無名抄 その弐
謎の学生カバン
私達の代は、「今の道場ができてから十代目」といつも名乗っています。
正式に弓道部ができてから何代目かは解らないからです。
校歌にも「外に出でては運動場/野球庭球大弓に/鉄石なせる腕を練り…」
と弓道のことが出てきますし、一関一高が旧制一関中学だった頃から弓道部はありました。
弓道場も今の場所ではないところにあったものと思われます。
戦時中は弓道どころではなくなり、戦後の一時期は「武道」全般を禁じられました。
武道が解禁されてからしばらく経ってからふたたび創部、
一般の弓道会に混じって練習を続けていた一高にもついに念願の専用弓道場が建設されました。
それが現在の道場です。
◆ ◆ ◆
道場の大掃除などをすると、思いもかけないものが出てくることがあります。
冬場に使うじゅうたんは、使わない季節にはくるくる巻いてしまっておくのですが、
さて、使うからと広げてみたところ女子の先輩の絹を裂くような悲鳴が!
じゅうたんの中心部からころっと出てきたのは、乾燥ネズミ…
あったかいと思って潜り込んだ野ネズミが、そのまま出られず息絶えてしまったものと思われます。
また、あるときは不審な紙袋が発掘されました。
「ぎゃあ、なにこれ!?」「…きったね〜」
紙袋の中から現れたのは、年代物の学生カバンひとつ。
学生カバンといっても、黒い革製の手提げ型のではなく、白い布製、肩掛旧式学生カバンです。
関高生なら「応援団幹部ご愛用のカバン」といえば解るでしょう。
至るところがほどけていたり房と化していたり、まるで使い古されたぞうきんのような、
体操用マットの臭いのするとにかくコキタナイ代物でした。
カバンには名前が書いてありました。持ち主の名前ではなく、何人もの。
初代・なんのだれそれ、二代目・なんのなにがし…
「へぇぇ、この先輩が八代目ってことは、私たちは九代目だ」と先輩。
「うちらは十代目か…これは歴代部長の名前なんですね」
何故道場の片隅に埋もれていたのか不明ですが、これはおもしろい発見でした。
このカバンのおかげで、自分たちが「何代目」か知ることができたのです。
「10年前って、このグラウンドができた年?」
ならばきっと、この道場ができたのもその頃。その代の先輩が「初代」と名乗っているようです。
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一つ上の代の部長と私達の代の部長は、卒業する前、謎のカバンに名前を書き入れました。
しまうとまた出てこなくなるかも、と神棚の下にぶら下げておいた時期もありましたが、
謎のカバンはいまどこにあるのでしょう。
何代目の部長まで名前を書き残したのでしょう?
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ご存知の方、是非掲示板に情報をお願いします。写真提供:いくさびとさん
H先生のロッカーから見つかりました!幹部のもとへ一時お世話になり、今は道場にあるそうです。
2002.06.12 観(2004.06.16写真追加)