゆっくり沈むように跪座。ぐらつかないように注意。

4 敷居を踏まない
入場・退場のとき、敷居や敷居を示すテープ類を踏まないように注意して下さい。
退場後も道場内では気を抜かず、自分の背中が審査員席から見えなくなるまでびしっとしていましょう。

 ◆ ◆ ◆

以上、審査前講習会で毎回指導している点はこのとおりです。
あとは、毎日の練習と同じように丁寧に一手を行射するのみ。
審査員の先生方が厳しく公平に審査して下さるはずです。
大前になってしまったからといって、必要以上に審査員の存在を意識することはありません。
「あれはテーブルに並んだカボチャだと思え」(…そんな無茶な)と先生に言われたことがあります。
審査員の先生方は、皆さんを不合格にしようと思ってあら探しするわけではないと思います。
皆さんは、弓道を始めたときからひとりの武道家であり、
一生懸命正しい射に近づこうとしている弓道界の希望の星なのですから。

 ◆ ◆ ◆

また長くなってしまいました。
学科についてと、書き忘れたことは、後日別章に掲載します。


2002.6.22 観

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