無名抄 その壱


 道場を探して


一関一高に入学して、弓道部に入ろうとすれば、

まず弓道場を探さなくてはなりません。

クラス担任の先生に聞いてみましょう。もしかしたら

「わからん」「弓道部の先生にきいてみろ」という答えが返ってくるかもしれません。

道場は校舎周辺にはないのです。なんてこった。

「橋を渡って、この道を曲がって…」説明を聞けたら、自転車でGO!

歩いて行ったら日が暮れてしまいますので、弓道部員には自転車通学が許可されていました。

授業が終わると大急ぎで自転車置き場から出発する私達を見て、

「弓道部は帰宅部だ」と勘違いしていた人も多かったようです。

 ◆ ◆ ◆

入学する5年前から弓道部に入る決意を固めていた観(…はやすぎるぞ)は、

部活見学するべく弓道場を探して校舎を出発。

しかし、道場へ足を踏み入れるまでに三日を要してしまいました(…かかりすぎだぞ)。

一日目、道場があると教わっていた第2グラウンドには辿り着いたのですが、

道場がどれだかわからずグラウンド入り口で「明日にしよう」と決意。

二日目、昨日「野球部の物置か?」と思った建物がなんとなく目的の場所にみえました。

物置にしては、周りに自転車がたくさん停めてあるし…外に人も大勢いる。

大勢いる!どうしよう? ……「やっぱ明日にしよう…」(何しにきたのや、新入生の私!)

三日目、物置に見える道場らしき建造物は今日もそこにあった。

そして今日は外に誰もいない。看板もでていないけどきっとここだ。今日こそ見学するぞ!

意を決してたかが部活見学を実現させたのでした。

優しげな先輩たちに歓迎されて中に入ると、すでに一人の一年生が神妙な顔で正座していました。

これが、この時から現在に至るまでの付き合いとなっている「10代目弓道部」の一人。

見学を終えて返る途中、一年生らしき二人組が疲れきった顔で道場へと歩いていくのとすれ違いました。

この二人もともに弓の道を歩む仲間となりました。後で聞くと、

「あの時は道場が見つからなくてぐるぐる歩きまわって、お墓に迷い込んだりしてた」そうです。

この年入部した女子部員はそろいも揃って黒い枠のメガネをかけていたので、先輩に

「今年の一年生、見分けがつかね〜」とぼやかれたことを時々思い出します。

何人かは転部したり応援団幹部に変身したりしていなくなりましたが、

無事に関高弓道場に辿り着いた私達は弓道にとりつかれ、結束は巻藁のごとく固く束ねられ、

現在もきょうだい同然の仲間として付き合い続けているのでありました。

 ◆ ◆ ◆

今日、通勤途中に道場の横を通ってみると、早朝から練習している部員たちの姿がありました。

一昨日の予選敗退のくやしさを乗り越えようとする男子部員でしょうか。

レギュラーを目指す二年生でしょうか。私には名も知らない高校弓士たちです。

あんなに離れた場所にある道場では、朝練も困難でしょうに、それでもなお早起きして弓を引く。

こんな頑張り屋たちがいるかぎり、一関一高弓道部は大丈夫。

正月元日から練習をしていた人たちもいましたね。膝まで雪がつもっていたのに…(i_i)

 ◆ ◆ ◆

私達と同じ道場で修練する皆さんが、きっとそれぞれの夢を実現できますように。

でも、もしも卒部生の中にビル・ゲイツみたいなお金持ちがいるとしたら、

校舎の近くに土地を買ってすごくいい弓道場をひとつポンと建ててくれてもいいなぁ。


2002.06.10 観

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